ALO〈アルヴヘイム・オンライン〉~神々の黄昏~   作:剣の舞姫

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少し短いですが、久しぶりの更新は番外編です。


番外編1 「桐ヶ谷家長女の恋愛模様」

ALO《アルヴヘイム・オンライン》

~神々の黄昏~

 

番外編1

「桐ヶ谷家長女の恋愛模様」

 

 これは、ALOの命運を分けたグランドクエストが始まる前の話。いつもの様にALOにログインしてアインクラッド22層のログハウスでのんびりしていたユイだったが、この日はいつもと若干違う所があった。

 普段であれば一人の時でも母譲りのおっとりとした雰囲気を崩すことなく優雅に過ごしている筈なのに、この日のユイはどこかそわそわしているというか、緊張している様子を見せている。

 

「……あ!」

 

 その時だった。ログハウスの扉をノックする音が聞こえた。慌てて立ち上がったユイは扉の前まで歩み寄ると、一度だけ深呼吸をしてゆっくりと扉を開く。

 

「やぁ、ユイちゃん」

「い、いらっしゃいませ! ユージオさん」

 

 そこに立っていたのは風妖精族(シルフ)の青年だった。金髪の髪に中性的な顔は一見すると女性に見えなくも無い青年は白銀の鎧を身に纏い、腰には青い片手用直剣が差してある。

 彼の名はユージオ、嘗てアンダーワールドという世界にてユイの父、キリトと共に過ごし戦ったキリトの親友で、一度は死した後にその人工フラクトライトを束がサルベージした後、ユイ同様にコアプログラムをキリト所有のPCに移して、現在は現実世界に人工の肉体を得た青年だ。

 

「ごめんね、今日のクエストに付いて来て貰うなんて、大学で忙しいだろうに」

「いえ! その……わたしも、ユージオさんと一緒にクエストに行くのは久しぶりで、あの……楽しみにしてましたから」

「そっか、なら良かったよ」

 

 そう言って笑顔を浮かべるユージオを、ユイはその陶磁器の様に白い頬を桜色に染める。

 

「じゃあ、行こうか」

「は、はい!」

 

 ユイは人間の姿のまま背中にピクシーの羽を出現させると、同じように風妖精族(シルフ)の羽を出したユージオと共に飛び出した。

 

 

 ユージオとユイがアルヴヘイムの中立地帯にあるダンジョンでクエストを進行させていると、いつの間にか時間は昼になっていた。

 お互いにAIである二人ではあるが、限りなく人間に近いAIであるため、当然だがALOの中では空腹になる。

 そこでダンジョンの安全エリアに腰掛けたユージオと、その横に同じく腰掛けたユイは昼食を摂る事にした。

 

「えっとですね、今日はお弁当を作って来ました」

「へぇ、ユイちゃんの手料理かぁ」

「えへへ……まだまだママには敵いませんけど」

「いやいや、アスナさん直伝の料理だからね、楽しみだよ」

 

 照れたように笑いながらユイはシステムメニューを開いて手持ちアイテムから今朝作った弁当をオブジェクト化する。

 出現した弁当二つの内、片方をユージオに手渡すと、彼は開いたそれを見て、その豪華さに少々驚いていた。

 

「うわ、凄い手が込んでるね……作るの大変だったんじゃ」

「いえ! このくらいでしたら、全然手間じゃありませんよ」

「そうなの? ならいいけど……じゃあ、いただきます」

「はい、召し上がれ」

 

 ユイが作ったのはスープとサラダ、それからチキンサンドだ。その内、チキンサンドを手にとって口を開いたユージオを、ユイは緊張した面持ちで見つめている。

 

「あむ……むぐ、むぐ……うん、美味しい!」

「ホッ」

 

 どうやら気に入ってくれたらしく、ホッと胸を撫で下ろすユイ。この日の為に母から料理を今まで以上に徹底的に習っておいて良かったと密かに思うユイの顔は、正に恋する乙女のそれだった。

 

「キリトは幸せものだなぁ」

「パパが、ですか?」

「うん、アスナさんだけじゃなくて、娘さんのユイちゃんまでこんなに料理上手なんだから、キリトは本当に幸せだよ」

「そんな、わたしなんてまだまだで……」

「いやいや、寧ろこれだけ上手ならいつでも嫁に行けるよ」

「よ、嫁!?」

 

 一瞬、ユージオとユイがどこかの家で二人で暮らしている光景がユイの頭を過ぎった。まるで、夫婦のような光景を見て、一気に顔を真っ赤に染めるユイと、そんなユイを不思議そうに眺めながらスープを口にするユージオはその美味を堪能している。

 

「あの、ユージオさんはその……ご結婚とかは考えた事がありますか?」

「え、僕が結婚? う~ん……」

 

 唐突の質問ではあったが、ユージオはユイの真剣な表情を見て真面目に考えてみた。

 まず第一に考えたのは、自身がAIだという事だ。勿論、現実での身体もあるが、それはあくまで人工物、つまり人間ではない。故に普通の人間と同じように結婚など出来る筈が無いのは理解している。

 次に考えたのはALOの中でのこと、昔は結婚システムの存在しなかったALOではあるが、数年前に大型アップデートを行った際に結婚システムを導入したALOでなら結婚する事も出来るだろう。しかし、そこでもやはり考えるのは自分がAIだという事で、人間であるプレイヤーとの結婚など失礼ではないのかと考えてしまうのだ。

 

「正直に言うなら、僕が結婚する事は無いだろうね。キリト達は僕を人間扱いしてくれるけど、それでも僕がAIである事実は変わらない。そんな僕がプレイヤーと、それに現実の人間と結婚なんて出来る訳が無いよ」

「それは……」

「うん、勿論これはキリト達には内緒ね? 怒られるから……あと、アリスに殺されるよ」

「あ~……アリスさん、未だにパパを狙ってますからねぇ」

 

 キリトの愛人を狙うアリスが今の考えを知ればユージオはアリスに殺される。

 

「で、では……同じAI同士でしたら、如何でしょうか?」

「ん? AI同士ねぇ……まぁ、それはアリ、なのかな」

「そう、ですか」

 

 意外な回答に、ユイは頬を染めながら、まだ自分にはチャンスがあるという事を確信していた。

 ただ、厄介なのはユージオはキリトの親友であり、ユイの事は親友の娘としか見ていないという点だろう。

 同じAI同士という事で話は合うが、それでも今のユイはユージオにとってキリトの娘でしかない。

 

「そろそろ行こうか、クエストも残り半分だ」

「そうですね」

 

 でも、いつの日かユイはユージオに想いを伝えようと決意した。今はまだ恋愛対象として見られていなくても、こうして手料理を振舞うなどのアプローチを続けて、いつか女性として見てもらえるように頑張ろうと。

 それは、嘗てキリトへアプローチしていたアスナと同じ手段なのだが、この辺りは流石親子と言うべきなのか、母親そっくりな娘であった。




和人「あれ、結が夕飯担当なんて珍しいな」

明日奈「うふふ、今日はどうしても自分で作りたいんですって、料理の腕を上げたいみたいよ」

和人「へぇ、今でも十分高いのにな」

明日奈「結ちゃんも乙女って事なのかなー」

和人「ん?」

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