ヘヴィーオブジェクト ~語られる伝説の終止符~   作:白滝

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第4章 想定通りの想定外 >>太平洋逃亡勢力追跡戦

 フローレイティアから通信を受けたヘイヴィアは、ベイビーマグナムとラッシュが如何にしてやられたかを聞いていた。

「クソが!!じゃあ、増援は見込めねえって事かよ!!」

『向かわせたいのは山々だけど、囮を向かわせるが限界ね。溶岩の海を渡る兵器なんて存在しないし、軍用ヘリや戦闘機なんてロックされた瞬間に対空レーザーで撃墜されるわ』

「はいはい分かってたよこういうオチは。いつだって俺ら……いや、何でもねえ。いつだって俺はこんな目だ」

 咄嗟に俺『ら』と複数形にしてしまった事に自己嫌悪する。

 とはいえ、方針は決まった。

「俺は単独で脱出するから心配しなくていいっすよ。とにかくそっちは、クラウンマグナムを解析してミリンダを再出動させる準備を進めてくれ」

『了解だ、くれぐれも無茶するなよ……いや、逆か。死ぬ気で無茶して来い。本当に死にさえしなければ、必ず救出してやる』

「任せな、俺様を誰だと思ってやがる」

 そう言って、ヘイヴィアは無線機の通信を切った。

 天候兵器で戦場そのものの環境改変し、第二世代オブジェクトのアイデンティティを崩すオブジェクト。

 フローレイティアから聞いた限りでは、背中に接続させた円形フロートに天候兵器用の特殊弾頭を積んでおり、状況に応じて7門の主砲を多角的に運用して災害レベルの異常気象を起こすとの事だった。

「おそらくレールガンやレーザービームとかの主砲クラスを妨害する事もできるだろうな」

 根拠はない呟きだったが、ヘイヴィアはそれが真実だと疑わなかった。

 クウェンサーならきっとそう考えるはず。

 ただそれだけの直感が、しかしあらゆる理屈や想像を超越して真実を看破していた。

「俺にはオブジェクトの技術知識なんてねえ。それどころか科学ウンチクだって一つも知らねえ……だが、奴の狙いは分かる。落ち着くんだ、俺にできる事をやるんだ。俺には、アイツの考えを予測できる」

 だからこそ彼の突破口は、クウェンサーのような『オブジェクトの盲点を突く』ことではない。

 クウェンサー=バーボタージュのアルゴリズムにシンクロする事。その上で、クウェンサーの考えの先を行く事。ただそれだけだ。

「クラウンマグナムは環境改変能力と悪路走行能力を持つ。対第二世代オブジェクト戦に特化した駆逐兵器……奴ならどう考える……アイツは何を怖がるんだ……」

 思考を胸の内に潜らせる。

 頭の中にかつてのアイツをイメージする。きっと俺が死ぬほど嫌がる事を言う。それをイメージする。

 声が響いた。

《落ち着けよヘイヴィア。悪路走行能力があるなら、きっと推進装置が複雑な構造になってるはずだ。ここを誤作動させられないかな?》

「はぁ!?クラウンマグナムの足元に張り付くって事かよ!!踏み潰されてえならテメェ一人で行けよ。第一、このビルの外は『溶岩の海』が広がってんだぞ」

《むしろ好都合だろ。爆弾で溶岩を飛び散らせる事ができれば、オブジェクトの表面へ溶岩をへばり付かせる事はできる。砲身にダメージを与える事はできなくても、推進装置やセンサー群を鈍らせる事ならできるかもしれない》

「だから、どうやって!?このビルから丸腰で飛び降りる訳にもいかねえ。対戦車ミサイルなんて発射しようもんなら、発射と同時に隠れてる位置がバレて主砲で消し飛ばされんぞ!」

《だったら俺達が仕掛けなきゃいい。クラウンマグナム自ら溶岩を被ってもらうんだよ!》

「…………」

 そんな、脳内に響く幻聴のような声と会話をしながらふと気付く。

 ビルの外には溶岩の海に呑まれて無残に倒れた建物の残骸が広がっている。

 その中に、とある看板が溶岩の海に突き立っていた。

《あれを利用しよう。やる事は分かるよな?》

「クソったれの死にたがり野郎が……しょうがねえ、テメェの無茶に付き合えるのはこの天才美形貴族ヘイヴィア様だけだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラウンマグナムは、反乱分子『ピリオド』の隠れ家となるビルから100メートル離れた位置に待機していた。クウェンサーから支援要請を受けて先ほど地下へ向けて副砲のレーザービームを発射したのも、接近しすぎると閃光で彼の目を潰してしまう恐れがあったからであった。

 ただし、ここまで離れるとビル内に息を潜めるヘイヴィア=ウィンチェルを各種センサーで捕捉するのは難しい。とはいえ、ビルの周囲は『溶岩の海』で逃げ場などないため、特に攻め急ぐ必要もなかった。

 クウェンサーが地下通路から避難が完了し終えた連絡が入り次第、ビルごと吹っ飛ばせば済む話である。生身の人間など丸焼きになる。ヘイヴィア=ウィンチェルは退路のない崩壊中のビルに隠れ、今頃はオブジェクトの主砲で消し飛ぶのが楽か自決するのが楽かを考えあぐねているだろう。

 そう予測していたが、沈黙を破るように発射煙が突き抜けた。

 15階建て近いビルの中央付近から、対戦車ミサイルが爆炎の尾を引いてクラウンマグナムへ発射される。

 クラウンマグナムは特に動揺を見せなかった。

 血迷ったか。そんな声が聞こえてきそうなほど淡々と、ただ事務的に迎撃する。ミサイルが空を舞ってから0.2秒で副砲のレーザービームが発射され、ビルの中央を貫通する形で空間そのものをブチ抜いた。

 むしろ「クウェンサーが地下通路から脱出する前にビルの崩壊を加速させてしまうのではないか?」と威力を配慮する余裕さえあった。

 当然、レーザービームにビルの中央が貫かれた結果、その上部半分が折れるように溶岩の海へ転落する。

 ビルの上半分が前のめりに倒れこむ。クラウンマグナムの20メートルほど前方に不時着したビルの上部は溶岩の海に沈み込んでいった。

 クラウンマグナムに慌てる様子はなかった。

 

 

 ――――――直後、ビルの下半分に佇むヘイヴィア=ウィンチェルのニヤけた表情をカメラに捉えるまでは。

 

 ヘイヴィア=ウィンチェルが手元の無線機のボタンを押す。

 次の瞬間、ビルの上半分が建物ごと爆発した。

 溶岩の海へクレーターを空けるように、建物の残骸を撒き散らしながら爆発を起こす。

 

 しかし、ただそれだけだった。クラウンマグナムに被害はない。

 おそらく彼はビルの上半分に爆発を大量に置いて、わざとクラウンマグナムにビルを真っ二つに折らせたのだろう。

 そうする事でビルの上半分をクラウンマグナムに接近させ、至近距離で起こした爆発で溶岩でも宙に巻き上げてダメージでも与えようとでも考えたのか。

 たかが知れているな。クラウンマグナムはそう結論を下した。そもそも携行火器の火力で溶岩の海へ波を起こすような大爆発を起こせる訳がない。ただの水ではなく、粘着性の高い石なのだから。

 そう考え、レーザービーム砲の照準をヘイヴィアに合わせる。

 その悠長な判断が命運を分けた。

 

 直後、先ほどの爆発で溶岩の海に空いたクレーターから、一際高い爆炎が世界を塗り潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘイヴィアはその光景を笑いながら見つめていた。

「どうだクソ野郎!!ガソリンスタンド丸々1つ使った焼夷爆発だぜ!!」

 そう。

 ビルの上半分が倒れて沈んだ位置には、ガソリンスタンドがあったのだ。溶岩に浸食されて施設は燃料タンクまで丸裸になっていたが、何分、「溶岩に蓋をされて空気が入って来ないため爆発しなかった」のだ。

 だったら、空気を送り込んでやればいい。

 ガソリンスタンドを沈没させている溶岩の海を、爆発で噴き散らせてやればいいのだ。

 総量15万リットル近い燃料が、酸素を喰らって爆炎の産声を上げる。

 溶岩を焼きながら爆風を撒き散らし、溶岩の海に波を引き起こしながらクラウンマグナムに迫る。

 クラウンマグナムは溶岩の波を慌てて副砲で噴き散らして直撃は避けたが、水飛沫のように飛来する溶岩の散弾がべちゃべちゃと装甲表面に付着する。

 それは推進装置や砲身や各種センサーにも降りかかり、瞬時に放冷されて黒く固化した。

 特にセンサー群への負荷は無視できないものだった。なにせ粘性が高くこびつくため、機体を振り回しても落ちず、固化しているためワイパーでもしっかりとは削り落とせない。

「馬鹿が。その油断が命取りだったんだよ。目に入った埃が取れないまま、何度も瞼をパチパチやってやがれ!!」

 そのままヘイヴィアは近くの建物の残骸にパラシュートで飛び降りる。瓦礫を飛び越えながら陰に身を潜めた。

 溶岩が間近に迫り熱波が押し寄せるが、深呼吸して痛みを堪える。

(ここまでセンサー群を汚されたんだ。奴からしたら、いつ他の軍から新たなオブジェクトを派遣されるか分からねえ状況。別の拠点へ退避してメンテナンスを行いたいはずだ!)

 ヘイヴィアの想像通り、クラウンマグナムは機体を数度振り回していたが、やがて諦めたのか、ヘイヴィアが先ほどまでいたビルの下半分へ適当に数発レーザービームを撃ち込んで海へ退避していった。

 ビルの消し飛ぶ粉塵で咳き込みながら、ようやくヘイヴィアは建物の瓦礫の影から身を起こした。

「ったく、洒落にならねえぜ。昔はよくあの野郎に付き合えたもんだ」

《お前だって俺に全部丸投げして無茶苦茶言ってたじゃんかよ!》

 そんな幻聴が聞こえた気もした。

 ともあれ、クラウンマグナムの逃亡先へ向かえばクウェンサーを発見する事ができるだろう。あれだけぶっ飛んだ設計のオブジェクトなのだ。開発したクウェンサーの意見は必ず必要となる。クラウンマグナムを尾行すれば、反乱分子『ピリオド』の本拠地に辿り着くはずだ。

 ヘイヴィアは無線機の電源を入れ、フローレイティアへ連絡を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東シナ海の洋上。

 小型空母2隻にワイヤーで固定される形で、トーキョー湾から撤退して来たベイビーマグナムはメンテナンスを受けていた。

「ノロノロしてるな!破損箇所の修復よりも、新品のパーツに交換する方が早いわい!!」

「チーフ!しかし、今後も戦争は予定されていますし、新品パーツの在庫も――――」

「黙らっしゃい!今回の戦争はいつもと訳が違うんじゃ!!このメンテナンスが生涯最後の整備だと思え!!全力だ!!」

 第37機動整備大隊の整備長を務めてきたアヤミ=チェリーブロッサムは、大声で檄を飛ばしていた。

 既に肉体労働ができる歳ではないものの、彼女が指揮を執るだけで人の流れがベルトコンベアのようにスムーズに流れていく。

『婆さん』

「……小僧と会ったのか」

 ミリンダから無線の通信が入った。長年の付き合いもあり、その声色で彼女の言いたい事は全て伝わっていた。だからこそ、アヤミはミリンダが欲しい言葉を的確に返す。

「人は変わるもんじゃ。かつてお姫様と過ごした時間は偽りではない。あれも小僧を形成する人格の一面で、今の生き方も当時は見えていなかっが内面に秘めていた一面なのじゃ」

『わかってるよ』

「……そうじゃな。小僧の開発したオブジェクトと交戦したと聞いた。どうじゃった?」

『つよかったよ』

「それは当然だろう。私が指導したんじゃからな。聞きたい事はそうではなく……『エリート』として、お前さんがそのオブジェクトから感じるものはなかったか?」

『てんこうへいきでかんきょうを、』

「そうではなく、漠然とした印象の話じゃ。実際に命をやり取りをしたお前さんしか分からない、生の感情の話じゃよ」

『……人間っぽくなかった』

「ほう……」

『なんていうか、「クウェンサーっぽさ」がないんだよ。まるで空元気してるみたいで。クウェンサーのやさしさとか、ゆうかんさとか、そういうのがかんじられない』

「なるほど。小僧特有の『匂い』を感じないという事じゃな?」

『そう、なのかな?……でも、あれはクウェンサーと戦っているというより、オブジェクトっていう「負の技術」そのものと向かい合わされているような……』

 何かを思案しかけたアヤミだったが、そこで新たに通信が入った。

『フローレイティアだ。残念ながら時間がないため、映像通信で緊急ブリーフィングを開く。お姫様のコックピットとも回線を開いてくれ』

「分かったが、あんまりあの子を煽るような事を吹き込むんじゃないよ?」

『それはあの子の気持ちの持ちよう次第ね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フローレイティアは第37機動整備大隊の面々を集合させ、スクリーンに図を交えながら作戦の説明に入る。

 とはいえ、メンバーは整備兵や技術屋ばかりで、現場の兵士はベースゾーンに帰還していない。現場の兵士は携帯端末で通信を取り、このブリーフィングを聞く事となる。

 そんな緊急処置で応じなければいけない理由があった。

「状況は分かっていると思うが、改めて被害状況を確認する。前作戦にて我がベイビーマグナムは中破、友軍のラッシュは轟沈した。海底火山の噴火により、各世界的勢力の歩兵部隊も壊滅的な被害を被っている」

 フローレイティアはスクリーンに地図を移し、

「『信心組織』軍からの情報によると、現在、反乱分子『ピリオド』は座標395Fの高層ビルから地下通路を伝って太平洋に通過中。また、現場に居合わせたヘイヴィア=ウィンチェル軍曹の報告によると、クウェンサー=バーボタージュもそこに居合わせていたらしい。ウィンチェル軍曹は逃亡を許してしまったようだが、敵オブジェクトとも遭遇して貴重な情報を入手してくれた。コードネームは『クラウンマグナム』というらしい」

 ここで、電子シミュレート部門の兵士が手を挙げた。

「先ほど、『資本企業』軍の陸戦PMC『モスグリーン』と連絡が取れました。どうやら彼女達はニューゲート基地にあった整備機材から情報を抜き取ったらしく、溶岩の津波からも完全に脱出し切っていたようです。我が軍へ『クラウンマグナム』のスペック情報を譲渡して頂きました」

 そういって電子シミュレート部門の兵士が、手書きで急いで書いた資料を兵士に配った。

 

『   【クラウンマグナム】 Crown Magnum

 

       全長…75メートル(主砲最大展開時)

     最高時速…時速560キロ(ただし最大加速時に環境適応能力は無い)

       装甲…2センチ厚×500層(溶接など不純物含む)

       用途…戦場制圧用気象兵器

       分類…全地理・全災害対応万能マルチロール型第三世代

      運用者…戦略AI『ポジティブ : Q』&『ネガティブ : H』

          +遠隔操縦用オーケストラシステム

       仕様…エアクッション+プラズマ加速式推進システム、

          気流制御用攪拌装置×360

       主砲…EMT弾頭装填式回転アーム兵装×7

       副砲…レーザービーム、コイルガンなど

メインカラーリング…ホワイト                         』

 

「クラウンマグナムの基本スペックは、ベイビーマグナムと大差ありません。全長も最高時速も装甲の厚さも特筆するほどではないです。主砲も7門の回転アーム。ここは、ベイビーマグナムの図面を流用しているのでしょう。ただし、背中に背負ったコンテナから天候兵器用の特殊弾頭を装填し、戦場の環境を改変します。こちらは録画データがございますので、映像をご覧にながりながら話を続けさせて頂きます」

 そう言って電子シミュレート部門の兵士は動画を再生しながら説明を続ける。

「また、自身の改変した環境に適応できるように、悪路走行能力があります。これは我が軍の技術解析部門から説明をお願いします」

 入れ替わるように眼鏡の女性兵士が説明を始める。

「あらゆる環境にたった一つの推進装置で対応する……これは実現不可能です。ですので、私達は視点を変えてみました。『たった一つの推進装置で走破できるように、周囲の環境を常に一定に保つ』という発想です」

 フローレイティアがスクリーンのスライドを変えて、推進装置の説明画像を移す。女性兵士はスクリーンを指差しながら、

「クラウンマグナムは通常のエアクッション式の他に、下位安定式プラズマ砲に使われる特殊ガスを機体下部に噴射し、そのブラズマの熱による空気の莫大な膨張を利用した加速機構を持っています。ここで、膨張した高温の空気を制御して機体の周囲に纏わり付かせる事ができれば、クラウンマグナムは『空気の鎧』を纏う事ができます」

 つまり、とフローレイティアが説明を引き継いだ。

「クラウンマグナムは全天候・全災害対応だが、それは『空気の鎧』を纏ってあらゆる環境を拒絶した引きこもり野郎だからだ。決して未知のトンデモ技術ではない、既存の技術の積み重ねだ」

 フローレイティアは新たなスライドをスクリーンに移す。

「また、戦略AIについては『情報同盟』軍に応援を求めた。友軍であった『ラッシュ』にも戦略AI『ジュリエット』と『ロメオ』が搭載されており、おそらくそれを参考に開発されたのだろうと返答があった。『ポジティブ : Q』があらゆる可能性の走査と実行、『ネガティブ : H』があらゆる対応の否定と対案、二つのシステムが会話するように演算を行う事でバグや競合を極力減らしているそうだ。また、遠隔操縦についてはお姫様からも根拠がある」

 そう言って、回線がベイビーマグナムのコックピットに移る。

『うん、あいつにはにんげんみがかんじられなかった。センサーのよみあいとか機体のふりまわしかたが人の手でやるようなものとは思えない。エリートはいないっていうのはほんとうかも』

「だそうだ」

『あと、……あ、いいや。なんでもない』

「?」

 フローレイティアは怪訝な顔をしたが、作戦会議も時間がないので話を進めた。

「以上がクラウンマグナムのスペック説明だ。これを踏まえて次の作戦に移る」

 そこでフローレイティアが新たなスライドをスクリーンへ移した時だった。

 会議室の兵士が突然手を挙げて立ち上がった。

「カピストラーノ中佐!」

「どうした、説明中だぞ!」

「いえ、それが――――――」

 そこで、フローレイティアは頭を抱える事になった。

 

 

「――――――ヘイヴィア=ウィンチェル軍曹が、単独でクラウンマグナムを追跡しているようでして!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フローレイティアへクラウンマグナムの情報を伝えた後、ヘイヴィアは迎えに来た救命ヘリに搭乗した。

「このままクラウンマグナムを追い駆けろ」

 開口一番、パイロットにそう告げた。

「じ、冗談ですよね!?ベイビーマグナムの救援を待ちましょう!軍用ヘリなどオブジェクトの前では紙飛行機同然です!!」

「別にオブジェクトと戦えって言ってんじゃねえよ。戦うのは俺がやる。お前はこのまま、オブジェクトの対空レーザー圏外からゆっくり追い駆けてくれりゃあ良い」

「で、ですが……!?」

「いちいちベースゾーンに帰還して作戦を立て直してられっかよ。このままクラウンマグナムの撤退を許してメンテナンスを受けさせちまったら、それこそ詰みだぜ。俺らに勝ち目があるとすれば電撃戦。このままクラウンマグナムを追跡し、反乱分子『ピリオド』のベースゾーンを強襲する……それが、例え俺一人だとしてもだ」

「う、うぅ……」

「これは上官命令だ。軍曹である俺が行けっつってんだ。従わないなら命令無視による反逆罪で銃の引き金に手をかけるぞ?」

「そんな……!?わ、分かりましたよ。カピストラーノ中佐には軍曹殿の口から連絡お願いしますよ」

 パイロットは渋々といった口調で操縦桿を逆方向へ傾けた。

 二階級特進なんて退役時のお飾りみたいな勲章のつもりだったが、予想外の場面で役に立った。

 ヘイヴィアはヘリの計器やモニター画面に視線を移した。クラウンマグナムは進路を東に向け、洋上を時速500キロメートルで走行している。ヘリで通常飛行すれば追跡は可能だ。

「やつの進路の先に、人工浮揚島なんてねえ……だとすれば行き着くのは、」

「ハワイ諸島、ですね」

 ハワイ諸島は19以上の島によって成り立つ。この内のどこかにクラウンマグナムをメンテナンスするためのベースゾーンがあるはずだ。

「オブジェクトの索敵外で追跡を続けるのなら、いずれ目視圏外へ離されます。オブジェクトの速度にはさすがに追いつけません。どこの島に着陸するか検討して下さい!」

「俺ら視点で、一番近い島に着陸すれば良いんじゃねえのか?」

「無茶言わないで下さい。ヘリポートの使用許諾だって取れていないんですよ?パラシュートで降下して下さい!」

「はァ!?資本企業の映画じゃねえんだぞ馬鹿野郎。安全な場所に着陸できねえのか?」

「無茶を言ってるのは軍曹です!反乱分子『ピリオド』がハワイ諸島のどこに潜んでいるかも分からないんですから、どこが安全地帯なのかサッパリですよ」

「チッ……」

 パイロットの言い分は至極真っ当だ。ヘイヴィアは苛立ちながらも地図を広げて、目を凝らす。

「オアフ島にしよう」

「えっと、根拠は何かあるんでしょうか?」

「オアフ島のパールハーバーには『情報同盟』の基地があったはずだ。さすがに此処には反乱分子『ピリオド』もやって来れねえだろ」

「でも、『情報同盟』軍が我々を受け入れてくれるでしょうか?敵味方の識別信号だって決められていませんし、『正統王国』の軍用ヘリがいきなり自分達の基地へ目がけてやって来たら、照準レーダーでロックオンされますよ」

「しょうがねえ。ここはあの爆乳の手腕に頼ろう。俺らが独断専行すれば、ブチギレながらもしっかり理論武装固めて『情報同盟』軍を説得してくれるだろうさ」

「お、おっかねぇ……あの鬼上官カピストラーノ中佐にそんな事させるとは。ヒールで踏まれるだけでは済まされないですよ……これが伝説の『ドラゴンキラー』なのか」

「何言ってやがんだ。それをご褒美だと喜べなきゃ、死線を越える事はできないぜ」

 

 

 

 

 

 

 


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