緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第85弾 覗きはもうやらねえ!

オートバイを狩り、無人の工事現場に突入する。

なるほど、土嚢が破られた形跡がある。

レキが背中から、胸の前にドラグノフを持ち直す。

 

「レキ、麻酔弾持ってるのか?」

 

「いいえ」

 

「・・・」

 

 

となると、射殺することになるか・・・

俺も麻酔弾をもってないしな・・・

猛獣駆除は武偵の仕事の中で俺は嫌いな部類に入る。

 

「通常弾で仕留めます。 追ってください」

 

神戸でもその戦闘力は見せつけられたがレキは任務を眉一つ動かさず着実にこなす。

ミンとの戦いにこそ敗れたが春蘭との狙撃戦では圧勝した。

レキがいなければ奏ちゃんを助けることはできなかったし、俺も死んでいただろう。

オートバイをローにしてそろりと、足跡を追跡していく。

殺気!

はっとして、ミラーを見ると狼が迫ってきている。

後ろには無防備のレキが・・・

 

とっさに、バイクを飛び降り、狼と相対する。

日本刀を逆に持つと薙ぎ払う。

狼の前足と日本刀が激突し、狼は奇襲で勝てないなら撤退するように訓練されているらしい、後退し、10メートルはある学園島の工事の亀裂を飛んでいた。

 

「へっ、なめるなよ」

 

オートバイに飛び乗ると加速、クレバスにそのまま突入する。

当然、そのままでは超えられない。

 

「レキ! つかまれ!」

 

工事のクレーンに向けてワイヤーを発射した俺はレキと共に空に舞い上がる。

オートバイがクレパスに落ちていったがすまん武藤・・・

落下しながらガバメントを抜くが駄目だ・・・すでに、射程外だ。

そんな時、少女の声が俺の耳に届いた。

 

「私は1発の銃弾」

 

ドラグノフの先端には建設中の新棟がある。

その工事用の階段を狼はたんたんとジャンプしながら駆け上がっていく。

レキの射程内だ。

この距離なら確実にレキなら殺る。

 

「銃弾は心をもたない。故に何も考えない。 ただ、目的に向かって飛ぶだけ」

 

あばよ狼

 

ダン

 

空中からの射撃で薬莢が宙をまい、銃弾は狼に命中せず、その背中をかすめただけだった。

外したのか?レキが?いや、そりゃ、人間なんだからミスぐらいするだろうが春蘭とうちあったあのレキがミスるとは・・・

 

「レキが外すなんて珍しいな。 狼だから躊躇したのか?」

 

狼がさらに一飛びして屋上に逃げてしまう。

あの先は海だから追い詰めたな。

レキは無表情のまま、ドラグノフを肩にかけなおした。

そして、抑揚のない声で歩きながら言った。

 

「外していませんよ」

 

 

 

 

 

 

レキと共に屋上に向かい、そっと扉の影から屋上の様子を伺う。

まず、飛び込んできたのはフェンスのない屋上、そして、あの銀狼が悠然と立ってこちらを睨んでいる。

止めをさそうと、ガバメントを持って近づこうとした瞬間、俺の防弾制服をレキが掴んだ。

 

「レキ?」

 

見るとレキはふるふると首を横に振り、狼の方を指さした。

 

「?」

 

見ると、狼がぷるぷると足を振りわせたかと思うとどぅと地面に崩れ落ちた。

見ればその背、首の付け根あたりに小さな傷がある。

 

「脊椎と胸椎の中間、その上部を銃弾でかすめて瞬間的に圧迫しました」

 

レキはそっと、狼に語りながら近づいていく。

 

「今、あなたは脊髄神経が麻痺し、首からしたが動かない。 ですが、5分もすればまた、元のように動けるようになるでしょう」

 

外したなんてとんでもない・・・

なんていう射撃だよ・・・

俺のウィークポイントである遠距離ができる子。

狙撃の距離でレキを敵に回せば絶対に勝つことはできないな・・・

ある意味、俺にとってはアリア以上に戦いたくない相手だ。

 

「逃げたければ、逃げなさい。 ただし、今度は2キロ四方、どこに逃げても私の矢があなたを射抜く」

 

噛んで含めるように、しかし、無表情でレキは言う。

狼は言葉を分かっているかのようにレキを見ている。

1分・・・2分・・・時は過ぎていく。

 

「主を変えなさい。 今から、私に」

 

その言葉に答えるように狼はよろよろち立ち上がるとレキのふくらはぎにすりすりと頬ずりを始めた。

全くこの子は・・・本当に凄い奴だよ

ガバメントを仕舞いながら

 

「で? どうすんだレキそいつ」

 

「手当します。 怪我してますから」

 

「で?」

 

「飼います」

 

「ええええ!」

 

「そのつもりで追いましたから」

 

そ、そうだったのか

 

「だが、女子寮はペット禁止だぞ! いくらなんでもそいつを隠して買うのは無理だろう」

 

「では、武偵犬ということにします」

 

武偵犬とは警察犬などの武偵版なんだが、普通はレピアやインケスタが飼うことが多い。

少なくてもスナイプ飼ってる奴なんて俺は見たことも聞いたこともない。

 

「狼だろ! 武偵狼だ!」

 

「似たようなものです」

 

ま、まあ似てるのか?

 

「お手」

 

といわれると狼は早くも手をレキの手に乗せた。

変り身はええ!

 

「まあ、そいつはレキに任せるんだが・・・」

 

「?」

 

「そろそろ服を着ようぜレキ」

 

そういいながら俺はそっと上着をレキに差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

あのあと、レキと別れてから学校にもどるのもなんなので寮に直接帰ったんだが・・・

 

「ただい・・・ま?」

 

がちゃりと扉を開けた先には、窓を前に俺を背中にしたアリアさんの後ろ姿だった。

ま、まずい。

本能的に感じた恐怖に逃げようとしたが

 

「ゆーう。 次はあんたの番よ」

 

え?どういう意味?

 

「キンジは東京湾で泳いでるわ。 説明してもらおうかしら? なんであんなところにいたの?」

 

「ま、待てアリア!誤解だ! 誤解なんだ! あれは村上のせいで!」

 

「村上? ああ、あの眼鏡の生徒ね。 女子全員で風穴地獄に送ったわ」

 

死んだな村上・・・いい奴ではなかったがまあ、自業自得だな。

 

「それとのぞきに何の関係があるのかしらゆーう」

 

逃げるんだ!

俺は全速力で部屋を飛び出そうとした。

だが。扉の前に立ちふさがるものがあった。

 

「ま、マリ!」

 

「どうしてですか?」

 

マリはツインテールの前髪で目が見えない。

 

「と、というと?」

 

「どうして、優先輩は私だけじゃなくて他の女の人に浮気するんですか! 覗きなんかしなくてもいつでも見せてあげます。 矯正が必要なんですねフフフ」

 

そういいながら、CZ78を取り出すと

 

「浮気ものは死んでください」

 

パンパンパン

 

「ぎゃあああ!」

 

「風穴ぁ!」

 

ドドドド

 

部屋に飛び込みながら左手でマリの銃弾をビリヤード撃ち、アリアのガバメントを銃弾切りで交わしながら死にものぐるいで窓に飛び乗る。

前は海だ。

2人は銃を俺に向ける。

合計3丁の銃が・・・

 

「ま、待てアリア、マリ!話せばわかる! 話せば!」

 

「問答・・・」

 

「無用です!」

 

ドドドドドドドドド

 

パンパンパンパンパンパン

 

「わああああ!」

 

ベランダから俺は悲鳴をあげて落下した。

ワイヤーを発射したがアリアがワイヤーに銃弾を打ち込み軌道を強引に変える。

 

「!?」

 

落下防止用のネットでトランポリンのように跳ねると俺は暗い東京湾に落ちていった。

 

「ぶは!」

 

海面に出るとキンジがいたので

 

「なあキンジ・・・覗きはダメだよな」

 

「ああ・・・」

 

そういいながら俺たちは力尽きたように海に沈んでいった。

 

 

 


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