目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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連投です。


2話 こうして、彼は暴力教師に目をつけられる。

青春とは嘘であり、悪である。

青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺き、自らを取り巻く環境全てを肯定的に捉える。

彼らは青春の二文字の前にはどんな一般的な解釈も社会通念も捻じ曲げてみせる。

彼らにかかれば、嘘や秘密も、罪咎や失敗、現在進行形で外敵から攻められているこの現状さえも青春におけるスパイスでしかないのだ。

全ては彼らのご都合主義でしかない。

結論を言おう。

青春を謳歌せし者たちよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砕け散れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ比企谷、現国の課題で出した作文のお題を覚えているか?」

 

今おれの前にはいかにも苛立たしげな雰囲気を醸し出している白衣を着た長髪の女教師が足を組んで座っている。

 

「ど忘れですか?ボケが始まるには早すぎると思いますがね。」

 

その言葉と同時に怒りオーラが三倍に跳ね上がる。

ふっ、だが甘いな。横山がきれた時の方が何倍も恐ろしいオーラを出してだぜ。あの現場に居合わせたおれにその程度のオーラで通用するわけ……ありますすいません。怖い事には変わりはない。この場は素直に答えとくのが吉か。

 

「げ、現国の課題のお題は高校生活を振り返って、っていう題材で作文を書いてこいという感じだったと思いまひゅ。」

 

くっ、かんでしまった!

だがしょうがない。ぼっちだから学校で声を発する事が少ないからな!経験値が不足しているからしょうがないよね!あれ、目から汗が…。

 

「覚えているようだな。ではなんだこの舐めた作文は。」

 

先ほど同様イラついた声を出したのは国語教師兼、生徒指導教師平塚静。アラサー独身。男より男らしさがある。

 

「おれの高校生活を素直に振り返ったらこうなっただけです。」

 

「全く君は…。仮にもボーダー隊員だろう?しかも精鋭部隊の隊長を務めている者がこんなことでいいわけないだろう。」

 

「いやボーダー関係ないでしょ」

 

「ボーダー隊員は君以外はまともであるというのになぜ君だけこうなのだ」

 

「先生、おれにも表現の自由が日本国憲法で保証されています。だからおれがこの作文で何を書こうと、何を表現しようとそれは自由のはずです。」

 

ふっ、言ってやったぜ!憲法を盾にとれば何もいえないはずだ!

 

「…小僧、屁理屈をいうな。」

 

「…小僧…。まぁ先生の年齢を考えれば妥当な表現…。」

 

その瞬間、おれの顔の横を空気が切り裂く音がした。

というか、先生の拳だった。

 

「女性相手に年齢の話はするなと教わらなかったのか?次はあてるぞ。」

 

「じゃあ次は避けます。今程度の速度なら避けられますから。」

 

と、言ったはいいものの内心ビビりまくってる。この人まさかトリオン体なのか?今の速度は緑川レベルだぞ。

 

「ほう、それは楽しみだな。」

 

なんで?そこ口答えにちょっと怒るとこじゃないの?

なんで少年漫画の主人公みたいにいいライバルが見つかったぜ的な笑みを浮かべてんの?アラサー独身のくせに実はこころは少年なの?

 

「比企谷、今失礼なことを考えなかったか?」

 

「ひっ、ひえ!何も考えてましぇんよ⁈」

 

なんでわかんだよ!怖い、怖いよ!

 

「まぁいい。とにかく君は課題は再提出だ」

 

そういいながら平塚先生はおれの書いた作文を押し付けてくる。

 

「はぁ、まあわかりました。」

 

「それと、君には舐めた作文を書いた罰をあたえる。ついてきたまえ。」

 

そう言うと平塚先生は椅子から立ち上がって長い髪を揺らしながら職員室を出て行く。

 

 

 

そう言って連れてこられたのは特別棟3階の最も奥の空き教室。

まさかここで拷問とか始まるんじゃねーだろうな…。

そんなアホなことを考えているそばから、平塚先生は教室のドアを豪快に開ける。

 

「邪魔するぞ、雪ノ下。」

 

中にいたのは長い黒髪の少女だった。本を読んでいてその顔立ちと読む姿勢の良さからまるで一つの芸術品のように思えた。

その少女は平塚先生の姿を見ると少しだけ不満気な表示をした。

おれはこの少女を知っている。

雪ノ下雪乃。2年J組国際教養科所属。才色兼備で学内誰もが知る有名人だ。

 

「先生、入る時はノックをお願いしているはずです。」

 

「ノックをしても君は返事をしないじゃないか。」

 

「返事をする前に先生が入ってくるんですよ…。それで、そちらの人は?」

 

「ん、ああ。いつまでそこにいる?入ってきたまえ。」

 

そう呼ばれておれは教室に入る。

雪ノ下に見つめられおれは盛大に目を泳がせる。ぼっちは直接的な視線に慣れてないんだから!やめて!見つめないで!

 

「今日からこの部に入部する比企谷だ。ほら、自己紹介したまえ。」

 

は⁈なに言ってんのこの人⁈罰って言ってついてきたのになんで入部することになってんの⁈頭大丈夫⁈

 

「あ、えーと、2年F組所属比企谷八幡です。えーと、それで、ってかなんだよ入部って…。聞いてねぇぞ…。」

 

「これから君には舐めた作文書いた罰としてここでの部活動を命じる。異論反論抗議口答えは一切受け付けない。」

 

「いくら教師といっても生徒を強制的に部活動にいれる権限は持ち合わせていないはずです。例えその教師が生徒指導であっとしても。」

 

「いいのか?そんなことを言って。三年で卒業できなくなるぞ?」

 

「そうしたければすればいいですよ。そしたらこちらも然るべき対応を取らせていただきますから。教育委員会に訴えるとか」

 

おれの言葉に平塚先生はうぐ、と押し黙る。さすがここまでいうとは思ってなかったようだ。

 

「と、とにかくだ!君にはここで奉仕活動をしろ!これは命令だ!拒否権はない!」

 

えー……。

 

「全く…。まぁ雪ノ下、こいつはこの腐った目、腐った神経のせいで孤独で憐れむべき生活を送っている。私からの依頼はこの性格の矯正だ。受けてくれるな?」

 

「お断りします。そこの人の下心に満ちた下卑たる目を見ていると身の危険を感じます。」

 

断じてみていない!そんな慎ましやかな胸など!い、いや本当だよ?ハチマンウソツカナイ

 

「安心したまえ。確かにいろいろ終わってる目をしているがこの男のリスクリターンと損得勘定と自己保身にの計算についてはなかなかのものだ。刑事罰に問われるようなことは決してしない。この男の小悪党ぶりは信用してくれていい。」

 

さらりとなにひどいとこ言ってるの?

すごい勢いで罵倒された気がする。

 

「いや、常識的な判断ができるといって欲しいんですけど…。」

 

「小悪党。なるほど…。」

 

聞いてないし納得したぞこいつ…。

 

「まぁ、先生から依頼となれば無下にはできませんね。承ります。」

 

「そうか、じゃあ頼んだぞ雪ノ下!」

 

そう言うと平塚先生はさっさと出て行ってしまった。

てかおいおいおいおい!なんだよこの現状!なんでボーダーの仕事もあるのにこんなよくわからんてか何するのかもわからん部活に入れられなきゃいけないんだ!

呆然としてると冷ややかな声をかけられる。

 

「いつまでも突っ立ってないで座ったら?」

 

「あ、おお…。」

 

若干狼狽えてしまったがまぁいい。噛まなかっただけまだましだ。まぁ今のとこで噛む要素ないけど。

そう言われておれは適当にひっつかんだ椅子に座る。

 

「そういえば、ここどんな部活なんだ?」

 

やっと聞けた。一番疑問に思ってたこと。

 

「平塚先生から聞いてないの?」

 

「ああ、ただ付いて来いって言われただけだからな。」

 

「…そう。ならゲームをしましょう。ここがなんの部活か当ててみなさい?」

 

「はぁ…。」

 

教室内を見渡す。変わったものはない。あるのは机と椅子だけ。加えて部員は彼女一人。本を読んでいる。なら…

 

「文芸部、とか?」

 

考えたことを口にしてみる。

 

「比企谷くん、といったかしら?その心は?」

 

「ああ、まずこの教室に特別なものはない。見た所部員はあんた一人、つまり活動に人数を要さない部活だ。加えてあんたは本を読んでいる。」

 

「不正解。」

 

「じゃあなんだよ。」

 

「今私がここでこうしていることが部活動よ。」

 

「降参。さっぱりだ。」

 

「比企谷くん。女の子と話したのは何年ぶり?」

 

あ?何言ってんだこいつ…。

しかし、女子との会話か。ならそれは…。

 

「今朝ぶりだな。」

 

朝っぱら綾辻に会ったし。

 

「家族はカウントしないわよ?」

 

「いやちげーし。ちゃんとした知り合いだよ。」

 

「あらそう。あなたみたいな人にも話せる知り合いがいるとは驚きね。その人に同情するわ。」

 

このクソアマ。好き勝手言いやがって。

 

そう言うと雪ノ下は本を閉じ、立ち上がって腕を組む。彼女がやるとそれだけで絵になるのが不思議だ。

 

「ここは持たざるものに自立を促す部活。ホームレスには炊き出しを、途上国にはODAを、モテない男子には女子との会話を。

 

 

ようこそ奉仕部へ。歓迎するわ。」

 

奉仕部、それがどうやらこの部の名称らしい。てかちっとも歓迎されてる気配がしない。社交辞令みたいなもんだろ。

 

「頼まれた以上力になるわ。あなたたちの問題を解決してあげる。感謝なさい。」

 

「このアマ…。あのな、おれはそこそこ優秀なんだぞ。国語学年3位。顔だっていい方だ。友達が少ないことと彼女がいないことを除けば基本高スペックなんだ!」

 

「そんなこと自信満々に言えるなんて、変な人。もはや気持ち悪いわね。あと国語の順位に関してだけど、私は一位よ?そういうことは私にかってからいいなさい。それと容姿についてだけど、美的感覚なんて主観でしかないのよ?つまりこの場では私の言うことが正しいの。」

 

めちゃくちゃだなこいつ…。でも言ってることの筋は通ってる気がする。

 

「というかありがた迷惑だ。なんで頼んでないのにんなことされにゃならんのだ」

 

「あなたのそれは社会的に困るレベルよ」

 

お前にだけは言われたくねぇな。

 

「まぁいいわ。さて、これで人との会話シュミレーションは完了ね。」

 

はぁ⁈なに言ってんだこいつ⁈

 

「私のような女の子と会話ができれば、大半の人間とも会話ができるはずよ?少しは矯正したんじゃない?」

 

「言っておくが、おれは人と会話ができないわけじゃない。ムダな会話をしないだけだ更正なんぞ断じて必要ない!」

 

そう、必要ない。別に会話はできる。ムダなことに時間を割かないだけだ。それに会話ならボーダーでしてる。コミュ障というわけではない。そもそも会話する友達も学校にはいないけど、ボーダーにはそれなりにいる。友達と呼べるのは少ないけど。だから問題ない。

 

「さっきも言ったけど、あなたの性格は直さないと社会的に問題だと思うのだけれど」

 

「お前に言われたくねーよ。それと、いつまで外で盗み聞きしてるんですかひまなんですか平塚先生?」

 

そういうと平塚先生がよく見破ったみたいな顔をしながら入ってきた。気配がずっとしていたからな。

 

「邪魔するぞ、雪ノ下。」

 

「先生ノックを…」

 

「悪い悪い。どうやら比企谷の更正に手間取っているようだな。」

 

「本人が問題を自覚していないせいです。」

 

本当に好き勝手言いやがるなこいつ。ならこっちにだって言い分はある。

 

「ちげぇよ。その、なんだ?変わるだの変われだの、他人におれの自分のことを語られたくないんだっつの!」

 

「あなたのそれは逃げでしょ?」

 

「変わるつっーのも現状からの逃げだ。どうして過去や今の自分を肯定してやれないんだよ。」

 

「……それじゃあ悩みは解決しないし

 

 

 

誰も救われないじゃない!」

 

「救う?何を。他人のことを理解せずに何を救うってんだ」

 

正直おれはそんな他人のことはどうでもいい。他人を気にする余裕なんておれにはない。自分のことで手一杯だ。他人がどうなろうと知ったこっちゃねぇ。

 

「まぁ落ち着きたまえ二人とも。いいぞ、随分私好みの展開になってきたな。古くから、互いの正義がぶつかり合った時に勝負で物事を決するのが少年漫画の習わしだ。だからこの部でどちらが人に奉仕できるか勝負だ!」

 

この人が結婚できない理由をなんとなく垣間見た気がする。

どんだけ少年漫画好きなんだよ。スポ根かよ。

 

「勝った者には敗者に対してなんでも言うことを聞かせる権利を賞品としよう。ちなみに采配は私の独断と偏見で行う。」

 

「なんでも⁈」

 

つまりこのアホみたいにプライドが高い雪ノ下にすごいくだらないかつ超恥ずかしい一発芸とかやらせることも可能ということか⁈

 

「お断りします。そこの男が相手だと身の危険を感じます。」

 

「偏見だ。いくらなんでも犯罪行為までするか。」

 

「ほぉ、さすがの雪ノ下でも勝つ自信がないか…。」

 

煽るな煽るな。負けず嫌いに対して一番やってはいけないことは煽ることだ。そのことをおれは木虎相手に学んだ。あいつランク戦で煽って単調になった動きをサクッとやったらそのあと勝ち越すまで40本近くやらされなんだからな。マジ勘弁して欲しかったし、そのあとわざわざ嵐山さんが軽く謝りにきてこっちが申し訳なくなったわ。

 

「っ…。その安い挑発に乗るのは少々癪ですが、いいでしょう。その勝負受けて立ちます。」

 

「よし、じゃあがんばりたまえ諸君!」

 

そういうと平塚先生は今度こそ帰っていった。

てかおれの意見は聞かないの?防衛任務とかどうすんだよ…。

 




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