死を視る白眼   作:ナスの森

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更新遅れて申し訳ありません。
一応、設定は固まったので、ひとまず投稿したいと思います。

※タグに転生眼を追加しました。開眼は本当に終盤になります(果たしてそこまで行けるのか……)




ある男の決意

 

表と裏。光と闇。愛と憎しみ。

 

あらゆる相反する概念が跋扈する忍の世界にて

獲物を求めて地を這い彷徨う蜘蛛が一匹

獲物を発見するに相応しき白き眼

全方位、広視野を見渡すその目は蜘蛛が持つにはうってつけであり

餌に飢えたその獣は今も尚最高の獲物を求め続けて彷徨う

 

 

 その眼に映る、仕留め甲斐のある個体は皆、彼の獲物だった。

 首を刎ねて手に入る賞金などは二の次。それは自分が生き続ける(殺し合い続ける)ための手段でしかなく、本命は殺し甲斐があるか否かであった。

 他人を殺し続け、他人の命を奪い、死を感じる事でしか己の生を実感できぬ哀れな男は幾度と名のある忍びや、その他有象無象を解体してきた。

 名が知れないにも関わらず圧倒的な腕を持った忍、かけられた賞金とは裏腹にその実何の殺し甲斐もない忍、逆に低い賞金をかけられていたにも関わらず実はそれに似合わぬ腕の持ち主である忍、その他剣の腕が立つ侍、またはそれらの周りにいた無名の者たちを寸分違わず一本の刃物で解体してきた。

 

 その鮮やかな手口と獲物や周りの者に対して一切の顔を見せない彼の物の顔を知る者は一人たりとも存在せず、唯一、日向一族の中で彼の存在を知るものだけが彼の幼い頃の顔立ちを覚えているのみ。

 

 故に彼は顔が出回らないまま世間でS級犯罪者として手配され、にも関わらず顔を知る者はいなかった。

 

 加えて今まで彼の手にかかってきた獲物達の中にこれといった共通点はなく、殺害対象は正に善悪、老若男女問わず皆同じように身体をバラバラにされているといった始末。

 

 獲物となった者達の関係者はこの事実に深く怯え、何処に潜んでいるとも知れぬ影の殺人鬼に恐怖した。憎悪を抱く者もいたがそれ以上に畏怖の情が勝っていた。

 

 ――――もしかしたら、次は自分かもしれない、という恐怖を胸にしまいながら。

 

 

     ◇

 

 

 とある武家屋敷のような大きな建物の一室にて、一人の男は座布団の上に正座で座っていた。年は大体40代前半と言った所だろうか。長い髪を降ろし、厳格な雰囲気を漂わせるこの男こそがこの屋敷の主であり、そして日向と呼ばれる一族の宗主でもある男だった。その男の名は日向ヒアシと言った。

 

 ヒアシは現在、世界各地で配られるという抜け忍や犯罪者に身を落とした者の手配書を見つめていた。目次の項目にある「S級犯罪者一覧」の項の下にある犯罪者の名前一覧を一通り目を通し、やがて最後のページにある「unknown」の項のページ数に目がつく。

 ヒアシは急いでそのページを開き、そしてその内容を目にした。

 

『名前:unknown

 分類:S級犯罪者

 消息:不明 顔写真:no photos

 犯行詳細:■の国の要人、及びその護衛の忍達を十分割以上に解体(初犯行・予想)/賞金首となっていた抜け忍、■■■を〇の国の小川付近にて解体(予想)/▲の国にて売女を護送中の商売人達、およびその護衛の抜け忍達を売女ごと解体(予想)/……(中略)……任務帰り途中であった霧隠れの追い忍部隊全員を解体(予想)/……(中略)……/■の国の忍部隊を忍頭含めた全員を森の中で解体(予想)……等々』

 

「……シキ」

 

 やがてヒアシはそっと手配書のページを閉じ、心なしか握った拳を震わせながら項目にあった「unknwon」の正体であろう人物の名を呟く。

 悲劇は何時からだったか――――彼が自身の父親である自分の弟を殺めた時からか、あの九尾の事件か、それとも彼が生まれたその瞬間からか――――答えはもうすでに暗闇の中だった。

 分かる事は、予期せぬ事とはいえ、この男を生み出してしまったのは紛れもなく自分たち日向一族である事、それだけだった。

 彼の在り方は一族の中でも異端だった。日向の柔拳の才能は自分の娘や彼の弟には及ばず、しかし“殺し”に関する才だけは稀代の傑作品だった。だがその才能は決して日向一族に歓迎される物ではなかった。

 他の一族の者が柔拳を中心にして戦うのに対し、彼は幼い頃から自身の才能に気付いているかのように“殺人技巧”を極め続け、柔拳や忍術もその一環に過ぎず、更には“殺し”に適した独自の体術までも編み出し、より異端視されるようになった。

 そしてある悲劇を境に、山中一族の心転身の術の助けを借りてようやく発覚した事実――――即ち“チャクラを多く持った人間に対する強烈な殺人衝動”が発覚し、ついに日向宗家は少年の幽閉を決意した。

 

 だが、もはやその幽閉すら意味を為さなくなったのか。

 ある日、よりにもよって自分の娘を浚った雲隠れの忍頭を殺害し、雲隠れが自分の死体を要求してきた、その最悪のタイミングで彼は脱獄した。

 当時、抜け出す事など不可能であった筈の日向の呪印から抜け出し、ヒアシの弟であったヒザシを死闘の末殺害し、忽然と姿を消した。

 

 ――――その時のヒザシの死体が運よく雲隠れに送る「日向ヒアシの影武者」としての役割を果たしてくれたという、皮肉な結果を残して。

 

「……ッ!!」

 

 思い出し、握りしめた拳の握力を更に強め、体を震わす。

 ――――湧いてくる感情はただただ後悔のみ。

 父親の進言により弟の息子を幽閉するだけで向き合うことすら出来ず、そしてその幽閉から抜け出した少年が自分の弟を殺してくれたおかげで、自分は生き残る事ができた。

 その事実が、ヒアシにとってこれ以上にない無力感と後悔を募らせた。ヒザシのもう一人の息子であったネジは宗家が自分の兄に父親を殺すよう仕向けたのだと思い込むようになり、宗家と兄を憎悪し、そして運命に絶望した。

 

 こんな状況ですら何もできない自分などいっそ殺したくなるが、それは逃げに過ぎない。

 生かされてしまったこの命、この手で断つ事は断じて許される事ではない。

 

 今更嘆いた所でもうどうにもならなかった。

 

 故に、自分ができる事は一つ。

 

 

「シキ。お前は……私が葬る……」

 

 

 日向の名にかけてせめて、自分が彼に引導を渡してやるだけだ。

 

 




現在判明している情報
・基本的にシキの顔を見た者は全員獲物としてバラされているため、彼の現在の顔を知るものはおらず、日向宗家の一部の人間が幼い頃の彼を知っているのみ。
・彼の情報は木の葉の中でもシークレット扱いであり、手配書にも名前と出身が記されていない(現在最も多くの人を殺してる犯罪者が木の葉の者であるとばれたらまずいため)
・ある事件を機に、山中一族の協力によってシキの中にある”衝動”が発覚し、幼い頃に幽閉された。


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