テストに加えて身内の方で色々とありこのように非常に遅い更新となってしまいました。加えて感想への返信も遅くなったことをこの場をお借りして謝罪申し上げます。
非常に遅くなりましたが、42話です。
休日の朝9時
本来なら俺はこの時間なら防衛任務でもない限りまだ寝てる時間だ。しかし俺は今すでに朝食を済ませ、身支度を整えている。
これから以前約束した三上との買い物に出かけるのだ。
断っておくが、これはデートではない。横山からは「デートでしょ」とか佐々木さんからは「デート楽しんでね」とか言われたがこれはデートではない。俺とデートとか三上に申し訳なさすぎる。
俺の服装は黒いジャケットに紺色のシャツ、そしてチノパンだ。コーディネートはもちろん小町。というかお前どこから俺と三上が出かける情報仕入れてきたんだ。
「お兄ちゃんそろそろ行かなくちゃ間に合わないんじゃないの?」
「わーってるよ、そろそろ行く」
「歌歩さんに粗相のないようにね!」
「お前は保護者か」
本当の保護者はもういねーけどな。
「んじゃ、行ってくる」
「いってらっしゃーい!」
*
駅前
「あ、比企谷くんこっちこっち!」
「おう」
集合場所の駅前広場に着いたら既に三上がいた。あれ、まだ15分前なんだけど。
「悪い。待たせたか」
「ううん、私も今来たところ」
カップルにありがちな会話ではあるが、あいにくカップルではない。俺と三上では価値が釣り合わない。主に俺の価値が低すぎて。
「んじゃ、早速行くか」
「うん」
*
電車で少し移動し、以前綾辻と来た巨大ショッピングモールに来た。相変わらず人がアホみたいに多く、めちゃめちゃ広い。
「そういや今日はなに買うんだ?」
なに買うにしても荷物持ちくらいなら役に立てるだろう。
「今日は歌世の誕生日プレゼント買いに来たの。覚えてる?ほら、あのキャンプの時の……」
「ああ、覚えてる」
「明日誕生日なの。それで誕生日プレゼントまだ用意してなかったから今日買おうって思ってたんだ」
妹へのプレゼント選びか。俺も妹を持つ兄として、多少なりとも力になれるだろう。
「一緒に選んでくれる?」
身長差的に仕方ないが、上目遣いにグッと来ました。
「ああ、もちろん」
「よかった!」
「じゃあ早速見てこうぜ。三上はどんなプレゼントがいいと思う?」
「うーん、あの子あんまり好き嫌いなくてね、なにもらっても嬉しそうにするの」
「去年とかはどうだったんだ?」
「去年はケーキ作って、前に欲しがってた服買ってあげたの。でも今年はちょっと違う物にしてみたいなって思ってね」
「なるほど……」
そういうことなら、俺のサイドエフェクトが多少なりとも働くだろう。
「まぁまずは適当に歩いて行こうぜ」
「そうだね。ここ広いし適当に歩いてたらいいの見つかるかもね」
*
「そーいや、あれからどうだ」
適当にいろんな店を見て回ると決まり俺と三上はそこらへんをぶらぶらしていたが、先ほどの会話でふと気になることがあったから三上に聞いた。
それは鶴見留美のことだ。
俺は千葉村での一件で鶴見が独りにならないように色々手を回した。そしてそれは三上の妹とにより運良く『その場では』解決した。
しかしそれにより三上の妹がなにかしら巻き込まれないとは限らない。だからそれが気になり聞いたのだ。
「留美ちゃんのこと?全然平気だよ。この前もみんなで遊びに行ってたし」
「ならよかったわ……」
なんとなく肩の荷が下りたように感じる。
「心配してくれたんだね」
「そりゃ、俺がそうなるように仕向けたようなもんだし気にもなるわ」
これでなんかに巻き込まれたりしてたら罪悪感で潰されそうになるまである。
「ありがと。でも歌世はいい友達ができたって喜んでたよ」
「マジか」
「うん。だからもう心配しなくていいよ」
「そうか」
「そもそも比企谷くんそんな悪いことしたわけじゃないでしょ?」
「いやまぁそうなんだが……」
結局俺の計画というか企てに巻き込んだ形になるからなぁ……。
「とりあえずもう気にしなくていいよ」
「おう」
ーーー
しばらくいろいろ物色してみたのだが、ピンとくる物がないままうろついていた。今日に限って俺のサイドエフェクトが反応してくれない。アレ、意外と意図的に使うことができないからな。
「なかなか難しいもんだな」
「う〜ん、そうだね。なにが欲しいか聞いとくべきだったかもなぁ…」
「でも、サプライズ的にしたいんだろ?」
「うん……ってあれ?そのこと言ったっけ?」
「いや……でもまぁそうなんだろうなって思ったからさ」
どうやらあまり重要でないとこでサイドエフェクトが発動しているようだ。働け、サイドエフェクト。ん?なんか寒気が……?
「まだ昼までに時間あるし、ちょっと気分転換的に三上が欲しいもんでも見てみたらどうだ?」
「え?」
「ずっと悶々としながら見ててもいいもんも見つからんだろ。今日は妹のためとはいえ、ちょっとくらい自分の欲しいもん見てもバチは当たらん」
「そう、だね。うん、わかった。じゃあちょっと付き合ってくれる?」
「ああ」
なんでちょっと顔赤いんだ?女子ってわからん。
ーーー
三上についていき、到着したのは本屋。そういえばマンガ好きだったな。
「三上はどんな本読むんだ?」
「私?普通の文庫本も読むけどマンガが結構多いかなぁ」
「マンガ……うちの作戦室にもかなりあるなぁ…」
なにしろみんなで持ってきている。だから自然と数も増えるし、新刊が出たら買って置いてくから増える増える。もともと佐々木さんの家にあった大量の本があるというのにマンガも増えて完全に図書館。
「比企谷くんのとこはすごい本あるよね」
「そーなんだよなぁ。さすがに多すぎる気がするんだが、佐々木さんが読むからなぁ……」
「加えて参考書とかもあるからね」
「そう、勉強も捗っちまう」
やだ、うちの作戦室有用性高すぎ……?
「三上って、マンガは結構幅広く読むよな」
「うん。少年マンガから少女マンガまでね。マンガはおもしろいのはそれぞれ良さがあるからね」
「最近はなんかおもしろいマンガあったか?」
「うーん、あ、あれとかは?ブラック◯ローバーとか」
ああ、最近ジャンプで結構人気あるやつか。
「持たざる者が特異な能力で上を目指すってやつだな」
「そうそうそんな感じ。結構おもしろいよ。今度貸してあげよっか?」
「お、マジか。是非頼む」
「うん!」
「お返しになにか貸せればいいんだが……」
うちにあるマンガ割と古いのが多いからなぁ。主に佐々木さんが古いマンガ好きだから。スラムダンクとかドラゴンボールとかハンターハンターとか……あれ?ハンターハンターはそんな昔じゃねーか。というかまだやってるわあれ。
横山は主に少年マンガ。ナルトワンピースブリーチとかの王道だな。あいつやっぱり女子じゃないんじゃねーのか?
俺は比較的幅広く。最近の少年マンガならヒロアカとか七つの大罪とかか?
「ん〜Dグレとかどうだ?」
「あ、それあんまり読んだことないなー。ジャンプ本誌で一時期読んでたけど気づいたらスクエアの方に移動してたからあんまり読めてないんだよね」
「ならちょうどいい。今度Dグレ貸すぜ」
横山のだけど。
「ありがとう!」
守りたい、この笑顔。
「んで、今日のお求めは?」
「今日は青の祓魔師と少女マンガ」
ほう、青エクか。うちの作戦室にもあるな。少女マンガはさっぱり読まない。
「比企谷くんは最近どんなマンガ読んでるの?」
「俺?んー……最近は居酒屋のマンガ」
「どんなマンガ?」
「ただの居酒屋マンガとしか言えねぇ……」
「お料理マンガって感じ?」
「まぁそんな感じ」
ああいうみんなで飯食ってほんわかしてる感じのマンガは好きだ。
「じゃあそれ今度貸してくれる?ちょっと興味出てきた」
「ああ、いいぜ」
「じゃ、約束!」
やっぱ三上も美人だよなぁ。ボーダー美人多すぎじゃね?いやまぁ雪ノ下とか由比ヶ浜もなんだけどさ。
*
昼時
「そろそろ飯にしねーか?」
「そうだね。ちょうどお腹空いてきたし」
「どこ入るか」
「んー……比企谷くんはどこ入りたい?」
「俺普段食うのラーメンばっかだからなぁ……」
男が食うのは基本ラーメンばっかだ。加えて男子高生。ラーメン一択だろう。女子がいなければまぁ大体ラーメンだ。
あれ?でも三上は……
「私、とんこつラーメン好きよ」
「そういやそうだったな」
三上ラーメン好きだったな。ならちょうどいい。
「ここ、うまいとんこつラーメン屋があんだ。行ってみねーか?」
「本当⁈行く行く!」
「うし、決まり」
ーーー
店に到着し、店員に誘導され席に着く。ふむ、昼時なだけあって混んでるな。たまたま席が空いててよかった。
「さて、どれにしようか……」
「うーん……そういえば、比企谷くんはどうしてここ知ってたの?」
「ん?ああ、なんでもここで佐々木さんの友達がバイトしてんだとさ。俺が連れてこられた時はいなかったから会ったことはねーんだけど」
「へぇ、そうなんだ」
その友達って本当誰なんだろ。少なくともボーダーの人じゃないから俺は知らないって言われたが……ま、考えるだけ無駄か。
「俺はこのとんこつ醤油ラーメンにするわ」
「私は王道にとんこつラーメン」
「決まったか?」
「うん」
お互い決断が早いものだ。
「よし、注文するか。すんませーん」
「ハイハイ注文お決まりっすか?」
お、なんか気さくな兄ちゃんだな。髪も軽く染めてるし。名前は…『永近』か。
「ご注文は?」
「あ、このとんこつラーメンととんこつ醤油ラーメンで」
「とんこつと、とんこつ醤油ッスね。ご注文以上ッスか?」
「はい」
「ども、ありがとうございます。学生は替え玉無料なんでよかったらどーぞ。とんこつととんこつ醤油一つ入ります!」
それだけ言って永近さんは他の仕事に取り掛かり始めた。
「なんか気さくな店員さんだったね」
「そーだな。ラーメン屋っぽいわ」
*
「はーうまかった」
「うん。すごく美味しかったね。さすが佐々木さんがオススメするだけあるね」
「よく料理する人がオススメするのは結構いいとこばっかだな」
やっぱ料理するから味もよくわかるのかねぇ。
「実際、あの人が作るラーメンもうまいからなぁ」
「佐々木さん、ラーメンも作るの?」
「ああ。さすがに麺から作ったりはしないけどな」
これで麺から作ったりしてたらすごい。もうラーメン屋になった方がいいんじゃねーかって思うほど。……あれ?あの人麺作ったりしないよね?
「すごいなぁ。なーんか女の子としては負けた気分」
「なんで?」
「やっぱりさ、女の子の方が料理できた方がいいじゃない?女子力っていうか」
「そんなもんかねぇ」
「そんなもんだよ」
俺にはわからん。それに、料理はあの人の趣味だし。
「でも三上も割とよく作るんじゃねーの?弟とかに」
「そうだね。お父さんとお母さんがどっちもいない時は作るかな」
「そんだけできりゃ十分だと思うけどな」
「それでも、だよ。……比企谷くんはどう?料理できる女の子って」
そう言ってずいっと顔を寄せてくる三上。
近い近い近い近い。顔寄せてくんないい匂いするじゃねーか。
「……まぁ、悪い気はしない」
「…そっか。じゃあ料理もっとできるようになろっと」
なんでだ。
*
「さて、本題に戻るか」
「そうだね。あの子、なにがいいかなぁ」
「去年は服だったか?」
「うん。だから今年は違うのがいいなって」
さてどうするか。昨年とは違ってなおかつ妹が喜びそうなものか……。
「そういや他の兄妹はどーしてんだプレゼント」
「私が他の子の分も買ってくることになってるんだ」
「なるほどな……」
そーいや他の兄妹はパーティの準備してるつってたな。まぁ三上の兄妹ならそんくらいできそうだよな。前に会った時なんかしっかりしてる感じしたしな。
「ま、とりあえず雑貨屋でも行ってみようぜ」
「うん」
ーーー
雑貨屋
「……俺が言っといてアレだが、雑貨ってどっからどこまでが雑貨なんだ?」
「雑貨って結構なんでもありだからねー」
それでいいのか雑貨。まぁ『雑』な『貨物』って感じだし概念も雑でいいのか。
さて、ざっと見てみよう。家具、食器、小物、文房具……おっと化粧品とかお菓子まであるのか。本当なんでもあるな。お、これ佐々木さんが持ってるマグカップだ。
ちらっと三上を見てみる。三上は三上で真剣にいろいろ物色している。取っては戻し取っては戻しを繰り返している。
このプレゼント選びにおいて鍵となるのは『兄妹』だな。三上兄妹は基本みんな仲良しだ。妹と弟は三上のことを尊敬、そして親愛の感情を抱いている。三上本人も似たような感じだろうな。
…………ああ、そうか。なんだ、簡単じゃん(多分)
「なあ、三上」
「ん?」
「なんか足りてない食器とかないか?」
「食器?」
「ああ。例えば……コップとか」
「ん〜……あ、マグカップがないかも」
「へぇ、意外だな」
「うん。うち、前まで私とお父さんとお母さんしかコーヒー飲まなかったんだけどね、最近弟たちも飲むようになったんだ。でもコーヒー用のマグカップが無かったからそれとかいいかもね」
ほう。小学生からコーヒーを飲むとはなかなかだな。それなら今度会ったらマッカンを勧めてやろう。
「でも、なんで?」
「兄妹でお揃いのやつとか、どーだ?その誕生日の妹にはプラスなんか買ってやるとしてさ」
「あ!いいかも!」
そういって俺の手を引いて食器コーナーへと向かっていった。
「お、おい」
「善は急げだよ!」
手ぇ離して!柔らかいし手汗でちゃうから!
………そしてなぜか、手を引かれた瞬間『あいつ』の顔が浮かんだ。
*
「ありがとう比企谷くん。おかげでいいのが見つかった!」
三上は結局、色違いのマグカップを四つ買い、誕生日の妹には追加で天然石のアクセサリーを買った。小学生とはいえ、このくらいのアクセサリーだったらするだろう。
「俺はヒント出しただけだ。大したことしてねーよ」
「そのヒントがあったからいいものが買えたんだよ。本当、比企谷くんのサイドエフェクトって便利ね」
「便利ではあるけど、大事なとこで働かなかったりするけどな」
本当どーでもいいとこでは割とよく働くんだが……もっと重要な場面で働いてくれないもんですかねぇ?数学の試験中とか。
「それはあるかも」
「なんでだ」
人に言われるほど働いてないのか。
「だって、誰のも気づいてないでしょ?」
「?」
「ほら。大事なことでは働かない」
「????」
なんの話だ。主語を言え主語を。
「いつか気づかせるから今はいいよ」
「なんの話だ?」
「いいの!」
うーむ、三上は普段は姉力を発揮していろんな人をメロメロにしてる(横山談)らしいのだが、俺の前だとどことなく小町に似た感じになるな。あれか?俺のお兄ちゃんスキルが三上の姉力を上回っていてそれで三上が妹化してるのか?いや無いな。俺より三上の方がいいお姉さんしてるだろうし。
そんなことに頭を悩ませていると広場のようなところにでた。なーんかやたら人が集まっている。よく見たら真上にある渡り廊下でもなんか人だかりができてる。なんだ?
「なんだアレ」
「千円以上お買い上げのレシート見せたら福引ができるんだって」
「へぇ」
福引ねぇ。ロクな思い出ねーな。だいたい当たるのポケットティッシュだし。
というかなーんか嫌な予感するな。アレだな、多分真上の渡り廊下でなんかある。俺のサイドエフェクトがそう言っている。
「どうせだからやってみない?」
「そーだな。当たったらラッキー程度の気持ちでな」
「ふふふ、そうだね」
人だかりに混ざり順番待ちをする。
ふと上を見ると、ちょうど引いた親子連れがなんか当たったようでベルがカランカラン鳴らされてる。
……あ、これやばい。
山盛りに積まれた景品が渡り廊下の柵より高い。なんでそういうとこ配慮しないのかねぇ。
係の人が景品を取ろうとした。しかしその手は景品を掴み損ね景品の山が崩れる。
「あ!危なーい!」
「え?」
そしてその景品は三上に向かって落ちてきた。
「ちょいと前を失礼」
俺は瞬時に三上の前に立ち塞がると落ちてきた景品の群れを瞬時に捌いていく。機械類の景品は床に落とさないように器用に掴み、落としても問題ない景品は手で受け流しそこらに流す。まさに流水岩◯拳みたいな感じだ。
そして景品の群れを全て捌ききる。
「ふぅ……三上、無事か?」
「え⁈あ、う、うん。ありがとう比企谷くん」
なんで顔赤いんだ?ああ、無駄に目立っちまったからか。
景品も、無事だな。よし、これでとやかくいわれる筋合いはないな。
「すみません!大丈夫でしたか⁈」
お、係の人が来た。
「大丈夫っすよ。景品も人も無事です」
「そうですか……よかった……」
「もーちょい低く積むべきでしたね」
「すみません……」
ここで軽く嫌味言ってもバチは当たらんだろ。
……と、思ったら周囲の人が拍手してきた。え、ちょっとなにこれ。やめて。ぼっちは大勢の人に見られるのに慣れてないの!
「あの、もしよろしければこの加湿器、持ち帰ってください。この度はこちらに全面的に非があるのでこのくらいのお詫びはいたします」
俺が瞬時の拍手に対してきょどりまくってると係の人が先ほど救った景品の一つである加湿器が渡された。
「いや、でもこれ……」
「まだ予備はあるので、ご心配なく。お邪魔でなければですが……」
まぁ、くれるならもらっとこう。
「じゃあ、もらいます」
「ありがとうございます。この度は誠に申し訳ありませんでした」
そう言って係の人は去っていった。そして周囲のギャラリーも元に戻っていく。
……なんかドッと疲れたな。
ーーー
あの後俺はなんとなく居づらくなって雑踏から抜けて三上だけ福引を引いてきた。そしたら小型扇風機を当てて帰ってきた。三上ってクジ運いいのか。
そしてそのあと休憩のためにスタバに寄った。
「……疲れた」
「あはは、お疲れ様」
ぼっちをああいう環境にいれちゃいけない。ぼっちを大衆の面前に置く、ダメ、絶対。
腹いせに抹茶ラテをを啜る。チョイスが女子っぽいとか言ってはいけない。うまいものはうまい。ちなみに三上はブレンドコーヒーと近くのミスドのドーナツ。
「でもかっこよかったよ比企谷くん。お兄ちゃんみたいだった」
「お世辞として受け取っとくよ……」
「お世辞じゃないのになー。でも比企谷くん、あんなのどこで覚えたの?」
「あんなのって?」
「あの……なんていうか拳法みたいなの?」
みたいというかアレは完全に拳法ですね。
「アレは佐々木さんに習ったんだ」
「佐々木さん、武術もできるんだ……でもどうして?比企谷くん攻撃手相手でも捌いたりいなしたりできるじゃない?」
「まーそうなんだが……佐々木さんか『こういうの覚えておくといつかきっと役に立つ』って言ってたんだ。それでまあ基礎だけやったら思いの外スジがよかったみたいでな。それから何度も稽古つけてもらってんだ」
ランク戦でも時々使ってるが、どうやら他の人から見たらただ流したりしているだけにしかみえず、それも俺のサイドエフェクトのせいでほとんどの人が『サイドエフェクトを使って捌いている』と考えてしまっているようだ。多分、俺が武術やってんの知ってるのはうちの隊と二宮さん、あとは太刀川さんと風間さんくらいか?
「ま、そんなこんなで鍛錬を続けてたらそこそこモノになってきたってことよ」
「すごいね……」
おかげでただ避けたり捌いたりするだけなら攻撃手相手でもやっていける。倒せはしないけど。
「俺からしたら、オペレーターも十分すごいと思うけどな」
「ええ?戦闘員の方がすごいよ」
「そこはまぁ人それぞれだとは思うが、俺はあんな風に並列処理とかできる気がしねぇ。素直にすごいと思うわ」
「そ、そんなに言われるとなんか照れちゃうな……」
実際のところ、俺たち戦闘員はオペレーターの支援がなければ戦闘力がごっそり削られる。視覚支援、弾道解析、狙撃地点予想、位置情報解析等々……無いと困るものが多い。これらは全てオペレーターありきだ。加えてそれを求められた時に瞬時にこなす。普通にすごい。俺にはとてもではないができそうにない。
「ま、
「うん、そうだね。どっちが欠けてもいけない。そういうものだもんね」
そう言って三上はブレンドコーヒーを口にした。
俺も抹茶ラテを流し込む。
やっぱこれうめぇな。
*
「今日はありがとうね。おかげでいい誕生日パーティーになりそう!」
「お役に立てたのならよかったよ」
休憩の後、俺たちはひとしきりショッピングモールをうろついて解散することになった。もうそろそろパーティーの準備の仕上げをするために帰らねはならないらしい。
「じゃあ、またね」
「あー三上、ちょっと待て」
「ん?」
「あー……その、なんだ?これ」
そう言って俺は紫色の石がはめられたブレスレットを渡す。
「……え、これって……」
「妹のプレゼントのアクセサリー買った天然石の店あんだろ?そこで買った」
「…でも、どうして?」
「その……なんだ?妹達が大事だから妹達の為に身を粉にすんのもいいが、偶には気ぃ休めろよ?妹達も姉に尽くされるだけってのは嫌だと思うからよ、偶には妹達を頼ったりするのも忘れずにな」
「………」
「おせっかいだとは思うけどな……」
「そんなことないよ!ありがとう、すごく嬉しい」
そう言って三上はブレスレットをつけた。
「ねぇ」
「ん?」
「さっきの言葉、アレは経験則?」
「………」
『小町、もう独りは嫌だよ』
最愛の妹の声が、脳裏をよぎる。
「さぁ、な」
「ふふ、そう。とにかくありがとう!」
「おう、さっきあんなこと言っといてなんだが、しっかり祝って来てやれ」
「うん!またね!」
そう言って三上は帰っていった。
三上に渡したブレスレットにつけられた石は『スギライト』。石言葉は、『癒し』。
***
2日後
スマホが振動して画面を見る。また横山あたりから業務連絡かと思ったら相手は三上だった。
『この前はありがとう!とっても喜んでもらえたよ!』
その文書に添えられた写真を見て俺は1人笑う。
「喜んでもらえたなら何よりだ」
写真には色違いのマグカップを持ち満面の笑みで写真に写る三上兄妹の姿があった。
「さて、俺は今年の小町の誕生日になにあげるかねぇ」
そんなことに俺はゆっくり思考を巡らせた。