目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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執筆がクソ遅い……本当にすみません。15巻の発売に全然間に合わなかったぜ……。

今回書くの超絶難しかったです……。

初登場人物
犬飼澄晴
ムードメーカー。どう考えても二宮さんとあわなさそうな軽い性格をしているにも関わらず二宮隊のNo.2を務める銃手。チャラそうで軽そうな見た目とは裏腹に進学校に通い成績もそれなりでコミュ力も完備とよくよく考えるとハイスペックなやつ。意外と面倒見がいいのか香取隊の若村麓郎に射撃を教えたりしていてなんだかんだ頼れるやつ。八幡のことは二宮さん同様お気に入り。

辻新之助
原作では太刀川さんと忍田本部長くらいしかまともに使ってる場面が無かった旋空を無言無表情で使いまくる男。八幡が始めて辻を見た時イケメンリア充かと思ったら女性に対してはガチのコミュ障で女性に対しては八幡よりもコミュ障。リアクションが面白いという理由で夏希によく話しかけられて弄られていて、その度に精神的HPがごっそりもっていかれるかなりの苦労人。ただし、ひゃみさんだけは例外。

氷見亜季
とりまるファンの1人。八幡よりとりまる。とりまるにぞっこんだが八幡ファンの気持ちが全くわからないわけでもないらしい。でもやっぱりとりまるが一番。この作品の中では勝手に宇佐美と夏希と仲良しということにされている。そしてよくよく考えると二宮隊みんな成績割といいことに作者は気づいた。あだ名はひゃみさん。


27話 バカ騒ぎも、たまには悪くない。

「ん……」

 

朝日が昇り、その光で目がさめる。

時計を見ると、既に10時。早朝トレーニングを終えて二度寝したらこの時間。

 

「……腹減った」

 

早朝トレーニングの後、朝飯食って無かったから腹の虫がなる。

ダイニングに出ると、小町はいなかった。書き置きがある。

 

『お兄ちゃんへ

小町は一足先に佐々木さんのとこにいってます!1人が寂しいからって早くきちゃダメだよ!どんなに楽しみでも4時までは来ないでね!

 

S.P カーくんは小町といるから心配しないでね』

 

どうやら、俺の誕生日パーティーの準備に佐々木ハウスへ向かったようだ。カマクラは多分日浦あたりに頼まれたのだろう。さて、小町の行方もわかったしメシを食べよう。

 

 

それと、S.PじゃなくてP.Sだバカ。

 

 

 

 

「あっちぃ……」

 

窓開けても暑い。団扇つかっても暑い。保冷剤つかっても暑い。エアコンと扇風機は小町がいない時は使用禁止だ。電気代節約とはいえ、この扱いはぞんざいすぎじゃね?

しかし、この暑さはやばい。溶ける。目が腐る。あ、もともとか。

 

「……図書館行くか」

 

こんな時は図書館だ。涼しい、静か、本あるの三拍子揃った最強の空間。電気代節約にもなるし、時間も潰せるし勉強もできる。え?夏休みの宿題?もう終わった。

 

いざ行かん、図書館へ。

 

 

図書館で過ごして気がつけば、3時半過ぎ。

 

「もうこんな時間か」

 

本を閉じ、立ち上がる。

 

「ん、腹減ったな……」

 

結局昼飯食わないでずっと本読んでたから腹がすごく減っている。食費節約にもなるが、単純に面倒だったってのが大きい。加えてこれから佐々木メシも食える。

 

「んじゃ、行くかね…」

 

 

少しはマシになったとはいえ、相変わらずクソ暑い。珠のような汗が額から落ちる。

 

「やっとついた…」

 

佐々木ハウス到着。既に庭の方から騒がしい声が聞こえる。去年も同じような感じだったな。

インターホンを押すと、佐々木さんが出てきた。

 

「あ、比企谷くん。いらっしゃい。早かったね?」

「そすか?まぁ、お邪魔します」

「うん、上がって上がって」

 

ダイニングに来ると、既に何名か来ていて準備やらなんやらしてる。庭ではBBQの火起こししてる人もいる。火起こししてるのは出水と嵐山さん。佐々木さんとともに料理しているのは加古さんと綾辻と木虎。リビングで準備とかしてるのは黒江と時枝。太刀川さんと国近さんもいるけどゲームしてる。働け。ちなみにカマクラはソファーで丸くなってる。

 

「風間隊と那須隊、あと玉狛のみんなはもうちょっとしたら来るよ」

「そっすか」

「あ、あと二宮さん達も来るってさ」

二宮さん、今年も来てくれるんだ。

 

「あ、八幡くん」

「よお、綾辻」

 

綾辻はなんだかんだで毎年参加してる。小さいころから考えると一体何回めなんだろうな。あと挨拶するのはいいけど料理の方見ろ。

 

「あら比企谷くん、こんにちは」

「ども」

 

加古さんは作ってた焼きそばを大皿に盛りながら挨拶してくる。

 

「比企谷先輩、そこにいると邪魔です」

「…さいで」

 

なんで木虎のやつは俺にはやたらあたり強いんだよ。なに?俺のこと嫌いなの?

 

「おー比企谷来たか!」

「おーっす比企谷くん!」

「ども、太刀川さん、国近さん」

「おめーもやんねーか?カービ◯のエア◯イド!」

なんでそんな古いゲームやってんだ。いや名作だけど!

 

「太刀川さんはなんかやらないんすか?」

「あー?んなもん佐々木にやらせときゃいいんだよ。レポートもな」

 

この人、うちの隊員をなんだと思ってるの?

 

「えーっと、風間さんの番号は……」

「待て待て待て待て!やめろ!」

「うちの隊員を雑用係にするのはやめてください」

「んなかてぇこと言うなって!」

「あ、風間さん?」

「おい!」

「えーい」

「あ!おい国近てめー!人が見てないとこを狙うなんて卑怯だぞ!」

「余所見してる太刀川さんが悪〜い」

 

働けよあんたら……。

 

「おっ、比企谷。来たな」

「ども嵐山さん」

「おー比企谷!主役がこんな早く来ていいのか?」

「知らねーよ。おめーこそしっかり働け出水」

「んだとこのやろ!」

 

ヘッドロックをかけてくる出水。割といてぇな。

 

「出水くん、火起こし出来た?」

「あ、できましたー!」

「こっちもできたぞ琲世」

「よかった、ありがとう嵐山くん、出水くん。もうそろそろ風間さん達も来るからお肉焼こうか」

「おっ!肉キター!」

「太刀川さん、餅焼くの得意ですよね?」

「お?おお」

「お肉、焼いてくれますね?」

「あ?そんなもん佐々木が…」

「あ、風間さん?」

「おい待て比企谷!」

「また太刀川さんが佐々木さんに面倒ごと押し付けようとしてます」

『わかった。俺が着いたらまずバカをシメる』

「お願いします」

 

これでよし。いい加減学習してほしいですね、はい。

 

「佐々木さん、俺なんかやります?」

「君は主役なんだから好きにしてていいよ」

「じゃー比企谷くん、お姉さんとゲームしよっか」

 

勝てる気がしねぇからやりたくない……。(ちなみにこの時、綾辻、黒江、加古の3人が軽くムスッとしていた)

 

「サッサン、頼まれたやつ買ってきたぞ」

 

と、そこで扉が開く。入って来たのは影浦隊のメンバーだった。

 

「あ、影浦くん。よかった、ありがとう」

「おいカゲ!もうちょい荷物持てよ!男だろ!」

「知るか」

「まあまあ落ち着いてヒカリちゃん。量的にはゾエさんが一番持ってるんだから」

「うるさいよヒカリ。近所迷惑」

「うっせーぞゾエ!」

「あれ、なんかゾエさんだけ扱い悪くない?あ、サッサン。こっちは野菜で、こっちは追加のお肉。あとこれはジュースだよ」

「ありがとうゾエくん」

 

いやー菩薩2人の会話見てると癒されるわー。なんか謎の安心感があるな!

 

「あ、比企谷先輩来てたんだ」

「よお絵馬。おめーもやんねーか?」

「……じゃあ、やろっかな」

「お〜絵馬くんもやるかね?よしよし、ゲームは人数多い方が楽しいもんね〜」

 

絵馬がゲームやるとはちょっと珍しいな。

 

だがちょっとやって思った。絵馬、割とゲームうめぇ。なにこいつのワープスターの扱い。うますぎんだけど。

 

「お前、割とうまいな」

「そう?」

「お姉さんも気合が入るねー」

 

まぁ絵馬も中学生だ。ゲームができてもおかしくない。そこでカマクラが絵馬の膝にのる。なぜ飼い主でなく絵馬の膝にのるんだ。

ん?そういや……

 

「佐々木さん、小町は?」

「小町ちゃんは夏希ちゃんと一緒に買い出しに行ってもらってるよ。那須隊のみんなと合流して一緒に行動してるみたいだよ」

 

ああ、横山といたのか。そういや横山もいなかったな。

 

「じゃ、お肉焼こうか」

「こんな早く焼いていいんすか?」

「大丈夫だよ、まだ追加で小町ちゃん達に頼んでるし、足りなかったら買いに行けばいいしね」

 

そんなもんか。しかしないここで疑問が浮上する。というかある意味一番重要なことだが

 

「あの、そのお金はどこから?」

「ああ、参加するみんなから千円徴収してるんだよ」

「え、じゃあ俺は?」

「君は主役なんだからいらないよ」

 

ですよね。これで俺も千円徴収とか言われたら帰るとこだった。

 

「ちなみに太刀川さんだけ二万円」

「なに⁈」

 

どうやら太刀川さんは知らなかったらしい。

 

理不尽だ。

 

 

「お、お兄ちゃん来てたんだ」

「よお小町」

「よーっすハッチ。相変わらず腐った目してるね〜」

「ほっとけ」

 

小町と横山が帰ってくる。しかし横山、貴様隊長に向かってなんたる侮辱だ。いつものことだけど。

 

「あ、比企谷くん」

「お、比企谷」

「こんにちは比企谷先輩!」

 

那須隊のメンバーも到着した。……相変わらず志岐は来ないけど。

 

「よっす」

「なによ、こんな早く主役来ていいの?」

「いいんじゃね?細かい事は気にするな熊谷。ハゲるぞ」

「アホ毛ぬきとるよ」

「ゴメンナサイ」

 

切り落とすじゃなくてぬきとるのかよ……。

 

「落ち着いてくまちゃん」

「ヘーキよ、この程度で怒るほど器小さくないわよ」

「那須、今日は体調大丈夫なのか?」

「うん。今日は調子いいの」

「そーか」

「心配してくれた?」

「……別にしてねーよ」

「ふふっ、捻デレさん」

 

このやろう、師匠を弄ってそんなに楽しいか。

と、そこで背後に気配。黒江だった。

 

「こんにちは、八幡先輩」

「よ、黒江。来てくれてサンキューな」

「い、いえ。私も呼んでくれて嬉しいです」

 

……正確には、誘ったの横山なんだけどね。

 

「どうも比企谷先輩」

「おお時枝。お前も来たのか」

「ええ。先輩にはいろいろお世話になりましたし、来るのは当然です」

 

…寧ろ、うちの隊の方がいろいろとお世話になったような気がする。

 

「本当は柿崎先輩や諏訪さん達も来る予定だったんですけど、防衛任務で来れないそうです」

 

ザキさんまで来る予定だったのか。諏訪さんは前から聞いてたけど。

と、そこで再び扉が開く。入って来たのは玉狛と風間隊だった。

 

「すまない佐々木、比企谷。遅れた」

「あ、風間さん。大丈夫ですよ、今からお肉焼こうとしてたとこなのでまだ始まってないです」

「そうか、それはよかった。追加の肉だ」

「あ、ありがとうございます」

「じゃあとりあえず太刀川をシメるか」

「え、ちょ、待って風間さん話をァァァァァァ!」

 

……骨は拾っておくよ、太刀川さん。

と、そこで人影。玉狛のメンバーだった。

 

「おうひきがや。きてやったぞ」

「おお、陽太郎か」

 

相変わらず雷神丸(カピバラ)に乗ってる。ここに来るのもカピバラに乗るのかよ。

 

「おう比企谷、元気そうだな」

「ども、レイジさん」

 

相変わらずの落ち着いた筋肉っぷりだな。

 

「こんにちは、比企谷先輩」

「よ、烏丸」

 

もさもさしたイケメンも相変わらずもさもさしてる。……髪切れば?この時期は暑くないの?

 

「来てやったわよ比企谷!感謝しなさい!」

「へーへー感謝してますよー」

 

相変わらずうるさいな小南は。もう少し静かならかわいいのに。

 

「なんで棒読みなのよー!」

「うっせーな……。でも感謝してんのは本当だよ」

「べ、別にあんたの為に来たわけじゃないんだからね!」

「なんだそのツンデレのテンプレみたいなセリフは」

「うるさいわね!」

 

どう考えてもツンデレのセリフだろ。そういえばツンデレとテンプレってなんかにてる。

 

それと、来てくれたのは感謝はしてるが、もう少し静かにしてくれ。近所迷惑だ。一応ここ住宅街のど真ん中だぞ。

ギャーギャー騒ぐ小南を放置し、庭にでる。屍と化している太刀川さんをスルーし、佐々木さんの側に行こうとすると歌川と三上に会う。

 

「あ、比企谷くん」

「よ、三上。キャンプ以来だな」

「そうだね。あれからお互い防衛任務とかで忙しかったもんね。あ、お誕生日おめでとう」

「サンキュ」

「比企谷先輩、お誕生日おめでとうございます」

「おう、ありがとな歌川」

「いえ、今年も呼んでくれてありがとうございます」

 

なんだかんだでこいつらは知り合ってから毎年来てくれてる。いいやつらだ。菊地原?呼ぶわけない。

 

「弟達元気か?」

「うん、元気だよ」

「悪かったな、利用したりして」

「ううん大丈夫だよ。むしろ歌世なんて新しい友達ができて喜んでたくらい。この前留美ちゃんと遊びに行ってたくらい」

 

どうやら、それなりに仲良くやってるみたいだ。よかった、これでなんかトラブルあったら顔向けできなくなるとこだった。

と、そこで佐々木さんが肉やら野菜やらを焼き始める。

 

 

そろそろ始まりそうだ。

 

 

料理もそれなりに出揃い、肉もそろそろいい感じに焼けていい匂いがしてきた頃には空が赤くなり始めていた。

俺は出水や少し遅れてきた米屋、緑川の3バカと雑談していた。すると新たに客が来た。

 

そしてそれは……

 

「おーっす比企谷!誕生日おめでとー」

「あ、犬飼先輩」

「よう、比企谷」

「おっす辻」

「こんにちは比企谷くん」

「よ、氷見」

 

二宮隊のメンバーだった。そして予想通り

 

「……」

「どうも、二宮さん」

 

俺の師匠もいる。

……毎度思うけどこの人と宴会の雰囲気って全然あわねぇ。

 

「来てくれてありがとうございます」

「……大したことではない。予定が無かっただけだ」

「またまた〜去年も今年も比企谷の誕生日は絶対スケジュール空けといてるじゃないですか〜」

「犬飼」

「はい」

「黙れ」

「はーい」

 

恐らく、年下で二宮さんにこんな態度とれるのは犬飼先輩くらいだろう。この人コミュ力高すぎぃ!

 

「佐々木、差し入れだ」

「あ、ありがとうございます」

 

そうして二宮さんが差し出したビニール袋には、肉とジンジャエールが入っていた。相変わらずジンジャエール好きですね。

 

「じゃあ、そろそろ始めましょうか」

「お、漸くか!」

「じゃあ比企谷くん、こっちきて」

 

え、なんで?俺みたいなやつに公衆の面前に立たせるっていうのは公開処刑と同じことよ!やめて!そんな残酷なことしないで!魂吸われちゃう!

まぁ抵抗虚しくつれてこられちゃうのは去年と同じですねはい。

 

「じゃ、主役から一言」

 

は?

 

「主役なんだし、なにか一言くらい言おうよ」

「いやいきなりなに言ってるんすか。無茶振りにもほどが…」

「二宮さん」

「比企谷、いいからさっさといえ」

「すいませんいいます」

 

くそ、二宮さん出されたらなにも言い返せん…。

 

「え、えっと……その、俺の誕生日の為にここまでしてくれて……ありがとうございます。じゃあ……乾杯で」

「しまらねーなー」

 

うっせー。今までぼっちだった俺にいきなりこんなのはハードル高すぎんだよ。去年は色々やってくれたのになんで今年はこうなんだよちくしょう。

 

「ま、比企谷らしいけどな」

 

どういう意味だ出水。

 

「んじゃ、乾杯ー!」

『乾杯ー!』

 

最終的には太刀川さんがいうっていうね。

 

 

「八幡くん、はいお肉」

「比企谷くん、ジンジャエールよ」

「ねぇ比企谷くん、今度さ…」

「あの、八幡先輩…」

「比企谷くん、これなんてどうかしら」

「今度うちの作戦室で新しいゲームやろうよ比企谷くん〜」

「ちょっと比企谷聞いてるの⁈」

 

現在、周囲には美女の群れ。

 

どうしてこうなった。

 

最初、始まったばかりの時に綾辻が隣に来て雑談していた。そしたら那須もそれに加わる。そして知らぬ間に三上が来ていてそこにさらに黒江、加古さん、小南、国近さんが加わる。気づいたら美女が俺の周囲に集まっていたのだ。しかも心なしか雰囲気がピリついてる。なに?戦争なの?俺は獲物なの?

 

誰かに助けてほしいが、誰も助けてくれそうにない。一番助けてくれそうな佐々木さんは熊谷と嵐山さんと雑談してるし。

 

なんだよこれ。いくら誕生日で主役だからといってここまでして俺と話すこともないだろ!

 

「………」

 

とりあえず肉をかきこむ。あの佐々木さんが焼いた肉だ。いい匂いを漂わせてるぜ。

 

アーオニクオイシイナー。

 

現実逃避だって?知ってるよ。そうでもしなきゃやってらんねーよ。いやほんとマジで助けて。

 

「八幡くん?」

「え、あ?」

「どうしたの?顔色が優れないけど」

 

いや貴方達のせいですよ綾辻さん。別に美女に囲まれるだけならいいんだ。俺はこの場の謎のピリついてる空気に胃をやられてるんだよ。あんたらそんな仲悪かったっけ?

 

「どうしたの比企谷くん」

 

加古さん近い。ほんとに近い。髪が顔にあたってるよ。あ、いい匂いする。

しかしこの状態の加古さんは色々とまずい。まず単純に近い。それにお酒が少し入ってるからか、ほんのり顔が赤くそれがやたら艶かしい。全力で目を背けると今度は顔に手を添えてくるし。

 

「ふふっ、恥ずかしがり屋さんね」

「……………」

 

近い近い近い!逃げ出したいけど周囲は囲まれてるから逃げれない!誰かー!誰か助けて!

 

それと綾辻、なんかムスッとした顔で俺の腕を強く握るな。少し痛いぞ。那須、反対側の手を握るな。三上、お前も近いから。黒江、加古さんみたいに俺に近づくな。国近さん、そのマウントフジを背中に押し付けないで。小南、なんだかんだでお前も近いからな。

 

なんなの君たち、パーソナルスペースってのがないの?このままだと俺の心臓がもたん。顔も熱いしこのままではオーバーヒートしてしまいそうだ。

とりあえず手元にあったジンジャエールを一気に飲み干す。程よい刺激と甘すぎない味が喉を通りすぎ……

 

ん?なんか、違和感?

 

あれ?ジンジャエールってこんな味だったっけ?

 

ぐにゃりと曲がる視界。遠くなる耳。

 

 

あれ、なんだこれ……。

 

 

 

最後には、俺の視界は暗転してしまった。

 

 

琲世side

 

主役が唐突に倒れてしまった。周囲にいた女性陣が一斉に駆け寄るが

 

「ふにぇぇ…」

 

変な声を出しながら比企谷くんは目を回し眠っていた。

 

どうしたのだろうと僕は近寄ると、比企谷くんからほんのりとお酒の匂いがする。加えてこの独特な匂いは太刀川さんが飲んでるウィスキーと同じだ。

 

……どうやら彼は間違えて太刀川さんが持ってきたウィスキーのジンジャエール割りを一気に飲んで倒れてしまったようだ。意外にも彼はお酒に弱いらしい。

 

「あ、これお酒だ…」

 

ジンジャエールを持ってきた玲ちゃんは比企谷くんが飲んだコップに僅かに残った琥珀色の液体の匂いを嗅ぐとそう呟く。その顔は少し申し訳なさそう。

しかし、ここで疑問に思うのはあの冷静な玲ちゃんが色が似てるとはいえジンジャエールとお酒を間違えるだろうか。そもそもウィスキーは原液でしかないのになぜジンジャエール割りがあったのだろう。

 

そしてその答えは直ぐに出てきた。

 

「あれ、比企谷寝ちゃった?」

「やっぱり貴方ですか太刀川さん…」

 

やはりウィスキーを持ってきた張本人が犯人だった。

 

「もーなにしてるんですか」

「いやー比企谷に酒飲ませようとしても絶対拒否るだろ?だからこうでもしなきゃ飲まないかなーって」

「そもそも比企谷くんまだ未成年ですよ」

 

いうなればまだ高校生だ。ウィスキーはさすがにキツイだろう。

 

「かてぇこと言うなよ佐々木、祝いの場なんだしよ。それに一杯くらいならへーきだろ。ジンジャエールで割ってるし。……ま、この弱さは正直予想外だったけどな」

「……」

 

この人は本当にもう……。

 

この様子だと比企谷くんは当分起きないだろう。仮に起きても二日酔い状態になっててまともに動くことはできないはずだ。

 

僕は彼をおぶさるとクーラーの効いてるリビングのソファーに寝かせた。寝顔は苦しくなさそうだし、倒れ方からして急性アル中ではなさそうだ。近くの机に水を置き、僕はみんなのとこに戻った。

 

 

 

 

 

そしてその後、彼に惚れてる女性陣が彼を膝枕するために軽い争いを始めてそれを仲裁するのにものすごい労力を要したのはまた別の話。

 

 

 

 

「ん……」

 

目が覚める。知らない天井、ではなかった。代わりに

 

「あ、八幡くん起きた?」

 

綾辻の顔があった。

一応言っておくが膝枕ではない。ただ覗き込んでるだけだ。

 

……そして頭が痛い。ガンガンする。

 

「……頭いてぇ」

「お酒飲んじゃったみたいなの。はい、お水飲んで」

 

なんで酒?最後の記憶は………ジンジャエール飲んだとこまでだ。そこから先がわからん。

 

「ジンジャエール、飲んだとこまでしかわからん…」

「そのジンジャエールがね、ウィスキーだったの。太刀川さんがすり替えたみたいでね」

 

あのヒゲ野郎、なんてことしてくれたんだ。今度ランク戦やる時はハチの巣にしてやる……と、言いたい所だがそれができないんだよなぁ……。

綾辻からもらった水を一気に飲み干す。冷たい感覚が喉を通り抜ける。

 

「はぁ……」

「大丈夫?」

「なん、とか…」

 

俺、酒弱すぎ…?

いくらウィスキーの度数が高いとはいえ、ジンジャエールで割ったやつだ。一杯でダウンは弱すぎる。俺は成人しても酒は飲まない方がいいか。

 

「あ、比企谷くん起きたね」

「……佐々木さん。すんません」

「いいよ。何事もなさそうでよかった」

 

いや、頭めっちゃガンガンするんですけど。

 

「太刀川さんは風間さんがシメてくれたから」

 

ナイス風間さん。

 

庭の方をみると、みんながワイワイしてる。空もすっかり暗くなってる。時刻は8時くらい。どうやらかなり長く寝てたようだ。

 

「あ、八幡先輩。大丈夫ですか?」

「…おお黒江。心配かけたな」

「いえ、何事もなくてよかったです」

 

中学生にまで心配されるとはな……。

 

しかし、せっかくの俺の誕生日だ。もう少し楽しみたい。

庭に出ると、太刀川さんが酔いつぶれて死んでる。また風間さんにシメられるな。

 

「あら比企谷、起きたのね」

「おお小南」

「何事もなさそうね」

「…頭めっちゃガンガンするけどな」

「無理しちゃダメよ」

「小南が優しいだと?」

「真っ二つにするわよ」

「お前の場合シャレにならんぞそれ」

「頭痛いなら水分とりなさい。ほら、ア◯エリアスよ」

 

小南が優しい。二日酔いってすげぇ。

 

「おっ、比企谷。もう大丈夫なのか?」

「嵐山さん、もう大丈夫です」

「そうか、よかった。でも無理はするなよ」

「はい」

 

そういいながらジンジャエールを渡してくる。今度は普通のジンジャエールだ。あー、ジンジャエールってうめぇ。

 

「よーっす比企谷、起きたー?」

「あ、ども犬飼先輩」

「突然ぶっ倒れるからびっくりしたよ」

「はぁ、すんません…」

 

いや本当に申し訳ない。悪いの全部太刀川さんだけど。

 

「おーっす比企谷、起きたなー」

「おお、米屋」

「ほれ、これでも食え」

 

そういって差し出されたのは、肉。

しかしなぜだ。これにはアルコールとか入ってないはずなのに俺のサイドエフェクトがガンガンに警告を発してる。二日酔いのせいでサイドエフェクト誤作動してるのか?

まあ肉だし、イタズラのしようがないはずだよな。一口…

 

「……ごっふぁ▲○%#$€¥♪<>°*⁈」

 

途中自分でもなに言ってるかわからなくなってる。

肉を口にいれ数回噛むと、遅効性で口内に広がる謎の味。それは気付けば激痛に変わっていた。

 

「あっはははは!引っかかったー!」

「おっおぶっ!」

 

このやろう、肉にタバスコかけやがったな!

嵐山さんからもらったジンジャエールを一気に飲み干すが、炭酸は逆効果だったのか余計刺激が強くなった。でも幾分かはマシになった。

 

「米屋ぁ…」

「お?」

「出水、その槍バカを抑えろ」

「はいよ」

そういって出水は米屋を押さえつける。

 

「えっちょ!」

「さあ、お前もたっぷり味わえ。タバスコ肉をな!」

「ま、まて!落ち着け早まるな!」

「問答無用!」

「あっごっふぁあば○%#$€¥♪<>°*」

 

ざまぁねぇな!

 

「やりやがったな比企谷!」

 

いたいからヘッドロックかけんな槍バカが!

気付けば出水や緑川や犬飼先輩も一緒になってじゃれあっていた。俺らは子猫か。

 

こうやってみんなでバカやって騒いでる時は素直に楽しいと思えた。

 

じゃれあいながらふと視線を動かすと、レイジさんや風間さんと一緒にいる二宮さんと目が合う。

「うるさい」とか言われて怒られるかとビクったが、二宮さんはわずかに微笑むと「気にするな」と言うように少しだけ首を振った。

 

 

二宮さんが笑うのは、すごい久々に見た気がした。

 

 

ひとしきりバカ騒ぎし、気付けば夜9時。

 

「あー疲れた」

 

緑川は疲れて寝てる。カゲさん達は明日防衛任務が朝からあるからといって帰り、嵐山隊のメンバーもそれに続いて帰った。那須達は今日那須の家に泊まるらしく、それに小町とカマクラもついて行った。風間さんは太刀川さんを連れて帰り、歌川と三上も家族が心配するからといって帰った。国近さんも太刀川さん達と帰った。

そして玉狛もこれから帰るところのようだ。陽太郎はもう眠っていてレイジさんにおぶってもらってる。本当に父親に見えるぜ。

 

「じゃあ比企谷、佐々木。俺たちはそろそろ帰る」

「お疲れ様でした木崎さん」

「お疲れっしたレイジさん」

「おう」

「じゃあ比企谷先輩、佐々木さん、また」

「おう」

「またね、烏丸くん」

「お疲れ様でした佐々木さん。じゃーまたね比企谷」

「お疲れ様、桐絵ちゃん」

「またな、小南」

「今度玉狛に来なさい。また勝負よ」

 

マジでかー……。

玉狛が帰るとだいぶ静かになる。今いるのは寝てる緑川と出水、米屋。あと加古さんと黒江、二宮隊だ。

 

「だいぶ静かになったなー」

「そうだな。騒いだ後だから謎の哀愁があるな。出水は帰んねーのか?」

「俺と米屋と緑川は今日はここに泊まんだ。どーせお前も泊まるんだろ?」

「まーな」

 

米屋はまだ起きてるけど緑川は完全に寝落ちしてるから泊まり確定だな。

 

「片付けもあらかた終わったようだから、俺たちも帰る」

「あ、二宮さん帰りですか?」

「ああ、辻が疲れ切ってるしな」

「………」

 

うーん、辻が疲れ切ってるのは絶対うちのオペレーターが原因なんだよなー…。横山、あまり辻をいじめてやるな。結構本気でげっそりしてるから。

 

「なんか、すんません……」

「いい。お前のとこのオペレーターはじゃじゃ馬だからそれくらい大目に見てやる」

「えーあたし超優等生じゃないですかー。ねー辻ちゃん?」

「………」

「やめろ横山、それ以上は辻が死ぬ」

 

やめたげてよぉ!それ以上は本当にかわいそうだからやめたげてよぉ!

 

「相変わらず夏希ちゃんは天真爛漫だねー」

「犬飼先輩もですけどね〜」

 

この2人、妙に息合ってるな。

 

「じゃあ帰る」

「あ、あの二宮さん」

「なんだ」

「今日は、ありがとうございました」

「……フン」

 

そして二宮さん達は帰っていった。

 

「私達もそろそろお暇するわ」

「そうですか、お疲れ様でした望さん、双葉ちゃん」

「お疲れ様でした、佐々木さん、八幡先輩」

「おう、今日はありがとうな」

 

そういって黒江の頭を撫でると黒江は顔を赤くした。やべ、条件反射でやってしまった。

 

「あ、わり」

「い、いえ。大丈夫です」

「双葉、そろそろ行くわよ。またね、比企谷くん」

「あ、はい。ありがとうございました」

 

加古さん達も去り、これで残るは3バカとうちの隊だけになった。

 

「あ、そうだ比企谷くん、夏希ちゃん」

「はい?」

「なにサッサン」

「今度夏祭りあるでしょ?」

 

あー……そういやあったな。昔は綾辻と何度か行ったな。ボーダー入ってから一回も行ってねーや。

 

「その夏祭りでね、月山さんが出店出すんだって」

「げっ、嫌な予感」

「それで僕その手伝いに行くことになったんだ。よかったら2人もやらない?」

「バイト代は?」

「もちろんでるよ」

「……接客やんなくていいならいいっすよ」

「ずっと焼きそばとたこ焼き作ってることになるけどいい?」

「あたしはオッケー」

「俺も」

「じゃあ決定だね。月山さんに連絡しておくよ」

 

あの変人と関わるのは正直乗り気ではないが、バイト代でて接客やんなくていいなら問題ない。

 

「おっ、なにそれ面白そーじゃんかサッサン」

「あ、米屋くんと出水くんもやる?」

「面白そうだからやってみていいか?」

「うんいいよ。月山さんには僕から連絡入れとくね」

「よっしゃ!」

 

こうして夏祭りの俺の予定が決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は会話ばっかでしたね。


次回は夏祭り







と、思うじゃん?


残念、加古さんとのデートだ。

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