目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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体調がようやく回復してきました。

無理やり体引きずって学校行ったら友人に「帰って寝ろ」と言われました。帰って寝てたら友人達がいろいろ救援物資持ってきてくれて友人のありがたみを感じましたが、作者が寝てる横で友人達は飲み会を始めました。ちょっと寝て体調よくなってきたから調子乗って飲み会に参加したら翌日死にました。バカな作者です。
そして体調が戻ったと思ったら学祭準備であちこち走り回り疲労困憊で風が軽くぶり返すというザコ体力作者。

とにかく遅れて申し訳ありませんでした。これの次は多分、一週間以内に出せ(るように頑張り)ます。

37話です。


37話 満を持して、彼らの頂点への挑戦が始まる。

「お兄ちゃんー」

「ん?」

 

ある日の夜、小町が急に声をかけてきた。別に珍しいことではないが。というかこの家俺と小町しかいないのに話さないとかどんな冷え切った関係の熟年夫婦だよ。

 

「お兄ちゃん明日の夜ランク戦でしょ?」

「おお、よく知ってんな」

「茜ちゃんが教えてくれたのです!」

 

ボーダーに知り合いがいりゃそんくらいの情報入ってくるか。A級ランク戦なんて隊員からしたら絶対見るべき試合だし。

 

「小町もみたい!」

 

はい?

 

「いやお前まだ隊員じゃねーだろ。どうやって見んだよ」

「玲さんの家で集まって見る!」

 

なるほど、その手があったか。まぁ普通に玉狛で見るって手もあるけど。

 

「しかしどうした。お前がランク戦見たいなんて」

「いやーお兄ちゃん次A級トップの人たちとランク戦するんでしょ?それで勝ったらお兄ちゃんA級1位じゃん!」

「まぁ、な」

 

A級はB級と違い防衛任務以外の仕事をやるところもあるため、ワンシーズンでやる試合数が少ない。だから今シーズンはこの試合で最後だろう。そうなると今シーズン最後のA級1位ということになるのだ。本来なら暫定だが。

 

「だから、お兄ちゃんの勇姿を小町は見届けたいのです!」

「勝つと決まったかのような言い草だなおい」

「え?勝てるでしょ?」

「簡単に言うなよなぁ……」

 

次はソロランクトップの人たちが2人もいるのだ。簡単に勝てるわけないし、普通にやられる可能性もかなり高い。

 

「まぁ結果がどうであっても、小町は見たいんだよ」

「……そうか。ま、好きにしてくれ」

「やったー!」

 

はしゃぐ小町を見て、なんとなく頬が緩むのを感じる。

勉強については………言わなくてもいいか。最近ずっと頑張ってたし、なによりそれは本人が1番わかってることだろう。

 

 

さて、とうとう明日だな。

 

 

「A級ランク戦ファイナルラウンド夜の部!今シーズントップを飾る部隊が決まるここ1番の戦いが間もなく始まります!実況は私、武富桜子でお送り致します!」

 

翌日夜。とうとうランク戦が始まろうとしていた。

 

しかし武富相変わらずテンション高いな…。

 

「解説には、非常にクオリティの高い解説を届けるので有名、東隊隊長東さんと、ボーダーの顔、嵐山隊隊長嵐山さんにお越しいただきました!」

『どうぞよろしく』

 

ほう、今日は東さんと嵐山さんか。

 

「さてさて、早速始めて行きたいと思います。まず、今回の組み合わせについてはどう思いますか?では嵐山さん」

「そうですね、まずポイントが今回は狙撃手がいないというところですね。そしてどのチームも必ず射手がいるというところでしょうか。そういった意味ではどのチームも似たような編成だと思います。なので編成のみの相性というのはあまりポイントにはならなさそうです。隊員個人の相性が今回のポイントだと思います」

「風間隊は歌川が射手トリガー持ってますからね。単純な攻撃手の戦いになる、というわけではなさそうですね」

 

まぁ歌川はほとんど攻撃手だけどな。扱いはそこそこうまいけど、やっぱり動きは攻撃手の動きの方がいい。

 

「さぁ、今回3位の比企谷隊が選んだステージは『都心部』!」

「影浦隊が前に選んだとこですね」

「このステージ選択についてはどう思いますか?東さん」

「そうですね、このステージは縦長のステージで高低差が大きい。比企谷と佐々木、どちらも高い機動力を持っていますからそれを活かすのではないでしょうか」

「ほう、『ボーダー1、機動力の高いチーム』。その特性を活かしていく、ということですね」

「誰が決めたかはわかりませんが、多分今回も時刻設定は夜でしょうね。いつも夜ですから」

「まぁ、比企谷が夜行性ってこともあるかもしれませんけどね」

 

なんで知ってんだよ!夜行性だよ俺!というか別にそんな理由じゃねーし!

 

「今回は攻撃手が太刀川相手にどんな動きをするかが見ものですね」

「ソロランク1位ですもんね」

 

3位もいますよ。ちなみに俺は5位。

 

「さぁ、間もなく時間です!」

 

そこまで聞くと俺は深呼吸をして振り返る。

 

そこには、いつものメンバーがいる。

 

「準備はいい?ハッチ」

「トーゼン」

「僕も、OKだよ」

「よし、じゃあ手はず通りに」

「うん」

 

そこまでいうと、横山が両手を挙げてきた。

 

「いってらっしゃい」

 

俺と佐々木さんはその横を通り過ぎると同時に挙げられた手にハイタッチした。

 

「おう」

「うん」

 

 

俺たちの挑戦が始まった。

 

 

転送が完了する。

 

俺は歩道橋の上に転送された。

周囲にはビルと街灯。時刻は当然の如く夜。

ただ、普段なら雨とかにするのだが、今回の天候は『濃霧』。徹底的に視界を奪う作戦だ。

え?俺はともかく佐々木さんはどうなのかって?大丈夫だろ。あの人、気配察知に関しては(サイドエフェクト抜きなら)俺より上だ。

 

レーダーを見る限り、近くには誰もいない。バッグワーム使ってるのが……2人か?1人は唯我だろうけど、もう1人は出水か?

合流しようとしてるのがいるから多分そこは風間隊だろう。

合流させないに越したことはないが、多分位置的に間に合わない。転送位置がよかったな。

 

「横山、視覚支援。あと動体感知」

『もうやってる。サッサンがそっち向かってるから合流して』

「あいよ」

 

視界がクリアになっていく。

ちなみに動体感知とは視界が悪い中、動くものがどこにあるかを視界に表示するものだ。無論、敵だけを表示するわけではない。動くものならなんでも表示してしまう。

加えて処理に時間がかかる。そのためあまり使うチームはない。

だが横山のスペックならロクに時間がかからない。

 

「よし」

 

いくか。

 

 

「ふん、ここなら誰が来てもすぐにわかる」

 

唯我は1人、2番目くらいに高いビルの屋上にバッグワームを使って佇んでいた。

 

「レーダーを見る限り、こちらには誰も来てないな」

 

しかし人数的に1人バッグワームでレーダーステルス状態だ。油断はできない。そもそも彼の実力的に、このランク戦に参加してること自体がおかしいのだから。

だから彼に課せられた任務は一つ。できるだけ死なないこと。

 

「逃げ続けるだけなら、大した仕事ではないな」

 

そう言って前髪を払う唯我。

彼の今いるビルの高さは約100メートル。そしてすぐ隣には130メートルほどの最も高い高層ビル。周囲にも50〜90メートル近くの高層ビルが立ち並んでいる。そのためビルの屋上を伝っていけば今唯我がいる場所にも容易にたどり着くことができる。トリオン体の身体能力なら当たり前ではあるが。

 

「さて、僕は高みの見物でもしていると……なんだこれでは見えないな」

 

余裕綽々の唯我。街灯で照らされているが、濃霧のせいであまり下の様子は見えない。加えて夜の闇だ。

内心舌打ちをしていたが、ここで周囲への警戒を解かなかった彼は正解だった。

 

上から光り輝くブレードが降ってきたからだ。

 

「ひぃっ!」

 

情けない声と共に回避に投じる。

降ってきたブレードは床に突き刺さると、風景に溶けるように消えた。恐らくしまったのだろう。

スコーピオンを使うとなると、恐らく風間隊の誰かだ。風間隊に狙われては敵わない。比企谷隊ならともかく、風間隊相手だと本当に瞬殺される。そんな考えを持ちながら唯我は逃走を開始した。

そう、普段の比企谷と琲世の態度から、彼は比企谷隊の二人を正直なめていた。A級であるから自分よりは強いだろうが、風間隊や自身の所属する太刀川隊よりは実力が下で、3位まで上がってこれたのも正直運がよかったと考えている。実に傲慢だ。

 

「国近先輩、逃走ルートの表示をお願いします!」

『はーい。表示させたからテキトーに逃げて〜』

「そんなテキトーな!」

『頑張って〜』

 

内心泣きそうになりなながらも、足は決して止めない。視界が悪い以上、レーダーだけが敵の足跡の頼りなのだが、バッグワームのせいでわからない。

だが視界の端で街灯が僅かに遮られるのを唯我は見逃さなかった。

 

(そこか!)

 

バッグワームは解除せず、片手だけハンドガンを抜き放つ。ほとんど闇雲であるが、多少足止めにはなるはず。そう思いながら唯我は逃げていた。

しかし全く来る気配がない。いくら視界が悪いといってもトリオン体の視力なら影を捉えることくらいならできる。なのになにも来る気配がないのだ。

不審に思いながらも国近に指定された逃走ルートを走る。もうまいたのか。そう思った瞬間

 

 

 

視界が反転するのを認識した。

 

 

 

首が飛んだ。そう思うのにさほど時間はかからなかった。しかし、認識したところで時すでに遅し。

 

『戦闘体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

 

彼がその電子アナウンスを聞きながら最後にみたのは、黒いバッグワームのフードを被り左手にスコーピオンを持った青年だった。

 

 

「お、早速動きましたね」

「ここで佐々木隊員が唯我隊員を仕留めて1点をもぎ取った!鮮やかな手法だ!」

「さすが佐々木ですね。伊達にNo.4攻撃手じゃない」

 

解説席では早速1点動いたことにざわめいていた。

 

「あれやられたらちょっと唯我じゃどうにもできませんね〜」

「さすがは暗殺者(アサシン)ですね」

「い、今のは一体なにが?」

「琲世の得意技の1つなんですよ。バッグワームを起動してる状態でテレポーターを使って瞬時に忍び寄り一瞬で敵を狩り取る。嵐山隊(うち)とやった時は最後加古さんにこの戦法でトドメを刺しました」

「佐々木は最初孤月だけで戦ってましたけど、ある時からこの戦法をやるようになったんですよね。なんだかんだであいつはスコーピオンもマスタークラスですし。所謂初見殺しですよ。まぁ一回見ただけで対応できる人はそういないでしょうけどね」

 

現に琲世はこの戦法で一度だけ太刀川相手に10本勝負で勝ち越したことがあるのだ。そして不意打ち相手には絶対的な自信のある影浦や菊地原までこのやり口でやられたことが多々ある。

そしてこんな戦法を続けてたらついたあだ名は暗殺者(アサシン)。琲世が1番得意な捌き返しとは一切関係ないあだ名になってしまったのだ。

 

「この濃霧の天候を選んだのも佐々木の暗殺戦法で確実に点を取るためでしょうね」

「なるほど。これは比企谷隊の本気具合がよくわかる一戦ですね!」

「まぁ、さすがにこれだけでやられる連中じゃないでしょうけどね」

 

試合はまだ始まったばかり。

 

 

『サッサンが唯我仕留めたよ!』

「さすが」

 

やはりと言うべきか、唯我が真っ先に落ちたな。まぁあいつの実力考えたら当たり前だけどな。

さて、こちらもそろそろ来るだろうな。レーダー見た感じ、敵が3人。内2人は既に合流してこちらに向かってる。もう1人も多分ほとんど間を置かずにこちらに来るだろう。

 

『敵性反応接近。距離、残り50』

 

この速さは、多分風間隊だな。

シールドいつでも張れるようにしとくか。

 

………来る!

 

そう感じた瞬間、俺の首を狩るようにスコーピオンが振るわれる。それをバックステップでかわすが、さらに追撃を加えてくる。

この太刀筋は歌川だな。

そしてこれは陽動。後ろから来るな。

 

「はいお終い」

 

その言葉と同時に背後からスコーピオンが俺の体を貫こうとしてくる。

 

「あめーよ」

 

シールドで覆われた腕でそのスコーピオンを受け流す。そして流された際にできた僅かな隙に、そいつの腹に蹴りをいれる。

並の射手ならやられてただろうが、こちとら熊谷や佐々木さん相手に訓練してきたんだ。そう簡単にはやられない。

 

「はぁ!」

「だから甘いって」

 

最初に攻撃を加えてきたやつが更に攻撃してくるが、俺は背を向けたままその斬撃をかわし先ほど俺に蹴られて吹き飛ばされたやつの方に背負い投げをする。

2人が見事にぶつかる。復帰する前にトドメを刺しておこうとバイパーを放とうとするが

 

 

その瞬間、凄まじい寒気が俺を襲った。

 

 

シールドを纏わせた腕をクロスし、ガードしながらバックステップを踏むとその腕に衝撃が走る。

 

「グラスホッパー」

 

グラスホッパーで後ろへ飛ぶとすかさずアステロイドを放つ。シールドにアステロイドが当たる音が聞こえてきた。俺は着地すると、相手をしっかり見据えた。

 

やはりさっきの寒気は風間さんだった。そして最初のが歌川、次のが菊地原だ。

 

「さすが比企谷先輩、今のワンセットでやられない射手はそういませんよ」

「今ので死なないとか……本当ムカつく」

 

おいコラ。

 

「佐々木が唯我を落としたようだが……位置的にはかなり遠いな。俺たち全員を相手に、しかもこの視界の悪い中で佐々木が到着するまでにお前は生きてられるか?」

 

加えて太刀川さんと出水も既に合流してこっち来てる。ステージ選択した俺らが狙われるのは必然。しかも俺はそのトップ攻撃手が集まるなかただ1人単体の射手だ。いつも学校ではぼっちとか言ってはいけない。

 

「なにが狙いか知らないけど、視界悪くした時点であんたの負けだよ比企谷先輩。この状況ならあんたの直感より僕の耳の方が優秀なんだから」

 

相変わらず口悪いな菊地原……。んなもんわかってるわ。この視界なら聴力に特化した菊地原の方が有利だろうよ。

 

『ごめん比企谷くん、もう少しかかる』

『そろそろ太刀川さんも来るんで早めにお願いします。でもトリオンは温存しといてくださいね』

『わかった』

 

と、そこでさらに気配が追加される。まぁレーダー見ればすぐわかるけど。

 

「やっぱそうだよねぇ…」

「よお比企谷、風間さんも」

「あれ、比企谷1人じゃん」

「太刀川さん、出水……」

 

いやはや、こうなるとは思ってたけどこれはかなりきついな…。

頼むぜ佐々木さん、早く来てくれないと俺落ちるぜ?

両手にトリオンキューブを出現させ、構える。

 

 

さて、いくぞ。

 

 

目の前で爆発が起こる。

 

「んのやろ……」

 

視界が悪いなか、さらに出水の爆撃により視界が悪くなる。

 

「っ!」

「おっと、さすがに避けられるか」

 

悪くなったところで太刀川さんが旋空で狩ろうとしてくる。

しかも風間隊はステルス戦闘のプロだ。俺にはサイドエフェクトがあるとはいえ、見えた方がいいのは間違いない。一応三つ巴とはいえこのままだとジリ貧だな。早めに手を打っとこう。

 

「バイパー」

「おっと」

「!」

 

とりあえず物量で攻める。どうせ防がれるのだから威力は少し低めで10×10×10のフルアタックで雨を降らせ時間を稼ぐ。

その隙にグラスホッパーで少し距離を取る。

 

「逃すかよ、アステロイド」

「逃がしてくれよ…」

 

出水のトリオン量なら俺の威力低めのバイパーの雨もフルガードしなくても防げる。まぁこれくらいは読んでたか。

爆炎と濃霧の中で攻撃手同士が打ち合ってる音がする。多分、風間さんが太刀川さんを足止めしてるのだろう。なら残りはどうなるか。

 

俺に来る。

 

「っと」

 

菊地原のステルス攻撃をかわし、歌川の斬撃をいなす。

 

「なんで射手のクセに体術とかできるんだし…」

「攻撃手対策だろーが」

「近接で勝てるとでも思ってるの?」

一対一(サシ)ならともかく、乱戦ならどうにかなるだろ」

「あんま図に乗らないでくれる?」

 

よし、菊地原はプライド高いしやたら俺をライバル視してるから挑発すれば簡単に乗ってくる。仕留められずとも、ここで動きを単調にさせておくことに意味がある。

歌川と菊地原が俺を狙おうとしてくるが、漁夫の利を狙おうと出水もちょくちょくいろいろしてくるため、攻めきれない。さて、どうするか。

 

『ハッチ』

「あいよ」

 

そろそろか……。

 

『比企谷先輩は僕がやる。だからそっちは出水先輩抑えて』

『ライバル視するのはいいけど、熱くなりすぎるなよ』

『うるさいなぁ、そんなザコみたいなことしないよ』

 

お、菊地原だけこっち来たな。よしよし、うまく挑発に乗ってくれたか。歌川は出水の方いったか。

 

「ここであんたより僕の方か優秀なことを証明してやるよ」

「御託はいいからさっさとかかってこい」

「ほんっとムカつく」

 

そう言いながら菊地原は俺に向かって走り出した。

 

ーーー

 

「っ!」

「腕落ちたね」

 

菊地原のスコーピオンが俺の髪を掠める。こいつ、腕上げたな。前よりキレが上がってる。

しかも機動力が地味に高い。距離取ってもすぐにつめてくるから俺の間合いで戦えない。そもそも射手は毎度毎度コースやら威力やら設定するから攻撃に少し手間がかかる。スピードアタッカーの菊地原とは少し相性が悪い。

………もう来るか。

 

「メテオラ」

「! シールド!」

 

攻撃と攻撃の僅かな隙をついてメテオラを放つ。

 

「っと」

 

すかさず距離を詰めてきた。シールドまとった腕でガードする。

……やべ!

 

「っ!」

 

このやろう、足にスコーピオンまとわせてサマーソルトしてきやがった。すんでのところでかわすが、バランスが崩れた。

 

「はいお終い」

 

そういって菊地原は俺の胸にスコーピオンを突き刺そうとしてくる。普通ならここで終わりだ。だが、俺もそう簡単にやられるつもりはない。

 

 

「……そりゃてめーだ」

「!!」

 

 

菊地原はとっさに下がった。だが体勢が体勢だけに下がりきれなかった。

 

そして、菊地原の腕が飛んだ。

 

「……外した」

 

そうして現れたのはバッグワームを装備した佐々木さんだった。

 

「まぁ菊地原耳ありますからね」

「それもそうか」

 

足音か服が擦れる音かそれとももっと別のなにかの音か。なんにしても菊地原は音による感知ならボーダートップだ。見切られるのは仕方ない。

さて、佐々木さんも来たことだし

 

「仕切り直しといこうぜ、菊地原」

「…………」

 

菊地原は顔を盛大に歪めた。

 

 

「おろ」

 

仕切り直しといこうかと思ったが、菊地原は思ってたより冷静で風間さん達のとこに戻っていった。さすがに格上二人を相手にすんのは無理だと思ってたか。菊地原もA級隊員だ。自分の実力くらい把握しているよな。

 

「遅れてごめんね」

「いえ、唯我うまく仕留めてくれてありがとうございます」

「たまたま近くにいたからね」

『サッサン1点取ったからいつでも落ちていいよ〜』

「あれ、夏希ちゃん僕の扱い雑じゃない?」

 

……なんか今ゾエさん思い出したわ。ゾエさんも仁礼からの扱い悪いし。

さて、冗談はさておき。

 

「行きますか」

「うん」

 

ーーー

 

「あらら〜揃っちまったか」

 

戻ってきて早々、太刀川さんから辛辣な挨拶だった。まぁ他のメンツからしたら俺と佐々木さん組ませて戦いたくねーよな。

 

「じゃあ比企谷くん、よろしくね」

「うす」

 

そう言うと佐々木さんは少し長めの改造孤月(佐々木さんは『ユキムラ』って呼んでる)を抜き放ち、走り出す。

俺も俺の仕事をしよう。

 

「はぁ!」

「っとぉ」

「ふん」

 

佐々木さん、太刀川さん、風間さんの攻撃手3人が三つ巴で打ち合い始める。やっべ、よく見えない。なにあの速さ。なんで反応できるの?バカなの?人間やめてるの?生身じゃないけど。

 

「バイパー」

 

佐々木さんに絶対に当たらない軌道設定でバイパーを放つ。

 

「ちっ」

「うああ〜クソ面倒だな比企谷ぁ!」

 

そりゃあせっかく攻撃手で斬りあってる中バイパーが飛んできたらうざいだろうよ。

つっても向こうもこんなうざい動きしてるやつをほっとかないだろうよ。

 

「アステロイド!」

「メテオラ!」

「うお、グラスホッパー」

 

出水と歌川が地味に俺の動きを封じようとしてくる。

 

「そらもういっちょ!ハウンド!」

「バイパー」

 

出水の放ったハウンドの弾体にバイパーをぶつけて打ち消す。ついでに歌川と菊地原にもバイパーをシールドを避けるようにして弾道設定して放った。

 

「相っ変わらず変態みたいなコントロールしやがってなぁ!」

「ムカつくなぁこのバイパー」

「さすが比企谷先輩だな」

 

そんな俺への悪口を垂れ流しながらも攻撃の手は緩めないしかすり傷も与えられないあたりさすがA級というべきか。

さて、そろそろ作戦へと移行しよう。下がりながらだったからもうそろそろ頃合いの場所まできただろうよ。

 

「…………」

 

暗闇と濃霧という最悪の視界の中、俺はさらに視界を奪うためにメテオラを目の前の地面で爆発させる。

土煙が上がり、視界はより悪くなる。頼りになるのはレーダーだけだ。そんな中で、俺は1つ仕込みをする。

 

だがどんなに視界を奪おうと、A級トップのメンツだ。レーダーだけでも俺を見つけるなど容易いだろう。

 

「その程度で隠れたとでも思ったの?足音でバレバレだよ」

 

やっぱ早速見つけてきたよこいつ。全く目くらましの意味ないね。

ま、あれだ。そんなことは予想してたし、むしろ

 

 

「計画通り」

 

 

変化炸裂弾(トマホーク)が菊地原のすぐ背後に着弾して大爆発を起こす。

 

「⁈」

「うわ!」

 

歌川が菊地原を追って来たちょうどいいタイミングで爆発させたため歌川も別の方向へ吹き飛ばされる。うまいこと出水も巻き込まれた。

 

「く…」

 

休む間を与えずすかさずバイパーで追撃。

 

「ムっカつくなぁ!」

 

おお、相当頭にきてるなこの口調。

さらにメテオラを菊地原の背後で大爆発させる。

 

「当たってないけど」

 

そりゃあ当てないようにしてるからな。

 

「……!」

 

菊地原は気づいた。そう、さっきのメテオラは意識を散らすのと同時に近くの電灯を壊す役目もしていた。菊地原も視覚支援はしているだろうが、濃霧に暗闇ではほとんどなにも見えないだろう。そして分断の意味もあった。

となると菊地原がとるべき選択肢は1つ。

 

「……音でバレバレだよ」

 

そう、音を追うことだ。菊地原の耳なら暗闇でも俺の場所は大体わかるだろう。超人的な聴力ではないにしても十分驚異的な聴力だ。それを利用しないバカではない。

 

 

だがその時点で策にはまってるぜ、菊地原。

 

 

数日前、作戦室。

 

「次のランク戦、都心部にしようと思うんだが…」

 

文化祭が終わりようやく落ち着いて話ができるようになり作戦会議が開かれた。ランク戦まであまり日が無いのでできれば今日中に作戦を決めてしまいたいところだ。

 

「うん、僕はいいと思うよ」

「そーね、ハッチとサッサンの高い機動力を活かすのにはいいステージね」

 

どうやらお気に召してくれたようだ。

 

「あーでもサッサン大丈夫?ハッチは普段どおりだろうけど、サッサン今回は特別な編成でしょ?」

「うーん、確かにそうだけど多分大丈夫だよ。念のためあとで都心部ステージでフリーランニングしてみるよ」

「じゃあ天候とかどうするよ」

「うーん、相手が相手だしいつも通り夜に雨でいいんじゃない?」

「そーね、雨の音で毒きのこ(きくっちー)の耳もちょっとは妨害できるだろうし」

 

横山、お前さりげなくすごいルビふってない?なんか今ブラックなオーラ出てたよ?あれか、この前「脳筋女」って言われたからか。

 

「………菊地原くんの耳があるから僕の暗殺戦法は多分風間隊には効かないよね」

「そっすね……でも多分太刀川さんにも効かないと思いますよ。あの人アレで一回ボロクソにやられてからさっぱり効かなくなったじゃないすか」

 

出水と唯我なら効くだろう。唯我とか絶対瞬殺できる。

 

「それに多分夜にしたら風間隊絶対聴覚共有してくるよね〜。聴覚共有あんまりリソース使わないし割と簡単に出来ちゃうし、歌歩ならその程度一瞬で済ませるだろうし」

 

……風間隊はステルス戦闘のプロで全員攻撃手としてのレベルはかなり高い。風間さんとか正面からやれば俺も佐々木さんも単体なら高確率で負ける。加えて奇襲で行っても菊地原の耳ですぐ看破される。

 

………耳、か。

 

「横山、俺と佐々木さんで攻撃する時、音があんまり出ないのはどっちだ」

「え?実際に計測しないとわかんないけど、暗殺戦法入れるならサッサンでしょ。射手トリガーも銃手トリガーも打つと少し音出るし。銃手ならサイレンサーでも着けてないとかなり出るっしょ」

「……俺らのやり方、正面からやりあう方が単純な戦闘力は高いけど点取れる確率高いのは奇襲戦法だよな」

「うん、多分ね」

 

多分太刀川さんとかは正面からやり合わないとどうしよもない。だが風間隊相手だと奇襲は菊地原がいなければある程度通じる。

 

「……よし、次のランク戦の天候は濃霧にしよう」

「え、でもそれだと菊地原くんの耳が大活躍しちゃうんじゃ……」

「それでいいんすよ。むしろ夜で濃霧となると耳に頼る以外無くなる。なら耳に頼らせまくればいい」

「………なるほど、君らしいや」

 

お、佐々木さんは今のでわかったか。

 

「……ねぇ、もしかして…」

「そーゆーこと」

「うっわ、ハッチ性格悪」

 

ほっとけ。

 

「でも風間さんはどうするの?歌川くんもいるし」

「多分風間さん止められるのは佐々木さんと太刀川さんしかいない。単純な戦闘力ならともかく風間さんの間合いでやりあえるのはその二人だけだ。なら無理やり太刀川さんと風間さんをあわせればいい。その誘導については俺も援護はしますが、佐々木さんにお願いします」

「わかった」

「多分菊地原は歌川と行動する。だから俺が少し煽っておびき出す。少しでも離れたらそこで無理やり俺とサシに持ち込む。そしたら合図するんで佐々木さんはこっちに来てください」

「わかった」

「その時横山は他のメンバーの見張りな。少しでも動きがあったら即座に連絡」

「りょー」

 

よし、メンバーの同意も得られたことだ。これで試合終わってからグダグダ言われる心配はない。

 

「んじゃ他のメンバーについてだが…」

「ああ、風間さんは…」

「歌川はー?」

「太刀川さんがなぁ…」

「出水もどうするか決めとかないとね」

「唯我は?」

「ほっとけ」

 

こうして作戦会議はつつがなく進んだ。

 

 

濃霧に隠れた比企谷を見て、菊地原は内心比企谷に失望した。

 

初めて会った時、比企谷はとても強い隊員には思えなかった。彼が入隊した時、比企谷はB級に上がっていて既に琲世とチームを組んでいた。その時はまだチームを組んでいながらチームランク戦には参加しないという特殊な例だった。

チームを組んでおきながらなぜランク戦に参加しないのか。

 

なにか思惑があるのか、それとも単純にチームである程度実績を積んでから参加するのか、はたまたただのバカなのか。

 

ちなみに菊地原の予想は最後者だった。

風間にスカウトされて自身の実力と潜在能力に自信を持つようになった菊地原は、目が死んでるやる気も覇気も感じられない男に微塵も脅威を感じなかった。

その時はランク戦ブースで少し見かけた程度で取るに足らない存在だろうと勝手に決め付けていた。

しかし風間の話を聞くとあの風間が一目おく存在だという。

 

あんな男が?

 

自分の価値を見出した風間のことは菊地原は尊敬していた。なのにその尊敬する風間があんな男を認めるなど、ありえない。菊地原はそう思ったのだった。

 

それから少し月日が流れ、菊地原がB級に上がり風間隊のメンバーに加わった。そのワンシーズン前に比企谷隊もランク戦に参加し始めた。比企谷隊は割と順調に勝ち進んでいき、既に上位にいた。

 

そして風間隊がB級上位のランク戦で当たった時、菊地原はなんの因果か比企谷の足止めを任された。

 

こんなやつ、足止めの必要あるんですか?僕なら瞬殺できますよ?

 

ムービーを見て作戦会議をしている時に菊地原はそう言った。ムービーを見ててもどこにいるのかすぐにわからなくなる。そんなに影が薄いやつの足止めなんていう貧乏クジなどやりたくなかったのだ。

 

その言葉に対して風間は、ならしっかりこなしてみせろ。それだけだった。それだけ言い彼は作戦会議を進めた。

 

ランク戦当日、運良く比企谷の近くに転送されたため任された仕事である足止めを実行しようとする。

 

 

しかし、5分も経たずに戦闘不能にされ、緊急脱出(ベイルアウト)させられた。

 

 

ムービーではわからなかった彼の操るバイパーの恐ろしさ、そして普段とは全く違う雰囲気を纏った比企谷は菊地原をまるで『通過点』とでも言うようにあっさり倒していった。

 

それが、たまらなく不愉快で悔しかった。

 

だからその日から内心で比企谷をライバルに決めた。そのランク戦後に言われた彼の言葉がとてつもなく菊地原のプライドを傷つけたのだ。

 

だからその日から訓練に励んだ。より多く実践を積み、比企谷に近づけるように。

だがそれでも比企谷には追いつけなかった。差は縮まっているが、まだ彼が自分より上だということは確かなのだ。

 

多分、菊地原は否定するが菊地原は比企谷の持つ強さに憧れていたのだ。

 

だがその比企谷が霧にまぎれて奇襲を仕掛けると思われる策に出た時、失望した。その程度の策で自分は崩されない。今まで散々これと似たようなやり方の相手とやってきたし、そもそもその程度でやられるほどヤワではない。

 

彼の耳は、確実に比企谷の足取りを捉えていた。それに比企谷はバッグワームを使っていない。そのためレーダーでおおまかな位置は把握できる。視覚支援を受けている以上、濃霧の中でも弾丸が放たれればその光である程度軌道はわかる。恐るるに足らない。

 

そう思っていた。

 

だが急に聞き取れる足音が増えた。

 

(……これは?)

 

レーダーには映らない。ということはバッグワームを使用しているということだ。

 

(…ああ、あの人か)

 

その足音が誰なのかを予想し、警戒を強める。多分自分がすでに比企谷隊の策にはまっていることを予想した菊地原は無闇に動くことをせずどっしりと構えどんな奇襲にも対応できるように警戒していた。

 

しかし、その警戒を嘲笑うが如く、メテオラの爆音が響き渡る。

 

「な!」

 

突然の爆音にわずかに反応する菊地原。

 

そしてその爆音の中から、近づいてくる足音を彼の耳は捉えた。

 

「……原始人レベルだね」

 

濃霧の中から突如現れた黒い人影のスコーピオンを最小限の動きでかわすと、その人影にスコーピオンを振り下ろす。

 

しかし、そのスコーピオンが人影を捉えることはなかった。

 

「な!」

 

そしてその瞬間、上から降ってきた弾丸が菊地原を貫いた。

 

 

時は少し遡る。

 

残ってる全てのメンバーが合流を果たし、それぞれの戦いを始めてすぐ、攻撃手メンバーは均衡を保っていた。

 

「そら!」

「ふん」

「ふっ!」

 

太刀川、風間、琲世の3人は均衡を保ちつつ凄まじい速度で斬り合っていた。

しかし、この中では琲世が1番実力も低く乱戦に向かない戦闘スタイルだ。少しずつ削られていく。

 

「……ああ、やっぱまだ敵わないかな」

「そら!どうした佐々木!」

「真正面からじゃ、勝てなさそうですね」

 

そういうと琲世は旋空で2人をまとめて牽制する。

2人がわずかに下がると、琲世も下がり濃霧の中に姿を消した。同時にレーダーからも消えたところを見ると暗殺戦法に切り替えるようだ。

2人はそのことを認識すると、残った2人で斬り合いつつも周囲への警戒を強めた。

 

しかし少ししても琲世は出てこない。そして向こうからメテオラと思われる爆音が僅かに聞こえた。

 

(……今のは。恐らく歌川ではない。今歌川は出水と対峙している。となると比企谷か?)

 

少し距離を太刀川ととった風間は警戒しつつも戦況を考察する。

 

『…三上、菊地原はどうしてる』

『どうやら比企谷くんと対峙しているようです。音を頼りに彼の奇襲を打破する気みたいですね』

(……比企谷と対峙……まさか!)

『菊地原!すぐに戻ってこい!』

 

そう通信を入れた風間を嘲笑うが如く、一筋の光が空へ飛んでいくのを見た。

 

 

「………なにが」

 

俺の目の前にはほぼダルマ状態の菊地原が転がっている。

 

「……ふう、うまくいった」

 

賭けの要素が大きかったが、まぁ結果オーライだ。さっさと止め刺して次行こうと。ほっといてもそのうちベイルアウトすると思うけど。

 

「……どうやって、僕にバイパーを当てた」

「説明してやりたいが、あいにく時間がない。次の作戦に移行するからな。解説でも聞いてくれ」

「……僕を最初に仕留めたのは、僕が1番厄介な相手だからだ」

 

……多分、これマジで言ってるよな。こういうこと本気で簡単に言えるあたりすごいわこいつ。

ま、間違っちゃいねーけどな。

 

「さぁな」

 

それだけ言って俺はアステロイドを1発撃ち込み、菊地原をベイルアウトさせた。

 

「じゃ、次行きますかね」

「うん」

 

濃霧の中から出てきた佐々木さんに声をかけて俺たちは再び激戦に身を投じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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