ステップ1 射手ポジションを知る。
講義形式で射手がどういうポジションであり、そしてどんな特徴やメリット、デメリットがあるかを叩き込む。そして相手のポジションに応じた基礎の対応方法をお手本で見せる。(なお、標的は八幡)そしてその後に実践してやらせる。できなかったら罵倒。できるまでやらせる。
ステップ2 トリガーの特徴を理解する。
全ての射手トリガーを的に向かって放つ。(なお、標的は八幡)どのような特徴があり、どのような場面で使うと有効かを叩き込む。そして自分のメイントリガーの特徴をしっかり理解し扱えるようになるまで反復練習。できなかったら罵倒。そしてぼんやりとでも自分の戦闘スタイルを確立させるために模擬戦を行う。
ステップ3 実践練習
実践でどれだけ扱えるか、そして実践ではどのような動きをするかを叩き込む。そしてどんな時でも二宮さんは容赦ないので大抵は蜂の巣にされる。一戦ごとにログを見直しここはどうするか、どのように動くのかを指摘。できてないとこはとことん指摘、酷評。そしてこれを繰り返す。するとあら不思議、八幡のレベルは格段に上がっていましたとさ。
ざっくりとした感じはこんな感じです。番外編とかで多分八幡の弟子時代を書いたりします。
職場見学、それは学生が職場を見学し社会がいかなるものかを知るためにあるものだ。しかし、それは既に職を持っているものには不要なものだろう。なぜなら既に職についていてなおかつ社会がいかなるものか知っているからだ。私は既にボーダーという職につき、なおかつ家系を支える大黒柱でもある。そんな私に職場見学は必要だろうか?必要ない。
故に私は今回の職場見学に参加することを辞退する。
異論は認めない。職のあるものにとってこの職場見学というのは
あまりに無意味すぎるからだ。
*
「で、言いたいことはあるか比企谷」
アラサー独身女教師、平塚教論が苛立たしげな言葉を発する。
「いえ、おれの職場見学に対する思いを率直に書いただけです。何もおれは悪くありません」
「私が今、何を言いたいか、わかるか比企谷?」
おお、すごいオーラだ。ハンターハンターのゴンさんもびっくりなレベルじゃね?
「………書き直します」
「当たり前だ。奉仕部での日々は君に影響を与えなかったのかね?」
「おれにとっては本当に無駄かつ無意味なことなのでこれは奉仕部うんぬん関係ないですねー」
気だるげに答えると、拳が飛んでくる。それを肘で受け止めると凄まじい衝撃を感じた。鍛えてなかったら多分ガード吹っ飛ばされてた。この人強化系じゃね?ちなみにおれは多分変化系。
「……目が腐ってもボーダーというわけか」
「腐ってるのいりませんからね?」
「全く君は……。とりあえず、見学希望調査表は再提出。また後日提出しに来たまえ」
えー……クソめんどくせぇな。
「あーそれと伝え忘れていたが今回の職場見学は三人一組で行く。好きなものたちと組んでもらうからそのつもりでいたまえ」
クラスでぼっちのおれにはなかなかきついからねそれ。
*
今日は防衛任務がないためあの氷の女王とバカのいる部室へ向かう。
部室に入ると、やはり雪ノ下が本を読んでた。
「会わなかったの?」
「は?誰と?」
「あー!いたー!」
うるせえな……。
「あなたがいつまでたっても部室に来ないから探しに行ったのよ。由比ヶ浜さんが」
「その倒置法で自分は違うアピールしなくていいからな。そもそもおれもお前が探しに来たらそれはそれで怖いからお断りだ」
倒置法とか穂苅さんかよ。
「わざわざ聴いて回ったんだからね!そしたらみんな『比企谷?誰それ』って言うから超大変だったんだからね!」
「へーへー悪うござんしたー」
「全然反省してないじゃん!」
うるせえな本当にこいつは…。
「だ、だから!ケータイ教えて!ほら!いちいち探すのもおかしいし!恥ずかしいし!……どんな関係か聞かれるのとか、ありえないし……」
そもそも探すというのもどうかと思うけどな。
「別にいいぞ」
そういって白いスマホを渡す。
「あ、あたしが打つんだ。というか迷わず人にケータイ渡せるのがすごいね」
「別にそっちにも見られて困るの入ってないし」
「へ?そっちにも?」
「ん、ああ。これ」
そういってボーダーから支給された黒いスマホを出す。こっちには防衛任務のシフトとかA級部隊隊長のみの会議とか呼び出しとかに使ってるやつだ。
「へー、ケータイ二つ持ってんだ」
「まぁ諸事情でな」
そういって由比ヶ浜はケータイを開き高速でアドレスを打ち込んでいく。すげー早いな。無駄にすごい、無駄に。大事なことなので二回言った。
そうしてアドレスを打ち終わったのかスマホをおれに返してくる。
☆★ゆい★☆
なんかすげぇキラキラしてる。どう見てもスパムメールにしかみえないんだけど。とりあえずこのままだとガチで迷惑メールボックスにいれてしまいそうだから普通に戻す。これだから今時ギャルは……。
すると由比ヶ浜はケータイをみて顔を顰める。
「どうかしたの?」
「え⁈あ、ああいや、ちょっと変なメールが来てうわぁって思っただけだから」
「比企谷くん、裁判沙汰になりたくなかったら今後そういう卑猥なメールを送るのはやめなさい」
「犯人確定で、しかもセクハラ前提で話進めんな。おれだと思うなら証拠だせ証拠」
「その発言が証拠と言ってもいいわね。『証拠はどこにあるんだ』『なぜおれだけ疑うんだ』『大した推理だ、君は小説家にでもなった方がいいんじゃないか』『殺人鬼と同じ部屋になんかいられるか』」
「最後のそれ完全に被害者のセリフだろ。死亡フラグもいいところだ。そしてそれだと状況証拠にすらならないから裁判で起訴したとしても負けるのが目に見えてるな。そんなことで起訴するとはとんだ無能検事だ」
ドヤ顔かつ勝ち誇った顔してた雪ノ下が一気に視線を鋭くする。いやおれ悪くないだろ。先に喧嘩売ったのお前だし。
「ちょっとみんな落ち着くし!これ多分ヒッキーは関係ないから!」
「その根拠は?」
「いやーこのメールの内容がクラスのことなんだよね。だからヒッキーは関係ないっていうか」
「おい、なんでおれハブにされてんだ。一応同じクラスだろ」
「なるほど、なら比企谷くんは関係ないわね」
聞いてないし納得したぞこいつ。
「まぁ時々こういうのあるから気にしないようにする」
そう言うと由比ヶ浜は椅子に座り頬杖をつき、ケータイをいじりだす。おれは日本史の問題集を取り出す。雪ノ下は相変わらず本を読んでいる。
しばらくすると、由比ヶ浜が呟く。
「暇だなぁ……」
「暇なら勉強でもすれば?中間試験も近いのだし」
「……勉強なんて意味なくない?社会に出たら使わないし」
たった今勉強してる人間の目の前で言うことではないだろうに。
「世の中由比ヶ浜みたいなやつしかいないのなら勉強なんてなくなってんだろうな」
「そうだよ!勉強なんて意味ないって!高校生活なんて短いんだしそんなことに時間かけてるのなんて勿体無いよ!」
おかしい、おれは間違いなく今皮肉として言ったのに何故か肯定されてる。
「由比ヶ浜さん、社会に出て今学んでることを使わないというのは勝手な妄想よ。社会には今やってることの延長を仕事にしている人だっているのだし、大学で学ぶことも今やってることの延長でしかないのよ」
「えー使ってる人なんていないよー」
「それはお前が社会を知らなさ過ぎなだけだ。というかそもそも学校は学び舎だからな?遊ぶとこじゃないからな」
今時の若者は学校を遊び場だかなんだかと勘違いしてる節がある。学校とはあくまで学び舎。勉強するところだ。逆に言えばぼっちだから勉強してるくらいしかやることないんだけどね!
「ゆきのんは頭いいけどさ、あたし勉強に向いてないし」
「碌に勉強してこなかったのに向いてる向いてない言うのはどうかと思うぞ。それにおれは文系できるけど理系あんまできないし」
「そうね、文系はかなりいい方だと思うけどトップはとれないわね」
やかましい。奈良坂とお前に張り合えるやつなんてそういねぇよ。
「そっか!ならみんなで勉強すればいいんだ!」
なぜそうなった。
「ゆきのん!テスト週間になったら一緒に勉強しよ!近くのサイゼに集まってさ!」
「別に構わないけど」
「ほんと⁈やった!ありがとゆきのん!」
そう言って雪ノ下に抱きつき由比ヶ浜。うん、ゆりゆりしい。雪ノ下も鬱陶しそうにしながらも何もしないし。
しかし勉強会か。前に留年の危機だった米屋を救済するために三輪隊が頑張ってたな。あまりにもやばいからおれを嫌ってる三輪がわざわざおれに救済の手伝いを頼みに来たこともあったな。その時の三輪の屈辱そうな顔は今でもよく思い出せる。どんだけおれのこと嫌いなんだよ。
そしてそんなこんなしてると下校時間が近くなってくる。全員が帰り支度をし始めたところでドアがノックされる。
入ってきたのは劣化版嵐山さんの葉山だった。
「こんな時間にすまない。奉仕部ってここでいいんだよね?」
爽やかオーラ全開にしても意味ないぞ。おれの職場にはその3倍爽やかな人がいるからな。
「いやー、テスト前はなかなか練習抜けさせてもらえなくてね。今日の間にこなしておきたいメニューがあって」
「能書きはいいわ、何か用があったのでしょう?葉山隼人くん?」
雪ノ下のオーラがどことなく冷たくなる。
「ああ、平塚先生から聞いて相談事があるならここだって。あ、でもみんな都合が悪いなら日を改めるけど」
「これから帰るとこだったんだ。なんかあんならさっさとしてくれ」
できることなら二度と来ないでほしいけどな。
「そうだ。ヒキタニくん、この前のテニスコートの事は悪かった。この通りだ」
今更なにいってんだこいつ。
「テニスコートについてはおれではなく戸塚に謝れ。もとより所有権はテニス部にあんだから。それに謝られたところでお前のことをどうこう言うつもりはない。というか謝るなら本来その場で謝るべきだろうが。まぁ、もうどうでもいいからさっさと依頼内容を言え」
悪いのは向こうだしいいか。葉山は思いっきり顔をしかめてるけどどうでもいい。
「話は終わった?なら依頼内容を聞きたいのだけれど」
「………ああ。実はこのことなんだ」
そう言って取り出したのはケータイ。画面にはメールが表示されている。
『戸部はゲーセンで西校狩り』
『大和は三股かけてる最低のクズ野郎』
『大岡はラフプレーで相手校のエース潰し』
「あ、変なメール…」
チェーンメールか。未だにこんなのやるやついるのな。不幸の手紙からなんも進歩してねぇ。
「最近送られてくるようになったんだ。それからなんかクラスの雰囲気もあんまり良くなくて。それに、友達のことを悪く言われれば腹も立つ。だから止めたいんだよね。あ、でも犯人を見つけたいとかではなくて丸く収める方法を知りたいんだ。頼めるかな?」
こいつバカなのか?そういう人間は一度痛い目みて吊るし上げされるくらいしないと反省しないぞ。
「そう、では犯人を見つけるしかないわね」
「うん、頼めるかな…ってあれ?なんでそうなるの?」
「チェーンメール、あれは人の尊厳を踏みにじる最低の行為よ。自分の顔も名前も出さず誹謗中傷の限りを尽くす。止めるにはその大元を根絶やしにするしかないわ。ソースは私」
「実体験かよ…」
「根絶やしにしたんだ…」
こいつはこいつでブラックな過去送ってんな。
「とにかくそんな人間は確実に滅ぼすべきだわ。私は犯人を探す。一言言うだけでぱったりやむと思うわ。そのあとどうするかはあなたの裁量に任せる。それでいいかしら?」
「あ、ああ、それでいいよ…」
えーやんの?面倒くせぇ。
「メールが来たのはいつから?」
「えーと、確か先週末からだったよな?」
「うん、確かそんくらい」
「そのとき何かあった?」
「いや…なにもなかったと思うけど」
「そうだね、普通だったかな」
「一応聞くけど、あなたは?」
「なんだよ一応って。先週末、つまり最近」
そこでおれのサイドエフェクトが一つの答えを出す。
「職場見学?」
「あ、それだ。グループ決めでナーバスになる人もいるから…」
うわ、すげえどうでもいい。そもそもおれと組むやついないからそんなこと考える必要ないし、それ以前に職場見学行きたくない。
「葉山くん、あなたは誰と行くか決めたの?」
「ああ、そう言えばまだだけど……多分その中の誰かと行くことになると思う」
確かグループは三人一組、こいつのグループは葉山含め四人。そうなると必然的に誰かハブにされる。そしてそれを避ける為に誰か蹴落とす、と言ったとこか?全部直感だけど。
「犯人わかっちゃったかも」
「どういうことかしら、由比ヶ浜さん?」
「こういうグループ決めは今後のクラスの立ち位置とかも関わってくることがあるから、そのハブにされた人はかなりきついよ」
おれの直感そのまんまですね。さすがサイドエフェクト。
「そう、となるとこの中の誰かが犯人だと思っていいわね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!おれはこの中に犯人がいるなんて思いたくない!それにあいつらを悪く言うメールなんだぜ?こいつらは違うんじゃないか?」
こいつわかってて言ってるな、この中に犯人がいる事を(倒置法)
「バカかお前、そんなの疑われないようにするために決まってんだろ。もっとも、おれなら誰か一人悪く書かないでそいつに罪をかぶせるけどな」
「ヒッキーすこぶるワルだー」
やかましい、知能犯と呼べ。
「とりあえずその三人の事を教えてくれる?」
「あ、ああ。戸部はおれと同じサッカー部で、見た目悪そうだけど社交的でムードメーカー的な感じだ。文化祭とかの行事にも積極的に取り組んでいる。いい奴だよ」
「騒ぐことしか能のないお調子者、と」
あれ?なんかすごい方向に変換されてない?いや間違ってないだろうけどもうちょいオブラートに包んで言えないの?葉山絶句してるし。
「どうしたの?続けて?」
「何か変なこと言った?」みたいな表情してるけど、こいつまさか無自覚か?
「……ああ。大和はラグビー部。冷静で人の話をよく聞いてくれる。ゆったりとしたマイペースさと、その静かさが安心させてくれるっていうのかな。寡黙で冷静ないい奴だよ」
「反応が鈍く優柔不断、と」
「……大岡は野球部で人懐っこくいつも誰かの味方をしてくれる。人の上下関係にも気を配れるいい奴だよ」
「人の顔色を伺う風見鶏、ね」
もうやめて!葉山のライフポイントはとっくに0よ!あなたどんだけオーバーキルが好きなんだよ!
というかこれみたら確実におれより雪ノ下の性格直した方がいい気がすんだけど。絶対おれより性格悪いだろ。ちなみに雪ノ下の性格をさっきの雪ノ下風に言うと「融通のきかない堅物毒舌女」
そしてメモを見ながら唸る雪ノ下。
「誰が犯人でもおかしくないわね」
もうお前が犯人でよくね?
「葉山くんの話だとあまり参考にならないわね。あなたたちはその人たちをどう思う?」
「ど、どうって……」
「おれはそいつらのことよく知らんからなんともいえん」
「じゃあ悪いけど調べてもらえるかしら?」
「え、えっと……」
「ごめんなさい、あまり気のいいものでもないから」
「あーもういいよおれやっから。とりあえずもう帰りたいんだけど」
「あ、あたしは……」
「いいよお前のグループのことだしいろいろあんだろ?別にどう思われてもおれは気にしないから」
でもボーダーで変態だの腐り目だの言われてるのは解せぬ。
「そう、期待せずに待ってるわ」
期待しないのかよ。
*
というわけで現在やつらを監視もとい観察している。パッと見は仲よさげには見えるが裏ではかなりドロついてるのな。昼ドラかよ。
と、そこで視界に手が現れる。顔を上げると
「おはよ」
天使がいた。
「お、おお。おはよう…」
朝一番!モーニングショットォ!あんなリア充どもより戸塚の観察していたいぜ!
「あのさ、ひ、比企谷くんは職場見学行く人、その、決めたの?」
「い、いやまだだ」
できることなら行きたくない!
「そっか。それで、僕もまだなんだけど……」
これは⁈まさかアレか⁈アレがアレしてアレするやつか⁈何言ってんだおれは!
「じゃあ、おれと組むか?」
「いいの?」
上目遣いぃ!おかしい!戸塚は男だ!なんでそこいらの女子なんかと比べものにならないほどかわいいんだ!
「お、おお。いいぞ」
まるで花が咲くような笑顔。やだ、胸がときめく。
「ありがとう!それじゃ、えっと、僕もヒッキーって呼んでいい?」
「それはやめろ」
ヒッキーはやめろ。あの常識欠如の汚物生成女子高生みたいだろうが。
「じゃあ、八幡?」
「もう三回呼んで」
「え⁈」
おっといかん。さっきの八幡呼びがあまりにも威力が凄まじく心躍るアンコールしかけるとこだったぜ。しかし、もう戸塚に八幡呼びされたからリア充どもの観察なんてどうでもよくなっちゃった!呼んで!もっと呼んで!
「八幡!聞いてるの⁈」
「え⁈ああ悪い。で、なんだっけ」
やだ、怒ってる戸塚もかわいい。
と、そこで人影。リア充の王だった。
「……んだよ」
「ああ、何かわかったかなって」
おれと戸塚の時間を邪魔するな。ぶっちゃけお前らがどうなろうとおれは知ったこっちゃねぇんだよ。
まあ依頼でもあるから無下にはできない。リア充どもに目を向ける。
小さいやつはケータイ弄ってて、茶髪はぼんやり、でかいのもケータイ弄ってる。というかおれの勘ではあるが犯人も解決策も大体わかってんだよな。しかし勘でそいつを犯人呼ばわりはちょっとアレだから言わない。
ああ、やっぱりこれが一番手っ取り早いか。
「とりあえず解決策はわかった」
「え、本当か?」
「嘘いうメリットねぇよ。詳細は放課後な」
*
「で、解決策がわかったということは犯人もわかったのよね?」
「いや、犯人は知らん」
「では解決策はわかってないじゃない」
「今回のはお前の時とは状況が違う。だから犯人探ししなくても事態の収拾はつく」
「……どういうこと?」
「簡単だ。雪ノ下の時はあくまで雪ノ下の存在そのものに嫉妬し送られた。だが今回は葉山と一緒にいたいが為に送られたものだ。同じ悪意でもその悪意のジャンルが違う。原因そのものを取り除いてしまえば事態の収拾ははかれる」
「つまり、どういうことだ?」
「葉山がその三人誰とも組まなければいい」
今回、やつらのうちの誰かがチェーンメールを送ったのは葉山といたいからであり他のが心の底から憎いというわけではない。ただハブられたくないだけなのだ。雪ノ下の時と違うのはそこだ。悪意のレベルが違う、と言えばいいだろうか。
「そうすればみんな仲良く同じ目にあう。そうすれば多分事態は収拾する」
雪ノ下はどことなく納得のいってない感じだが、他のはなるほど的な表情してる。
「まぁこれでもおさまんなかったら本当に犯人探しだな」
「じゃあ葉山くんは誰と組むの?」
「んなもん自分で探せ」
そこまで面倒見る義理はない。
「そうね。じゃあ葉山くん、とりあえずその策でやってみて。それで収まればそれでいいけれど収まらなかったらまた来てちょうだい。その時は本当に犯人を捜すわ」
「あ、ああ。わかった。ありがとう」
ーー
葉山が帰った後は誰が来るわけでもなくそのまま下校時刻を迎えた。
「収まるといいねー」
「そうね、比企谷くんの案で解決というのも少し癪だけど」
なんでだよ。何もせずただ他人のことディスりまくってたお前よりマシだろ。
おれが前を歩いていると雪ノ下からふと声をかけられる。
「そういえば、興味本位で聞くのだけれど」
「?」
「あなたは何か武道の心得でもあるのかしら?」
あるどころか本職なんだけどな。あれ、でもおれ違うか?シューターだし。
「まぁ、ちょっとな。なんでわかった?」
「歩く時の重心が全くぶれないのよ。体重移動も様になってるし。私も合気道の心得があるからわかるのよ」
ほー、お前がまさか合気道なんてやってたとはな。その割に体力なさすぎない?
「私に合気道を教えてくれた人と歩き方が似てたからわかったの。もっとも、比企谷くんみたいに猫背ではなかったけどね」
「ほっとけ」
しかし、あまり重心なんて意識してなかったのだがな。おれもそこそこ実力がついてきたということか。それに気づく雪ノ下も雪ノ下だけどな。
*
葉山に解決策を伝え、それを実行するとチェーンメールはめっきり来なくなったらしい。どうやら無事解決したようだ。どうでもいいけど。
と、そこで葉山が近づいてくる。
「ここいいか?」
「お好きに」
「依頼の件、無事収まったよ。ありがとう」
肩をすくめて返す。特別おれはなにもやってない。ただそうすれば事態は収拾すると思っただけだ。
「おれがあいつらと組まないと言ったらみんな驚いてたけどな。でも、これを機にあいつらが本当の友達になってくれればいいと思うよ」
ここまで思うとなるとこれはこれで何かの病気だ。
それが本心であれば、な。
「ヒキタニくん、まだ職場見学の組決まってないだろ?おれと組まないか?」
なにこいつ、アメリカ人?
「まぁ構わんが、おれ戸塚と組んでるから戸塚にも聞いてくれ」
「そうか。あ、戸塚。ちょっといいか?」
近寄ってくる天使。
「どうしたの?葉山くん」
「職場見学でおれも2人の組に入ってもいいかな?」
爽やか全開でいってんじゃねぇ。
「うん!いいよ!八幡もいいでしょ?」
「ああ」
ぶっちゃけ戸塚と2人の方が良かったんだけどな!
そしてなぜか胸騒ぎがする。葉山のせいだな、間違いない。
「行く場所、どうするか」
「あーすまん、ちょっとトイレ行ってくるわ。おれ特別行きたいとこねぇしそっちで決めていいぞ。文句は言わないし」
「そう?じゃあ僕たちだけで決めよっか」
席を立ちトイレへ向かう。
「僕ね、行きたいとこあるんだ!」
戸塚の行きたいとこならおれも行きたい。
*
戻ると、どうやら話はついたようで2人が談笑してる。
「あ、おかえり八幡」
「おお。で、決まった?」
おかしい、この状況でなぜ胸騒ぎがするんだ。戸塚への愛なのか⁈それとも……
「うん!行く場所はね、
ボーダー本部!」
ウボァー
***
おまけ
仏の顔も3度までっていうけど実際のところ本当の仏の顔って二度までだよねっていうアレ
ボーダー本部食堂
1人の青年が一枚の書類を前に考え込んでいた。
青年の名は佐々木琲世。現在は休隊中であるためにA級9位となっているが、休隊前は4位であった比企谷隊のアタッカーだ。
話は戻るが、彼の目の前にある書類にはこう書かれていた。
志望校調査票
彼の進路は地元国公立文系できまっているが、第三志望まで書かなければならずその第三志望にする学校で悩んでいた。
(ぶっちゃけボーダー提携校以外のとこは似たり寄ったりなんだよなぁ)
そんな風に考えながら、手元のコーヒーを一口飲む。苦味が口に広がる。彼の部隊の隊長の飲むコーヒーは苦味とは程遠い甘さのコーヒーであり、そのコーヒーは作戦室に箱で置いてある。そのため日常的に飲むコーヒーがあのアホみたいに甘いコーヒーであるためたまにはブラックを飲もうと、彼は今ブラックコーヒーを飲んでいる。とは言っても彼は自分でコーヒーを入れた方が安いし美味しいのだが。
現在は昼時であるため人が多く賑やかである。手元のパンフレットなどをパラパラ見てるのだが、どれもピンと来ない。
(東さんに相談してみようかな。でも明後日提出だからなぁ…)
と、そんな風に頭を悩ませていると声をかけられる。
「あれ?佐々木さんじゃないですか!」
声のした方を見ると、そこには帽子をかぶっ少年がいた。
別役太一。別名本物の悪。両手に水を持っているが嫌な予感しかしない。
「何やってるんですかー?」
そう言いながら早足でこちらによってくる。
「別役くん、ゆっくり、ゆっくり歩こう?」
「大丈夫ですよー、ってうわぁ!」
盛大にすっ転び二つのコップが宙を舞う。そして琲世は頭から水をかぶった。幸い書類は濡れていない。
「すいません佐々木さん!」
「うん、大丈夫だよ。今トリオン体だし」
トリオン体にしておいて心底よかったと琲世は思っていた。そうでなければ濡れた服で帰るハメになっていた。
「お詫びに何か買ってきますー!」
「え、ちょっと、止めて」
だが別役は琲世の声に耳を貸すことなく走り去って行った。とても嫌な予感がする。
「すいません佐々木さん!お詫びのコーヒーです!」
足早に帰ってきた別役。これはもうフラグとしか言いようがない。
別役はかなりの速度で帰ってきたため琲世の目の前で急停止した瞬間、カップに入っていたコーヒーが飛び出しテーブルに置いてあった大学のパンフレット達に飛び散った。書類も若干汚れた。
「うわわわ、すいません!」
慌てて拭こうとするが、その手の先には先ほどまで琲世が飲んでいたコーヒーカップ。まだ中身は入っている。
「あ!ちょっと!」
悪い予感ほどよく当たるもので、そのコーヒーカップは別役の手にあたり中身をぶちまけた。
当然テーブルに置いてあった書類、パンフレットはコーヒーに塗れ加えて傍においてあった琲世のバッグにまで被害は浸透した。
加えてバッグは開いており、中にあった琲世が先ほど買った小説の最新作だけでなく、教材まで被害にあった。
並みの人間なら水をかぶった時点で怒っててもおかしくない。だがここまで耐えられたのは琲世が菩薩精神をもっていたおかげだろう。しかし日本にはこんなことわざがある。
「仏の顔も3度まで」
「別役くん」
「ハッハイ!」
「ブース行こっか」
「へっ?いやー何言ってるんですか佐々木さん。オレスナイパーですよ」
「ブース行こっか」
「いやだからー」
「ブ ー ス 行 こ っ か」
「ヒィッ!」
その時の琲世は笑顔だった。しかし目は全く笑ってなかった。その後ネチネチとお説教をした後にブースへ拉致し30-0でボコボコにされる別役の姿があった。
後にこの時の琲世は「闇ササキ」としてボーダーの伝説の一つになる。
初登場の人物
別役太一
本物の悪。ボーダー本部において唯一琲世を怒らせた伝説の人間。そして本人は自らが悪そのものであることを全く自覚していない。こいつの周囲に大切なものはおいてはいけない。過去に八幡はスマホを壊され、夏希は頭からコーヒーをぶちまけられ、阿修羅モード全開で公開処刑された。結論を言うとこいつにはあまり関わらない方がいい。
次回はワートリサイドです。