目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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初登場の人物
生駒達人
関西人。多分原作トップクラスで顔の横に光を出した男。なぜか常にカメラ目線でランク戦を行っていて、ワールドトリガーの中で1番ネタに溢れた人。サッサンと仲がよく、一緒にご飯食べに行くことも多々ある。好きなものはナスカレー。(那須カレーではない)

宏岡亜矢
このキャラがなんのキャラかわかる人は作者と気があうはず。

遅れてすいません……。




36話 休日とは、休む日と書くから休むものである。

文化祭が終わり、ササキメシのフルコースをいただいた次の日。

 

夜の防衛任務の夜勤明けだったため昼まで寝てしまっていた。小町はこの時間なら塾の自習室にいるだろうし弁当も作っておいたから大丈夫なはずだ。なにかあれば連絡してがくるはずだし。

佐々木さんは………多分帰ったのだろう。もし開発室にいるのなら荷物があるはずだし。横山は帰って寝るとか言ってたかな。

 

さて、そうなるとやることがない。このままダラダラしててもいいがせっかくだしなにかしていたい。

ランク戦でもしに行こうかと思ったが、なんとなく太刀川さんとか米屋とかの戦闘狂(バトルバカ)に捕まりそうな予感がしたためやめた。今はさすがにあの人達とやりあう気にはならない。そもそも次のランク戦太刀川隊だし。

 

さてどうするか。

 

「とりあえずメシだな」

 

朝飯食べずにそのまま寝てしまったせいで腹が減っている。まずメシをどうにかしなければな。

そう結論付けると俺は財布を持って作戦室を出た。

 

 

自販機までたどり着くと金を投入してマッカンを購入。食料については作戦室にあるのでどうにかしよう。

 

「お、比企谷やないか」

「あ、生駒さん」

 

生駒達人。生駒隊隊長でNo.6攻撃手。関西弁でしゃべるとこを見るとおそらく関西出身の人だ。確か生駒隊みんな県外スカウトされた人だし。佐々木さんとよくつるんでるとこを見る。

 

「ども」

「おう。どないしたんや、珍しく1人やないか」

「夜勤明けなんでみんな帰りましたよ」

「なんやサッサンも帰ったんか」

「多分」

「じゃあ夏希ちゃんも帰ったんか」

「そっすね」

「前から思っとったけど、あの子かわええよな」

「美人なのは認めますけどあの性格でかわいいとはちょっと言いたくないっすね……」

 

沸点低いし顔に躊躇なく拳を叩き込むやつをかわいいとは俺は認めない。というか話めっちゃ飛んでない?いつものことだけど。

 

「生駒さんも1人っすか」

「せやな。防衛任務もないし他の連中もどっか行きおったんで暇しとったからサッサンでも誘ってメシ行こうとでも思っとったんや」

「はぁ」

「せや。比企谷今から暇か?」

「ええまぁ」

「メシもう食ったか?」

「いやまだです」

 

なんなら朝飯もまだですけど。

 

「今からメシ行かんか。奢ったるわ」

 

マジか。食費が浮くぜ。それにこの人は一緒にいて退屈しない。関西人ゆえだろうか。

 

「行きます」

「よっしゃ。行くで」

「で、どこ行くんすか?」

「大学の近くにウマイカレー屋見つけてな。サッサンに勧めたろ思っとったとこや」

「へぇ……カレー、好きなんすか?」

「好きやで。……比企谷、俺の1番好きなカレー知っとるか?」

 

知るわけないでしょ。

 

 

 

「ナスカレー」

 

 

 

わかるわけない。

 

 

しばらく移動して例のカレー屋に到着した。確かに大学からほど近い場所にあるから学生がよく来そうだ。

中に入ると、思ったより落ち着いた雰囲気になっていた。学生がよく来そうだからもう少し賑やかなのかと思っていたが、これは意外。

 

「ええとこやろ」

「そうですね」

「ここ、火曜のランチはナン無料なんや。機会があれば来てみぃや」

「火曜の昼は俺学校っすよ」

 

しかし、ナン無料か。あいにく今は火曜じゃないんだよなぁ……。まぁ今日はせっかくおごりだし普段あんま食べないようなやつ食べよう。高すぎないやつで。太刀川さん相手なら躊躇なく1番高いやついくけど。

 

「…………」

 

メニューを見てみるが、どれも美味そうだ。カツカレー、チキンカレー、ビーフカレー、ナン&ドライカレーセット、カレーオムレツなんてのもある。あ、あとこれが噂のナスカレーか。

どれにしようかな……。

ふと前を見ると生駒さんは既にメニューを閉じていた。もう決まったのか?

 

「決まったんすか?」

「おお、決めたで」

「なんか、おすすめとかあります?」

「おすすめか……カツカレーとかどうや?風間さんが来たら毎回食うてるで」

「ほう」

 

風間さんカツカレー好きだもんな。

 

「あとは無難にナスカレーとか」

 

ナスカレー無難なのかよ。

 

「じゃあ無難にナスカレーで」

「お、わかっとるやないか。店員さーん、注文ええか?」

「はい」

「ナスカレー二つ」

「かしこまりました」

 

オーダーを取ると店員は戻って行った。

 

「そういえは比企谷、ずいぶん上まで行きおったな」

「え?」

「お前のチームや。もう気づいたらA級3位やないか」

「あー…そうでしたね」

「なんや、相変わらず順位には興味ないんか?」

「いやまぁないわけじゃないんすけど、順位は二の次かなって」

 

金稼ぐのが俺にとって1番大事なことだからな。

 

「そうかぁ…。しかし、サッサンが遠くに行ってしもたみたいで俺は寂しいわ」

「微塵も寂しさを感じさせない顔で言われても困ります。それにあなたたち結構最近よく一緒にいるの見かけますよ」

「そらそうや。あいつの相手はええ修行になるからなぁ」

 

佐々木さんと生駒さんは攻撃手の順位が近いため実力も近くいい相手になるという理由でよくランク戦している。単純に仲がいいってのもあるだろうけど。

 

「お前ら、確か一時期休隊しとったよな?そん時は何位やったんや」

「……確か5位か4位です」

「そうなると今の順位は最高記録っちゅうことになるなぁ」

「そうですね」

「そもそもお前のとこ、メンバーが豪華過ぎなんやなぁ。隊長がNo.2射手で唯一の二宮の弟子、コンビ組むのはNo.5攻撃手で攻撃手としてはトップクラスの捌きの腕、加えてオペレーターは『鬼才』と呼ばれるほどのオペレーターやからなぁ…」

………確かに有名な人ばっかだな。俺はどうか知らんが、佐々木さんと横山はそこそこ有名だ。佐々木さんは単純にランクというのもあるが、あの人はC級の連中にちょくちょくトリガーの扱いについてレクチャーしたりしてる(らしい)。だから一部のC級から「先生」ってあだ名がつけられてる。あと菩薩だし。

横山はなんかオペレーターの訓練で初っ端からかなりの成績を叩き出したとかなんとか。あと単に核兵器として有名。

 

………うん、確かにうちの隊すげぇわ。

 

「………よくよく考えたらうちってすごい濃いメンツっすね」

「せやな。うちも大概やけど」

 

全員関西人だもんな。

 

と、そんなこんなで雑談してるとナスカレーが運ばれてきた。

 

「お、来たで」

 

ほう、これが噂のナスカレーか。確かに美味そうだ。

 

「ほな、食べよか」

「じゃ、いただきます」

 

まず一口。

……美味い。

カレーの辛さと茄子の旨味が絶妙にマッチしていてすごく美味しい。普通のカレーとは違うスパイスを使ってるのか、香りも茄子にあっている。

正直、めっちゃ美味い。

 

「どや」

「すっげー美味いっす」

「そやろ。ここのは作り方は知らんが特別なスパイス使うてるみたいでな。材料もかなり拘って仕入れとるらしいで」

「でもその割に安いっすね」

 

このナスカレーも650円くらいだ。1番高いやつでもせいぜい1,000円くらいだ。

 

「まぁなんで安いんかわわからんわ。安くて美味けりゃええんや」

 

それは確かに。

 

 

 

そのまま雑談をしながらナスカレーを味わっていった。

 

 

気づけば目の前の皿は空になっていた。

 

「食った食った……」

「どや、美味かったやろ」

「ええ、また来たいです」

 

いや本当マジで。

 

「ほんなら今度ササキメシ食わせてや」

 

え、なぜそうなる。

 

「最近味わってないんや。サッサンも忙しそうにしとるし学校で会うことがあっても本部で会うことがあんまなくてなぁ。久々に食べたいわ」

 

………昨日、フルコースを味わったなんて言えない。

 

「あと今度ランク戦せんか?」

「え?まぁいいすけど」

「最後にやった時はやられてもうたからな。今度は負けへんで」

 

そんなこと言いながら生駒さんの顔の横に光が出てるように見えた。

 

「いいですよ。次のチームランク戦の練習にもなるでしょうし」

「ま、それならサッサンでも十分だと思うけどな」

 

佐々木さんも強いが、あの生駒旋空の相手はなかなかできるものではない。どちらの相手をしても攻撃手の相手の練習にはなるだろう。

 

「俺はちょっと大学寄ってくけど、比企谷はどないするんや?」

「………まぁ、本部に戻ってダラけます」

「そか。じゃあここまでやな。ほなまたな」

「うす」

 

そうして生駒さんは大学に入っていった。

さて、俺も戻ろう。

 

 

夕方

 

生駒さんと別れた後、本部に戻り作戦室に大量にある本を適当に読みながら過ごした。

 

「ん〜……くはぁ…」

 

長時間本を読んでたせいで肩こりがすごいことになっている。首がバキバキを音を立てて鳴る。

さて、次はなにを読もうか……と思ったところでスマホが振動する。相手は……

 

『二宮さん』

 

……なんでさ。なんかやらかしたか俺?

とりあえず出るか。

 

「はい」

『比企谷か。今平気か?』

「え?まぁ大丈夫ですけど」

『そうか。なら今から出てこれるか?』

「ええまぁ」

『なら今からうちの作戦室に来い』

「え?」

『じゃあな』

 

それだけ言うと電話は切れてしまった。

………行くしかないよね。

 

 

二宮さんの作戦室に到着して、とりあえず入る。

 

「失礼しまーす」

 

二宮隊の作戦室はうちとは違ってあまり私物が置かれていない。一応あるにはあるが、うちと比べたら無いに等しい。うち、私物だらけだもんなぁ……そもそも本が全部私物だからなぁ……。

ただ最後に来た時と違うのは、作戦室の隅っこの方にダンボールが積み上がってることだけだ。多分、あれは鳩原さんの私物だろう。

二宮さんは中央のテーブルでジンジャエールを飲んでいた。なにこのオサレな空間でオサレな人がジンジャエール飲んでる状況。もう手に負えないわ。

 

見たところ、辻と犬飼先輩はいないようだ。

 

「来たか」

「ども。で、どうしたんすか?」

「例の件についてだ」

 

………例の件?ああ、それって…

 

「密航のことっすか?」

「わかってるなら話は早い。その件について少しわかったことがある。そこでお前のサイドエフェクトの力を借りたい」

 

なるほど。

すると二宮さんは立ち上がり作戦室を出て行こうとする。

え、どこ行くん?

 

「どこ行くんすか?」

「密航者の関係者に話を聞きに行く。そいつの話を聞いた後にお前の力が必要だ」

「はぁ」

 

それなら迅さんの方がいいんじゃ……。

 

「迅は食えないやつだ。やつのように暗躍が趣味とか公言してる奴は信用ならん」

「ナチュラルに心読まないでください」

 

なに?俺そんなにわかりやすいの?

 

「とにかく行くぞ。ついでにメシをおごってやる」

 

今日はあれかな。奢られ日なのかな。まぁ食費浮くからいいんだけどね!

 

 

二宮さんと共に本部を出て、しばらく歩き連れてこられたのはなんかバーみたいなとこだった。

 

「二宮さん」

「なんだ」

「俺未成年っすよ?」

「問題ない。ここは未成年でも入れるし、未成年に酒を出したりはしない。そもそも飲みに来たわけではないのだからな」

 

つまり、さっき言ってた関係者がここにいるってことか?

 

「とにかく行くぞ」

 

ーーー

 

中に入ると、そこは小洒落た感じのバーだった。どうやらバー兼レストランもやってるようで食事もできるようだ。二宮さんの通う国立大学のすぐ近くだから多分夜は学生とかで溢れてそう。

 

そんなことぼんやり考えていると二宮さんはさっさと歩いて行ってしまい、カウンター席で腰を下ろした。俺もそれに続き二宮さんの隣に腰を下ろす。さて、なにが始まるのやら。

 

「お、時間ぴったりね二宮」

 

するとカウンターの向かい側に1人の女性が現れた。見たところ店員だろう。この人が関係者か。俺のサイドエフェクトがそう言っている。

 

「ああ」

「お、こっちの子は?」

「え?ああ、その、えっと比企谷です」

 

急に話を振られてびっくりしつつもなんとか返す。

 

「比企谷………どっかで聞いたような」

 

え?俺知らないよあなたみたいな美人。なに?もしかして二宮さんの彼女?

 

「ああ思い出した!君、二宮の弟子でしょ?」

「え?あ、はい」

「前の飲み会で二宮が少し酔った時に君の話を少ししてたのよ。そっかそっか君が比企谷くんか」

 

え、二宮さん俺の話してたの?外でも俺ディスられてるの?

 

「ほとんど人を褒めない二宮が珍しく褒めてたからよく覚えてるわ〜」

「おい、ムダな話はするな」

「いいじゃない、私も二宮が珍しく褒める子がどんな子なのか知りたかったし」

 

……おお、あの二宮さんにここまでガンガンいける人初めて見たぞ。というか誰この人。

 

「あ、自己紹介まだだったね。私は宏岡亜矢。二宮とは大学の同級生でクラスも同じなの」

 

つまり法学部か。頭いいのな。

 

「あ、比企谷八幡です。えっと、知っての通り二宮さんの弟子で二宮さんにはボーダーで世話になってます」

「あの二宮が人の世話ねー。ちょっと意外ね」

「……宏岡、もういいだろう」

「そうね。じゃあ自己紹介も済んだことだし、本題に入りましょう……の前に、ご注文は?」

「……ジンジャエール」

「あら、ここはバーなのにお酒飲まないの?」

「今日は飲みに来たんじゃない。話をしに来ただけだ」

「そ。ならしょうがない。比企谷くんは?」

「じゃあ俺もジンジャエールで」

「あら、弟子は好みも似るの?」

「さっさと出せ」

「はいはい」

「はぁ……」

 

あの二宮さんが人の扱いにここまで苦労してるの初めてみた。すげぇな宏岡さん。

 

「はいジンジャエールね〜」

「あ、ども」

「いえいえ〜。で、二宮。麟児さんのことで聞きたいことって?」

 

麟児さん?誰だ?

そう思っていると、二宮さんは懐から一枚の写真を取り出した。恐らくこの人が麟児さんなのだろう。

 

「雨取麟児。この男について俺が聞くことに答えてもらう」

「いいわ。私が知ってる限りなら答えるわ」

 

なるほど、宏岡さんはこの雨取麟児という人の知り合いなのか。そして俺の勘だとこの雨取麟児という人はあの密航事件で消えた人の1人だ。

しかし、なら俺がいなくてもいいような……。

 

「お前とこの男の関係はどんなものだった?」

 

そんな俺の考えてとは裏腹に二宮さんは質問を始める。

 

「そうね、小中一緒で割と昔は仲良くさせて貰ってたかしら。幼馴染ってほどじゃないけどね。高校は違ったし、大学入ってからも特別繋がりは無かったわ」

「1番最後に会ったのは?」

「そうね……確か5月入ってないくらいかしら。たまたま見かけてね。女の人と歩いてたわ」

 

女の人?

 

「その女は、この女か?」

 

そう言って二宮さんは鳩原さんの写真を出した。

 

「んー……多分そうね。雰囲気とか背格好とか髪型とか同じだし」

「その2人がどういう関係だったかはわかるか?」

「ごめん、そこまでは」

「そうか。ならもう一つ。この男がその時期に何か調べたりしてるような動きを見たことはないか?」

「……んー……そもそも大学入ってからあんま関わりなかったし…あ、でも何回か警戒区域の方に誰かわからないけど一緒に歩いて行くのを見たかな〜」

「それがなにをしにいくかは?」

「ごめん、わかんないや」

 

そう言いながら申し訳なさそうにする宏岡さん。

……?今、不意に違和感が。

 

「そうか……情報感謝する」

「いいって。で?もう聞きたいことは終わり?」

「ああ。手間をかけさせたな」

「いいよ。二宮が頼み事なんて珍しいしね。じゃ、また学校でね〜」

 

そう言って宏岡さんはヒラヒラ手を振りながら仕事に戻って行った。

すると二宮さんは手元にあったジンジャエールのグラスを一気に傾け飲み干し、代金(俺の分も)を置くと席を立った。

 

「いくぞ」

「え、ちょ………っくはぁ!」

 

俺も手元のジンジャエールを飲み干し二宮さんの後を追った。

 

 

 

 

「あの二宮があそこまで気に入る子がいるなんてね〜」

 

店を出た比企谷の背中を見ながら宏岡は1人そう呟いた。

 

 

そのまま連れてこられたのは焼肉屋、寿寿苑。

二宮さん、焼肉好きだもんな。

 

店内に入り、適当に注文を取り飲み物が運ばれてきたところで俺は疑問を口にした。

 

「あの、二宮さん」

「なんだ」

「なんで俺をあの場に連れて行ったんすか?」

 

あの話を聞くだけなら俺はいらなかったはずだ。なのに二宮さんは俺を連れて行った。つまり俺が必要だったということだ。だがなぜ俺が必要だったのかわからない。

 

「……さっきの会話で、宏岡に対して何か違和感を感じたりはしなかったか?」

「え?」

 

違和感を感じたとこはあったけど……。

 

「鳩原のことを調べていくうちに、いくつか人に話を聞くことはできた。だが、俺の求める答えを知るものはなかった。情報提供者の事は伏せるが、わかったのはせいぜい消えた人間が鳩原以外で誰だったかということまでだ。そして唯一なにかを知ってると思われる人間が宏岡だけだったということだ」

「どうやって宏岡さんが知ってるかもしれないって調べたんすか?」

「俺にも色々とツテがある」

「なるほど」

 

そのことはこれ以上追求するなってことね。

 

「その話を聞くにあたってあいつが本当の事を言っているかどうか判断するためにお前を連れて行った」

 

そういうことか。

俺のサイドエフェクトは確実ではないが、嘘を見抜くこともできる。その力を借りたかったということだろう。もしかしたら嘘を見抜くサイドエフェクト持ってるやつとかいるかもしれないが、そんなやつと俺のサイドエフェクト比べたら確率的にはそっちのが断然いいだろうな。

 

「で、どうだ?」

「はぁ……宏岡さんが警戒区域の方に歩いて行くのは見たけどなにが目的かはわからない。そこに違和感がありました」

「……つまり、目的を知っているということか?」

「そこまではちょっと。ただ、宏岡さんが本当の事を言わなかった理由なら予想がつきます」

「ほう。どういうことだ?」

「大方、本人に頼まれたんでしょう。『聞かれてもこの事は言わないでくれ』とか」

 

というか大学でもそんなに関わらなかった人相手にそうでも言われない限り秘匿にする理由がない。

 

「……なるほど。だがその肝心な目的がわからないか」

「………勘でよければ」

「お前の勘は頼りになる」

「そすか……。多分、自分のためにやった事じゃないです」

「というと?」

「自分以外の誰かの為に密航した、ってことっすよ。勘ですけど」

「…………」

「俺は鳩原さんがなんで遠征に行きたかったかは知りませんけど、あの人の性格上自分が行きたいからってより誰かの為の方がしっくりくる。その雨取麟児とかいう人とも利害が一致したから密航なんてことしたんじゃないすか?」

 

勘と予想と辻褄合わせではあるが、これ以外俺は思いつかなかった。真実がどうなのかは知らないが、こう考えると辻褄は合う。我ながらいい予想したんじゃないだろうか。

 

「………」

 

二宮さんは長考タイムに入ってしまった。

 

……しかし、と思う。二宮さんはこの雨取麟児の家族には話を聞いたのだろうか?この人の名前やら関係やらわかるなら家族だってわかるはすだ。ならなぜ聞かないのだろうか。聴けない事情でもあるのだろうか。

 

「…あの」

「なんだ?」

「この、雨取さんの家族に話は……」

「………聞こうとした。だが断られた。その話はしないでくれ、と」

 

家族が失踪したんだ。当然っちゃ当然の対応だろう。それに一度断られたことを再び頼みにいくというのもなんかアレだろうし。

 

俺は人のこと言えないけど。

 

「……だがまぁ、なんにしてもそのうちまたあの家族には話を聞かなければならなさそうだがな」

 

真実を知るためには仕方ないことだろう。なんのために密航なんてことをしたのか。その真実を知るためには。

 

「二宮さんは、鳩原さんが主犯だと思いますか?」

「違うな」

「………」

「俺から言わせればあのバカがそんな大層なこと思いつくとは思えん。こいつを唆した黒幕がいる」

 

まぁ、確かに鳩原さんはその手のことには疎そうだしな。

 

「………それについてはそのうちわかるんじゃないですか?」

「どういうことだ?」

「さぁ?勘ですよ」

「………そうか」

 

あくまで俺の勘ではあるが、本当にそう思うのだ。そのうちわかる。近い人間が俺か二宮さんに近づくことになるということだろうか。

まぁ今なにを思っても無駄だ。所詮勘と憶測の域を出ない。

 

そこまで思ったところで肉が運ばれてくる。

相変わらず美味そうだ。

 

「食べるか」

「うす」

 

 

「そういえば」

「ふぁい?」

「飲み込め」

 

肉を白米と一緒にかきこんでいると二宮さんが唐突に話しかけてくる。

 

「んっぐ………で、なんすか?」

「お前ら、次のランク戦はいつだ」

「えっと………確か来週です」

「そうか…とうとう頂点への挑戦か」

「そっすね」

 

これで勝てばA級一位。事実上本部のトップチームだ。

 

「……まさかとは思うが、ランクに興味はないから適当にやる、なんて腑抜けたこと考えてないだろうな」

「まさか。ここまで来たからには頂点(てっぺん)目指しますよ」

「……ふん、ならいい」

 

これは二宮さんなりの激励だ。この人は基本プライドが高く素直な反応をしない。そのため宏岡さんみたいなタイプは苦手なのだろうけど。

 

そのまま2人で雑談しながら肉を食べ続けた。

 

 

気づけば9時を回っていた。そろそろ帰らないと小町が塾から帰ってきてしまう。毎日塾で朝から晩まで頑張ってるのだ。家では一緒にいてやらなければ。土産になんかスイーツでも買ってくかな。

 

二宮さんと夜の道路を歩く。俺も二宮さんもあまり喋るタイプではないため無言だが、別に嫌ではない。

そんな二宮さんが、突然喋りだした。

 

「………俺は、初めはお前を弟子にする気はなかった」

 

……なんかいきなりカミングアウトされたんだけど。

 

「やる気はあるように見えたが、正直才能があるようには見えなかった。佐々木や迅が推すほどの才能も根性もあるようには思えなかった」

「はぁ…」

「だから弟子入りに無駄に厳しい条件を出した。だが、お前はそれをやってのけた」

 

確か『自分より1000ポイント以上上の相手に15連勝しろ』だったかな?割と余裕だったのだが。

 

「弟子入りしてからはとっとと消えてもらうためにわざと効率のみを重視した訓練をつけた。こなせれば力になるが、とても常人にはこなせないような訓練をな」

 

………やべ、トラウマが蘇ってくる…。

 

「だが、お前は一度も弱音を吐かず必死に喰らいついてきた。その姿を見て俺は思った。『こいつは、自分とは違う才能を秘めている』とな」

 

……………。

 

「ここまで必死に喰らいついてくるやつは見たことなかった。だからいつしか俺もお前を強くすることに全力になった」

「………そすか」

 

そうだったのか。ぶっちゃけ厳しさは全く変わってなかったけどね!

そんなふざけた思考の俺とは裏腹に、二宮さんは俺の目を見てこう言った。

 

 

「お前は俺が認めた、俺の1番弟子だ。お前ならできるさ」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、なんとも言えない感情がせり上がってきた。

 

やっべ、泣きそう。生まれて初めてこんな真っ直ぐ認められた気がする。

 

「それに、お前には心強い仲間もいるだろう……と、これは釈迦に説法か?」

「………いえ、そんなことないっすよ」

「そうか………じゃあな。がんばれよ」

「……はい。ありがとうございます」

 

俺の頭をぐしゃっと撫でると、二宮さんは歩き去っていってしまった。

 

 

俺を認めてくれた師匠の為にも、負けらんねぇな。

 

 

 

夜空に輝く月を見ながら、俺は1人決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 




すいません。二宮さんと八幡の師弟愛を書きたかったんです。宏岡さん出したかったんです。書いてたらデータが吹っ飛んだんです。風邪引いて寝込んでるんです、現在進行形で。


さて、言い訳はここまでで。次回からランク戦です。多分2話構成になると思われます。よろしくお願いします。

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