緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第32弾元気人形とお人形さん

ああ、もう駄目だ。

観念した俺は通気口から降りる。

その瞬間、綴が不審者とでも勘違いしたのか一気に距離を詰めてくる。

思わず戦闘態勢を取るが後ろに回り込んだ綴は俺とアリアの襟元を掴まれて壁際に投げ捨てられた。

な、なんて力なんだよこいつ!

 

「んー? 何これ?」

 

しゃがみこんで俺達を見てきた綴

 

「なんだぁ。 こないだのハイジャックの2人じゃん。 1人足りないけど」

 

うすら笑いを浮かべて煙草を吸うとこきこきと首を鳴らす。

ヤバい、なんというかヤバいぞこの状況。

 

「これは神崎・ホームズ・アリア。ガバメントの2丁拳銃に小太刀二刀流。双剣双銃(カドラ)。 欧州で活躍したSランク武偵。 でも、書類上ではみんなロンドン武偵局が自らの業績にしちゃったみたいだね。 協調性がないせいだまぬけぇ」

 

綴アリアのツインテールの根元を掴んで言った。

 

「い、痛いわよ。 それにあたしはまぬけじゃない。 貴族は自分の手柄を自慢しない。 たとえそれを人が自分の手柄だと吹聴しても否定しないものなの!」

 

「おい! やめろよ!」

 

 

俺が飛びかかるが、がしっと頭を掴まれ万力のように握力が加えられる。

 

「いたたたたたた!」

 

悲鳴をあげる俺をよそに綴は続ける。

 

「へぇー。 損な身分だねぇ。 あたし平民でよかったぁー。 そういえば欠点・・・そうそうあんたおよ・・・」

 

「わぁー!」

 

綴の言葉がアリアの叫びでさえぎられる。

 

「そそ、それは弱点じゃないわ! うきわがあれば大丈夫だもん」

 

なるほど、アリア泳げないんだな。

 

「んで」

 

綴はアリアの髪から手を話すとぎりぎりと頭を掴む俺を見る。

 

「こっちは椎名 優希君」

 

「いたたたたた! いい加減に離してください!」

 

相手が教師なのでまともに戦うわけにもいかず俺が悲鳴をあげているとあっさりと綴は手を離した。

 

「性格はまぁまぁ社交的だがどこか本心を見せていない所あり」

 

思いだしながらいう綴、こいつ全部頭に生徒のデーター入れてやがるのか?

 

「どんな状況でも全力で戦ったことがなくAランク、しかし、Sランクの疑いもあり。

解決事件は銀座の銀行強盗の制圧に某金持ちの護衛、ANAのハイジャック事件。あ、留年直前で強盗捕まえたんだ」

 

「人のプロフィール言わないでくださいよ!」

 

「武装(えもの)はガバメント2丁にデザートイ―グール一丁に特殊仕様のワイヤーが最低3本。 しかし、その本質は・・・」

 

「わあああああ!」

 

今度は俺が悲鳴をあげる番だった。

こいつがどれだけ知ってるか知らんが切り札全部露呈しかねん。

 

 

「でぇー? どういう意味? ボディーガードやるってのは?」

 

「言った通りよ。 白雪のボディーガード24時間体制あたしが無償で引き受けるわ」

 

護衛する相手が護衛のクエスト・・・最悪の事態になりそうだな。

 

「星伽、なんか知らないけどSランク武偵が無料で護衛してくれるらしいよ?」

 

「い、嫌です。 アリアがいつも一緒だなんてけがらわしい」

 

「大丈夫よ。 優もつけるから」

 

俺もかよ!

 

「そ、それでも嫌です!」

 

すまない白雪さん。 今の言葉会心の一撃ぐらいのダメージが胸を襲いました。

 

「じゃあ、どうしたら受けるのよ!」

 

「どんな条件を出してもお断りします!」

 

ぐぬぬとアリアと白雪がにらみ合いになり殺気が高まっていく。

か、勘弁してくれここで戦ったらマスターズの鬼どもが大挙してくるぞ。

命の危険を感じた俺はある提案をする。

 

「なら、キンジも白雪の護衛につけるのはどうだ?」

 

白雪の顔がぱっと輝く。

よし、最後の一撃だ!

 

「白雪の家に行くか白雪がキンジの部屋に来るかだ? これで万事解決だろ?」

 

後で、キンジに怒られそうだがお前の幼馴染なんだから妥協してくれキンジ。

何より、俺の命のためにも・・・

かくして、白雪の護衛+の二重の護衛生活の始まりなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を要塞にする道具を取りにいくと言って女子寮に帰ったアリアと別れた俺は携帯電話を取り出すと電話をかける。

数回の回線を得て、最後に3コールの後相手が出る。

 

「何か不都合が起こったのかな? 椎名 優希」

 

この依頼主との電話も慣れたものだ。

最近ではアリアの護衛関連ではレザドより正確なのでよく電話をかけている。

たまに繋がらないこともあるが・・・

 

「単刀直入に聞くんだがデュランダルは実在するのか?」

 

「ふむ、本当に単刀直入だね。 実在する確証はないが高い確率で実在しているといっておこう」

 

ん? 依頼人にしては引っかかる言い方だな。

 

「デュランダルの名前を聞いた時、アリアの様子が少し変わったんだ。 そいつも、かなえさんの事件の関係者か?」

 

「デュランダルが関わったかもしれない事件で確かに神崎 かなえは冤罪をきせられている。 アリアがデュランダルを追うのはそれが原因だろう」

 

なるほどね。

 

「で? デュランダルってどんな装備とかわからないのか?」

 

理子の時は聞き忘れたが今回はちゃんと聞いておくと思ったのだ。

 

「私も詳しくは知らない。 だが、1つ言うならばデュランダルは超偵という話だ」

 

「超偵か・・・」

 

超偵は白雪のような超能力や異能の力を持つとされる武偵のことだ。

眉つばものかと思いたいのだが今回は嫌な予感がする。

 

「武偵は超偵には勝てないと言われている。 お望みの装備がいるなら手配するが?」

 

一応、授業としての知識はある。

 

「じゃあ、純銀弾と・・・後はそうだな・・・」

 

俺はいくつかの装備を手配すると携帯をしまった。

 

「ちっ! けちだな」

 

武偵弾を12発ほど頼んだがそれは君の金でやることだよと断られてしまった。

金さえ渡せば作ってくれる職人とパイプがあるだけましということだろう。

普通はよほどの実力者じゃなければ武偵弾は金を積んでも手に入らない。

全部オーダーメイドだからな。

 

「椎名先ぱぁーい!」

 

げっ!

振り返ると紅 真里菜がツインテールを振りかざしながら走ってくる。

サイドテールと使い分けてるらしいな髪型

とっさに周りを見渡すとうまい具合に知り合いがいた。

そいつに走り寄る。

 

「れ、レキ! 頼む! これから俺と約束があることにしてくれ!」

 

ロボットレキと呼ばれる少女は無言で道を歩いていたのだ。

帰る所だったらしい。

 

「・・・」

 

レキは無言。

だが、立ち止まってくれた。

そこに、マリが追いついてくる。

 

「捕まえました♪ さあ、椎名先輩の家に行きましょう」

 

「な、なんで俺の家なんだ?」

 

「アミカは部屋の鍵の交換から始めるんですよ! これ私の部屋の鍵です! いつでも来てくださいね」

 

「行かねえよ! 女子寮だろう!」

 

「・・・」

 

はっと、視線を感じてみるとレキが無表情に立ってこちらを見ている。

表情一つ変えていないな。

 

「あれ? レキ先輩じゃないですか?どうしたんですか?」

 

「い、嫌、実はこれからレキと御飯食べに行く予定なんだ。 悪いな」

 

俺がレキが答えるより先に答えてからレキを見て頼むとまばたき信号でお願いする。

レキは何も言わない。

 

「そうなんですか?」

 

マリが聞くとレキは動かなかったがこくりとゆっくり顔を前に倒した。

ありがとうレキ!

 

「そうなんですか・・・椎名先輩やりますね。 神崎先輩だけじゃなくレキ先輩まで手を出すなんて」

 

「飯食いにいくだけだろ!」

 

「いえいえ、レキ先輩にはファンクラブがありますからね。 狙撃されないように注意してくださいね。 椎名先輩」

 

そんなものがあるのか・・・

俺はレキを見る。

まあ、確かに美少女なんだがとっつきにくいんだこいつは・・・

ん? そう言えば、最近レキとよく食べに行く機会が多い気がするな。

 

「それはそうと、私も一緒に行っていいですか御飯?」

 

はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「椎名先輩のおごりぃ、フフフ」

 

「・・・」

 

「お兄さんやりますね。 不思議系美少女の次は元気いっぱい後輩ですか」

 

以前、レキと来た小さな中華料理屋だ。

あの時のバイトの女の子も健在で俺達を見るとさっと水を出してきたのだ。

 

「こいつらはそんなんじゃない」

 

俺は壁に飾られた地獄ラーメン制覇という紙の下に張られたレキの写真(無論無表情)を見ながら

 

「チャーハン1つに酢豚と豚骨ラーメン」

 

「私は餃子とチャーハンお願いします!」

 

「はい、了解です!」

 

さっさと厨房にメニューを伝えに行ってしまったバイトの子を見送りながら

俺は今の状況を整理する。

俺の横にはマリ、正面にレキと言った配置だ。

レキは誘ったからおごるのは当然としてヤバいぞ・・・俺の財布がピンチだ。

毎月50万、理子を退けたから特別報酬に100万貰ったがほぼ、全部装備品に消えた。

武偵弾もそうだしワイヤーの整備等、金かかるんだよ今の状況は。

財布の中には3000円しかないんだ。

 

「それで、椎名先輩いつ、訓練してくれるんですか?」

 

「今は無理だ。 護衛のクエストを受けてるからな」

 

「護衛ですか? ああ、星伽先輩の護衛ですね?」

 

「お前、なんで知ってるんだよ!」

 

「偶然耳に挟んだんです。ほら、星伽先輩の担任ってダギュラの先生ですし」

 

なるほどな。

 

「デュランダル捕まえたら私に回してください。 腹から何も出ないぐらいにはかせてあげますから」

 

一瞬、ぞわっと黒いものがマリの後ろからでた気がしたが幻覚だ! うん、幻覚だ間違いない。

 

「ま、まあその時は頼むな」

 

「お待たせしましたぁ!」

 

丁度その時、料理が運ばれてきた。

早いな!

 

「わー、いただきますね先輩」

 

「これでよかったか?」

 

酢豚と豚骨ラーメンをレキの前において聞くとレキはこくりと頷いた。

俺の前にはチャーハンが1つだけ貧乏はつらい・・・

こうして食事が開始されたわけだが

 

「具体的に護衛の期間はいつまでなんですか?」

 

「んー、アドシアートが終わるまでだな。 ま、何も出ないにこしたことはないが・・・」

 

ふと、思いついたので

 

「そうだ。 レキ、お前も白雪の護衛やらないか?」

 

だが、レキは首を横に振った。

 

「そうか・・・まあ、レキの場合はアドシアートの練習があるからな」

 

「あ! じゃあ私! 私がやります!」

 

「お前は弱いだろ! 護衛なんかできるわけないだろ」

 

「うう・・・残念です」

 

まあ、ダギュラの人間に頼むのは最後の最後だけだ。

ふと、レキが俺を見ているのに気付く。

 

「優さん・・・」

 

いきなり、しゃべりだしたのでびっくりしていると

 

「よくない風を感じます。 敵はゆっくりとせまっている」

 

また、例の風か・・・

しかし、敵ね・・・

デュランダルはいる。

そういうことを前提に動いた方がいいのかもしれんな。

ちなみに今日の残金3円である。

ああ、貧乏ってやだなぁ

 


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