緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第58弾 あなたの評価は変態です

私は・・・ただ、今の生活を守りたかった。

お母さんは小さい頃亡くなったけどお父さんと千夏と私の3人で変わらない日常を送りたかった。

でも、一ヶ月前のあの日に私の日常は崩れた。

それは、本当に唐突だった。家に、名前の知らない兵庫武偵局の人が来て

 

「君たちのお父さんは職務中に犯人と交戦し殉職された」

 

訳が分からなかった。

3日ほど留守にすると出ていった父が帰ってくるはずのその日に、そんなことを言われても納得なんか出来るはずがない。

武偵局の人は違反なんだけどねと言いながらも父が使っていた拳銃を渡してくれた。

名前なんか知らない・・・黒くてとても重い銃だった。

父の遺体は上がらなかったらしい。

密入国しようとしていた中国人グループとの戦闘で撃たれ海に父は落ちたという。

私は訳が分からなくて・・・武偵局の人に狂ったように罵声を浴びせ続けたがごめんねと武偵局の人は言うだけだった。

遺体のない父の葬儀やお墓まで全て武偵局が面倒を見てくれた。

1週間も掛からない手際の良さだった。

父の残した生命保険は莫大とはいかなくても2人が大学を卒業するまでなら十分な金額が残されていた。

武偵は殉職する可能性が決して低くない。

父はそれを見越して多額の生命保険を自分にかけていたのだろう・・・

千夏はただ、泣いて私は姉として武偵局の人に罵声を浴びせたとき以外は人前では泣かなかった。

泣くのはお風呂の中だけ・・・それも湯船に顔をつけて涙が枯れるまで泣き続けた。

涙も枯れたその頃、ようやく落ち着きを取り戻してきたとき、再び日常は壊れた。

 

「君のお母さんはとある財閥の娘なんだ」

 

初老の男が訪ねてきてそういった時は本当に驚いた。

父と母は駆け落ち同然に一緒になったという。

とある日本でも有数の財閥の私の祖父に当たる人も父と同時期に亡くなったらしくその遺言が娘の孫にすべての財産を譲るというものだった。

知りもしない人からいきなり、そんなことを言われても困る。

私は初老の男に財産相続を拒否すると言うと初老の男はなんども私を説得してきたが私の決意は硬かった。

 

「では、10日後にある弁護士立会いの場で遺産相続破棄を宣言してもらいたい」

 

お安い御用だ。

そんなことで日常が守れるなら・・・千夏とお父さんたちと暮らしたこの家で暮らせるなら・・・

 

「だが、君と妹はその時まで命を狙われることになる」

 

「え?」

 

「今から3日後に親戚に仮発表という形で君たちが相続することを通達される。 当然、快く思わない親戚の誰かが君たちを殺そうとするかもしれない」

 

「ま、待ってください! 私、遺産相続を破棄するんですよ! なのになんで!」

 

金持ちの事情というやつだろう。

継ぐ可能性があるなら潰す。

まして、相手が小娘なら尚更というわけだ・・・

 

「護衛は私が手配しよう。 腕利きが多いという東京武偵校に依頼してみよう」

 

関西県の武偵校にクエストを出さなかったのは親戚の手が伸びている可能性があるからだということだ。

武偵局も危険だ。

警察は狙われているかもでは動いてくれない。

なら、学生であり、関東の武偵高に頼むのが一番いい方法なんだそうだ。

資金も初老の男が出してくれるという。

どんな人が来るんだろう・・・

父と同じ武偵を目指す高校生達

命を狙われるということは迷ったが千夏にも打ち明けた。

この1週間生き残って見せよう。

絶対に日常にもどるんだ。

そう、思って仮発表がある6時間前の18時、ピンポーンとインターホンがなった。

出ようと思ったが

まず、どんな人が来たのか見てみよう。

万が一に備えて千夏をクローゼットに隠し、父の形見の銃を手に小窓から様子を伺う。

暗くてよく見えない。

 

「すみませーん! 藤宮さーん!」

 

男の声が聞こえてくる。

大きな銃を肩に持っている女の人がこちらを見上げてきたので反射的に引っ込んでしまった。

そろそろでないとダメかな・・・

 

ドオオン

 

「え?」

 

そんな時、下から轟音が響きわたった。

そして、どたどたと言う音。

ああ、なんてことだろう。

彼らは護衛の人間ではなく襲撃者だったんだ。

扉を銃で破壊して入ってくるなんてそうに決まっている。

 

「千夏! 絶対に出てこないで!」

 

震えてるで銃を扉に向ける。

安全装置を解除してから・・・

 

「ふっ!」

 

掛け声のような声と共に扉が蹴破られた。

千夏は私が守る!

 

パンと予想外の反動にびっくりしながらも再び引き金を引こうとする。

 

「いて!」

 

命中したんだろうか? 襲撃者は苦痛の声をあげたが撃退は出来ていない。

影は一気に迫ると父の形見の銃を蹴り飛ばし私の手から無くしてしまう。

 

「きゃっ!」

 

悲鳴を上げながら銃を探す。 お父さんの銃が!

 

「終わりだ!」

 

影は私の首を掴むと床に押し倒して大きな銃を私の頭に突きつけた。

私は屈しない。

怯えた顔なんて見せるものか

 

「こ、殺しなさいよ。 どうせ、私の命を狙いに来た殺し屋でしょ?」

 

「ひとつ聞きたいんだが・・・いいか?」

 

戸惑うようにいう襲撃者

私はそれを無言でにらみ返す。

 

「えっと、間違ってたらすまん・・・藤宮 奏か?」

 

「そうだったらなによこの人殺し!」

 

「ごめんなさい!」

 

そういうと襲撃者・・・いや、椎名 優希は土下座した。

これが、出会いだった。

 

 

 

 

 

 

朝、7時になりピピピとなる目覚ましを止める。

 

「う・・・」

 

妹はまだ寝ているようだ。

起き上がると一瞬、ぎょっとした。

壁のすみで大きな銃を肩にかけて体育座りをしている少女と目があう。

 

「・・・」

 

無表情だが吸い込まれそうなその瞳、お人形のような印象を受けるその少女はレキと言うらしい

 

「お、おはようございます。 レキさん」

 

「・・・おはようございます」

 

最低限の挨拶をレキさんは返してきた。

それ以上無駄なことは言わない。

昨日ちょっとだけ、話したが自分からは余計な会話は一切ふらないのだレキさんは

そして、あの格好で眠るのだから信じられない。

 

「あのできれば着替えたいので出ていってもらえないでしょうか?」

 

「それはできません」

 

レキさんが返してくる。

まあ、護衛中なんだし、同性だからいいかと私は考えるのだった。

 

 

 

 

着替えてからドアの外に出て1階に降りる。

洗面所で顔を洗ってからリビングに行くといい匂いがしたので台所に行くと金髪の少女が鼻歌を歌いながら何やらケチャップを付けていた。

 

「おはようございます。 峰さん」

 

「おっはよー! かなでん! もうすぐご飯できるよ」

 

護衛の間、ごはんは毒等を考慮して護衛のメンバーがつくることになっていた。

普段は私が作るのだから楽ではあるが・・・

 

「何作ってるんですか? 峰さん?」

 

「もう、かったいぞぉー! りっこりんでいいってば」

 

「り、理子さん」

 

「りっこりん」

 

「理子さん」

 

「りっこりん」

 

「り、りこりん」

 

「そうそう、くフフフ」

 

なんというか嫌な人ではないのだがりこさ・・・りこりんはパワルフすぎて困りものだ。

 

「手伝いましょうか?」

 

「今日の担当は理子だからかなでんはゆっくりしてて♪」

 

「はい」

 

台所を後にしてリビングに戻る。

庭に人影が見えたので見てみると縁側に座っているのは護衛の男の2人のうちの1人遠山 キンジさんだ。

窓を開けると遠山さんが振り返ってくる。

 

「あ、おはよう」

 

「おはようございます。 何してるんですか?」

 

「ん? 2人お訓練を見てたんだよ」

 

「訓練ですか?」

 

遠山さんが指を指した方を見ると少し広めの庭では護衛メンバーの1人、紅 真理奈さんと・・・

誰だろうあれ?

昨日のメンバーに明らかにいなかった

女性がいる。

黒のジャージを着込んでいるが日本人形のような黒い長髪にほんのりと化粧をかけているのか美しい女性だった。

 

「ほら! 早く撃ち込んで来い!」

 

乱暴な言葉遣いだがその声は女性の声そのものだった。

 

「はい!」

 

マリは拳銃を持ったまましゃがみこむと足払いをかける。

 

「遅い!」

 

女性はそれを跳躍して交わすと拳銃を抜いてマリの肩に押し付けた。

 

「あう・・・」

 

マリが降参ですというように動きを止める。

 

「よし、これぐらいにしとくか」

 

「はい! ありがとうございました」

 

私はそれを見ながら遠山さんに訪ねてみる。

 

「あ、あの人新しい護衛の方ですか? 昨日はいませんでしたよね」

 

すると、遠山さんは困ったような顔になって

 

「あ、あいつ・・・いや、あの子は・・・」

 

「キンジ! 次はおまえ・・・」

 

女性の笑顔が固まった。

 

「あ、はじめまして! 藤宮 奏です。 新しい護衛の方ですか?」

 

「い、いやお・・・私は・・・その・・・」

 

冷や汗を書いているが私にはん?と首をかしげるしかできない。

何を戸惑っているのだろう?

そんな時、後ろからアニメ声が聞こえてくる。

 

「優! キンジ! マリ! ご飯で来たって理子が・・・」

 

ピシと今、何かが砕けたような音がした。

空気が固まる。

マリがあちゃーと言う顔をしキンジがあさっての方向を見る。

まさか・・・

 

「椎名さんなんですか?」

 

「は、はい」

 

絶世の美女・・・いや、変態女装男椎名 優希は諦めたように言った。

 

「へ、変態!」

 

私の椎名 優希に対する評価が暴力男+変態に変わった瞬間だった。

 


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