目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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超絶遅ればせながらあけましておめでとうございます。


新年一発目から番外編で申し訳ありません。年明けてすぐに怪我して入院してました。とりあえずもう退院できたのでご心配なく。
今回、完全にみんなでのほほんとしてるだけです。

では41話です。


41話 食事は、大勢で食べる方がうまい。

ボーダー本部比企谷隊作戦室

 

「うぃーす」

「あ、比企谷くん。おかえり、修学旅行どうだった?」

 

作戦室に到着すると、そこにはなにかの作業をする佐々木さんだけだった。

 

「まぁそこそこ楽しめましたよ」

「そう?ならよかった」

「あ、これ土産のお茶と八ツ橋っす」

「あ、ありがとう」

「で、親父さんはいつ帰ってくるんすか?」

「ああ、今日だよ」

「え」

 

今日かよ。

 

「父さん喜ぶよ。ありがとう」

「いえ。そういや佐々木さんの親父さんってなんの仕事してるんすか?」

 

いつ行ってもいないし、佐々木さんはほとんどあの広い家に一人暮らし状態だ。そんなに家にいない仕事とは一体なんだろう。

そしてその俺の言葉を聞いた佐々木さんはキョトンとした顔になる。なんでさ。

 

「あれ?比企谷くん知らないっけ?」

「いや知らないっすよ」

「ああ、そっか………」

「?」

「そのうちわかるよ。面白いからもう少し秘密にしとくね〜」

 

なんでだよ。

というか佐々木さんなにやってんだ?

 

「なにしてんすか?」

「ああこれ?開発室の研究結果をレポートにしてまとめてるの」

 

また開発室の手伝いかよ。鬼怒田さん、佐々木さんはいつでも使える労働力じゃないんすよ?いいように使うのはやめてくれます?

 

「手伝いはいいですけど、ほどほどにしといてくださいよ。また過労でぶっ倒れますよ」

「あはは…ぐうの音もでないなぁ……。でももう夏希ちゃんに殴られるのは勘弁だからほどほどにするね」

 

そう言って佐々木さんは作業を止めた。

なんとなくレポートの1つを手に取り見てみる。おお、さすがというべきかとてもうまくまとめられている。内容は、銃のトリガーとブレードのトリガーを一体化の実験のレポートだった。多分、レイガストのブレードとシールドの一体化から発想を得たんだろうな。

 

「比企谷くん、コーヒーでいい?」

「ああ、はい。このレポートの実験どうだったんすか?」

「発想はよかったんだけど、どうやら今の技術じゃロクなものはできないみたいだね。そのトリガーそのものは実装できたけど、そのトリガーいれたら他になにもいれられないようになっちゃったみたい」

「まぁ、さすがにノーマルトリガーでブレードと銃の一体化はきついっすよね」

 

FFのライトさんのブレイズエッジみたいな感じかな。できたらすごいけど、まぁきついよな。

 

「そういや横山は?」

「ちょっと前に来たよ。今はちょっとおつかい頼んだんだ」

「おつかい?」

「うん。今日は僕ここに泊まるからさ、夕飯の食材買ってきてもらってるんだ」

 

なるほど。

 

「比企谷くんはどうする?食べてく?」

「じゃあいただきます。小町の分も作ってもらっていいっすか?」

「うんいいよ」

 

よし、晩飯確保。

 

 

それからしばらくは、佐々木さんと雑談を交わしていた。といってもほとんど俺の愚痴なのだが。

 

「それで最後は横山の正拳突きで終わったんすよ」

「うわぁ……鳩尾に夏希ちゃんの正拳突きクリティカルヒットって普通の人なら中身出てきてるよ……」

「ま、横山曰く『それくらい当然の報復でしょ?』だそうで」

「あはは……夏希ちゃんらしいや……」

 

そんなこんなで雑談を続けていると、気づけばかなり長い時間喋っていた。普段あんま喋らないのを自覚しているが、どうもこの空間にいると饒舌になってしまう。いや悪いことじゃないんだろうけど。

というか横山遅くね?

 

「横山遅くないっすか?」

「あ、確かに……夏希ちゃんのことだからナンパされてることはないと思うんだけど……」

 

正確には『ナンパされて連れて行かれることがない』ですよ佐々木さん。あいつルックスだけならなかなかのものですからナンパされるだけならあると思いますよ。

……ん?扉の外に人の気配。2人?

 

「た、ただいまー」

 

噂をすればなんとやら、だな。ん?なんか表情が硬い?

 

「おかえり夏希ちゃん。遅かったね?」

「ま、まぁね……」

「どうした?」

「あーいやー……」

 

なんだよ。

 

「失礼する」

 

そう言って横山の後ろから1人の男性が現れた。身長は……180くらいあるだろうか。顔はどことなく堅物感を漂わせる無表情で、そしてなにより目を引くのが頭の総白髪。って、あれ?この人……。

 

「あ、父さん。おかえり」

「ただいま、ハイセ」

 

そうだ、この人は佐々木さんのお父さんだ。前に一度会った。

……ん?ここ本部だよな?なんでこんなとこいんの?

 

「あ、紹介するね2人とも。この人は有馬貴将。僕の父さん」

「ハイセが世話になっている」

 

再起動するまで約10秒かかった俺たちを責められる人間は、いないはずだ。

 

ーーー

 

「なるほど、遅くなったのは単純にナンパをボコしていただけであって父さんのせいじゃないってことね」

 

ボコしていただけで済む横山も大概であるが、なによりそれが当たり前になってきてるうちの隊が怖い。

 

どうやら横山は、おつかいを済ませて帰ろうとしたらナンパ男に絡まれてそいつらを入念にすり潰した後、本部に入ったら有馬貴将さんに声をかけられたらしい。『比企谷隊の作戦室はどこか』と。なにかの条件反射で殴りかかったが、全て避けられて挙げ句の果てに持っていた買い物袋を知らぬ間に奪われるという事態に陥ったらしい。そして素直にここまで案内した、ということがここまでの経緯だ。

 

「はぁ」

「いやびっくりしたよ。急に話しかけられてその人が男だったから条件反射で殴りかかったら余裕でかわされるんだもん」

 

驚くのそっちかよ。

 

「すまなかった」

「いえいえ。というか苗字『佐々木』じゃなくて『有馬』なんですね」

「ああ」

「うちは夫婦別姓だったんだよね、父さん」

「そうだ」

 

本当口数少ないな。最低限のことしか言ってねーわこの人。

 

「それで、父さんは婿養子だったから僕の苗字は母さんの佐々木になったってこと」

「へぇ……」

 

ここ最近、夫婦別姓は珍しくないって聞くしそういう家庭もあるだろうな。

 

「で」

「ん?」

「なんでサッサンのお父さんがボーダー本部(ここ)にいんの?」

 

そう、それだ。それが一番疑問なんだ。

かれこれ俺はもう三年近くボーダーにいる。そして佐々木さんとチーム組んだのは約2年半ちょい前。だというのに佐々木のお父さんがボーダーに所属してるなんて聞いたことなかったし、こんな目立つ人を本部にいたら気づくはずなのに見たこともない。支部の所属だったとしてもここまで話を聞かないなんてことあるだろうか。

 

「ボーダーってさ、県外スカウトとかもしてるでしょ?」

「ああ、はい」

「あれってさ、今はA級隊員がやってるけど、昔は上層部がやってたんだよね。そもそもA級にそういう仕事が振られるようになったのって僕たちがA級に上がる少し前くらいからなんだ。それまでは管理職の人たちだけでどうにかなってたみたいだけど、人手が足りなくなってきてA級にも仕事させるようになったんだ。その1つが県外スカウト。で、父さんはその県外スカウトを昔からやってる人なんだ。

とは言ってもスカウトだけじゃなくて唐沢さんの営業みたいなことも最近は結構してるみたい。A級隊員がスカウトやるときの総指揮官みたいなことが主な仕事だよね」

「ああ」

 

つまり、基本県外活動がほとんどで本部にいるような仕事はしていないってことか。

 

「昔から県外活動なんすか?」

「ああ。ボーダー本部ができてすぐにその役職を与えられたからな」

「僕がボーダー入った理由は迅くんに言われたからだけじゃなくて父さんがいるからっていう理由もあるんだ」

 

なるほどね。

 

「多分、父さんのこと知ってる人は県外スカウトに行ったことある隊だけだと思うよ。ほとんど父さん本部にいないもん。あとスカウトされた人とか」

 

じゃあうちが知らなかったのもうなずける。うちは本部での仕事を多く受ける代わりに県外活動しなくていいようにしてもらってる。だから知らなくても別段不思議ではない。

……しかし、こんな無口で無表情の人がスカウトとかできるのか?

 

「今、『こんな無口な人がスカウトとかできんのか?』って思ったでしょ?」

 

なぜバレてる!

 

「だってよ、父さん」

「俺は与えられた仕事をこなすだけだ」

「父さん、どんな仕事でも与えられたら『はいわかりました』ってやっちゃう人だからスカウトだってやるよね」

「ああ」

 

なるほど。仕事人タイプか。

 

「有馬さんは、その、ボーダーができる前からボーダーにいたんですか?」

「いや、違う。俺は元々捜査官だった」

「捜査官?」

「あーなんの捜査官かは言えないから気にしないで」

 

余計気になる。まさかCIAとかじゃねーだろうな。

 

「家内が四年前の第一次侵攻で死んだのがきっかけでボーダーに入った」

「へぇ……」

「家内が死んで、ハイセがそれなりに大きな怪我をした時、俺は側にいてやれなかった。だからもう二度とこんなことが無いように少しでも力を尽くしたかった。それだけだ」

「へぇ…」

 

思ってたより人間味のある人だな。もっとこう……無神経な人なのかって勝手に思ってたんだけど、家族思いのいいお父さんだ。

しかしなんだこの人から溢れ出る強者オーラは。多分太刀川さんより強いオーラ出てんぞ。なに?念能力でも使えんの?どう考えてもギャグ空間にいちゃいけないよこの人。

 

「どうしたのハッチ」

「いや、なんでも……」

 

多分気のせいだろうし、いいか。

 

 

その後、しばらく有馬さんを含めて談笑していた。有馬さんは自分から話を振ることはないが、話を振ればある程度話す。特に仕事の話なら割と饒舌だ。

 

そして気づけば夕方過ぎくらいになっていた。

 

「あ、そろそろいい時間だしご飯作ろうか。2人とも、手伝ってくれる?」

「うす」

「オッケー」

「ありがとう。父さんは好きにしてていいよ」

「じゃあランク戦のムービーでも見てる」

 

えーやめて。恥ずかしいから。

と、俺の内心など露ほども知らない有馬さんはタブレットでムービーを見初めていた。ま、いっか。

 

「で、今日はなに作るんすか?」

「からあげとキスの天ぷら。僕は天ぷらの方やるから2人はからあげの方やってくれる?」

「揚げ物ばっかね」

「父さんの好物なんだ」

 

有馬さんの好物、思ってたより王道だった。

 

「じゃ、早速やってくか」

「オッケー」

 

そう言って横山とともに大量の鶏肉をぶつ切りにしていく。多分佐々木さんは有馬さんがここに来るのを知ってて横山にこの量のお使いを頼んだんだろうな。……でも4人分ってこんなに多かったっけ?有馬さんがめちゃくちゃ食うとか?

 

 

しばらくもくもくと鶏肉を切っていき、残りの量がだいぶ少なくなってきたところで別の作業に移る。

 

「ハッチ、残りの鶏肉はあたし切るからハッチはにんにくと生姜すりおろして。あと醤油と胡椒も必要分用意しといて」

「はいよ」

 

指示を受け、にんにくと生姜をすりおろしにかかる。この2つは鶏肉に下味をつけるためのもので無いと有るとではだいぶ味に差が出る。一度家で小町に作ってやった時にんにくと生姜無しでやったらなんとなく味が薄かった。小町はうまいうまいっていいながら食ってたけど。

 

そんなどうでもいいことを考えながら作業していて、気づいたらすりおろし終了していた。

 

「次は醤油と胡椒……」

 

必要分だけとってっと……。なんかアレだな、無人島生活で調理してるときのBGMが頭の中でリピートしてきそうだわ。

 

「こっち終わったよハッチ」

「おう。こっちも準備できた」

 

そういって醤油、胡椒、生姜、にんにくをポリ袋に入れてさらにそこに鶏肉をぶち込む。そしてその袋の口を閉じて馴染ませるように鶏肉をよく揉む。ふむ、柔らかい。

 

「そろそろいいんじゃない?」

「おう」

「じゃ、次は卵割って」

「へいよ」

 

鶏肉は5分ほど放置。その間に卵を割って、さらに揚げ衣になるための片栗粉と小麦粉を混ぜたものを用意する。

非常にどうでもいいが、ここ最近料理スキルが上がって卵を片手で割ることができるようになった。片手で割れるとなんかかっこいいよね。え?そうでもない?

 

 

5分経過

 

 

調味料に漬け込んでた鶏肉を卵に漬ける。この時調味料をよく切っておくことが大事だとか。

卵につけた鶏肉は、次に用意しておいた小麦粉と片栗粉を混ぜたものをまぶす。これは揚げ衣になるやつだな。

 

「ハッチ、あとは揚げるだけだから後はあたしやっとくよ」

 

お?

 

「珍しいな横山、お前がそんなこというなんてっ!」

 

その瞬間、生身とは思えない速度の拳が俺の頬を掠めた。

 

「お前のアホ毛も唐揚げにしてやろうか」

「ゴメンナサイ」

「ほら、邪魔だからさっさと戻って」

 

おお怖。あれが本当に女子だとは思えないね〜。掠ったところなんかヒリヒリするし。これで切り傷になってたらあいつの戦闘力はもはや人間の域を超えることになるな。

さて、やることもなくなり手持ち無沙汰になったな。有馬さんは相変わらずムービー見てるし。

 

「君は、なかなか強いみたいだな」

 

お、まさか向こうから話しかけてくるとは。

 

「まぁ、一応ソロランク5位なんで……」

「射手なのにやけに体術にキレがあるが、誰かに教わったのか?」

「ええ、佐々木さんに」

「そうか、ハイセに……」

 

お、笑った。

 

「比企谷は…」

 

いきなり呼び捨てか。あ、嫌ってわけじゃないよ?

 

「背中に目でもついてるのか?」

「はい?」

「後ろから来た風間の攻撃を全く見ずにかわしている。普通の射手には到底マネできないだろう芸当だ。背中に目がついているのか、それとも菊地原みたいに耳がいいのか?」

 

言いたいことはわかるが、なぜ背中に目がついているのが真っ先に出てくるのだ。この人、天然?

 

「あー……俺のサイドエフェクトでして……」

「サイドエフェクトか」

「超直感っていうサイドエフェクトです」

「カンがいいってことか」

「まぁ端的に言えばそうですね」

「そうか」

 

そういうと再び有馬さんはタブレットに視線を落とした。

それから有馬さんはしばらくなにも話さなかったが、不思議と気まずい感じではなかった。

 

 

やはりこの人は、佐々木さんの父親なのだとこの時思った。

 

 

しばらくそのまま調理と横山と佐々木さんの話し声のみが聞こえる時間が続いた。

ふむ、小腹がすいたな。メシの前にほんの少しなんかつまみたいな。唐揚げ1個くらいくれねーかな。くれねーな。「永遠の休みをくれてやろうか」とか言われそう。

 

「はい」

「ん?」

 

そんなアホみたいなことをぼんやり考えていたら、目の前に枝豆が乗せられた皿が置かれた。

 

「ごはんもうちょっとかかるからこれでも摘んで待ってて」

「あ、ども」

 

ありがたい。さすが佐々木さん。絶妙なタイミングで俺が欲しいものを持ってきてくれる。

ふむ、飲み物も欲しいな。それくらいは自分でやろう。有馬さんも飲むか聞いておこう。

 

「有馬さん、なにか飲みます?」

「なにがあるんだ?」

「えーっと……水、コーラ、サイダー、オレンジジュース、ジンジャエール、麦茶ですかね」

「麦茶で」

「うっす」

 

麦茶か。無難だな。さて俺はジンジャエールでも……。

 

「どぞ」

「ありがとう」

「いえ」

 

そういって俺はジンジャエールを一口飲み、枝豆をつまむ。うむ、この塩がまたいいんだよな。

しかし、食事前に軽く枝豆つまむとか居酒屋のお通しみたいだな。居酒屋行ったことないけど。

 

「む」

「ん?」

 

有馬さんが変な声をだす。なんだと思って見てみたら、なにを間違えたのか、枝豆を皮の中で潰してしまったらしい。

 

 

………やっぱ天然だろこの人。

 

 

「はい、お待ちどー様!」

 

しばらくして料理が完成する。唐揚げ、天ぷら、シーザーサラダ、きんぴらごぼう等々多数の料理が我らの作戦室の食卓に並んだ。我ながら圧巻である。しかも全部うまそう。

 

「いやー張り切って作りすぎたかもしれないね」

「お疲れ様っす」

 

でもこの量はさすがに4人でも食いきれないだろ。大皿に山盛りだぞ。他にも誰か呼んでんのか?

 

「じゃあ冷める前に食べちゃおう」

 

 

『いただきます』

 

 

そういってまず天ぷらを取る。天ぷらの種類はキス、かぼちゃ、ナス、人参、シソだ。キスから食ってみよう。天ぷらを塩につけて一口……。

 

「お、うまい」

「そう?よかった」

「佐々木さんのメシがうまくなかったことないっすよ」

「あはは、そう?嬉しいなぁ」

 

次は天つゆにつけて……うむ、うまい。俺は塩より天つゆの方が好みだな。この唐揚げともとんかつとも違う軽い食感がいいんだよな天ぷら。

 

次は唐揚げをっと……

 

「うめぇ……」

 

やべぇ超うめぇ。サクサクした食感に加えて中からは熱々の肉汁があふれ出てくる。これと一緒にごはんをかきこむ。これぞ最強の組み合わせ!異論は認めない!

 

「あ、そうだ。今日はこれも作ってみたんだ。よかったら食べてよ」

 

そういって佐々木さんが差し出してきたのは、なんかのタレと……タルタルソース?

 

「これは?」

「唐揚げにかけてみてよ」

 

ふむ、ならかけてみよう。

唐揚げにタレをかけて、タルタルソースを添える。これは……

 

「チキン南蛮?」

「あ、わかった?」

「タレでなんとなく」

「どう?おいしいでしょ?」

「はい」

 

これはうまい。タレがうまく唐揚げに絡み合い、タルタルソースの中に入ってるよくわからんやつがなかなかにうまい。

 

「このソース、なにが入ってるんすか?」

「らっきょう」

 

らっきょう……だと……?まさからっきょうが入ってるとは思わなかった。

 

「どう?父さん」

「うまい。このらっきょうがいい」

「よかった!」

 

らっきょううめぇ。ハマりそう。小町の分も作ってもらったから小町にも食わせてやろう。

………ん?なんか気配が近づいてきてる。この気配は……。

 

「おっすサッサン、飯食わせてくれる言うてたから来たで」

 

なんと生駒さんだった。他にも水上さん、隠岐、南沢、細井もいる。生駒隊勢ぞろいだ。

 

「あ、生駒くん。待ってたよ。ほらみんな座って座って」

「ほな、ササキメシいただきますか」

「ササキメシ随分久々やな〜」

「オレサッサンの飯めっちゃ好きやねん!」

「南沢、うるさいで。もう少し静かにできひんのか?」

「マリオちゃん、あのササキメシが食えるんや。テンション上がってまうのもしゃーないんとちゃう?」

「それは………まぁ……」

 

おお、さすが関西人。いるだけでその場が騒がしくなる。

有馬さんいるけど、いいのかな?

 

「お、有馬さんやん。久しぶりですね」

「ああ、久しぶりだな生駒」

「長らくご無沙汰しとりました。うち、だいぶ強なりましたよ」

「そうか」

 

え?なに?この人たち知り合いなの?

と、そんな疑問に答えるかのように佐々木さんが俺に耳打ちした。

 

「生駒隊のみんなは父さんにスカウトされてボーダーに入ったんだよ」

「あ、だから知ってたんすか」

「うん。生駒くんに今度父さんが帰ってくることを話したら『久々に会いたい』って言ってたからどうせならみんなで食事でもってことになったんだ。ごめんね、伝えてなかったよね。忘れてたんだ」

「いや、問題ないっす」

 

生駒隊とはそこそこ繋がりがある。三輪とか香取とか来られたら空気悪くなると思うけど。

 

しかし人が増えて一気に賑やかになった。本来なら静かなのを好む俺だが、こういう騒がしさは好きだ。戸部みたいな騒がしさは嫌い。

 

「よし、早速乾杯といこか。サッサン、ビール」イコさん、あんた19やろ。

「ここは本部だよ。そんなもの置いてないよ」

「なんや、そうなんか」

「ここ、一応職場だってこと忘れないでね」

 

うん、ここ職場な。酒置いてちゃだめだろ。

 

「なんだ、ないのか」

 

有馬さん、あなたもか。

 

 

それからしばらくどんちゃん騒ぎが続いた。やはり関西人、場を盛り上げるのに手慣れている。

 

「ほら飲み夏希ちゃん、ジンジャエールやけど」

「ああもうイコさんそれ私がとろうとした唐揚げや!横取りせんといてや!」

「おお!この天ぷらうまいわ!さすがサッサンやな!」

「サッサン、そっちのサラダ取ってや〜」

 

うん、やっぱり生駒隊はテンション高いわ。

佐々木さんと横山は生駒隊とつるんでいるためなんだかいろいろと忙しそう。

もともと静かな俺と有馬さんはなんとなく端っこにいってる。でも嫌ってわけじゃない。

 

「みんな元気だな」

「そっすね」

「君は行かないのか?」

「ええ、まぁもともと静かな方なんで」

「そうか」

 

ま、誘われればそこに行きますけどね。メンバーにもよるけど。

 

「………ハイセは、昔から優しかったが、優しすぎた」

「え?」

 

なんか急に昔話が始まったぞ。

 

「その性格から小学生の頃に同級生にいじめられることもあっても、笑って流していたりしていた」

「………」

「俺は昔から家にあまりいなくてな。妻も仕事していたからハイセに構ってやることができなかった。でも親友に助けられていたから心が折れずに済んだ」

 

親友?少なくとも俺は知らない………あ、前に電話してた『ヒデ』って人かな?

 

「それにハイセは頭も良くて、俺や妻に心配をかけまいと気丈に振る舞ってた。妻は気づいていたが、俺は気付けなかった。『あの日』まで」

 

あの日、か。

 

「その時、初めてハイセが泣くのを見た。無論赤ん坊の時はよく泣いてたがな」

「はぁ」

「さっき、ハイセがボーダーに入った理由を言っていたが、あれは本当は順序が逆なんだ」

 

え?

 

「ハイセが俺より早く立ち直り、『ボーダーに入りたい』って言った。だから俺もボーダーに入ったんだ。だが、入隊希望の時期的に俺の方が早く勤めることになったからハイセは勘違いしているようだが」

「あの人らしいっすね」

「ボーダーに入ってからハイセは変わった。明るくなった。きっと周囲に恵まれたんだろうな」

「そう、ですね」

「君も、きっとハイセを支えてくれたんだろう」

「いえ、俺は助けられてばっかりっすよ」

 

本当、佐々木さんには助けられてばっかりだ。

 

「……いや、君は無意識だろうがハイセは助けられてるさ」

「………そっすか」

「これからも、ハイセを頼む」

 

そう言って有馬さんは僅かに微笑んだ。

 

「……うす」

「そっち2人〜なにしとるんや!こっちでメシ食いー」

「……いこうか」

「そっすね」

 

 

 

 

 

佐々木さん、あんたのお父さんはすごくいい人だよ。恵まれてるな、俺も、佐々木さんも。

 

そう思いながら俺は騒がしい空間に入っていった。

 

 




初登場の人物
有馬貴将
ハイセのお父さん。総白髪で無表情で高身長というどことなく近寄りがたい風貌であるが、中身は天然で割とお父さん感がある。基本的家にいないが、週一で必ずハイセに電話をしているという割とマメな一面もある。ボーダーに入る前はどっかの合衆国の秘密捜査官の日本支部にいたという裏設定があるが、多分使う機会も書く機会もない。一応トリガーを持っていてランク戦に参加することもできるが、彼が参加するといろいろと終わるから本人の意思もあり参加する気はない。そもそも仕事でほとんどボーダーにいないから参加することはほぼ不可能。

好きなもの ハイセの手料理 本
嫌いなもの 特になし

次回は多分みかみかとデート

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