ALO〈アルヴヘイム・オンライン〉~神々の黄昏~   作:剣の舞姫

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え~、ホントにスランプ脱出出来ません。
ここまで長いスランプも珍しいですね。


番外編2 「織斑家の悩み」

ALO《アルヴヘイム・オンライン》

~神々の黄昏~

 

番外編2

「織斑家の悩み」

 

 華道の家元、宍戸家。長い歴史を持つ家柄であり、華道の世界では相当に有名な名家だ。

 しかし、そんな名家も今では衰退の一途を辿っており、弟子の数も減って跡継ぎの居ない今では断絶の危機にある。

 否、跡継ぎが居ない訳ではない。宍戸家現当主には一人娘が居り、その娘が本来は跡継ぎになる筈だったのだが、その娘は跡継ぎになる事を拒絶して許婚との婚約を蹴ってまで一般人と結婚した為に絶縁されたのだ。

 

「このままでは……我が宍戸家の未来が……百合子、あの大馬鹿者め、あのような親無しと結婚などと愚かな道を選ばず私の言うとおりにしていれば、ここまで悩む事は無かったのだ」

 

 勘当して家を出て行った娘は、既に結婚して、当主にとっては血縁的に孫に当たる子供までいるという。

 だから、当主は身勝手なのは百も承知で娘の子供に目を付けた。早い段階から娘の子を養子として迎え入れ、宍戸家の跡取りとして徹底的な教育を施せば、娘のような失敗作とは違う、正真正銘の宍戸家跡取りが出来上がるのではないかと。

 

「なのに、百合子め……子供を渡すのは拒否するだと? 散々我々に迷惑を掛けておきながら、詫びる気持ちすら無いのか! 申し訳ないと少しでも思っていれば、黙って子を差し出すのが親に対する礼儀であろうに!!」

 

 すると当主は偶然にも点けっ放しだったテレビに映る番組を目にした。

 

『本日は、最新型量子接続型端末ニューロリンカー開発者である織斑一夏博士にお越し頂きました』

『どうも、織斑です』

『早速ですが博士、今回発売されたニューロリンカーなのですが、今までのVRマシンとはどう違うのでしょうか?』

『従来のVRマシンはナーヴギアやアミュスフィア、メディキュボイドはVRにのみ対応していた端末だというのは皆さんご存知かと思いますが、そのもう一つ先のブレイン・インプラント・チップを更に発展させ、安全性を確保したのが今回のニューロリンカーです。開発するに当たってAR端末のオーグマーも参考にしてますので、オーグマー同様にニューロリンカーはVR端末でありながらAR端末でもあるという量子接続型端末の到達点と言えるでしょうか』

『はぁ~、因みにこのニューロリンカーについて博士は大学在学時から既に構想を練っていて、大学を飛び級卒業して直ぐに世に送り出したそうですね?』

『ええ、とは言っても最初はプロトタイプを数量限定でしたが、駆け足でそこまで行けたのは桐ヶ谷博士の協力もあったからですね』

 

 忌々しい娘婿の姿を見て気分を害したのか、当主は早々にテレビの電源を切ると不機嫌なのを隠すこと無く今時珍しい紙媒体の新聞を広げた。

 しかし、そこにもやはり忌々しい娘婿の写真がデカデカと張り出されており、乱暴に閉じる。

 

「ええい忌々しい!! 何が天才博士だ!! まだ20代の小僧でしかないこの男に、何の価値があるというのだ!! 所詮は親無し、人生の落伍者でしかなかろうに!!!」

 

 これ以上、当主の言う親無しの落伍者に伝統ある宍戸家の未来を潰されてなるものかと、何とか孫を自分の手元に置く計画を考え始めた当主は、最早伝統ある家元の当主とは思えないほど、人間として堕落しているのだろう。

 

 

 ニューロリンカー開発者である織斑一夏の仕事は、何も研究所での仕事ばかりではない。ニューロリンカーが一般発売された後もプロトタイプを配った家庭に行ってアフターケアを行っていたりするのだ。

 この日、一夏が来ていたのは東京都渋谷区にある倉崎家という一般家庭だ。この家は生まれた娘が先天性の遺伝子異常で両足が短い状態で生まれた為、和人が開発した義足を一夏が開発したニューロリンカープロトタイプで制御するという試験稼動の為にプロトタイプ使用家庭に選ばれた。

 

「こんにちは倉崎さん、楓子ちゃんは元気ですか?」

「あら織斑博士、ようこそいらっしゃいました。楓子でしたら……」

「おにいさん!」

 

 機械音の混じった足音と共に駆け寄ってきたのは茶髪の髪をロングにした5歳くらいの女の子だ。

 

「やあ楓子ちゃん、元気そうだね」

「うん! ふうこはげんきだよ」

 

 抱っこしてとばかりに両手を差し出してきたので、笑顔で女の子……倉崎楓子を抱き上げると、当人も何が嬉しいのかキャッキャッとはしゃいでいる。

 

「こら楓子、織斑博士のご迷惑になるでしょ?」

「いえいえ、構いませんよ。子供はこれくらい元気な方が良いですからね……お、楓子ちゃん少し重くなったね、順調に成長しているみたいだ」

「もうおにいさん! おんなのこにおもくなったなんていっちゃダメ!」

「あはは、ごめんごめん。そうだね、楓子ちゃんはもう立派なレディだ」

 

 抱っこしていた楓子を降ろして頭を撫でた後、一夏は鞄に入れていた袋を取り出して楓子に渡す。

 中身は今現在、楓子が首に装着しているプロトタイプニューロリンカーから発展した製品版の最新型ニューロリンカーだ。

 

「はいこれ、楓子ちゃんにお兄さんからプレゼントだよ」

「ぷれぜんと!?」

「そう、楓子ちゃんに新しいニューロリンカーを用意したら、今日からこっちを使ってね」

「わぁ~!」

 

 早速ニューロリンカーの封を切って今まで装着していたプロトタイプを外すと、直ぐに新しいニューロリンカーを装着して起動する。

 ユーザー登録を終えるとプロトタイプを外した事で義足の制御が出来なくなって座ってしまった楓子だったが、直ぐに新しいニューロリンカーによる義足の制御が始まって立ち上がった。

 そこには、義足とはいえ、自らの意思で立ち上がる事の喜びから来る笑顔を見せる楓子の姿があり、その笑顔を見れた事が何よりニューロリンカー開発者として一夏が己の仕事に誇りを持てると実感出来る瞬間だ。

 

「ありがとう! おにいさん」

「ああ、大事に使ってくれ」

 

 

 倉崎家を出て一夏は本日の仕事を終えた為に自宅へ直帰した。家に入れば妻の百合子が出迎えてくれて、リビングでは長女の夏奈子が長男の由夏を抱っこして遊び相手になっているのが見えた。

 

「あ、お父さんおかえりー」

「おーえりー」

「ただいま夏奈子、由夏」

 

 スーツのジャケットを百合子に預けるとネクタイを緩めてソファーに座った。すると隣に座る夏奈子の膝の上の由夏が父に向かって両手を伸ばしているではないか。

 

「おー由夏! パパの所に来るか?」

「んー、ねー」

「あらら、お父さんよりお姉ちゃんの方が良いかなぁ」

「え~……ショックだ」

 

 一夏に手を伸ばしていたかと思えば、直ぐに姉の方に抱きついた由夏は父より姉の方が好きという事だろうか。

 その事実にショックを受けた一夏に苦笑しながら百合子が一夏の前のテーブルにコーヒーを置く。

 

「あなた……今晩、時間ある?」

「ん? あるけど、どうした?」

「うん……ちょっと、私の実家の事で」

「……わかった」

 

 この後、家族揃って夕飯を終えて、夏奈子は由夏と一緒に風呂に入った為、リビングには一夏と百合子の二人だけになった。

 

「それで、宍戸の家の話だよな?」

「そう……今日の昼頃にまたお父さんから電話が来て、由夏を養子として引き渡せって、もし渡さないのであれば裁判も考えているって」

「う~ん……百合子の親父さんの事を悪く言うのは憚られるけど、ハッキリ言うなら、親父さんってもうまともな思考してないよな」

 

 裁判なんてした所で百合子の父が由夏の親権を得る事は不可能だ。そんな事も理解出来ない程に一夏と百合子に対する憎しみで思考が単純化しているのだろうか。

 

「多分、裁判は建前……あの人の事だから、強硬手段も考えられるかな」

「あ~……確か、宍戸家って極道の女将なんかも生徒だったって聞いた事があるな、つまりあれだろ? そんなコネ使ってでも由夏を手元に置くって事だ」

「でも、それは無謀」

「ああ、そりゃそうだ。この家のセキュリティと、元IS操縦者、そしてSAO生還者を嘗めてるとしか思えない」

 

 封印中の雪椿は別にしても、未だ百合子の槍陣・白は封印されずに手元にある。強硬手段に出ても大怪我をするのがどちらなのかは明白だ。

 それでなくとも世界的に有名な織斑一夏の息子を誘拐したとなれば、華道の家元として長い歴史を持つとは言え、今の時代では古いだけの家など社会的に封殺されるのがオチだろう。

 

「まぁ、いずれお前の親父さんとはハッキリと話をする必要がありそうだ」

「うん……あなた、無理だけはしないでね?」

「それは、約束出来ないよ。大切な家族の事なんだ、一家の大黒柱としては多少の無茶や無理は覚悟の上だって」

 

 ソファーに並んで座って、肩に頭を乗せて体重を預けてくる妻に、一夏は改めて愛おしいという気持ちが込み上げて来た。

 この幸せな家庭を、壊そうというのなら例え妻の親だろうと、容赦はしない。白の剣士を、そして高速機動の貴公子を引退した今、織斑一夏博士としての戦い方で、徹底的に戦うのみだ。




次回は本編か、もしくは番外編3の桐ヶ谷家の悩みになります。

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