緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第197弾 村上男の戦いー絶望染める雪の羽

どれだけ走ったかは覚えていない。

ただ、無我夢中で彼は走っていた。

「はぁはぁ・・・くそ道路はまだか・・・」

村上 正、レキ様のレキ様だけのレキレキファンクラブ会長である。

今、彼の手にはそのレキが重症を負って意識を失っている。

一刻も早く病院に行かなくては・・・

「椎名・・・」

奴はどうなった・・・

対峙したときの敵は明らかに強いと一目見たときに分かった。

だが、奴は言ったのだ。

「レキを頼む」

その背を見たとき、村上は思った。

椎名、私は誤解していたのかもしれないと

あいつの周りには非常にたくさんの女子達がいる。

ふらふらとあいつはしていて、何股もかけてるやつだと・・・

そんなクズにレキ様を任せるなど合ってはならない

だが、奴は命がけでレキ様と私を逃がすために戦ってくれている。

腕の中でぐったりとしているレキ様

がんばってください必ず助けます。

仮にとはいえ1年の頃、天使かと思ったまるで、人形のように完成された美少女。

告白したが振られファンクラブを作って彼女を奉ってきた。

「レキ様・・・」

がさりと暗闇の森を抜けると開けた場所に出た。

地面を踏むとその感触はアスファルトの硬い感覚。

「森を抜けられたのか?」

目を細めると遠くに街灯のようなものが見えた。

まだ、町からは遠いが車が通れば助けてもらえる。

希望が沸いてきて村上は歩き出そうとした瞬間、ぞくりと悪寒が全身を駆け巡る。

直感といっていいかもしれない。

村上は大急ぎで道路から森の中に飛び込んで木の葉の生い茂る中に身を隠したその瞬間

「ちっ!道路まで出てるじゃない。シン」

「そうなると厄介ですね」

ゆっくと移動しながら村上はHK94を取り出した。

レキ様のいる位置から十分に離れる。

やるか?

椎名はどうした?

まさか、やられてしまったのか?

ここで、やり過ごすか奇襲するかを村上はしばし思案する。

「どっちに行ったかシン探って」

「仕方ありませんね」

探るだと?まさか・・・

稀にだがいるのだ。

気配を読んで相手を探る能力を持つ達人が

そして、村上は気配を消す技能はない。

レキは意識がないので気配はしないだろうが自分は絶対に見つかる。

2人は今ならまだ、自分には気づいていない。

なら・・・

「・・・」

ぐっとHK94を握り締め照準しようとする。

「いないようですね。どうやら、遠くに離れてしまったようだ」

え?まさか、探れなかったのか?

だとすれば助かったか?

ドクドクと心臓が跳ね一瞬安堵した瞬間

「なんて・・・言うと思いましたか?」

ヒュンと音が聞こえ、何かが右手に絡み付いて引き寄せられる。

「うお!」

強制的に茂みから引きずり出され2人の前に村上は姿をさらしてしまった。

これは・・・ワイヤーか?

手に巻きつけられたものを見て村上は思う。

「おや?ウルスの姫じゃありませんね。ミン」

「はいはい」

そういいながらミンは村上が潜んでいた茂みを探っていたが顔を上げる。

ウルスの姫はいないみたいよシン

「そうですか」

村上は左手でもう一丁のHK94を取り出そうとしたが

「では君に聞きましょうかね」

ドットわき腹に衝撃が走り村上はぶっ飛んだ。

アスファルトをごろごろ転がりながら激痛に顔をしかめる。

ガシャンとHK94 2丁が村上の手から離れ道路を転がって言った。

しまった。

「ウルスの姫はどこです? 正直に言うなら君だけは見逃してあげてもいいですよ」

カツカツと歩いてくる敵を見て村上は冷静だった。

こいつらはレキ様を殺そうとしている。

そして、レキ様を託された私がすることは決まっている。

「残念だったなすでに私の仲間がバイクで搬送した」

ドガと再び蹴飛ばされ村上は背中から地面に叩きつけられる。

「嘘はいけませんねぇ。そうだ今度嘘を言うたびにこれを上げましょう。正直に言うまでね」

そういいながらシンはグロッグを取り出した。

「ミン、探しなさい近くにいるはずです」

「はいはい」

めんどくさそうにミンが捜索を開始する。

「無駄だレキ様は・・・」

バス

「ぐっ!」

肩に衝撃が走った。

防弾制服越しに肩に銃弾が撃ちこまれたのだ。

貫通はしないが金属バッドで殴られた衝撃を村上は受けた。

「どうしたんです?ウルスの姫の場所はどこですか?」

細目のまま、シンは楽しそうに言った。

この男、拷問することを楽しんでいる。

「誰が・・・きさ・・・」

バス

「ぎっ!」

今度は左手

「さあどうしたんです?」

「・・・」

バスバス

右手左足

「うぐ・・・ぐ・・・」

まるで反撃ができない。

武器を失い隙もない。

椎名を倒したとすればこいつらはAランク以上。Cランクの自分では勝ち目はない。

「優希は・・・椎名優希はどうした?」

激痛に耐えながら村上は言った。

関係ないことだがシンはグロッグを撃たず

「もちろん殺しました。優希が来ることを前提とした時間稼ぎはまったくの無駄ですよ」

「ふっ」

「何がおかしいんです?」

「椎名が死んだだと?お前は嘘が下手だな」

「本当ですよ。優希はもう死んでいる」

「奴は我々RRRの攻撃を幾度となくかわして来た男だ。そして、レキ様に見込まれた男だ。レキ様を

置いて死ぬなどありえない」

「RRR?とはなんです?」

聞きなれない単語にシンは首をかしげた。

「レキ様の・・・レキ様だけのレキレキファンクラブだ」

「ファンクラブ?なるほど、親衛隊や近衛のようなものですか。ウルスの姫の近衛はずいぶん弱いんですね」

「確かに武力ではお前には私は勝てないかもしれないだが私は真実しか言わない。レキ様はもう、病院に向かっている」

「では、いつまで耐えられますかね?」

それから、10分。

一瞬だが、意識が飛んでいたのかもしれない。

体のあちこちが痛い。

口を割らない村上にシンは拷問を継続した。

グロッグの弾33発を撃ちつくしマガジンを変えている。

「しぶといですね。君も・・・」

「うぐ・・・」

しゃべれないという状態を回避するためか内蔵器官が致命傷にならないようにシンは撃っているようだがこのままでは・・・

「死にますよ?いいんですか?」

「な、なんと言われても・・・レキ様はここにはいない・・・信じてくれ」

死ぬわけには行かない。

死ねばレキ様はここで人知れず死んでしまうのだ。

「ふむ」

シンは村上を見て道路を見上げた。

「ミン、見つからないんですか?」

「いないわね」

「とするとこの男の言ってる事は本当ということですかね?普通ここまで痛めつけて言わない馬鹿もそうそういないでしょうし時間をロスしましたか?」

いいぞ。

そのまま、行ってくれ

「本当だと・・・言ってる」

「とすると・・・ミン行きますよ」

勝ったと村上は思った。

だが、決して表情には出さないぼろぼろになりながら激痛に耐える顔を崩さない。

「んー、ちょっと待ってここだけ探し・・・あ!キャハハハハ見ーつけた!」

その言葉を聴いた瞬間心臓が凍りつくのを村上は感じた。

顔をミンの声の方へ向けると

「れ、レキ様!」

「キャハハ!ほら出てきなよ」

レキの髪を掴んで茂みから引きずり出したミンは乱暴に地面にレキを放り投げた。

意識がないレキはそのまま、地面に倒れてしまう。

「いるじゃないですか。たいした精神力です」

シンは村上を見てから衛星電話を取り出して電話する。

「ウルスの姫を確保しました・・・はい、そのように」

ぷつんとシンは電話を切ってから

「ミン、覇王からの指示です。ウルスの姫を殺しなさい」

「や、やめろ!」

激痛が体を駆け巡った。

まるで電流が体中を駆け巡っているようだ。

だが、村上はかけた。

ミンの前に飛び出すとレキの体に覆いかぶさるようにして立ちはだかった。

「シーンこいつも殺すけど?」

ミンは青龍円偃月刀をぶんぶんと振りまわして振り上げる。

「とりあえず、ウルスの姫は首飛ばしてランパンに持って帰らせてもらうわキャハハ!」

ヒュンと風を切る音。

村上は目を閉じてレキの体をぎゅっと抱きしめた。

せめて、一瞬でもあの刃から守るために・・・

あの刃は自分の体ぐらい簡単に切り裂きレキ様の至るだろう。

すまない椎名・・・私はレキ様を守れなかった・・・

「終わりですね」

とシンが呟いた。

                   †

「いえ、終わりません」

「!?」

背後から聞こえた声にシンは慌てて振り返った。

だが、誰もいない。

ギイイイン

と金属音がした方を見るとミンの青龍円偃月刀を受け止めているものがいる。

その武具は日本刀

まさか、優希が?

そう思ったがその人物は女性だった。

「ちっ!」

ミンは後退して現れた人物を警戒するように見る。

その姿は黒いスーツ。

防弾スーツネロ。

そして、長い髪を一つにまとめている。

早いとシンは思った。

「だ、誰だ・・・」

村上はその背中を見ながら言う。

彼女は振り返ると微笑んで

「もう、大丈夫です。すぐにレキさんも病院に」

「は、はい」

「はっ!できるわけないじゃないの!」

ミンが女に切りかかる。

その速度はCランクらか見ても早く重そうな一撃。

「遅いですよ」

「なっ!」

シンが驚愕した声を上げる。

一瞬、女の姿が消えたかと思うと次の瞬間、ミンの真後ろに立っていたのだ。

がくりとミンが膝をついた。

口からは血がつっと流れ落ちている。

「ぐ・・・何が・・・」

かろうじてだが、シンには見えた。

女はすれ違いざまに防弾服に日本刀による連撃7発、いや、8発ミンに浴びせかけたのだ。

しかも、それを片手で操る日本刀だけで・・・

明らかに化け物クラスの存在だがおかしい、優希の人脈にこんな存在は・・・

「何者です?」

女はシンに体を向けて

「土方雪羽」

「土方?」

だが、彼女は土方歳三ではない。

でな何者なのか・・・

だが、雪羽という名前聞き覚えが・・・

「こういえば分かりますか? 私の旧姓は武田雪羽」

まさかとシンは思った。

「り、鈴・雪土月花の剣聖、武田雪羽ですか」

「そうです」

かつて、10年以上昔、活躍した水月希がいたチームメイト。

彼らはいずれも超偵だった。

だが、この女、武田雪羽だけはステルスを持たなかった。

だが、彼女は最強クラスの能力を持つチームメイトの中でも単純な実力なら水月希の下の2番目の存在だった。

剣のみでステルスに匹敵する実力を身につけ独自の流派『風林火山』を皆伝した剣の天才。

その実力はRランクにこそ及ばないがRランクに匹敵する存在として世界に認知されていたが戦いの世界からは

身を引き、以後10年以上表も裏の戦いにも出てきていなかった。

だからこそ、油断していた。

片手が義手の彼女はもう、2度と戦えず引退したのだと決め付けていたのだ。

「これはいけませんね」

自分達もかなり、消耗している状態でこの化け物とは戦えない。

目的は果たせなかったが引く頃合いだろう。

「その実力見させてもらいましょう」

ドンとグロッグを単射で放つと同時に周りがすさまじい光に包まれる。

武偵弾閃光弾だ。

そして、光が納まる頃にはシン達の姿は掻き消えていた。

「逃げましたか」

雪羽は気絶したらしい村上とレキの怪我を具合を見て

「これは・・・いけないすぐに治療しないと」

村上とレキを雪羽は担いで近くに隠してあったレガシィに乗せると車を出す。

これまでの状況から狙撃手がいることは分かっている。

病院に搬送するのは危ないだろう。

なら、椎名の家か星伽神社か・・・

距離を考えて雪羽は片方に電話して治療の体制を整えてもらう。

気がかりなのはおそらく山の中でまだ、戦っているであろう優希。

だが、助けに行けばその間にレキは死んでしまうだろう。

それぐらい事態は切迫していた。

自分が戻るのに1時間はかかる。

他に援軍にこれるものは誰一人いないのだ。

「ごめんね優希君。でも、レキさんを見捨ててあなたを助けるなんて選択は私には出来ない」

彼女がここにきたのは夫である土方歳三の意思だ。

お前ならおそらくノーマークだろう。

と言っていた予想が当たった形だった。

 


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