緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第168弾 温泉パニック後編―レキにしたとんでもなきこと

駄目だ……殺される……も、もうおしまいだ。

湯気で辛うじて下の大事な部分は見えてないとはいえ、レキは何もつけていない。

そして、無表情に俺を見下ろしている。

そして

 

ちゃぷと硬直している俺の横に並ぶように湯船に浸かった。

「……」

 

「……」

 

お互いに無言、というか俺は完全に頭がフリーズしていて動けない。

岩の向こうからはアリア達の話し声が聞こえてくるがまずは、レキの心意を知らないと

俺は小声でレキに話しかける

 

「そ、そのレキ、俺は入った時は男湯だったんだよ。お前らちゃんとのれん確認したか?」

 

こくりとレキが頷く

 

「お、男湯じゃなかったか?」

 

ふるふるとレキが首を横に振った。

そ、そんな馬鹿な……じゃあ、俺は女湯に忍び込んで隠れてる変態じゃねえか!

 

「れ、レキ!お、お怒ってるのは分かるが頼む助けてくれ」

 

このままでは見つかるのは時間の問題だろう。

無表情だから怒ってるのかはよく分からないがこうなってはレキに助けてもらう以外に助かる道はあるまい

 

こくり

 

「ほ、本当に!」

 

こくり

 

「ありがとうレキ!」

 

村上じゃないが君は神様だよレキ

 

「一つ条件があります」

 

無表情のまま、レキは肩まで浸かった湯船を見ながら言う

 

「じ、条件?」

 

なんだろう?

 

「夏休みの最後の日、私の願いを1つだけ聞いてください」

 

「そ、その願いって?」

 

「今はまだ、言えません」

 

と言ってレキは再び黙り込んでしまった。

 

「それにしても」

 

ん?ジャンヌの声

 

「昼間は参ったな。男達のあの執念は」

 

「まったくよ!特にあの最後の村上の言葉だけは許せないわ」

 

「アリアさん村上君を八つ裂きにしてましたが……」

 

秋葉の言葉にアリアが

 

「風穴祭りよ!あれぐらいじゃ足りないぐらいよ」

 

「フフフ、村上さん最後まで降伏しませんでしたね」

 

と信冬

 

「信ちゃんの部下もまったく悪びれてなかったよねぇ」

 

理子の言葉に信冬は息を吐く音が聞こえる。

 

「すみません、ジャンは悪い人ではないんですが」

 

「まあ、それは武田が制裁下したからいいだろう」

 

「でも武藤先輩も結構、頑張ってましたね」

 

マリの声だな

 

「逆に見直したのは椎名と真田だな」

 

お、俺?

 

「幸村は真面目ですし、優希もそんなことする人ではありませんから。もっとも私は見られても構いませんよ。婚約者ですからいずれそういうことも……」

 

「そ、そういうこと?」

 

「ええ、そういうことです」

 

フフフと信冬が微笑み、アリアが顔を真っ赤にしているのが想像がつく

 

「でも……さ。案外二人今、ここにいたりして」

 

と理子の恐ろしい言葉

 

「風で見てみます」

 

や、やばい!

俺は慌てて湯船に息を吸って潜った。

秋葉の風の探知は水中には及ばない。

大気と繋がってなければならないのだ。

十秒ほど潜った時、レキが俺の右手を掴んできた。

レキ?

手のひらに指を置いて×をレキは書く

つまり、出たら駄目ってことか

三十秒息が少しだけ苦しいな

まだかとレキの手をにぎにぎと握って聞く

返事は×だ。

秋葉の馬鹿野郎!めちゃめちゃ念入りに探知してるみたいだぞ

 

五十秒、く、苦しい!

俺は右手を口に置いてからレキの手が離れたらまずいと思いながらレキの手を再び探す。

駄目だ苦しい!レキの手はどこだ。

ピタリと右手が何かに当たった。

それをなでるとすべすべだが手より面積が大きくて……

苦しい!目をそらしていたがもう、限界だ!

レキに内心謝りながらレキの方を見て

 

「ごは!」

 

一気に空気を吐いてしまった。

なぜなら、俺はレキのお尻、とんでもない部分を触っていたのだ。

レキはそれでも無表情なのかは分からない。

慌てて、手を放して、レキの手を掴むが苦しい……もう駄目だ!

だが、レキはまだ、×を書く

秋葉の馬鹿野郎!どれだけ念入りなんだよ!

1分20秒、限界だ出るぞ!

女子に八つ裂きにされるより空気が欲しいと生存本能を優先し、出ようとした瞬間、レキの顔が見えた。

レキ?

レキは湯船の中で両手で俺の頭を掴むと顔を近づけてくる。

お、おい!まさか

綺麗な琥珀色の目と目があい、レキは唇を俺の唇に重ね合わせた。

 

れ!

空気が肺の中に流れ込んでくる。

そうか空気を……

 

レキは重ねた唇を離すと再び湯船から顔を出す。

少しだけ時間は延びたがまだか……

すると、レキが手に○を描いた。

秋葉の探知が終わったらしい

 

「はっ!」

 

湯船から顔を出して息を思いっきり吸い込む。

 

「はぁはぁ……レキお前……」

 

「……」

 

無表情のレキのあだ名はロボットレキ。

助けを求めた俺の頼みを依頼として動いたプロ意識からの行動なのだろうか今のは……

 

「……」

 

無表情のレキを見ながら思う

キスというか人口呼吸までしたんだ……

風呂から脱出できてもできなくても夏休みの最後の日はこの子に付き合わないといけないだろうとりあえず、今のは忘れるんだ俺、ピンチはまだ、続いている。

 

「レキぃ、あんた何してんのよ?」

 

とアリアが声を出しながらじゃぶじゃぶと音を立てているこっちにくる!

アリアに見つかったら完全におしまいだ!

 

「なんでもありません」

 

とレキが立ち上がって岩影から出ていった。

アリアもレキの姿を見たためか、こっちにくるのをやめたようだった。

 

「クフ、じゃあそろそろはじめよっか?」

 

「本当にやるんですか?」

 

と、理子の言葉にマリが反応する

 

「もっちろーん!第1回!気になるあの人だーれだ大会~」

 

理子の奴、何を話してるんだ?

 

「私から行きます!もちろん優先輩です!」

 

断言するようにマリが言うと

 

「フフフ、紅さんは本当に優希のこと好きなんですね」

 

勝者の余裕とまではいかなくても信冬の言葉には余裕を感じる

 

「当たり前です!武田先輩には負けません!」

 

「フフ」

 

微笑ましい後輩を見守る先輩と言った感じか

 

「おお、信ちゃん婚約者の余裕だぁ」

 

「まあ、最終的に選ぶのは優希なんですけどね」

 

「どゆこと?」

 

と、理子が馬鹿理子モードで聞く

 

「椎名との婚約は優希に20歳まで特定の異性がいない場合の話です」

 

「おお!じゃあ、理子立候補しちゃおっかな」

 

「理子さんも、優希に助けられたって聞いてます」

 

「うん、だって……」

 

馬鹿理子モードではない真剣な声で理子は言う

 

「優は理子のヒーローだから……」

 

「なら、また、椎名に助けてもらえばどうなんだ理子?」

 

ジャンヌの声だな

助けてもらうって……

 

「ううん、あれは理子の問題。これ以上優を巻き込みたくないし、今は平穏だしね」

 

武偵なら何かしら悩みはあるんだろう。

助けを求めてくるなら何時でも助けるぞ理子……

 

「で?レキュはユーユーのことどう思ってるのぉ?」

 

ちょうど岩を挟んで向こう側にいるレキに理子が話しかける。

おお、なんか気になる話だな。

無口で感情をあまり出さないから怒ってるのかどうかよくわからんからな

 

「ちょっと理子!」

 

「ああ、アリアはキー君なんだよね。分かります」

 

「な、なんでキンジの名前が出てくるのよ!」

 

「んじゃユーユー?」

 

「ち、ちがっーう!風穴開けるわよ!」

ガラガラ

ちょうど、その時だった。

脱衣場に通じる扉が開いた音がしたのだ。

ここにいない綴か?

 

「……」

 

「き……」

 

「待ってください!」

 

誰かが叫ぼうとしたのを信冬が止める。

 

「あ、あわわ……お館様これは違うんです!」

 

あ、この声……

 

「幸村」

 

絶対零度の信冬の声

め、めちゃくちゃ怒ってるぞ信冬

 

「はい!」

 

潔いのか諦めたのか幸村の声が響く

 

 

「何か言い残すことは?」

 

「お、お館違います!のれんは確かに男湯で!」

 

「あなたはもっと真面目だと思っていました」

 

 

「お、お館さまぁ!」

 

ひでえ……幸村の言葉には多分間違いはないだろう。

信冬もわかってるのかもしれないがアリア達がいる以上笑って許すことはできないということだ。

 

「幸村、そこに正座するか逃げるか選びなさい」

 

ざぱあと信冬が風呂から上がる音、多分、タオル巻いてるんだろう。

 

「はい!」

 

どっちだ幸村?

 

「秋葉さん。能力借りますね」

 

「どうぞ」

 

と秋葉が言った瞬間、ビュオオオと暴風が吹き荒れる。

 

「空で頭を冷やしなさい」

 

「あああああああああああぁぁお館様ぁぁぁ」

 

思わず見上げると幸村は星になって消えて言った。

宇宙まで飛ばされたんじゃないか?

 

その後、女性陣は出ていったんだが幸村が帰ってきたのはそれから一時間後だった。

ちなみに村上達だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男のロマンに後悔はねえ」

 

となぜかずたぼろになった武藤

 

 

「ワハハハハ!女体を見ることこそ男のロマンだ!」

 

となぜか黒焦げになったジャン

 

「ううーん……レキ様……見捨てないでくださいううう」

 

となぜか精神も体もズタズタの村上が畳の上で泣いている。

 

俺を除く、男は皆、大打撃を受けているわけだ……

本当に見つからなくてよかったよ……

 

しかし……

風呂場でレキにしたこと、されたことを思い出して首を横に降る。

わ、忘れろ忘れろ!

ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、頭に小さな痛みと共に、ある光景が浮かんできた。

どこまでも広がる草原で誰かにしがみついてる光景だ。

 

「うわぁ、馬って結構、速いんだな」

 

目の前で馬を操っている少女を前に俺は言った。

振り返った少女の色は琥珀

もしかして……君は

記憶はそこで途切れた。


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