海老名姫菜
腐女子。どんな時でも趣味に生きていてスキがあれば腐教活動をする結構重度の腐女子。男同士で歩いてたり話してたりすると大体BLに変換して普通の会話内容すらもBLに変換するある意味最強の人物。ここまで重症のクセに容姿は戸部が落ちるくらい美人で表面上は性格がいい。いろいろと闇を抱えてそう。もしかしたら腐女子になった理由はその闇が理由なのかもしれない。実は横山と一年の頃クラス同じで仲がいい。
時は進み、オリエンテーリングは終わり現在は晩飯のカレーを作る為の準備に取り掛かっていた。
班ごとに配られる食材は佐々木さんと平塚先生が振り分けておいてくれた。小学生達はその食材を持ちそれぞれのかまどへと戻っていた。俺たちの分は既に佐々木さんがもらっておいてくれた。
「じゃあ、作ろうか」
なんでこの人こんな楽しそうなの?料理ならこの人独壇場だろうけどね。
「俺料理はできねーや」
「俺もー」
米屋と出水は早々に投げ出す。
「俺も無理だわー」
戸部、お前には聞いてない。
「じゃあ手分けして準備しよっか。料理できない人は火おこしして、できる人は……」
佐々木さんの掛け声により準備が始まる。
ーーー
全員で黙々とカレーを作る。ちなみに俺は火おこし及び鍋当番。俺もそこそこ料理はできるが、なにせ他の女子達の方が料理できる。ここは得意な人に任せるべきだろう。由比ヶ浜を除いて。
「まぁ、小学生の野外炊飯を考えると妥当なメニューよね」
まぁ、小学生でなくても大体こういうのはカレーだろ。
「家カレーだと家によって個性でるよなー。うちだと厚揚げとか入ってた」
そう、入ってた。今は小町カレーだから特別へんなのは入ってないが母ちゃんのカレーは入ってた。もう味わうことはできないが。
「あーあるよな。うちだと味玉とか入ってんぜ、半熟のやつ」
「お、それうまそう」
ほー、出水家では味玉入ってるのか。うまそう。まぁそれはそれでいいからさっさと火おこししろ。手が止まってるぜ。
「うちのカレーね、前になんか葉っぱ入ってたの。いやーうちのママ結構ぼんやりしてるから」
そうか、そのぼんやりしてるのはお前に遺伝してしまったのだな。
「それ、多分ローリエだよ」
「ほえ?」
「だからローリエ。ハーブの一種だよ。基本的には芳香の役割として煮込む鍋に入れるんだけど、煮込みすぎると苦味が出ちゃうから刻まずに入れて途中で取り出すか、途中から入れるんだ」
「ほーこー?」
「芳香は匂いのことよ」
「……し、知ってるし?というかサッサンすごいね、そんなこと知ってるなんて!」
知らぬ間に佐々木さんのことサッサン呼ばわりしてるし。さすがのコミュ力だ。
「僕は料理得意だからね。それと結衣ちゃん、ジャガイモ切るのはいいけどもうちょっとまともな形にしてくれると嬉しいな」
由比ヶ浜の手元には…………謎の形のジャガイモ。なにあれ。俺の知ってるジャガイモの形と違う。
「な、なんで?ママがやってるの見てたのに」
「由比ヶ浜さん、やってるのを見てるだけでもうまくはならないわよ。ちゃんと自分でもやらないと」
なんでみてるだけなんだよ、やれよ。
「とりあえず結衣ちゃん、それ以上ジャガイモを犠牲にしないためにもうジャガイモ及び他の食材に触ることをやめてね」
「酷い!」
「由比ヶ浜さん、それは仕方ないわよ。それじゃあ……」
「ゆきのんまで!」
それは言われても仕方ないだろ。というか佐々木さん、できるなら犠牲(ジャガイモ)がでる前に止めてほしかったな。
ーーー
とりあえずひと段落。食材を全て鍋にいれてあとは煮込むだけ。
「あとは火が通るのをまつだけか…」
「暇なら見回ってきたらどうかね?」
いやだ面倒くさい。
「俺、鍋見てます」
「気にするな比企谷、私が見ててやろう」
笑顔が怖い。あと怖い。
ーーー
俺と雪ノ下以外はみんな小学生のとこを見回りにいってる。まぁ俺らはぼっち気質だしな。
小学生に人気なのは葉山、佐々木さん、女性陣(平塚先生、三浦を除く)。
俺は今ちょっと小高いとこから高みの見物をしている。視界には、あのハブにされてる小学生。その小学生のところに葉山が近づく。あいつなにやろうとしてんのかね。やめとけよな。
「カレー好き?」
「………別に、カレーに興味ないし」
そういうとその小学生は手をとめ、こちらに歩いてきた。
いい答えだ。好意的に返せば「なにあいつチョーシ乗ってる」と言われ、素気無く返せば「なに様チョーシ乗ってる」とされる。ここは戦略的撤退しかない。ついでにいうとぼっちには撤退か無抵抗しか選択肢にないのだ。下手に抵抗すると10倍返しだ。
雪ノ下のため息が聞こえる。葉山は全くわかってないな。ぼっちに話しかける時はあくまで秘密裏に密かにやるべきだ。話しかけられたその事実だけでイジメの材料にさせられるから。
小学生が去ると葉山は少し重くなった空気を変えようと声をはる。
「せっかくだから何か隠し味いれようか!なにか入れたいものある人!」
小学生がガンガン案を出すなかで、バカが反応する。
「はい!あたしフルーツがいいと思う!桃とか!」
「結衣、ちょっと黙ろう」
「なっちゃん酷い!」
バカかあいつ。
「本当、バカばっか」
「あ?」
「声に出てた」
おっと不覚。あまりにもバカだったからついいってしまったのか。
「ま、世の中は大概がそうだ。早く気づいてよかったな」
「あなたもその大概の一人よ」
お前も例外じゃねーからな。絶対認めないだろうけど。
「……名前」
あ?
「なに」
「だから名前を聞いてるの。普通今のでわかるでしょう」
「人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るものよ」
なんでお前小学生にそんな喧嘩売ってるの?それが素なの?
「……鶴見留美」
「私は雪ノ下雪乃。そこのは……」
「比企谷八幡だ。で、そこのバカが由比ヶ浜結衣」
「バカっていうなし!」
軽く俺を睨む雪ノ下。そして走り寄ってくる由比ヶ浜。だってお前、絶対俺の紹介変なのに変えるだろ。なにが根拠かって?俺のサイドエフェクトがそう言っているのさ。
「鶴見留美ちゃんだよね?よろしくね」
「……」
無言になる鶴見。
「なんか、そっちの二人は違う気がする。私も違うの」
「ど、どういうこと?」
「みんなガキなんだもん。だから、一人でもいいかなって……」
「で、でも小学生の頃の思い出って大事だと思うよ」
「思い出とかいらない。中学あがれば、他所からきた人と仲良くなればいいかなって」
「残念ながらそうはならないわ。中学に入ってもその他所からきた人とやらも一緒になってやるだけよ」
その通りだ。中学に入っても人によるだろうがなにも変わらない。まぁ俺はボーダーに入ってから変わったがな。知り合いが学校にできたとかな!
「……やっぱりそうなんだ。……どうして、こうなっちゃったのかな」
鶴見の目には、涙がたまっていた。
ーーー
鶴見が去るとわずかに沈黙が流れる。
雪ノ下はその後ろ姿を見ながら相変わらずの無表情、由比ヶ浜は苦い顔をしていた。さて、どうしたもんかね。この場合だと……
と、そこで三上と3人の小学生が目に入る。そういや弟とかが参加するとか言ってたな。
「あ、比企谷くん」
「よお三上。……弟たちか?」
「うん。じゃあ自己紹介して」
「三上健人です」
「三上歌奈です」
「三上歌世です」
弟一人と妹二人か。なかなか礼儀正しい。さすがは三上の弟妹たちだ。
「俺は比企谷八幡だ」
「比企谷……?」
「八幡……?」
「あ!ほら歌奈姉あの人だよ!前に歌歩姉が話してたことあるあの捻……」
「わーー!ちょっと歌世!」
……ふむ?なに?俺の黒歴史でも弟妹たちに語ってたのか?なにそれ泣ける。
「で、俺はなに言われてたの?」
「なんでもないから!」
真っ赤になりながら全否定の三上。
お、おう。これはこれ以上聞いちゃいけないあれですねわかります。聞いたらいろいろと後がやばいのがわかります。
……あ、そうだ。こいつらに少し鶴見のこと聞いとこ。
「お前ら、少し聞きたいんだが」
「なに?」
「鶴見留美についてだ」
「鶴見……あ、あの子か」
「わかるか?」
「うん、私と歌世は話したことあるから」
ちょうどいい。いろいろ聞いとこう。
「それで、留美ちゃんがどうしたの?」
「ああいや、アレだ」
「もしかしてお兄さんロリコン?」
「違う」
「比企谷くん、まさか……」
「おい三上やめろ。雪ノ下、由比ヶ浜、違うからそんな目で俺を見るな」
やめろ、断じて違うから。そんな目で俺を見ないで本当に。
「鶴見、あいつハブにされてるだろ」
「……ああ、そのこと」
「ちょっと聞いときたくてな」
「うーん、オレはクラス違うしわかんないしそもそも鶴見がわかんないや」
「私は四年生までクラス一緒だったよ。その時はそんなことされてなかったけど」
「私は今も同じだよ」
「同じクラスか。で、なんで鶴見はあなってるんだ?」
「うーん、わかんないけど、気づいたらああなっててね。今留美ちゃんと同じ班の子たちが確か最初に始めたの。私はできるだけ話したりしてるんだけどね、留美ちゃん、私にまで被害が広がるのが嫌なのか素っ気なくされちゃうんだ……。それで気づいたらあんまり話さなくなっちゃって……」
「前にも似たようなこととか、あったか?」
「留美ちゃんがやられてるのじゃなければあったよ。でもしばらくしたら元に戻ってたんだ。戻ったら普通に話すようになるよ」
なるほどな、一種の流行りみたいなものか。となると……。
「私もどうにかしたかったんだけど……」
「歌世は悪くないよ。むしろ友達の為に何かしようとしたことはすごいえらいことよ。だから自分を責めないで」
「歌歩姉…」
末っ子の歌世が泣きそうになる。ふむ、三上に似ていい奴になったな。他の健人と歌奈も歌世を慰める。
「そうか、嫌なこと聞いて悪かったな」
「比企谷さんなら、留美ちゃんを助けられる?」
「…………悪いが、断言はできないし、なにもできないかもしれない」
「……そっか」
「悪いな」
弟妹たちは戻っていった。
「悪いな三上、お前の弟たちに嫌なこと聞いて」
「ううん、大丈夫だよ」
どうするかを考えながら俺たちは戻った。
*
カレーは佐々木さんのおかげでうまかった。普通ではない。うまいだ。これ重要。
「……どうしたらいいのかな」
由比ヶ浜の悲痛な声が聞こえてくる。
「ん?なにかあったのかね?」
「ちょっと、孤立しちゃってる子がいるんです」
「かわいそーだよね」
微塵もかわいそうとか思ってない声音だなおい。
しかし、どうやらこいつらは問題の本質を理解していないようだ。一人でいる『だけ』ならいいんだ。問題は、それが『悪意』によってさせられてるということが問題なんだ。
「ふむ、君たちはどうしたい?」
「俺は、可能な限りどうにかしてあげたいです」
「あなたでは無理よ。そうだったでしょう?」
「………」
どうやらこいつらは昔なにかあったようだ。でなければここまできつく言わないだろう。
「なるほど。ボーダーの諸君はどうするかね?」
「私も、なにかしたいです」
「やれることがあるかはわかんないけど、やれるならやりたいです」
「そうだね」
上から三上、綾辻、那須だ。
「まぁ、俺らがなにかできるかはわかんないしなにすりゃいいかもわからんが、頼まれたらなにかしらやるぜ」
「米屋に同意だ」
「俺も〜」
「まぁ、私も」
「右どー」
男3人と男勝りの熊谷と横山も同意。……おっと、なんか寒気が。
え?佐々木さんがいない?あの人今洗い物してるから。パシリ?いいえ、彼がやるのが一番早いからです。
「先生、これは奉仕部の合宿も兼ねてるとおっしゃいましたね。なら彼女が助けを求めるなら力を貸すことも可能ですよね」
「その通りだよ雪ノ下」
「わかりました」
「よし、では君たちでどうするか話し合ってみたまえ。私は寝る」
俺は正直乗り気ではないのだがな。だってなにすりゃいいかわかんねーし。
ーーー
「じゃあどうしよっか」
葉山を司会役に会議が始まる。
「つーかさーあの子かわいいんだし適当に話かけりゃいいじゃん。試しに話すじゃん、仲良くなるじゃん、余裕じゃん?」
「それだわー優美子冴えてるわー」
「それは優美子だからできるんだよ」
「そもそも今の状況だと話しかけること自体がハードル高いかもな」
ご尤も。話しかけても多分意味ない。無視させられて終わる。三上の妹が話しかけたりしてみてるから完全に孤立無縁というわけではないからそこまで酷い状況ではないが、三上の妹だけでは味方にしては心許ない。
「やっぱり、みんなで仲良くするしか……」
バカが。まだそんなこというのかよ。
「葉山、そりゃ無理だ」
「……どうしてだい?」
「みんなで仲良くなんて初めから無理なんだよ」
「だからどうして」
「じゃあ聞くが、お前、俺と仲良くできるか?」
「できないことはない」
…………俺は無理だ。
「じゃあお前、三浦と雪ノ下仲良くさせられる?ついでに横山と三浦仲良くさせられるか?」
「無理ね」
「あたしは表面上ならできるよ」
即答かよ。というか今聞いたの葉山になんだけど。それと横山、お前の表面上は結構怖いからやめろ。そして三浦嫌われ過ぎ。
「つまりそーゆーこと。十人十色だ。万人受けするやつなんていないんだよ」
「………でも」
「葉山、お前はそんなこと本気でできると思ってるのか?」
「奈良坂くん、君はできないと思ってるのか?」
「少なくとも現状では不可能だろうな」
「………」
人間そんなもんだ。俺だってボーダーの連中で全員といい関係という
わけではない。三輪とか俺のこと嫌いだし、俺は香取嫌いだ。だって香取うざいんだもん。勝手に俺のこと目の敵にしやがって。まともに努力もせずに勝手に目の敵にすんな。
「はい」
「姫菜、言って」
「大丈夫、趣味に生きればいいんだよ」
「趣味?」
「そう、趣味。趣味に生きればイベントとか行くでしょ。そうすれば自然に関わる人とか出てくると思うの」
「なるほど……趣味か」
なんでだろう。すごく嫌な予感がする。
「私はBLで友達ができましたー!」
予感的中。さすがサイドエフェクト。
「だから!雪ノ下さんもわたs」
「姫菜、黙れ」
横山が覇王色で腐教活動を止める。いいぞ横山。……ていうかお前ら知り合いだったの?
「八幡くんは、なにかある?」
「………正直、ほっとくのがいいんじゃねーかって思う」
「な!どうして⁈」
「うるせーぞ葉山。まぁ、理由は簡単だ。鶴見の話だと今までも何度か他の奴が似たようなことがあったらしい。つまりこれは一緒の流行りみたいなもんだ」
もちろん、その流行りでぼっちにさせられたやつはたまったもんじゃねーけどな。
「ならその流行りが終わるのを待つのがいいんじゃねーのか?」
「………」
おそらく、今葉山は無力感に苛まれてる。昔も似たようなことでもあったのかね。
「どうしたの?」
緩めの声がする。洗い物を終えた佐々木さんだった。
「ああ、ちょっと……」
「ん?」
「実は
ーーー
ってことがありまして、それでどうにかしたいと」
「なるほどね」
葉山の説明に佐々木さんは考えるそぶりを見せる。その表情は暗い。
「佐々木さんは大学生ですよね。なにか俺たちにできることとかわかりませんか?」
「………悪いけど、僕に言えることはほっとくことがいいってことだけだな」
「どうしてですか⁈」
結局、佐々木さんも俺と同じ答えか。
「僕たちが下手に手を出して事態が悪化したらどうするの?」
「っ!」
「そういう人を省いたりする子はね、基本的に自分がやることを妨げられると反抗して余計やることがひどくなるんだ。だからもし僕たちがなにか彼女のためになにかしたのがバレたら今みたいにただ一人にさせられてる事態が今度は本当のいじめに発展しかねないんだ。だから僕はなにもしないのがいいと思う」
「………」
「もちろん、君たちがなにかやるなら協力はするよ。でも、僕はやらない方がいいと思う」
結局こうなる。
まぁ、やろうと思えばあるけどできればやりたくない。思った以上に面倒だな、これ。
*
「ふ〜……」
風呂上がりにマッカンを買う。やはり千葉村なだけありマッカンも自販機に完備してる。マッカンの甘さが風呂により火照った体に染み渡る。そのまま近くのベンチに座る。
「なに黄昏てるんだ」
振り返ると出水がいた。『千発百中』のシャツ着てる。……なんでそれいつも着てんの?
「出水」
「相変わらずそれ飲んでるのかよ……」
「飲むか?」
「やめとく……」
全く、こんなうまいもん飲まないなんて勿体無い。
「あの子のことか?」
「まーな。つっても、佐々木さんと同じ意見なんだけどな」
「そうか。まぁ俺もそれがいいんじゃねーかって思うけどな。つっても佐々木さんの話聞いてそう思っただけなんだけどな」
まぁどうもできねーだろう。
「あれ、なにしてんのあんたら」
「おー弾バカ2人」
熊谷と横山だった。というかおれも弾バカなの?
『誰が弾バカだ』
「あんたらよ。ハッチもね」
解せぬ。なぜ俺までバカ扱いされてるんだ。米屋とか緑川は成績面でもバカだけど。
「他は?」
「まだ風呂」
「まぁそーだろーな。女子って風呂長いし」
お前みたいな暴力少女が女なのかは疑問だけど……あ、少女つってるか。
「ハッチ?なんか今失礼なこと」
「考えてません」
なんでわかるの?怖いから。
「どーせ2人で鶴見ちゃんのこと考えてたんでしょう?」
「え、友子、もしかしてこの2人ロリコン?」
『違う』
「はいはい知ってるから。夏希もそういうの今はいいから。で、比企谷はなんか思いついたの?多分あの葉山くんだっけ、彼とか何かしたくてたまらないみたいな感じだったよ」
「…………まぁ、あるにはある」
「なんだよ、あるなら言えよ」
「あんまいい案じゃねーんだよ……」
あるにはある。本当に。だが、できればやりたくない。これやったからといっていい方に必ずしも転がるとは限らない。
……それに、この案はやったら多分綾辻と横山はキレる。横山に至っては間違いなく顔面パンチしてくる。加えて佐々木さんにはお説教くらう。さらに他のメンバーからもなに言われるかわからない。
「ふーん、そ。まぁ、ハッチだしね」
「相変わらず予想の斜め下の思考なのね」
「性根が腐ってるのなー」
「ほっとけ」
我ながらそう思うよ。
*
夜
人数の関係上、男子も女子も二つのグループに分けることになった。俺は戸塚、葉山、戸部と同じグループだ。……ボーダー、俺だけ。だが戸塚がいるからオールOK。……なぜか寒気が。山は真夏でも寒いのかな。
「じゃあ消すぞー」
葉山がそう声をかけて、電気が消える。
「ねーねー隼人くーん。こういう時は恋話するっしょ!」
「……なんでそうなるんだよ」
俺はもう寝たい。
「俺も好きな人言うからー隼人くんも言ってくんねー?」
「なんでそうなるんだよ」
「いいじゃんいいじゃん!」
鬱陶しいなこいつ……。少しワイワイしてると、途端に戸部が静かになる。なんだ?寝たのか?
「……俺さ、実は海老名さんのことちょっといいなって思ってんだ」
「え?」
……あの腐女子かよ。確かに顔はいいけどあの趣味はな……。
「あー言ってみると結構恥ずいわー!なーなー隼人くんも言ってよー!俺もいったんだしー!」
「………えぇ」
「じゃーイニシャルだけでも!」
「…………………Y」
恐ろしい間の後にイニシャルだけ言った。Y、ね。誰のことやら。
「なーヒキタニくんはいねーの?ボーダーの子とかさ!あんな可愛い子たちに囲まれてさ!」
「あぁ?」
なぜ俺に振るし。
………しかし、確かに美人揃いではあると思う。綾辻とか那須とか三上とか小南も。横山も美人ではある。あの暴力癖さえなければ凄いんだけどな……。
しかし、気になる人ね。
………。
………………。
「いねー」
「マジかー」
当たり前だ。仮に好きな人いても向こうは俺のこと好きにはならないだろうし。
「じゃー戸塚は?」
戸部は次に戸塚に話を振った。戸塚に好きな人がいるのか⁈
と思ったが。
「僕は……いないかな」
それでこそ戸塚だ。
*
「は……はち、まん……」
これは、寝れる気がしねぇ。
寝れる気がしないから一旦外に出てみる。外の空気は少し肌寒かった。
少し歩くと、雪ノ下がいた。なんか口ずさんでいる。聞いたところキラキラ星かな。
「なにしてんだ」
「⁈……誰?」
「俺だ」
「……誰?」
「わかった。お前は俺をディスらないと気が済まないのな」
本当にめんどくせーやつだな。奈良シカマルもびっくりするレベルでめんどくせー。
「で、結局なにしてんだ?」
「……ちょっと三浦さんがつっかかってきて、完全論破したら泣いてしまって」
「それで気まずくなって出てきたと」
「まさか泣いてしまうとは思わなくて……。今は由比ヶ浜さんが慰めてくれてるわ」
「相手が横山じゃなくてよかったな」
「なぜ?」
「あいつ相手だったらお前が論破されるかボコボコにされてたぞ」
「あら、彼女相手に負けるほど私は弱くないわよ」
あいつは別格だ。口喧嘩だろうと普通の喧嘩だろうと今まで負けたことないらしい。俺もあいつには勝てない。明らかにこちらが悪い時でも屁理屈と悪知恵働かせて論破してその後ボコボコだ。まぁ、俺の時は最後に向こうが土下座して謝ったけど。
「………彼女の件、どうにかしなければね」
「……どうにもできねーと思うけどな」
「佐々木さんも同じこと言ってたわね」
「だってそうだろ」
「そうかもしれない。でも、なにかはしたいわ」
「えらくやる気だな」
「そうね。…由比ヶ浜さん、今回のことすごく気にしてると思わない?多分、彼女も似たような経験があるのよ」
「かもな」
なにせ学校においてトップカーストに属する由比ヶ浜だ。そういうことがあっても別段不思議ではない。
「それと、多分葉山くんも気にしてる」
「だろうな。昔なんかあったのか?」
「………そうね」
「あいつとは付き合い長いのか」
「ええ、親同士が知り合いで幼馴染みなのよ」
なるほどな。それで、その幼馴染み同士でなにかあったか、周囲がなにかしたか。
と、そこで小枝を踏む音がする。暗闇から出てきたのは佐々木さんだった。
「佐々木さん」
「や、比企谷くんと雪ノ下雪乃ちゃん。なにしてるのこんな時間に」
「俺はちょっと寝れなくて。雪ノ下はなんかいろいろあったとか。そういう佐々木さんは?」
「僕は見回りやってた。……本当は平塚先生がやる予定だったのに押し付けられちゃって……」
あの独身アラサーなにやってんだ。過去の教え子に仕事押し付けんなよ。というか佐々木さんも断れ。あれか?暗殺教室の学級委員か?
「そういえば、お二人はよく話してるのを見ますが、ボーダーではどういう関係なんですか?」
珍しいな雪ノ下。お前が俺のこと気にするなんて。
「比企谷くんは僕の隊長だよ」
「………となると佐々木さんは比企谷くんの部下ということですか?」
「………間違ってないけど、部下ってより」
「相棒に近いかな」
「……あなた、学校とボーダーでいろいろと違い過ぎない?」
否定はしない。
「そうですか。じゃあ佐々木さん、これからも比企谷くんをよろしくお願いします」
「なんでお前がそんなこというんだよ」
「あら、私はあなたの上司よ」
だから俺の上司は忍田本部長と嵐山さんだけだから。
「……あの」
「ん?」
「佐々木さんは本当にほっとくのが一番だと思いますか?」
「………断言は、できない。でも僕には他に思いつかない」
「私もどうすればいいのかはわかりません。でも、このままほっといたからといって比企谷くんの言った流行りが無くなるという保証もない。なら、私はなにかしたいんです」
……確かにその通りだ。ほっといたからといって流行りが無くなる保証なんてどこにもない。でも手を出す方が俺には悪手に思える。リスクリターンを考えるとほっとくのがいいと俺は思う。
「比企谷くんは、何か思いついたりした?」
「……いや、なにも」
「そっか」
「まぁ、しょうがないかもしれないわね……」
いやはや、結構頭いい3人集まってもこのザマ。3人揃えばなんとやらとかいう諺は嘘っぱちだな。
「じゃあ、私は戻ります。おやすみなさい」
暗い面持ちのまま雪ノ下は戻っていった。
………さて、この軽い笑顔を向けてくる佐々木さんをどうしようか。
「比企谷くん、本当は何か思いついてるんでしょ?」
「なんでわかるんすか?」
「君、意外とわかりやすいから」
俺、そんなわかりやすいかね?ポーカーフェイスは結構自信あるのに。
「予想の斜め下をいく案なんで、できればやりたくないです」
「そっか。他にはないの?」
「………無いことはないんですけど、これはただの気休めに近いんですよ」
正直、これは解決も解消もしていない。でも俺は現時点ではこちらの方がいいんじゃないかと思っているが、そもそもこれでは鶴見に対して何もしていないに等しい。
「そう。……やっぱり比企谷くん変わったね」
「そうすか?」
「うん。僕は、最初の方は何するかわからないけど、二つ目は何をするかわかったよ」
「………」
なにこの人、エスパーなの?
鶴見をどうするかは明日決めよう。今俺と佐々木さんだけで話しても結局実行するとなると明日になる。加えて実行できる時間帯も限られているのだ。今あれこれ話しても正直無駄だろう。
「じゃあ僕は戻るね。このことはまた明日みんなで考えよう」
「……そっすね」
葉山がどれだけアホなことぬかさずにいてくれるかね。
佐々木さんは再び暗闇に戻っていった。俺も立ち上がり空を見上げる。空には三門市より星が多く見えた。
「山の中って、すげぇな」
俺の呟きは夜空に吸い込まれていった。
三上ブラザーズの名前は適当につけました。
今回の展開、ちょっと期待外れの方もいるかもです。すいません。
……しかし今回も長い。すんません。