結局アズマリアと会話した後、俺に待っていたのは悲劇だった。
アリア達に連絡してミャーさんの店には行けなくなったことを伝えてから電話を終える。
空き地島は周りが海に囲まれているのでボートもなく冷たい東京湾を泳いで帰るはめになった。
烈風は間の悪いことにヒルダ戦後のオーバーホールとのことで京菱重工の工場に行っており手元にはない。
秋葉に連絡してみたが残念ながら月詠に呼び出されているからなのか電源を切っており繋がらなかった。
金がないから他の連中には頼りたくないし・・・
やっとの思いで寮に帰ると今度はアリア達の質問攻め。
風呂にも入れずアズマリアとした会話をすると
「災悪の魔女アズマリアが優に協力って・・・あんた、まさかその話し受けたんじゃないんでしょうね?」
信冬が入れてくれたコーヒーを口に入れながらアリアが言った。
ソファーで足を組んで座っている。
それをキンジ、俺、信冬が囲むように座っているんだ。
「いや、言ってないリスクが多すぎるからあいまいに返事しておいた」
「賢明ね。下手に断ったり受け入れたら何されるかわかったもんじゃないわ。これ以上余計な敵を作りたくないしね」
「確かにな。でも・・・」
手には紫電がある。
アズマリアはそれをほとんど、無条件で返してくれたんだ。
「あんたのその、ステルス殺しの紫電を返してくれたからって善人とは限らないのよ?」
「ああ、分かってる」
「あの魔女は本当に危険なんです優希。絶対に信用してはいけません」
信冬も俺を真剣な目で見て言ってくる。
「確かにあいつからは底知れない何かを感じたが俺達と同じ年なんだろ?それに俺はよく知らないんだがあいつは何者なんだ、武田?」
「災悪の魔女アズマリア、先代のアズマリアは世界を滅ぼそうとしました」
「先代って言うと母親か?なんだ?隕石落とそうとしたり、核を乱射とかさせようとしたのか?」
キンジが聞いているがそれは俺も少し興味ある。
アズマリアの過去は姉さんたちの話にも繋がるからな。
信冬は首を横に振り
「北条花音という名を知ってますかキンジさん」
その名前・・・姉さんのチームメイトの・・・
「いや、知らない。誰だ?」
「鈴・雪土月花。私の姉様、武田雪羽と同じチームだった女性です」
「鈴・雪土月花・・・優の姉さんや公安0のあの人のチームか?」
「そうです。姉様達が兵庫武偵高3年最後の冬。アズマリアは北条花音を拉致し彼女のある魔法の力を使い世界を滅ぼそうとしました」
「その北条花音ってやつのステルスか?」
「ちょっと待ちなさいよ。世界を滅ぼすようなステルスを1人の人間が持ってたの?」
アリアもその辺の事件には詳しくないらしい。
当然だ。
これは、関係者の親族でも知ってる人はまれな話。
裏武家である信冬は知ってるようだが・・・
俺はそう言った話は断片的にしか知らないんだ。
「可能だったのです。彼女の能力は重力を操る能力と因果律を操る能力」
「因果律?」
「優希、あなたはコインを投げて表を1万回表を出し続けることはできますか?」
「無理だな」
「ですが裏を出したその時、表が出ていたという未来は確実に存在しています。その因果を選択できるのが北条花音のもう一つのステルス・・・いえ、これはもう、魔法の部類でしょうね」
選択した都合のいい結果だけを現実にできるってことか?
「何それ、チートにもほどがあるじゃないの」
それはつまり、因果を操作された攻撃は100%疑いようがなく直撃するというありえないほどのチートな攻撃だ。
分かりやすく言うなら刀で首を狙って振りおろし相手が防御に成功しても攻撃が通ったという未来が確定されてるわけだから相手は首を落とされる。
文字通り最強の能力といっていいだろう。
「その因果の力と重力。アズマリアは重力を崩壊させブラックホールを地球に発生させようとしていたんです。そして、因果の力を北条花音を通じて使用し、最後の希望として、北条花音を奪還するために突入した鈴・雪土月花は壊滅状態になるも辛くも勝利を収めました。先代アズマリア消滅と北条花音の死と引き換えに」
「能力を通じて使用したって言ったわね?因果を操る相手をどうやって倒したのよ?」
「あそこでどんな戦いが行われたのかは残念ながら本人達が口を固く閉ざしてるので謎のままです。どうやって、因果を破ったのか・・・北条花音がどんな死に方をしたのかも全てです」
姉さんのことだから気合とかで乗り切った・・・と考えるのは無理だ。
なぜなら、それができるなら北条花音さんは絶対に死んでない。
弟だからこそ分かる。
姉さんたちは苦戦したんだ。
あるいは負けそうになったのかもしれない。
姉さんが負けそうになるなんて想像できないがそれだけ恐ろしい能力だったってことだ花音さんの能力は。
「キンジさんのお父様も関わっているのですよ」
「親父が?」
キンジが驚いたように言う。
「最後の突入作戦の時、力を貸してくれたのです」
キンジの父、遠山金叉さんか・・・
恐ろしく強い人だったとそう言えば姉さんが昔、話しているのをちらりと聞いたことがある。
「そう言う意味では、優希と私、キンジさんは少なからぬ縁があるように思えますね」
共に姉や父が世界を救った戦いに参加した縁か・・・
アリアや理子との縁はここにはないが鈴さん繋がりでレキもだな・・・
「付け加えるならシャーロック卿やリュパン3世も力を貸しています」
縁あった!
「おじいさまも!」
今度はアリアが驚く番だ。
なんてこった・・・その時の関係者が全員揃って同じチームになるとか偶然なんてレベルじゃねえぞ。
秋葉も椎名の家の関係者と言えば関係者だし
「もっと詳しく聞きたいところではあるけど・・・」
アリアは信冬を見て
「そろそろ、具体的に決めておきたいわ。武田の再襲撃まで後、5日。正確には今0時を回ったから4日だけど。優の話を聞く限り私たちの手に追える相手じゃない。調べれば調べるほどね」
「策ならあります」
信冬は正座したまま静かに答える。
「聞かせてちょうだい」
「今は話せません。この策は話せば効力を失うのです。残り、4日。武装の整備をしつついつも通りの学生生活をお願いします」
何か考えがあるのか信冬?まあ、お前のことだ。
1発逆転の策があるんだろう。
「本当に策があるのね?」
アリアがカメリアの瞳を探るように信冬に向ける。
信冬は真っすぐにその目を見返すと
「はい、上手く言けば戦わずこの護衛は終わらせることができるでしょう」
「分かった」
アリアはそう言って立ちあがった。
「日もまたいじゃったし今日はここまでにしましょう」
アリアのその言葉で解散となるのだった。
あの子とあったのは雪が静かに降る冬のことだ。
一面が白い雪に覆われた庭の端で冬だというのに和服姿の少女。
武田信冬。
椎名の家から将来の結婚する相手と言われた少女だ。
その子は俺が来ているのに気付かずに雪の上に座り込んで何かをしている。
「何してるの?」
そう言うと少女が振り返る。
「あなたが私の婚約者ですか?」
「そうみたい。武田信冬ちゃんだよね」
「信冬で結構です。夫は妻にちゃんとはつけませんから」
「え?あ、うん。分かった信冬」
今思えば大人っぽいというか背伸びし過ぎな子だったよな信冬。
†
サイド土方
公安0という組織は表面だけを知っている人間には殺しばかりしている印象があるが実のところ、書類仕事が多い。
闇の公務員と言ってもお役所仕事ということに変わりないのだ。
「たくあいつは・・・」
公安0№2のため仕事場は個室が与えられている。数枚の書類を右手に灰皿に煙草を押し付ける。
ここ数年で吸う量が増えた気がする。
雪羽に減らすように言われ鈴にも最近は言われる始末だ。
ほっとけと言いたいがあいつらは家族だからな・・・
無下にも出来ない。
それにやめられないのは別に中毒というわけではないのだ。
「また、厄介な案件を抱えてるな歳」
「近藤さんか」
公安0のトップ近藤勇。俺の直接の上司で
狼のような風貌だがいるだけで周囲を威圧する風格があるが俺にとっては慣れた存在だ。
「歳が気にかけている椎名の後継か?」
紙を1枚手に取り近藤さんが言った。
「ああ、また厄介なことに巻き込まれてやがる」
「ふーむ、暁と武田か。中々、厄介と言うより最悪な組み合わせだな」
面白そうに近藤さんはにやりとしながら紙に目を通していく。
「笑い事じゃねえぜ近藤さん。あいつは、希の弟で椎名の血を引くものだ。決して無視できるやつじゃねえ」
「まあ、そうなんだがな。椎名の血と水月希の弟じゃなければとっくに死んでるだろうなこの少年」
「だろうな」
これまでは、優希に公安0は陰ながら限定的だが援助を施してきた。
直接的な援護はしてないができるぎりぎりのことを行っている。
戦闘のアドバイスや交通規制などがそれだ。
土方が公安0№2ということも当然あるが椎名の血筋と水月希の弟という肩書も当然関係している。
だが・・・
「今回は相手が悪すぎる」
裏武家の武田と表の大財閥暁家。
表と裏の巨大勢力が手を組んだ以上うかつに援護すれば大やけどを負うのは公安0の方かもしれないのだ。
性格には現政権といったところだろう。
「お上の方針もどうやら、中立を堅持し絶対に片方に肩入れするなというのに固まった。さっき、通知があった」
ぴっと紙を渡されそれを読むと内閣総理大臣からの勅命。
「日和見か。気持ちは分からなくはねえがな」
「まあ、そういうことだ。今回の件。公安0は動かない」
「・・・」
「歳、気持ちはわかるがお前は0課の2番手だ。間違いは起こしてくれるなよ」
「ああ」
†
サイド秋葉
東京のとあるホテルの1室。
そこに呼び出され部屋に入ると私の上司、椎名の近衛№1の月詠様がいらっしゃいました。
「椎名優希様直属近衛山洞秋葉参りました」
「御苦労様です。学校生活はどう?友達はできた?」
月詠様は優しげな笑みを浮かべて聞いてきます。
進められた椅子に座り
「はい、何人か友達は出来ました。学校生活もゆうく・・・優希様の護衛をしつつ満喫出来ていると思います」
「あら?別に普段通りでいいのよ秋葉? ぼっちゃまを優君と呼んでるのでしょう?」
「そ、それはその・・・優君が・・・あ、いえ優希様が・・・」
「フフフ、秋葉。私はね。別に怒るつもりで言ってるんじゃないのよ?普段通りでいいと言ってるの」
「はい、ではそうします」
「はい、素直でよろしい」
笑顔ですが月詠様の言葉には逆らいがたい何かがあります。
日本で数人しかいないRランクということと椎名の近衛最上位という存在がそう思わせるのかもしれません。
「最近ぼっちゃまはどう?楽しそう?」
そう言われていつもの優君を思い返しますがなんだかむかむかします。
「優君はたくさん女友達を作っていつもいちゃついてます」
「まあ」
月詠様は目を丸くして頬に右手を当てられます。
「勝てるかもわからない相手との戦いに首を突っ込んで死にそうになりながらも助ける。絶対に諦めないで自分の信念を貫き通そうとする大馬鹿でいつもお金がないと私にお弁当を作らせてありがとうと笑顔で言ってくれます。それに・・・」
つい時を忘れて優君のことを月詠様に行ってしまいはっとすると月詠様は笑顔でいらっしゃいました。
「報告書だけじゃ分からないこともいろいろ聞けて参考になるわ。ありがとう秋葉。あなたをぼっちゃまの所に送って本当に良かったと思えるわ」
「それは・・・」
むしろ感謝してるのは私の方です・・・
あの人は私の・・・
「だからこそあなたに頼みます。今回ぼっちゃまが武田信春と絶対に戦う事がないよう行動するように」
「それは・・・」
優君は馬鹿だ。
信冬様のためというより友達のためならおそらく武田信春と激突するのも躊躇しない。
「先ほど、当主代理様から連絡があってね。椎名本家は武田と敵対しないと公式に武田に通知したそうよ」
「!?」
それは・・・
「つまり、私や椎名の近衛は武田との交戦はしないということよ」
「優君は・・・椎名の人間です」
月詠様は首を静かに横に振り
「ええ、ですが当主代理様は通知してしまった。ぼっちゃま自身は椎名を出られ自立しているからこちらの通知の外と考えていいわ」
「それでは、優君は助けなしに武田と暁と戦う事になるのですか?」
「そうなるわ。そして、秋葉。あなたにも命令を、武田と暁との交戦を禁じます」
「っ!? でも・・・私は」
「あんたはぼっちゃまの近衛ではあるけど同時に椎名の近衛なのよ?あなたが戦えば武田や暁はおそらくこちらの、通知を裏切りと取るでしょう」
「それは・・・」
「破るならあなたには厳罰を与えなければなりません」
「交戦は・・・自衛すら許されないのですか?」
「もちろん、向こうがあなたを攻撃してくるなら自衛は認めますがそれも、逃げることを最優先としなさい」
「優君が目の前で殺されそうになっても・・・戦っては駄目なんですか?」
「・・・」
月詠様は小さくを息をはいてから私の目を見て言います。
「ええ、交戦は許可しません」
その言葉は私にとって何よりつらい言葉です・・・
私は信冬様の護衛任務で戦闘に参加できない・・・
優君の味方ができない・・・
たとえ、あの人が殺されそうになっても・・・
「これは命令よ秋葉?」
「は・・・い」
†
サイド??
1つ、また1つ優希の周りから援護の力が消えていく。
椎名本家は中立。公安0も中立。優希の近衛の絶大な力を持つ近衛の少女も戦闘禁止を言い渡された。
「これも筋書き通り?」
薄暗い闇の中少女の言葉が聞こえてくる。
「・・・」
「ええ、もちろんです。次はあの人に動いてもらいましょう。緋刀の力も持つ椎名優希。彼がどこまで、あの化け物とやりあえるのかは今回の最後の楽しみです。まあ、死ぬでしょうね」
「・・・」
闇の中から小さく笑い声が聞こえる。
少女も口元を緩めながら
「ええもちろんです。最大の苦しみを与え不幸のどん底に叩きこむ心得てます」
「・・・」
「ええ、そうですね。私も楽しみです。フフフ」
というわけでアズマリアからのラブコールはありましたが優の周りから次々と表の協力者が消えていきます。
椎名本家は相変わらず優には冷たく秋葉にも戦うなと通達が来てしまいます。
どうする秋葉!
まあ、この子のことちゃんと見てくださってる方はどうな行動とるかはわかると思いますが…
いよいよ闇に力を借りるしかないのか優君!
だけど優にはあの人たちがいる!世界最強とその仲間達!
そして、最後にちょこっと出てきたのは何者か?
武田襲撃まで後4日!