目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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前回、琲世のお父さんが有馬さんだということに衝撃を受けたという感想を多数いただきました。それについて当事者である琲世と有馬さんのお話を聞きたいと思います。

琲世「え、そんなに驚くことですかね…?有馬さんはどう思いますか?」
有馬「特にない」
琲世「原作でも有馬さん、僕のお父さんで先生でしたからね」
有馬「そうだな。とはいっても、今後俺が出る展開はそうないだろうが」
琲世「まぁまぁ、そう言わずに。作者がそのうち出したいって言ってましたよ」
有馬「………」
琲世「そこで黙らないでくださいよ……あ、それと今回が今年最後の投稿となります。読んでくださる皆様、良いお年をお過ごしください」

では40話です。




40話 面倒事は、どう足掻いても面倒なものである。

三浦に喧嘩売った(というか売られた)翌日、俺は伏見稲荷大社に来ていた。要はあれだ、千本鳥居。

 

そしてついたはいいが、回る相手がいない。まぁぼっちで回るか。

 

「あ、比企谷くん」

「ん?お、三上」

「比企谷くんも伏見稲荷大社来てたんだね」

「おう。ここは見ておきたいと思ってたからな」

 

なにせ佐々木さんがめちゃくちゃ推すものだからな。あの人がここまで推すのも珍しかったし、なにより単純に興味あった。

 

「あれ、比企谷くん1人?」

「俺は学校だと基本1人だ」

「奉仕部の人達は?」

「ここに来る直前ではぐれた」

 

大方、由比ヶ浜が1人で突っ走ってそれに雪ノ下が付いて行ったという形だろう。一応連絡はついているが、わざわざあいつらと合流すんのも面倒だ。依頼?俺がいようがいまいが由比ヶ浜が勝手にやってるよ。

 

「そっか」

「お前は?」

「私は……友達と…」

「そうか。じゃあそっち行ってやれ」

「……べ、別に比企谷くんと一緒に行きたくないとかじゃないからね。前から約束してただけだから」

 

いや別にそれは言わなくていいからね。わかるから。

 

「……だ、だからさ。今度よかったらどこか一緒に行かない?」

「え?」

「ひ、比企谷くんさえよければ、なんだけど、一緒にお買い物でもしたいなって……」

 

ふむ、まぁ特別断る理由もないか…。

 

「いいぞ」

「え!本当⁈」

「ああ」

「ありがとう!じゃあまた今度、約束ね!」

 

そう言って三上は友達のとこに戻って行った。

三上にはちょくちょく世話になってるし、なんか奢ったりしてやるかね。

 

 

伏見稲荷大社の本堂まできた。

 

「おお……」

 

伏見稲荷大社は千本鳥居が有名であるが、本堂は本堂でなかなか圧巻である。創りの1つ1つも細やかで、昔の人はよくこんなの作ろうと思ったもんだ。

とりあえずお参りを済ませるか……。

 

「お、ハッチ」

「あれ、八幡くん」

「お〜比企谷くんじゃないか〜」

「よお。お前らも来てたのか」

 

特進クラスD組の横山、綾辻、宇佐美だった。こいつら並ぶとなかなかオーラが凄いな。全員美人だから話してると他からの視線が痛い。

 

「八幡くんも来てたんだね」

「おう。佐々木さんが勧めてきたからな」

「そういや言ってたねサッサン」

「私たちは普通に行きたいって思ったから来たんだよね」

 

……なんか佐々木さんの勧めは別に興味ないって言われてる気分。なんでだろう、当事者じゃないのにすごく心が痛む。

 

「とりあえずお参り済ませちまおうぜ」

「そうだね」

 

ーーー

 

お参りを済ませ、再び散策を開始する。一緒に行く相手もいないがこいつらに混ざってるとなんか視線がやばいから離れようとしたのだが横山の尋常ならざる力で首根っこ掴まれて結局一緒に行動させられてる。解せぬ。

 

「おみくじ引こうよ!」

「お、いいね〜」

 

おみくじね。嫌な予感しかしないわ……。

 

「すいませーんおみくじ引かせてくださーい!」

「はい。200円です」

 

地味に高いな。

 

「えーっと……24番!」

「私は3番」

「私は31番で」

「ほら、ハッチも」

「ああ?あー………4番」

 

巫女さんが指定の番号に入ってたおみくじを渡してくる。さて、早速見てみるか……。

 

「あたし吉だったわー。遥と栞は?」

「私は大吉!」

「私は中吉だった〜」

「おお、遥やるじゃん!見せて見せて!……ほっほーう?」

「な、なによ」

「いやぁ別にぃ?ねぇ栞」

「ねぇ〜」

「…………」

 

なーんの話してんのやら。なんで綾辻顔赤いんだ?おみくじってそんな恥ずかしがるような内容書いてねーだろ。大吉ならなおさら。

さて俺のは……

 

「………………」

「ハッチ、どしたの?なんかすごく顔が引きつってるよ?」

「いや、別に」

 

今年はいいことがありそうだ……。

 

ーーー

 

「……私、凶のおみくじ初めて見た」

「俺もだよ……」

 

綾辻の笑顔が軽く引きつり、俺に至っては綾辻の三倍引きつっている。

俺が引いたおみくじはなんと凶だった。書いてある内容も散々だったし。しかもこれから仕事先でなんかトラブルがあるとか言われてるし。勘弁してくれよもう……。

 

「後で結んでこようね」

「おう………というか横山と宇佐美遅くね?」

 

お土産少し見たいといって土産屋に入っていったが、それにしても遅い。

 

「………そもそも土産屋にいなくね?」

「え?………あ、本当だ」

 

ザッと見てみるが、それらしき人影は見当たらない。あいつらどこ行きやがった。

 

「どこ行きやがったあいつら」

「夏希がいるしナンパされるとかではないと思うけど……」

「……とりあえずそこらへん回りながら探そうぜ」

「そうだね」

 

 

「はーすっげーなぁ…」

「本当。こんなにたくさん鳥居があるってすごいね」

 

現在、俺と綾辻は千本鳥居の道を歩いている。初めてみたがなかなか圧巻だ。

 

「こんなに用意して、一体なにがしたいのかねぇ」

「鳥居っていうのは、本来神様のいる幽界と現世を繋ぐ門の意味を持っているの。それで鳥居を奉納することは、鳥居を献上することによって『願いが通る』っていう語呂合わせから生まれた風習なんだって」

「要は願いが叶うためのゲンを担いだことから生まれた風習ってことか」

「そうなるね」

 

今も昔も願いを叶えるためにゲン担ぎしたりしてなんら変わらねーんだな。F◯teの聖杯だって似たようなもんだろうし。あれ?違う?

 

「しっかし恐ろしい数あんな」

 

本当に千本あるんじゃねーか?いや、もはや千本以上あるんじゃねーのかここまできたら。

 

「実際は一万基程あるらしいよ。でも劣化したりするから1日3基くらいは修理したりしてるんだって」

「ほー」

 

よく調べてる。

 

「詳しいな」

「ここは夏希と栞とくる予定だったから一緒に調べてたんだ。調べてたら佐々木さんが色々教えてくれたけど」

「予定っていうか現に一緒に来てたじゃねーか」

「まぁそうなんだけど……あの2人どっか行っちゃったし…」

 

大方、横山が暴走してそれに宇佐美が巻き込まれたのだろうな。

 

「そこそこ長い付き合いになってるけど、相変わらず横山は何考えてるかわかんねーな」

「あはは、夏希は気まぐれだからね」

「とんだ脳筋女をオペレーターにしちまった……ん?」

「どうしたの?」

「いや、なんか今一瞬今までに感じたことのない程強い殺気が……」

(夏希……)

 

なーんか見られてるような……でも横山らしき気配もしないし……。まぁこんだけ人いれば似たような気配に紛れちまうもんだろうな。

 

 

 

 

 

 

「あんの腐り目アホ毛隊長……あたしの粋な計らいにも気づかない遥の気持ちにも気づかない挙げ句の果てにあたしへの悪口か!離して栞、あたしあの腐り目に目潰ししないと気が済まない!」

「落ち着いて!落ち着いて夏希!ここで目潰ししたら全て水の泡だから!というかなんで夏希こんな力強いの!」

「日々鍛えてんのよ!家の道場でね!」

「なんでもいいから落ち着いてぇ!」

 

比企谷と綾辻の2人の少し離れた場所で女子高生が女子高生に押さえつけられているという謎の光景が広がっていた。

 

 

だいぶ登ってきた。

今は市内を一望できる頂上付近まで登ってきた。そこには休憩するための茶屋があったり、ここにもおみくじやらお守りやら売ってる売店がある。

 

「少し休憩するか」

 

俺は日々鍛えてるからともかく、綾辻は普通の女子高生だ。休憩がいるだろう。

 

「うん、そうしてくれるとありがたいかな」

「じゃあそこの茶屋でも入るか」

「うん」

 

ーーー

 

茶屋に入り俺はほうじ茶、綾辻は緑茶を頼んだ。

 

「ここ、いい眺めだな」

「そうだね。お茶しながらこんないい眺め見られるなんてすごい」

「三門市は基本高低差ないからこういう光景はあんま見られないんだよな」

 

せいぜい本部の屋上から見れる程度だが、それとこれはなんか違うと思う。そもそも本部の屋上はこんないい感じの雰囲気なんてかけらもない殺風景な場所だ。

 

と、そんな会話をしていたらお茶が運ばれてくる。

早速一口……

 

「お、うまい」

「本当。普段飲んでるのとは違うってすぐにわかるね」

「ああ、素材が違うってのは想像以上に味に差が出るって本当なんだな。こうして飲むと良くわかる」

 

佐々木さんが「いいものを使ったものは、それだけでいいものになるんだよ」って前に言ってたな。現にあの人が淹れたコーヒーでもいい豆を使ったものと普通の豆を使ったものではかなり差があった。俺も料理はしたりするが、こういうお茶とかコーヒーは淹れたりしない。だからよりこういう風に実際に飲んでみるとその言葉が本当なんだってより実感する。

 

………ん?お茶……佐々木さん……あ、そういえば。

 

「綾辻、お前この後は?」

「え?この後は本当なら嵐山にいく予定だったけど、夏希と栞とはぐれちゃったしどうしよっかなって」

 

なんだ、もともと嵐山行く予定だったのか。ちょうどいい。

 

「次、俺嵐山行く予定なんだ」

「そうなんだ」

「ちょっと頼まれ物があってな」

「へぇ。なに買うの?」

「お茶」

「お茶?お茶なんて頼む人いるんだ」

「佐々木さんだよ」

「ああ(察し)」

「綾辻さえよければ一緒に行かねーか?」

 

まぁ普通に1人で行ってもいいのだが、意見をくれる人がいてくれる方がこちらとしては心強い。

 

「行く!」

 

決まりだな。

 

 

嵐山

 

「おお、さすが嵐山だ。人がすげー」

「本当だね。で、嵐山で他になにか用あるの?」

「ん?まぁちょっとな。他の人の土産もここで買う」

「なるほど」

 

しばらく人混みをかき分けながら進む。

すると1つの寺の前を通った。雲龍寺?なにそれかっこいい。

 

「あ、雲龍寺だね。せっかくだし入って行かない?」

「そうだな」

 

ーーー

 

「で、ここなんで雲龍寺っていうんだ?」

「ここにはね、雲龍っていう雲と雨を司る龍の絵が飾られてるの。その絵がすっごく大きくて迫力があってすごいんだって」

「へぇ…」

 

本当よく調べてる。なに?綾辻も雪ノ下みたいにじゃらんなの?それともそれも佐々木さんの入れ知恵?

 

しばらく進むと入場ゲート的なとこにきた。そこで入場料を払って靴を脱いで中に入る。

中は昔ながらの畳の部屋ばかりだった。俺らが歩いてるとこは縁側みたいなとこだが、これはこれでなんか風流な感じがする。無論、その畳の場所には入れないのだが。

 

「へぇ、いいなこういうの」

「風流ってこういうことを言うのかな」

 

多分そうだろう。

そしてそこから少し進むと開けた場所に出た。そしてそこには巨大な龍の絵が飾られていた。

これが雲龍か。

 

「おお……」

「すごい迫力…」

 

今にも動き出しそうだ。絵の一筆一筆に魂が込められてるように感じる。

そしてその絵の正面には庭。この庭もなかなかいいものだ。

 

「これは入場料払う価値あるわな」

「本当。きてよかった」

 

撮影できないのが悔やまれるが、その分記憶に焼きつけておこう。

 

 

雲龍寺を出て本来の目的である土産を確保しにきた。

小町は……まぁお菓子でいいだろ。ちなみに小町は俺が修学旅行行ってる間は那須の家やら日浦の家やらに(カマクラも一緒に)泊まらせて貰っている。さすがに中3女子を3泊4日1人にさせるわけにはいかない。まぁそういうのも含めて那須と日浦には多めに買っていこう。

出水と米屋にも適当にお菓子を買ってくか。

 

「んー………」

 

出水と米屋とか男性陣はともかく女性陣、特に小町那須日浦にはなにを買うべきだろうか。お菓子なのはいいけど……。

いろいろ物色してると、綾辻が寄ってくる。近い近い近い近い。

 

「どうしたの?」

「ああ、いやその……」

 

まずは近いことを突っ込むべきだろうか?

 

ーーー

 

「…って訳でな」

「なるほどね。じゃあ私いてよかったね」

 

誘ったのはこちらだが、いてくれてすごく助かる。どうせ買うなら喜ばれるものがいい。こういう時俺のサイドエフェクトは仕事をしない。働けサイドエフェクト。……おっと、なんか今寒気がしたような?

 

「あ、これなんてどう?」

 

そう言って綾辻が手に取ったのは辻利の抹茶チョコ。おお、王道って感じだな。むしろ俺も食べたいくらいだ。

 

「ふむ、確かにそれはなかなか良さそうだ」

「でしょ?あ、あとこれなんかもどう?」

「それは……金平糖か?」

「うん。小さくて可愛い感じの。あとこのクッキー詰め合わせとかも良さそう」

「ふむ……」

 

確かにどれもこれも良さそうだ。

しかし綾辻は一体どういう判断基準で決めてるのだろうか。

 

「うまそうなのポンポン見つけるが、どうやって見分けてんだ?」

「え?簡単だよ。私が『美味しそう』って思ったのを手に取ってるの」

 

なるほど、そういうことか。確かに自分がうまいと思えなければ相手もうまいと思えないものを贈ることになるもんな。

 

「でも」

 

ん?

 

「八幡くんに貰ったものなら、私はなんでも嬉しいかな」

 

「っ………」

「あ、これはどう?」

「お、おう」

 

……不覚にもドキッとしてしまった。

 

ーーー

 

「さて、次はお茶だが……」

「ごめん、さすがにお茶はちょっとわからない」

「まー適当に意見してくれればいいから」

 

現に佐々木さんも『俺の勘に任せる』って言ってたし。

 

さて、早速見ていこう。緑茶ほうじ茶日本茶その他もろもろ……。ここはやはり王道に緑茶か?

 

「そういえばさ」

「ん?」

「佐々木さん、なんでお茶買ってきてくれなんて言ったの?佐々木さんって基本コーヒーのイメージがあったんだけど」

「ああそうだな。なんか親父さん帰ってくるんだとさ」

「佐々木さんの?」

「ああ」

「私、佐々木さんのお父さん見たことないなぁ。家には何度か行ったことあるけどいつも佐々木さんだけしかいないし」

 

確かに佐々木さんの家はいつもなんかやる時の会場にさせられてるが、本当にいつでも上がらせてくれる。父親がいるとは言っていたが見たことはないし、そもそも父親が帰ってくるなんて話を佐々木さんから聞いたことはほとんどない。

 

「八幡くんは佐々木さんのお父さん見たことあるの?」

「ああ、一回だけな」

「どんな人?」

「………あんま佐々木さんには似てない。基本無表情でなに考えてるかよくわからん。あと無口」

「佐々木さんに全く似てなさそうだね……」

「あと、髪が佐々木さんと同じ」

「……そっか。でもどうして知ってるの?」

「いや、佐々木さんの家に泊まった時忘れ物しちまってさ。で、その忘れ物取りに行ったらいた」

 

あの時はビビった。ピンポン押して出てきたのがあの人だったから。

 

「それはびっくりするね」

「ああ、マジでビビった」

 

それに、あの人は強い。何かはわからないがあの人から出てくるオーラは強者のそれだ。下手したら戦闘中の太刀川さんより上かもしれない。

 

「でもそんなに家にいないなんてなんの仕事してるんだろうね」

「そういや俺も知らねーな……今度佐々木さんに聞いてみるわ」

 

覚えてたら、な。

 

そしてその後、サイドエフェクトに任せて適当にお茶とお茶菓子を買ったのだった。

 

 

「あ、ヒッキー」

「おん?」

 

由比ヶ浜か。あと雪ノ下もいる。

 

「あれ、遥ちゃんも!やっはろー」

「由比ヶ浜さん。夏休み以来だね。雪ノ下さんも」

「ええ」

「お前らなにしてんだ?」

「ほら、戸部っちの依頼の場所探し」

 

ああ……せっかく面倒事忘れてたのに…。

 

「依頼?」

「あーまーちょっとな……」

 

さすがにこの面倒事に綾辻を巻き込むわけにはいかない。人の恋愛沙汰を勝手に言うのもなんか気がひけるし。

 

「ふーん。ちょっと気になるけど、なんとなくあんまり突っ込んでほしくないような内容なのは察したよ」

「助かる」

「でも」

 

え、なに?なんかあるの?

 

「なにか手伝えることはあると思うの。なにか手伝おうか?」

「えーっと……」

 

俺の一存で決めていいなら喜んで手伝ってもらうが、この場には一応雪ノ下と由比ヶ浜がいる。こいつらの許可を取らないとまずいだろうと思い2人に視線を移す。

 

「私は構わないわ。意見が聞けるのはいいことだと思うし」

「あたしも!」

 

というわけで、綾辻が一時的に奉仕部のパーティ(?)に加わった。

 

 

「で、なにをするの?」

 

……それを説明するには俺らの依頼の一部を教える必要がある。まぁ人名伏せればいいか。

 

「……まぁそのなんだ、好きな人がいるからその告白のための場所探しだ」

「……それ、奉仕部がやる意味あるの?」

「ない」

 

奉仕部の理念とやらはどうやらどこかへ消え去ったようだ。もはやただの何でも屋である。そろそろやめようかな。

まぁ由比ヶ浜がいなかったらこんな依頼受けてないんだろうけど。それに修学旅行中でできることなんてたかがしれてる。だからやってても大したことはしてない。結局本人次第なのだから。

 

「それで女性に好まれる京都の名所の1つが嵐山にあるの。それの下見みたいな?」

「確かこの辺りのはずなのだけれど……」

 

雪ノ下に任せんなよ。あいつ確か方向音痴なんだから。

 

「あ、ここじゃない?」

 

綾辻の声がしたほうをみると、そこは竹林の道があった。

ここはなんかどっかで見たことあるような気がする。なんかのチラシだかポスターだったか。しかし生で見るとなかなか圧巻だ。なんか自然エネルギー的なものが感じ取れそう。感じ取れないけど。

 

「わあー、ここすごいね!」

「ええ、それに足元」

 

雪ノ下の指摘により足元を見ると、そこには灯篭があった。

 

「灯篭まであるのか」

 

となると、夜はさぞきれいなのだろう。

 

「ここでなら、告られたらうれしいな」

 

なぜ受動態。お前の案件じゃねーだろ由比ヶ浜。

 

「綾辻からしたらどうだ?」

「え?」

「ここ、どうだ?」

「すごくいい。こんなところで好きな人に告白されたら一生の思い出になると思う」

「なるほどね」

 

戸部が勝負するとなれば、ここで決まりかな。

 

 

まあ、勝負すらさせてもらえないんだろうがな。

 

 

竹林から出て、それからしばらく適当に嵐山をぶらついていたが程なくして宿に入る時間になった。そこで綾辻と雪ノ下と由比ヶ浜と別れて部屋へ向かう。

その途中で

 

「はろはろ〜ヒキタニくん」

 

海老名さんに呼び止められた。

 

「なんか用か?」

「相談、忘れてないよね」

 

……なーんで俺がんなことせにゃならんのかねぇ。

 

「どうどう?メンズ達の仲は?」

「まーいいんじゃねーの?夜とかトランプしたりしてバカ騒ぎしてるし」

「それじゃ私が見れないじゃーん!こう私が見てる時に男子達が固まってるのが一番いいんだけどなー!」

「…………」

「じゃあ、よろしくね」

 

……どいつもこいつも好き勝手に相談という名のエゴを押し付けやがって。そっちが我を通すならこっちも通すぞ。

 

「…先に言っとく」

「なに?」

「あんたの依頼を完遂させた結果、俺の周囲に面倒事が発生する可能性が少しでも危惧されたら、俺はその相談を真っ先に切るからな」

 

そんなどうでもいい依頼でこっちに面倒事が来たらたまったもんじゃない。

 

「……うん、いいよ」

 

言質は取ったぜ。

 

「ま、でもやるだけやるから」

「男同士でやることをヤる………まさかヒキタニくんの口からそんなハレンチな言葉が出るなんて…じゅるり」

 

……もう帰っていいかな。

 

 

夕刻

 

部屋で戸部が緊張でじたばたしてる。死にかけのセミみたいだな。いや、それは精一杯生ききったセミに失礼か。ごめん、セミ。

 

そこで葉山がなんか声かけようとしたが、「顔見たら言う気が失せた」とか言って葉山は部屋から出て行った。

出る瞬間、チラッとこちらを見て。

 

「めんどくせー」

 

俺も間を空けてそれに続いた。

 

ーーー

 

やはり葉山はいた。

宿から出てすぐの河原に1人突っ立ってる。イケメンがそれをやるとそれだけでなぜか絵になるのが不思議だ。どうでもいいが。

 

「やけに非協力的だな」

「……そうかな?」

「そうだろ」

「そういうつもりはなかったんだけどな……俺は今が気に入ってるんだよ。戸部も姫菜も、みんなでいる時間も結構好きなんだ。だから…」

 

だから?だからなんだ。だから俺にメンズを持ってきたってのか。

 

「で?」

「………失いたくない」

「………」

「失ったものは戻らないから」

 

言ってることはわかる。俺だってその気持ちはわかるのだから。俺の両親だって、もう戻らない。だから失いたくない。その気持ちは人として当たり前だ。

だが、『今』が楽しいからと言ってその後その楽しさを保てるかと言われれば否である。人は常に変化していくもの。すこし変わったからと言ってその関係が変わるかと言われればそうでもない。しかし例外はある。その変わり方次第では、その関係は容易に変わる。良くも悪くも。

こいつらはたまたま悪い方へと変わってしまったのだろう。俺には関係ないが。

 

「お前の気持ちはそこそこわかる。だからここでお前らの関係が『上っ面だ』とは言わない。だがその関係を保つために全くの部外者である俺を巻き込むのは、どうなんだろうな」

「………悪いとは、思ってる。できるなら君には頼りたくなかった」

 

だろうな。俺も頼られたくなかった。

 

「……これは『貸し』だ。とりあえずその依頼は受けておく」

「……すまない」

「謝んじゃねぇよ。少なくとも、『俺には』謝んな。だが覚えておけ。今回のことで、お前らのせいで俺以外に泥を被る奴がいるってことをな」

 

むしろ泥を被るのはそいつだけなまである。

 

「…………」

「失せろ。これからここでそいつに頼むから」

 

多分、あいつなら受ける。そもそもあいつはその場にいたのだし。

 

「なら、俺も……」

「痛い目みたくなかったらとっとと失せろ。お前がいると多分逆効果だ」

「………すまない」

 

すまないさんかお前。

そうして葉山は去って行った。

 

葉山が去ったのを確認すると、俺はスマホを取り出しある人物に電話をかけた。3コールぐらいしてその人物は電話に出た。

 

「すまん。例の件についてだ。お前の協力が必要だ。頼まれてくれるか?」

『……ま、仕方ないね。多分あたしにしかできないことなんでしょ?頼るようになっただけマシになったわね』

「悪い、助かる」

 

 

 

 

 

「横山」

 

 

 

とうとう告白の時間がやってきた。竹林のど真ん中には戸部と海老名さん。そして少し離れた陰から葉山、大和、大岡が見ている。そしてその反対側には俺、由比ヶ浜、雪ノ下だ。

 

そして、道の向こう側には仕掛け人。

 

できるならこうはなってほしくなかった。下手したら流血沙汰になりかねないから。でも俺だけが泥を被る方法じゃ、俺が流血沙汰になりかねんから仕方ない。

俺は指定した時間5分前になった瞬間、戸部に近づいていく。

 

「戸部、お前振られたらどーすんだ?」

「今からそれ言う⁈」

「いいから。海老名さん来ちゃうだろ」

「いやぁ俺結構テキトーな人間だけど、今回はマジって感じだから諦めらんないっしょ!」

「……そうか、なら最後まで頑張れよ」

「おお!やっぱヒキタニくんいいやつだわー!」

「はっ……」

 

それは『都合のいい奴』の間違いだろう?

 

「ヒッキーどうしたの?」

「どういう風の吹き回し?」

 

元の場所に戻ると、いきなり辛辣なお言葉。まぁ仕方ないけどさ。

 

「いやなに、今のままなら戸部は間違いなく振られる」

「……そうかも、それないわね」

「そう、かも……」

 

あれ、こいつらにも振られるって認知されてたの?どんだけフラグ建ってないんだよあいつ。

 

「そんで、丸く収めるための応急処置をする」

「応急処置?」

「どんな方法?」

「…まぁ見てろ」

 

そこで海老名さんが来るのが見える。多分、向こうから俺とかが若干覗いてるのも見えてるだろう。……それってどうなんだろうな。

 

「あの……」

「うん……」

 

うわぁ海老名さんの反応うっす。見ててこっちの胸が痛くなってきそう。

でも、戸部は動いた。動けば関係が壊れるくらいわかってた。だがそれでも動いた。その勇気を貶めることはしてはいけない。面倒事持ってきたことは呪うけど。

多分、これを止められそうなのが俺しかいなかった。だから海老名さんは俺を頼った。別に嬉しくはない。むしろ面倒事持ってきたことは呪うけど。

戸部の説得?葉山がとっくにしてる。

関係の修復?部外者の俺からそんなことできるわけないしやらない。

俺が個人として動く?横山に殺される。

 

ならどうするか?

 

「お、俺!ずっとま…」

 

周りを頼ればいい。

 

 

 

 

「くおらァァァァァァヒナァァァァァァ!」

 

 

 

 

突如竹林に響き渡る怒号。

そろそろ3年近い付き合いになる、脳筋オペレーターの声だ。

 

「あんた人にこんなふざけた本買いに行かせといてどこほっつき歩いてんの!部屋訪ねてみたらいないし!いろんな人に聞いて回ったんだからね!」

 

横山の手には、BL本。

ごめん、本当にごめん横山。あの怒りは7割ガチだ。

 

「ああ〜ごめんね夏希!すっかり忘れてた!」

「あんたが提示した罰ゲームなんだから忘れないでよ!」

「ほらほらどう?いいでしょうBLも。これを機に夏希も……」

「ふざけんな!あたし男ダメだから!」

「ぐへへ……やっぱりBLはいいなぁ………あ、ごめんとべっち。なんの話だっけ?」

「え⁈ああいや、ここ夜綺麗だって聞いたからさ、海老名さんにも見て欲しかったってわけよ!」

「そっか、ありがとう!でも本当に綺麗だよね〜。これでなおかつ男×男があればなおよし!」

「あんたはまずあたしに謝れ!」

 

………戸部よ、海老名さんルックスは確かにいいと思うがなんでこんな趣味に走りまくってる人を好きになったんだ。いや趣味に走るのは別にいいけど、その趣味が男としては、その、ねぇ?

 

「じゃあ夏希!早速私とこの本読もう!」

「読むか!さっさと帰って寝ろ!」

 

「夏希怖〜い」とかいいながら海老名さんは帰って行った。

 

「いやー告らなくてよかったわー……あの雰囲気絶対振られてたわー。ま、でも諦めるつもりはないし!ヒキタニくん、協力してくれてありがとうな!」

「おう」

 

そう言って戸部は大和大岡とともに帰って行った。

 

「すまない、助かった」

 

そう言いながら葉山が俺の隣に並ぶ。

 

「君に頼ってよかった。ありがとう」

 

そうして葉山は去ろうとしたが

 

「ちょっと待って」

 

横山が葉山の襟を掴んで止めた。

 

「あんた、ありがとうって言ったね。それはいい。でもさ、あんたどういうつもりでハッチに依頼したの」

「………どういう、つもりで?」

「あんたハッチに頼むってことはさ、ハッチが学校でどういう立場で、どういう人間かも知ってたんでしょ?」

「……ああ」

「ハッチは、基本自分の優先順位が低い。それに変に優しい。だから自分を犠牲にしてでも問題を解決しようとすることがある。あんた、それわかってたんじゃないの?」

「…………」

「沈黙は肯定とみなすよ。多分ハッチの事だし、あたしが昔ヤキ入れたから『そういうこと』はもうしてないんだろうけどさ、あんた最悪の場合ハッチを生贄にしてでも解決させようとしてた。違う?」

「……そんな、ことは……」

「ない、とは言えないよね。だってヒナがそうだったんだもん」

「っ!」

「どいつもこいつも勝手ね。………よし葉山とやら、こっち向いて」

「え?……ゴハァ!」

 

横山渾身の正拳突きが葉山の鳩尾に突き刺さった。

 

「が……ガハッ」

「ちょ!横山さん⁈」

「なっちゃん何してんの!」

「2人は黙ってて。こいつはハッチを生贄にすることを容認してた。結果としてあたしの立場があの面子の中だとなくなりそうだけど、どうせクラスも違うしソリも合わないから関わることもないし別にいい。でも、あたしがこんな関係ない奴らのために体張ったんだからその代表のこいつが多少痛い目見るのは道理でしょう?」

 

よくいうぜ。ただの憂さ晴らしだろうに。

 

「うっ……ぐっ……」

「お、吐かないのね。さすがそこそこ鍛えてるだけあるわ。じゃあハッチ、あとはよろしくね」

 

そういって横山は去っていった。嵐のような女だなあいつ。呼んだの俺だけど。

 

「………お、恐ろしい人だね、彼女……今までに感じたことのない痛みだ……」

「そんな恐ろしい女に頼らざるを得ない状況までにした時点でお前の運命は決してたよ」

 

流血沙汰にならなかっただけありがたいと思いやがれ。

 

「は、ははは……その、通りかもね」

 

そう言ってフラフラしながら葉山は帰って行った。途中でぶっ倒れたりしないだろうな。

 

「……これが、あなたのやり方?」

 

葉山が去ってから雪ノ下が俺の斜め後ろから声をかけてくる。その声はどこか冷たい。

 

「なにか問題あんのか?」

「いいえ、何も。寧ろなにもしてなかった私がどうこう言う権利はないでしょう?」

 

なくても言うだろお前は。

 

「でも、横山さんに頼ったのはどうかと思うわ。こうなるのが目に見えてたんでしょ?」

「こうなるって?」

「葉山くんが殴られること」

「ああ」

「なら……」

「なにもしてないお前がどうこう言う権利はないんじゃなかったのか?」

「……そうね。先に戻るわ」

 

そう言って雪ノ下は去って行った。

 

「最後の正拳突きさえなければよかったんだけどなぁ……」

「他に頼れる人がいなかった」

「………そう、かもね。でも、あれさえなければ本当に文句なしだったんだけどなぁ…」

 

そう言って由比ヶ浜は雪ノ下を追って走り出した。

 

 

「なにもしてねーお前らがどうこう言ってんじゃねーよ」

 

 

俺のつぶやきは、幻想的な雰囲気の竹林に吸い込まれていった。

 

 

修学旅行最終日

京都駅

 

修学旅行もつつがなく過ぎ、これから帰るというところだ。

そして現在俺は集団からちょっと離れ、よくわからん人気のない高台にいた。

その理由は

 

「はろはろ〜お待たせしちゃった?」

 

海老名さんに呼ばれたからだ。

 

「いや別に」

 

なんでもいいからさっさと済ませてくれ、といったところだ。海老名さんの顔を見ると、上っ面の笑顔を張り付けていた。そして心なしか左頬が赤い。

 

「お礼を言おうと思って」

「別にいい。相談されたことに関しちゃ解決してない。本当に解決したければそっちでどうにかしてくれ」

「表向きは、ね」

 

そう、表向きは。

 

「でも、理解してたでしょ?」

「…………男子同士が仲良くってのは、『自分から男子を遠ざけて欲しい』ということ。ひいては、戸部の告白を未然に防いで欲しいということ。これについては、葉山にも相談してたんだろ?」

「うん」

「だから葉山はああいう中途半端な態度を取るしかなかった」

「おお〜!百点満点だよ!今回はありがとうね、助かっちゃった」

 

はっ、よく言うぜ。本来俺に礼なんて言わなくてもいいことくらいわかってるだろうに。

海老名さんが横山と一緒に奉仕部に来たのは、奉仕部に頼る前に男がさっぱり寄り付かない(というか寄り付けさせない)横山に男から遠ざかる方法を聞いてたからだ。だが横山は特別というか異常だ。だから参考にならなかったのだ。それで最終手段である俺に頼った。

 

「戸部はダメでゴミカスみたいな人間だが、いいやつだと思うがな」

「無理無理〜今の私が誰かと付き合ったって、うまくいきっこないもん」

「だろうな。あんたみたいな、心の底からは誰も信用してない人が誰かと一緒になっても、ロクな未来じゃねーだろうよ」

「でしょ?私、腐ってるもん」

「……はっ、そうだったな」

 

根本的なとこが終わってるなら、どうしよもない。

 

「私、ヒキタニくんとならうまく付き合えるかもね」

「はっ!冗談でもやめろ。あんまテキトーなこと言ってると……」

 

 

「うっかり潰しそう(惚れそう)になる」

 

 

これ以上、俺の大事なものにお前らの面倒事を巻き込むな。そういう意味での忠告だ。

俺だけならまだ許容範囲だ。だが俺の大事な仲間にまで面倒事を巻き込むな。今回は横山だけだったが、佐々木さんや綾辻達まで巻き込んだら容赦しない。

 

「………そうやって、どうでもいい人には素直になるところ、嫌いじゃないよ」

「そうか。俺も自分のこういうところ気に入ってんだ」

「私だって、こういう心にもないことスパッと言えちゃうことろ、気に入ってんだ」

 

「そーかよ」とだけ呟く。

 

「私ね、今すっごく楽しいんだ。今の周りとか、環境とかも好きなんだよ。こういうの久しぶりだから、なくすのは惜しいなって。今一緒にいてくれる人も、好きなんだよ」

 

気持ちはわかる。俺だって今の周りを失いたくない。一度大きなものを失った。だから余計、海老名さんよりも、その気持ちは強い。

 

「だから」

 

 

 

「私は自分が嫌い」

 

 

 

そう言って海老名さんは俺に背を向けた。

 

「左頬、まだ赤いぞ。横山に殴られたんだろ。ちゃんと冷やしとけ」

「………ありがとう。夏希にもお礼言ったけど、改めて伝えといてくれる?夏希とも、友達でいたいの」

「殴られたのにか?」

「夏希みたいな友達はさ、多分かなり希少。あの子との付き合いは私より長いヒキタニくんならわかるでしょ?」

「ああ。わかった、伝えとく」

「ありがと」

 

そう言って海老名さんは去って行った。

 

「自分が嫌いって言ってる時点で、お前らの関係は上っ面だぜ。葉山」

 

 

俺のつぶやきに、離れた場所の陰にいた葉山は1人空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

人間関係とは、いつも難しいもんだ。

 

 

 

 

 

 




今回も長くなってしまいすいません。綾辻さんとのデートが想像以上に長くなりました。

とりあえず今年最後の投稿で40話になりました。これからもよろしくお願いします。


あと割とどうでもいいようなアンケートが活動報告にあります。よろしければご覧ください。

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