デートまでの茶番が過去最高に長い45話です。
「暇だ」
それも恐ろしく。
「やる気削がれること言わないでよ……」
「いや、だって暇じゃないすか?」
「そうだけどさ……」
防衛任務とはその日によって大変さが違う。トリオン兵が毎日決まった時間に決まった量出てくるわけではない。そのため多量にトリオン兵が湧いて出てきた時はやたら大変で給料も稼げるのだが、出てこない時はめっきり出てこない。そのため給料もあまり入らない。
「さっきの加古隊の時もほとんど出てきてなかったみたいだから、今日は出ない日なのかもね」
「その出てこない時間帯にこの戦力はどう考えても過剰っすよね」
「なによ、なにか不満なの?」
「いや別に」
今日の防衛任務は玉狛第一となのだ。さっぱり敵が出てこないのにボーダー最強の部隊とA級2位の部隊だ。戦力配置間違えてる。
暇だからといってこの場では手合わせすることもできない。そんなことすれば隊務規定違反になって降格に減点喰らっちまう。そういやこの前カゲさんが根付さんにアッパー喰らわせて降格処分受けたらしい。どーせ根付さんがカゲさんに嫌な感情向けたんだろうな。まぁあそこはうちと同じで遠征にもランクにもあまり興味がないからダメージになったりはしないだろうな。精々給料がでなくなるくらいか。
「ま、本来ならいいことなんだろうな」
「そうだな、敵が攻めて来ないならこちらとしてもこれ以上のことはない」
「そうなると、俺たちの仕事がなくなるんですけどね」
レイジさんや烏丸が言うように本来ならいいことだ。日々戦火に当てられるより平和で暇な方が遥かに健全だ。
「一応勤務中だし、遊んでるわけにもいかないしね」
「そっすね……」
既にシフト時間の半分ほどが経過したが、出てきたトリオン兵は僅かだ。このメンツなら1分もあれば処理しきれる程度の数なのだ。
「比企谷、佐々木、横山。今日も終わったら
「そっすね、行かせてもらいます」
「そうか。晩飯は……どうする佐々木」
「今ある材料はなんですか?それで決めましょう」
「確か、小松菜、里芋、人参、玉ねぎ、ニラ、茄子があったはずだ」
「主食になるものがあまりないですね。後で買い出しに行きましょうか」
「そうだな。この時期だと…秋刀魚とかがうまいな」
「じゃあ今日は秋刀魚メインですかね」
「あればな。なかったら……」
勤務中でも問題ないであろう今日の晩飯の献立議論が佐々木さんとレイジさんの間で始まった。今日は和食だろうか。
その話をぼんやり聞いていると、小南が隣に来た。
「比企谷、ご飯終わったら手合わせして」
「ん、いいぞ」
「今日は勝つから、見てなさい!」
そう言って小南は好戦的な笑みを浮かべた。
これは、今日は10本じゃ終わらなさそうだ。
*
『いただきます』
防衛任務の後、玉狛支部に戻り夕食になった。
今日の献立は栗ご飯、小松菜の煮浸し、里芋の煮物、秋刀魚の塩焼きに刺身、なめこの味噌汁、佐々木さんお手製たくあんという純和食だった。
「お、栗ご飯うまいな。もうそろそろ旬も終わりだが、まだまだイケるな」
「里芋、味がしみててうまいっすね」
「あ、秋刀魚も脂が乗ってて美味しい!さすがレイジさんね!」
「秋刀魚は佐々木がやったんだが……」
「………さすが佐々木さんね!」
「桐絵、誤魔化した〜」
「ごまかしたな」
「うっさい!夏希も陽太郎も黙って!」
「あっはっは」
無表情で笑うなよ烏丸。完全に煽ってるだろ。
「いやぁ、琲世とレイジさんの作った飯はうまいなぁ」
「いや、のほほんと食べてないで止めてくださいよ迅さん」
止めろよ、小南が暴走してきてんぞ。
「いやぁ、うまいもんはうまいからさ」
「その食事現場が崩壊するかもしれませんよ」
「大丈夫大丈夫。俺のサイドエフェクトがそう言っている」
サイドエフェクトの無駄遣いはやめよう。
だがそんな迅さんの顔に
「あ」
正面にいた烏丸が里芋の煮物を取り損ねて、どういうわけか直撃した。
「…………読み逃したか」
食卓は笑いに包まれた。
*
「そら!」
「やば……」
俺の放ったバイパーが小南のトリオン体を削る。そしてトリオン供給器官をぶち抜いた。
『トリオン供給器官破損。小南ダウン。10本終了。結果、小南4、比企谷6』
アナウンスが響き、模擬戦が終了する。
今回は6-4か。この前は7-3だったんだが……まぁ向こうの腕が上がったんだろうな。なんか動きよかったし。
「あー!また負けたー!」
「いやぁ今回のは結構ギリなの多かったぞ」
「でも負けは負けよ!悔しいー!」
「ま、精進するんだな」
「ムッカー!」
ま、俺も精進しないとあっという間に抜かれることが目に見えてるんだけど。
「そういえば比企谷」
「ん?」
「あんた佐々木さんに体術習ってるんでしょ?ならなんでオールラウンダーにならないの?」
おっとその質問か。
「いや、体術だけならまだしも、そこに武器の扱いも加わるとあんま動けなくなんだよ」
「そう?あんた超直感あんだしどうにかなるんじゃない?」
「俺の超直感は残念ながらそんな便利なシロモノじゃない。何にでも働くわけじゃないんだ」
「確かにね」
他人に言われるとなんか傷つく。
『ならちょっとやって見たら?』
「は?何言ってんすか佐々木さん」
『試しにやって見たらって言ってるんだよ。案外オールラウンダーになるきっかけになったりもするかもよ?』
いやいやいやいや、トップクラスの小南相手に俺が近接武器使っても勝てるはずないから。熊谷相手でも余裕で負ける自信あるぞ。そもそもこの戦闘スタイル崩したくないし。
「いいわね、面白そうじゃない」
「え」
『比企谷くんは防御に向いてないスコーピオンとシールドだけ、桐絵ちゃんは双月だけでやって見たら?』
厳しくね?それ。というか無理じゃね?
『負けた方は勝った方のお願いなんでも1つ聞くとかどう?』
おい宇佐美、変な条件付け加えんな。
「いいじゃない!」
なぜそれに食いつく。
え、なにこれ。やるの?ねぇやるの?
「やるわよ!」
やーだー!
この後八幡はめちゃくちゃ斬られた。
*
「…………」
「うん、なんかごめん」
結果、10-0で惨敗。
いや無理だって。ただでさえ慣れてない近接武器でしかも耐久性の皆無なスコーピオンだぜ?ブレード相手にシールドなんて気休め程度にしかならんし。しかも小南相手だぞ?パリィしようとしたら小南の剣速が速すぎてパリィするタイミング逃してそのまま真っ二つだ。なにこの無理ゲー、泣けてくる。
あれ?スコーピオンなら腕に纏わせることもできたからそうすればよかったんじゃね?もう遅いけど。
『あちゃー1本も取れなかったか〜』
「いや無理ですって」
『まぁ、近接は僕がどうにかするから』
やだ!佐々木さんかっこいい!惚れそう!
『じゃあ負けた比企谷くん小南の言うことなんでも一つ聞いてね〜』
………そういやそんなのあったな。
「で、なに命令すんだ?」
「え?いいの?」
「まぁ、そんな無理難題じゃ無けりゃな」
「そっか……」
………?なんで急にしおらしくなんだよ。
「じゃ、じゃあ!」
「?」
「明日私と一緒に出かけなさい!」
よかったーその程度で。勝ち越すまでランク戦しろとかだったら逃げ出してたとこだぜ。
「いいよ」
「え?いいの⁈」
「その程度だったら問題ねーよ」
その言葉にあからさまに小南の表情が明るくなる。わかりやすいやつ。そんなに荷物持ちが欲しかったのか?
なぜか、生暖かい視線を感じたような気がした。
*
翌日
駅前噴水広場
「少し早すぎたか…?」
集合時間の20分前についてしまった。遅刻するよりはるかにマシだが、手持ち無沙汰になってしまった。今日は暇つぶし用の本を持ってきてない。スマホでもいじくってるか。
ぼんやりスマホをいじること10分。
「あれ?早いわね」
小南が到着した。
小南の服装は全体的に赤い。白いワンピースの上に赤いカーディガンをはおり、ブーツも赤みがかかった茶色だ。バックも当然赤。
「………」
「な、なによ。なにか変だった?」
「いや。すげーよく似合ってんじゃん」
「そ、そう」
そこで顔赤くすんな。なんか恥ずかしいこと言ったみたいじゃねーか。赤面がうつるからやめろ。
「んじゃ、いくか」
「そうね」
*
「んで、今日はどこいくんだ?」
「あのでっかいショッピングモールよ。ちょっと欲しいものがあるの」
「なんだ?欲しいものって」
「冬服よ。そろそろ本格的に寒くなってきたし、ちょっと新調しようかなって」
「なるほど」
荷物持ち確定ですねこれは。まぁ、いいんだけどさ。
「比企谷はなにか欲しいのある?買い物するなら付き合うわよ」
「んー……これといってねぇかもなぁ……」
冬服は去年買ったやつで充分だし。
「まぁ、あんだけ広いとこなんだしブラブラしてたらなにかしら欲しいのがあるかもね」
「そーだな」
ま、なんにしてもなにかしら小町に土産を買っていこう。今日も塾で頑張ってるんだ。ご褒美が必要だろう。
え?甘すぎ?知ってる。
「しっかし一年ってはえーな」
「そーねー。やることがあると時間って早く感じるわ」
「来年は受験生か。また休隊だな〜」
「受験生になったらすぐ?」
「いや、それはまだ決めてない。でも佐々木さんの時は夏休み始まるまでは普通にやってたし、俺らもそうなるかもな」
実質休隊は半年程度だろう。
「あんた、志望校ってどこなの?」
「国立三門大学だな。うちは私立の学費払う余裕ないから行くにしても国立しか選択肢がない。もし落ちたらボーダーに就職かな」
「ボーダー推薦は使うの?」
「いや、今んとこ使う気ない」
「なんで?」
「なんというか、他の受験生はボーダー推薦とかないわけだからフェアじゃない気がしてな」
願書提出直前になったらそんなこと言えないのかもしれないが、今の俺はそう思っている。ボーダーに入ったからこういう特権が使えるが、入ってないと使えない。そんなのを使うのはなんとなく気が引けた。
そもそも、俺がボーダーに入ったのは両親の死がきっかけだ。ボーダー推薦を使うのは、間接的に両親の死を利用してるように思えてなんとなく気が引ける。
「そっか。なら、仕方ないわね」
「ああ」
多分、使ったところで誰もなんとも思わないだろうけどな。そもそも国立三門大学ってボーダー推薦使えたっけ?
そんな受験の話をしながら電車に揺られてると目的の駅に到着した。
「お、着いたな」
「そうね、行きましょ」
*
ショッピングモール内
「で、冬服だったか?」
「そうよ。ちょっとは選ぶの手伝ってよ」
「は?いや俺服のセンスねーぞ」
「いいから。あんたは敗者、私は勝者」
「解せぬ」
「そ………それに……(あんたに選んで欲しいのよ)」
「?」
「ほら!行くわよ!」
「????」
そう言うと小南は俺の手を引いてズカズカ歩いていってしまった。相変わらず小南はよくわからん。
ーーー
「しっかし服屋って恐ろしく種類あるよな。特に女性物は」
ノーマルテンションに戻った小南相手に素直な服屋の感想を述べる。ぶっちゃけ本当にどこいってもかなり種類があるためそう思ったのだ。
「そうね、人によって好みかなり違ってくるし、それに時と場合によって着る服を変えるのは当たり前のことだから。あんたもそうでしょ?」
「まぁ、な」
さすがにこんな出かける時とかにジャージ着てきたりするほどセンスないわけではないし。そもそも最低限のマナーとして必要なことなのだろうし。
「で、お求めの物はどんなやつだ?冬服ってだけじゃ漠然とし過ぎてんだろ。あと予算」
「そうね。カーディガンはあるから、厚手のセーターとか上着かしら。予算については気にしないで。こっちで判断するから。まぁでも私も学生だから、そんな高いのはナシね」
なるほどな、そうとなれば、あとは俺のサイドエフェクト頼みですかね。適当に選んだら殺されそうだし。
「あ、こことかどうかしら」
そう言って小南が入っていったのは、落ち着いた感じのする店だった。
なんとなく那須とかが着てそうな服が陳列されている。あ、そういや一応どっちもお嬢様校だったな。
「んー………」
早速物色を始める小南。さて、俺も行かねーとな。店員の視線がきつい?気にしたら負けだ。……いや、無理だわシカトとか。
まぁ、極力気にしないようにするとして、俺も小南に合いそうなのを探しますか。
小南って言ったらやっぱ赤か?あいつ赤いの好きだし。
……うん、わからん。どうしよう。
「あ、比企谷。これとかどう?」
そう言っていくつか服を持ってくる小南。…………わからん。ぶっちゃけ全部似合うと思うんだが。
色は珍しく赤だけでなく、白とかクリーム色とかもある。
「赤だけじゃねーんだな」
「た、たまには趣向を変えるのも……その……アリかなって」
「まぁいいと思うぞ。割とどれも似合うと思うんだが」
「そ、そう?じゃあこの中から一つ選んで」
そうきたか……さて、この中から一つか。
「………試着でもしてみたらどうだ?俺も並べられただけだとよくわからん」
下手したら着てもよくわからんまであるが。
「そうね。試着してみるわ。………覗かないでよ?」
「アホか」
それだけ言って小南は試着室に入っていった。中からわずかに衣擦れの音が聞こえる。…………やめよう、後で頭割られそうだから。
それからしばらく小南のファッションショー的なものが始まり、結局決まったのは40分も後のことだった。
*
「いいものが買えたわ。ありがとね比企谷」
「ん」
できるなら次はもっと早く決断してください。
「あんたが中途半端な意見しか出さないからでしょ」
「おい、ナチュラルに心読むな。なに?お前読心術でもやってんの?」
「あんたがわかりやすいだけよ」
解せぬ。俺は割とポーカーフェイスには自信あったんだが。というか最近俺のポーカーフェイス破られすぎじゃね?自信無くしそう。
「他に買うもんあるか?」
「ん?私はもう終わりよ。比企谷はなにかある?」
「いや、これといってねーな」
「なら少し早いけどお昼にしない?混む前に入っておきたいし」
「そーだな」
「どこにする?」
「んー………サン◯ルクカフェとか?」
「珍しくおしゃれなとこ選ぶわね」
「なんだよ、女子が同伴だからそんなとこにしたんだよ」
男だけなら迷わずラーメンだが。あ、でも三上と出かけた時はラーメン食ったな。まぁ三上ラーメン好きだし。
「いいわ、そこにしましょ」
「ん」
*
まだ少し早い時間帯なため、あまり多くの人は見受けられない。そのためすぐに席が取れた。
「早く来てよかったな。まだ空いてる」
「そうね。じゃ、とっとと食べるの取ってきちゃいましょ」
そうして席を立ち、適当にサンドイッチやらクロワッサンやらを取り、最後にコーヒーを頼む。
『いただきます』
早速一口。ふむ、うまい。
「やっぱ大手は安定の美味しさね」
「ま、そこそこうまくねーと大手になることもできねーだろうしな」
「そーね」
ちなみに小南はチョココロネとか若干菓子パンチックなのが多い。甘いの好きだもんな。俺も甘いの好きなんだけどね。
そこでちらっと横を見ると、学生らしき人達がパソコンに向かいなにかしていた。恐らくレポートだろう。
「大変そうね」
俺の視線に気づいたのか、小南がそう呟く。
「そーだな。俺らも2年後にはああなってるのかもしれないな」
「レポートとかが大変なのはだいたい理系の方だって聞いたけど」
「文系でもレポートは書くだろ。佐々木さんだって書いてるのよく見るし」
「開発室のもあるでしょけどね、あの人の場合」
「まぁ、な……」
その言葉については苦笑いしか浮かばない。本来ならあの人がやるような仕事ではないのだから。つっても、開発室IDもあるしやらせようと思えばやらせられることなのだろうけど。というかちょっとは断れよあの人も。また倒れんぞ。
「チーム、か」
小南がなにかをつぶやくが、よく聞こえない。
「ねぇ」
「ん?」
「あんたたちのチームのエンブレムってさ、なんでああなったの?」
「唐突だな」
そんなの気にするタイプだったか?
「ふと思っただけよ」
「そーか。お前らのは……旧ボーダーのそのまま使ってる感じだったな」
「そうよ。だから他のチームがどんな感じでエンブレム作ってるのか少し気になったのよ。ま、興味本位ってところね」
エンブレム、か。デザインしたのはほぼ全部横山だから横山に聞くのが一番手っ取り早いのだが、まぁ俺も佐々木さんも理解してるからあんま関係ねーか。
「なぁ小南、太極図って知ってるか?」
「あんたたちのエンブレムでしょ?」
「そ」
太極図とは、白と黒の勾玉が互いに絡み合ったような図のことだ。これは本来太極を示すだのなんだの小難しい説明があるのだが、簡単に言ってしまえば『陰』と『陽』という互いに対となったものが互いに高め合う、という意味合いが含められているのだ。ちなみにこの太極図は陰と陽だけでなく、光と闇、男と女等も当てはまるとかなんとか。
そしてどちらにも存在する小さな『点』。これはどちらも異性的な性質を持ち合わせるという意味合いになり、これを『両儀』というらしい。直死の魔眼かな?
「つまり、あんたたちがこの太極図ってこと?」
「まぁ簡単に言えばそうなる。横山曰く、『黒い陰の方がハッチ、白い陽の方がサッサン』らしい」
「なんで?」
「理由は主に髪の色、だな」
佐々木さんは普段は黒染めしているが、本来は生まれつき白髪。有馬さんも白髪だからおそらく遺伝だろう。ユーメラニンだがなんだかとか言ってたと思うが、詳しくはわからん。
「ああ、そういう……」
「両儀についてはアレだ、俺が体術習ったり、佐々木さんが俺から射手としての基本的な戦闘法習ったりしてたとこから来るらしい」
本来、射手のクセに体術習うとか邪道もいいところだ。それならオールラウンダーになれって言われるけど、俺は射手だ。射手として戦うために体術を習ってるだけなのだから。
「へー……結構考えてるのね」
「うちがたまたま太極図っぽいチームだっただけだ。他はどうか知らん」
それこそ三輪のとことか蛇が弾丸に巻きついてる感じだ。全くもって意味わからん。いや、かっこいいとは思うけど。
「エンブレムってチームによって違うから、みんなどんな感じなのかなって思ってたら、結構ちゃんと考えて作るものなのね」
「他のチームがどこまで考えてるかはそれぞれ違うだろうな。うちはほとんど横山がやったな。アイデアからデザインまで」
本来ならラフデザインをデザイナーさんに渡して作ってもらうのだが、うちは横山が最終的なトリミングまでやってのけたためデザイナーさんの必要がなかった。デザイナーさん涙目。
「真ん中の五芒星は?」
「ああ、あれは佐々木さんのアイデアでな。『僕と比企谷くんのがエンブレムの中にいるのに夏希ちゃんがいない。だから夏希ちゃんのイメージに合うのをなにか入れたい』って」
それで結局できたのが、太極図の真ん中に小さな円に囲まれた五芒星が入ったものになった。それももう2年以上前のこととなる。
「なるほどね、佐々木さんらしいわ」
「だな」
「でもこういうの聞くと、
「横山に頼めばやってくれるぜ、多分」
本当のエンブレムにしないでも、デザインだけならあってもよさそうだ。
「そうね、今度機会があれば頼んでみようかな」
そう言ってわらう小南は、やはり美人だった。
普通にしてりゃ、かわいいんだよなこいつ。普段斧持って振り回してるやつには思えんな。
………そういえばこいつの戦闘体の隊服って緑だったな。なんでだ?
「なぁ小南」
「ん?」
「なんでお前の戦闘体の隊服って緑なんだ?」
「……………………………」
「?」
「な、なんでもいいでしょ!」
「????」
とりあえず、聞かない方が身のためだということがなんとなくサイドエフェクトで察することができた。
*
昼食を済ませ、店を出る。
「さて、この後はどーすっか」
「せっかく来たんだし、もう少しいない?」
「それもそうだが、なにするんだよ」
「……あれとか?」
小南が指さした先には、ゲームセンターがあった。
ふむ、たまにはいいかもな。
「いいかもな、行こうぜ」
「ええ」
ーーー
「あ、比企谷。あれやらない?」
そう言って来なが指さした方を見ると太◯の達人があった。えぇ……俺音ゲー苦手なんだが……。
「まぁ、いいけど」
「よし!やるわよ!負けないんだから!」
この負けず嫌いは雪ノ下並か?やれやれだぜ。
お金を投入してバチを持つ。小南が選んだ曲は保険だかなんだかのCMで使われてる曲だった。
「いくわよ!」
「やるだけやるか……」
温度差が激しい2人だった。
ーーー
「もう一回!」
「えぇ……」
「なんであんなにできるのよ!」
なんでと言われても……。
太鼓の達人をやってみたのだが、これが案外できる。割と自信ありげにしてた小南を抑えて普通に俺がスコアで勝ってしまっている。
「なんとなく勘でやってるだけなんだが…」
「変なとこでサイドエフェクト使ってんじゃないわよ!」
ご尤も。
しかし、俺のサイドエフェクトはどこで真価を発揮するのかが未だにわからん。できればもっといろんなとこで真価を発揮して欲しいものだ。勉強とか。
結局その後、他にやる人が来るまで太鼓◯達人を続けるのだった。
ーーー
次に目をつけたのはUFOキャッチャー。別名ぼったくり詐欺マシーンだ。
「なによその夢も希望もありゃしないネーミングは」
「いやだってその通りだろ」
夢も希望もないし、ある程度やりこんでできるようになるまでかなりの金が飛ぶらしいじゃん、これ。しかもある程度できるようになっても絶対にできないようなのもあるらしい。そんなのはぼったくり詐欺マシーンそのものじゃないか。
「ほんっとにあんたは捻くれてるわね」
「ほっとけ」
「ま、そんなあんたも………」
「んだよ」
「なんでもないわよ!あ!あのうさぎのぬいぐるみかわいい!」
「でけぇよ」
某夢の国であれくらいのでっかいサイズの熊のぬいぐるみ持って歩いてる人もいたな。正直邪魔以外の何物でもない気がするのだが。
「ねぇ、これ取れると思う?」
「………きつくねぇか?」
なにしろ俺たちはUFOキャッチャーはど素人だ。こんなレベル高そうなの取れる気がしない。…………しない、はずだが。
「ま、そーよね。取れそうにないのにお金使うのも勿体無いからもっと取れそうなのやりましょ」
「そーだな」
その後、俺たち(主に俺だが)は明らかにファミリーサイズを超えているお菓子やら、小さいストラップタイプのぬいぐるみやらをゲットした。
………なんとなくあのうさぎのぬいぐるみが最後まで気になっていた。
*
「ちょっと疲れたわね」
「どっかで休憩すっか」
あの後もゲームセンターをうろつき、その後に本屋やらCDショップやらいろいろ巡ったため歩きっぱなしだった。いくらトリオン体であんなでかい斧をぶん回しているとはいえ、普段は普通の女子高生だ。疲れて当然だろう。
フードコートに入り適当に席を取る。食事時ではないため人の影はまばらだ。
「なんか、甘いものでも食うか」
「賛成!」
甘いもの好きだったな、こいつ。
さて、甘いもの売ってるとこは………
「サー◯ィワン、和菓子屋、洋菓子屋、シュークリーム屋、クレープ屋ってとこか。どれがいい?買ってきてやるよ」
「あら、気がきくわね。んー……どれにしよっかな」
女子はこういう甘いものを頼む時、どれを食べるか真剣に悩む。それこそ進路相談の時と同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。ソースは横山。あいつは頭おかしい。悩みに悩んだ挙句、食べたいのを絞りきれず俺と佐々木さんに自分が食べたいやつを頼ませてシェアさせるからな。
「比企谷はなに食べる?」
「シュークリームでも食おうかなって思ってる。和菓子、洋菓子、クレープは佐々木さんが時々作ってくれるし、サーティ◯ンは三門市にあるからな。ま、消去法だ」
「佐々木さん、お菓子も作るの?」
「作る作る。この前はタルト的なのを作ってくれたぜ。ありゃうまかったなぁ」
「……今度作ってもらおう」
なにやら怪しげな覚悟を決める小南だった。
「で、どーすんだ?」
「……もうちょっと悩ませて」
その後30分ほど雑談しつつ、小南は悩んでいた。
ーーー
「お〜いし〜!」
クレープを食べながら顔を蕩けさせる小南。
あの後30分ほど悩んだ結果、小南はクレープを選んだ。生クリームとソフトクリーム、あとはフルーツが入っている見た目華やかなクレープだ。うまそう。
俺は普通のカスタードクリームの入ったシュークリームを買ってきた。割と並んでたせいで少々買うのに時間をかけてしまったが、まぁたまにはいいだろう。
「これすごく美味しいんだけど!」
「女子高生ってそういうの好きだよな」
「だっておいしくてかわいいじゃない!」
本当、こうしてみると普段はあんなでかい斧をぶん回しているようには思えんな。
「でもそのシュークリームも美味しそうね」
「まだ食ってねーけどな。一口食うか?」
「いいの⁈たべる!」
そう言って小南はシュークリームを一口かじる。
「おいしいー!」
「そりゃよかった」
そう言って俺もシュークリームをかじる。おお、うまい。この生地のサクサク感にクリームの濃厚さ。素直にうまいと思える。
「あ………」
「? なんだよ」
シュークリームをもさもさ食ってると、小南はなにかに気づいたようにこちらをみる。
「な……なんでも、ない」
「?」
「…………」
そっぽを向いてクレープをひたすら齧る小南はなんだかハムスターみたいだった。
(間接キス……)
結局俺は小南がなんで軽く拗ねてる(?)のかわからずじまいだった。
*
気がつけば、日が沈み始めていた。
「そろそろ、帰る?」
「そーだな。時間も時間だし」
「そーね。じゃあ私ちょっとトイレ行ってくるから待ってて」
「ん」
そう言って小南は歩いて行った。見たところ女子トイレはだいぶ並んでいるように見える。これは少し時間かかりそうだ。
そしてすぐ近くには先ほど入ったゲームセンター。
「……………」
行くか。
ーーー
「お待たせ」
「おう」
「ごめん。結構並んでてさ………ってあんた、そのでっかい袋なに?」
「これか。ほい」
そう言って俺は小南にそのでっかい袋を渡す。
「え………これって」
「お前がゲームセンター入った時にかわいいって言ってたやつだ」
「で、でもなんで?」
「いや、なんか取れそうな気がしてな」
俺はUFOキャッチャーど素人だが、どーにも俺のサイドエフェクトが取れるような予感を感じ取っていた。
そしていざチャレンジしてみたら、2、3回やるだけであのでっかいうさぎが取れた。
「…え、これくれるの?」
「おう。だってお前が欲しいって言ったんじゃねーか」
「…………」
少しの時間、小南はそのうさぎを眺めてぼーっとしていた。あれ?もしかして嫌だったか?
「小南?」
「あ………」
「ん?」
「ありがとう……大切にする」
顔を赤く染めながら、僅かに絞り出された声をどうにか聞き取れた。どうやら、嫌ではなかったらしい。嫌ではないなら、それでいい。
「大切にしろ。なにせそのうさぎのデザインを担当したのは俺なんだからな」
「え⁈そうなの⁈」
こんな見え見えの嘘に騙されるとは……チョロすぎ。
「どーりで少し目が死んでるような感じが……」
おいコラ。さりげなく人の目をディスるな。死んでねーから、視力いいから。
「ま、嘘なんだけど」
「……騙したわね比企谷ぁ!」
小南はやはり小南だった。
次回はサッサンメインの番外編。
あの持たざるメガネが出てきます。