目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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タイトルが思いつかない作者です。


早く、早く生駒さんを出したい!!!!!!!!


33話 世界が止まる時、その場には多分D○Oがいる。

佐々木さんが倒れてから2日たった。

 

土曜日に倒れた佐々木さんだったが、日曜日には熱も下がってきてだいぶ回復していた。あの人はどうやら体の回復『も』早いようだ。

そのため仕事やらレポートやらをやろうとする佐々木さんを横山が拳で黙らせたり、見舞いに来た熊谷に見張らせたりとかあったりしたが他には特になく、順調に回復していた。恐らく火曜日には全快してるだろう。

 

しかし、こちらはこちらで解決せねばならない問題がある。もちろんそれは文実だ。

 

相模をこのまま放置していると間違いなく文化祭は中止になる。雪ノ下や犬飼先輩や生徒会の尽力があっても今の人手ではどう足掻いても仕事が終わらない。仮に終わったとして、文化祭ができてもそれは文化祭的な何かであり、ものすごくしょぼいものになる。

 

俺だって真面目にやってはいるし時々ボーダーでも雑務やってはいるが、そこまで雑務が得意というわけではないから普通程度の処理能力だ。ぶっちゃけ、得意な人と比べたら格段にペースは遅い。これくらいなら他の素人でもできるやつは多数いるはずだ。だから人手が必要なのだ。

とは言っても

 

「またもや少なくなってるんだろうなぁ……」

 

 

会議室に到着。

やはりというべきか、もう固定されたメンバーしか来ていない。そもそも文実じゃない葉山がそれに含まれてるのはおかしいけど。

げんなりした気持ちになりながらも土曜日に感じた予感の真偽を確かめるべく視線をホワイトボードの前の席に移す。

 

そしてやはり雪ノ下はいなかった。

 

普段なら誰よりも早く来て仕事を始めてるというのに。俺が感じた予感は的中してしまった。できれば的中してほしくなかったが。

 

「あ、比企谷先輩」

「よ、歌川」

「どうしました?」

「……いや、なにも」

「?………あれ、雪ノ下先輩がいませんね。普段なら1番に来てやってるのに」

 

さすがというべきか、歌川はすぐに会議室の異変に気付いた。

 

「どうしたんでしょうね」

「……さぁ?」

 

そんなことを話しながら席に着いて仕事をしようと思ったところで会議室の扉が開く。

入ってきたのは平塚先生だった。

 

「雪ノ下だが、今日は体調を崩して休みだ」

 

雪ノ下の机の上の書類の山が崩れた。

 

ーーー

 

やはり、雪ノ下は体調を崩した。

 

当たり前といえば当たり前だ。

大学とボーダーがあるとはいえ、あの佐々木さんですら倒れるほど文実の仕事はたまっていたのだ。

その中で何割を雪ノ下と佐々木さんがやっていたのかはわからないが、体力自慢の佐々木さんが倒れたのだ。体力なんて佐々木さんの足元にも及ばない雪ノ下が倒れないはずがない。

 

「雪ノ下さん、一人暮らしだから誰か様子見に行ってあげた方がいいよ」

 

ほう、あいつ一人暮らしなのか。あ、でも前にそんなことどっかで聞いたような。

 

「じゃあ、誰か見に行ってあげてくれないかな?こっちは任せてくれていいから」

 

既に人手足りてないのにそんなことに人員割いていいのかねぇ…。

その瞬間、会議室の扉が勢いよく開かれる。

 

「会長!スローガンについての問い合わせが!」

「うわぁこんな時にぃ!」

 

どうやらなにか問題が起きたらしく城廻先輩は役員と共に会議室を出ていった。

 

「さて、どうする?俺は行っても構わないけど?」

 

……なんで葉山こんな挑発するみたいな口調なの?

 

「そうか、じゃあ頼むわ」

「………君は、行かないのか?」

「どーせ行くなら頼れて必要とされるような奴の方がいいんじゃねーの?」

 

知らんけど。

 

「……まさか君がそんなこと言うなんてな」

「ご足労していただくんだ。世辞の1つでも言うわ。それと、いくなら由比ヶ浜も連れてってやれ。多分雪ノ下の友達なんてあいつくらいしかいないだろ」

「君は違うのかい?」

「ハッ、あたりめーだ」

 

俺とあいつが友達?バカも休み休み言いやがれ。いや休みは欲しいけど。

 

「………そうか、でも人手の足りないこの状況だ。なら頼れて必要とされる人間が現場に残った方がいいんじゃないのかな?」

「そうだとしても俺がいく理由にはならないな」

「俺は、君が行くべきだと思う」

「…………」

「結衣だけより、君もいた方がいいんじゃないのかな?」

 

んなもん知るかよ。俺いてもなんもなんねーだろうが。

とりあえずは由比ヶ浜に連絡しねーとな。

連絡先から由比ヶ浜の番号を探し出し、電話をかける。

 

『どしたのヒッキー?』

「今日、雪ノ下が休みなのは知ってるか?」

『え、し、知らなかった……』

「体調崩したらしい。一人暮らしらしいからお前雪ノ下の様子見てきてくんね?」

『………わかった』

「そうか、頼んだ」

『ヒッキーも来て』

「は?俺仕事……」

『いいから来て。校門前で待ってて』

 

それだけ言うと電話は切れた。

なんだよ一体、俺仕事あんのに。

 

「ハッチ呼ばれた?」

「……みてーだ」

「そ。まぁ行っていいよ。どうにかするから」

「個人的には行きたくねーんだが……」

「来いって言われたんなら行きなよ。行かない方が後々面倒になるかもよ」

 

それも一理ある。

 

なーんか周囲も俺がいく確定みたいになってるし……。

 

 

 

うへぇ、行きたくねぇ。

 

 

「……おお」

 

校門前で由比ヶ浜と待ち合わせし、雪ノ下の家までいく。俺は場所知らなかったから由比ヶ浜について行っただけだけど。

そしてついたのは高級高層マンションだった。なにこれ、うちのアパートも割と新しくて綺麗な方だけど比にならないよこれは。これがブルジョワジーか。

 

互いに無言でそのままマンションのエントランスに入る。そういやこいつ珍しくずっと無言だったな。俺なんか怒らせるようなことした?

 

由比ヶ浜が雪ノ下の部屋のインターホンを押す。

出なかった。

 

「……居留守か?」

「それならいいけど、出られないほど体調悪いんじゃ…」

『はい』

 

出るのかよ。

 

「ゆきのん?大丈夫?」

『由比ヶ浜さん?どうして?』

「今日学校休んだって聞いて……それで……」

『大丈夫よ、だから……』

 

なんだ?帰れとでも言うのか?それはそれでいいかも。

 

「開けて」

『どう、して?』

「話したいの。ヒッキーも」

『比企谷くんもいるの?』

 

いちゃ悪いか。悪いな。

 

「うん。だから開けて」

 

だからの使い方間違ってませんか?

 

だが、それからすぐにエントランスの扉は開かれた。

 

ーーー

 

由比ヶ浜についていき雪ノ下の部屋に到着する。インターホンを押すと今度はすぐに出てきた。

 

「……どうぞ」

 

見た感じ体調悪い感じはなさそう。佐々木さんの方がもっと調子悪そうだったし。

 

中に招かれ、進んでいくとリビングに入った。リビングだけでうちと同じくらい広いってどういうことなのやら。これぞ格差社会。

ソファーに座るよう促されソファーに座る。なにこれ、超モッフモフなんだけど。

 

「……それで、話って?」

 

雪ノ下が、切り出した。

 

「あ、体調崩したって聞いて、心配になって見に来たの」

「1日くらいで大袈裟よ」

「すごい疲れてるんじゃないの?まだ、顔色よくないし」

 

それで顔色悪いんなら、佐々木さんはもはや死人だな。

 

「多少の疲れはあったけど、それくらい問題ないわ」

 

そうそう、絶対佐々木さんの方が疲れてるし。

 

「……それが問題なんじゃないの?」

「…………」

「ゆきのんが1人で背負いこむことないじゃん」

「わかっているわ、だから仕事は割り振ったし負担は軽減させるように」

「できてないのに?」

 

雪ノ下の言葉を遮るように由比ヶ浜は言った。由比ヶ浜にしては突き放したような言い方だ。

 

「あたし、ちょっと怒ってるからね」

 

態度を見ればわかりますよ。俺だって怒ってる。主に相模にだけど。

 

「ヒッキーにも怒ってるから!困ってたら助けるって約束したのに」

 

こっちはそれどころじゃねーんだよ。

 

「知るか、こっちはこっちで手一杯だったんだよ。雪ノ下を手伝うほど余裕はなかった」

「でもちょっとくらいならできたでしょ!」

「こっちの状況もロクに知らずによくいけしゃあしゃあと言えんな。こっちは仕事ほっぽり出して来てんのに」

「でも!ヒッキーの仕事ちょっと他の人に任せてゆきのん手伝うってこともできたでしょ⁈なっちゃんだっているし、サッサンだって来てたんだから!」

 

今のは聞き捨てならんな。佐々木さんがどんだけ身を粉にして頑張ってこの現状だと思ってんだ。

 

「由比ヶ浜」

「なに⁈」

「佐々木さんはな、卒業生のクセに合間縫って仕事手伝いにきてくれて、仕事を持って帰ってまで処理してくれてたんだ。それこそ雪ノ下並みの量の仕事をこなしてたんだ。あの人、ボーダーの方の仕事だってあるし、大学だってある。それなのにあの人はそれだけやってくれたんだ」

「そんだけやってくれてたんなら、ゆきのんの手伝いくらい」

「できねーほど今の文実は酷い現状なんだよ。それに、そのせいで佐々木さんはこの前倒れたんだぞ」

「………え」

「倒れるほどやってくれてる人にさらに無理しろと?」

「そ、そんなこと……」

「お前が言ってるのはそういうことだ。知らなかったとはいえ、お前は雪ノ下中心に考え過ぎだ。なにも雪ノ下をわざと手伝わなかったわけじゃねーんだよ」

「………でも」

「でももへったくれもねぇ。そもそもそういうお前は雪ノ下のためになんかしたのかよ」

「……それは」

「なにもしてねぇだろ。お前、クラスの出し物の割と重要なポジションだもんな。雪ノ下のことどころか文実の状況すらわかっちゃいねぇ。自分はなにもしてないクセに自分のこと棚に上げてそんなこと言ってんじゃねぇよ」

 

そもそも雪ノ下のこと心配すんならまずお前がどうにかしようと動けよ。人任せにすんな。

 

「由比ヶ浜さん、落ち着いて」

「でも、ゆきのん……」

「彼の言うことは正しいわ。彼は記録雑務の役割よりはるかに多くの仕事をこなしてくれたわ、それこそ全力で」

 

まさか雪ノ下が俺をフォローするとはな。それだけ今回のこの現状はくるものがあったのか、はたまた単純に弱ってるだけか。

 

それとも他の理由か。

 

「そもそもボーダーとしてこの街を守ってくれてる彼にこれ以上仕事をさせるのは、市民としていかがなものかしら」

「………うん」

 

珍しいな、ここまでフォローする雪ノ下。いや、そもそも初めてかも。

つっても、元を辿ればこいつも元凶の1つなんだけどな。

 

「本来なら、私がどうにかしなければならなかったのに……」

 

その通りではあるが、別に悪いのはこいつだけじゃない。あの大魔王やポンコツも原因に含まれてるし。

 

「………で、雪ノ下。お前はこの文実をどうにかすることはできるのか?」

「………」

「わかんないよな、俺にもよくわからん」

 

そもそも文化祭なんて無くなっても俺は別になんとも思わない。だがあれだけやってくれた佐々木さんや生徒会として頑張る綾辻のためにも文化祭を潰させるわけにはいかない。

 

「みんなでやる、協力してやる、それは一般的には聞こえはいいし本来なら正しいことだ」

「……そう」

「だが理想論だ、必ず誰かが貧乏クジを引く」

 

まさに俺や佐々木さんや綾辻のことだ。雪ノ下も例外ではない。

 

「だから別に人を頼れとか言う気はない。だがお前のやり方は間違っている」

「じゃあ、正しい答えを知っているの?」

「前に言ったはずだ。こうでなければならないなんてものは本来この世にない。その人間の価値観によって正しいか間違っているかが判断されるだけだ。だが、お前のやり方は結果を見てわかる通り間違っている」

「…………」

「前に言ったな、お前はそのまま行けば破滅するって。まさに今破滅寸前まで来ている。それをお前は理解しているか?雪ノ下」

 

こいつの正しさは所詮こいつのみを基準にしたものだ。他人の感情や事情を蚊帳の外にしている。そんなもので世界は変えられない。

 

「………理解していないわけないか、お前はそこまでバカじゃないし」

「……なら、あなたはこの現状を変えられるの?」

「……ああ」

「………そう」

「んじゃ、帰るわ。お大事になー」

「ちょ、ヒッキー!」

 

由比ヶ浜をシカトしそのまま玄関に向かい、外に出る。すでに陽は完全に沈み暗くなっている。高級マンションのエントランスから見る夜景はなかなかのものだった。

 

「………あのポンコツにも少し痛い目みてもらうかね」

 

どうやらちょうどいい題材もあるみたいだし。

 

 

俺が世界を変えてやるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、なんかこれ厨二っぽいわ。はずい。

 

 

翌日、実行委員全員が会議室に集められた。

議題はどうやら文化祭のスローガンについてらしい。そういやなんか苦情だかなんだかが来てたな。

 

「よーすハッチ、雪ノ下さん家はどーだったよ」

あれ、いつの間に来たし横山。

 

「格差社会を感じた」

「なにそれ」

「いや、すげーよあいつんち。高級マンションだもん」

「マジか。ブルジョワジーじゃん」

 

そう、まさにそれ。ブルジョワジー。

 

気づけば実行委員全員が既に集まっていて会議室は騒がしくなってきていた。それなのに一向に始まる気配がない。雪ノ下はぼーっとなんか見てるし相模は取り巻きとおしゃべりしてる。

さすがに見かねた城廻先輩が相模に声をかける。

 

「相模さん、もう全員集まったよ」

「え?あ、はーい。…………雪ノ下さん?」

 

相模が席に着くとぼーっとしてる雪ノ下に声をかける。

いやそれお前の仕事だろ。

 

「え?ああ……これより会議を始めます。本日の議題ですが、城廻先輩から連絡があった通り文化祭のスローガンについてです」

 

現時点で可決されてたスローガンに苦情が来たからみんなで考え直すってところか。

 

「では、案がある方は挙手をお願いします」

 

とは言ったもののこの現状で挙手するような奴なんぞいない。いるなら文実はこうなってない。

 

「いきなり挙手っていうのもアレだから紙に書いて提出ってのはどうかな?」

 

葉山の案により全員に紙が配られる。………そもそもこいつ文実じゃねーのになんでいるんだか。いや仕事してくれたしいいんだけどなんで俺の隣なの?

 

少し時間がたち、紙を提出し書かれてる案をホワイトボードに書いていく。どれもパッとしないのばかりだがいくつか目を引くものがあった。

 

友情・努力・勝利

 

それは週刊少年ジャンプだ。

 

面白い!面白すぎる!〜潮の音が聞こえます〜総武高校文化祭

それは違うだろ。

 

八紘一宇

 

うわぁ、書きそうな奴に心当たりがある。

 

ONE FOR ALL

 

どこのヒロアカだよ。プラスウルトラか。みんなジャンプ好きすぎだろ。

 

「お、ああいうのいいな。1人はみんなのために。ああいうの俺は結構好きだ」

 

やれやれ、こいつはこいつでお花畑かよ。

 

「なんだそんなことか。簡単じゃないか」

「え?」

 

ほほう、さすがの葉山もこれはわからないか。いいだろう、このA級3位比企谷隊隊長が解説してやる。そんなことこいつはどーせ知らないんだろうけど。

 

「1人に傷を負わせてそいつを排除する。1人はみんなのために。よくやってることだろ?」

 

今まさにお前らが、な。

 

「ハッ!」

 

おっと隣から鼻で笑う声が聞こえたからとりあえずアイアンクローしておこう。

 

「比企谷、お前……」

「なんか間違ったこと言ったか?俺」

「ハッチは存在そのものが間違っていだだだだ痛い痛い」

 

あんま調子に乗んな横山。

横山にアイアンクローしながら葉山の鋭い視線を軽く受け流しているとポンコツとその取り巻きが視線を合わせて立ち上がる。

 

「じゃあ次うちらから……」

 

そう言ってホワイトボードに書いたのは……

 

絆〜共に助け合う文化祭〜

 

「うっわぁ………」

 

いやこれはないわ。まだ八紘一宇の方がマシだわ。なにこいつ、頭の中お花畑どころじゃなかったわ。百花狂乱してるわ。あれ?百花狂乱ってどういう意味だっけ?

とまぁそんなことを思いながらいると相模と目が合う。うわ、超顔面がヒクついてる。かなり頭にきてんな。

 

「なにかな、なんか変だった?」

「いや、別に」

 

前に横山に「それハッチにやられるとかなりイラッてくるわー」と言われたことがあるからこれはかなりイラッてくるはずだ。

 

「なにか言いたいことがあるんじゃないの?」

「ハッ、別に?」

 

鼻で笑われたことがかなり頭にきたのか一瞬だけ般若のような顔になった。

 

「………そ、嫌なら他に案出してね」

 

まーそうきますよね。

じゃあたった今思いついたのを言ってやろう。

そして世界を変えるというのはこういうことだ。

 

「じゃあ、『人〜犠牲の上に成り立つ文化祭〜』とか」

 

ーーー

 

世界が止まった。

あれ、なに?時が止まったよ?誰かまさかDIOさん連れて来ちゃったの?「ザ・ワールド!時よ止まれ!」とかやっちゃったの?それともあれか?ヘブンズタイムかな?

 

「あっはははは!バカだ!バカがいる!」

 

大魔王は1人で大爆笑。ついでに隣の平塚先生は呆れ半分で俺を見てくる。やめて!そんな目で俺を見ないで!

ついでにボーダー組はほとんどがポカンとしてる。横山だけ下向いて笑いをこらえてるけど。このやろう、もっかいアイアンクローしてやろうか。

 

「陽乃、笑いすぎだ」

「あはははは、は。……ん、んん。私はいいと思うよ。面白ければおっけー」

「比企谷、解説を」

 

えー解説いる?いるか、いるな。

 

「いや、『人』って漢字は人と人が支えあってーとか言ってますけど片方寄りかかってるじゃないすか。なにかを犠牲にすることを容認しているのが人って概念だと思うんすよね。だからこの実行委員会にふさわしいんじゃないかと思ったんですが」

 

金八先生否定論だなこれ。金八先生、怒らないでね。

 

「犠牲とは、具体的にはなにをいう?」

「この場でその犠牲を明言してしまうと俺のこの独断でやってることに巻き込まれるのが嫌な人もいると思うので明言はしないでおきますよ。例えば俺とか?まぁでも俺は犠牲の1つじゃないですかね?」

「どうして君が犠牲の1つになるのかね?」

「そりゃもちろん真面目に仕事してたからでしょう。アホみたいに仕事させられてたし、というか完全に俺のじゃない仕事押し付けられてたし」

 

仕事について1番の犠牲は多分雪ノ下と佐々木さんだろうけどな。

サボり組は苦い顔したり下向いたり俺を睨んだりしてきてる。なんだよ、悪いの俺じゃなくておめーらだからな?

 

「あーそうだ、スローガンの案について委員長に質問があるんですけど」

 

ポンコツ、貴様にも少しは痛い目みてもらうぞ。

 

「な、なによ」

「『絆』と言ってますが、その絆とはどういうものなのですかねぇ?」

「は?」

「共に助け合う、とか言ってますけど、この文化祭で誰がどのように助け合ってきたのか教えてもらえますかね?なにせ俺は助けてもらったことが無いのでわかんないんすわ」

「そ、それは……」

「単に俺が助け合ってないだけで他の人は助け合ってたってことですよねこれ。ならあなた自身の例で構いません。あなたは誰とどのように助け合ったのかを教えてくれればそれでいいんです」

「…………」

 

答えられない、答えられるハズがない。なにしろこいつは今までずっと誰かを食い物にしてきたんだから。誰かに助けられたことはあってもこいつが誰かを助けたことはない。

 

「あれ?出てこないんすか?ま、出てこなくても仕方ないかもしれませんね。『そういうの』は大体無意識ですから。じゃ、いいんじゃないすか別に。とりあえず聞こえはいいし中身が空っぽでも委員長が出した案ですからそれで可決でいいんじゃないすか?」

 

こういう言い方はかなりイラッとくるが、全て事実だし反論のしようがない。仮に反論してもかなり苦しく逆に自分の首を絞めるハメになるようなもんしかないだろ。

 

と、そこでかすかな笑い声。その主はまさかの雪ノ下だった。プリントで顔を隠しているが肩が震えていて笑ってることが丸わかりだ。ちなみに横山も似たような状態。お前は黙っとれや。

僅かな間そうしていた雪ノ下たったが、おもむろに顔を上げると美しく整ったその顔を満面の笑みにしてこう言った。

 

「比企谷くん」

「あ?」

「却下」

 

 

デスヨネー

 

 

 

その後、委員会は解散になった。雪ノ下の「この現状で1日費やすのは愚かな選択」という言葉により解散になったのだ。

なお、その際俺が陰口たたかれたりしたのは言うまでもない。

相模?取り巻きと逃げるように帰っていったよ。

 

俺も帰ろうとして会議室を出ようとしたところで声をかけられる。

 

「いいの?」

 

その声をかけてきたのは雪ノ下だった。

 

「なにが?」

「誤解は早めに解いておくべきだと思うけど」

「誤解は解けねーよ。誤解された時点で解はもう出ている。それ以上解きようがない」

「普段は言い訳ばかりするくせにこういう時はしないのね」

「ほっとけ」

「誤解は解けない。なら、また問い直すしかないわね」

 

それがわかっただけでもマシになったな、多分。

 

「ところであのスローガンはなに?センスのカケラも感じられないわよ」

「おめーにだけは言われたくねぇな」

「呆れるほど変わらないのね」

「人間そうそう変わんねーよ」

「特にあなたはもともと変だものね」

「おめーもな」

 

これ以上謎のやりとり続けても無駄だな。とっとと行こう。

 

「んじゃもう行く」

「ええ、さよなら」

 

そう言って雪ノ下は去っていった。

俺もとっとと本部に行こう。今日夜防衛任務だ。

横山は、まぁほっといてもくんだろ。

 

 

本部

 

作戦室へと向かう廊下をダラダラ歩いていると、熊谷を見つけた。

 

「あれ、比企谷じゃん」

「よお熊谷。どうした?ランク戦ブースもおめーんとこの作戦室もこっちじゃねーだろ」

「ああ、ちょっと佐々木さんに用があってね」

 

佐々木さんに?

 

「この前看病任されたでしょ?その時に佐々木さんのタブレットでランク戦のムービー見てたりしてたんだけどついつい持って帰って来ちゃってね。佐々木さんの様子見るついでに返そうって思ってたの」

「ほー」

 

そんなことが。

 

「んじゃ行こうぜ」

「うん」

 

 

「ういーす」

「お邪魔します」

 

作戦室到着。多分佐々木さんは奥にいるかと思うんだが……

 

「あれ?佐々木さん?」

 

荷物あるのにどこにもいない。どこいった?まさか仕事してんじゃねーだろーな。

 

「佐々木さん、いないわね」

「ああ、どこいったんだ?」

 

と、そこで奥の扉が開く。あれはトレーニングルームの扉。ということは……

 

「あれ、比企谷くんと友子ちゃん。どうしたの?」

 

奥から汗だくでトレーニングウェアを着た佐々木さんが出てきた。

この人、病み上がりでトレーニングしてやがったな。

 

「佐々木さん」

「なに?」

「なにしてたの?」

 

おっと熊谷がなんか怖いぞ横山みたいなオーラ出してるぞ。

 

「なにって、トレーニングだけど……」

 

 

 

「あなたはバカですか!!!」

 

 

 

熊谷が怒りました。

 

「あなた病み上がりですよ⁈わかってます⁈すごい無理して倒れたからまだ体に疲労はかなり残ってるんですよ⁈熱が下がったからって完治したわけじゃないのわかってないんですか⁈」

「いやぁ、だって、熱下がったしもう体調もいいし……」

「そういう問題ではありません!まだ治りきってない時に無理するとぶり返すことくらいわかるでしょ!また倒れたいんですかあなたは!」

 

それからしばらく熊谷のお説教は続いた。終いには正座までさせられて。

 

 

女子高生に正座させられてお説教される大学生ってそういないと思うんだよね。

 

 

熊谷のお説教が終わると横山が来たから俺は作戦室のトレーニングルームでトリオン兵相手に体術のトレーニングを始めた。次のランク戦は攻撃手が半数以上を占める。当然俺の間合いだけで戦うことは出来ないこともあるだろう。

佐々木さんが付き合おうとしたら熊谷と横山に殴られてた。南無三。

 

「ふっ」

 

今の相手はモールモッドだ。

モールモッドの鎌の一閃を躱し弱点の目に拳を叩き込もうとする。しかしそれはカバーでガードされて通らない。

 

「チッ」

 

舌打ちしつつ距離をとるためにバックステップで下がろうとする。鎌が振り下ろされそれをギリギリでかわすがトレーニングウェアの袖が破けた。つってもトリオン体だから関係ないけど。

 

「………」

 

再度近づき、距離をつめる。鎌を裏拳や掌底打ちで逸らしながら進み先ほどと同じ距離まで近づいた。

 

横か。

 

横から迫る鎌を転がるように躱し、その勢いをそのまま足に乗せる。

 

「くらえ、や!」

 

足の一撃が目に突き刺さる。だが少しヒビが入っただけで倒すには至らない。だがそれでいい。それが目標だから。

 

『よし、目標達成。お疲れ様、比企谷くん』

「うす」

 

佐々木さんの声がしてモールモッドが停止する。

佐々木さんは結局現場には出ないけど動作の指導などをするというとこで熊谷が妥協した。

 

『最後の蹴りのところはよかったけど、まだ速いはずだよ。上半身と下半身のラグをなくして』

「……うす」

 

うーむ、自分の体なのに動かすのが難しい。バイパーなら思い通りに動かせるのになぁ。

 

『じゃあ次いってみようか』

「次はなんすか?」

『対人戦だよ』

 

対人戦、となると今相手になるやつは………

 

「いくわよ、比企谷」

「だよな」

 

やっぱりそうなるよな、熊谷。

 

『わかってると思うけど、友子ちゃんは孤月だけ、比企谷くんはシールドだけだからね、使っていいトリガーは』

「わーってますよ。んじゃ、さっさとやろうぜ」

「ええ、手加減しないわよ!」

 

 

「はっ!」

「しま……」

『はい比企谷くん一本』

 

熊谷の顔面に正拳突きするのを寸止めする。そこで一本がかかったのでお互い構えを解く。

 

「さすがに専門外の近距離戦はきついわ」

「ちょっと、今一本取られたのあたしなんだけど。自信なくなるからやめてくんない?」

 

これでもかなり長く体術のトレーニングしてるからこれくらいできないとA級の名が廃る。

 

「………そういえば比企谷」

「ん?」

「その、実行委員だっけ?あれもう大丈夫なの?」

 

なんだ熊谷、心配してくれんのか珍しい。

 

「………さぁな」

「さぁなって……」

「まぁ、前よりはまともになるだろうよ」

 

むしろアレで変わらなかったら問題なまである。

 

「…………」

 

多分、実行委員そのものは大丈夫になった。だが相模本人は多分まだ何も変わってない。また俺の周りを引っ掻き回してくる。そんな予感がする。

 

だが俺に他に何ができる。何をすればこれ以上あのポンコツになんの被害も受けずに済む。

 

わからない。俺のサイドエフェクトをもってしても答えが出ない。

俺には、もう何もできないんだろうか。

 

『僕らがいるよ』

「!」

 

内部通信で急に声が聞こえてきた。いつも俺やみんなを見守っててくれて、不器用だけどとても優しいあの人の声だった。

 

そうか、俺だけでやる必要はなかったな。俺ができないことは、できる人に任せよう。

 

今の俺にはそれをすることができる仲間がいたな。

 

『2人とも出てきて。ご飯作ってあげるから手伝ってー』

「お、ササキメシ。やったね。行こ、比企谷」

「……ああ」

 

俺、もう『ここ』ではぼっちじゃなかったな。

 

 

 

 

そんな風に謎の感傷に浸りながら俺はトレーニングルームを出た。

 

ササキメシは美味かった。

 

 

 




八幡が仲間のありがたみを再確認しました。こっから八幡のターン。

八幡とサッサンのトレーニングウェアは似た感じです。

八幡は半袖の紺色Tシャツに黒のトレーニング用の手袋、下は暗い青のランニング用のジャージと足にぴったり張り付く黒のロングタイツ。完全にランニング用のウェアですね。

サッサンのは黒の体にぴったり張り付くタイプのインナーにグレーのハーフパンツ、黒のロングタイツといった格好です。

この格好は主に体術を鍛える時や単純に生身での身体能力の向上のトレーニングをする時にする格好です。

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