緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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最新話です!絶望の光に飲まれた優は


第249弾 優希VS信春 戦いの行方

サイド信冬

 薄暗い闇の中その物語は演じられていた。

生徒達が演じるのは悲劇の物語。

ある貴族の少年と少女の話だ。

2人は幼い頃に家同士で婚約を結び交流を深めやがて本当に愛し合うようになった。

だが、2人はその婚約を果たすことができなかった。

少年の方の家が没落し婚約が解消されたのだ。

2人はそれでも愛し合い、家に反抗する道を選ぶが逆らった少年は様々な困難を切り開くが最後には力尽き死んでしまい少女もその後を追うのだった。

 

「・・・」

これは悲劇の物語。

私たちはまだ愛し合ってはいないが信頼では結ばれていると思っている。

少年は・・・優希はあの悲劇の物語の少年のように・・・

そして、私は・・・

だが、それは許されないことだ。

これは最後の自分の意思。

そう言い聞かせてきたはずなのにこの数日彼と一緒に過ごし募るのは未練ばかり・・・

 

「いけませんね・・・」

 

劇が終わり空を見上げるともう、暗くなりかけていた。後夜祭の準備なのかキャンプファイアーが校庭に設置されて炎を上げている。

後ろを振り返り優希が出てくるのを待つが中々出てこない。

トイレに行き、劇が始まってしまったので自分を見つけられず違う場所で見ているものと思っていたのだが・・・

 

「?」

 

背後から怒鳴り声が聞こえてきたので振り返ると人が集まっている。

校門の方角だ。

体育館からの人並みは途絶えかけている。

ドクンと心臓が跳ねた気がした。

あの人が集まっている場所・・・あそこに行かなければいけない気がする。

体育館から彼が出てくるのを期待して最後に振り返るが私は校門の人波に走り出しそれを見た。

 

「幸村!」

 

そこにいたのは武田家で幽閉されているはずの部下だった少年。

 

「の、信冬様・・・お会いしとうございました・・・」

 

「その傷はどうしたのです!誰にやられたのですか!」

 

ぼろぼろだった。

服のあちこちは破け血で滲んでいる。

気力だけでここまできた感じだ。

 

「下がってください。救急車が来る前に応急処置します」

 

呼ばれてきたのだろう。その顔には見覚えが合った。

優希がアリスと呼んでいたアンビュラスの後輩だ。

 

「武田先輩?この人はお知り合いですか?」

 

「私の・・・家のものです」

 

「分かりました」

 

アリスは簡潔に言うと応急処置を始める。

幸村は苦しそうに息をはきながら

 

「信春様が・・・近くに来ています」

 

「!?」

 

お婆様が・・・

その傷はやはり・・・

 

「お婆様に逆らったのですか幸村!私が戻るまで逆らわずに待機していれば・・・」

 

「信春・・・様が言ったのです・・・私に傷一つつけれたら信冬様の婚約を・・・考え直してやると・・・」

 

「・・・っ」

 

幸村が勝てる相手じゃない。

お婆様は日本で数人といないRランク級の存在なのだ。

勝てたのはあの忌々しい義兄土方歳三達だけ。

それも、北条花音あってこそだ。

 

「ジャンは半殺しにされ病院へ・・・私は・・・あることを提案されここに来ました」

 

「ジャンが?それであることとは?」

 

「それは・・・」

 

「言いなさい!」

 

幸村は一瞬迷った顔をしたがその口を開いた。

 

「椎名優希が今、信春様と戦っています」

 

「!?」

 

なんで・・・どうして・・・冷静にならなければならないのに頭の中が混乱する。

そうならないように私は覚悟を決めたのに・・・

だが、これだけは分かる。このままでは優希がお婆様に殺される。

 

「幸村!どこですか!どこで優希達は戦っているんですか!」

 

「この島の隣・・・空き地島です・・・鬼道術で人払いの結界を張ってるので外からは見えないと思います・・・」

 

「アリスさん。幸村を頼みます」

 

「待ってください!私、断片的にしかお兄さんから聞いてませんけど行けば・・・」

 

「そうですね・・・もう、みなさんには会えないでしょうから伝えてください。楽しかったです。ありがとうと・・・」

 

「武田先輩!」

 

風林火山・・・

髪が黄金に染めあがり風と共に舞い上がる。

行き先はもちろん空き地島だ。

優希・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                †

サイド優希

 

なんだ・・・どうなった・・・

目を開けると最初に飛び込んできたのは夕闇の空だ。

そうだ!俺は信春と戦って!

 

「っ!」

 

体を起こそうとするが思うように動かない。

ぴちゃと音がしたので首を動かすと血だまりが出来ていた。

体中激痛が襲っている。

武田信春の風林火山大砲を受けて大ダメージを受けちまったわけか・・・

確か山すら消し飛ばすっていってたけどよく生きてるな俺・・・

 

「まだ、生きてるとは驚いたね」

 

 

見ると信春が俺を見下すようにしてこちらを見ていた。

氷のようなその目は絶対的な強者の目。

紫電は・・・手元にある・・・

 

「ハッ・・・しぶとさは結構自信あるぜ」

 

がくがくと足も手も震えるが紫電を杖になんとか立ち上がる。

つっと頭から血が流れるがそれを拭うが血が地面に流れていく。

 

「フフフ、そうかい?それでも満身創痍は避けられなかったようだね」

 

「まだやれるさ・・・」

 

「そうは見えないね。だが、本気ではないとはいえ風林火山大砲を耐えたのは称賛に値するよ。それに免じて命はとらないでおこうかね」

 

「へっ、それはありがとうって言えばいいのか?」

 

「どちらでもいいよ。もちろん、信冬のことは忘れて生きていくのであれば今回の件はなかったことにしてあげるよ。大サービスで病院に送ってあげようかね」

 

つまり、武田に反抗して戦ったことを禍根なしに不問にしてくれるってことか・・・

切りかかっておいてその条件は決して悪くはないのだろう。

だがな

 

「信冬は諦めねえ」

 

緋刀状態は解除されてる・・・だがまだ、体は動く!

 

「ふぅ、似てるねぇ。私に屈辱を与えたあの男に」

 

あの男・・・土方さんのことだな

 

「土方もあんたと同じように最後まで諦めず北条花音によってその活路を開いた。あんたにもいるのかい?因果律を操る化け物の仲間が」

 

北条花音さんか・・・いるなら助けて欲しいがあの人はもういない。

って死んだ人にまですがろうとするなんてやばい状況だよな・・・

だが・・・ここは裏武家の戦い。

武偵としてではなく俺は覚悟を決めなければならない。

まあ、ここはそうだな

 

「いるぜ。知ってるだろ?俺には世界最強の姉がいるんだぜ。な、姉さん」

 

いかにも後ろにいるように言ってやる

 

「なに!」

 

信春が慌てたように振り返った。

おいおい、振り返るなよ。ヒルダと言いみんな姉さんどれだけ怖がってんだ

だがチャンスだ!

体に鞭打って駆け出す。

まだ、諦めるわけにはいかねえんだ!

 

「何て言うとでも思ったのかい?」

 

接近して切りかかろうとした瞬間、信春は振り返り手を振りかぶった。

瞬間、猛烈な風が俺を襲う。

 

「まだだ!」

 

風を紫電で無効化しその向こうにいる信春に向ける。

 

「ふん」

 

信春は風林火山の扇子を取り出すととんと地面を飛んで紫電の間合いから逃れる。

風林火山をもう一度撃つ気か!?

やはりそうか!あれは発動条件がある!

 

だんと信春から距離を取り紫電を構える。

 

追撃してくると思ったのか信春がん?と首を傾げる。

だが、会話を交わす気はない!

 

「緋刀!」

 

後一回でいい!もう一度だけ!

 

ぶっ倒れそうなめまいを起こしながら体が緋色の光を纏う。

正真正銘この戦いで使える最後の緋刀だろう。

意識して体の治療には回さない。

とっさにやったがこんな使い方もできるんだな

 

「おおおおおおおお!」

 

光を・・・全ての力を紫電に集約させる。

その輝きは先ほどよりも遥かに強い

絶対にあいつを守るという決意の光

 

「!?」

 

信春の目が見開かれる。

風林火山は4つの攻撃を1度使用した後じゃないと撃てない。

5つ目の風林火山大砲にするためには発動条件を満たさないと撃てないんだ。

なら!撃たれる前に撃つ!

 

(これが文字通り最後の一撃だ)

 

スサノオに言われるまでもなく分かってることだ。

これで勝てなければ終わりだが最強の一撃

緋色の光が紫電をから昼間のような光を放つ。

緋刀最大最強出力あえてなずけるなら

 

「緋龍零式神龍!」

 

振りかぶるとその膨大なエネルギーが解放される。

撃つ瞬間、信春の顔に焦りが見えた。

そして、その瞬間緋色の神の龍ごとき緋色の光が信春を飲みこんだ。

ドオオンと爆発音と共に大量の土煙に海水がザーと空き地島に降り注ぐ。

どんな・・・終末戦闘だよ・・・

 

「はぁ・・・う・・・」

 

紫電を地面に突き刺して片膝をつく。

もう、動けねえ・・・

だが、あれを受けて生きてはいられまい。

9条破り・・・いかに殺しのライセンスがあろうと裏武家同士の戦いだろうと殺しは殺し。

武偵校にいられないだろうな・・・もう

だが、後悔はないこれで信冬は・・・

 

「なるほど、撃たせる前に最大の一撃を撃つ。見事と言っておこうかね」

 

「!?」

 

顔だけを上げて煙の中からゆっくりと歩いてくるのは・・・

 

「う、嘘だ・・・」

 

た、武田信春・・・そんな・・・

絶望だ・・・今の一撃でそんな・・・

 

「どうしてって顔をしているねぇ」

 

少女の顔をした化け物は口元を緩めて絶望する俺に声を投げかける。

 

「あんたはタイミングを間違えたのさ。私が何を発動している時にそれを撃った?」

 

「あ・・・」

 

風林火山の林・・・あれは攻撃を受け流す能力じゃないのか?

 

「風林火山の林は完全防御能力。つまりなかったことにできるのさ」

 

どんな攻撃も防御できるだと・・・

 

「もっとも、限界や条件はある。坊やの攻撃は惜しかったよ。破壊力が足りなかったね」

 

力不足・・・だが、俺にあれ以上の攻撃は・・・

 

「まあ、林の状態で撃たなくても終わっていたことに変わりないけどね」

 

信春の周りの風林火山の文字が全て黄色の文字に染まっている。

俺の攻撃の中で発動条件を整えた・・・

 

「先ほどのお礼だよ。今度は最大でいく。受ければ塵も残らないだろうね」

 

収束していく風林火山大砲の光・・・

もう・・・緋刀を使う力は残ってない。

いや、使えてもあの光から逃れることはできないだろう。

死ぬ・・・

目の前の光は100%の死の光。

紫電で無効化はできないことは証明積み。

つまり、積だ・・・

ちくしょう・・・

体が動かねえ

 

「終わりだよ椎名の坊や」

 

その手が振り下ろされる瞬間俺の前に立つものがあった。

誰だ?黒い・・・マント?

長い金髪を揺らしながら信春が警戒したように新しく登場した人物に視線を向ける。

 

「何者だい? 椎名優希の援軍かい?」

 

「通りすがりの魔法少女です」

 

はっ?と俺と信春がきょとんとする。

いや・・・お前その声・・・

 

「あき・・・はか?」

 

すっと振り返ったその顔にはお祭りであるようなアニメキャラのお面。確か、リトラスマスケでやってた秋葉のキャラの・・・

というかその格好も

 

「違います。椎名の近衛はこの戦いに参戦できません。私は通りすがりの魔法少女です」

 

「いや。お前・・・」

 

「ま・ほ・う!少女です!」

 

ずいとお面を近づけて来たのでその瞳が見えたが秋葉の蒼い瞳だ。

だが、その目は揺れている。

お前・・・

 

「ふん、魔法少女ぉ?それがなんの用だい?」

 

「この人には死んでほしくないと願うものがいます。私はそれを成すためにここに来ました」

 

ゴオオと風が秋葉の周りに収束する。

 

「風のステルス使い・・・フフフ、なるほどなるほど。今は詳しく聞かないでおこうかね」

 

風林火山大砲の光が更に輝きを増していく。

 

「・・・」

 

対する秋葉の風も手の槍に収束していく。

秋葉の最大技で風林火山と打ち合う気か?

 

「や、やめろ秋葉・・・お前の敵う相手じゃない」

 

「ずっと見てました」

 

背中を向けながら秋葉は言う

 

「私はずっとこの戦いを見てました。私はあなたに死んでほしくない」

 

「風林火山大砲の破壊力を見てたなら知ってるだろ!やめろ!お前の槍の一撃が届く相手じゃない」

 

「なら私は命をかけます」

 

「やめ・・・!」

 

「ごちゃごちゃ聞いてるのも飽きたねぇ。そろそろ消し飛びな!風林火山大砲!」

 

破滅の光が俺たちに向けて放たれる。

飲みこまれれば確実に死ぬ死の光

 

「逃げろ!秋葉!」

 

お前だけでも逃げてくれ!

体が動かない。

秋葉は槍を肩の上部に構えたまま圧倒的な暴風を槍に収束させるが明らかにそれでは風林火山大砲は破れない。

 

「・・・」

 

密度がいつもより濃い。

そう感じさせる風が秋葉の槍に収束している。

暴風が槍の周囲だけを包む圧縮された風。

おそらく今までで最高の密度の風の槍だ。

 

「一撃必槍!」

 

風の槍が投擲される。

秋葉の槍と風林火山大砲が激突し一瞬、拮抗するがそれは徐々に押され出す。

 

「っ!」

 

苦悶に満ちた秋葉は更に風を追加しようとするが無駄な努力だ。

 

「驚いたね。少しとはいえ拮抗した。大した風使いだよ」

 

このままでは風林火山大砲に飲みこまれて2人とも・・・

 

「くっ!」

 

なんとか秋葉だけでもと体を動かそうとするががくりと膝から崩れる。

くそ、体が・・・

 

もう風林火山大砲の光は目前にまで迫っている。

今や風の槍は完全に押される形になっていた。

 

「逃げろ秋葉・・・頼むから」

 

お前までここで・・・

 

「お前まで・・・死ぬことはない!早く逃げろ!」

 

「死ぬ・・・優君が・・・」

 

秋葉はつぶやくように言った後再び体に風が収束していく。

 

「そんなのは・・・絶対に・・・嫌です!」

 

ドンと一瞬大気が震えるような振動が体を襲った瞬間、風の槍が光を放ち風林火山大砲と再び拮抗した。

 

「何!?」

 

信春の驚いた声

 

「うわあああああ!」

 

秋葉の声と共に風林火山大砲を少し押し戻したように見えた瞬間、轟音と共に爆発が起こった。

たまらず吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。

 

「くそ・・・」

 

秋葉は・・・

いた、近くの地面に倒れてる。

体を引きずりながら傍まで行き安否を確かめるが気絶してるだけか・・・

全てのステルスの力を使い果たしたらしい

信春は?

 

「驚いたよ」

 

土煙の中から歩いてくる少女の服はぼろぼろだった。

だが、ステルスが使えない状態ってわけじゃないようだ・・・

秋葉の前に立ちながら満身創痍で紫電を持ち上げる。

秋葉だけでも・・・こいつだけでも・・・

 

「風林火山大砲を相殺する逸材が椎名にいたとはね。その近衛の子は潜在能力はR

ランク並かい?」

 

「俺の自慢の奴だからな」

 

「ふふふ、どうだい坊や?その子を武田に差しだすなら今回の件は水に流してあげるよ。信冬は連れていくがね」

 

「はっ!お断りだな。どこの世界に女を差し出して自分だけが助かりたい男がいる?少なくても俺はごめんだね」

 

「なら今度こそ死ぬかい坊や?」

 

次に風林火山大砲を撃たせればもう、死は免れない。

だが、どうする?

ここまでぼろぼろで何ができるってんだ・・・

 

「じゃ、次で終わりかね」

 

再び黒い風林火山が回転を始める。

あれ全てに光が灯る時俺達は・・・

 

「おや?」

 

信春が顔を上に向けてにっと笑う。

何だ?

俺もそちらを見上げるとそこには黄金の髪の少女がいた。

 

「・・・信冬」

 

信冬は信春を睨みながらゆっくりと降りて彼女と対峙する。

 

 

「遅かったじゃないか信冬。どうだい?最後の学生生活は楽しかったかい?」

 

対する武田信春は風林火山の回転を止めずに腕を組んで見下すように信冬を見ている。

 

「お婆様。武田と優希達の休戦を幸村を使い無理矢理破らせましたね?」

 

「フフフ、私は破れとは言ってないよ。チャンスを上げただけさ。それを生かせなかったのはやつの無能。そうかい、あのできそこないはお前に助けを求めたのかい」

 

「ジャンも病院に送られたと聞きました」

 

「そうだね。殺しはしなかったのを感謝してほしいぐらいさ」

 

「・・・」

 

信冬は黙って信春を見ている。

あいつは今、心の中で怒りで溢れているだろう。

自分の大切な部下が半殺しにされて怒らないわけがない。

だが・・・

 

「ありがとうございますお婆さま・・・いえ、信春様」

 

すっと膝を折り信冬は信春に頭を下げる。

 

「フフフ、素直素直。それでいいんだよ」

 

「さて、椎名の2人はどうしようかね?」

 

試すように信冬を見ながら信春が言う。

 

「信春様、お願いです。2人を見逃していただけないでしょうか?」

 

信冬・・・

 

「いいよ。だったら誓いな。何を誓うかは分かるだろ?」

 

「はい」

 

「フフフ」

 

勝利を確信したその目。切りかかりたいが意識を保つのがぎりぎりの俺ができることは何もない。

ただ、怒りの目を信春に向けるだけ

 

「私はこの存在の全てを武田と暁に捧げることを誓います」

 

やめろ信冬・・・なんでそんなことを・・・

 

「どんな理不尽なことでも聞くのかい?」

 

「はい」

 

「ふーん」

 

信春は俺達を見て何かを一瞬考えたがいやと首を横に振った。

 

「私も情はあるさ。では信冬行こうか。もちろん、坊や達は見逃してあげるよ」

 

「信春様。無礼を承知で最後に1つだけよろしいでしょうか」

 

「何だい?」

 

「私に・・・最後の別れの時間をください」

 

「いいよ。今生の別れだ。少しだけなら待ってあげるさ」

 

ふっと風林火山の文字が消滅する。

戦闘態勢を信春が解いたらしい。

だが、それを好機と攻める力はもう、俺にはない。

 

「ありがとうございます」

 

信春に頭を下げて俺の元にやってくる信冬

 

「信冬・・・」

 

「アリスさんをここに呼んでいます。怪我の方はそちらで何とかしてもらえると思います」

 

優しい・・・聖母のように慈しむ表情で彼女は言った。

 

「行くな・・・行けばお前のこの先は・・・」

 

信冬は微笑みながら首を横に振る。

 

「元々、そのつもりだったのです。数日だけ優希達と・・・あなたと生活をしてみたかった。それが終われば・・・戻るつもりだったのです」

 

「そんなことのためにか?」

 

「約束・・・守ってもらえましたから」

 

「約束?」

 

信冬は微笑んで懐から札の束を取り出す。

 

「緋刀の進行を遅らせる呪符です。これだけしか作れませんでした。すみません」

 

すっと信冬の手が俺の顔に触れる。

温かくて小さな手。その顔がすっと近づき俺の唇と彼女の唇が一瞬だけ重なった。

一瞬のキス。

そして、離れながら彼女はすっと立ち上がりながら言った。

 

「私のことは忘れてください」

 

待て行くなと手を伸ばそうとした。

遠ざかっていくその小さな彼女の背。

もう、2度と会えないかもしれない大切な幼馴染。

 

「のぶ・・ふゆ」

 

その名を呟き俺の意識は闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで最新話。
信春に負けた優を助けるため信冬は優の元から今生の別れを告げ去っていきました。

ですが今まで優を見てきた読者の方なら分かるでしょう。
彼は諦めない!
絶望の中に希望を見いだせるのか!
次回ものろまですが感想を糧に頑張ります!

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