ALO〈アルヴヘイム・オンライン〉~神々の黄昏~   作:剣の舞姫

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第九話 「最初の戦い」

ALO《アルヴヘイム・オンライン》

~神々の黄昏~

 

第九話

「最初の戦い」

 

 トンキーに乗ってヨツンヘイムを移動するカナ、ユイ、シンの三人はトンキーの上で戦力となるスキルの確認を行っていた。

 特にカナとユイにとってシンはまだ出会ったばかりな為、スキルがどれだけ高いのか知らなければ戦略の立て様が無い。

 

「俺は両手剣スキルをコンプリートして、ソードスキルも最上級まで取得している。後は体術スキルと索敵スキルもコンプリート済みだ」

「へぇ、凄い……なら武器は?」

「これはカイゼルレーベン。前にとあるクエストで戦ったジュエルドラゴンっていうボスを倒した時にドロップしたんだ。後で調べてみたら、こいつはジュエルドラゴンを倒した際に低確率でドロップするレア武器らしくてな……モンスタードロップの剣では間違いなくトップクラスの剣なんだと」

 

 ジュエルドラゴンならカナも知っている。というか、そのドラゴンのクエストならカナとてチャレンジしてクリアしているのだから、当然か。

 

「え~良いなぁ。私がやった時は虹のロザリオってアイテムしかレアドロップ無かったのに」

「いや、カナちゃん両手剣スキル持ってないですよね? カイゼルレーベン入手しても、カナちゃん使えませんよ?」

 

 というか、虹のロザリオとて十分過ぎる程のレアアイテムだった筈だ。装備者の筋力値を上げてくれるだけでなく、クリティカル率上昇効果もあって、今もカナは装備しているはず。

 

「それで、カナは?」

「私は片手剣スキルと槍スキル、後は体術スキルに投剣スキル、索敵、隠蔽をコンプリート済み、片手剣ソードスキルと槍ソードスキルも最上級まで使えるのと、お父さんとお母さんからオリジナルソードスキルを受け継いでるかな。武器はこのファントムフォースっていう片手剣と、ファントムレインっていう槍がメインで、剣と槍の二刀流!」

 

 父譲りの敏捷値と母譲りの筋力値から叩き出される剣と槍の二刀流は並の相手であれば瞬殺出来ると豪語するカナにシンはこんな時でもなければ是非ともデュエルで手合わせしてみたい衝動に駆られた。

 だが、そんな衝動を堪えて次にシンが目を向けたのはユイだ。自らをナビゲーションピクシーと名乗りながらも、見た目は人間大の大きさで、恐らく年上であろう容姿、妖精ではなく人間の耳がALOにミスマッチだが、片手剣と杖を持つ彼女は成るほど、戦う存在なのだと思わせる。

 

「わたしは基本的に後方支援がメインになります。剣で戦うのはお二人の前衛が危ないと思った時くらいですね。殆どは魔法による攻撃と支援に徹する予定ですよ」

「因みに、剣は……?」

「見ての通り、片手剣マクアフィテルを使いますので、片手剣スキルが使えますし、この剣は細剣スキルも使用可能なので、そちらもですね。ですが、流石にパパとママみたいに剣士というわけではないので、剣の腕はそれほど期待しないでください」

「え~!? ユイちゃん剣の腕十分あるじゃない! 私、今でもユイちゃんに剣一本だと負けるのに!」

「あらあら、わたしも剣と槍の二刀流になったカナちゃんには敵いませんよ」

 

 なるほど、カナをしてそこまで言わしめるのであれば、ユイの実力も相当に高い事が伺える。シンは安心して二人に背中を預けて戦えそうだと満足そうに頷いた。

 

「あら、どうやら着いたみたいですね」

「あ……」

「ここが……」

 

 トンキーが止まって下降を始めた。三人の視線の先にあるのは天井から真っ直ぐ根を下ろす世界樹の根、その根元だ。

 

「おそらく、この何処かにムスペルヘイムやニブルヘイムへ降りる入り口があるのでしょう。そして、これがグランドクエストであるという事は」

「簡単には降りられないって事だよね」

「つまり、何らかのクエスト形式になっているということか」

「はい、考えられるのはこのエリアのボスを倒す事、ですね」

 

 中ボスを倒して先へ進む。そんなものRPGでは当たり前、むしろそれこそRPGの醍醐味だ。しかし、今の状況ではそんな気楽な事は言ってられない。

 

「準備は良いですか? カナちゃん、シン君」

「いつでも!」

「行ける」

「では……行きます!」

 

 

 トンキーから降りた三人は世界樹の根近辺を探索していた。何処かに下へ降りる道、または階段が無いかどうか、クエストフラグとなる何かが無いかを。

 

「なぁ、あれがそうじゃないか?」

「んぇ?」

 

 世界樹の根から少し離れた所に忽然と佇むローブを纏った一人の老人の姿にシンが気づいた。ユイがその老人の姿を見ればなるほど確かにNPCだと一発で見破ったので、間違いなくクエストNPCなのだろう。

 

「どうされました? ご老人」

 

 代表してパーティーリーダーのカナが老人に話しかけると、クエストフラグが立ったらしく、クエスト開始のウインドウが表示された。

 迷わず○を押すとクエスト開始のアイコンが老人の頭上に表示され、先ほどまで無言だった老人が初めて口を開く。

 

「おお、妖精達か……実はこの場所にはニブルヘイムへ下りる道が封印されておるのじゃが、オーディン様が間も無く此処へいらっしゃるという話でのう。その前に封印を破ろうとする悪しき存在を何とかしたいのじゃが、ワシ一人ではとても……」

「その悪しき存在って……」

「霜の巨人族が嘗てこの地上へ送り込んだ兵士じゃ……奴は道が封印されてから地上をさ迷っていたが、この場所がニブルヘイムへ続くと知り封印を破ろうとしておる」

「霜の巨人族の兵士……」

 

 序盤から随分と大物を相手にする事になるらしい。勿論、普通のクエストなら燃える展開だが、今回のグランドクエストを考えるのなら、慎重にならざるを得ないだろう。

 

「妖精達よ、どうかこの老い耄れに代わり、霜の巨人族の兵士を討ち果たしてはくれぬか? 報酬は勿論、用意しておるでな」

 

 クエストが始まった。クエスト名『ミーミルへの導き』のクリア条件は霜の巨人族の兵士を倒す事、それもクエスト受諾をすると同時にその霜の巨人族の兵士……巨人が現れる。

 

「デカッ!?」

「言ってる場合か!!」

「飛びますよ!!」

 

 一斉に羽根を出して飛び上がるとそれぞれ剣と槍、杖を構えて巨人を見据えた。

 ユイの記憶にある霜の巨人族、スリュムよりも小さいが、それでも地上からは見上げる程の巨体と、その手には直撃すればただでは済まないであろう斧が握られた姿は、なるほど巨人族の兵士といえる風貌だ。

 

「二人とも、先ずはわたしが魔法で先制します。その後から小手調べで構いませんので攻撃を開始して下さい」

「「了解!!」」

「では……」

 

 左手の杖を構えて詠唱を始めたユイは周囲に展開された無数の炎の矢を巨人へと放つ。それに合わせてカナとシンもそれぞれ剣と槍を構え突撃した。

 

「せいぁあああああ!!」

 

 カナの父親譲りの敏捷値から繰り出される超高速の斬撃と突刺が巨人を惑わし。

 

「でぇらああああああ!!」

 

 シンの圧倒的な筋力値による一撃が巨人の斧を弾き飛ばしてユイの魔法が直撃する。

 三人の見事なチームワークで巨人の3本あるHPバーの内1本を削り切ると、このまま行けると思ったカナに不運が襲った。

 

「カナちゃん! 避けて!!」

「え……っ!?」

 

 一瞬の油断だった。この程度の中ボスなら確実に勝てるという油断からカナは巨人が息を大きく吸い込んだのをスルーしてしまったのだ。

 霜の巨人族が息を大きく吸うという事は待っているのは間違いなく氷ブレス、直撃すれば凍結状態のデバフが付いて身動きが取れなくなる。

 

「カナ! 動くな!!」

「っ!?」

 

 シンの声が聞こえた次の瞬間、カナの前にシンが飛び出し、カイゼルレーベンの刃がソードスキルのライトエフェクトとは別の光を放った。

 

「ぐっぅうううおおおおおあああああ!!!」

 

 放たれた氷ブレスがカイゼルレーベンの刃に触れた瞬間、二人を中心に左右へと大きく裂けた。これこそがカイゼルレーベンのエクストラスキル、魔法切断だ。

 カイゼルレーベンには触れた魔法やスキルを一種類だけ切断して無効化するエクストラスキルを持っているのだ。

 

「ユイさん!」

「沈みなさい!!」

 

 ユイが放った重力魔法が巨人に大きく圧し掛かり、巨人はその重みに耐えられず膝を付く。

 

「カナちゃん! シン君!」

「了解!! でぁあああああ!!!」

 

 ユイの指示で最初に動いたのはシンだ。カイゼルレーベンを構え、その刀身を今度はソードスキルのライトエフェクトで輝かせると、羽根を広げて巨人へと一気に突進する。

 放たれたのは両手剣の上位ソードスキル、敵の攻撃を回避しながら繰り出されるヒット&アウェイの8連撃、ラストアーク・リベンジャーだ。

 

「シン君スイッチ!!」

「っ!」

 

 上空でカナがファントムレインを構えながら叫ぶ。それに合わせてシンが巨人から距離を取った瞬間、渾身の投擲が放たれ、巨人を脳天から股下まで貫き大爆発を起こす。

 

「今のは……」

「今のがカナちゃんがお母様から受け継いだオリジナルソードスキル、クレーティネです」

「へぇ……すげぇ威力」

「破壊力だけならカナちゃんの使えるソードスキルの中でも随一ですねぇ」

 

 クレーティネの一撃が巨人のHPを削り切り、その巨体がポリゴンの粒子となって消える。ユイとシンは手を振りながら降りてくるカナを見て、さてどのように説教するべきかを考えるのだった。




次回は、ユイちゃんお説教するの巻き。

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