目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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漸くテストが終わりました。そして免許も取れました。非常にお待たせして申し訳ありません。


31話 なぜか、彼らは集結する。

会議開始10分前

 

実行委員の人達が続々と集まってきた。ホワイトボードをバックに座っているのは委員長の相模、そして補佐を受けた雪ノ下だ。

 

「あれ、なんで雪ノ下さんがあのポジションにいるん?」

 

横山の意外そうな声が俺を思考の海から引き上げる。

 

「なーんか、補佐をやることになったらしいぜ」

「らしいってなによ」

「いや、俺には関係ないし」

「同じ部活じゃないの?それ多分奉仕部に来たやつでしょ?」

「あーまぁそうといっていいのかは知らんが、それはあいつ個人が受けた依頼だ。だから俺は関係ない」

「へーそうなんだ」

「すっげー興味無さげな返事すんなお前」

「興味ないね」

「お前はクラウドか」

 

バスターソードでもザックスから受け継いだの?

で、そんなこんなしてると開始時間になった。

 

「それじゃあ、定例ミーティングを始めます!」

 

相模の号令により会議が始まる。正面には相模には似つかわしくない「委員長」というプレートがある。そしてその横には「副委員長」のプレートを携えた雪ノ下。さて、どうなることやら。

 

「じゃあまず、宣伝広報お願いします」

「はい。掲示予定も7割ほど消化し、掲示ポスターについても半分ほど終わっています」

「おおーいい感じですね!じゃあ次は…」

「いいえ少し遅い」

 

次へ進もうとした相模の声をぶった切るように上げられた冷たい声。言うまでもなく雪ノ下のものだ。

 

「文化祭は3週間後。ポスター製作、掲示は来客がスケジュールを調整することを考えたら既に完了していなければならない予定です。それに掲示箇所の交渉、HPへのアップは既に済んでいますか?」

「……まだです」

「急いで下さい。社会人はともかく受験志望者はこまめにHPをチェックしています」

「は、はい」

 

気圧されて座り込む代表者。

会議室はわずかな間沈黙に包まれた。相模もなにが起きたのかよくわかってないようだ。

 

「相模さん、次」

「え、あ、うん。じゃあ次、有志統制お願いします」

「オッケー。参加団体は現在校内で8団体、地域で6団体だよ。まだ承認は出してないけど今日提出された団体もいくつかあるし、地域団体との交渉も問題なく進んでるよ」

 

有志統制代表者の犬飼先輩がつらつらと進捗状況を述べた。さすが二宮さんの右腕。雪ノ下相手でも全く物怖じしないでやることをしっかりやってる。

 

「地域とのつながり、という姿勢を挙げている以上参加団体の減少は避けるべきです。例年の平均団体数を割らないようにお願いします。それとステージの割り振りは済んでいますか?集客の見込みと開演時のスタッフ内訳は?」

「全部タイムテーブル作ってあるよ。後で提出するよ」

「よろしくお願いします」

 

さすがすぎてなにも言えない。あの雪ノ下の追求するところを全て終わらせてるなんて……犬飼先輩、恐ろしい人!

 

有志統制は犬飼先輩の手腕で問題なかったが、残りの保健衛生と会計監査は宣伝広報と同じような感じになった。

んで、最後は記録雑務。

 

「次、記録雑務」

「特にないです」

 

記録雑務は基本的に当日以外仕事がない。だからこんなふうに返しても問題ない。とりあえずは。

 

「じゃあ、今日のミーティングはこんなところで」

「記録は機材の申請とタイムテーブルを提出しておくように」

「……はい」

 

先輩相手でも雪ノ下は全くお構いなしだった。そのせいで空気は微妙だ。というか最後はもう雪ノ下が仕切ってた。

 

「いやぁさすがはるさんの妹さんだね」

「いえ、大したことは……」

 

城廻先輩の感想は尤もだ。この短時間で問題点の洗い出しとそれへの対策を協議、そして今後のスケジュールを共有。その日のミーティングですべきことは全て終わった。

 

誰もが緊張の糸が切れたようにため息をつく。まぁ仕方ないだろう。

 

「では委員長」

「え、はい。じゃあこれで定例ミーティングを終わります」

 

形式上相模の号令で会議は終わった。

 

あまりにパワフルで鮮烈だったため、誰が委員長なのかわかんなくなってしまうほど印象的だった。

 

生徒会メンバーに至っては次期生徒会長だとか言ってるやつまでいるほどだ。

 

その中で一番きつかったのは相模南だろう。

 

同じ条件だったはずだった。同じ2年で初めて司会進行をするはずだった。なのに片方は遅れをとり、もう片方はその遅れすら取り戻してみせた。

雪ノ下1人なら話は別だった。

だが比較対象があることによりその差は浮き彫りになる。雪ノ下を褒めることは、相模を蔑むことに繋がる。他のメンバーはそのことに気づいていないようだけど。

 

相模とその取り巻きが逃げるように会議室を出るのが見える。

 

方針が明確化したことにより文実は安定して作業が進められるだろう。

 

だが雪ノ下は気づいているだろうか。いや、気づいていたらこうはなっていないか。

 

 

 

誰も、何も救えてないことに。

 

 

仕事も終わりやる事がなくなったのでそろそろ帰ろうかと荷物をまとめていたところであることに気づく。

 

「………ボーダーのスマホ、教室に忘れた」

「あれ、ハッチ忘れもん?」

「ああ、みてーだ」

「そ。じゃああたしは栞と遥とサーティワ○食べて帰るからー」

「そうか」

「んじゃねー」

 

そう言って横山は綾辻を連れて会議室から出て行った。

俺もとっとと行くか。

 

ーーー

 

「あった」

 

教室につき、引き出しをあさると黒いスマホが出てくる。キーホルダーにうちの隊のエンブレムがつけられているものだ。

スマホも回収したし、もう用はない。帰ろう。

 

教室を出ると、ちょうど向こうから歩いてきた三上に遭遇する。

 

「あれ、比企谷くん」

「よぉ三上」

「今帰り?」

「おお。三上もか?」

「うん。うちのクラスさっきまで作業してたんだ」

 

確かに周辺にはE組らしき人間がちらほらいる。だがまだ残ってやってるのもいるようだ。

 

「まだやってたのな」

「うん。うちのクラス、ちょっと色々準備が必要で」

「なにやんだ?」

「ドーナツを売るの。その仕入れでちょっと色々あったみたいで」

「そら大変だな」

「私も手伝いたいけど、今日はお父さんもお母さんもいないから私が夕食作らなきゃいけないから抜けさせてもらったんだ」

 

そうか、三上の両親は共働きで割と家にいないことも多かったな。

 

「今帰りなら、途中まで一緒にいかない?」

 

これといって断る理由もないな。

 

「ああ、いいぜ」

「じゃ、いこ」

「ああ」

 

 

三上と並んで帰路につく。とは言っても三上の家とは方向が違うため割とすぐに別れるのだが。

 

「そういえば比企谷くんって文実だったんだね」

「ああ、まぁな。歌川から聞いたか?」

「うん。歌川くんが珍しそうに話してたよ」

 

まぁ誰も俺みたいなやつが文実やるとは思わないだろうな。そもそも俺もやる気なんてなかったんだけどね!

 

「まぁやる気なんて皆無なんだけどな」

「皆無なんだ…」

 

いやあるわけないでしょ。そもそも無理やりやらされてやる気出せって方が無理難題だ。

 

「そういや、弟たち元気か?」

「うん、みんな元気にしてるよ。ちょっと元気すぎるくらい」

「そいつはよかった」

 

あの一件があるからな。なんだか三上には頭が上がらない思いだ。

 

「小町ちゃんは元気?」

「おお元気だ。そして超かわいい」

「相変わらずだね……」

 

おや?少し引かれた気が……。

 

「じゃあ私こっちだから」

「おう、またな」

「またね。今度のランク戦は負けないよ」

「お手柔らかに……」

 

そのまま俺と三上はそれぞれの帰路についた。

 

明日はどうなるかな、文実。嫌な予感がするなー……。

 

 

翌日、会議室に入ろうとするとなぜか入り口付近に少しばかり人だかりができている。なんだありゃ。

 

中央に3人の人間を確認。あれは……

 

「何しに来たの?姉さん」

 

雪ノ下雪乃。

 

「やだなー私有志団体募集のお知らせを受けたから来たんだって。管弦楽部OGとして」

 

雪ノ下陽乃。

 

「ご、ごめんね。私が呼んだんだ。有志団体足りないっていうから……。はるさん、3年生の時有志でバンドやってね、それが凄くってね!それでどうかなーって…」

 

そして、城廻めぐりの3人だ。

 

「あははダメよめぐり。あれは遊びなんだし。でも、今年はもうちょっとちゃんとやるつもり。だからいいでしょー雪乃ちゃん。有志も足りてないことだしさー。かわいい妹のためにもしてあげられることはしてあげたいんだよー」

 

心にもないことを。

すると雪ノ下は一歩離れると横目で睨みつける。

 

「ふざけないで。大体姉さんが……」

「私が?なに?」

 

横目で睨みつける雪ノ下とまっすぐ雪ノ下をみて逸らさない雪ノ下姉。力関係は歴然か。

 

「またそうやって……」

 

悔しげに目を逸らし唇を軽く噛む雪ノ下。視線を逸らした先で俺の視線とぶつかる。だがそれもすぐに逸らした。

 

姉妹喧嘩は他所でやってくれよな……。

 

そんなことを考えながら自分の仕事場に移動する。珍しく横山がまだ来てない。まぁでもまだまだ時間あるしな。

 

「あれ、比企谷くんだ。ひゃっはろー」

 

なにそれ。世紀末?

 

「平日なのにこんなとこでなに油売ってんすか?暇なんですか?」

「あらいきなり辛辣。別に油売ってるわけじゃないよ。有志で管弦楽でもやろうかなーって考えててね。OBOG集めたら楽しそうじゃない?」

「さぁ?興味ないんで」

「またまた辛辣。なにー私比企谷くんに嫌われることしたー?」

 

あなたの存在そのもの、って言いたい気分ですね。

 

「あっそーだ。いいこと考えたー。比企谷くんもいることだしー」

 

ウキウキでスマホを取り出す雪ノ下姉。なぜだ。嫌な予感が。というか俺がなんの関係があるんだ?

少しスマホを操作し、耳にあてる。電話?誰に?

 

『はい』

「あっハイセくんー?」

 

え、佐々木さん?

 

『………なんの用ですか雪ノ下さん』

「ハイセくん今暇でしょー?」

『仮に暇でもあなたに時間を割く気はありません』

「あれれーそんなこと言っていいのかなー?」

『……なんですか?』

「はい比企谷くん」

 

そう言ってスマホを渡される。なんでだ。

 

「……もしもし?」

『あれ、比企谷くん。なんで雪ノ下さんといるの?』

「あー実は……

 

―――

 

ってことでして……」

『そっか……ありがとう。雪ノ下さんに代わって」

 

スマホを雪ノ下姉に返す。

 

『事情はわかりました。で、今度はヒデの代わりに比企谷くんを人質にするんですね?』

 

人質……?

 

「人聞きの悪いなー私永近くんには結局なにもしてないじゃない」

『……『結果としては』ね…』

「そんな昔のことは忘れてさー、楽しくやろうよー」

『………それで、僕はどうすれば?』

「今日はもう授業ないでしょ?だから今から総武に来てね」

『なんで僕の時間割知ってるんですか』

「そんなことはどーでもいいの。早く来てね」

 

そう言って雪ノ下姉は電話を切った。

 

「よーしこれで管弦楽のメンバー1人確保〜。1人メンバー見つかったことだし、出ていいでしょ?雪乃ちゃん」

「……好きにすればいいじゃない。それに、私には決定権はないわ」

「ありゃそうなの?なら誰が委員長?」

「遅れてすいませーん。クラスの方顔出してたら遅くなっちゃってー」

 

おお、罪悪感など一切感じてないような言い方だな。ある意味こいつ大物かも。いや小物か。

 

「はるさん、この子が委員長ですよ」

 

城廻先輩の言葉により、会議室にいる全員の視線が相模に注がれる。そして雪ノ下姉の視線と眼光を受けて相模は萎縮したように挨拶する。

 

「あ……相模南です」

「文化祭実行委員長が遅刻?それもクラスの方に顔出してて……。へぇ……」

 

今まで聞いた中で最も冷たい声だ。

なるほどねー……やろうとしてることがなんとなくわかった。

相模が何か言い訳しようとしていると、急にふっと微笑み態度を変える。

 

「やっぱ委員長はこうでなきゃねー!文化祭を最大限楽しめる者こそ委員長に相応しいよねー!」

「え、あ、ありがとうございます…」

 

ここまで急に態度を変えられる人も珍しい。普通そんな人そういないだろうし。

 

「で、委員長ちゃんにお願いがあるんだけどー、私有志団体出たいんだけどね、雪乃ちゃんに好かれてないから渋られちゃってるの……」

 

わざとらしくくすんとかほざいてる。この人本当にメンタル強いな。

 

「え……」

 

相模が雪ノ下に視線を向けるが、当の雪ノ下は無表情で視線を落としている。

 

「それで、委員長ちゃんの方からなんとかできない?」

「………いいですよ、有志団体足りなかったし。それに、これで地域との繋がりもクリアですよね?」

 

まるで自分の案のように言っている相模。それは全て受け売りだというのにな。

 

「きゃーありがとうー!うんうん、卒業しても帰れる母校って素敵だな。友達にも教えてあげよっと」

「ならそのお友達も呼んでみたらいかがですか?」

「おっ、グッドアイデアー!じゃー早速ーっていうかもう1人呼んじゃったんだけどねー」

「あ、そうなんですか?」

「そうした方が有志申請通りやすいかなーって」

 

佐々木さん、か。お気の毒に。

 

「その方はこれから来るんですか?」

「大学にいたならあと15分くらいで着くと思うよ」

「ちょ、相模さん」

 

なんだか急にキャピキャピし始めた2人に割って入る雪ノ下。

 

「いいじゃない、有志団体足りてなかったし。それに、お姉さんと何があったかは知らないけどそれとこれは別じゃない?」

「………」

 

相模は勝ち誇った顔してるけど、なにに勝った気でいるのだろうか。この状況は雪ノ下陽乃が全て創り出したというのに。

 

「へーあれが雪ノ下さんの姉貴かー」

 

いつの間にか横にいた横山。というか姉貴って……男かお前は。

 

「なんというか、よく人間のフリしてられるなーって感じね」

「抽象的だが的はついてるな横山」

「でしょ?」

 

なんでもいいから俺に面倒なこと持ってこないでねお願い。

 

「やぁやぁ青少年、しっかり働いているかい?」

 

ことあるごとに絡みに来るのやめてくれません?

 

「見たとおりですよ。あなたも有志通ったんならその仕事でもしたらどうです?」

「本当に冷たいねー。……おや、こちらの子は?」

「どもーこのアホ毛の腐り目隊長の部隊のオペレーターやってる者です」

 

隊長に対しての礼儀がなってねーな。シメるぞこのやろう。ダメだな。逆に俺がシメられる。

 

「あーそうなの?お名前は」

「横山です」

 

下の名前はあえて言わなかったか。すぐにバレると思うし、ここ戦地でもないからあんま意味ないよ?

 

「そっかそっか横山ちゃんか。よろしくね。しかし意外だなー、比企谷くんはこの手のことには参加しない子だと思ってたんだけど」

「完全に不本意ですからね。それに、おたくの妹の方が珍しいんじゃないすか?」

「そう?私はやると思ってたわよ。姉の私が昔実行委員長を務めたんだし。あの子がやるには十分な理由よ」

 

とびきり優秀な姉。

それに負けず劣らず優秀ながら未だ勝てない妹。

どっちかがねじくれてたらここまでややこしいことにはなってなかっただろう。

 

雪ノ下は勝てそうで勝てない姉の幻想と闘い続けてきたのだろう。

 

そんな無意味で無価値な事やってるやつに、世界は救えねぇよ。

 

「みなさーん、ちょっといいですかー?」

 

おい、今度はなんだ。

 

「ちょっと思ったんですけど、文化祭実行委員は文化祭を楽しんでこそかなーって。自分たちも楽しめないと他の人も楽しませられないっていうか」

 

なに言ってんだこいつは……。

 

「文化祭を楽しむためには、クラス方も大切だと思うんですよ。予定も順調にクリアしてるし、仕事のペースを少し落とすっていうのはどうですか?」

 

おいおいおいおい勘弁してくれ。とうとうトチ狂ったか?いやもともとか。

 

「相模さん、それは少し甘い考えたわ。常に想定外のことを予期して仕事を前倒しに…」

「私の時もみんなクラスの方頑張ってたなー」

 

余計なことすんなー…。

 

「ほら、前例もあるし。いいとこは受け継いでいくべきだと思うなー。先人の知恵に学ぶっていうか……私情は挟まないでみんなのことも考えようよ」

 

ダメだこりゃ。決まりだなどうしよもない。

 

「だーれが一番私情挟んでんのかねー……」

「だな…」

 

横山のつぶやきに、俺はそれしか言えなかった。

 

「いやー本当いいこというねー」

 

なにがしたいのやらこの人は……。

どーにかして少しでも状況を改善したいが、この状況で俺がなんか言っても効果はほぼないだろう。横山もそれは同じだ。さて、どうするか…。

 

 

 

 

「ちょっといい?」

 

 

 

 

会議室入り口付近から突如、声があげられた。

 

佐々木さんだった。

 

「あらハイセくん、早かったね」

「たまたまここの近くの僕の行きつけの喫茶店にいましたからね。それで、話を戻すけどいいかな?」

「あ、あの、どちら様で?」

 

まぁそうなるよね。突如現れた大学生風の男がこんな高校の会議室にいたらそうなる。

 

「ああ、ごめんね。自己紹介してなかったね。僕は佐々木琲世。ここの卒業生で、さっき雪ノ下さんに呼ばれてここに来たんだ」

「ああ、雪ノ下先輩のお友達でし…」

「友達ではないかな」

 

相模の言葉を速攻で遮る佐々木さん。

 

「えー傷つくー」

「事実でしょう」

「じ、実行委員長の相模南です。それで、なんでしょう?」

「君は、ちゃんと責任を取れる?」

「はい?」

「君は委員長だ。この実行委員の中で最も権力のある立場だ。この先文化祭に何かしらの形で不備が生じたらそれは巡り巡って君に責任が問われる。その立場にいることを君はちゃんと自覚しているの?」

 

言葉と表情は優しいが、その瞳に宿る光はひどく冷たい。相模はそれには全く気付いてないようだが。

 

「ハイセくんは相変わらず心配性だなー。ちょーっとペース落とすだけだしへーきへーき」

 

本当に面倒だなこの人……。

 

「……あなたも相変わらず性格が悪いですね」

「ひどーい」

「で、どう?ちゃんと自覚してる?」

「はい!もちろんです!」

 

雪ノ下姉に認められた(と錯覚してる)からか、自信たっぷりに言い放つ相模。

 

「そっか」

 

それだけいうと佐々木さんは微笑む。

 

だがその顔は

 

「それが聞けて、安心したよ」

 

見放したような冷たい笑顔だった。

 

付き合いの長い俺だからこそ気づけるのだろう。横山は気付いているが、他の人は気付いていないようだった。相模なんてパッと見人畜無害スマイルを向けられて若干頬染めてるし。お前葉山にぞっこんじゃなかったっけ?知らんけど。

 

そして、この相模の言った言葉により翌日から実行委員に多大なる影響を与えることになることを俺たちはまだ知らない。

 

そしてさりげなくうちの隊のメンバーが集結したのだった。

 

どうしてこうなった。

 

 

数日後

 

「ァァァァァァ……」

 

俺は声にならない呻き声を上げていた。

会議室には20人いないくらいの人数しかいない。本来なら60人近くいるはずの会議室には三分の一以下の人数しかいないという事態。

全ては実行委員長(笑)の帰農令ならぬ帰組令によるものだ。おのれあのポンコツ委員長……。

 

しかも雪ノ下姉の有志が引き金になったのか、有志志望の団体が急激に増えた。その処理は本来なら到底間に合わないはずなのだが、生徒会の助力、雪ノ下のハイスペック、犬飼先輩の尽力、時々有志の練習の合間にふらりと現れ仕事を片していく雪ノ下姉、そしてその雪ノ下姉に拉致されたり単純に俺らの手伝いに来てくれてる佐々木さんによりどうにか回っている。だがかなりギリギリ。かく言う俺のとこにまでお鉢が回ってきてるまである。

 

それのせいで、仕事が終わらない……!

 

「もうだめだ何もしたくねぇ…」

「言うなハッチ、あたしだって今にもパソコンのディスプレイ、頭突きで叩き割ってしまいそうになるほどイライラしてんだから」

 

なにそれ見たい。

 

しかしそろそろ体力的にきつい。勉強、防衛任務、トレーニング、そしてこの文実だ。この社畜生活、そろそろ限界がきてる。

 

「お疲れ様、比企谷くん、夏希ちゃん」

 

佐々木さんの労いの言葉と共に俺らの傍らにマッカンが置かれる。

 

「どもっす」

「さんきゅーサッサン」

 

2人して缶を開けて一気にマッカンの流し込む。素晴らしい甘さが五臓六腑に染みわたる。やはりマッカンは至高だ。

ちなみに佐々木さんはブラック。ほう、これは宣戦布告と見ていいのかな佐々木さん。

 

「……ふぅ」

 

疲れたようにため息をつく佐々木さん。当然だ。俺らの中で最も忙しいのは間違いなく佐々木さんだ。大学の講義、レポート、開発室のヘルプ、防衛任務、トレーニング、有志の練習、文実だ。いくら我が隊、いや、ボーダー屈指の体力を持つ佐々木さんでもこれはきつい。

 

「サッサン大丈夫?」

「うん、なんとかね」

「大丈夫じゃないでしょ?髪、『戻って』きてるよ」

「あー……そうかもね」

 

どうやら普段欠かさない事を疎かにするほど疲れているようだ。どこかで休ませないと倒れるなこりゃ。

 

「佐々木先輩、お疲れ様です」

 

そして知らぬ間に近くまで来ていた城廻先輩と綾辻。そうか、佐々木さんの1つ下だから城廻先輩が佐々木さんを知ってても不思議じゃないのか。

 

「ああ、めぐりちゃん。うん、お疲れ様。遥ちゃんも」

「お疲れ様です、佐々木さん」

「すみません、卒業生の佐々木先輩にまで手伝わせてしまって…」

「僕は、大丈夫だよ。それよりめぐりちゃんと遥ちゃんは大丈夫?」

「ええ、大丈夫です」

 

そう答える城廻先輩の声は初めて聞いた時の声に比べて大分覇気がなかった。

 

「会長、少しよろしいですか?」

「あ、うん。じゃあ佐々木先輩」

「うん」

 

そうして城廻先輩は去っていった。

 

「本当にすみません。卒業生の佐々木さんに手伝わせてしまって…」

 

綾辻が申し訳なさそうに謝る。

 

「さっきも言ったけど、僕は大丈夫だよ」

「八幡くんと夏希も大丈夫?」

「わり、ダメだ」

「あたしもー……」

「そうだよね……やっぱりあの時、ちゃんとダメって言えばよかった」

「今更たらればの話しても無駄だぜ綾辻」

「そう、だね…」

「後で3倍返しにすればいい」

「そういう話じゃないよね⁈」

 

おお、なんだ。いいツッコミできんじゃん綾辻。

 

「そういう綾辻は大丈夫なのか?」

 

俺らと同じ普通の部隊ならともかく、嵐山隊は普通の部隊とは違う。メディアに出てる以上、俺らより仕事は多いはずだ。なのにこんなことまでやらされて体力はもつのだろうか。

 

「うーん、言わせてもらっちゃうとあんまり大丈夫じゃないなぁ…」

「だろうな。もう顔が大丈夫じゃないって言ってるぜ」

 

この数日で少しやつれたように見える。

 

「え、そうかな……」

「そうだ。少しやつれたろ?それにすごい疲れた顔してんぜ。とは言っても、この現状じゃあしょうがねぇよなぁ……」

「そう、なんだよね……」

 

なにせ人がいないのだ。そもそも委員長がいないんだし。

 

と、そこで唐突に会議室の戸が叩かれる。

 

「失礼します」

 

入って来たのは葉山だった。

 

「有志の申し込み書類を提出しに来たんだけど」

「申し込み書類は右奥へ」

 

接客なら0点だぜ、雪ノ下よ。

俺らはそのまま我関せずで仕事を続けていると、葉山が近づいてくる。なんでや。

 

「……人手、足りてるのか?」

「全体のことは俺にはわからん。下っ端は担当部署だけで手一杯だ」

「担当部署って?」

「記録雑務」

「………似合うな」

「喧嘩なら買うぞ」

「ああ、いや、そういう意味じゃないんだ。すまない」

 

じゃどういう意味だよ。

だが葉山もこの現状を理解したようだ。そもそも人手足りてるのかの質問をする時点でなんとなくは察してたんだろうな。

 

「なら大変だな」

「大変だと思うなら、あんたの待ち時間を潰すためだけに話しかけてくんのはやめたらー?」

 

……さすが男嫌いの横山。訳すと「男は近寄ってくんな」だな。多分。

 

「あはは……。まぁでも、見た限り雪ノ下さんがほとんどやってるように見えるけど」

 

こいつ、横山の言葉シカトしたぞ。

だが葉山の言葉はその通りだ。俺らもやってはいるし終わらないが、一番量こなしてるのは雪ノ下だ。

 

「………その方が効率がいいから」

「でも、そろそろ破綻する」

 

葉山にしては珍しく突き放した言い方だな。

 

「そうなる前に、ちゃんと人を頼った方がいいよ」

「雪ノ下さん、人を頼ることも大切なことだよ。はるさんだってこういう時は……」

 

城廻先輩、あなたが雪ノ下姉を尊敬してるのはわかりましたけど雪ノ下相手にそれは禁句ですよ。何もわかってないのですね、あなた方は。

 

「………あ」

「頼るのは大事でしょうけど、そもそも頼る気しかないやつしかいないんですよね。頼るだけならまだしも、ただ使ってるだけの奴がいる。そのせいで今いる人だけじゃ回りきれなくなってるっていうのに、この現状で誰を頼れって言うんですかねぇ……」

 

俺にしては珍しく思ったことをそのままいってしまった。だが後悔はしていないぜ!多分。

 

「……えっと」

「この際下っ端の俺が大変なのは仕方ないでしょう。忙しくなるのは予想してましたし。でも、他人が楽するために押し付けられた仕事をするのは、個人的には許せない」

 

こっちはボーダーもあるってのになんでこんなことせにゃならんのだ。

 

「……君、最低だね!」

 

どうやら冗談としてとられたらしい。……本音だなんて今更言えない。

 

「そっちも手伝うよ」

 

葉山の言葉に他の委員達もつられたのか、気合を入れ直して仕事に取り掛かる。………いいのか悪いのか。いいのかな?

 

「………雑務にも皺寄せがいってるみたいですし、一度仕事の割り振りを見直します。それと、城廻先輩の判断もありますしお手伝いの件、ありがたくお受けします。……ごめんなさい」

 

雪ノ下は終始、パソコンから目を離さなかった。

 

これは、なにも変わらないのだろうな。

 

 

気づけば下校時刻に。

 

「うおぁァァァァァァ……」

「もーだめ……」

「お疲れ様、八幡くん、夏希」

「サンキュー…綾辻もな…」

「おうふうぇあ……」

 

横山、大丈夫かよ。

佐々木さんは少し前に帰った。開発室のヘルプに呼ばれたらしい。

 

「じゃあ私は校内の見回りに行ってくるね」

 

まだ仕事すんのか。

だがこれは文実とは関係ない生徒会の通常業務だ。やめろとは言えないよなぁ……。

なら……

 

「見回り、手伝うか?」

「え?」

「他の生徒会のメンバーがいるにしても、校内見回り結構時間かかるだろ?なら俺らが見回り手伝うぜ」

 

せめて、仕事の負担を軽減させてやろう。

 

「お、ハッチにしてはいい案じゃん」

「おい、俺にしてはとはなんだ」

「え、でも……」

「見回りくらいなら、俺らが手伝っても問題ねーだろ」

「そーそー。遠慮しなくていいんだよ遥」

「……じゃあ、お願いできる?」

「ああ」

「オッケー!じゃ、あたしこっち見てくるからハッチと遥は特別棟よろしくねー!」

「あ、おい!」

 

横山はそれだけ言うとさっさと行ってしまった。なんだあいつ。相変わらずよくわからんな。

 

「しゃーねぇ。行くか」

「うん」

 

 

特別棟はもともとあまり人がいない。だから見回りと言ってもほとんどただ歩いているだけだ。

 

「二階はこの物理実験室で最後か」

「うん。じゃあ3階行こうか」

「おう」

 

ーーー

 

「八幡くん」

「ん?」

「最近、ボーダーの方はどう?」

「どうって言われてもな……最近は文実あるからあんまランク戦やれてねーからポイントも全く変わってないな」

「そっか」

「次のチームランク戦、太刀川隊と風間隊だからもうちょいランク戦やる時間欲しいわ」

 

次はとうとうトップへの挑戦だ。ここで勝てば、暫定的ではあるがボーダーのトップに立てる。そのためにも色々とやっておきたいのだがなぁ……。

 

「そっか、八幡くんすごいね」

「運が良かったってのもあるけどな。他のA級部隊もいつも勝てるってわけじゃねーし」

「二宮さんにすごいしごかれたら強くもなるよね」

「………それは言うな。結構きつい記憶なんだから……」

「ふふっ」

 

くそ、綾辻め。わかってて言ってるな。

 

そんな雑談しながら見回りをしているが、人は誰もいない。

 

そして最後の教室。奉仕部の部室だ。

 

「そういえば、ここって奉仕部の部室だよね」

「ああ、そうだな」

「最近は活動してるの?」

「文化祭期間はやってねーよ。尤も、雪ノ下が個人的に受けた依頼的なのはやってるけど」

「え?」

「ああ、綾辻は知らないのか。実は

 

―――

 

って感じだ」

「そうなんだ……どうりで知らない間に副委員長が決まってるわけね」

 

不思議に思ってるやつもいたのだろうが、雪ノ下が無双したため誰もそのことを気にしなくなっちまったんだよな。

 

「よし、ここもいないね」

「終わりか」

「うん、夏希呼んで帰ろ……ってあれ、夏希からだ」

 

綾辻のスマホが振動する。画面を綾辻が見ると、なんか真っ赤になってあたふたしてる。なんだ?

 

画面を覗き込もうとすると、逃げられた。

 

「横山からだろ?なんだって?」

「な、夏希は、先に帰ってるみたい。は、早く終わったから会長に報告して……」

「そうか……」

 

そんな内容なら別に見られてもいいような……まぁ女子は複雑なんだろうな。

 

「それなら俺らも帰ろうぜ」

「う、うん」

 

そうして俺たちは帰路についたのだった。

 

そして、帰りにスーパー帰りの佐々木さんに会った。開発室のヘルプはほとんどいらないような雑務だったらしくすぐに終わったとか。鬼怒田さん、佐々木さんをいいように扱うのやめてくれません?

 

そしてその後ササキハウスにてササキメシを小町と横山も呼んで食べたのだった。

 

 

 

***

 

おまけ

 

時は少し遡る。奉仕部の部室を見回りに来た時。

 

「あれ、夏希からだ」

 

綾辻は不意にポケットから振動を感じ、スマホを取り出す。そして通知画面には親友である「夏希」の文字が。

画面を開くと……

 

 

 

綾辻と比企谷が並んで笑いながら歩いている写真だった。

 

 

(な、ななななんで⁈)

 

これは紛れもなくついさっきの場面だろう。それをなぜ夏希が持っているのか。

そして文面。

 

『お熱いね〜カップルみたいだよ遥!(笑)さっさと付き合っちまえって言いたい気分だよ(≧∇≦)でもハッチは気づいてないからもっと攻めろ!押し倒せ!(笑)

 

あ、見回り終わった。会長に報告したから先帰るねー』

 

あの友人は……と呆れつつ顔が赤くなるのを綾辻は感じた。

 

すると横に気配。比企谷だった。

 

このやりとりを見られるわけにはいかない。瞬時に悟った綾辻は電光石火の素早さで立ち退いた。

 

「横山からだろ?なんだって?」

「な、夏希は、先に帰ってるみたい。は、早く終わったから会長に報告して…」

 

しどろもどろになっているが、なんとか返答できた綾辻は内心で自分に拍手を送りたい気分だった。

 

「それなら俺らも帰ろうぜ」

 

その言葉に、少し胸がときめく。

一緒に帰れる。それだけでも綾辻にとってはとても嬉しいことなのだ。

 

「う、うん」

 

いつかこの気持ちを、必ず伝えてみせる。鈍感な彼でも、いつか、必ず。

 

 

そんな決意を胸に彼女は幼馴染の想い人と共に帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近あまり出せてないみかみかを出してみた。小南とかも出したいな。

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