緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第205弾 魔法の時間ー溶けない闇

SIDE水

私は小さい頃は、何一つ不自由のない生活を送っていた。

綺麗な服に綺麗なな食事。

何も不自由もなかった。

母は優しくて父も厳しいところはあるが大好きなお父さん。

父の商談のついでに旅行しようと言うことになり私達親子は北京にやってきた。

商談のために出かけた父と母に代わりメイド一人を連れて私は買い物を楽しんだ。

「よくお似合いですよお嬢様」

と、私をほめてくれるメイドと1時間北京の店を回ってとある店の前で

「今度はここに・・・あれ?」

かわいい服が店頭に並んでいたので見ようと言おうとしたが後ろに私をほめていてくれたメイドはいなかった。

携帯を取り出して電話しようと思ったが携帯はさっきトイレに行くときにメイドに渡してそれっきりになっていたのを思い出した。

絶望的な闇が心を襲っていくのを私は感じた。

迷子になっちゃった・・・

周りを見渡すが大人たちは私には無関心に通りを歩いて行く。

「あ・・・」

声をかけようと思ったが怖い。

お父さんとお母さんどこ・・・

「う・・・」

うつむいて目に涙を浮かべ泣き出す寸前

「君どうかしたの?」

幼い少年の声だ。

顔を上げると私と同じくくらいの年頃の子供が立っていた。

Gパンに黒いプリントTシャツを着ており背中には大きな筒のようなものを背負っている。

「お父さんとお母さんがいないの・・・」

「迷子なの?」

「うん・・・」

「そっか・・・僕も人探してるんだけど一緒に行かない?」

「いいの?」

「うん」

少年はいい

「僕、椎名 優希。君は?」

 

「水・・・凰 水」

それが、彼と・・・優希との始めての出会いだった。

            †

聞いたところ、優希君は友達と北京にようやく先ほどたどり着いたところらしかったが連れの友達とはぐれてしまったらしく

探しているらしい

「レキちゃんっていうんだけど薄い緑色の髪の子。見なかった?」

「ううん。見てない」

「うーん、まずいよ見つからなかったら姉さ・・・師匠に殺される・・・」

「殺されるの?」

「うん、とっても怖いんだよ僕の師匠」

「じゃあ早く見つけないと」

「そう簡単に見つかればいいんだけど・・・」

優希君がそこまで言った時クゥーと腹の音が聞こえてくる。

私はお腹を押さえて赤くなった。

なんか恥ずかしい・・・

「お腹すいたの? なんか食べていく?」

お昼はホテルで取る約束になっていたがこの調子ではそれは守れそうにない

「うん・・・」

私は素直に従うことにした。

              †

「ほらあったあった」

お腹がすいたことを優希君に伝えて10分ほど歩いて彼は言った。

「ここ・・・」

そこは屋台や露天が並んでいる通りだった。

高級なイメージがあった大通りとは違い道は広くないがあちこちから声が響いていてくる。

「ちょっと、治安悪いから僕から離れないでね水ちゃん」

と言って優希君は私の手を握った。

 

「あ・・・」

「ん?どうしたの?」

同年代の男の子と手をつないだの初めてだと私は思いながら首を横に振った。

「なんでもない」

「じゃ行こうか」

私は優希君に手を引かれて通りに入って言った。

店にはいろいろなものが並べられている。

携帯電話からやかんにアクセサリーと何でもある。

食べ物の屋台も豊富でおいしそうな臭いがそこらじゅうに満ちている。

「こういうところって大都市なら世界中探したら大体はあってねおいしいんだよ。商品は盗品が多いから

ちょっと注意しないといけないけど」

盗品・・・ではここに並べられているのは盗んだものを売っているんだろうか?

よく見ればぼろぼろの服の子供が布の上に無造作に並べられた商品を売っているのが見えた。

「水ちゃん財布持ってたらしっかりもってなよ。ここじゃ、気をつけないと盗まれるよ」

「財布持ってない・・・」

支払いは全てメイドに任せていたからだ。

そう伝えると優希君は驚いた様子もなく

「分かる分かる。僕も昔は近衛に持ってもらってたからね」

「近衛?」

聞きなれない単語に首をひねると優希君は困った顔で

「なんていえばいいんだろ? 簡単に言えば武装したメイドさん兼ボディガードかな?」

それなら分かる。

「分かった。じゃあ、優希君の家もお金持ちなんだ」

共通の話題を見つけて私は嬉しくなって言う

「うーん、金持ちは金持ちだけどいろいろと僕の家は特殊なんだよね・・・」

そういいながら優希君は屋台から串を鉄の棒で突き刺しているだけの豪快な肉串を買うと私に渡してくる。

「はい、牛肉だよ。猫とか犬の肉は僕食べたくないんだ」

「私もそれは苦手・・・」

そういいながら肉にかぶりついた。

お行儀が悪いがお腹もすいていたので肉は香辛料もちゃんとついていておいしかった。

「おいしい」

「でしょ? まあ、外で食べてる効果もあるんだろうけど日本だったら屋台と言えば焼きそばとかたこ焼きなんだけどね」

「焼きそば?たこ焼き?」

「日本の料理だよ。焼きそばは違うのかな?」

「優希君は日本人なの?」

「そうだよ」

肉にかぶりついて歩きながら優希君が言う。

正直な話想像していた日本人と優希君はかけ離れていた。

たまに見る映画やテレビでは日本人は鬼のような性格でかつて、中国人を虐殺したと嫌になるぐらい学校でも

教えられている。

でも、彼は優しい。

お金のない私にごはんをおごってくれて迷子の私を放っておかなかった。

「ん?」

私の手を引きながら優希君が振り返った。

優しい笑顔だった。

だが・・・

「おいガキ、お前ら日本人か?」

突然後ろからかけられた声。

振り返ると顔に刺青を入れた中年の男が優希君を睨みつけている。

「そうだけど何おじさん?」

慣れているのか男にまったくひるまずに優希君が半分振り返って言った。

「日本鬼死のクソガキが中国の肉食ってんじゃねえよ。お前らは泥水でも飲んでろ」

そういいながら男はコップに入った黒い液体を振りかけようとした。

「きっ」

私が悲鳴を上げようとした瞬間、腰に手が回され浮遊感が私を襲う。

「え?」

ばしゃと黒い液体が降りかかった。

ただし、通行人に

「え?消え・・・」

 

中年の男はきょきょろした瞬間

「うわ臭え!何しやがるてめえ!」

液体を顔にかけられた男が中年の男の顔を殴り飛ばした。

「待ってくれ!俺は日本人のガキを狙ったんだよ!」

「適当なこと言ってんじゃねえこの豚野郎!」

運の悪いことに中年の男は液体をかけられた男にぼこぼこに殴られている。

自業自得とはいえ・・・

「たく、日本人って言っただけなのになんで怒るんだろ?」

ぷらーんと空中でゆれ私は優希君に抱えられているのに気づいた。

見ると優希君の左手の服の中からワイヤーが伸びて建物に突き刺さっていた。

不思議と怖いとは思わなかった。

                †

SIDE優希

暴風の吹き荒れる新幹線の上、背後からは戦闘音が聞こえてくる。

髪をばたばた揺らしながら簡潔に語られた物語

「覚えてるぜ」

俺の昔の記憶の欠落は姉さんのステルスの副作用だ。

思い出せば連鎖的に思い出してくる。

俺が水と出会ったのは中華人民共和国の北京。

当時、俺は姉さんやウルスの里の連中に黙ってレキを連れ出して北京に言ったんだがレキとはぐれてしまい

大慌てで探し回っているときに泣きそうな顔をした水に会ったんだ。

「あの後も楽しかったよね。レキちゃん探しながらいろんな店回って」

「というかあの時、レキのこと探していたのは本当だが半分遊んでたのは否定できないな・・・」

レキに何かあったらウルスの里の連中に殺されてもおかしくないのに子供ながらに恐ろしい行動だ。

だが、当時の俺に・・・いや、今の俺でも水があそこにいたら放っては置かなかっただろう。

まあ、前よりはうまくやるんだろうがな・・・

「本当に楽しい時間だった。私同年代の友達と遊んだことなかったから・・・」

思い出すようにいう水

「童話でいうならシンデレラ。魔法が解けた時間はあの時だったね」

「あの時?」

「あの時だよ・・・」

そういいながら水は口を開いた。

               †

SIDE水

時間を立つのを忘れて遊んだのは久しぶりだった。

優希君は私の知らないことを知っていていろいろなことを教えてくれた。

日本という国のことや知らないヨーロッパやアメリカの話。

「いいなぁ・・・私も言って見たい」

「じゃあ、姉さんに頼んであげようか?」

「いいの?」

優希君のお姉さんは世界中の事件を解決している武偵という職業の人間らしい。

少し大げさに言っているみたいだけど強い人間であることは間違いない。

「いいよ」

その言葉に私は世界が開けたような気がした。

子供心から冒険という状況にあこがれもあった。

「じ、じゃあ・・・」

「あ!」

連れて行ってといおうとした瞬間、優希君が声を上げた。

「あ・・・」

ぱっと私の手が離され優希君が走り出した。

追いかけようと思ったが優希君はある場所で足を止めた。

「ご、ごめんレキちゃん! 僕君のこと探してて・・・」

道路の端で体育座りをしていた薄い髪の少女はその琥珀の瞳を優希君に向けるとふるふると首を横に振った。

「信じていました。優さんが私を見つけてくれることを」

「ごめんね本当にでもよかった見つかって」

その優希君の少女を・・・あの子がレキちゃんなんだろう・・・

見る顔を見て私は胸に痛みを覚えた。

なんで、私の手を放して走っていくの・・・そんなにその子が大事?

私は身を翻すと人ごみの中に飛び込んだ。

「そうだレキちゃん紹介するね・・・あれ? 水ちゃん?どこ?」

 

後ろから、優希君の声が聞こえた気がしたが私は振り返らなかった。

ただ、ひたすら歩いた。

魔法は解けたのだ。

               †

SIDE優希

「それも覚えてる。なんで、いなくなったんだよ水」

あの後、探したんだが見つけることができなかった。

後に合流した姉さんに探してもらったがもう、この都市にはいない。

帰ったんだろうと言われてそれ以上探せなくなった。

確かに。探している人がいる状況なら見つかって帰ったと考えてもおかしくなかった。

「それは言えない。でも、あの後、探していた私のメイドに見つかって帰ったのは本当だよ。さすが水月希だね」

「そうか、なら本当に聞きたいのは何があったかだ。なんで、ランパンに入った? 何があったんだよ?」

「それを話す前に一つ思い出しなよ優希」

水がうつむいた。

前髪が目にかかりほとんど見えなくなった。

「思い出す?何をだ?」

「私と再会した時の一番最初の台詞だよ。兵庫武偵中屋上で寝てた君を私が起こしたあの時だよ」

「あ・・・」

あの時の俺は完全に水のことを忘れていた。

それ以前にレキのことすら姉さんの記憶操作のせいで忘れてしまっていたんだ。

「こんちは! さて私は誰でしょう?」

笑顔で自分を指す水に俺が言ったのは・・・

「誰だっけ?」

そう言ったのだ。

あの後、水は一瞬、黙った。

あの時か?俺はあの時何かを間違ったのか?

「水お前・・・」

「もしもね。優希、あの時優希が私のことを覚えていたら私は多分・・・」

「水! 俺と別れた後何があった!話せよ!」

人の過去を詮索するのはいいことではないが今は話して欲しかった。

お金持ちの家に生まれた水が犯罪者にまで堕ちた理由が軽いものであるはずがない。

 

「駄目だよ優希。話すと私は戦えなくなる。自分勝手な理由だしね・・・」

「それでも話せって言ったら?」

「私はあの日から覇道を進むことを決めた。だからね」

水が根を投げ捨て、右手を空に振り上げた。

ひゅんひゅんと風を切り方天画戟が新幹線に突き刺さった。

水はそれをとるとひゅんひゅんと右に振りかぶった。

ごうっと風が切り裂かれ音が一瞬、変わった気がした。

「この覇王。倒してみなよ椎名の後継。そうしたら話してあげるよ」

「なるほどな・・・」

分かり安すぎるなと俺は思う。

力は力でねじ伏せろか。

覇道って奴は分かりやすいこと・・・

「水一つだけ言わせてもらうぜ」

「何かな?」

もはや、迷いはないと言うように水はじゃりっと足をずらした。

「俺は・・・」

一つの思いと共に力を呼び起こす。

戦闘狂モード、緋刀。

いや、これは戦闘狂モードではない。

戦いたいという衝動ではなく救いたいと言う衝動からのものだ。

元来戦闘狂モードは空間識別能力を高めるものと集中力の増加を目的とした暗示だ。

だが、これは戦いたいと言う衝動を抑えつつ戦闘狂モードと同じ、いやそれ以上のものを呼び起こす。

髪の色、瞳の色が変わっていく感覚。

色はアリアと同じ緋色だ。

『ほう、もうそこまで出来たか』

頭の中にスサノオの声が響いてきた。

『それは緋刀の力が本当に浸透してきた時、救いたいと思うものがいる時発動する。私がつけた名前は舞姫』

モード舞姫か

なんか、女みたいだがスサノオのセンスなんか知るか。

使わせてもらうぜ舞姫

そして、水言わせてもらうからな

「お前を今度こそ救ってやる」

水、昔の俺が悪かったのは分かったよ。だけどなどのみちお前とは決着をつけないといけなかったんだ。

東京駅に着くまでにぶっ倒して過去を話させてやる。

紫電、冬雷の二刀を構え俺は地を蹴った。

 




次回優希VS水ついに本気で激突します。
原作を知る人はココ達の戦いの裏で行われていると考えて見るとわかりやすいかもしれません。
果たして水は優希達と別れたあとなにがあったのか!
それは次回以降です!

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