目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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今回初登場の人物。

雪ノ下雪乃
別に初登場ではないが、紹介してなかったからここでする。
原作通りの完璧主義者であるが、よくよく考えると穴だらけな理論を振りかざすどことなく噛ませっぽい雰囲気のある少々残念な人。自分は正しいが、世界は正しくない。だから人ごと変えるというぶっ飛んだ考えを持っているが八幡に軽く論破されてしまった。そのうち現実を思い知るかもしれない。なお、本人は論破されたとは微塵も思っておらず、寧ろこれから自分の考えの正しさを見せつけてやると意気込んでたりする冷血にして毒舌にして絶壁の氷の女王。一応言っておくが別に作者はゆきのん嫌いとかではない。

由比ヶ浜結衣
アホの子。なぜ進学校に入れたのか疑問に思わずにはいられないほどアホ。ぶっちゃけ米屋レベルでアホなのではないかと疑われている。恐らく頭いい小学生よりアホだと八幡に思われている。アホ過ぎて自分がアホである自覚がないどころか八幡をアホだと思うくらいアホ。そして食材から汚物を作り出すという加古さんと似たような特技を持ち合わせているが別にマイウェイをマイペースでモデルウォークで歩いたりはしない。八幡にビッチだと思われてる。

平塚静
独身暴力教師。結婚できない腹いせに八幡を事あるごとに殴ろうとするがそのうち反撃にあうことを知らない。生身の戦闘力は多分ゾエさんくらいある。太れる獅子と同レベルの戦闘力と引き換えに結婚する機会を失った。少年漫画が大好きで八幡を入部させたのも少年漫画的展開を期待して入部させた可能性がある。

知らぬ間にランキングに乗りました。しかも3位…。読んで下さる方々、ありがとうございます。


5話 なぜか、世の中には人外のモノを生成する人がいる。

その日の学校もつつがなくすぎる。おれはクラスではぼっちであるため特筆することは何もない。…何もないってのはちょっと悲しい。

とはいっても横山とか綾辻とか宇佐美とか奈良坂はD組(特進クラス)だし三上はE組だ。他のボーダー隊員は学年が違う。荒船さんとか三年だし歌川は一年だ。菊地原?あいつはやけにおれのことライバル的扱いするから知らん。それに偉そうだし。

授業も終わり夜から防衛任務があるため今日も作戦室で勉強してから任務につこうと思いながら教室を出て行く。

 

歩き出そうとすると後ろから声をかけられる。

 

「待ちたまえ比企谷。君は部員である以上部活にでるべきであろう」

 

「…平塚先生、おれは入るなんて一言も言ってませんよ?」

 

昨日も同じこといったよおれ。てかなんかデジャヴっぽいな。もしかしてイザナミにかかっているのかおれは⁈

 

「そんなことは知らん。私はなんとしても君を奉仕部にいれる気でいるのだからな」

 

「嫌ですよ面倒くさい。なんでそんなことせにゃならんのですか」

 

「それが君のためだと思っているからだ」

 

「迷惑です。やめてください」

 

正直本当に迷惑だ。金にならない人助けよりも金になる人助けの方がよっぽどいい。

 

「そうもいかない。それに私は既に雪ノ下に君の人格矯正を依頼しているのだからな」

 

「んなことおれは知りませんよ。それにおれよりあいつの性格の方を矯正したほうがいいと思いますよ」

 

あのすぐ人を見下し罵倒する癖は本気でなおしたほうがいいと八幡思うな!

 

「これは君のためでもあるのだ。何度も言うが君の性格は社会に出て困るぞ」

 

「既に社会に出てる人間に言うことじゃないですよねそれ」

 

「正確にはまだ出てないだろう」

 

「あーもうわかりましたよ行きゃいんでしょ行きゃ」

 

正直これ以上は無駄だ。ここで捕まった時点でおれの未来は多分決定してたのだろう。次からはステルス全開でさっさと帰ろう。

 

「うむ、よろしい。では行きたまえ」

 

ここでバックれたら後が面倒だな。

 

 

「あら、来たのね。監獄に入れられてもう来ないかと思ったわ」

 

「その監獄に入れられたというのはおれのことか」

 

「他に誰がいるの?」

 

初っ端からいちいちうぜぇなこいつ…。

後ろに積み上げられている長机の一つを組み立てて自分の前に置く。長机はそこそこの長さがあるので向こう側にいる雪ノ下の方までいった。

依頼人が来るまで部活はないらしい。それまで暇だから勉強でもしていようとおれの苦手な数学の問題集を引っ張りだす。

 

「昨日…」

 

「あ?」

 

急に声かけてくるとは、どういう心の変化だ?

 

「昨日、あなたに言われて私が人助けをすることと世界を変えることにおいて何が足りないのか考えてみたの」

 

「そうか。で?だからなに?」

 

「どう考えても私に足りないものが何なのかわからなかったわ。今の私でも充分だと思うのだけれど」

 

「そうかよ、やっぱお前なにもわかってないしおれの話なにも聞いてなかったのな」

 

「聞いていたわ。それでもわからなかったの」

 

「数の力が世の中で最も強い。一人でできることなんてたかが知れてるってことだよ。わかんないの?」

 

「例え数の力が一番強いとしても私はその力に埋もれたりしない。私はそうやって妥協していろんなことを諦観して弱さを認めているようなあなたの考え方、嫌いだわ」

 

「そうか、おれは弱さを認めようとせず自らの非力さ無力さから目をそらし現実をろくに見ようとしないお前の考え方が滑稽で仕方ないけどな。そんなんだといつかお前破綻するぞ」

 

「弱さを認めて腐るよりはよほどマシだと思うのだけれど?」

 

「世の中正しけりゃいいってもんじゃないしそんな甘くない。お前の考え方はただの我儘だ。どこまでいっても実現なんてしやしない」

 

そう、それがおれの思ったことだ。雪ノ下は雪ノ下なりにいろいろ考えたのだろうけどそれでも今の凝り固まった考え方ではいつか破滅する。それにおれはボーダーで自らの弱さや非力さ無力さを認めずして強くなることはできないと二宮さんから教わった。その無力さをどうすれば改善できるか、それが最も重要なのだと。あの二宮さんも自分を高めるために出水に頭下げて弟子入りしたらしい。そして弱さを認めてグダグダ腐るより自らの力を過信しただ正しいから、という理由で突っ走り続けることは愚の骨頂だと言っていた。

腐るだけなら破滅もしないが過信は破滅を招く。どちらがいいかは火を見るより明らかだ。

まぁこいつが破滅しようがどうしようがおれには関係ない。どうにでもなれ。これ以上は言うつもりはない。

それから少しの間おれは勉強に勤しみ雪ノ下は本を読んでいた。そこでドアを叩く音が聞こえてきた。

 

「どうぞ」

 

雪ノ下の声に反応し扉が開く。

 

「し、失礼しまーす…」

 

入ってきたのは髪を染めて制服を着崩した女子生徒だった。

 

「平塚先生に言われてきたんですけど…。て、なんでヒッキーがいんの?」

 

「まずヒッキーが誰だよ」

 

なんだよヒッキーって。引きこもりみたいじゃねぇか。というかそれ以前にこいつ誰?

だが何となくどこかで見た気がする。既視感、というのだろうか。

 

「2年F組由比ヶ浜結衣さんね」

 

「あ、あたしのこと知ってたんだ」

 

2年F組って、同じクラスかよ。クラスで見た記憶は、無い気がするのだが。

 

「それで、どういった内容でここに来たのかしら?」

 

「あ、ああいや、その、手作りクッキーを…」

 

そう言いながら量産型女子生徒はおれの方をチラチラ見てくる。なに、おれなんかした?

 

「比企谷くん」

 

そういうと雪ノ下は首を振っておれに外に出ろと命令する。せめて言葉を使え。

 

「…なんか飲み物買ってくるわ」

 

「私は野菜生活100いちごヨーグルトミックスでいいわ」

 

「お前なんかに奢るとでも思ったか?お前ごときのためにおれの金は使わんぞ」

 

奢る気なんぞ微塵も無い。なんでんなことせにゃならんのだ。

 

「なら早く出て行って。依頼内容が聞けないわ」

 

「へいへい」

 

できることなら二度と帰ってきたくないが。

 

 

「手作りクッキーねぇ」

 

内容は手作りクッキーを食べて欲しい人がいるが、料理に自信がないから手伝って欲しいとのことだった。

 

「クッキーは作ったことねぇな」

 

料理なら小町と交代交代で作っている。毎日でないにしろそれなりに作っているからそこそこの腕はあるがお菓子は一切経験がない。

 

「もとよりあなたのような存在に期待はしていないわ。やるのは味見だけで充分よ」

 

「お前その直ぐ人のこと罵倒すんのやめろ」

 

「ごめんなさい。あなたのような人は直ぐ罵倒したくなってしまうの」

 

このクソアマ。そんなんだから敵しか作れないんだよ。

 

「…なんか、楽しそうな部活だね!」

 

今のやりとりのどこに楽しそうという要素があったのか甚だ疑問だ。

 

「それにヒッキーよく喋るね」

 

おれは喋れないとでも思われていたのだろうか。

 

「ああいや、ヒッキーいつもクラスでは一人だし、きょどり方キモいし」

 

なぜ知らない奴にキモい呼ばわりされなくてはならないんだ。

 

「もういいかしら、依頼内容もわかったから直ぐやりましょう」

 

そういうと雪ノ下はさっさと出て行ってしまった。由比ヶ浜もそれに続く。しょうがないからおれも部室を出て行く。

しかしどっかで見た気がするのだが…。まぁいいか。

 

 

家庭科室は直ぐ使用許可が下りた。材料は家庭科室にあるのを使っていいらしい。買い出しがなくてよかった。余計な手間と出費が省けるからな。

 

雪ノ下は器具の準備、おれと由比ヶ浜は材料の準備に取り掛かる。だがこの行為が始まる前からおれのサイドエフェクトが何か警告を発している。俗に言う嫌な予感だ。この依頼においておれの身になにか悪いことが降りかかる気がしてならない。

しかしなんだこの得体の知れない胸騒ぎは。加古さんチャーハンの時と似ているのが気がかりでならない。

とりあえず材料を用意する。のだがなぜか由比ヶ浜は桃缶を持っている。なぜに?

 

「由比ヶ浜、桃缶はいらんぞ?」

 

「え?でも隠し味とかあった方がいいじゃん」

 

「素人が隠し味とか言ってんなよ。失敗して終わるだけだ。戻せ」

 

「…はーい」

 

これは本気でマズいかもしれない。

 

 

できたクッキーは、いやこれクッキーか?ホムセンでうってる木炭みたいになってんだけど…。

 

料理過程を見ていたのだが、これがいろいろ突っ込みどころ満載だ。

まず溶き卵。卵を鬼気迫る勢いでヒビをいれ、もはや握り潰すレベルで割っている。そんなことすれば当然殻が一緒に入る。入るだけならまだしもなぜそれを取り除こうとしない。

小麦粉。ダマだらけ。卵と全く混ざってない。

バター。なぜ固形のままでいけると思った。

そしてその状態の生地(?)のもとを牛乳が飲み込む。

先ほどおれは隠し味なんぞに手を出すなと言ったのに隠し味にといれたインスタントコーヒー。明らかに量が多すぎる。どんだけ隠し味いれたいんだよ。この量となると隠す方が難しい。

それを中和するためにといれた砂糖。用意してないはずなのに塩になってる。どこから持ってきた。

ここまで来たら失敗は既に決まっているというのに意気揚々とクッキー(?)の生地ならぬ死地をオーブンに入れる由比ヶ浜。オーブンの設定は雪ノ下がやっていたから焦げるような温度と長さではやっていないはずだ。なのになぜこうなった。

 

「な、なんで?」

 

「逆にこの料理過程でまともなクッキーができると思ったのか?」

 

「え⁉︎なんかダメだった⁉︎」

 

ダメでないとこをさがす方が至難の技だ。もはやダメなとこしかないまである。

 

「由比ヶ浜、いくつか質問しよう。まずなぜ溶き卵に殻が入ったままでいけると思った」

 

「え?焼けば溶けるんじゃないの?」

 

溶けるわけないだろ

 

「小麦粉はなぜ混ざってない状態でいるんだ」

 

「え?混ざってなかった?」

 

混ざってないどころの話ではない

 

「バターはなぜ固形のままにしたんだ」

 

「あれ?溶けてなかった?」

 

「インスタントコーヒーいれたとこはまだいい。なぜ量を測らずいれたんだ」

 

「いけると思ったから?」

 

「塩と砂糖を間違えてるのだが。あとおれは塩を用意した覚えはないぞ」

 

「ヒッキーどうせ砂糖忘れてると思ったから」

 

喧嘩うってんのかこいつ

しかしこれでわかった。由比ヶ浜は料理スキル以前に常識が欠如している。こんな過程でまともなものができるはずない。加古さんだってこんなクソみたいな料理過程しないぞ。

 

「…まぁでも見た目はアレだけど、食べてみないとわからないよね!」

 

「そうね、味見をお願いするわ」

 

「これする必要ある?」

 

おれのサイドエフェクトで感じた嫌な予感はこれのことだったのだろう。確かに加古さんチャーハンと似たようなジャンルだ。全くありがたくないけど。むしろ勘弁してほしい。

だが味見役である以上食べないわけにはいかない。黒い何かを一つ手に取る。

覚悟を決め、黒い何かを口に運ぶ。

口に広がるのは焦げ味とコーヒーの苦味がさらに悪くなったような味、そして他には形容し難い混沌とした味だ。しかも食感、舌触りも最悪。そこで硬い何かを噛む。取り出すと卵の殻だった。

普通これを常人が食べたら最悪卒倒する。

だがおれは加古さんチャーハンのおかげというかせいというか、とりあえず無事に食べることはできた。おれは鯖味噌ブルーベリーチャーハン食わされ一度死んでるからな!ダークマターなんぞ怖くないぜ!…いや怖いな。

ちなみに雪ノ下も食べているが本気で顔面蒼白になってきてる。そのあたりでやめとけ。本当に死ぬぞ。

とりあえず感想を言っておこう。

 

「マズい」

 

「ひどい!」

 

ひどいのはお前の脳みその出来の悪さだ。

 

「じゃあどうすればよくなるか考えましょう」

 

「由比ヶ浜が二度と料理しないこと」

 

「全否定された⁉︎」

 

「比企谷くん、それは最終手段よ」

 

「それで解決しちゃうの⁉︎」

 

「じゃあもう少し簡単なものから作ってみましょうか。スクランブルエッグとか」

 

「お菓子じゃないよ⁉︎」

 

「雪ノ下、卵を割ることもまともにできないやつにはムリだろ。そもそも常識が欠如してんだから」

 

「酷い⁉︎」

 

黒い何かをとりあえず完食。おれはいいが由比ヶ浜は涙目になり雪ノ下にいたってはもともと白い肌がさらに白く、というかもはや死体と疑うレベルで白かった。

それからあれこれネタも交えていろいろ案を出したが結局どうにもならなかった。

 

「…やっぱあたし料理向いてないのかな。才能?とかそういうのないし」

 

「解決法は努力あるのみよ。由比ヶ浜さん、才能がないと言ったけど最低限の努力をしない人間は成功した者の才能を羨む資格はないわ。成功しない者は成功した者の努力を想像し実感することができないから成功しないのよ」

 

「で、でもさ、最近みんなやんないって言うし、きっとあたしには向いてないんだよ…。へへ…」

 

弱々しく由比ヶ浜は笑うが雪ノ下はそれに苛立たしげに器具を置く。

 

「その周りに合わせようとするのやめてくれる?酷く不愉快だわ。自分の無様さ愚かさ不器用さの遠因を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?」

 

「い、いやーそれでもさ、人には向き不向きあるし…」

 

「向いてる向いてないだのほざく前に少しは手ェ動かせ。そんな戯言垂れ流してる余裕あんなら少しはどうにかできないかその残念な脳みそを少しでも回して足掻いてみせろ。向き不向きうんぬんは置いといてもお前の気まぐれに付き合う義理はない。やるならやる。やらないならやらないでハッキリしろ。時間の無駄だ」

 

「…その腐り目に合わせるのは癪だけど、その通りよ。あなたも少しは手を動かしなさい」

 

そこまで言われると由比ヶ浜は黙って俯いてしまう。少々きつい言葉ではあったが、これくらい言わせてもらわないと割に合わない。

 

「か、かっこいい…」

 

「「は?」」

 

素っ頓狂な声がユニゾンする。何言ってんのこいつ。頭、は悪いんだよな…。

 

「建て前とかそういうの全く言わないんだ。なんか、そういうのかっこいい」

 

「話聞いてたかしらこの子は。これでもかなりきついこと言ったのだけれど」

 

「そういうタイプの新手の変態か?」

 

ボーダーにもその手の変態はいなかったぞ。しかしおれが陰で弾バカ変態機動と言われてるのは解せぬ。

 

「ちょ、違うし!その、あたし今まで人に合わせてばっかだったから、そういうの今までなかったの。

ごめん、次はちゃんとやる」

 

先ほどとは打って変わって決意した表情を由比ヶ浜は見せる。

 

「作り方、教えてやれよ。そもそも作り方もろくにわかってないようだし」

 

多分こいつは作り方以前の問題であると思うけど。

 

「一度お手本見せるから、その通り作ってみて」

 

「…うん!」

 

 

できたクッキーは先ほどの黒い何かとは打って変わっていい匂いがしていた。一つ手に取り口に運ぶと由比ヶ浜は目を輝かせおれは目を見開く。

 

「おいしい!すごくおいしいよ雪ノ下さん!」

 

「うまいな」

 

「ありがとう。でもこれはレシピ通りに作っただけだから由比ヶ浜さんでもできるはずよ」

 

「…あたしでもできるかな?」

 

「一緒にやるから大丈夫よ」

 

「…!うん!よし、やるぞー!」

 

意気揚々と再びクッキー作りが開始されるがおれの嫌な予感はさっきよりマシとはいえ消えてない。なぜだ。

 

「由比ヶ浜さん、卵は片手で割れた方が見た目はいいけど素人なんだしやめましょ?それにそんな勢いで叩きつけたら中身がでるわ」

 

「由比ヶ浜さん、小麦粉は円を描くように振るうの。円よ、円。わかる?いやそうじゃないの。それ直線だから」

 

「由比ヶ浜さん、ボウルを抑えないと。ボウルごと回転してるから全然混ざってないわ」

 

「いいの、バターはもう柔らかくなってるの。湯煎とかいいから」

 

あの雪ノ下が、あの雪ノ下が狼狽えてる。ぶっちゃけそれ程まで由比ヶ浜の頭が残念ということだ。というかさっき雪ノ下が作ったの見てなかったの?バカなの?…バカだな。

雪ノ下がすがるような視線を向けてくる。さすがに見てるのが居たたまれなくなったので教えるのに加勢する。

 

「いや、その道具は使わないから。というかそれどこから持ってきたんだよ」

 

「由比ヶ浜さん、隠し味はまた今度にしましょう。というかなんで隠し味に桃缶なの?なんで生物なの?というかそれ戻してこいと比企谷くんが言ってたわよね。なんで、もってきたのよ」

 

「違う、そうじゃない。さっき言ったろ?話聞いてた?」

 

「由比ヶ浜さん、それは塩よ。さっきも同じ間違いしたわよね?バカなの?」

 

「由比ヶ浜、キレていいか?」

 

「あなたふざけてるの?」

 

おかしい。クッキーはそこまで難しいレシピではなかったはずだ。なのになぜこんなにも教えるのに苦労するんだ。

由比ヶ浜以外は全員疲労困憊になり漸くクッキーが完成。出てきたものは、見た目はちゃんとしたクッキーだったが雪ノ下のクッキーとはどこか違う。

 

「雪ノ下さんのとどこか違う…」

 

「どうすれば伝わるんだ…」

 

ここまでくるともはや笑いがこみあげてくるから不思議だ。多分諦めからくる笑いだろうが。

 

「同じレベルまで上げるのは今日だけじゃ時間足りないだろ。ここまで来たらもういいんじゃないか?」

 

妥協案ではあるが、本当に今日だけでは時間が足りない。というか無限にあってもダメな気がする。由比ヶ浜も思うところがあるの不満気ながらなにも言わない。

 

「どういう理由でクッキー渡したいのかは知らんが食えるならそれでいいだろ。さっきのは本気で嫌がらせかと思ったけど今回のは普通に食えるし。それに相手が誰か知らんが男子なら手作りというだけで満足するぞ」

 

「比企谷くん、どういうことかしら?」

 

「このクッキーは間違いなく由比ヶ浜の努力の結晶だ。これは自分が作りましたと言って渡せば男心なんて簡単に揺れるぞ。多分」

 

「そ、それって…」

 

由比ヶ浜がもじもじしながら聞いてくる。

 

「ヒッキーも、揺れんの?」

 

「揺れない」

 

由比ヶ浜がガクッと肩を落とす。雪ノ下も呆れたような表情。

そういうのは一応貰ったことはあるが義理だとわかっててなにをときめくんだよ。バレンタインとかに綾辻とか国近さんとか他にもいろいろいたな。あとなぜか黒江からも貰ったことあるがどうせ全部義理だし。

 

「で、どうする由比ヶ浜さん。まだやる?」

 

「ううん、もういいや。あとは自分でやってみる。またね雪ノ下さん

ヒッキー!」

 

エプロンを手早く外し放り投げるようにして雪ノ下に渡し、リュックを掴むと颯爽とでていった。その後あいつからクッキー渡される人が心配でならないのはおれだけだろうか。

 

 

「奉仕部は飢えた人に魚を与えるのではなく、魚の取り方を教えて自立を促すことが目的とした部活なのよ」

 

「でもそれだと平塚先生に言われた人とかは意味を取り違えて来そうじゃねぇのか?」

 

ぶっちゃけ由比ヶ浜がそうなのだし。

 

「実際に来たのよ。由比ヶ浜さんがまさにそれなのだし」

 

「それでいいのか…」

 

あの人部活の趣旨わかってないのかよ。それでいいのか顧問なのに。

 

「由比ヶ浜さんの件、あれでよかったのかしら…」

 

「本人がいいつってんだからいいだろ。そこまで首突っ込むのはさすがに無粋だと思うぞ」

 

「そう、かしら」

 

そうだろ。本人がいいと言ってるならそれ以上は余計なお世話だ。そんなことしてもお互いいい気はしないだろう。

そこで突然ノックの音がする。

 

「やっはろー!」

 

明らかに頭の悪そうな挨拶で入ってきたのは常識欠如の汚物生成女子高生だった。

 

「…なにか?」

 

「あれ、冷たい反応。…雪ノ下さん、もしかしてあたしのこと、嫌い?」

 

「嫌いではないわ。ちょっと苦手かしら」

 

「それ女子言葉だと同じことだからね!」

 

「で、どうしたのかしら?」

 

「あ、そうそう。やーあたし最近料理にはまってるじゃない?」

 

あれ、なんかおれのサイドエフェクトが反応してる。これは逃げた方がいいかな?

 

「それでこの間のお礼でクッキー作ってきたの。食べてみて!」

 

取り出したのは黒い何か。全く成長の片鱗すら見えない。

 

「あ、いや、今は食欲ないから結構よ。気持ちだけ頂いておくわ」

 

「それでさゆきのん、こんどはケーキとか教えてよ」

 

「話聞いてる?それとゆきのんって言うのやめて」

 

「あ、ゆきのん!今度お昼一緒に食べようよ!普段どうしてるの?」

 

「あの、話聞いてる?普段は一人よ。というかゆきのんってやめて」

 

「うっそ!寂しくない?じゃあ今度部室で食べようよゆきのん!」

 

「話聞いてる?」

 

由比ヶ浜のマシンガントークに雪ノ下が圧倒されている中、おれは防衛任務があるし、空気を読んで退室した。出て直ぐに声をかけられる。

 

「ヒッキー!」

 

振り向くと由比ヶ浜が袋を放ってくる。中には、黒い何か。なぜこれをお礼として渡すのだ。

 

「いちおーお礼?手伝ってくれたし。じゃあまたね!」

 

とりあえず片手をあげて返す。

 

とりあえずハート型の黒い何かを一つ摘み口に放り込む。

ダメだ、クソマズい。

アホ毛の高校生が脂汗を流しながら顰めっ面をしているという謎の光景が総武高校の昇降口で繰り広げられていた。

 

 

 

やはり由比ヶ浜には常識が欠如している。

 

***

 

おまけ

 

比企谷隊作戦室にて。

 

「比企谷くん、これなに?」

 

そう言って佐々木さんが指指したのは、先ほどおれが貰った黒い物体。

 

「部活の礼で貰ったクッキーっすよ」

 

「え、ハッチいじめられてんの?」

 

驚愕の横山。いや、その感想はわからんでもないけどいくらなんでもそれはない。そんなことするやついるなら物理的に叩き潰すし。

 

「いや礼だつってんだろ」

 

これが礼だとはとても思いたくないが、礼なんだよな……。

 

「いやこれがお礼って……。ていうか比企谷くん部活入ってたっけ?」

 

「いや、無理やり所属させられてるだけなんで隙をみてサボります」

 

入るなんて言った覚えないし。

 

「はぁ。でもこれどうするの?」

 

「あ、食べます?というか食べて下さい」

 

これ以上はおれの胃と舌がやられそうだ。

 

「サッサンが食べてよ」

 

「えー僕もこれはやだな……」

 

結局その後比企谷隊で黒い何かを追死苦(おいしく)頂き、佐々木メシでその後体内の洗浄を行った。そしてその時3バカも佐々木メシをたかりに来たのはまた別の話。

 




サッサンの設定をほんの少し変えました。

佐々木メシ
「早い、うまい、無料」三拍子揃った「木崎メシ」に次ぐうまさのメシ。このキャッチコピーのせいで一時期一部の隊員が「比企谷隊作戦室でサッサンが無料食堂やってる」という謎の風表が出回った。基本たかるのは比企谷隊を除くと3バカと太刀川さん、諏訪さん、そして時々東さん加古さんというメンツ。ただし、加古さんがたかりに来た時は大体メシテロも同時に起こるので注意が必要。そのメシテロの犠牲者は8割くらい太刀川さんに行き着く。時々ハイセも犠牲になる。

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