目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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修学旅行編です。

そしてどうやらこの連載も一周年を迎えたそうです。一年で40話いかないほど更新の遅い作者ですが、これからもお付き合いいただけたら幸いです。

今回、少し端折ってます。あまり展開に必要なさそうな描写が結構あったので。そこはご了承ください。

では、39話です。


4章 修学旅行編
39話 不運にも、彼はトラブル体質なのかもしれない。


文化祭が終わり、学校の雰囲気も祭り感が完全に抜け切ると一気に肌寒くなってきて、冬の訪れを感じるようになってくる。木々の葉も色を変えてきている。なんとなく寂しい気持ちになるが、気候的には過ごしやすい。

 

前のランク戦でシーズンラスト順位がA級2位になったうちだが、2位になったからといって特に何かあるわけではない。前よりランク戦申し込まれる確率が少し上がった程度だ。

学校ではもっと変わりない。基本的にぼっちであるから変わるもクソもないのだが。

ただ変わったことと言えばもうすぐ修学旅行があるということくらいだろうか。グループ決めとかぼっちには苦痛でしかないが、戸塚と同じグループになれたからオールオッケー。やべ、修学旅行楽しみ!ちなみに行く場所は京都。王道である。

 

今は放課後。

一応奉仕部の方にはちゃんと顔を出している。基本何もないから勉強してるか本読んでるだけかのどちらかであるが。そして今日も今の所依頼はない。

 

「どうぞ」

 

防衛任務のシフトを確認していると、目の前に唐突に紙コップが置かれる。顔を上げると雪ノ下がいた。どうやら淹れてくれたらしい。由比ヶ浜は既に自分用のマグカップで飲んでいる。

 

「おお、サンキュ」

 

早速一口…………ああ、普通にうまいわ。ぶっちゃけ佐々木さんの淹れた紅茶の方がうまいけど。そんなこと言ったら面倒なことになるの間違いなしだから言わないけどね。ぼっちは空気を読むのに長けているのだ。

 

「もうすぐ修学旅行だねー。うちの学校も沖縄とかがよかったー。京都行ってもすること無くなーい?」

 

貴様、京都を愚弄するか。

 

「することなんて幾らでもあるでしょう?この国の文化を直に見て、触れて、感じることに意味が……」

 

なーに語ってんのかねー。ただ友人と行くから楽しい。そういうもんだろうに修学旅行って。ま、俺クラスに友達いねーけど。辻とか奈良坂がいれば良かったんだけどなー……。

 

「あなた達だって、楽しみにしてることくらいあるでしょう?」

「あたしはまだ全然調べてないからなー」

「まぁ、な」

 

戸塚とお風呂とか。

 

「ゆきのんは?」

「そうね、清水寺、龍安寺もそうだけれど、鹿苑寺、慈照寺あたりも抑えておきたいわね」

「ろくおんじしょうじ」

 

混ぜんな。

 

「それから……」

 

ーーー

 

「と言ったところかしらね」

「詳しいねゆきのん」

「なにお前、じゃらんなの?」

 

どんだけ楽しみなんだよこいつ。

 

「京都についての知識なんて一般常識でしょう?」

 

と、言いつつ目の前にはじゃらん。本当に素直じゃねーなこいつ。結局楽しみなんだろうに。

 

「……なにか?」

「いや、別に」

 

なんでわかんだよ、怖いよ。エスパーかよ。

と、そこで唐突に戸を叩く音がする。まさかの依頼か⁈なら帰っていい⁈

 

「どうぞ」

 

入ってきたのは……葉山と戸部だった。うわぁ面倒なことになりそう。俺のサイドエフェクトがそう言っている。

 

「……やぁ」

「なにかご用かしら?」

「あ、ああ。ほら、戸部」

「いやないわー。こういう話はヒキタニくんにするとかないわー」

 

………なるほど、そういうジャンルの話か。確かに俺向きではない。え?なんでわかるかって?サイドエフェクトさ!やだ、俺のサイドエフェクト面倒事に敏感すぎ!

 

「こっちは頼みに来てる立場だろ?」

「いやでもヒキタニくんはないわー…」

 

ふむ、俺はとっとと消えた方がいいかね。サボれる口実にもなるし願ったりだ。

 

「なんの話かは知らんがどうやら俺はいない方がいいみたいだから帰るわ」

「その必要はないわ。帰るのはあなたではなく彼らよ」

 

あれ?なんでさ。

 

「礼節も弁えない、最低限の礼儀もわからない人のお願いをこちらが聞く義理なんてないでしょう?」

「なんかやな感じ!」

 

あ、なに。一応俺のために怒ってくれてるの?嬉しいより意外って気持ちの方が大きいわ。

 

「というわけで、お引き取りを」

「…………まぁ、俺たちが悪いな」

 

精確には戸部が悪い、戸部が。大事なことなので二回言いました。一応言っとくけど別に葉山は好きじゃない。むしろ嫌いだ。

戸部はポカンとしてるが、葉山が少し早く再起動した。

 

「じゃあ行くぞ戸部。俺たちだけで解決する問題だ」

「いや、もうこれ後には引けないでしょ〜!あの、実はオレ…」

 

まず謝れよさっきのこと。

 

 

「マジ?」

 

依頼の内容は『海老名さんが好きだから告白するための手助けをしてくれ』といったものだった。うん、確かに俺向きではない。むしろいない方がいいまである。

その内容に今時女子高生の由比ヶ浜は目を輝かせながら聞いている。雪ノ下?知らん。

 

「つまり、告白して付き合いたいと」

「そーそー、振られるとかきついわけ」

 

知らん。振られる覚悟もねーなら告るなよ。

 

「なんかそーゆーのすっごくいいよ!応援するよ!」

 

応援しちゃうの〜?正直やりたくないし。

と、そこで葉山と目が合う。やたら申し訳なさそうな目をしてる。こいつにしては珍しい。

 

「………やっぱ、難しいかな?」

「あたりめーだ。俺たちとお前らでまともな接点があるの由比ヶ浜だけだぞ。そんな状況でどーしろってんだよ」

「そうね……悪いけどあまりお役に立てなさそうだわ」

「ええ〜やってあげようよ〜。戸部っち困ってるし〜」

「それは……そうなのだけれど……」

 

そう言って俺を見てくる雪ノ下。

おい部長、なんで俺を見る。俺に決定権丸投げしてんなら迷わず断るぞ。なにが悲しくてそんなことせにゃならんのだ。というか最近由比ヶ浜に甘すぎません?でもこれ断っても戸部引き下がんねーよなぁ。俺らも知っちまったし……

ならせめて、責任を押し付けられないようにしなくてはな。

 

「ヒキタニくん、いや、ヒキタニさん」

「あ?」

「オナシャス!」

 

バカなのかこいつ。それ人に頼み事する態度じゃねーから。むしろそれ余計失礼だから。そもそも俺ヒキタニじゃねーし。

 

「……条件がある」

「マジ?なんでも言ってよ。いやーヒキタニくん話わかるわー」

 

いやまず俺の話聞けよ。

 

「……まずこの依頼は受ける。でもさっき言ったように俺らでお前らと接点あるやつは由比ヶ浜だけだ。だから手助けするにしても限界がある。わざわざ依頼の為だけにお前らとコネクション築く気もねーしな。だから大したことはできないってことはまず覚えとけ」

「オーケーオーケー!」

「んで、次。仮に依頼が失敗してもその責任を俺らに擦りつけるな。俺らはそこまで面倒見切れん。振られたらそれは自己責任だ。いいな?」

「振られないためにこーして依頼してんだからー、気にしすぎっしょ!」

 

アホか。俺らは何でも屋じゃねーし、そもそもやりたくもねーんだよ。お前が振られようが正直どうでもいい。

 

「最後に、俺たちがいろいろ手出しした結果お前らの関係が崩れても俺たちは何もしないで我関せずで通す。いいな?」

「オッケーオッケー!いやぁヒキタニくんマジ話わかるわー」

 

………もう帰っていいかな。

 

 

その後、どうやって付き合うまで漕ぎ着けるかいろいろ議論をしてみたが、ロクな案が出なかった。結局修学旅行でできるだけ2人きりになれるようにするということで話はまとまった。まとまった……のか?まぁいいか、戸部だし。

とりあえず戸部が帰り一息ついて雪ノ下が淹れた紅茶をすすっていると、再び戸が叩かれる。今度は誰だよ……。

 

「どうぞ」

「はろはろ〜」

 

入って来たのは海老名さんだった。ついでになぜか横山もいる。

………なんでさ。

 

「よっす」

「なんでお前いんだよ」

「いちゃ悪い?」

 

いや悪かねーけど……。それとその拳下ろしてお願い。

 

「で、なにか用かしら?」

「ああ、それなんだけど………実は最近戸部っちが……」

「戸部っちが⁈」

 

由比ヶ浜、食いつきすぎ。

 

「戸部っちが……」

「戸部っちが?」

「最近ヒキタニくんとか葉山くんと仲良くし過ぎてるっぽくて!大岡くんとか大和くんがはぁ!」

 

脳天に横山の拳が落ちました。これは痛い。会心の一撃だわ。いや、痛恨の一撃か?

 

「ヒナ、ちゃんと言わないとあたし帰るよ」

「ごめんごめん……」

「……そ、それでどういったご用件で?」

「ああ、最近ヒキタニくん戸部っちと仲良さげにしてて意味あり気な視線送ったりしてるでしょ?それでね、誘うならみんな誘って欲しいの。端的に言うと誘いを受けて欲しいの」

「嫌だ無理だ」

「ヒナ?」

「ごめんごめんって…だからその拳下ろしてお願い」

「それで、結局なにかしら?」

「ああ……最近いつもいるグループが変わっちゃった気がするの。それが、ちょっと……」

「まぁでも、男子同士でも人間関係とかいろいろあるじゃん?」

「男同士の複雑な関係……やだ結衣、はしたない」

「あたし変なこと言った⁈」

「大丈夫だ、問題ない」

 

いやほんとに大丈夫だ。問題なのはこいつの頭だから。

 

「つまり、どういうこと?」

「あー……今のグループが変わってきてるのは本当なんだ。それがちょっと…………前みたいに仲良くしたいんだ。あ、でもヒキタニくんなら大歓迎だよ。私も目の保養になるし」

 

…………。

 

「じゃあそういうことで、修学旅行でもおいしいの、期待してるから」

 

「それじゃまたね」と、言うだけ言って海老名さんは去って行った。横山はその背中を見ながら1人ため息をついた。あれ?行かなくていいの?

 

「……はぁ」

「横山、行かなくていいのか?」

「………そーね。悪いけどそっちでも『考えておいて』くれる?あ、でも昔みたいなのはナシね」

「わーってるよ」

「?」

「????」

 

雪ノ下と由比ヶ浜は首を傾げる。まぁ、普通ならこんなのでわかるやつはいない。当事者でもない限りな。

 

「じゃ、またね」

「おう」

「あ、うん。またねなっちゃん」

 

それだけ言って横山も去って行った。

 

「………なんだったの?」

「…さぁ?」

 

それもわかんないようじゃ、世界なんて変えられねーな雪ノ下。

 

 

そして来る日。

 

とうとう修学旅行当日になった。とりあえず形式上は戸部からの依頼をこなすということにしているが、正直な話ほとんど由比ヶ浜だけやってる感じだ。

新幹線の席でもうまいこと戸部と海老名さんが隣になるようにしようとしたりしようとしていたが、結果三浦のせいで川崎の隣に戸部が座るハメになったりしてた。

 

そして今も新幹線で移動してる最中だ。本来戸塚が隣にいたのだがテニス部の方に今は行ってる。1人でぼんやりしてると由比ヶ浜が来たりするから今は乗車口のとこから外を眺めている。

 

と、そこでスマホが振動する。

 

『佐々木琲世』

 

あれ、なんかあったっけ?

 

「はい」

『あ、比企谷くん。今大丈夫?』

「大丈夫っすよ。どうしたんすか?」

『比企谷くん修学旅行だよね?それでちょっとお願いが、あるんだけど……』

「なんすか?」

『嵐山行くことがあったらお茶っ葉買ってきてくれない?父さんが来週帰ってくるんだ』

 

え、あの親父さん帰ってくるんだ。寡黙で無口で無愛想で言っちゃ悪いが人間性があまり感じられない親父さんが。

 

「いいっすよ」

『種類は君のサイドエフェクトに任せるよ。それじゃ、お願いしていい?』

「うす」

『ごめん。ありがとうね』

 

そう言って電話は切れた。

 

 

親父さんの為にお茶買ってきてくれとか、あの人らしいや。あ、ほかにもお土産買っていくか。八つ橋とか。

 

 

京都に着き、班ごとではあるが散策を開始する。

 

俺は由比ヶ浜とかと同じ班に(知らぬ間に)入っていたのでことあるごとに戸部と海老名さんを2人にしようと(主に由比ヶ浜が)していたが………三浦とかのさりげない邪魔が入り2人にしてやれない。

 

……多分三浦はわかってやってるな。なぜわかるかって?俺のサイドエフェクトがそう言っている。

 

つっても、俺らがなにかしなくても基本的に自分から行ってるからそこまで手出しする必要はないのだが。

 

 

そして現在は旅館。俺は1人で自販機で買ったコーヒーを飲んでいた。京都にマッカンは無かった。解せぬ。

 

「ん?」

「おろ」

 

自販機横のソファーでくつろいでたら、奈良坂が来た。

 

「よ、比企谷」

「おー奈良坂。どうした」

「飲み物買いに来ただけだ。お前は?部屋に居づらくなって逃げてきたか?」

「エリートぼっちナメんな」

「はは、お前らしい」

 

そう言って俺の横に座る奈良坂。

 

「……どうした?なんかあったか?」

「は?」

「いや、なんか考えてる顔してたからな」

 

マジか。こいつ意外と鋭いな。

 

「……まーちょっとな。大したことじゃねーんだが」

「そうか」

「ま、お前に面倒かかることじゃねーから安心しろ」

 

最悪、マジで何もしないという選択肢もある。そうなっても俺に責任の飛び火が来ることはない。初めにそう言ったからそこは問題ないはず。

 

「……相変わらずのトラブル体質だな」

「おい」

「色んな意味でトラブル体質だろお前。2年前の『アレ』も」

 

…………。

 

「でもお前も自らそれに突っ込んで行ってる節もあるからな」

「おい待てやめろそんなつもり欠片もねーよ」

「無意識だろうなそりゃ。じゃあ俺はそろそろ行くよ。なにか力になれそうなことがあれば言ってくれ」

「そん時ゃ言うよ。寧ろ丸投げするまである」

「ははは、お前らしい。それじゃ俺はそろそろいくよ。じゃあな」

 

そう言って奈良坂は戻って行った。

あいつ、俺の扱い手慣れすぎじゃね?

 

ーーー

 

「さて、そろそろ戻るかな」

 

そう思い、腰を浮かせたところで見覚えのあるやつを見つける。

 

「あら、奇遇ね」

 

雪ノ下だった。

 

「おう」

「なにしてるの?部屋にいるのが気まずくなって逃げてきたの?」

 

なんでみんなそう言うこと言うんだよ。泣くぞ俺。

 

「そう思うなら修学旅行には来てねーよ。お前は?」

「…………その、クラスメイトの話の矛先が私に来て…。どうしてああいう話が好きなのかしら」

「なんだ相手にされてんじゃん。仲良くすれば?」

「他人事のように言うわね」

 

そりゃ他人事だし。

 

「大体あなたが文化祭で…」

「は?俺?」

「………なんでもないわ」

 

なんだこいつ。

 

「それで、依頼の方は?」

「ん?まぁなんとかなってる、かな?」

「悪いわね、私が違うクラスだからほとんど手伝えなくて」

「それは由比ヶ浜に言ってやれ。俺はほとんどなんもしてねーし」

「ならあなたも働きなさい……とは言えないわね」

「そもそも俺らがどうこうしなくても割と頑張ってるし」

「そう」

 

そもそもこんなことに本来俺らは手を貸すべきじゃない。面倒なことになるの間違いなしだ。そして思うのだが、奉仕部の理念どこいった。

そこでふと気配がして視線を上げると、グラサンにコートを着た身長高めの長髪の女性が前を通り過ぎた。

………ん?今目の前を通り過ぎた人。

 

「あ」

「え?」

「な、あ」

 

なにしてんのこの人。

 

 

どうしてこうなった。

 

現在、俺と雪ノ下はタクシーに乗っている。そしてなぜか平塚先生も乗っている。

 

「っか〜うまかった〜」

 

おっさんですかあなたは。そんなんだから結婚できないんじゃないんですか?

で、なぜこんなことになってるかというと、俺たちは天下◯品のラーメンを食ってきた帰りだ。旅館を出て行こうとした平塚先生を見たらなぜかこうなった。

 

「……凶暴な旨味でしたね」

「的確だな」

 

雪ノ下はどうやらあのような所でラーメンを食べたのは初だったようだ。最初はなんとなく邪険にしていたが、食ったらすぐに食いついた。

 

「ところで、なぜ私たちも」

「教師がいいんすか?」

「ダメに決まっているだろう。だから口止め料としてラーメンを奢ったのだ」

「それはもっと教師にあるまじき行為では?」

「怒られる時は私も一緒さ。それに、怒られるのは悪いことではない。それはちゃんと見られている証拠だからな」

 

怒られる行為自体は悪い事ですけどね。というかいい感じの言葉で丸め込もうとしてません?

 

「君たちも見ているから、幾らでも間違えたまえ」

 

俺を見てくれる人ね。別に平塚先生だけじゃない。

小町、綾辻、佐々木さん、横山、二宮さん……筆頭はこの人たちかな。他にもたくさん出てくるし。

 

我ながら恵まれてるものだ。

 

 

 

そしてその後、戸塚との風呂を満喫したのだった。

 

 

翌日、班別行動となり俺らは映画村に来た。

 

そこでもいろいろと手を回して海老名さんと戸部が一緒になるようにしている。してはいるが……まぁ三浦がさりげなく邪魔する。つっても、手回しやってるのほとんど由比ヶ浜なんだけどね。

 

そして俺らは史上最恐のお化け屋敷とやらに入ったのだが……俺はサイドエフェクトのせいで全く楽しめなかった。もともとあまりこういうのは苦手じゃないのもあるが、俺のサイドエフェクトがどこからどんな驚ろかし方でどんなタイミングでくるのか予知してしまう。普段から化け物みたいな人たちとやり合ってるとあの程度余裕で察知できてしまう。川崎とか超ビビってたけど。由比ヶ浜もげっそりしながら出てきたし。

 

「結構遊び倒した感じだな。じゃあそろそろ移動しようか」

「オッケー。じゃあ海老名呼んでくる」

 

今海老名さんは戸部と土産屋にいる。

やっぱ意識的だな。

 

「お化け屋敷の効果……出てるのかな?」

「さぁ、な」

 

でてない、というか出るはずがないのだ。

仮に邪魔者がいてもいなくても、『相手』が悪い。効果が出るわけがない。

 

 

「よっこいせ…」

 

現在俺は虎の子渡しの庭とやらに来てみた。由比ヶ浜は普段のグループの方に行ってる。

しかし、座る時よっこいせとか言ってるあたり俺の老化が進んでることを物語っているね。まだ17歳だけど。

 

「あら奇遇ね」

 

あれ、いたの雪ノ下。

 

「よお。お前もこっち来てたのな」

「ええ。虎の子渡しというからどのあたりが虎なのかと思って…」

 

ほー、虎もネコ科だから気になるのか?こいつネコ大好き野郎だからな。ちなみに俺も猫派だが、横山の家のゴールデンレトリバーは好きだ。あいつ超かわいい。飼い主も見習ってほしいくらいだわ。

 

「あれ、ゆきのん」

 

そして知らぬ間に由比ヶ浜が後ろに来ていた。加えて隣にいる人たちからなんかよくわからん視線を向けられている。

 

「……場所を変えましょうか」

 

それが賢明だな。

 

 

「で、依頼の方はどうかしら?」

 

雪ノ下が無い胸の前で腕を組む。おっと、なんか寒気が……。

 

「なーんかイマイチだな。やり過ぎて海老名さんに嫌がられても困るし」

「だね〜…」

 

それに、1人確信犯がいるしな。

 

「任せっきりで悪いわね…」

「全然!気にしないで!」

「代わりと言ってはなんだけど、私の方でもいろいろ調べてみたわ」

「なにを?」

「女性に好まれる京都の名所よ。彼らの参考になればと思って」

 

ほお、さすが雪ノ下。こういうことなら確かにクラス違ってもできる。こいつはこいつでいろいろ考えてるのね。

 

「わぁ、ゆきのんさすが!」

「じゃあ私は戻るわ。また明日ね」

「また明日ねー!」

 

そう言って雪ノ下は去って行った。

 

「俺らも行くか」

「うん!」

 

 

 

「あ、今月のジャンプSQ読んでねー」

 

(個人的に)一大事に気づいた俺は、1人夜のコンビニに向かった。そういえば京都のローソンって色が違うんだよな。このなんか和風な感じになっている。八幡的にポイント高い。

 

えーっと…SQは……お、あった。

 

みつけたSQを手に取り読み始める。◯の祓魔師はー………。

 

「ヒキオじゃん」

「あ?」

 

声がした方を見ると、縦ロールこと三浦がいた。三浦はファッション雑誌を読んでいる。

女子ってそういうの好きだよな。あれ、でも横山はそういうの読まないって言ってたな……あ、あいつ女子じゃないのか。あれ?また寒気が。風邪でもひいたかな?

 

「あんさー、あんたら一体なにしてるわけ?あんま海老名にちょっかい出すのやめてくんない?」

 

無視。面倒な事になるビジョンしか見えない。

 

「聞いてんの?」

 

あーこれ反応しないと余計面倒になるやつだー。

 

「聞いてるよ……べつにちょっかい出してねーから」

「出してんじゃん。見てればわかるし。そういうのメーワクだからやめてくんない?」

 

それだけ言うと三浦はファッション雑誌を閉じ、別の雑誌を取った。

 

「でもそうして欲しいってやつもいるし、別にお前被害受けてるわけじゃねーだろ」

「はぁ?これから受けんの」

 

ほらこうなる。面倒だ……俺はSQ読みに来ただけなのに。

 

「あんた、ユイと付き合いあんならわかるっしょ?」

「はぁ?」

「わかんないの?キモ」

 

わかんないのとキモいのは全く関係ないよね?

 

「海老名さぁ、黙ってれば男ウケいいから紹介してくれってやつ結構いんの。それで紹介しようとするとあの子超拒否ってくるの。照れてると思ってあーしも結構しつこく勧めたわけ。そしたら海老名、笑いながら

 

『ああ、じゃ、もういいや』

 

ってあーしのこと超他人みたいに言ったんだ」

 

…………。

 

「海老名はあんま自分のこと話さないし、あーしも聞かない。でもそういうの嫌いなんだと思う」

 

それは少し違う。何かを守るためにいくつも犠牲にするなら、いっそ捨ててしまうのだろう。

今手にしている関係さえも、な。

 

「あーしさ、今結構楽しいんだ。だから余計なことしないでくれる」

 

………そこまで言うなら、こっちにも言わせてもらうぞ。

 

「三浦、少し出ろ」

「はぁ?なんで?」

「そこまで言うなら俺も言うことがある」

「言うことあんならここで」

「ここじゃこれ以上は迷惑になる」

「…わかった」

 

ーーー

 

「で、なに?」

 

ヤンキーかお前は。

 

「お前、そこまでわかってんなら俺らがなんでこんなことしようとしてるかわかんだろ」

「誰かが頼んだんでしょ」

「そうだ。その誰かも、どーせお前はわかんだろ」

「戸部、でしょ」

「そうだ」

「つまりなにが言いたいの?」

 

逆にここまで言ってわかんねーのか。できれば口に出したくなかったんだが。こいつの性格を考えると、下手したら喚きながら俺のこと罵倒しそうだし。

 

「俺ら……いや由比ヶ浜はわからんが……少なくとも俺は、好き好んでこんなことしてるわけじゃねーんだよ。今回のことは全てお前らのグループ内の問題だ」

「で?」

「そんなに言うなら、お前らのグループの問題くらいお前らだけで解決しやがれ」

「はぁ⁈勝手に首突っ込んでおいてなに言ってんの⁈」

「言ってくれるな、勝手とは。もともとは戸部が依頼してきたことだ。葉山もいたけどな。お前がどう思ってるかなんて知らねーよ。こっちは頼まれたことやってるだけだ。なにもして欲しくねーならお前らだけで話し合ってどうにかしやがれ」

 

片っぽからは手伝ってくれ、もう片っぽからは手出しすんな。それで手伝ったらこちらが全面的に悪い。ふざけんなよ勘弁してくれ。こっちだって好きでやってるわけじゃねーんだよ。ゾルディック家のゼノ爺さんも言ってたろ。暗殺家業を『好きでやってるわけじゃなし』ってよ。それと同じだよ。

 

「話し合うなんてできるわけないっしょ⁈」

「ならどうしろと?戸部は変革を望む。そしてその戸部が俺らに依頼を持ってきた。だから俺らはその依頼をこなす。だがお前は安定を望む。だから俺らの依頼の邪魔をし、妨害する。そして挙げ句の果てには『迷惑だからやめろ』。全部お前らのグループが原因だってのによ。そんなに言うならお前らだけで解決しやがれ」

「…………」

「俺が言うのはこれだけだ。まだあんなら聞くぞ」

「…………隼人は、なんて言ってたの?」

「なにも」

 

まぁあいつは板挟みの状態だ。だからなにも言うに言えないだろう。多分、葉山のことだから三浦が安定を望むのもわかってたはずだ。

 

「ま、葉山がどうにかしてくれんじゃねーの?お前らの王様がよ」

「最後まで嫌味ったらしく……ほんとキモい」

「お前が俺をそう罵るのは自由だが、その罵る理由は全てお前達だからな。俺をキモいと罵ることはブーメランだぜ」

 

尤も、俺に飛んできたそのブーメランは俺に向かってた時より三浦に戻るときの方が威力増してるまである。

 

「ま、俺からは以上だ」

 

憎々しげに俺を見る三浦を放置して俺はSQを読むために再びコンビニに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにハイセのお父さんは有馬さんです。

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