緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第81弾 優希の位置づけ

ザアアと降ってきた雨を強行突破しようと試みるがやはり、無謀だったか・・・

びしょびしょになりながらシャッターの閉じた店の軒下に避難する。

うええ・・・ついてねえ・・・

雨は理子のせいじゃないがなんとなく、あいつのせいにしたくなる・・・

携帯電話を開いてから誰かに傘を頼もうか考える。

なんだかマリなら持ってきてくれそうな気がしたが選択肢からなんとなく外す。

そうなると・・・

そんなことを思っていると着信があった。

 

実家

 

「・・・」

 

ディスプレイに表示された文字を見ながら

無言で通話ボタンを押し込んで耳に当てる。

 

「・・・」

 

相手も無言

 

「・・・」

 

「・・・」

 

20秒ぐらい沈黙が続いたあと

 

「優兄?」

 

なんだお前かよ

 

「悪い悪い。 お前か咲夜久しぶりだな」

 

「う、うん。 どうしても優兄に電話したくて月詠に頼んで電話した」

 

「ってことは月詠もそこに?」

 

「う、うん。 近衛の人達を警戒してから優兄によろしくって」

 

「たくあいつは・・・」

 

椎名の家の人間にはとことん甘いんだから・・・

咲夜は俺の妹だ。

義理とかじゃねえぞ正真正銘の妹だ。

 

「それで、何か用か?」

 

「よ、用はないんだけど・・・優兄こっちに戻ってくる予定あるの?」

 

「いや、ないけどなんで?」

 

「月詠に聞いたの。 優兄剣を使えるようになったって」

 

「ああ・・・」

 

俺が椎名の家を追い出されたのはあのトラウマのせいで剣が握れなくなったのが原因の1つだからな・・・

単純に咲夜はそれが取り除かれれば戻れると思っているのかもしれない。

実際はそれだけじゃながな・・・

 

「予定は今のところ無いな」

 

「そう・・・なの?」

 

しゅんとした様子が向こうから伝わってくる。

うーん、1回ぐらい実家に戻ったほうがいいかな?

どうせ、自衛隊を乱用したことについても呼び出し受ける可能性もあるし・・・

ま、約束はできんから話題を返る。

 

「鏡夜は元気か?」

 

「鏡兄は元気すぎるぐらい元気。 今日も近衛の人たちを相手に引けをとっていなかった」

 

「へー、月詠は倒せたのか?」

 

「ん? 月詠には勝ててない」

 

だろうな・・・

月詠は椎名の持つ戦力『近衛』総隊長である。

いわば椎名の血を継いでいないという条件での椎名の最強の戦力である。

俺が家を出たのはずいぶん前だが、あいつには最後までかつことができなかった。

それは鍛錬を続けているはずの弟も同じようだった。

うん、今やっても負けるかもな俺。

 

「志野さん元気か?」

 

「お母さん? 今日も部屋で1日中仕事してたみたい。 体は最近、よくないみたいだけど・・・」

 

「そう・・・か」

 

志野さん、俺の母親を母と呼ぶことはできない。

椎名の家からは勘当と同じ扱いになってるからな・・・

 

「ねえ、優兄、帰ってこないの? こないなら東京行っていい?」

 

「馬鹿言うなよ。 志野さんが許すはずないだろ?」

 

「うう、つまらない・・・」

 

電話の無効でぷくうと頬を膨らませる妹の姿を思い浮かべながら俺は笑った。

 

「ハハハ、心配するなってそのうちまた、帰るからさ」

 

「いつ?」

 

うーむ、具体的に言うのは難しいんだが・・・とりあえず

 

「今、事件を抱えててな。 それが終わらないと帰れないんだ」

 

時期を曖昧にしておく。

 

「仕事?武偵の仕事なの?」

 

「あ、ああ」

 

まさか、泥棒するんだと言えない。

理子め、妹に嘘つかせやがって。

おしりぺんぺんしてやるぞ。

雨が振る空を見上げながら俺はいろいろなことを妹としゃべった。

東京での暮らしや出会い。

 

「じゃあ、そのアリアさんって優兄の恋人なの?」

 

ま、まてなんでそうなるんだ?

 

「はぁ? そんな分けないだろ」

 

「じゃあ、レキさん?」

 

なんで、レキが出てくるんだ?

 

「違う!」

 

「理子さんなの?」

 

「いや、だから女の子=恋人はないだろ」

 

「で、でも同じ屋根の下で結婚前の男女が寝泊まりするなんて・・・その・・・」

 

ああ・・・咲夜は純粋培養だからな・・・よくいえば純粋。悪くいえば鈍感なのだ。

 

「違うって。 みんな友達だ! 恋人なんていねえよ!」

 

「そ、そうなの? よかった」

 

何がいいんだよ・・・

 

「優兄さんに恋人ができたらますます、帰ってきてくれないかなって・・・」

 

そうか・・・寂しいのか?咲夜・・恨んでないのか? 俺を・・・

なあ・・・咲夜・・・

その言葉は怖くて口にすることができなかった。

 

「咲夜・・・」

 

「ん?」

 

「お前は・・・」

 

「咲夜誰と話している?」

 

そんな時、電話の向こうで男の声が聞こえてくる。

 

「あ、鏡兄・・・」

 

「鏡夜兄様だ。 ん? その電話番号・・・貸せ!」

 

「嫌!」

 

電話の向こうで咲夜が抵抗するような音が聞こえた。

 

「おい! 鏡夜! 昨夜に乱暴するな!」

 

「やはりお前か人殺し」

 

突き刺さるようなその声に普段の俺なら

黙るが今回は妹のこともある。

 

「それとこれとは関係ないだろう。 咲夜に乱暴するな」

 

「妹をどうしようと俺の勝手だ。 家から追い出された犯罪者は黙っていろ!」

 

「く・・・」

 

 

「大体、家を出たかと思えば武偵なんかになって剣を捨ててクズな人生を歩むお前が一体なんだ? この前から椎名の家の力を乱用しやがって。 恥を知れクズ」

 

「・・・志野さんの許可はもらってる・・・そうやすやすと乱用したりなんてしてねえよ・・・」

 

「なら、2度と椎名の家に関わるな。 お前のような犯罪者が兄だったと思うと嗚咽が走る」

 

あいかわらずきついな・・・弟にこんなこと言われるの・・・

 

「鏡夜」

 

「なんだクズ?」

 

「紫電は扱えるようになったか?」

 

一瞬、鏡夜が息を飲んだのが分かった。

そうか・・・まだ・・・

 

「余計なお世話だクズ。 もう、2度とかけてくるな」

 

ぶつりと電話が切れる。

 

「はぁ・・・」

 

携帯を閉じてからそっと、軒下を離れる。

雨に打たれて帰りたい気分だった。

 

 

 

 

 


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