目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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では、28話です。

穂刈敦
倒置法男。どんな時でも倒置法。メールでも倒置法。そのうち八幡のことを「八幡、比企谷」とかいいそう。狙撃手であり笹森とはメールしあうような仲である。メールではやたらフランクな喋り方になる。とてもそうは見えないが、筋トレである、趣味が。見た目によらないものだ、人は。

半崎義人
常にダルがっていて、目がもう既にダルそう。でも腐ってはいない。これ重要。しかし狙撃の腕には定評があり、その腕は奈良坂や当馬とも並ぶレベルである。割と八幡と仲がいい。


28話 海は、泳ぐより眺める方がいい。

『時間になったよ。今日の防衛任務は終了。お疲れ、ハッチ、サッサン』

「今日も終わりか…」

「お疲れ様、比企谷くん」

「すいませんね、俺の都合に合わせてもらって」

「僕は大丈夫だよ」

「横山もわりーな」

『いーよ。あたし部活とか入ってないし基本暇だから』

 

夏休み真っ最中にもほぼ毎日のように防衛任務をうちの隊は防衛任務を入れてる。本来、防衛任務はシフト制で2日に1回くらいの頻度なのだが、忍田本部長に頼んでうちの隊をほぼ毎日無理やり入れてもらっている。もちろん佐々木さんや横山の予定がある日は俺は他の部隊に入れてもらって混成部隊になったりしている。

この前、入れすぎて忍田本部長に怒られた。「休むのも隊員の務めだ!」って言われたぜ……。まぁ、根詰めすぎもよくないからということで明日明後日は何もない。小町は夏期講習だからどーせカマクラ(こっそり)つれて作戦室でダラけてるだろうな。

 

そんなムダな思考をしていると、次のシフトである荒船隊が来た。

 

「おう比企谷、交代だぜ」

「お疲れっす荒船さん」

「今日も無双したのか?バイパーで」

「別に無双はしてませんよ」

 

穂刈さんは相変わらず倒置法なのね。

 

「頑張ってね、半崎くんも」

「ダルいっすわ」

 

安定のダルさだな半崎。

最近、この人たちは全員狙撃手のチームとなりボーダーでもかなり異色の部隊となった。荒船さんは未だに孤月をセットしているが、メインウェポンはイーグレットだ。チームによっては天敵となり得る可能性があるな。俺にとってはカモだけど。

 

「じゃ、お疲れっす」

「おう」

 

 

現在、時刻は昼時。朝早くから昼まで防衛任務を入れていたが、今日は珍しく全く疲れていない。別に出てくるネイバーが少なかったわけではないのだが……え?佐々木さんにやらせてたって?んなことしねーよ。……い、いや本当だよ?

 

んで、その絶賛ヒマを持て余している俺は何をしているかというと、自宅近くの本屋に本を買いにいくのだ。欲しい本があるというわけではなく、なんとなくだ。

 

「…あっちぃ」

 

もう少し涼しくなってから本部を出るべきだったな……溶けそうなくらいあちぃ。腐ってる目がさらに腐りそう……。

 

ゾンビみたいに歩いていると、後ろからクラクションが聞こえる。なんだようっせーなと思いつつ見ると

 

そこには車に乗った加古さんがいた。

 

「加古さん」

「奇遇ね比企谷くん。どこ行くの?」

「はぁ、そこの本屋まで」

「そう。……ねぇ比企谷くん、あなたこの後予定ある?」

「え、ないですけど……」

 

なんでそんな事聞く?

 

「そう、よかった。じゃあこれからドライブしましょ」

 

 

 

 

 

 

はい?

 

 

現在、加古さんは上機嫌で鼻歌歌いながら車を運転。俺は助手席でぼんやり外を眺める。

加古さんが乗ってる車はなんかオサレな感じの車だが、ハンドルの位置的に外車ではないようだ。これで外車とか乗ってたらこの人ガチもんのセレブだ。いや、オーラは完全にセレブだけども!

 

「あの」

「ん?」

「どこ向かってるんすか?」

「あら、どこでもいいのよ。ドライブってそういうものでしょ?」

 

そういうもんなの?

 

「でも、一応目的はあるわよ」

「どこですか?」

「海が見えるところね」

「海、ですか」

「そうよ。夏といったら海でしょ?」

「はぁ」

「まぁでも水着は持ってきてないから泳げないんだけどね〜。比企谷くんに私の水着見せたかったわ」

 

勘弁してくれ。加古さんスタイルいいから絶対目のやり場に困ることになるんだから。

 

しかし、海か……。

 

「長らく行ってないな…」

「あら、そうなの?」

「ええ、行く気も機会もなかったので」

 

なにせ毎日防衛任務だ。そんなとこ行く暇ないし、そんなリア充の巣窟みたいなとこ誰がいくか。

 

「そういえば比企谷くん、お昼はもう食べた?」

「ええ、本部で済ませてきました」

「あらそうなの。私はまだなのよ。付き合ってもらってもいいかしら?」

「構いませんよ」

 

 

来たのは、なんかオサレな感じのカフェ。

 

「ここ、私の行きつけなのよ」

「ほー」

 

俺はなんか場違い感すごいぜ。

 

「いいでしょここ。海も近くて眺めもいいし」

 

窓の外には広大な海が広がっていて、波の音も聞こえる。

ここは三門市のすぐ隣にある四塚市にある。なんでわざわざ隣町にまで来たのかは聞かない。この人は気まぐれだから。

 

加古さんは店員を呼ぶと注文を言い始める。

 

「このフレッシュサンドとクロワッサン、あとアイスティーお願いね」

「フレッシュサンドとクロワッサン、アイスティーですね」

「比企谷くんは?」

「え……じゃあアイスコーヒーで」

「アイスコーヒーですね、かしこまりました」

 

それだけ言うと店員は戻っていった。

 

「そういえば」

「はい?」

「この前のランク戦で思ったんだけど、比企谷くんやっぱり腕落ちたわよね?」

 

えー

 

「いや、訓練はちゃんと休隊中にもしてたし、ポイントも増えてるんすけど……」

「そうかしら?そうだとしても、休隊前の比企谷くんと比べるとどうしても見劣りするんだけど」

「……そんなに俺腕落ちたんすか?」

「うーん、落ちたとも思うけど、前より攻めにこなくなったって思ったわ」

 

攻めにこなくなった、か。確かにそうかもしれない。特に前回は。

 

「まぁ、確かに前回は攻撃には消極的だったと思います」

「やっぱりそうよね」

「ええ」

「どうして?」

「えーっと、前回のランク戦の組み合わせだとみんな中距離がメインなんすよ。総合力ならみんな同じくらいだけど、中距離戦になると人数的に俺らが不利になります。だから俺はチームとして勝つために『勝ってる分野』で勝負をしたんすよ」

「勝ってる分野?」

「あのメンツだったら、近距離はうちが一番でした」

「あーそうね。木虎ちゃんもあの子どっちかっていったら銃手だし、双葉もまだハイセくんには及ばないものね」

「ええ、それに他のみなさんは多分俺の方が警戒度が高かったでしょうしからそこであえて佐々木さんに働いてもらいました」

 

サボりたかったわけではない。二宮さんの前でそんなことしたら後が怖い。

 

「ふーん、そういうことね」

「そういうことっす」

「でも腕はちょっとは落ちたわね」

 

マジすか……。

そこでコーヒーと加古さんの昼飯が運ばれてくる。

 

「じゃあいただきます」

 

そう言って加古さんはサンドイッチを食べ始める。この人はなんか食べるだけで絵になるのが不思議だ。しかし好奇心のままに炒飯を製造するのはやめて。この前あなたトマトいれようとしてたでしょ。え?トマトは普通だって?トマトが入った時点でゲテモノなんだよ。

 

「そうだ比企谷くん」

「はい?」

 

コーヒーにミルクとガムシロを大量に入れながら返す。

 

「あなた、うちの隊に来る気はない?」

「ありません」

「即答……」

「一部隊の隊長はってるやつになにいってんすか……」

 

俺があの隊を抜けるとでも思っているのだろうか。少なくともうちは全員の進路がはっきりするまで絶対に解散しない。俺にとっては重要な収入源なんだから。

 

「でも比企谷くんが来てくれればきっと太刀川隊にも勝てるくらい強くなれると思うのよ。私たち相性いいしそれに双葉と真衣も加わればかなり強くなると思うのよねー」

「俺の能力を高く買ってくれてるのはありがたいですけど、俺は今のチームでやっていきたいんで」

「あらつれない。………能力以外にも理由はあったけどね」

「はい?」

「なんでもないわよ」

 

?なんだ?

 

「そもそも俺は比企谷でイニシャルHっすよ?イニシャルK縛りみたしてないじゃないですか」

「そうなのよねー」

 

そうなのよねーって……。わかっててこの人言ってたのかよ。つまりもともと入れる気がないと。……べ、別にがっかりなんかしてないんだからね!

まぁ、俺の能力を高く買ってくれてるのは本当だろう。でなかったら泣いちゃう。

そんなクソどうでもいいことを考えながら、コーヒーをすする。

 

「じゃあ比企谷くん、か行の苗字に改名してよ」

「嫌です」

「むーつれなーい」

 

デジャヴか。

というかなんでそんなことのためにわざわざ改名せにゃならんのだ。そもそも入る気ないし。

 

「あ、そうだわ!」

 

なーんかロクでもないことでも思いついたのかねー。

 

「比企谷くんが私の婿養子になってくれればいいんだわ!」

「ぶっふぁ!」

 

コーヒーが思いっきり気管にはいる。

本当にロクでもないことだった。もはや原爆レベルでロクでもない。

 

なにいってんのこの人。

 

「あら、大丈夫?」

「…いや、元凶あなたですからね?なにさらっと爆弾投下してるんですか?」

「あら?私変なこと言ったかしら?」

「むしろ変なことしか言ってません」

「そうかしら?比企谷くんに私のチームに入って欲しいけどイニシャルKをみたしてない。でも比企谷くんは改名する気もない。なら私のお婿さんになれば万事解決じゃない!」

「とりあえず、俺がチームに入る前提で話を進めないでください」

 

なんで決定してんだよ。だれも入るなんて言ってないよ。

 

「冗談よ、冗談。…………半分ね」

 

それは一体どこからどこまでが冗談なんだ。

 

「さぁ?どこまでだと思う?」

「サラッと思考読まないでください」

 

なんで俺の思考読めるんだよ。エスパーかよ。あ、でも前に佐々木さんが「君は割とわかりやすい」って言ってたな。ポーカーフェィスには自信あるのに。

 

「ふぅ、ごちそうさま」

 

なんだかんだで加古さんの食事は終了。俺もコーヒーを飲み終わったところだ。……まぁ、半分くらいさっき吹き出したんだけどね。

 

「そういえば比企谷くんに聞きたかったことがあったんだけど」

「はい?」

「どうして二宮くんの弟子になったの?」

「それは、どういう?」

「別に二宮くんの弟子になった事を悪く言ってるわけじゃないのよ?ただ、射手なら彼の他にもたくさんいるし、能力に関しては確かに彼がトップだけど能力があって、二宮くんより教えるのがうまい人は他にもいたと思うのよ。私だって頼まれれば引き受けたわ。それに二宮くん、初めはあなたにまともに教える気なんてなかったのよ。だから訓練をあんな過酷にしたらしいわよ」

 

それは知ってた。俺がA級に昇格した後に連れていかれたお祝いでそのことを聞かされたからだ。

 

「あの過酷すぎる訓練は確かにちゃんとこなせればとても身になるわ。でも、あんな過酷すぎる訓練、私でも途中で投げ出すわよ。それなのにあなたは最後まで二宮くんについていき、あの訓練も完璧にこなしきった。正直なところあなたなら師匠がいなくてもいつかはその領域にまで達していたと思うの。なのにそこまでして二宮くんを師匠として仰いだ理由はなに?」

 

随分久々に聞かれたな、これ。最後に聞いてきたのは多分緑川あたりだな。

 

理由、ね。

 

「加古さんは知ってるでしょうけど、俺は両親がいません。だから金が必要でした。まぁ普通に生きていくだけなら補助金だけでもどうにかなったんですけど、俺は小町にはちゃんとした教育を与えてやりたかったんです。まぁ俺自身もまともな教育を受けたかったってのもありますけど、それにはどうしても金がかかる。それに、小町にあまり窮屈な生活をさせたくなかったんです。だから早く強くなって防衛任務に就いて、金を稼ぎたかったんです」

「相変わらず小町ちゃんが大好きね」

「当たり前です。家族ですから」

「そうね」

 

そういって加古さんは微笑んだ。……不覚にもドキッとしてしまったのは言わないでおこう。

 

「あと」

「ん?」

「今度こそ、自分の大事なものを守れるようになりたかったからです」

「……そう」

 

泣く小町を見て、もう二度とこんな思いはしたくないと思った。だから、どんなに辛くても手っ取り早く強くなれる方法を探した結果、二宮さんに弟子入りするのが一番だったのだ。

 

「ついでにどうやって二宮くんを見つけたか聞いてもいい?」

「佐々木さんと迅さんに協力してもらいました」

「ああ、なるほどね」

 

あの2人にはいろいろと借りばっか作ってるな。いつか返さないと。

 

「俺も質問いいですか?」

「ええ、いいわよ」

「どうして、あの雪ノ下さんと仲良くできるんですか?」

「あら、あなたあの時以外に陽乃に会ったの?」

「いえ……」

「ならあの一回だけで陽乃のことがわかったの?すごいわね……」

 

まぁ、初見でわかる人などそういないだろう。

 

「そうね、私が陽乃と仲良くできる理由ね。……まぁ、あなたの知ってる通り、私が単純に才能のある子が好きってのもあるわ。でも、あの子実はとっても『寂しい』子なの」

「……はい?」

 

俺の中のイメージは周囲の人を騙して手玉にとり、瞳の中のドス黒い『何か』を纏わせて相手を引っ掻き回す。そんな感じだ。そして周囲には必ず誰か人がいる。だから寂しいイメージはない。むしろ華やかだろう。

 

「比企谷くんはもう知ってるのよね?あの子あんな性格だから『本当の意味での』友達はいないの。だから『寂しい』。でも、とっても面白いの」

「……は?」

「面白いのよ。私は感覚派だからうまく言えないけど、すごく面白くて、一緒にいて飽きないの。初めは好きになれなかったけどね」

「なるほど」

 

感覚派の加古さんらしいや。

 

「ふふ」

「え、なんすか?」

「比企谷くんの笑顔、やっぱりいいわね」

「………………………」

「あら、照れてるの?」

「え、いや、別に……」

「顔、真っ赤よ」

「………」

「じゃあそろそろ行きましょう」

「……はい」

 

俺は、年上には弱いのかもしれない。

 

 

再び加古さんの車に乗り、四塚市の海沿いの道を進む。潮の香りが漂ってくる。波の音も、気分が安らぐ。

 

「いい気持ちね」

「そっすね」

 

こんなの久々だ。たまにはいいものだ。

 

「もう少し行くと港があるの。行ってみない?」

「そうですね」

 

ーーー

 

穏やかな波の音が聞こえる。

 

車を降りるとあまり見慣れない光景が広がる。港なんて来たことなかったから。

 

「今日は休日だから静かね。平日だと活気があるんだけど」

「へぇ、平日にも来たことあるんですか」

「ええ、いいところよ。魚も新鮮で美味しいしね」

「ほー」

「また今度来たら奢ってあげるわ」

「はぁ…」

 

いくことは決定なんですか?

 

「よいしょっと」

 

加古さんは港にある丸い何かに腰掛ける。あれは確かに鎖とか巻きつけるやつだったかな。

加古さんにつられて俺も腰掛ける。

 

「んー風が気持ちいいわ」

 

伸びをしながら風を感じる加古さん。……胸に目はいってない。行ってないたら行ってない。

 

「嫌なことがあったりするとよく来るのよ」

「え、なんか嫌なことでもあったんすか?」

「いいえ、そんなことはないわ。……心配してくれたの?」

「え?あ、いや」

「ふふ、優しいのね」

 

そういって加古さんは俺の頭を撫でる。

……この歳になって頭撫でられるとはな。べ、別に嬉しくねーし。照れてなんかいねーし。

 

「でも、本当にいいとこですね」

「そうでしょ?」

「車ないとこれませんけどね」

「あーそうね。ここは駅からはちょっと遠いわね」

「つっても、普段はこんなとこ来る暇なんてないんですけどね」

「そうねー、普段なら防衛任務づけだもんね。比企谷隊は特に多いものね。ちょっとは休んでるの?」

「休んでますよ。明日明後日はオフです」

「あら珍しい」

「本部長に『休むのも隊員たる者の務めだ』って言われて……」

「ああ、あの人なら言いそうね」

「ま、防衛任務入れすぎた俺も悪いんですけどね」

「そうね、それは思ったわ」

 

ですよね……。毎回じゃないにしても佐々木さんと横山にも合わせてもらって……悪いことしてるな……。

 

「休むのも大事よ。あ、そうだ。話変わるけど今度ある夏祭り一緒に行かない?」

 

夏祭りねー……そんなのあったなぁ。

 

「すんません、夏祭りは佐々木さんと横山と一緒に出店のバイトすることになってて…」

「あら残念」

 

ただ、その出店を出す人があの月山なんだよなぁ……。

 

「ちなみにその出店は誰が出すの?」

「月山さんです……」

「あの月山グループの御曹司ね」

「変な人なんすよね」

「やたらハイセくんが気に入られてるわね。確かに変な人よね。でもあの人は才能あるわよ。いろんな意味で」

 

それはそうだが……。

 

「……そういえば、ハイセくんをだいぶ前にここでみたわね。しかも深夜に」

「は?」

「ただずっと海を眺めていたわ。声をかけようとしたんだけど、雰囲気がちょっと普段と違ったからそのままにしておいたわ」

 

深夜にこんな港に何しに来たんだ?俺のサイドエフェクトでもわからない。

 

「そもそも加古さんも何してたんすか?」

「夜景を見に来たのよ。ここ、綺麗だし」

 

なるほど。

 

「そうだ、一緒にみない?時間よければだけど」

 

 

………見てみようか。

 

「あ、でも小町ちゃんは大丈夫?」

「え?あー……夜には帰ってくるな…」

 

さすがに帰ってきて1人、ということにはさせたくないな…。

 

「じゃあ、夕焼けにしましょ。すごく綺麗だから」

 

 

加古さんに四塚市を連れ回されること数時間。

 

夕方6時。太陽は赤く輝き、水平線に沈み始めた。

 

「おお…」

「ね、綺麗でしょ」

 

幻想的な光景に俺は目を奪われる。夕焼けなら三門市でも観れるが、海で見るとまた違うものだ。水面に光が反射してそれが宝石のように輝きを放っていた。

 

「今日も綺麗に見えるわね」

 

こんな穏やかな気持ちで空を見たのはいつ以来だろうか。ここ最近、防衛任務ばかりだったからいろいろと溜まっていたのだろう。それもあってか、夕焼けはより綺麗に見えた。

 

「もう少し行くと、砂浜もあるの。水着があれば、そこで泳げたんだけどねー。あ、そういえば比企谷くんって泳げる?」

「ええ、まぁ人並みには」

「そう、じゃあまた今度来ましょ。その時は私の水着姿も見せてあげるわ」

 

勘弁してくれ……。

 

「海、好き?」

「ええ」

「そう、よかったわ」

「でも」

「?」

「俺は、海なら泳ぐより眺めてる方が好きです。海を眺めていると、気持ちが落ち着く」

「あなたらしいわね」

「あ、そうだ加古さん」

「なに?」

「あの、この前俺の誕生日パーティーに来てくれたお礼に買ってみたんすけど……」

 

そう言って俺は、紫水晶がついたブレスレットを取り出す。

 

「これ…」

「加古さんが、どんなのが好きなのかわからなかったんでとりあえず隊服と同じ色のやつにしてみました」

「いつ買ったの?」

「この前の誕生日の後です」

「え、じゃあいつも持ち歩いていたの?」

「いえ、今日はなんかこれ持ってた方がいい気がしたので…。多分、サイドエフェクトです」

 

これは俺の誕生日に来てくれた人全員に買った。もちろん太刀川さんにも。そしてまだ渡せてない人のは作戦室に置いてあるのだが、今日は加古さん宛のこれを持ってた方がいい。そんな気がしたのだ。

 

「あと、これも」

「これは……」

「海のキーホルダーです」

 

今日、加古さんに四塚市を連れ回されてる時に立ち寄ったガラス工房で売ってたものだ。青いガラスの中に小さな魚がいるようなやつだ。

 

「今日、ここに連れてきてくれたお礼です。俺をここに連れてきてくれてありがとうございました」

 

今日だけでだいぶリフレッシュできたし、こんないい場所まで教えてくれた。その感謝は伝えなくてはいけない。

 

「……あなた、そういうとこがちょっとずるいのよねー」

 

なんでだ。

 

「でも嬉しいわ。私も楽しかったし。ありがとうね、比企谷くん」

 

美人の笑顔とは素晴らしいものだ。見惚れてしまったぜ。

 

 

 

そうこうしてるうちに夕日は沈み、辺りは暗くなってきた。

 

「さ、帰りましょ」

「はい」

 

たまには休むのも大切だな。

 

***

 

おまけ

 

連れ回される八幡

 

服屋

「あ、これいいわね。あとこれも。あーこっちもいいわー。ねぇどれがいいと思う?」

「もう少し絞って下さい」

 

なんで候補10着もあるんだよ。

 

雑貨店

「あら、これ双葉に似てるわね。あ、これかわいいわ。あーこれ欲しかったやつだわ。買っちゃおっと」

「…………まだ終わんないんすか?」

 

待ち時間、既に50分。

女子の買い物は長い。

 

本屋

「ねぇ比企谷くん、オススメの本とか無いかしら?」

「オススメって言われましても……俺が好きな本が加古さんが好きな本とは限らないんじゃ……」

「大丈夫よ、多分」

「多分すか……じゃーこれとか」

「これ、面白いの?」

「さぁ?テキトーに取っただけですから」

「『鈍感な天然タラシ系主人公を数人の女子が取り合う』話……。あなたにはぴったりね」

 

解せぬ。俺は鈍感じゃない。

 

ガラス工房

「ガラスってすごいわね、こんなこともできるなんて」

「はーすごいっすね」

「双葉達にお土産に買ってこうかしら」

「んじゃ俺も小町に……(あと加古さんにもお礼に)」

「あ、これなんてどうかしら比企谷くん」

「加古さん、近いっす」

「あらいいじゃない、減るものじゃないんだし」

 

俺の精神的HPが減るんですよ。

 

 

 

 

 

 

結論、半分振り回されてました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は夏祭り

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