ランドマークタワーの屋上にいるということを理子に聞いて外に出ると湿った海風が強く吹いていた。
うわ、空の雲、雷雲じゃないよな……
周りフェンスないから落ちたら死ぬなー
「キーくぅーん!ユーユー!」
蜂蜜色の髪を風になびかせながら例の改造制服を着た理子が駆け寄ってくる。
そして、キンジに抱きついた。
「やっぱりキーくん達チームは最高だよ!理子にできないことを平然ととやってのける!そこにしびれるあこがれるぅ!」
理子は大きなふたえの目をキラキラさせて胸元からこっちを見上げてくる。
頭にでかい赤りぼんを増設してるな。
「キンジ、優。さっさと二つともあげちゃて。なんかソイツが上機嫌だとムカつくわ」
「おーおーアリアンや。チームメイトとられてジュラシーですね?わかります」
ハハハ、アリアんって
理子はアリアを横目で見ながらキンジの胸に頬擦りしている。
ちがうわよぎぃー!とアリアが怒鳴るのを見て俺はケースに入った弾丸を渡す。
「ほら」
「あ……」
短く理子は言ってケースを一瞬見てから何かを決意するように目を閉じて開いた。
「それ捨てといてユーユー」
え?
目を丸くして
「捨てる?大切なものなんだろる?大切なものなんだろ?」
「うん……大切な宝物だよ……でも、理子のヒーローは理子を助けてくれなかったからもういらないんだ」
それってまさか……
「さ、さ!キー君出して出して!」
俺が何かを言う前に理子はキンジにおねだりを始めてしまったので弾丸はポケットに入れておいた。
「やるから離れろ」
十字架を見た理子は弾丸とは対照的に声にならない喜びの声をあげたかと思うと首につけていた細いチェーンに、手品のような素早さで繋いでしまう。
「乙!乙!らん・らん・る―!」
理子は跳び跳ねたり両手をしゃかしゃゃかふりまわすわ最高のハイテンションぶりだ。
おい、理子スカートの中見えるぞ……キンジ目をそらしてるし……
にしても……
弾丸の入ったケースをギュッと握ると俺はため息をついた。
「理子。喜ぶのはそのくらいにして、約束はちゃんと守るのよ」
怒りモードのアリアさんが腕組みしてこめかみをぴくぴくさせながら釘を刺す。
「アリアはほんっと、理子のこと分かってなぁーい。ねえ、キーくぅーん」
理子がキンジを手招きする。
キンジが近づくと理子は蜂蜜色の髪を留めている大きな赤りぼんを向けている。
「お礼はちゃんとあげちゃう。はい、プレゼントのリボンをほどいてください」
ん?なんだろう?
キンジが理子のリボンをといた瞬間、理子はキンジにそっとキスをした。
おいおい……
一瞬、意味がわからなかったがキンジの感覚が変わったのを見て納得した。
ヒステリアモードに
「ぷはぁ」
唇を離した理子がぺろっとおまけにキンジの鼻をなめる。
「り……りりりりり理子おッ!?な、なな、ななな何やってんのよいきなり」
「ごめんねぇーキーくぅーん、ユーユー。理子、悪い子なのぉ。この十字架さえもどってくれば理子的にはもう欲しいカードは揃っちゃったんだぁ」
にい、とあのハイジャックの時俺と戦った時の目で笑った。
「もう一度言おう悪い子だ、理子約束は全部ウソだった、って事だね。だけど……俺は理子を許すよ女性のウソは罪にならないものだからね」
相変わらずお前、ヒステリアモードの時は背筋かかゆくなるセリフを平然と言うよな……
まあ、それはそれとして
「ローズマリーの情報も嘘……か。ま、別にいいけどな」
理子が知ってる範囲の情報はジャンヌに貰ったからな
「とはいえ俺のご主人様は理子を許してくれないんじゃないのかな?」
怒りモードのアリアさんはキスのショックで固まってる。
「アリア」
キンジがパチンと指をならすとアリアははっとして犬歯をむいた。
「ま、まあ……こうなるかもって、ちょっとそんなカンはしてたけどね!念のため防弾制服を着ておいて正解だったわ。キンジ、優、闘るわよ。合わせなさい」
はいよ
日本刀に手を伸ばしながら俺は思う。
だが、戦闘狂の暗示はまだ、かけない。
「くふふっ。そう。それでいいんだよアリア。理子のシナリオにムダはないの。アリア達を使って十字架を取り戻して3人を倒す。キーくんも頑張ってね?せっかく理子が、初めてのキスを使ってまでお膳立てしてあげたんだから」
「先に抜いてあげる、オルメスここはシマの外、その方がやりやすいでしょ?」
理子はスカートからワルサーをP99を2丁取り出した。
「へえ、気が利くじゃない。これで正当防衛になるわ」
アリアもガバメント2丁を抜く
「なあ、理子」
その間に割り込むように俺は立った。
「何?ユーユー?最後だから聞いてあげるよ」
もし、この事実を知っていたなら俺はハイジャックの時、理子と戦えなかった。
忘れていたからこそ戦えたのだ。
「ジャンヌから聞いたんだお前がアリアを狙うのはブラドに成長を証明させるためだろ?」
「ジャンヌから聞いたんだ?それで?」
「なら、一つ提案がある」
俺はにやりと笑いアリアとキンジ、理子を見回しながら
「みんなでブラドを逮捕しようぜ」
理子が目を見開いた。
だが、すぐに目を落とすと
「無理だよユーユー……ブラドには勝てない……」
「やってみなくちゃわからないだろ?」
子供の頃より俺は強くなった。
一人で無理でもみんなで力を合わせれば……
「なあ、理子、アリア達と戦わなくてもいいだろ?二人が嫌がっても俺がブラドを……」
「……ざけ……な」
「え?」
理子はかっと悪魔のような表情で俺を睨み付ける。
「ふざけるな優希!お前のその言葉を8歳の時、聞いた!でもお前は戻ってこなかった!ブラドから逃げ出してイ・ウーから武偵高に来たときお前を見てまさかと思った!だけど神戸で確信したよ!上辺だけ助けて、奥までは助けない!お前は最低な男だ!」
「理子!」
「私を助ける?はっ、笑わせる!お前は今、銃を私に向けてるじゃないか!」
これは理子の悲しみ……裏切られた俺への失望……
そうか……理子ごめんな……
「なら」
俺はすっと理子に背を向ける。
「ゆ、優あんた!」
アリアが戸惑った声で俺を見る。
「悪いなアリア、キンジ、今回だけ俺、理子のヒーローになるから」
「ど、どういうつもりだ優希!」
理子が戸惑った声で俺に言ってくる。
「言ったろ?」
俺は静かに思い出した言葉を紡ぐ
「必ず……いつかブラドに勝てるだけの力をつけて帰ってくるから!絶対に理子ちゃん助けられるヒーローになって絶対に帰ってくるだから待ってて」
我ながら子供の頃とはいえ陳腐なセリフだな。
「でも、これが終わったらブラド倒すぞ理子。キンジ、アリア気絶したら負けな」
ルールを作ってキンジと対峙する。
そういや、キンジと戦うのはじめてだな。
依頼主さんよ……ま、気絶させるくらいなら契約違反じゃないよな?
「2対2だな」
キンジがべレッタを抜いたので俺もガバメントを抜きながら
「そうだな。キンジ、悪いけど俺の勝ちだ」
「どうかな?」
「ふざけるな!」
振り返らず俺はその言葉を背中に受ける。
そして、静かに振り替えると
理子の左右のツーテールが大振りのナイフを抜いていた。
「優希!お前は私の敵だ!お母様がくれたこの十字架は理子に力をくれる!」
「なら、後ろから撃てよ。抵抗しない」
そういって俺は再びアリア達と対峙する。
「優希!オルメス!遠山キンジ!お前達はあたしの踏み台になれ!」
駄目か……まあ、罪を受ける時が来たってことか……
背中に攻撃を覚悟した瞬間
バチッッッッッ!!
小さな雷鳴のような音が上がった。
音に俺が振り替える。
その愛らしい顔をいきなりこわばらせた理子は半分だけど、振り返った。
「……なん……で、お前が……」
と呟きその場に膝をついた。
「理子!」
理子が倒れてその理子を倒した相手が見えてくる。
な、なんでお前が!
「小夜鳴!」
そう立っていたのは大型の猛獣用のスタンガンを持つ紅鳴館の管理人だった。