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みゆき達と会ってから丁度一週間後の今日、今回も特に何も予定が無かった俺は昼頃になっても布団から出ず、布団の恩恵に身を委ね、このまま一日寝て過ごすつもりでいた。
「…これが楽園か……」
だがしかし、
―バンッ!―
「たのもー!」
突如、えりかの場違いな発言と共に部屋に入ってきたつぼみ達によって俺の楽園は破滅を迎えた。
「かかれー!」
寝起き故にいつもの様に動けず、布団を使って俺を動けなくし、シーツでぐるぐる巻き。
結果、俺は芋虫に。
「「「「捕まえたのポーズ」」」」
「へぇへぇ。てか、ゆりもやんのな…」
因みに鍵に関しては、予想通りゆりが持ってる俺の家の合鍵で入ってきたと。
親父とお袋、英明さんは大学時代から続く友人関係で、互いに家庭を持っても交流は続き、いつの間にか互いの子達に合鍵を渡し合っている仲になった。
因みに言うとこの家には一応、親父とお袋の部屋があるが俺しか住んでない。
俺等が中2の頃、元々同じ探検隊に属していた英明さんが行方不明になったと聞いた親父はお袋を連れて英明さんを探しに海外へと飛んでった。
それと同時期、俺とゆりは各々ブレイドナイト、キュアムーンライトとして目覚め、活動し始めた。
結局探しに行ったきり一回も家に帰って来ない内に俺等は中学を卒業し、高校生になった。
幸い、中学の頃から成績が良かった俺は高校でも学費は全額免除となっている。
その後なんやかんやで俺達が英明さんを見つけ、その事を伝えたら、
“そうか、あの馬鹿が見つかったか。…じゃあ折角だから俺達はこのまま探検を続けるから後宜しく”
と。
いったい何が“折角”なんだか知らんが現在に至るってわけだ。
正直、親としてどうなのかと思うが、色々多感な時期から一人暮らししているお陰で最早大抵の事は出来るし、金も毎月一定額振り込んでくれる。
何より不定期だが元気で明るく、楽しそうな声で電話も寄越すからまぁ良いだろう。
…そういえば昨日、久し振りに手紙が届いたな。
“エジプトのピラミッドで純金で造られた本とミイラを発掘したぞ!”
と。
この手紙を読んで、以前観た映画の事を連想した俺は悪くない筈だ。
発掘して喜んでる親父とお袋には悪いが、俺としてはその本は是非とも読まないでほしい。
…てか、エジプトもだが今世界何周目だ?
「…と言うわけで、今から七色ヶ丘に行くんで明さんは支度を済ませて下さい」
「ん?あぁ、はいはい」
どうやらこれから七色ヶ丘に行くようだ。
それなら早速行動開始。
シーツをほどいてもらい、つぼみ達を先に外に行かせ、手早く身支度を済ました。
「お待っとさん」
「よ〜し!それじゃあ七色ヶ丘へレッツゴ〜!」
の前に、
「老若男女無差別拳」
―ゴンッ!―
「あだ!?」
「出掛けるならもっと普通に誘いやがれ」
先の襲撃の確実に主犯であろうえりかに拳骨をかました。
「はぁ…やれやれだぜ…」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
さて、七色ヶ丘に来たんだが、
―…ワイワイ…ガヤガヤ…―
―…トン!テン!カン!トン!テン!カン!…―
町中が随分と賑やかだった。
「お祭りの準備…ですか?」
「だろうな。屋台の骨組みや行灯があっちこっちにあるからな。で、えりかよ、今日は何で来る事になったのかそろそろ話してもらおうか?」
道中聞いたんだが、どうやらつぼみやいつき、ゆりも七色ヶ丘に来る事になった理由を話してもらってないんだと。
理由も聞かずにホイホイ付いてく俺等っていったい…。
「むっふっふ!遂に超ウルトラスーパーカリスマファッションリーダーであるあたしの時代がやって来たのだ!」
“えりかの時代”?
……はっはーん。
成程、そうゆうことか。
「どうしたんでしょうか、えりかは?」
「やたら嬉しそうだよね?」
どうやらつぼみといつきはまだわからない様子で。
「明さんはわかるんですか?」
「あぁ」
「…成程。そうゆう事ね」
どうやらゆりもわかった様だ。
「ゆりさんもわかったんですか?」
「えぇ。えりかにしては珍しく素敵な事をしてくれたわ」
うわ、さりげねぇ毒…
「でしょでしょ!」
「うぅ〜いったい何なんですか…」
「わからないけど、ゆりさんや明さんがえりかを止めないって事は、ボク達にもプラスになる事がある筈、…そうですよね?」
いつきは中々に鋭いな。
「まぁそんなとこだな。で、みゆき達とはどこで待ち合わせてるんだ?」
「あかねの家!場所はこの間来た明さんから聞いてって」
「ん、りょーかい」
「明さん、この間はあかねさんの家に行ってたんですね」
「あぁ。お好み焼き食いにな」
まぁ食ったのは秘密基地でだけどな。
「ねぇねぇ明さん、お土産は?」
「ねぇよ。あったらとっくに渡してら」
一週間過ぎのお土産とか、正直いらんだろ。
「それもそっか。じゃあ明さん案内お願い」
「りょーかい」
そうして俺達は“お好み焼き屋・あかね”に向かって歩き出した。
………
……
…
前回来た甲斐あって今回は然程時間を掛けずに到着。
そして黒板には
“現在境内の屋台にて準備中。夕方から営業開始!”
と書かれていた。
「あれま」
「留守…でしょうか?」
「待ち合わせの場所に指定したんだからいる筈だろ。おーい、みゆきー?来たぞー」
―ガン!ガン!ガン!―
とりあえず来た事を伝え、戸をノックノックノック。
さて、反応は…
―ドタ!ドタ!ドタ!…―
「…何か嫌な予感」
「…同感だわ」
俺とゆりが音を立てずにその場から離れた直後、
―ガラガラガラガラ!―
「待ってたよ〜!えりかちゃ〜ん!!」
戸が開き、中からみゆきが勢いよく出てきた。
「うわぁ!!」
そして何もない所で躓き、
「きゃ!?」
「ぎゃ!?」
つぼみとえりかを押し倒した。
ん?いつきは?
「…あははは。大丈夫?三人共」
俺やゆりと同じく離れて三人を心配していた。
[戸] [戸]
 ̄えみつ ̄
あゆ い
まったく、ちゃっかりしてるぜ。
「うぅ〜…」
「重〜い!」
「ご、ごめん!?」
みゆきは慌てて起き上がり、つぼみとえりかも起き上がった。
ん、怪我はしてないな。
「ほんとによくもまぁ、何も無い所で見事にコケれるで」
「あ、あかね」
あかねの中からあかねが出てきた。
あ、コレ二度ネタか。
「はっぷっぷ〜…」
「あはは…、それより今日はえりかにお願いがあると聞きましたが…」
「そうなの!だからえりかちゃん直ぐに来て!」
「え、ちょ、まあぁぁぁぁぁぁぁぁあ〜!?」
えりかが答える前にみゆきが凄い速さでえりかの手を掴み、そのまま店内へと戻っていった。
―あぁぁぁぁぁぁぁぁあ〜!?―
「外まで聞こえるぜ」
「よく息が続くわね」
「感心してどないするん!?」
「「あははは…」」
その後、えりかの悲鳴は二階のあかねの部屋に辿り着いた時に漸く止まった。
「…静かになりました」
「だな」
恐らく…いや、確実にふしぎ図書館の秘密基地に行ったんだろう。
とりあえず他のメンバーを待たせるのも悪いんで、つぼみ達を引き連れさっさと店に入った。
「あかね、靴はどうする?」
「今回も持っていくで」
「…また飛び降りんのはお断りだぞ?」
「今回は大丈夫やて!」
「さいで」
「「???」」
「明…」
「あ、説明は後でれいかが全部するから待っててくれ」
「他人任せかい!?」
「わかったわ」
「しかも納得するんかい!?」
「「あははは…」」
………
……
…
で、秘密基地に到着。
「ちょおおぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
―ズバババババッ!!―
部屋の中でえりかはレッドの種を使ったかの様な速さで作業していた。
「え、えりかが燃えていますうっ!?」
「締め切り間近の番長君みたいだな。それより他のメンバーはどうした?」
「作業の邪魔になるからみゆき達は外!」
「成程」
―ズバババババッ!!―
「…俺達も出た方が良いか?」
「つぼみ以外は!」
つぼみさん、ご指名入りました。
「だってさ、つぼみ副部長」
「わかりました。副部長として職務に励みます!」
…えりかの熱がつぼみに移った。
「よく言ったつぼみ!ファッション部の底力、見せてやるっしゅ!」
「はい!」
「…暑苦しい」
「「ちょおおぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」」
―ドバババババッ!!―
「…出るか」
「えぇ」
「はい」
「せやな」
俺達は逃げるような外へ出た。
「お久し振りです皆さん!」
するとみゆき達と一緒にあゆみとフーちゃん、グレル、エンエンがいた。
で、話を聞くと、どうやらみゆきから今夜の七色ヶ丘のお祭りに来ないかと誘われたらしい。
「そうだったんだ。…あれ?でもボク達が呼ばれた理由は?」
「えりかにはみゆきの浴衣を直すのとあゆみの浴衣を作ってもらいたくて呼んだんや」
「みゆきのは虫「ひいぃ!?」…あ、悪い」
そういえばなおは虫が駄目だったな。
「痛んだり穴が開いてたのか」
「そや。でも店に頼むのは金かかるし、何より、祭り行く前には用意しときたかったんや」
「成程。それでえりかに頼んだのか」
みゆき達と初めて会った時にえりかは自分がファッション部の部長である事を言ってたからな。
「んで、あゆみは自分の浴衣が無いと?」
「そや。お袋さんのはサイズが合わんらしくてな」
成程。
…ん?待てよ?
「生地はどうやって調達したんだ?」
さっき見た時それなりにあったが。
「それでしたらデコルの中に服飾関連のデコルがあったので、そちらを使いました」
「成程」
それなら金かからないし、直ぐに作業出来るから便利だな。
「それで?作業はいつ終わるんだ?」
「最初に聞いた時は後一時間はかかるって言ってましたけど…」
「今はつぼみも手伝ってるからそれよりも早くに終わるかもな」
「はい」
「それなら暫くは皆で雑談でもして時間を潰すとするか」
そう言って俺はよっこいしょ、と腰を下ろし皆にも腰を下ろす様促した。
「よっ、明さん!仕切り上手!」
「そりゃどーも。…んじゃ御待ちかね、ゆりが気になってる事から」
「助かるわ。この場所について教えてもらいたくてうずうずしてたの」
「れいか、説明よろしく」
「はい。ここは…」
頼んどいてだが、俺の時の様に長くなりそうだから以下省略。
………
……
…
「…です」
「ふふ、素敵な場所ね」
「はい」
「それにここならウチらがどんなに騒いでも他に迷惑かからへんしな」
―ちょおおぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!―
「あ、また叫んだ」
「確かに普通の場所だったらアレはかなり迷惑ね」
「だな」
そしてその後も雑談は続き、いつの間にか話題は俺とゆりが各々ブレイドナイトとプリキュアになった時の事についてになっていた。
ゆりには悪いが、あかね辺りに弄られたくないんで俺は寝かせてもらう。
当時の事を思い出してか、若干恥ずかしながらも話しているゆりの姿をこれ以上見れないのは残念だけどな。
じゃ、そうゆうことで。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「だから…ありがとう、明」
「………」
「…明?」
「…Zzz…Zzz…Zzz…」
『………』
「…寝てますね」
「…いつの間に」
「…どうりで静かなわけや」
「…人が恥を忍んでお礼を言ったのに、この男は……」
「ゆりさん、落ち着いて…」
「―――」
「あれ?今、明さんが何か言わなかった?」
「え?」
「………うにゃうにゃ…俺はまだまだ食えるぞ………」
『…………』
「…寝言?」
「ソコは“もう食えへん”やろ!?」
「あかね、寝ている人にボケを求めても意味ないぞ?」
「あははは…」
「それにしても、普段の明さんとは真逆で可愛らしい顔ですね」
「…ほんと、憎々しいほどにね」
「や、ゆりさん、憎々しいて…」
―バタンッ!―
「ひやぁっ!?」
「出来たぁ〜!」
「皆さん!お待たせしました!」
「あ、つぼみ、えりか」
「終わったんか」
「もちのろん!!」
「も〜、おどかさないでよ〜!」
「ありゃ?もちかしてやよっち、泣いちった?」
「な、泣いてなんかないもんっ!」ウルウル
『うわぁ……』
「泣いてなんかないもん」モジモジ
「二度も言わんでえぇわ!」
「それよりえりか、確か秘密基地の中にカメラがあった筈だからちょっと持ってきてくれないかしら?」
「はーい」
「何に使うんですか、ゆりさん?」
「ちょっとした仕返しによ」
「仕返し…ですか?」
「…Zzz…Zzz…Zzz…」
「あ、明さんお休み中なんですか」
「ふふふ、明?早く起きないと後悔するわよ?」
「いつき、いったい何があったんですか?」
「あははは…、ちょっとね?」
「ゆりさーん、持ってきたよー」
「ありがとえりか。さぁ明、水でもかぶって反省しなさい」
「それちゃう!いや、合ってるけど!」
「私、出来る人は手を抜いちゃいけないと思うの」
「思わんでえぇわぁ!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
―パシャリ!―
…ん?…なん…だ?
「起きてください、明さん」
…今の声は、つぼみか。
「ふあぁ〜…よぅ、つぼみ。作業は終わったのか?」
「はい、無事に」
目を開けると皆が此方を見ていた。
…なんか恥いな。
「ふっふっふ〜!」
えりかは大層ご満足の様で。
「昼過ぎまで寝てたのによく寝てたわね」
そう言ってゆりは俺に手を差し伸べてきた。
「ここは陽気が良いからな」
まぁ半分は嘘だがな。
とりあえず差し伸べてきた手を掴みよっこいしょ、と立ち上がり身体の各所をほぐす。
「悪かったな。一人で話させちまって」
「気にしないで。私も楽しかったから」
「…そのようだな」
今のゆりはまさに喜色満面、凄く生き生きとしていらっしゃる。
「ふふふ」
いや、ほんと、嬉しそうで。
「…どうしようみんな」ボソッ
「…どうするも何も」ボソッ
「…言えるわけないよ」ボソッ
「…もし明さんに言ったら」ボソッ
「…明さんとゆりさんでカメラの奪い合いが始まり、最終的にはカメラを破壊する事態になりかねますね」ボソッ
「はっぷっぷ〜!?わたしのカメラが!?」ボソッ
「…あははは」ボソッ
…みゆき達とあゆみが何やらこそこそとしていた。
「どうかしたか?」
『な、なんでもないですっ!』
「…さいで」
「それよりも出来上がった品を見てみましょうよ」
「ん?あぁ、そうだな。見に行くとするか」
「えぇ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
で、秘密基地の中。
「ふっふっふ〜、どーよ?」
「はっぷっぷ〜!!凄いよえりかちゃん!」
「わぁー!」
「…すげぇ」
いやほんとまじで。
用意されていたのは事情を知らなければ下ろし立ての新品と思わせる程、綺麗に仕上がっているみゆきとあゆみの浴衣。
そして、
「どうですかいつき、ゆりさん、明さん?」
「うわぁぁぁ!?可愛いぃぃ!!」
「素敵だわ」
「だな」
俺達三人分の浴衣。
あ、みゆきの以外はまんま新品か。
「実はドッキリで明さん達の浴衣を作ろうってえりかが」
「ほんと!?ありがとえりかぁ!」
―ガバッ!―
「ガフッ!?い、良いってことよ…」
余程力が強かったのか、抱き着かれた直後えりかはそんな奇声を。
「あゆみさんは白地に薄緑色の四葉の刺繍、帯は淡いレモンイエローを。いつきは黄色に白い牡丹の刺繍、帯はオレンジを」
「ゆりさんのは薄い藤色に紫色の百合の刺繍をして帯は紫。明さんは黒地に白い竜胆の刺繍をして帯も黒にしてみたっしゅ」
「似たような仕様になってしまいましたが…「全然心配ないよ!ありがとつぼみ!」は、はいぃぃ!?」
あらま、いつきに抱き着かれてつぼみの顔が真っ赤っか。
「私も気にしないわ」
「俺もだ。…てか、つぼみとえりかの浴衣は?」
「勿論あるっしゅ!」
ちゃっかりしてるぜ。
「えぇっと、つぼみのは薄桜色の生地に白いこれまた桜の刺繍、帯はピンク。んで、えりかのは水色に白いシクラメンの刺繍、帯は青…」
………、
「変身した姿と心の花をデザインにしたか?」
「そう!」
「やっぱりか」
どうりで見覚えあるわけだぜ。
「因みにあゆみさんですが、わたしのイメージで薄緑色の四葉が合いそうだなと」
『あ〜〜』
なんかわかる。
「よ〜し!それじゃあ用意は整った!みんな〜祭りに行くぞ〜!」
『お〜!』
えりかの音頭で盛り上がってるとこ悪いが、
「「「まだ行くには早い(だろ・わ・やろ)」」」
『あ…』
俺の腕時計の針は丁度三時を指していた。
行くなら五時過ぎだな。
「…やれやれ」
【続く】
年内中にアフター2が書けたらいいなぁ…