死を視る白眼   作:ナスの森

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やっと投稿出来たorz

久々に書く文章なので色々と拙い所があるかもしれませんが、ご了承ください_(._.)_


直死と万華鏡 下

 地面が崩壊する。

 不規則に入り込んで、しかしそれでいて既に定められていたかのように、シキの匕首が刺さった地点を中心に亀裂が走り、それは崩壊してゆく。

 イタチは突如、己の視界が揺らいだ事に気付き、シキを抹殺する筈だった須佐之男の十拳剣は彼の身体を微かに掠る事に留まった。

 

「――――ッ!!」

 

 ――――何が起こった?

 イタチの心情は正にこれに尽きる。

 そして、二人の戦いを傍観していたゼツや鬼鮫もソレは同様だった。

 崩壊範囲はイタチがいる範囲どころではない。

 ゼツや鬼鮫をも巻き込み、見渡す限りの地形が崩れてゆく、否、死んでゆく。

 

 相手の動作は至って単純――――ただ地面に短刀を突き刺しただけ。

 

 たったそれだけの事。

 これだけの惨状を生み出した。

 

 ――――そして、気付いた時には、写輪眼の視界にシキの姿は無かった。

 

 そして、イタチは気付く。

 地形は崩壊し、底なしの奈落へと落下してゆく。

 イタチの周りを取り囲むのは無数の瓦礫と砂埃、そして根を張る足がかりを失い共に落下してゆく木々。

 こうも視界が封じられては写輪眼の機能を十全に発揮する事はできない。

 そして――――周りが落下物の障害物だらけのこの状況。

 

 ――――ここはもう、相手にとって都合のいい蜘蛛の巣だった。

 

 しまった。

 そう悟ると同時、イタチは須佐能乎の維持に使うチャクラを最低限に留め、その際に巨人に纏っていた皮膚と肉は剥がれ、人型の髑髏へと姿を変える。

 写輪眼だけではなく、五感全てを活用し、シキの気配を探る。

 少なくとも彼の動きとこの地の利からして視界にとらえる事はほぼ不可能。

 要求されるのは一寸先の未来視と瞬時の慧眼。

 

 ――――そこか

 

 眼ですら捉えきれぬ、相手にとっては狩場も同然の状況。

 しかし、イタチの須佐能乎が振るう十拳剣は迷いの一点もなくそこを狙う。

 そこには、背後から短刀の矛先をイタチへと向けるシキの姿が。

 本来ならば回避は不可能な程の速度で振るわれるソレを、シキはタイミングを極め空中を蹴り回避する。

 が、イタチの須佐之男は十拳剣を大振りに振るに留まらず、回避された途端その軌道を変え、そのままシキへと襲い掛かる。

 

「ちっ」

 

 あんなガタイを手懐けながらよくもあんな芸達者な動きをさせてくるものだ。

 デカイだけの人型とは違う、正真正銘の絶対者が殻となって敵の抹殺を阻害し、さらにはその殻すらも守る最強の盾と、突きさされたら一貫の終わりの最強の矛を持って攻撃してくる。

 まったく以て厄介な存在である。

 

「く、ははは……!」

 

 それ故に、嗤いが毀れる。

 状況はどちらかと言われればこちらの方が有利なのであろうが、まったくその気にさせてくれないなんて……楽しさを通り越して至福と快感の情すら抱いてしまう。

 ……巨人を展開させこちらを威圧する獲物をその白眼に定める。

 向こうは自分を捉えきれていない筈なのに、恐怖と快感には今にも全身に行き渡り、震え上がらせる。

 

 ――――……そうだ、もっと、忘れさせてくれ。

 

 日向一族のしがらみも、この視界中に映る死でさえも、この恐怖と快感……そして生の実感で埋め尽くしてくれ。

 獲物であるイタチに、まるで初めて会った異性に対して欲情するのに似たような興奮と発情を覚えるシキ。

 死への恐怖すらもそれを「生の実感」という快楽として受け入れ、楽しむその思考はもはや狂人と例えるに相応しかった。

 

 シキはなるべく落下する瓦礫を蹴る形で、須佐能乎の斬撃を避けながら、少しずつ接近する。

 まるで達人のごとく華麗に振るわれる剣の連撃すらも、彼の身体はそれに反応し、イタチの周りを跳びまわる形ではあるがそれでも着実に近づいてゆく。

 姿勢は蜘蛛、早さは疾風。

 気配は悟られるぬ殺気と呼吸を極限まで殺し、そして本来人間ではあり得ないような奇怪な身のこなしで須佐之乎の斬撃を躱してゆく。

 

「……ッ!!」

 

 しかし全てを躱し切るには至らず、所々を掠める。

 ……そして、そのダメージは少しずつ、だが確実に彼の身体を蝕んでいった。

 掠めたとはいえ、須佐之乎の斬撃はただそれだけで術者の体力を根こそぎ奪い取る。

 切れ味以前に凶悪な速度と腕力によって振るわれた斬撃はたとえ掠めただけでもその衝撃が身体に振動し、まともに動けなくなるようなダメージを負う。

 それでもシキが未だに動いていられるのはその体技を成す強靭な肉体と、獲物を殺すまでは何が何でも動き続ける殺しへの執念と、そしてこの体中を迸る殺人衝動のおかげだ。

 

 もはや印を結ぶ暇すら許されない。

 

 そして、余裕がないのはイタチも同じであった。

 須佐之乎を止めて印を結ぶなどと言った隙を少しでも見せれば、足場の不利なこの状況で瞬く間に接近され、須佐之乎の殻ごと殺され、その牙は自分に喉元に到達しかねない。

 おそらくだが、相手はチャクラで練られた物体や術そのものを容易く消してしまうような能力を持っている事は明白だった。

 それがあの白眼の能力であるのかは定かではないが、そうだとしたら須佐之乎の皮膚も容易に貫かれる可能性もある。

 だが、この“十拳剣”と“八咫鏡”なら、まだ分からない。

 だが相手がわざわざソレを消さずに避け続けるという事は、この剣は消せないのかもしれない。

 仮にこちらを油断させる為にわざとそうしているとしても、それをするデメリットの方が大きくなってしまう。

 敵もそんなに馬鹿ではない。

 既に爆水衝波や万華鏡写輪眼、そして多くの術を使い、更にはこれまでの長時間須佐之乎を使用してきたイタチの身体にチャクラはもう少ししか残されていないため、須佐之乎一本でケリを付けるしかない。

 

 つまり

 

 ――――シキがイタチの須佐之乎の十拳剣の連撃に倒れる前にイタチに接近するか。

 

 ――――それともイタチの須佐之乎の十拳剣の連撃が接近される前にシキを殺し切るか。

 

 勝負の分け目はそこだった。

 

 須佐之乎の右の豪腕が振るわれる。

 剣は確かな殺意を持ってシキへと向き、シキはそれを躱す。

 が、剣はすぐに軌道を変え、まるでシキの動きを読むかのように振るわれる。

 一撃一撃が必殺の威力を持つ十拳剣。

 掠るだけでダメージを受け、突きさされた暁には永遠の幻術の世界にその身を引きずり込まれる事になる。

 シキは確実にダメージを受けながらも、確実にイタチへと近づいていく。

 イタチも落下する瓦礫や木々を足場にシキから距離を取ろうとするも、元々の身体能力ではシキに分がある。

 おまけに地の利もシキにあるため、須佐之乎の攻撃からの回避時間を差し引いても確実に距離は詰められている。

 

 ――――だが、それは百も承知。

 

 殺される前に殺し切るのみである。

 

 シキは動く。

 

 イタチも動く。

 

 シキの牙がイタチの喉を掻っ切るか、イタチの十拳剣がシキの身体に裁きを下すか。

 

 蜘蛛は影となり、そして疾風となり、イタチに迫る。

 

 写輪眼に捕らえられるか捉えられないかの境界線を維持しながら、かつて瞬進と言われたうちはの忍びですら成し得ない速度の究極的なメリハリを実現する体技。

 白眼の用途を最大限までに活用する為に独自に編み出し極めてきた蜘蛛の体術。

 そして、敵を殺す為の『眼』。

 敵を殺す為の道具は全て揃っている。

 後はそれら全てを注ぐのみである。

 

 赤色の禍々しいチャクラで具現化された巨人が剣を振るう。

 振るわれる一太刀の連撃は正に刹那の瞬間。

 既に剣そのものを見切る事は適わず、巨人の筋肉の挙動から動きを先読みし、持ち前の瞬発力で回避し続ける。

 

「……ッ、……ッ!!」

 

 しかし、完全に躱した時でさえその斬撃の余波がシキの切り傷を残す。

 掠った時の痛みはこれとは比べ物にならない。

 まともに食らえば即死、そうでなければ奈落の世界へ引き摺り落とされる。

 

 だが、シキは躱す。

 掠り続ける須佐之乎の斬撃を限界すら超えた身体を駆使して躱し続ける。

 かろうじて致命傷に至らない傷を負い続けながら、イタチへ迫ってゆく。

 

 痛い。

 最高に痛かった。

 まるで媚薬を連続で注ぎ込まれるような快楽じみた痛みだった。

 

 発情するように酔った。

 斬撃を注ぎ込まれる度に外傷とは比較にならない衝撃と痛みが、まるでアルコールが染み渡るかのように浸透してゆく。

 

「く、あ、ハハハハ、ハハは覇はは刃破ハ……ッ!!」

 

 ああ、楽しい。

 楽しすぎる。

 断頭台の上でギロチンの刃を突きつけられるような恐怖も、獲物への渇望もひっくるめてそれは快楽へと変わりゆく。

 

 シキは狂ったように、しかしその動きは洗練されたまま須佐之乎の斬撃を全てやり過ごし、そして――――須佐之乎の皮膚へ肉薄する。

 

 最強の矛を躱し切った哀れなる蜘蛛に次に襲い掛かるのは最強の盾。

 

 八咫鏡の名を持つその巨大な円盤状の盾は、絶大な物理防御と忍術に対する耐性を備え、更にはそれ自体が性質変化を成し忍術を無効化する事すら容易な代物。

 大蛇丸ですら探しても見つからなかった、伝説上の霊器。

 そして――――

 

 

 ――――視えない。

 

 

 シキの眼に映るありとあらゆる世界に視える筈の黒い継ぎ接ぎも、それを束ねる点すらも存在しない。

 いや、そもそもこの具象化した奇跡とも言えるような存在に死などあるものか。

 歴史上から姿を消して尚人々の間で長年伝えられている伝説の代物に、存在の“終着点”はあるものか。

 シキが視ようとしているのは。神代から連綿と伝え続けられる〝生きている奇跡〟なのだ。

 ただの霊器や忍具とは神秘の桁が違う。

 

 

 ――――だからどうしたというのだ?

 

 

「いいぜ、視えないのなら……視えるまで見てやるよ」

 

 ……自分にできるのはこれだけなのだから。

 

 脳が加熱する。

 まるで熱湯を直接頭蓋に注がれるような強烈な痛みが迸り、全身を蝕む感覚に襲われる。

 だが、止まるものか。

 あの盾に接触する前になんとか“死”を理解しなければ、待つのは死のみ。

 ならばそれでも構わない。

 

 ――――全身のチャクラを白眼へと注ぎ込む。

 

 ――――視界が赤く染まる。

 

 ――――頭蓋を万力で締め付けるような頭痛。

 

 ――――内臓を吐き出してしまいそうな吐き気。

 

 それらは脳の警鐘だ。

 進めば崩壊するぞ、と脳髄そのものがシキに訴えるのだ。

 

 ――――知った事か。

 

 シキはそれをさも当然であるかのように刎ね除ける。

 

 まだだ。

 まだ視えない。

 

 ――――くく。ああ、痛い。痛い痛い。痛い痛い痛い痛いイタイイタイいたいいたいいたいいたい――――!

 

 まだだ。

 まだ、視えないのなら――――

 

 

 

 

 ――――脳髄が溶けてしまうまで、アレの死を視るのみ。

 

 

     ◇

 

 

「――――」

 

 イタチは眼を見開き、声にでない驚愕を表した。

 

(八咫鏡が、砕かれただと!!?)

 

 いや、砕かれたのではない。

 消滅した。

 まるで存在すら抹消されたかのように、存在すら許されないが如く。

 如何なる状況でも冷静さを失わないイタチでさえ、冷静さを失わずにはいられなかった。

 イタチは思う。

 

 ――――何だこれは。

 

 敵は何をした。

 ただ変哲もないただチャクラを纏えるだけの短刀を、八咫鏡へ突きつけただけ。

 なのに、どうしてここまでこの盾を完膚なきまでに消せる。

 

 先ほど、自分が敵にこの盾を突き出した時、敵は成す術もなく跳ね返された筈だ。

 いくら触れたチャクラを消す能力を持っていようと、そこまでは出来ないのだと思っていた。

 なのに、今回は完膚なきまでに破壊された。

 

 在り得ない、在り得ない、在り得ない。

 

 ――――まるで死神ではなかろうか。

 

 一体どんな手品を使っているのか、イタチはそう思い、写輪眼の視界の中心をシキに置こうとする。

 が、遅い。

 イタチのほんの僅かな心の動揺、刹那の気の揺れ。

 それは、シキにとっては十分すぎる隙だった。

 

 ――――風遁・八卦空掌

 

 掌底からチャクラの真空の衝撃波を放ち、敵を吹き飛ばす遠距離攻撃技の『八卦空掌』に風の性質変化を付け加え、柔拳の持ち味である経絡系への直接攻撃をなくす代わりに威力そのものと衝撃波の速度を格段に上げた柔拳技。

 

 無論、それでも須佐能乎の殻を貫通するには程遠い威力だった。

 

 ――――しかし、その風の衝撃波は

 

 ――――イタチの須佐能乎の身体に走る、死の点を貫き

 

 ――――須佐能乎を消され、丸裸となったイタチの身体に直撃した。

 

 

「――――ッ!!?」

 

(八咫鏡に続いて、須佐之乎まで――――!?)

 

 風の衝撃をモロに食らったイタチはそのまま足場から吹き飛ばされ、単身で落下してゆく。

 だが、イタチはまだ諦めてなどいない。

 イタチは確信した。

 

(間違いない……奴は、ありとあらゆる存在を、殺せる!!)

 

 どういう原理かは分からない。

 先は何故八咫鏡を相手が殺してこなかったのかは疑問であるが、少なくとも今は出来たのだ。

 そう……イタチはもう二度と八咫鏡を使えなくなった。

 例え須佐能乎を再び発現させようにも八咫鏡はもう戻ってはこまい。

 そもそもアレはイタチの須佐能乎本来の武装ではない。

 大蛇丸がこれ以上力を得ないようにイタチが先回りして手に入れた、本来の武装よりも遥かに強力な代物に過ぎなかった。

 

(須佐能乎はまだ……、……ッ!!?)

 

 須佐能乎を再び展開しようとしたその時、それより早くイタチの身体に投擲用の針が複数迫ってきた。

 

 ――――その針の先端に、微量のチャクラが纏われているのを、イタチの写輪眼が捉えた。

 

 数は10本以上。

 通常では致命傷にすらならないような箇所を目がけて、イタチへと迫ってくる。

 

「――――ッ!!」

 

 駄目だ。

 これでは須佐能乎を出すよりも早く、あの針が自分に命中してしまう。

 的確に狙われて投擲された針は、同じ暁のメンバーが操る傀儡が放つそれよりも遥かに速く、印を結ぶ暇すら与えてくれない。

 しかも須佐能乎を使用した反動と、先のダメージのおかげでまともに動けそうもない。

 更には針の一本一本が皆同じタイミングで投擲されている。

 全てを弾くことはできそうにない。

 

 ――――イタチは、針を苦無で数本だけ弾き、残る針全てを身体に受けた。

 

「……ッ!!」

 

 今度は針を投擲した張本人であるシキが驚く番だった。

 

(ははは、一体どんな勘をしてやがるんだか……)

 

 針を弾いた事自体には驚かない。

 いや、あの状態で尚、針を数本弾く事には確かに驚きだが、何より――――

 

 ――――自分の死に向かってくる針のみを弾く(・・・・・・・・・・・・・・・・・)など、誰が想像できようか。

 

 態々分かりにくくするために全ての針にチャクラを纏わせたというのに、それすら通じないというのか、この忍は。

 だが……

 

(身体が……動かん!!)

 

 そして、イタチの身体に異常が起こる。

 身動きは出来ず、先ほどのように針を数本を弾くような動作すらできない。

 そして――――須佐能乎を出せない。

 否、須佐能乎を出す為のチャクラを練れない。

 イタチはそこでハッとなり、先ほど自分の身体の所々に突き刺さった針に一瞥する。

 

「まさか……」

 

「点穴を突くは、柔拳だけじゃあない」

 

 針が刺さった箇所――――そこは、イタチの経絡系上にある点穴。

 針が対象の身体にある点穴に刺さったと同時、相手のチャクラの流れ、および技を封じると同時に、針の先端に纏ったチャクラが経絡系そのものにダメージを与える。

 ここまでしてくるか、とイタチは心の中で悪態を付く。

 動く相手に、しかも経絡系の中でも狙いづらい点穴を、こうも正確に飛び道具で射抜くなど……果たして他の日向一族が思いつく事であろうか。

 いや、例え思いついた所で、それを実行できるのが目の前の男以外に誰がいようか。

 

「――――極彩と散れ」

 

 点穴を刺され、まともに身動きが出来なくなったイタチを確認したシキは、空中に固めたチャクラの足場を蹴り、一気に奈落へ落下しようとするイタチへ肉薄する。

 一瞬にしてイタチの懐まで接近。

 ――――一度針で狙ったしまった箇所の『死』は再度弾かれる可能性が高い。例え相手が身動きできない状況であろうと、それは避けるべきだ。ゆえに――――

 

 ――――線という線をなぞり、十七個の肉片に分割する。

 

 刹那の瞬間に殺し方のビジョンを思い浮かべたシキは、再び鞘から匕首を抜き、それを実行しようとして――――

 

「まだ…だ……」

 

 まだわずかに動くイタチの身体――――暁の衣の中から、一本の巻物が飛び出し、展開される。

 今更そのような物で何を、と思ったシキだが念の為にその巻物を殺そうとして――――イタチの写輪眼が三枚刃の手裏剣模様の物になっているのが眼に入った。

 

「――――ッ!!?」

 

 ナニカを悟ったかのように眼を見開くシキ。

 そしてシキの匕首が巻物の死に到達する前に――――それは発動した。

 

 ――――天照。

 

 巻物に黒炎が着火される。

 そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――火遁の渦が二人を巻き込み、二人はそのまま崩れゆく地表や木々と共に暗闇へと落下していった。

 

 

     ◇

 

 

「ぐ……ぅ……」

 

 身動きすらままならない身体を必死に起こす。

 イタチの身体は既にボロボロだった。

 度重なるチャクラ消費の激しい術の使用、加えて須佐能乎の使用により全身の細胞がとてつもない痛みに襲われ、更に点穴を五か所、針で刺されている。

 八か所でないのがせめてもの救いであろうか。

 そして、最後の爆発が何よりの痛手だった。

 敵を道ずれにするために火遁の術式を施した巻き物に天照の黒炎で着火し、敵もろとも自分を爆発に巻き込んだ。

 更にはその際の天照の発動のチャクラ消費が彼の身体に更なる負担を強いた。

 ただでさえ五門の点穴を突かれた状態で万華鏡写輪眼の力を使えばどうなるか、想像は容易い。

 

 だが……それだけでは済まさず。

 

「グ……ハ…ァ、ゴホッ、ゴホッ!!」

 

 口から鮮明な赤い液体が吐かれる。

 咄嗟に口を押えるイタチだが、すぐに赤い液体は掌から漏れ、地面に垂れてしまう。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 口に零れた己の血を一瞥し、イタチは当たりを見回す。

 ……そこは地獄絵図だった。

 大量の木々があたかも散らかった玩具部屋みたいに当たり一面に転倒しており、それが見渡すのも億劫なくらいに広がっていた。

 木や土からは既に自然の生気というものがとうに失われており、自然エネルギーすらもその活気を見せなかった。

 

「……」

 

(奴は……これほどの、惨状を、短刀一本で作り上げたというのか……)

 

 自分の忍術や八咫鏡に飽き足らず、世界すらも殺してしまう彼の力にイタチは心の底から震えを感じ取る。

 武者震い……自分は初めて、勝てるかどうか分からない敵と出会った。

 

 ……さっきよりかは、身体が動くようになってきた。

 

 イタチはかろうじて動く右手で自分の肩に刺さっている針を抜き取る。

 点穴に刺さっていたソレは、抜き取るだけで痛みが走った。

 イタチは抜き取った針を凝視し、そして気付いた。

 

(これは……ただの針ではなく……毒針!)

 

 ――――なるほど、どうりで身動きが取れなくなる筈だ。

 それも点穴に差したとなればそれだけで致命的となる。

 ……白眼の用途をこれまで最大限に引き出す忍びが、他にいようか。

 イタチは改めてシキという男の恐ろしさを実感した。

 

 ――――”お前が味わう痛みに比べれば、我らの痛みは一瞬で終わる”

 

 不意に、脳裏にそんな言葉が過った。

 

 そうだ、これしきの痛みなども百も承知の筈だ。

 イタチは最後の力を振り絞り、身体を動かす。

 

(サスケ……)

 

 唯一の肉親である弟の顔を思い浮かべ、全ての針を抜き終わったイタチは、ボロボロの身体を立ち上がらせ、その眼を標的に向けた。

 

 

 

「ガ……ぁ……」

 

 身動きすらままならない身体を必死に起こす。

 シキの身体は既にボロボロだった。

 幾たびなる須佐能乎の攻撃をやり過ごし、それでも少しずつ入ったダメージが身体を蝕む。

 そして――――『死』を視過ぎた。

 この直死の眼は使用の度に、所有者の脳に負担をかける。

 自分と同じ生き物の死を視るならばいざ知らず、鉱物の死、果てには忍術という概念の死。

 ここまではまだいい。

 極め付けは、あの八咫鏡の死を理解した為だろう。

 ……本来は日向一族の血筋に備わっていない筈の機能を後天的に宿したこの白眼は、生まれ以ての能力ではないこの力は、人の身には過ぎた物。

 それこそ不老不死にでもならない限りはとてもではないが使っていられないだろう。

 

「……ったく、……まさ…か、黒炎で……火遁の巻物に……着火させるなんて、な……ぁ」

 

 無茶しやがる、と悪態を付く。

 全身からチャクラを放出する事で爆発ダメージ自体は軽減できたが、その前から満身創痍であったこの身。

 元より、あの攻撃に全てを掛けていた自分にとって、あの爆発は致命的な痛手だ。

 

「ぐぅ……ああぁ……」

 

 ――――痛い。

 頭が今までにないくらいズキズキする。

 普段は単なる頭痛で済んだというのに、今回は殺す物の格が違いすぎた。

 循環する血流すらこの頭痛を刺激する。

 まるでに脳が今にも死にそうな悲鳴を上げている。

 視界は赤くかすみ、目からは血の涙が溢れ出ていた。

 痛い、いたい、イタイ。

 脳は今にも死にそうだと訴えかけているのに――――

 

 ――――コロセ

 

 なのに、体中の血流は未だに疼き

 

 ――――コロセ

 

 まるで死に掛けの脳の警告にすら無視するように神経が決起し

 

 ――――アレハイテハイケナイモノ

 

 黙れ

 

 ――――脳ハ正常カ? ナラバアノ男ヲ殺ス事ダケ考エロ。五体ハ満足カ? ナラバ動ク限リ、殺シ尽くセ。意識ヲコノ衝動ニ委ネテ行動シロ。コノ血ノ波動ニカケテ、アレヲコノ場デ破壊シロ!

 

「言われずとも、分かっているさ」

 

 そうだ、自分はただ殺すだけ。

 所詮人殺し、それ以外の何者にもなれはしない。

 それこそ生まれ変わりでもしない限り、自分は人殺しのままだ。

 ……最高の獲物を仕留められるというのであれば、餓鬼にすら、堕ちてみせようではないか。

 

 己の存在意義を確かめ、ボロボロの身体を立ち上がらせたシキは、獲物へと視線を向けた。

 

 

 

 両者の眼が合う。

 イタチの写輪眼は既に閉じられ、シキの白眼もまた閉じられている。

 イタチに写輪眼にチャクラを回してる程の余裕はもうない。

 既に脳が壊れ切る寸前のシキに死を視ている余裕はない。

 

 ――――この一撃で、決着が決まる。

 

 シキは歩きだす。

 イタチも歩き出す。

 互いに力の抜けた死人のような動作で近づいていく。

 ……が、徐々にその速さは増してゆく。

 

 ――――そして、両者は一気に疾走した。

 

 イタチは腰を極限まで低くし、苦無を構えながらシキへ肉薄する。

 シキもまた匕首を構え、四肢を地面に着き極限の前傾姿勢を維持しながら、まるで獣の俊敏さを得た蜘蛛の如くイタチに迫る

 既に互いの得物が届く範囲まで迫る。

 

 そして――――

 

 

 

「そこまでです」

 

 

 

 シキの背後にナニカが触れた。

 

「「――――ッ!!?」」

 

 そのナニカにシキは咄嗟に動きを止められ。

 イタチもその声を聞いてい咄嗟に立ち止まった。

 

(身体が……動かない)

 

 まるで金縛りにでもあったかのようにシキの身体はイタチの首に匕首を寸止めしたまま、微動だにしなかった。

 やがて得物を持つことすら耐えられなくなったのか、匕首を持っていた右腕が痙攣するように震えた後――――力なく、愛用の匕首を手放してしまい、そのまま地面に突き刺さった。

 

「私の大刀・鮫肌は触れた物全てのチャクラを吸い取る食いしん坊でしてねえ……。その身体でチャクラを奪われればどうなるか……お分かりでしょう、お兄さん?」

 

「ク、ハ、ハ……せっかく……最高の殺し合いを楽しんでたの……に、このタイミングで横槍かよ……」

 

 武器を落としたシキは、まるで力尽きたように膝を着き崩れ落ちる。

 もはや四肢を動かすことすらままならず、目から流れ出る血の涙すら枯れようとしていた。

 

「生憎我々の任務は貴方を殺す事ではなく貴方を暁に勧誘する事でしてねえ……、少々派手な勧誘になってしまいましたが、なんとか貴方をアジトへ連れて行けそうです」

 

 鮫肌の刀身をシキの背中に密着させながら、鬼鮫は嫌らしい笑みを浮かべてシキをからかうように囀る。

 

「ハッ、あんた……俺が一番嫌いなタイプだよ……。口先……だけを、宣……う奴の方が……まだ、好感が持て……ぅ」

 

 心底憎々しそうな表情で鬼鮫を睨んだ後、シキはそのまま力なく倒れた。

 

 

 

 




これはひどい……なんつーごり押しだ。

互いのダメージの五割くらいは己の瞳術による負担とかこれもう分かんねえなあ……

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