緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

246 / 261
新年あけましての更新!緋弾のアリアAA終わり(´;ω;`)


第245弾 暁の来訪者

「じゃあ、行ってくるからな」

 

「おーう・・・」

 

キンジが玄関から出て行く音を聞きながら俺は布団の中でため息をついた。

そう、前日空き地島から冷たい海を泳いだせいで風邪をひいたのだ。

本当にドべ!アリアにも電話で言われたが仕方ねえだろ・・・

帰ってすぐに風呂入れなかったんだから・・・

体がだるい・・・

 

「優希、何か食べたいものはありませんか?」

 

そう言ってくれるのは信冬だ。

髪を後ろにくくり赤いエプロン姿で俺を心配そうに覗き込んでいる。

ああ、そうだな・・・

 

「お茶漬け・・・」

 

お粥でもいいんだが簡単に食べれるものがいいんだ。

 

「お茶漬けですね!分かりました」

 

信冬はさっと立ちあがるとベッドが並んでいる寝室を出て台所の方へ向かう。

信冬が残っているのは俺が風邪だと分かると病人を1人してはおけませんと頑として登校を拒否したからだ。

キンジやアリアはほっときゃ治ると言ってたが・・・

アリア・・・俺にはなんか買ってきてくれるかな?

前にキンジが風邪をひいた時のことを思い出しながら首を横に振る。

ああもう!余計なことばかり考えてないで早く風邪を治さないと・・・

武田襲撃まで後、4日を切ってるんだぞ。

熱でぶっ倒れてる場合じゃないのに・・・

あ、そうだ。緋刀使えば治るかもしれないぞ。

と馬鹿なことを考えたりしていると

 

「お待たせしました!」

 

丼に入ったお茶漬けを持ってきてくれる。

 

「おお!うまそうだな」

 

程よく入ったお茶にしゃけがまぶしてある。

量も適量でバランスも取れていると言えるだろう。

 

「フフフ、これくらいなら誰でも作れますよ」

 

微笑みながら言う信冬を見てちょっとドキッとした気もするがまあ、熱のせいだな。

 

「いや、アリアやレキは出来ないと思うぞ。あいつら料理は全然できないからな」

 

「失敗しようがないですよ優希」

 

「分からんぜ。あいつらのことだ。お茶漬けに水を入れたり、しゃけをまるごと乗せて持ってきたりとか普通にやりそうだ。

「アリアの場合しゃけは1匹まるまる生」

 

レキの場合はカロリーメイトが浮いてそうだ

 

「フフ、優希はアリアさんのことよく知ってるのですね」

 

「まあ、長い・・・くもないか。最近はよく一緒に行動してたからな」

 

流石にアリアのことが好きだったことは言えないので適当にごまかしとくと信冬は持ってきていた椅子に座る。

俺はお茶漬けを腹に入れてから信冬にもらった薬を飲んで再び横になる。

 

「げほげほ!信冬。俺は寝てるだけだからお前は学校に今からでもいいから行けよ。まだ、2時間目には間に合うだろ?」

 

そもそも、信冬の護衛役の俺がこの有様では学校にいた方が安全だと思うのだが・・・

いくら、武田の襲撃が4日後とはいえ・・・

実際、アリアも誰か1人残るべきと言っていたが信冬が武田の襲撃は100%ないと断ったのだ。

自分に俺の看病をさせてほしいとお願いして

 

「いえ、優希は私の未来の夫です。ですから、妻が夫の看病をするのは当然のことなんですよ」

 

そう言って俺の額のタオルを取って水につけて絞り、再び額に乗せてくれる。

正直、この子は俺にはもったいないぐらいの子なんだよな・・・

 

「高木は俺とお前の婚約関係は完全に破棄されたって言ってたぞ」

 

「そのようですね」

 

どこか寂しそうに信冬は言うと俺を見ながら

 

「ですが私は了承したつもりはありませんよ。今でも、あの時と同じくあなたと結婚するつもりで私はいます」

 

あの時・・・その言葉に少し違和感を覚えるが用は自分は納得してないから婚約は破棄されてないってことか・・・

 

「もし、この婚約を優希が破棄するその日が来るとしても私という婚約者がいたという事は忘れないで欲しいです」

 

「信冬・・・俺は」

 

ここまで言われて情けないと思うが俺はまだ、結婚とかそんなことは考えられない。

 

「分かってます。最後に決めるのはあなたですから」

 

「ああ・・・そうだな・・・」

 

そこまで言ってから少し眠くなってくる。

薬が効いてきたみたいだな。

 

「覚えていますか?優希?あの日の・・・」

 

何かを信冬は言いかけたが俺の意識は闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

闇の中・・・1つ浮かぶ影がある。

その影には見覚えがある。

 

「お前かスサノオ」

 

緋刀に目覚めてから幾度となく俺の中や夢に現れる少女スサノオ。

俺と姿はそっくりだがなぜか、女装した女の子バージョン。

いや、実際スサノオは女なのかもしれないが・・・

 

「紫電を返してもらえたようだね。それは何より」

 

「ああ、夢だよなこれ?」

 

よく分からない空間で話しているがそうとしか考えられない。

紫電が手元に戻ったことによりパスも復活したわけか

 

「正確には君と私が話す空間だよ。緋刀を使う状態でも君と話せるのは割と限定的だからね。表面が寝ている状況ならこうして対面して話せるのさ」

 

「ふーん、で? こうして出てきたってことはなんか言う事があるんだろ?」

 

「もちろん、警告とアドバイスを。武田信冬のことは諦めるべきだ」

 

お前もそんなことをいうのか・・・

 

「嫌だ。それはできない」

 

スサノオははぁと息をはいてから

 

「言うと思ったよ。君は武田信春と本気で戦うつもりかい?」

 

「できるなら戦いたくないが最悪やるしかないだろ?」

 

「私は彼女の力を詳しくは知らないがこれまでの君の知り合いからの言葉から察するに相当な化け物だ。それもみな、口を揃えて君の死を示唆している」

 

「それでも姉さん以下だ」

 

そうは言っても気休めにしかならないがな・・・

 

「私は君に死んでほしくない。そこで、アドバイスというか切り札を渡そうと思ってね」

 

「切り札?」

 

「そう、緋刀状態の時のみ使える切り札だ。いいかい?教えるよ。その技は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                    †

 

目を開けても世界は闇だった。

枕元を探りスマホを見ると夕方の6時を回った所だ。

スサノオとの切り札の話を夢の中でしたのを覚えている。

確かに、あれなら相手がどんな化け物でも勝機はあるかもしれない・・・

だが・・・

電気をつけるとメールが入っているのに気付いた。

差出人は信冬か?

開くと夕食の買い出しをしてくるので少しだけ留守にするとのことだった。

額に手を当ててみるがよし、熱は引いてるな。

たっぷり寝たとはいえ、我ながら回復力は人並み外れているなぁ・・・

そう思った時、スマホに着信音が鳴り響く。

非通知設定?

嫌な予感と共に通話ボタンをスライドさせる。

 

「もしもし?」

 

「椎名優希君?」

 

「そうだけど?誰だ?」

 

「暁の人間と言えば分ってもらえるかな?」

 

ドクンと心臓が跳ねた気がする。

暁家・・・

信冬が結婚させられそうになってる家の人間・・・」

 

「知らねえな。名前を名乗れよ」

 

「暁竜馬。武田信冬の夫だよ」

 

夫と言った言葉と呼び捨てに一瞬、いらっと来たがここは冷静に対応しないとな

それにその名前は高木が言ってた暁家の次男だ。

 

「まだ結婚もしてねえのに夫ねぇ・・・何の用だ?どうやって俺の携帯の番号知りやがった?」

 

「失礼なガキだな。年長者には敬語を使いたまえ」

 

「あいにく、聞かないと名前を名乗らない失礼な奴に使う敬語は持ち合わせてなくてな」

 

「なるほど」

 

ふんと小馬鹿にしたような息遣いが聞こえる。

会ったことはないがインテリ眼鏡って感じがするぞ

こう言う相手は嫌いなんだよ・・・

 

「要求は1つだ。私も忙しい。さっさと、信冬を返してもらおうか。君の所にいるのは分かってるんだ」

 

 

「ここにいるのは信冬の意思だ。返すも何もねえよ。それに、武田は4日は手を出さないと約束してる」

 

「それは、武田が勝手に言ってるだけのこと。つまり、返す気はないと?」

 

「返すも何もねえって言っただろ。信冬は渡さない」

 

「殺すぞお前?」

 

従わなければ殺すか・・・

分かりやすいな

 

「へぇ、そりゃすごい。どうやって俺を殺すんだ?」

 

「そうだな。こういうのはどうだ?やれ!」

 

その瞬間、感じたのは殺気だ。

背後から猛烈なそれを感じた俺は迷わずに紫電を掴んで玄関を飛び出しそのまま、ワイヤーで下り走り出す。

人のいないところに!

だが、それは叶わなかった。

 

「逃げんじゃねえよガキ!」

 

声に振り返りながら紫電を構える。

学園島の道路で敵と対峙することになる。

街灯の下に現れたのは金髪の男だ。

髪はオールバックにチンピラが着るような黒いレザージャケット。

右手には日本刀が見える。

 

「今の殺気はお前だろ? 暁竜馬の仲間か?」

 

「仲間ぁ? 違うな俺はあのぼんぼんの用心棒みたいなもんだ。あいつが気に入らない奴を俺がブッ飛ばす。すげえんだぜ?殺人もあいつがもみ消してくれるんだからよ」

 

にたぁと狂気に満ちた顔で笑う男。

年は俺より上だな。

そして、油断はできなさそうな感じではある。

 

「最低だなお前」

 

「ハッ!てめえも同類だろ!ぼんぼんから頼まれてんだ。お前をぶっ殺して女攫ってこいってな!そしたらボーナス弾んでくれるらしいぜ」

 

ちっ、やはり信冬狙いか・・・だが、戦闘するにせよ場所が悪い。

学園島は武偵校生が多くいる敷地内だが一般人も決して少なくない。

こいつの実力次第では被害が出るぞ。

 

「勝負は受けてやる。だから、場所を変えるぞ。学園島の隣に空き地になってる島が・・・」

 

「んなもん知るかよ!おら始めるぜ!」

 

交渉の余地も無しかよ!問答無用で殺せと命令を受けてるってことか!

男が取り出したのはコンバットマグナム。

左手で俺に向けてくる。

片手で撃ってくる気か!

銃弾撃ちが弾くつもりで銃に意識をやるがとっさに飛び出したため紫電しか持って来れなかった。

装備はほとんど、部屋の中だ。

ワイヤーも携帯用のみで防弾制服すら来ていない最悪の状況。

発砲音と共に紫電で切りはらうつもりで構えようとして猛烈な嫌な予感がしてその場から飛びのく。

 

ドオオオン

学園島の道路で大爆発が起きて衝撃で飛ばされる。

くっ!いきなり、一般人が通るかもしれない場所で武偵弾!しかも、炸裂弾かよ!

不幸中の幸いなのは人も車の通っていないってこと1点。

殺しても暁がもみ消すから一般人への被害もお構いなしってことかよ!

 

「ハハハ!いい反応だ!そういや、名乗ってなかったな!俺は風間昭二!暁の用心棒だ!」

 

「椎名優希だ!」

 

名乗られたら名乗り返すのが礼儀。

紫電を手に初手の武偵弾を交わせたので接近戦に持ち込むため特攻する。

銃がない以上接近戦以外ねえ!

武偵弾は高価だ。連続してはない!

 

「「はっ!」

 

ドンドンと回転式けん銃から2発正面。

切りはらう!

銃弾切りから一気に詰める。

速効で勝負をつけないと死人が出かねない!

だが、飛び出した銃弾に一瞬だが刻印が見えた。

あれも武偵弾!

俺もたまにやる武偵弾連続発射だ。

避けねえとまずい!

距離的に避けられると横に飛ぼうとした瞬間

 

「お兄さん?」

 

横道からアリスが出てくるのが見えた。

避ければアリスに直撃するコース。

迷ってる余裕はない!

銃弾切りで武偵弾2発を迎え撃つ。

炸裂弾以外ならと願うがその願いはかなわなかった。

大爆発と紅蓮の炎が俺の視界を覆い尽くした。

皮膚が焼かれずたずたになるのを感じながら爆発が収まるとがくりとひざをついた。

かろうじて紫電は手にしているので紫電を杖代わりにして・・・

 

「ハハハ!直撃だぜ」

 

「ぐっ・・・」

 

2発分の炸裂弾か・・・よく即死しなかったな俺・・・

アリスに目をやるといつもは小悪魔な調子でからかってくる後輩は真っ青になって俺に駆け寄ってくる。

 

「お、お兄さん!」

 

「来るなアリス・・・」

 

左目が開かねえ。

流血が滝のように地面に流れてやがる。

 

「でもそれ私をかばって!」

 

「そうだぜぇ。さっさと治療しないと死んじゃうなぁ。ひゃはは」

 

勝利を確信したってとこだな。確かに普通の人間ならこれで死ぬだろう。

最近分かったことがある。

体が適応しないうちは条件はアリアだったが最近は守ることがキ―になってる。

これができるから盾にもなれる。

 

「心配するなアリス。俺は死なねえよ」

 

よろよろと立ちあがりその言葉を口にする。

 

「緋刀化」

 

言葉はなりやすくするためのものだがアリスを守るためその状態になる。

紫電があるためアリアの血を使わなくてもその状態になれるのだ。

髪が緋色に染まり、瞳の色もカメリアの色に染まる。

同時に傷がふさがっていく。

重症と言えるその傷がみるみると消えて行くのだ。

ひゅんと紫電を横に振るうと傷が無くなっているのが分かる。

我ながら化け物じみてるな

 

「よし!」

 

風間の方を見ると目を丸くしてやがるな。

 

「て、てめえ。化け物かよ」

 

「へっ!」

 

にっと笑い緋刀状態+戦闘狂モードになった俺は言ってやる。

 

「形勢逆転だ。こうなった俺は強いぜ」

 

「はっ!なら炸裂弾の嵐で即死しな!」

 

コンバットマグナムから立て続けに発砲音が響く。

風間の言うのが本当なら全部が炸裂弾だ。

くらってやる義理はない。

 

紫電を右斜めに上に振りかぶると刀身が緋色に輝く。

 

「緋龍0式!緋包み!」

 

緋色の光が紫電から撃ち放たれ風間の炸裂弾が炸裂すると同時にそれの全てを飲みこむ。

時の彼方に爆発が飛ばされたのだ。

後に残るのは抉られた道路と驚愕の顔を浮かべる風間だ。

よし、威力絞って限定的な場所のみを包み込む緋光剣できたぞ。

風間を飲みこまずにできた事でこの技も使いやすくなる。

スサノオの教えてもらった緋光剣のバリエーションの1つだ。

緋刀は俺のオリジナルだから緋龍0式系の技と命名しよう。

うん、今決めた。

緋色に光る刀身を風間に向け

 

「退け。それで暁に使えろ。信冬は渡さないってな」

 

「くっ!てめえ・・・」

 

今の攻防で理解したが風間は銃を持つ人間としては2流だ。

射撃の腕は悪くないが武偵で言うならCランクってとこだろう。

今までは武偵弾使いたい放題だからランク差も埋めれてきたのか運よく強いやつと当たらなかったのかとにかく、Sランク武偵に勝つことはできない。

だが、こいつの後ろにいるはずの暁竜馬というより、暁は・・・

 

「・・・」

 

「・・・」

 

睨みあいが続き先に折れたのは風間の方だった。

 

「ちっ!分かったよ引いてやるよ!」

 

そう言って銃を下に下げたので俺も刀を下げる。

なんとかなったわけか。

 

「お兄さん」

 

アリスが駆け寄ってきたのでそちらを見た瞬間

 

「危ない!」

 

アリスが悲鳴を上げた。

 

「何て言うわけねえだろ!」

 

再び風間が発砲してくる。

7倍の筋力でその場からアリスを抱えて退避した瞬間猛烈な音が耳を揺らした。

カノン!音響弾か!

直後に猛烈な光があたりを照らす

続けて閃光弾。武偵弾の王道攻撃パターンだな。

だが、俺には焦りはない。

アリスを下ろして、すぐに逃げるように言ってから、真っすぐ風間の元に走る。

目は開いている。

緋刀の力で一気に視力、聴力を回復させたのだ。

この回復力、最近どんどん強化されていってるきがするがこの場ではありがたい。

 

「な、なぜだ!なんで何の影響を受けてねえんだよ!」

 

俺の非常識な状況に風間は後ずさりしながら1歩、2歩と引きながら残りの残弾を撃ってくるがその弾道は単調だ。

 

携帯用ワイヤーを使って飛び上がり銃弾を交わすと風間の前に降り立つ。

刀の間合いだ。

 

「う、うおおお!」

 

風間が右手の日本刀を振るってくるが遅え!

すれ違いざまに高速の斬撃を食らわせ風間が膝をついた。

同時に銃と刀が地面に落ちる。

 

 

「飛龍1式風切。予定変更だ」

 

風間の胸倉をつかんで片手で持ち上げる。

 

「は、離せ!」

 

ばたばたとみっともなく風間は暴れるがそうしてやる気はない。

 

「暁 竜馬は今どこにいる?学園島に来てるのか?」

 

「・・・」

 

「喋らないなら腕の1本でも折るか?」

 

脅し気味に言ってやると蹂躙されるのは初めてなのか風間は怯えた声で

 

「ま、待ってくれ!話す!話すからやめてくれ!」

 

「よし」

 

「ぼ、ぼんぼんは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

                 †

 

学園島の一角。

海沿いのその駐車場に止められたリムジン。

それが、暁竜馬の車だった。

風間を縛って道端に転がしてから装備を急いで取ってから風間に教えられた場所に向かった。

リムジンに後ろから近づくと後部座席に男の頭が目に付いた。

あいつか。

威嚇目的でデザートイーグルを右手にこちらに全く気付いていない男の横の窓をコンコンと叩く。

 

「風間か?遅かったな、信冬は・・・ぅ!」

 

俺を見て驚愕に目を見開いたのでデザートイーグルを相手に向けながら

 

「風間ならその辺の道で寝てるぜ。お前が暁竜馬だな?降りろ!」

 

「くっ!」

 

思った通りインテリ系の眼鏡君だな。

年は俺よりかなり年上のようだが・・・

30代くらいか?

 

「おい!早く出せ!」

 

運転手に竜馬が怒鳴り車にエンジンがかかる。

防弾リムジンなんだろうが逃がさねえよ。

 

左手に持っていた紫電でタイヤに軽く触れるとホイールの半分が消滅し車が発進できなくなる。

車はガガガと音を立てて進まない。

 

「おい!どうした!早くしろ!」

 

「う、動きません!」

 

運転手が悲鳴を上げている。

紫電があると緋刀が思うように使えて便利だな。

いくら使っても刀身が消滅するようなこともないから経済的にも優しいぞ。

とか考えながら緋色の光を纏った紫電をドアに押し当てると鍵の部分が消滅し、リムジンのドアが開いた。

 

「ひいいいい!」

 

恐怖におびえて車の奥に逃げるのを見て、なんか・・・哀れなぐらい小物だな暁竜馬・・・

暁家って実はたいしたことないのか?

なら思いっきりビビらせれば信冬のことも諦めるかな?

よし、そうしよう

 

「どうした?俺を殺すんじゃないのか?びびってたらできないぞ?」

 

緋刀状態を解いて、デザートイーグルを暁竜馬の向けて言ってやる。

 

「ま、ままま待て!撃たないでくれ!」

 

「んー、どうしよっかな」

 

にやにやしながら言ってる俺って傍から見たら強盗そのものだな・・・

戦闘狂モードのせいもあるんだが・・・

 

「金か?金ならいくらでも渡す!だから助けてくれ!」

 

「んなものいらねえよ。信冬のことを諦めろ」

 

「わ、わわわわか・・・」

 

今にも泣きだしそうな顔で身を縮こまらて信冬との結婚をやめる宣言をしそうなまさにその時。

 

「あら?それは困るわお兄様」

 

「!?」

 

背後からの声にデザートイーグルを向け車から少し離れる。

まだ、仲間がいやがったか

 

「こんばんわ、椎名の後継。いい夜ね」

 

白と黒のフリルのついたワンピース。

黒い瞳に長い髪。

自信に満ちたその顔は美少女だが危険な匂いがぷんぷんしてくる。

今お兄様って言ったよなこの子

 

「暁竜馬の妹か?」

 

「ええ、暁 花蓮。そこで怯えてるのは不本意ながら私のお兄様よ」

 

「椎名優希だ」

 

「名乗られたら名乗り返すのは礼儀。そういうマナーをわきまえてるのは嫌いじゃないわ」

 

「そりゃありがとう」

 

さて、どうするか・・・

暁家の家族構成は不明だがこの花蓮って子は竜馬を助けに来たらしいぞ。

だが、戦闘的に花蓮の方は脅威には感じない。

問題なのは花蓮の護衛役なのか花蓮の背後に直立不動で俺を睨んでいる男だ。

見るだけで分かる。

最低でもAランク級だ。

 

「心配はいらないわ。優希、今日は交渉に来たの。佐藤をあなたにけしかける気はないわ」

 

今はねと花蓮が微笑む。

あのおっさん佐藤っていうらしいな・・・

その交渉とやら決裂したり俺が攻撃を仕掛ければ佐藤がけしかけられるわけか・・・

とりあえず、交渉とやらを聞くしかないぞ。

 

「武田信冬との結婚は暁にとって必要なことなの。了承してくれないかしら?」

 

「悪いが断る」

 

「・・・」

 

佐藤が俺に殺気を向けてくるが花蓮はすっと右手を上げてそれを制して

 

「なぜかしら?本気で武田の姫を愛してる。そういうのであれば一考の余地はあるかもしれないわ」

 

愛してるか・・・残念ながらそれは違う。

 

「信冬は俺の大切な友人だ。あいつが不幸になるのをみすみす見てられるかよ」

 

特に今の暁竜馬を見た後じゃ余計にな

 

「駄目ね。そんな理由なら私は一考もしない」

 

「ならどうする?その佐藤っておっさんけしかけるのかよ?」

 

臨戦態勢を整えるが花蓮はフフフとおかしそうに笑って

 

「知ってる優希?暁の戦闘の人員は数百はいるわ。そのほとんどは雑魚だけど中にはなかなかの手だれもいる」

 

「・・・」

 

「その全てをあなたの知り合いに一斉にけしかけようかしら?何人かは確実に死ぬわね」

 

「っ!」

 

それは相当にやばい話だ。

俺の知り合いには当然、戦う力をもたない人がいる。

その全てを守り切るのは不可能。

 

「ゲームをしない椎名優希?」

 

「ゲームだと?」

 

「あなた達裏の世界では今、極東戦役というゲームをやってるんでしょ?だから、私達もやるの」

 

超人以外は戦わない極東戦役のルールを適応するってことか?

 

「7日後、お兄様と武田信冬の結婚は行われる。それまで、暁の戦闘員はあなたたちでいう最低Aランク以下は動かさないわ」

 

「その対価は?」

 

俺の知らないところで知り合いが無差別に襲われるという最悪の戦略をしない条件は当然厳しいものになるだろう。

 

「対価はたった一つよ。水月希を決して今回の戦いに参戦させないこと」

 

やはりというか姉さんを封じに来たか・・・

味方にたってくれるか未だに分からないが姉さんは動けば確実に戦局を変えてしまう戦略兵器だからな・・・

 

「姉さんは気まぐれだ。俺が戦わないでと言っても聞かないかもしれないぞ」

 

「そうかしら?あなたがお願いしたら聞いてくれると私は思うんだけど?」

 

姉さんが戦力として数えられないなら相当に厳しいが暁に無差別攻撃をされればその時点で俺の負けだ。

椎名本家の家族は大丈夫だろうがその他の知り合いに確実に死者が出る。

それだけは許せない。

いや・・・方法はあるか。

 

「選択肢3があるな暁花蓮」

 

「あら?何かしら?」

 

「ここでお前をおしりぺんぺんして今回の件を終わらせるって選択肢だ」

 

「お嬢」

 

佐藤が花蓮の前に出て俺に殺気を向けてくる。

やるしかないならやるだけだ。

花蓮は仕方ないわねとため息をはいて

 

「やりなさい佐藤。ただし、殺しちゃ駄目よ」

 

「分かった」

 

来るか!?

紫電を手にかけた瞬間、佐藤が動いた。

いや・・・

消えた!?どこに・・・

直後に背後から天地を揺らすような一撃が体を襲う。

 

「ぐっ!?」

 

背後に紫電を振るうがそれは空を切る。

 

「遅いな」

 

声は真横からだ。

そちらに意識を向けようとした瞬間わき腹に何かがめり込む。

 

「ぐ・・・」

 

パキと骨が砕ける激痛を感じながら滑りながら後退する。

口から血が出てくるがそれに構ってる暇はない。

更なる追撃がくる!

相手はステルスか?それとも、体術の超人か?

 

「佐藤は私の自慢の護衛役よ。佐藤、そろそろ決めなさい」

 

「了解だ。お嬢」

 

再び背後からの声。

しまっ!?

ズドンと背中に打撃の衝撃を感じると地面に叩きつけられる。

起き上がろうとするがダメージがでかすぎて起き上がれない。

 

「これで分かってくれたかしら?水月希が参戦してくれないようにしてくれる?」

 

「・・・」

 

「お嬢。折るか?」

 

佐藤の足が俺の背に乗せられ力が込められていく。

死ぬ・・・このまま、込められれば心臓ごと踏みぬかれる。

 

「待ちなさい。佐藤、どうする優希?このまま、死ぬ?」

 

メキメキと体が悲鳴をあげる中逆転の一手・・・

 

「優君!」

 

その声にはっとして首を持ち上げるとそこにいたのは秋葉だった。

状況を読みとったらしく手を佐藤に向ける。

 

「こいつの近衛か」

 

佐藤は俺を踏んだままそちらに意識を向ける。

 

「あら?椎名の近衛?暁と椎名の間で話はついてるはずだけど?」

 

それを聞いて秋葉が目を丸くする。

 

「暁・・・」

 

攻撃をしかけようとしても仕掛けられない。

そんな感じだ。

 

「佐藤、その近衛は何もできないわ。続きをやりなさい」

 

「了解だ」

 

「がっ!」

 

足に力が更に強まり地面に圧迫される。

 

「優君!」

 

秋葉が周囲に風を纏わせるがそれを佐藤に振るう事はない。

怒りで睨んで最後の一線を保ってる感じだ。

 

「フフフ、残念ね。優希。その子はあなたを助けない。暁と椎名でそう約束したもの」

 

なるほど、そういうことか・・・

 

「・・・」

 

そんな目で見るなよ秋葉。そうであっても俺はお前を恨んだりはしないよ。

泣きそうなお前のその顔・・・俺は見たくない

 

「優君を放してください」

 

だが、それでも秋葉は俺を見ながら花蓮を睨んで言う。

 

「あら?嫌よ?まだ、返答を貰ってないもの」

 

花蓮は馬鹿にしたように微笑みながら言う。

秋葉は一瞬、目をつぶり何かを決意するように目を開ける。

 

「放してください」

 

切り裂くような風が秋葉の周りに吹き荒れる。

 

「いいの?私達と戦えばその時点であなたは罪を免れなくなる。下手すれば死刑よ」

 

「・・・」

 

暴風が秋葉の右手の槍に集中していく。

やる気か秋葉!?

 

「やめろ!秋葉!どうにかする!」

 

秋葉は参戦させられない。そうすれば、あいつは死刑になるかもしれないんだ。

この状況で椎名の家まで敵にすればもう本当にどうしようもなくなる。

それに、俺はお前を失いたくない!

 

「ほう、どうするんだ?」

 

佐藤が足に力を入れてくる。

メキメキと骨がきしむ音。

息が・・・死ぬ・・・

く・・・そ!

 

「ではこうしましょう」

 

静かな声と共に佐藤が吹き飛ばされる。

がさっと買い物袋を手に黄金の髪を揺らしながら武偵校制服姿の信冬が俺の前に立つ。

 

「の、信冬!?」

 

解放されて息を吸いながら立ちあがる。

 

「あ・・・」

 

秋葉が風を収めるのを横目に黄金の髪の少女の横に立つ。

 

「大丈夫ですか優希?」

 

「ああ、悪い助かった」

 

「婚約者ですから」

 

にこりと信冬は微笑んでから招かれざる客の方を見る。

佐藤の方は既に体制を立て直し殺気のこもった目でこちらを見ている。

花蓮は薄い笑いを浮かべたままこちらを見ていたが口を先に開いたのは彼女だ。

 

「武田信冬。いえ、信冬お義姉様でいいかしら? どうして邪魔なさるの?いいところでしたのに」

 

「暁花蓮。私はあなた達、暁に嫁入りしたわけではありません。その呼び方はやめてください」

 

「あら?どうして?いずれするなら今呼んでもかわりないんでなくて? それとも、逆らうつもりなのかしら?あなたのお婆様と私達、暁家に。フフフ、強い女を屈服させるのも一興というものですけど周りを巻き込んで楽しいのかしら?」

 

「・・・」

 

「逆らうのは結構。ですが、その結果何人死ぬかしら?」

 

「・・・」

 

信冬は何も言わない。仕掛けることもせずに花蓮達を見ているだけだ

 

「椎名の後継なら分かるわよね?その子を引き渡して目を閉じることがどれだけ合理的な判断なのか」

 

俺に振ってきたか。確かに状況は最悪に近い。武田や暁を完全に手に回して俺達が勝てる可能性は・・・

だがな

 

「関係ねえ」

 

「ん?」

 

俺は信冬の前に立つと威圧するように紫電を背後の肩に乗せ見下すように睨みつけてやる

 

「関係ねえって言ったんだよ。お前ら暁や武田が強力でも俺が何とかしてやる。だから、信冬のことは諦めて新しい婚約者捜しでもやりやがれ」

 

もう、どうにでもなれ!

半分やけくそだが覚悟を決める時が来たってことだ。

ここは絶対に引かねえぞ!

 

「合理とか知らねえよ。非合理だろうがなんだろうが俺は絶対に信冬は渡さねえ!」

 

信冬には作戦もあるらしいからな。ここは、そこに乗っかるとしよう

 

「はぁ、ここまで馬鹿とは思わなかった。佐藤、帰るわよ」

 

「了解だ。しかし・・・」

 

佐藤は俺を睨んでいたが花蓮が再び声をかけてくる。

 

「いいの。どうせ少し遅いか早いかの違いだけ。でも、お馬鹿さんに一つだけ忠告しておいてあげる」

 

薄く笑ったまま花蓮は俺を見て

 

「さっさと、その考えを変えてその子引き渡さないと殺されるわよ」

 

「お前らにか?」

 

「フフフ」

 

花蓮はそれには答えずに背を向けて歩きながら

 

「暁は今回の件ではもう東京では手出ししない。それは確約してあげる。だから、せいぜい残りの時間を楽しんでくださいね。お義姉様」

 

佐藤と共に闇の中に消えて行く暁花蓮達・・・

とりあえずの危機は去ったとはいえ・・・

 

「優希、もしも・・・」

 

信冬が何かを言いかける。

だが、その先の言葉は分かる。

 

「お前は俺が守る」

 

決意と覚悟を決めて俺はそう言った。

 

「・・・」

 

風林火山を解き俺を見て少し目を丸くした信冬は少しだけ頬を赤く染めて小さく頷いた。

 

 




というわけで新年早々一万文字超えです(笑)

次から次へと優の支援は消えてついに、武田の他にも暁の関係者も現れます。
この暁花蓮は優と同じ年ですが出れることはあるのか(笑)

次回はドタバタ編予定!

では今年も守るものをよろしくお願いします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。