目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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今回初登場の人物

荒船哲次
色男。レイジさん同様パーフェクトオールラウンダーになることを目指している荒船隊隊長。現時点ではアタッカーだが原作初登場ではすでにスナイパーでマスタークラスになっている。どれだけ訓練を行ったのか作者は気になる。そのうちガンナーもマスタークラスをとるらしい。村上鋼と影浦雅人と仲がいい。時々孤月を逆手持ちにして切り結ぶ姿がカッコいい。多分モテ力もマスタークラスにいずれなる。意外とファンがいそう。過去に八幡に犬を突き出されガチギレしたことがある。トレードマークは帽子。

戸塚彩加
八幡エンジェルの一人。女子よりも女子らしく女子よりも女子力が高い。加えてそこらへんの女子よりもずっとかわいいというおまけ付き。一応男ではあるが男の娘と間違えられることも多々ある。恐らく初見で彼を男だとわかる人はかなり少ない。ボーダーにいたらみかみかとは別のベクトルで色んな人間をメロメロにしていそう。というか既に学校でもメロメロにされてる人がいそう。いっそのこと平塚先生と性別を交換した方がお互いいろいろいい事がありそう。


8話 こうして、彼に新たな天使が誕生する。

目覚ましの音が鳴り響き布団から手を出し止める。5時15分。いつも通りの起床だ。

もそもそと布団からでるとジャージに着替える。適当に朝食の下ごしらえをすると軽く準備運動を済ませながら玄関の方へ歩いていく。途中にある小町の部屋を軽く覗くとスヤスヤと寝息を立てて寝ている愛しのリトルシスターがいた。扉を閉めて、外に出る。鍵をかけるとさっさとマンションからでる。

マンションからでたらもう一度準備運動をし、走る。二宮さんにB級時代にどうすればもっと強くなれるか相談したら「生身のトレーニングをしろ」と言われ、それ以来ほぼ毎日走る様にしているし、筋トレもしている。そしたらあら不思議。あっという間にA級な上がっちゃったぜ☆ちなみにトレーニングメニューは玉狛のレイジさんに考えてもらった。

多分今はそこらへんの運動部より体力も筋力もあるだろう。

 

我ながら真面目になったものだ。A級で居続けるためとはいえ、昔のおれなら絶対やらなかった。昔と環境が全く違うというのが最たる理由だろう。

 

毎朝30分近く走り、雨の日は勉強というなんともクソ真面目な生活だ。

 

 

ランニングから帰りシャワーを浴び汗を流す。小町はもうそろそろ起きてくるから朝食をとっとと作る。夕飯はよく作ってもらっているから朝食くらいはおれが作るのだ。やだ!超妹思い!シスコンみたい!

…シスコンですね完全に。

朝食ができると小町が起きてくる。

 

「おはよ〜…」

「おう、おはよう」

 

簡易的な挨拶を済ませ2人で朝食をとる。朝食を済ませると家事を済ませ準備をする。おれが準備できたころには小町はいなかった。

マンションの駐輪場に行くと小町がいた。

 

「送ってお兄ちゃん!」

 

なにいってんの?歩いていくことも健康の秘訣だとお兄ちゃん思うよ?体重とか気にしてるなら歩いていけよ。今日は心を鬼にして断るとしよう。

 

「おう、乗ってけ」

 

あれ?条件反射でOKしちゃったよ。これが悲しいお兄ちゃんの性か…。

自転車を出すと後ろの荷台に小町がのり、体に手を回してくる。うっはー!おれの妹かわいー!…うん、我ながらキモい。

 

「今日は小町いるし事故んないでよー」

「いや待て、前のはあれ事故ではない。おれが怪我しただけで事故ではない。あれは事故未遂だ」

 

おれは高校入学初日、事故に遭い掛けてる。

新しい生活にワクワクした、というわけではなくただ単に入学式の時間を読み間違えて一時間早く家を出てしまった。自転車で歩道を走っていると車道のど真ん中に犬がいた。そして向こうからはリムジン。

その状況をみると気づいたら自転車を放り出し犬に向かって駆け出していた。犬を抱えると目の前にはリムジン。普通ならひかれて最悪死ぬ。だがおれにはサイドエフェクトとボーダーで培った戦闘経験があった。

犬を抱えたまま軽くジャンプ。ボンネットをグラスホッパーの要領で思いっきり踏みつけジャンプ。その瞬間ベコッと何かが凹む音がした。そのままリムジンを飛び越えた。だがあまりにも急にやったため着地に失敗。足首ひねって捻挫した。登校初日から遅刻+松葉杖というスタイルになった。

着地と同時に犬は飼い主であろう女の子の方へ走っていった。礼の一つでも言えやと思ったが助けた相手犬だった…。

リムジンの運転手に土下座する勢いで謝ろうとしたが運転手がいい人で簡単に許してくれたし治療費も出してくれた。よかった、余計な出費しなくて。というか生リムジンとか初めてその時みた。

向こうにいた飼い主の女の子が何か言いたそうな顔していたが軽く会釈して早々にその場を後にした。スピードワゴンはクールに去るぜ。

というかおろしたての制服を初日からドロドロにしたことの方がショックだった。

 

「お兄ちゃん?聞いてる?」

「お、おう」

 

どうやら過去を振り返っていたらぼんやりしていたらしい。

 

「ほんと事故んないでよー」

「事故んねーよ」

 

そんなこんなで小町を学校まで送り届けた。

 

 

「お前ら、2人組みつくれ」

 

体育教師の厚木の声により周囲の人間はさっさと組みを作る。おれは言うまでもなくぼっち。

 

「あんまり調子がよくないんで壁打ちしてていいですか?迷惑かけることになっちゃうので」

 

そう伝えると向こうもダメとは言えない。材木座とかいうハムの悲しげな視線をガン無視し壁打ちを始める。

完璧すぎる。これが長きにわたるぼっち生活により会得した好きなやつとペア組め対策。調子がよくない+迷惑かけるのダブル文句が相乗効果を発揮する上、やる気だけはあることをさりげなく伝えるのがポイントだ。そのうち材木座にも教えてやろう。多分どうでもいいから忘れてると思うけど。

 

テニスという競技自体はきらいではないしそこそこできる。少なくともそこらへんの素人よりは断然できる。

おれがテニスできる理由はボーダーで遊びでやったからだ。米屋のバックに入っていたボールを使って訓練室で出水とか緑川を混ぜてテニスやってたからな。ちなみにラケットはレイガストをラケット状に変形させて使った。本来レイガストは物を打つ物ではないためなかなか難しかったが、レイガストになれると普通のラケットだと超楽に感じる。緑川とか米屋のアタッカー組は最後の方スラスターまで使ってテニスしてたからな。最後は本部長に怒られて終わったけど。

と、そこでおれの使ってるものではないボールが転がってくる。壁打ちをとめそれを拾い、転がってきた方へ打ち返す。

 

「悪い、えっと、ひ、ヒキタニ君!」

 

恐らくおれのことなのだろうが、おれの名前はヒキタニではないのでスルーして壁打ちを続けた。

 

 

テニスが終わるとさっさと着替えて購買へ直行。適当にパンを見繕い自販機でマッカンを購入しようと自販機へ向かうと荒船さんがいた。

 

「ん、おお、比企谷か」

「ああ、荒船さん。ども」

 

B級11位荒船隊隊長荒船哲次だ。ボーダーでも数少ない進学校である総武高校に通う一人。アクション映画好き。この人になんかされたら犬を突き出すか水に落とせばいい。後で殺されるけど。

 

「まーたそのクソ甘いやつ買ってんのか」

 

マッカンを購入すると荒船さんから呆れたような声を出された。解せぬ。うまいのに。

 

「うちの隊みんなこれ愛飲してますよ?作戦室には箱であるレベルで」

「…お前らの隊は甘党しかいないのな」

「そうですね。そういやあの話って本当なんすか?」

「ん、ああ。本当だぞ。もうちょい先の話だけどな」

 

この人は将来的にパーフェクトオールラウンダーになるためアタッカーをやめるとか言ってた。前に会った時になんかスナイパーのトリガーをいじってるのを見かけたのだ。その時に聞いた。

 

「それって…全員スナイパーになりません?超偏ったスタイルだと思うんすけど…」

 

おれにとってはカモだけどな。

 

「こんくらいとんがったスタイルもなかなかいないだろうぜ。そのうちお前にヘッドショット決めてやるから覚悟しやがれ」

「当真さんでもできてないのにできると思ってんすか?」

「クソ生意気だなコラ」

 

そういって荒船さんはおれにヘッドロックをかける。痛い痛い痛い痛い。結構本気でやってんだろこの人。

 

「まぁそのうち的になれ。そん時はヘッドショット決めてやる」

「期待せず待ってますよ…」

「じゃあまたな」

 

そういって荒船さんは去っていった。

さて、おれもベストプレイスへ行くとしよう。

 

 

ベストプレイスでパンをもさもさしながらぼんやりする。風が気持ちいいぜ。

 

「あれ?ヒッキーじゃん」

 

振り返るとそこには常識欠如の天然アホの子由比ヶ浜がいた。

 

「なにしてんのこんなのとこで」

「見ての通り食事中だ」

「なんで外で食べてんの?教室で食べればよくない?」

「外で食うのが好きなんだよ。おめーは何してんだ?」

「あたし?あたしは罰ゲームの途中だよ」

「なに、罰ゲーム?おれと話すことが?」

「いや違うし!ただジュース買ってくるだけだし!」

 

よかったー、うっかり死んじゃうとこだったぜ。

 

「あのね、この罰ゲームゆきのんとやっててね、じゃんけんで負けた方がジュース買いに行くっていうのやろうっていったら「自分の肩くらい自分で持つわ。そんな矮小なことでささやかな征服欲を満たして何が楽しいの?」って渋ってたんだけどね、あたしが自信ないんだ!って言ったら乗ってきたの!」

「……」

 

雪ノ下さん?ちょっと単純すぎやしませんかね…。すっげー安い挑発じゃないですかそれ。単純通り越してバカに思えるわ。どんだけ負けず嫌いなんだよ。

 

「ま、内輪ノリだな」

「あれ、ヒッキー内輪ノリ嫌い?」

「おれがいる内輪ノリは嫌いだ。あ、でもおれがいない内輪揉めは好きだ。だっておれ関係ないし」

「うわぁ…。でもヒッキーもゆきのんと内輪ノリ結構あるじゃん。あたし入れないなーってこと結構あるし」

「雪ノ下のは不可抗力だ」

「へ?どゆこと?」

「人の力ではどうしよもないことって事だ。難しい言葉使ってるごめんな、お前には早かったな」

「な!言葉の意味がわかんなかったわけじゃないし!あたしだってちゃんと試験通ってきてんだからね!バカにすんなし!」

「では問題です。本能寺で織田信長を焼き討ちにした武将の名前を答えろ」

「ほんのーじ?なにそれ」

 

そっからかよ…。相当頭悪いなこいつ。

 

「あ、でも織田信長はわかるよ!誰がってのは、えーと、あ!わかった!徳川家康!」

「ドヤ顔で言ったところ悪いが大ハズレだ。正解は明智光秀」

「えー!なにそれ引っ掛けじゃん!」

「いやこれ小学生でも知ってんぞ…」

「……」

 

こいつどうやって総武高校入ったんだ?まさか裏口入学とかじゃねぇだろうな。

 

「あれ、比企谷くんと由比ヶ浜さんだ」

 

声がした方を向くと、そこにはなんとも可愛らしい顔立ちをし、テニスラケットを持っている生徒がいた。

 

「おー、さいちゃんじゃん!よっす!」

「よっす。二人は何してるの?」

「やー別に何も?さいちゃんは練習?」

「うん、前からお昼休みもコート使わせてくださいって頼んでてやっとOKでたんだ。あ、そういえば比企谷くんすごくテニスうまいよね!」

「そーなん?」

「うん!フォームがすごく綺麗で壁打ちなのにずっとラリーが途切れないんだ!」

 

なぜ知っている。もしかしておれのこと好きなの?

 

「いやー照れるなーはっはー…。で、誰?」

「ええ!同じクラスじゃん!信じらんない!」

「あはは…。えっと、同じクラスの戸塚彩加です」

「あー…おれ女子と関わりとかないから…」

 

なんなら男子ともないけどな…。

 

「僕、男なんだけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい?

 

 

 

体育で再びぼっちで壁打ちをしようと壁へ向かうところで肩を叩かれ振り向くと、人差し指がおれの頬に食い込んだ。

 

「あ!引っかかった!」

 

戸塚だった。弾けるような笑顔でおれを見る。

ええー何この気持ち。これが男でなかったら速攻で告白して振られるまである。振られちゃうのかよ…。

 

「どした…」

「えっと、実はいつもやってる子が今日お休みなんだ。それでよかったら、僕とやらない?」

 

上目遣いすんな。破壊力がすごいから。頬染めんな頬。

 

「ああ、おれも一人だしいいぞ…」

「ありがとう!やったぁ!」

 

戸塚ルートまっしぐらな気がしてならない。

 

 

しばらくラリーを続けてると戸塚がラリーを止める。

 

「ちょっと、休憩しようか」

 

おれは体力的にはまだ全然余裕があったが、戸塚の提案とあれば断る理由は何一つない。むしろ戸塚の提案ならなんでも受けるまである。

 

「やっぱり比企谷くん上手だね」

 

近い近い近い近い近い近い!

 

暫く無言で他の人がやってるのをぼんやり眺めている。ふむ、この中ならおれかなり上手方かもしれんな。

 

「…あのね、実は比企谷くんに相談があるんだけど」

「ん?」

「実はうちのテニス部、すっごく弱くてね、3年が次の大会で抜けたらもっと弱くなっちゃうと思うんだ。それに人数も少ないの」

「なるほどな…」

 

確かにあまりテニス部が活躍しているという話は聞いたことない。そもそもロクに活動してる話すら聞いたことないレベルだからな。

 

「それで、比企谷くんさえ良ければ、テニス部に入ってくれないかな?」

「ああ、そういうことね…」

 

思わず二つ返事で了承してしまうとこだったがなんとか堪える。

 

「すまんが、おれは既に部活、いやあれ部活か?まぁなんでもいいけど部活っぽいのに入ってるんだ。それに、おれ自身仕事があってな。放課後はロクに時間とれないんだ…」

 

今現在の奉仕部とボーダーの防衛任務で結構手一杯なのだ。さすがにそこからテニス部と言われたらムリだ。テニス部と防衛任務の併用も絶対に無理だし。防衛任務は給料はいるから絶対に外せない。生活がかかっているのだから。

 

「そっか…。じゃあしょうがないね…」

「悪いな…」

 

なんでだろう、すごく心が痛むぜ…。

 

 

「というわけでテニス部を強くする方法を考えてほしい」

「意外ね、あなたが自分から動くなんて」

「人のことをなんだと思ってんだよ。いや、そのなんだ?あんま相談とかされたことなくてな。ちょっと気になったんだよ。それにまさか本当におれが入部するわけにもいかんだろ」

「あら、身の程をわきまえいるのね。テニス部があなたを追い出すことで一致団結することはあってもそれは技術向上には繋がらないのだしね」

 

追い出す前提なのかよ…。

 

「敵を排除するための努力をするだけであって自分を高める努力をする人は誰もいないでしょうね。ソースは私」

「実体験かよ…」

「ええ、私は帰国子女だったのだけれど中学に編入した時クラス、いえ、学校中の女子が私を排除しようと躍起になったわ。でもその中で自分を高めて私に負けないようにする人は誰もいなかったわ。あの低脳ども…」

 

なんだか雪ノ下の背後からどす黒いオーラが出てるんですけど…。おれはこれどうリアクションするべきなの?

そんなこと考えていると扉が開く。

 

「やっはろー!依頼人連れてきたよ!」

「お、お邪魔します…。あ、比企谷くん!」

「戸塚…」

「比企谷くんの部活ってここだったんだね!」

「ほらヒッキーもさいちゃんの話聞いてたでしょ?だから奉仕部の一員であるこのあたしがここを紹介してあげたってわけ。ふふん」

「あの、由比ヶ浜さん」

「ゆきのん、お礼とか全然いいから。部員として当たり前のことしただけだし?」

「いえ、あなたは別に部員ではないのだけれど」

「違うんだ⁈」

 

違うんだ。気づいたら居座ってるパターンじゃないのかよ…。

 

「入部届けも貰ってないし顧問の承認もないから部員ではないわね」

「書く書く書くよ!入部届けくらい何枚でも書くよー!」

 

由比ヶ浜が涙目になりながらルーズリーフを取り出す。

どんだけ入りたいんだよ。

 

「おれ入部届けとか出してないから部員じゃないよな。じゃあ帰っていい?」

「あなたは依頼対象よ。入部届けの必要はないわ。その人格が直ってもあなたは私の下っぱ、いえ、雑務用人材として働いてもらうわ」

 

えー既に部下決定なの?嫌だよこんな上司。まだ沢村さんの方がマシだな。

 

「それで戸塚彩加くん。奉仕部に何を依頼したいのかしら?」

「え、えっと、テニスを強くして欲しくて。僕が強くなればみんなきっとやってくれると思うから…」

「そう。でも残念なことに奉仕部はあくまで自己変革を促すだけよ。強くなれるかはあなた次第だわ」

 

それを聞くと戸塚は明らかにしゅんとする。自信がないのだろうか。手助けしてやりたいとこだが上司の命令には逆らえん。

 

「由比ヶ浜さん、あなたがどんな説明をしたか知らないけれど一人の純粋な子の淡い期待が打ち砕かれたわよ」

「へ?でもゆきのん達ならどうにかできるでしょ?」

 

多分、由比ヶ浜は挑発のつもりで言ったわけではないのだろうけど雪ノ下はなぜか挑発として受け取った。

 

「ふぅん。あなたも言うようになったわね。いいわ、その依頼受けるわ。それで、テニスの技術向上をすればいいのね?」

「は、はい!」

「やるのはいいけどなにやんだ?」

「そうね、死ぬまで走らせて死ぬまで素振り、死ぬまで練習かしらね」

 

「雪ノ下、この世界には世界樹の葉もリレイズ使える白魔導士もザオリク使える僧侶もいないからな」

 

殺しちゃだめだからね?

 

「何を言ってるの?まぁいいわ。じゃあ明日からコート使えるように申請する必要があるわね。戸塚くん個人としては使えるけど奉仕部と共同で使うよう申請しなくてはならないわ」

 

「あー、じゃあおれやっとくよ。生徒会に知り合いいるし」

 

しかも副会長だからな。

 

「そう?じゃあよろしくね比企谷くん。その間私たちは練習メニューを考えましょうか」

「あいよ、戸塚、行くぞ」

「あ、うん!」

 

守りたい、この笑顔。

 

 

生徒会室前

 

ドアをノックする。

 

「はーい」

 

お、綾辻の声だ。よかった、これで生徒会長とかでてきたらきょどってた可能性がある。

 

「あれ、八幡くん?どうしたの?」

「ああ、ちょっとテニスコートの使用申請をしにな。昼休みに使えるようにしたいんだが」

「テニスコート?じゃあ書類書くから入っ、て…」

 

綾辻の視線の先には、戸塚がいた。

 

「八幡くん、その子は?」

「あ、えっと、テニス部の戸塚彩加です」

「八幡くん、クラスに女の子の友達なんていたんだ」

 

あれ?なんでジト目?おれなにもしてないよ?まさかおれがこんないたいけな子の弱味を握ってなんかしてるとでも思ってんの?

 

「綾辻、何を勘違いしてるか知らんが戸塚は男だ。おれにそっちの趣味はない」

「……え?男?」

「あ、僕、男です…」

 

まぁ、そのリアクションはわからんでもない。だって容姿は中性的でしかもあまり身長も高くない。肌もやたら白いし足も細い。ぶっちゃけそこらへんのギャルとかと比べたら戸塚の方が女子力高そうだし。

 

「あ、えっと、ごめんね!女の子だと思った…」

「僕、そんなに弱そうかな…?」

「とりあえず申請をしたいんだが…」

「あ、うん。ちょっと待ってね」

 

それから綾辻が出した書類を書き、正式に申請が通る。これでおれたちもテニスコートが使えるようになった。

 

「うん、受理したよ」

「サンキュー。じゃ、おれたち戻るな。行くぞ戸塚」

「うん。綾辻さん、ありがとうね!」

「うん!戸塚くん練習頑張ってね!八幡くんも」

「へいへい…」

「比企谷くんもありがとうね」

「い、いや、これくらいなんとも…」

 

うん、この笑顔が見れればなんでもいい!スマイル イズ オールオッケー!

 

 

次の日から昼休み練習が開始された。

戸塚は基礎体力がないそうなのでまずは走り込みと筋トレから始まりその後球出し練習といった感じだ。まぁ昼休みでできるのはこのあたりが関の山だろう。

走り込みは15分間走。コートをひたすら15分走り続ける。練習はなぜか由比ヶ浜も参加していた。おれは言うまでもなく参加だ。ひたすら走るだけだが普段から走ってるおれは特に思うことなくこなす。戸塚は一応運動部なだけあり由比ヶ浜よりは走れてるがやはり体力は少ない。でも汗を流しながら苦しそうに走る戸塚は謎の艶かしさがあり内心ドキドキしていたり。

15分間走が終わるとほぼ休まず筋トレ。これもおれは余裕。戸塚も由比ヶ浜も筋力はないようでかなりきつそうだ。

筋トレが終わると五分休憩。多少汗は出ているがまだまだ余裕だ。

 

「意外ね、あなた体力あるのね」

 

雪ノ下の感想は最もかもしれない。おれが普段から走ってるような人種には思えないだろうし。

 

「まぁ、鍛えてるからな」

 

戸塚と由比ヶ浜はベンチに座って体を休めている。しかしそこで疑問が浮上する。

 

「雪ノ下、お前はやんないのか?」

 

雪ノ下がピクリと反応する。

 

「え、ええ。私は時間とか回数を図る係よ」

 

あー、これは体力ないからやりたくないパターンですね。

 

「お前人に体力つけろとか言ってるくせに自分はないのかよ。まず自分がつけてから指導しろよな」

「仕方ないじゃない。私技術には自信があるけど体力には自信がないのよ…」

「じゃ、鍛えろ。体力は鍛えればある程度つくけど鍛えないとどんどん落ちてくぞ」

「……」

「お前の言葉を借りるなら、自信がないのに鍛えないのは逃げてるってやつだな。なんでもかんでもお前がおれより優れてると思うな。ま、お前が総合的に見ておれより優れてるのは確かだけどな」

「……」

「まぁなんでもいいや。戸塚、そろそろ始めんぞ」

「あ、うん!」

 

そして球出し練習が始まった。おれが球出し。雪ノ下がフォーム指導、由比ヶ浜は球拾い。

しばらくやってると戸塚が球を取り損ね、転ぶ。やばい、すごい罪悪感。

 

「うわ!さいちゃん大丈夫⁈」

「うん、大丈夫だから続けよ」

「…まだ、続ける気なの?」

「うん、みんな付き合ってくれてるしもう少し頑張りたい」

「そう、なら由比ヶ浜さん、少しここをお願いね」

 

なぜおれはシカトするし。

 

「僕、何か怒らせちゃったかな?」

「いやーそれはないと思うよ?ゆきのん頼ってくる人見捨てたりしないから」

「多分救急箱でもとりにいったんだろ。じゃ、続けんぞ」

 

なぜかこの瞬間、おれのサイドエフェクトが何か警告を発した。

その理由は

 

「あ!テニスしてんじゃん!」

 

侵略者が現れたからだ。




今年度最後です。それでは皆様よいお年を。

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