目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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今回、名前のないモブが少し出てきます。
レポートづけにより投稿が遅れる……。おのれぇ……

しかもタイトルがぁ……。

なんか最近、ちゃんと書けてるか不安しかない……


24話 世の中気がついたら、なんてことはよくある。

時刻は夜。

 

「よーし!今から肝試し大会を始めるぞー!」

 

小町がマイクを片手に化け猫コスプレのままハイテンションで実況的な何かを始める。なぜかかつて報道ス◯ーションやってた人メガネのハイテンションな人を思い出した。

 

「じゃあ最初に行くのは〜……この組みだー!」

 

適当に指した組が森へと入っていく。ちなみにお化け役をやってるのは戸塚、由比ヶ浜、雪ノ下、奈良坂、米屋、佐々木さん、綾辻、三上だ。他はそのサポートだ。俺も含めて。

 

「大丈夫かね〜」

「さぁな」

 

出水の疑問に対しては、本当にこれしか言えない。うまくいく保証なんぞどこにもないし。失敗したならしたで、しょうがないのかもだけど。失敗するかどうかは、その時になってみないとわからない。

 

 

回想

 

「比企谷の案……?」

「何か思いついたのかしら、比企谷くん」

「まぁ、一応」

「それは一体どんな案なんだ?」

「まぁ順番に説明してく。まず今回の問題点はなんだ?」

「……留美ちゃんが一人でいること?」

 

由比ヶ浜の答えは間違っちゃいない。だが、それだけではだめだ。

 

「別に一人でいるだけなら問題じゃない。俺だって学校だと一人だし」

「あなたは一人でいる以外の選択肢がないのでしょう?」

「それブーメランだからな?それに俺はクラス以外なら友達いるし」

 

話の腰を折りやがって。今のは例えだろう。そこ突っ込むなよ。

 

「今回の問題点は『鶴見が悪意によって孤立させられてる』ことだ」

「……なるほど、そういうことか」

 

さっきも言ったが、別に本人が望んで一人になっているだけならなにも問題ない。だが鶴見はそうではない。完全に不本意でああなっている。だからこそ問題になっているんだ。

 

「では問題です。この問題を解決するにはどうすればいいでしょうか?」

「それをハッチがこれから言うんじゃないの?」

「俺が言うのはあくまで過程だ。今聞いてるのは最終的な結論のことだ」

「……やっぱり、みんなで仲良くするのが」

「お前学習能力ないの?それはムリって散々言ったろ」

「………じゃあ、一部の人と仲良くするの?」

「それもムリじゃないかしら。あの子、一度拒んでるのだし」

 

その通りだ雪ノ下。鶴見は一度救いを拒んでる。だから何もせず救われるなんてことは絶対にない。

 

「まぁ、概ね由比ヶ浜のであってる」

「どーいうことだ?」

「簡単にいや、味方を作るってことだ」

 

あいつは一人が嫌だと言った。なら味方を作れば問題は解決する。考えてみりゃ簡単な話だ。まぁ、それをどうすればいいのかはまた別だが。

 

「で、それはどうするつもりなのかしら?」

「確かに。さっき言った通りそもそも話しかけることそのものがハードルが高いぜ」

「その通りだ出水。話しかけることそのものが難しい。ならどうするか?話しかけなければいい」

「比企谷、それ矛盾してない?さっき自分からいかないとムリだって言ったじゃん」

 

なんだかんだでいいカンしてるな小南。

 

「そうだな、その通りだ。なら、話さなきゃいけないような状況にすればいい。それも、鶴見の味方になってくれるような人間とな」

『?』

 

こればっかりは、実際に見せなきゃダメかね。

 

 

続々と森に入っていく小学生達。小町には鶴見のグループともう一つのある人間がいるグループだけは残すように言ってある。

俺もそろそろ持ち場へ行こう。

 

ーーー

 

「どーだ様子は?」

「おー比企谷。いやー予想以上に怖がってるぜ、サッサンのあのコスプレに」

 

おお……。俺もぶっちゃけ怖いと思ってたけど小学生が見るともっと怖いのな。

 

「他は?」

「綾辻と三上のコンビもなかなかだぜ。あの暗闇で美人が満面の笑みしてると逆に怖いんだとさ。あと雪ノ下も地味に怖がられてる。そんで地味にそのことに凹んでる」

 

なんでだよ。

 

「戸塚はまぁ知っての通り肝試しの最初の説明のとこ。由比ヶ浜は…………なんか……全然怖がられてなくてかなり凹んでる」

 

…………。

 

「お前は?」

「俺か?怖がられたり、怖がられなかったりだな。出口あたりで急に『と、思うじゃん?』って言うだけだけどな」

「そーか」

「んで、例の件は?」

「ああ、それなら……」

 

その言葉と同時にスマホが振動する。

 

『いくよー』

 

「開始の合図だ」

 

さて、どうなることやら。

 

 

「意外と暗いねー」

「ねー。でも大したことなさそう」

「あーそれ思った。最初のお姉さんの他に誰も出てこないし」

 

現在、鶴見留美を含めた5人の小学生は肝試しの行われる森の中を歩いている。留美を除く4人の小学生は留美より少し先を歩いている。

 

(………)

 

いつも通りの光景である。

 

パキッ

 

そこで唐突に小枝を踏む音が聞こえる。

 

「え、今なんか聞こえなかった?」

「き、気のせいだよ」

「そうだよ」

 

こんな状況であるため、些細な音でも反応してしまう。

 

パキッ

 

『ヒッ!』

 

今度ははっきり聞こえたようで留美を除く全員が反応する。留美も反応はしているが声は出てない。

 

「や、やっぱり今!」

「で、でもお兄さん達だから大丈夫だよ」

「そ、そうだよね……」

 

「本当にそうかな?」

 

全員が一斉に振り返る。そこにいたのは白髪に歯茎のようなデザインがあり、さらに右目を眼帯で隠している。服はボロボロで裸足、手には血糊のついたナイフ。爪は黒くなっている。

 

「さぁ、君たちは無事にこの森を抜けられるかな?」

 

男の低い声はこの状況だと予想外にくるものがある。小学生ならなおさらだ。

 

「で、でもただの肝試しなんだし」

「大丈夫だよね」

 

その瞬間、彼女たちの顔の横を何かが横切った。そして何かが木に刺さる音もする。

怖る怖るそこを見ると、コウモリがナイフに突き刺さっていた。

 

「次は、誰がああなるかな?」

『キャアアァァァァァァ‼︎』

 

少女たちは一斉に逃げ出す。もちろん留美も。

しかし

 

「あっ!」

 

何かが足に引っかかり転んでしまう。何が引っかかったかを確認する余裕も今の留美にはなかった。そして先ほどまで一緒にいた少女たちは既に視界から消えていた。

 

(暗い怖い早く逃げなきゃ!)

 

あの白髪の男はやばい。小学生ながら本能的に危険を察知した留美はあの男から離れることを最優先に考えた。

しかし、男との距離は大したものではなかいのにも関わらず男は何もしてこない。距離的にはすぐに襲ってきてもおかしくはなかった。だがなにもしてこない。後ろを振り返ると、そこには誰もいなかった。

 

(あれ、さっきまでいたのに……)

 

周囲は草むら。人が通れば必ず音が出る。加えて道も少しぬかるんでいるため、人が歩けば足跡が残る。なのに足跡は男が立っていた場所の一つしかない。

 

(本当におばけだったのかな……)

 

男がいなくなったことによりわずかに安心するが、同時に暗闇に一人取り残されたことへの恐怖が生まれる。

 

(一人だと、怖いな……)

 

誰でも暗闇に一人取り残されれば怖いだろう。人は闇を恐れるものだから。

だがそこで人の話し声が聞こえてくる。恐らく後ろの組だろう。

 

「あれ、留美ちゃん?」

 

来たのは、三上歌世を中心とするメンバーだった。

 

「大丈夫?転んだの?泥だらけだけど」

「う、うん。驚かされてびっくりして転んじゃった」

「他の子は?」

「……………先に行った」

 

当然だ。孤立させられている人間を待つ人など誰もいない。

 

「そっか。じゃあ早くいこ」

「……え?」

「ここ、暗くて怖いから早く抜けたい!」

「あ〜歌世ちゃん怖いの〜?」

「こ、怖いよ」

「怖がりなんだから〜」

「むー!怖いものは怖いの!ほら早く!」

 

歌世は留美の手を取った。

 

「あ……」

「ほら早く早く」

「………」

「? どうしたの?」

 

留美は手を取られたまま俯いて何も言わない。

 

「………先に行っていいよ」

「え?一人だと怖いよ?」

「………」

「あ……もしかして……」

 

今の留美を助けることは次に彼女らが孤立の被害にあう可能性がでてくるということだ。そしてそのことを歌世たちは敏感に感じ取った。

 

「だから……みんなは……」

 

自分のせいで彼女らまで被害にあうのは嫌だった。留美は八幡が思った通り根は優しい人間だった。

 

「もー限界!」

「え?」

「留美ちゃんはどうしたいの?」

「え、え?」

「一人でいいの?一人がいいの?」

 

予想外の展開に留美は少し混乱する。だが、その問いの答えは既に決まっていた。この状況と自身の精神状態で同じ誤ちをするほど留美は頑固ではない。

 

「……嫌だ。一人は、嫌だよ……」

「…うん、わかった。私たちは留美ちゃんの味方だからね!そうだよね?みんな」

「うん!」

「もう大丈夫だよ」

「でも、私たちも謝らなきゃだね」

「え?」

「留美ちゃんのこと、助けに入れなくて………ごめんね」

「……そうだね。………その、私も怖かったの。ごめんね」

 

怖かった。そう言った。なのに、それなのに手を差し伸べてくれるというのだ。

 

「でも、そしたら今度はみんなが……」

「ならその時は留美ちゃんが私たちの味方になってよ」

「え?」

「それなら問題ないでしょ?だから早くいこ!」

「あー歌世ちゃんやっぱり怖いんだ」

「むー!もういいでしょ!」

「もー怖がりなんだから〜」

 

少女たちは留美の手を取り駆け出した。それに引きづられるように留美もそれに続く。

一度拒んでしまったのに、それでもこちらが助けを求めれば助けてくれる人はそういない。彼女は運が良かったのだろう。それは間違いない。だが、この状況になったのに少し違和感を感じる。まるで仕組まれたような、そんな感じがしていた。

 

(もしかして……)

 

留美の脳裏に一人の高校生の姿が浮かんだ。それはあの目が腐ってる斜に構えているボーダー隊員として来ていた姿だった。

 

 

 

そして肝試しが終わる頃には、留美は歌世たちと普通に話せるようになっていた。

 

 

どうやら、無事解決したようだ。歌世に引きづられるように歩く鶴見をみて俺は小さく安堵の溜息をついた。

 

「お疲れ様」

 

後ろを見ると、先ほどまでと同じ格好をした佐々木さんがいた。……うん、怖いからそのマスクやめよ?

 

「すんません、嫌な役やらせて」

「お化け役なんだし、そんな嫌でもないよ」

 

佐々木さんの手には、先ほどまで木にささっていたコウモリのおもちゃと血糊のついたナイフを持っていた。どうやら回収してきたらしい。

 

「解決、したみたいだね」

「とりあえずですけどね。今後どうなるかはわかりませんよ」

 

さすがにそこまで面倒は見れない。

 

結論を言うと、俺がやったことは話が自然にできるようにしただけだ。今の鶴見の状況ならとんでもなく恐ろしい目にあえば他のメンバーは間違いなく鶴見を置いていく。そしてその取り残された状況に三上の妹を中心としたメンバーを投入。そして三上から聞いた話だと妹は暗いのがとてつもなく苦手らしい。取り残された鶴見を三上の妹がほっといて行くはずがない。なら三上の妹と鶴見を合流させて一緒に行かせようということだ。ただ、最後の方のあれは少し予想外だった。三上の妹は予想以上にいいやつだったということだ。

ちなみに鶴見を転ばせたのは俺と奈良坂だ。鶴見の足元にタイミングよく紐を張ったのだ。そして佐々木さんの移動はテレポーターだ。

 

「じゃあ、戻ろうか」

「ええ」

 

とりあえず俺の仕事はこれで終わりだ。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ比企谷くん」

「はい?」

「今回トリガー使ったけど、これで降格とかないよね?」

「……………無いとは、言えません」

「oh………」

 

その後、忍田本部長にうちの隊全員呼ばれて正座させられタイガー腕組みしながら40分以上説教されたのはまた別の話。降格とかはなかったからよかった……。

 

 

「あー疲れた……」

 

階段に腰を下ろして週末のサラリーマンみたいな声をだす。我ながらおっさん臭いと思う。でもそうでもしなきゃこの疲労感をどうにもできない。

 

「やあ比企谷」

「あ、どうも平塚先生」

 

今疲れきってるからできればほっといて欲しい。

 

「どうやら、無事解決したみたいだな」

「……無事かは元の生活に戻ってからわかることですよ」

「それもそうか。私は、もしかしたら予想の斜め下のやり方をするのではと思っていたから少し心配していたよ」

 

なんでだよ。なんで俺はそんな非道な人間に思われてるんだよ。……まぁでもそういうのもあったんだけど。

 

「ぶっちゃけ、そういう案もあったんすけどね」

「なに?」

「真っ先に自分の中で却下しましたけど」

「そうか。それをしただけ君は成長したのだろうな」

 

成長、というのだろうか。よくわからない。

 

「まぁ今回はよく頑張ったな。例の対戦は君に加点しとくよ」

 

全然嬉しくねぇ。

 

「とにかくご苦労だったな」

「うす」

 

そう言って平塚先生は去って行った。

すると小学生達のキャンプファイアーが終わり、小学生達が宿舎へと戻っていく。鶴見は三上の妹達と少しぎこちないながらも話している。どうやら問題なさそうだ。……と、そこで鶴見が俺の前で止まる。そこはスルーしとけよ……。

 

「あ、歌世ちゃん。少し先行ってて」

「あ、うん」

「………ねぇ」

「……」

「もしかして、八幡が仕組んだりした?」

「さぁ?なんの話だ?」

「………そう」

 

それだけ言うと鶴見は歩き始める。

 

「ありがと」

 

その言葉が聞けただけ、よしとしよう。

 

ーーー

 

キャンプファイアーの後片付けも終わり、広場は静かになった。謎の寂しさがあるな、こういうの。

 

「八幡くん」

 

そこで綾辻に声をかけられる。そして俺の隣に座る。……ちょっと近くない?

 

「お疲れ様」

「そっちもお化け役お疲れさん」

「みんな意外と怖がってくれてよかったなー。歌歩ちゃんも怖がられてた。妹ちゃんがすごく怖がっててかわいかったなー!」

 

綾辻は綾辻で楽しんでたみたいだな。

 

「……終わったみたいだね」

「まぁ、な」

「私ちょっと安心したんだ。八幡くんが昔みたいなことしないでくれて」

「………もうしねぇよ」

 

もう、しない。ああいうことやって救われる人間がいないことを俺はよく知っている。

 

「えい」

「いだだだだ」

 

ちょっと、頬引っ張るのやめて。いたいから。なんなんだよ、とジト目を綾辻に向けると微笑みながら返される。

 

「ちょっとやってみたくなっただけー」

 

理不尽だ。

 

「………そういうのわかるのに、なんで気づかないかなー」

「あ?」

「なんでもなーい」

 

なにこの子、反抗期?

 

「あ、ヒッキーいた!」

 

すると由比ヶ浜とその他がこちらに向かってくる。

 

「花火やろ!」

 

大量の花火を持って。

 

ーーー

 

「わー!ゆきのんみてみてー!」

「由比ヶ浜さん、そんなにもっと危ないわよ」

「おーこれ威力つえーな!」

「米屋、あまりやり過ぎるなよ」

「おっ、ロケット花火もあるな!」

 

俺を除いた全員が花火で盛大に盛り上がっている。俺は疲れたからパスと言って、ヘビ花火を眺めている。これ、よく見たら犬の糞そっくりだよな。

ヘビ花火に対してなかなか酷い偏見を抱いていると、葉山がマッカン持ってきた。ほう、俺のソウルドリンクを理解しているとはなかなかやるな。

 

「今回は、助かったよ。無事解決してよかった」

「そーか」

「……なぁ、一つ聞いていいか?」

「お好きに」

「もう一つの案って、どんなのだったんだ?」

「………お前が思ってる以上に嫌な案だぞ?」

「構わないよ」

「………簡単に言えば、鶴見の人間関係をぶっ壊す案だ」

「え?」

「人間みんな自分がかわいい。だから他人を蹴落とそうとしてでも助かろうとする」

 

例を挙げると、誰か二人が小学生を脅す。助かりたければ3人残れ。そういえば誰かを生贄にしようとする。そうしたら今後の人間関係はどうなるだろうか?少なくとも以前と同じとは言えないはずだ。そうすればみんなぼっちになる。ぼっちしかいなければぼっちはいなくなるということだ。……え?ぼっちはぼっちだって?ほらアレだ、みんながバカになればバカはいなくなるってやつだ。え?違う?

 

「そういう考えか。彼女が君を気にかける理由がわかったよ」

 

彼女?

 

「なぁ、俺とヒキタニくんが同じ小学校だったらどうなってたと思う?」

「お前の学校にぼっちが一人増えるだけだ」

「そうかな?俺は、いろんなことが違う結末になったと思うよ」

 

どうだろうな。そんなたらればの話、今しても意味はない。それに葉山の学校で何があったかなんて更にどうでもいい。

 

「でも……比企谷くんとは仲良くできなかっただろうな」

 

…………。

 

「……冗談だよ」

 

それだけ言うと、葉山はみんなのとこへと戻っていった。

 

「ほんとつまんねー嘘つくな、お前」

 

俺の呟きは、皆の歓声に掻き消された。

 

 

二泊三日というのは思いの外早いものだ。もう帰る朝になってしまった。別に名残惜しくはない。ただ思いの外疲れた。それだけだ。

 

「よし、忘れ物はないか?二泊三日ご苦労だった。ボーダーの諸君、いろいろと協力感謝する。じゃあ乗り込んでくれたまえ」

 

ーーー

 

「よお比企谷!」

「諏訪さん」

 

なんで諏訪さん?

 

「佐々木も疲れてるだろうからよ、帰りは俺が運転して帰ることになったんだ!」

「あ、そうなんですか。正直ありがたいです」

 

そういや佐々木さん、昨日も平塚先生の代わりに見回りしてたな。マジでご苦労。というかあの人も教え子に仕事押し付けんなよ。

 

「東さんも来てるぜ」

 

往復ご苦労様です……。

 

「よし、じゃあさっさと乗り込め!帰るぞ!」

 

 

「ん……」

「よお、起きたか比企谷」

 

目が覚めると東さんが運転していた。ああ、車乗ってすぐ寝ちまったのか。後ろを見ると綾辻、三上、小南が寄り添い合って寝ていて、その後ろには佐々木さんと奈良坂がいる。佐々木さんは寝ていた。奈良坂は寝ていないが、外を眺めている。

 

「どうやらいろいろとお手柄だったみたいだな」

「なんで知ってるんすか」

「奈良坂が教えてくれたよ」

 

奈良坂……余計なこと言わんでいいわ。

 

「随分変わったのな」

「はぁ……」

「昔のお前なら、そんな解決方法しなかっただろう。自分に泥被せて解決、なんてことしかねなかった。そうだろ?」

「………」

 

否定できない。なにせ今でもそういう方法も思いついてるのだから。

 

「俺って、昔そんなやばそうなやつでした?」

「そうだな、少なくとも二宮に弟子入りするまではやばそうなやつがいるとは思っていた」

「マジすか……」

「余裕がなさそうだったな、常に。なかなか酷い目してたぞ〜」

 

そんなにやばかったのね、俺の目。今でも腐ってるし。

 

「なぁ奈良坂、昔の比企谷はなかなか酷い顔してたよな」

「そうですね、三輪より酷かったかもしれませんね」

 

そんなに⁈

 

「今の方がいいぞ」

「……そっすか」

 

そんなはっきり言わなくても……。ちょっと恥ずかしいんですけど。

 

「あ、それと」

「はい?」

「なんか、最後いろいろあるらしいから総武高校で解散らしい」

 

えー

 

 

「よし!全員揃ったな!じゃあ家に帰るまでが遠足だからな!解散!」

 

これ、遠足だったの?とても遠足とは思えなかったけど……。ああでも小学生からしたら遠足なのか?

 

「ふー……、帰るか小町」

「ほいよ」

 

各々帰りの準備を始める。すると一台の黒塗りの車が総武高校前に止まる。………どっかで見覚えがあるな。まさか……

そこから降りてきたのは、雪ノ下姉だった。

 

「ハァーイ雪乃ちゃん」

「……姉さん」

「お、隼人も久しぶり」

「お久しぶりです、陽乃さん」

 

………なんか面倒事がある前にとっとと帰ろう。としたのはいいのだが、案の定見つかった。

 

「おお!比企谷くんじゃーん。デートかこのこの!」

「………」

 

ガンガン胸板やるのやめてくれませんかね?痛いしなんか視線がやばいんだけど。

 

「あ、あのヒッキー嫌がってますから!」

 

由比ヶ浜よ、助けに入ってくれたのはいいがそれは悪手だ。この人は下手に関わらないのが正解だ。

 

「ん?あなたは、比企谷くんのなに?」

「ヒッキーのクラスメートの由比ヶ浜結衣です!」

「クラスメート……」

「はい!」

「なーんだそうなんだ!比企谷くんの彼女だったらどうしようかと思ったー!それは雪乃ちゃんのだから手を出しちゃダメだよー?」

 

ちげぇ。なに勝手に言ってんだ。ふざけんな。綾辻、那須、三上、小南も下手に睨むな。理由はわからんがこの人に下手に関わるな。面倒事しかないから。

 

「おや?琲世くん?」

「……どうも『雪ノ下』さん」

 

………?『雪ノ下』さん?おかしい、佐々木さんは基本年上年下関わらず名前で呼ぶのにこの人だけは苗字だ。それに言葉にやたら棘があるように思える。

 

「やー琲世くん、久しぶりじゃーん」

「ご無沙汰しています」

「なーにー?そんな素っ気なくてー。せっかく大好きな先輩に会えたのにー」

「僕はあなたのこと、好きじゃありません。むしろ嫌いです」

「そんなこと言ったらお姉さん泣いちゃうぞ?」

「泣きたければ泣けばいい。あなたの涙なんてそんな価値はないんだから」

 

なんでこんな佐々木さん口調きついんだ?普段の佐々木さんじゃないみたいだ。なんか顔も険しいし。

 

「とにかく早く帰ってくれませんか?僕はできるだけあなたに関わりたくない」

「えー文化祭でもあんなに一緒に頑張ったのにー?」

「あなたが好き勝手やったせいで僕がどれだけ苦労したと思ってるんですか……」

 

ああ、そういうことね……。振り回される佐々木さんが目に浮かぶわ……。

 

「むーつれなーい。まぁいいや。じゃあ雪乃ちゃん、お母さん、待ってるよ」

「………わかったわ」

 

そう言うと雪ノ下は黒塗りの車に乗り込んだ。その顔は、やたら暗い。

 

「じゃあね比企谷くん。あと琲世くんもまたね〜」

 

二度と会いたくねぇよ。そしてあの車………もしかして………。

 

「僕はもう会いたくないですよ」

 

ボソッと言った佐々木さんの声はやたら暗い。

どうやらあの雪ノ下姉は俺が思ってる以上に魔王属性が強いようだ。本当、嫌な人に目をつけられたよ。




次回は国近さんとデートです。

座右の銘
比企谷八幡 押してダメなら次の手だ(ものによる)
佐々木琲世 継続は力なり
横山夏希 拳があればなんでも解決




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