「初めまして、正午から面会の予定をいただいているものです。本日よりこちらで家事の手伝いをさせていただくハウスキーパー3名を連れてきました」
おいおい、理子顔ひきってるぞ……というかいきなり失敗じゃないのかこれ……なにせ、この屋敷の管理人……
「い、いやぁ。意外なことになりましたねぇー……あはは……」
そう、彼は武偵高の非常勤講師の小夜鳴先生だったのだ。
館のホールに入ると、狼と槍……いや、串? の紋章の旗が壁に貼られてある。
おいおい、アリア大丈夫か?びびりすがだろ……
「いやぁ、武偵高の生徒さんがバイトですかぁ。まぁ、正直な話難しい仕事でもないので誰でもいいと言えばいいんですがあはは、ちょっと気恥ずかしいですね」
前に、銀狼にやられた腕にギプスをつけている小夜鳴先生。
理子とアリアがソファーに座るとにこにこしながら俺に
「さあ、あなたもどうぞ」
ああ、そうかレディーファーストか……この様子じゃ俺の正体もばれてないな。
「ありがとうございます」
とぼろを出さないようにアリアの横に座る。
どかりとではなくゆっくりと
小夜鳴とキンジが座る。
「小夜鳴先生、こんな大きな屋敷に住んでるんですね。びっくりしました」
「いやぁ、私の家じゃないんですけどね。私はここの研究施設を借りることが時々、ありましていつのまにか管理人のような立場になってしまっていたんです。ただ、私は研究に没頭してしまう癖がありますからね。その間に不審者に入られたりしたら、後でトラブルになっちゃいますから……むしろ、ハウスキーパーさんが武偵なのは良いことかもしれませんね」
「私も驚いております。まさか偶然、学校の先生と生徒だったなんて」
さすがの理子も想定外か……
「ご主人様がお戻りになられたら、ちょっとした話の種になりますね。まあ、この2人の契約期間中にお戻りになられればの……話ですが」
理子がブラドが帰ってくるか確認してるな。
さて……
「いや、彼は今とても遠くにおりまして。しばらく、帰ってこないみたいなんです」
そうか……帰ってこないのか……
安心したようなキンジを横目に俺は逆に残念に思う。
ここで逮捕すりゃ手間も省けるんだがな。
ジャンヌに脅されてもまだ、俺は戦う気だからな。
「ご主人は……お忙しい方なのですか?」
カナの顔で理子が訊ねる。
「それが実は、お恥ずかしながら詳しくは知らないんです。私と彼はとても親密なのですが直接話したことが無いものでして」
親密なのに話したことがない?
それは親密と言えるのか?
「ところで月島さんでしたか?」
「はい」
小夜鳴にいきなり声をかけられても慌てずに穏やかな笑みを浮かべて言った。
古賀先輩いわく、大和撫子が大人の男性 の心をくすぶるらしい。
もちろん、個人差はあるが……
「あなたも武偵高の生徒さんですか?私の授業では見た記憶がないんですが……」
「実家の都合で人材派遣会社で働かせて頂いています。私は武偵じゃありませんので警備ではお役にたてませんが家事では精一杯奉公させて頂きたいと思っています」
「今は絶滅した大和撫子のような方ですね月島さん。こちらもよろしくお願いしますよ」
と好印象なんだが……はやく、終われこの生活と心の中で俺は思うのだった。