ALO〈アルヴヘイム・オンライン〉~神々の黄昏~   作:剣の舞姫

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プロローグ

ALO《アルヴヘイム・オンライン》

~神々の黄昏~

 

プロローグ

 

 私立藍越学園、それは都内にある少し有名な私立高校だ。学費が安い割りに就職率が高く、進学希望者も有名な大学へ進学する確立が高い割合を占めているのが特徴で、都内の中学生であれば3人に一人は必ず志望校の一つに選択するほど。

 そんな藍越学園に今年の春、入学したばかりの少女が一人、授業中であるのにも関わらず気持ち良さそうに夢の世界に旅立っており、授業を進めている男性教師の額に青筋を浮かべる手伝いをしていた。

 

「Zzz……Zzz……Zzz……」

「ぐ、ぬぬ……っ!」

 

 普通なら、普通の教師なら、ここで怒る所なのだが、怒るに怒れない理由があるのだ。

 本来、いつも授業中に生徒が寝ていると、叩き起こして説教し、授業を聞かなければ落第すると諭すのが教師の仕事だが、この寝ている少女、いつも授業中は熟睡している癖に先日の1年生にとって高校生活最初の中間試験で学年トップ……それも全教科満点という今までの学園の歴史上初の快挙を成し遂げた才女でもあるのだから。

 

「お、お~い……夏奈子? いい加減に起きないと木場先生の血管が切れちゃうよ~?」

 

 寝ている少女……夏奈子と呼ばれた少女の隣の席に座る友人が声を掛けて起こそうとするも、変わらず安らいだ寝顔のまま。

 つまり、起きるつもりは欠片も無いという事らしい。

 いよいよ教師の堪忍袋の緒が切れる、誰もがそう思ったとき、授業終了の合図たるチャイムが鳴ったので、男性教師はチョークを置いた。

 

「ほな、これで授業を終わるで……チッ、なしてこうなんねん」

 

 背の低い、イガグリみたいな特徴的過ぎる髪型の中年教師がぶつぶつ文句を言いながら教室を出ると、生徒たちは昼休みを迎えた事でそれぞれ思い思いの時間を過ごす。

 弁当を広げて食事する者、購買や食堂へ行く者、弁当ではあるが別の場所で食べる為に教室を出て行く者など様々だ。

 

「Zzz……んむ、ふぁああ~……ん~おひる、ごはん」

「あ、夏奈子ったらやっと起きた」

「ん~? みっちゃん、起こそうとしたの?」

「そりゃ、木場先生が怒ってたしねぇ」

「へぇ……キバオウ先生がねぇ」

 

 少女……夏奈子はどうやら木場先生と呼ばれた先ほどの男性教師の事を知っているらしく、何やらあだ名らしき名で呼んでいる。

 木場という教師、実は生徒からの評判はそれほど良くないのだが、何故か夏奈子だけが木場を嫌っているわけではないらしく、よくからかったりして遊んでいる光景が見られるのだ。

 

「さって、お腹空いたぁ」

「食べて寝て、ほんとに夏奈子って何で太らないのかしら? しかも自堕落な癖に外面は良いし……授業中寝てるけど」

「ん~……食べても太らない体質っていうか、ほとんど栄養が胸に行くからねぇ」

 

 15歳にしては豊満過ぎる胸をたゆんと揺らす夏奈子に、友人がイラァッ★としたのも無理は無い。

 

「ほんと、今でも信じられないわ……あんたがあの日本が誇る二大天才科学者の一人、織斑一夏博士の娘だなんて……ねぇ? 織斑夏奈子さん」

「そんなこと言われてもねぇ」

 

 自慢の黒髪を弄りながら、タレ目細めて笑う少女……そう、彼女の名は織斑夏奈子。10年前まで、世界で二人しか存在しなかった男性IS操縦者の片割れにして、現在の天才量子物理学者である織斑一夏の娘だ。

 

「そういえば、夏奈子のお父さんが作った……えっと、ニューロリンカー? って今までのアミュスフィアやブレインインプラントチップで対応していたALOとかGGOやIBにも対応出来るの?」

「うん、お父さんも従来のVRMMOに対応するのは絶対必須って言ってたから」

「へぇ、確か夏奈子のお父さんもALOプレイヤーなんだよね?」

「古参組だよ~」

「古参組かぁ……じゃあ、夏奈子のお父さんならブラッキー先生や高速戦闘の貴公子様とかと知り合いだったり?」

「うっ……」

 

 友人が口にした通称、ブラッキー先生や高速戦闘の貴公子というのは、ALO……アルヴヘイム・オンラインにおいて最も有名な通り名であり、伝説のプレイヤーとして名を馳せる人物だ。

 そして、夏奈子にとってその名は、あまりにも身近過ぎる名でもある。

 

「さ、さぁ? ……名前こそ知ってるけど、実際に会ったことがあるかは私も知らないかなぁ……?」

「そっかぁ……5年前までなら公式大会にも顔を出してたのに、最近じゃ殆ど公式大会でも見なくなったし、もしかしたら引退したのかなぁ」

「えっと、もしかしてファンなの?」

「そりゃそうでしょうよ! ALOプレイヤーにとって憧れの人たちなんだから」

 

 友人もALOプレイヤーなので、彼らに憧れるのは理解出来る。何故なら夏奈子にとっても彼らは憧れであり、そしていつかその背中に追いつきたい目標でもあるのだから。

 

 

 学校が終わり、帰宅した夏奈子は両親がまだ帰宅していないのを確認すると、自分の部屋に戻って着替えを済ませる。

 この後は特に予定も無かったので、早速だがニューロリンカーのスイッチを起動した。

 

「ダイレクトリンク……ALO、リンクスタート」

 

 夏奈子の意識が現実世界から仮想空間へとフルダイブする。その仮想空間から更にALOへとダイブして、夏奈子の姿がALOでのアバターへとチェンジした。

 自慢だった黒髪は金髪に変わり、ストレートに伸ばしていた髪形も三つ編みで一纏めにされ、服装は白を基調としてライムグリーンのラインが入った上着と若草色のミニスカート、そして白いニーハイソックスと茶色のブーツとオープンフィンガーグローブを装備し、最後に白いロングコートを着込んだ姿となる。

 

「う~ん、今までのアミュスフィアよりニューロリンカーでのダイブは随分スムーズ……流石お父さんだなぁ」

 

 腰にぶら下げた片手剣の柄に手を置きながらイグドラシルシティの空を見上げ、夏奈子……カナはニューロリンカーの使い心地を確認していた。

 実は、カナは今朝に父からニューロリンカーを渡され、使い心地を確認して欲しいと頼まれた。つまり、今日がカナのニューロリンカーでの初フルダイブなのだ。

 

「さてと、折角だし狩りでもしておこうかなぁっと」

 

 羽を出して宙に浮いたカナは一気にイグドラシルシティを飛び立ち、近くのダンジョンへ入った。

 そのダンジョンは所謂玄人向け……上級者用ダンジョンよりも更に難しいと言われているのだが、カナにとっては散歩感覚で入れるダンジョンなのだ。

 

「お~……うじゃうじゃしてるねぇ」

 

 ダンジョンに入って早速出てきたMobの数は……20体。とてもじゃないが一人で戦える数じゃない上に、一体一体の強さも半端ではない。

 

「それじゃ、軽くウォーミングアップ程度で流そうかな」

 

 腰に下げた片手剣を鞘から抜く。紺色の柄に漆黒の刀身が美しいその剣は、ALOで最も有名な鍛冶師、リズベット武具店店主であるリズベット作のオーダーメイド品、銘をファントムフォースという超高級品だ。

 

「さて……行くよ!!」

 

 ファントムフォースを構えたカナは静止状態からワンステップで一気にトップスピードまで加速してMob軍団に突撃すると、一体とのすれ違い様に一閃、その一撃はMobの首を落としてHPを0にした。

 

「甘いっ!」

 

 斧を振り下ろしたMobの一撃をジャンプして回避し、他のMobが魔法を放ってきても空中でファントムフォースを一閃し魔法を掻き消すとファントムフォースをライトエフェクトの輝きが覆う。

 

「せいぁっ!!」

 

 片手剣ソードスキル、スラントによる斜め斬り下ろしで真下にいる斧を振り下ろしたMobを両断、下級スキルで硬直が短いため、直ぐに着地したその場から飛び退き背後に居たMobを股下から斬り上げて両断する。

 更に距離が出来た所で短い詠唱を素早く済ませて魔法を発動、放たれた魔法の矢がいくつも発射され近くに居たMob5体に直撃、すべて眉間を貫いた事でHPを奪い去った。

 

「残り、13!!」

 

 再び、ファントムフォースの刀身がライトエフェクトによって輝き、さらに炎と闇を纏った。魔法属性を持った上級スキル発動の証だ。

 

「はぁああああああ!!」

 

 速度重視、防御度外視の10連撃ソードスキル、ノヴァ・アセンション。魔法の属性を帯びたその10連撃は10体のMobだけではなく、その近くに居たMobまでも巻き込んで爆発を起こし、残り1体にまで減らした。

 

「へぇ、生き残ったんだ」

 

 上級スキルを使った事で硬直が少し長いのか、まだ身動き出来ないカナに生き残ったMobが剣を構えて歩み寄ってきた。

 絶体絶命、このままでは一方的に攻撃されてしまうのが目に見えているが、カナの表情にあるのは、余裕だけだった。

 

「スキル後で動けない、か……なるほど、確かに絶好のチャンスでしょうね。でも、何で私があそこでノヴァ・アセンションを使ったのか、Mobでは絶対理解出来ないのかしら?」

 

 そう、あそこでノヴァ・アセンションを使ったのは、普通であればミスだと言わざるを得ないだろう。全てを倒しきれるとは限らないのに、上級スキルを使うなど、本来ならあり得ない。

 しかし、それでもあえてカナがノヴァ・アセンションを使ったのは、カナの後ろから走ってくる人物に気づいていたから。

 

「全く、カナちゃんは無茶し過ぎです」

 

 Mobの姿が突如氷に覆われ、砕け散った。そして、ようやく硬直から立ち直ったカナが後ろを振り返り、そこに立っていた人物に笑いかける。

 

「やっほ~ユイちゃん」

 

 そこに居たのは、黒いストレートヘアーが美しい女性だった。妖精の世界であるALOではありえない人間と同じ形の耳の女性、白いフリル付きのブラウスとロングスカート姿で、見た目は20代くらいだろうか。

 

「もう、やっほーじゃありませんよ? わたしがカナちゃんに気づかなかったら大変だったんですから」

「いやほら、そこはユイちゃんに気づいていたから無茶したんであって、気づかなければもう少し上手くやったってば」

「またそんな事を言って……本当にナツお兄さんに似てきましたねぇ」

 

 そう、この女性こそカナにとって10年来の付き合いである幼馴染であり、姉とも呼ぶべき人……そしてこのALOではナビゲーション・ピクシーと呼ばれる存在であるユイだった。




連続投稿行きます!

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