緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第124弾 闇の誘い

「そう魔女連隊のドールが本邸に・・・」

 

薄暗い部屋の中、重苦しい空気の中で布団から上半身を起こして志野は報告を聞いていた。

 

「いかがなさいますか?」

 

畳の上で正座して、刀を脇に置いた日向が言う。

しばし、考えるように志野が沈黙する。

 

「月詠達を呼び戻したいところですが魔女連隊の目的が不明な以上現状の戦力で対応するしかないでしょうね・・・」

 

「京都武偵局や府警に協力を要請しますか?」

 

「殺人人形が日本各地で存在してることだけはそれとなく伝えておきなさい。一般人には決して悟られないように」

 

「わかりました」

 

この殺人人形は各地で様々な呼び名があるが椎名の家ではドールと呼ばれている。

全国各地で目撃情報や襲撃情報があるが未だに、一般人には伏せられていた。

というのも、東京を発端に急激に出現率が上がったのはここ、数日だ。

といっても、彼らは白昼堂々人を襲うのではなく、闇にまぎれて裏路地など、あまり普通の生活をしている人間が立ち入らない場所で暗殺のように人を殺している。

そのため、チンピラなどが多く犠牲になっている。

どうしようもない奴もいるが見捨てることはできない。

しかも、情報によればドールの力は武偵ランクで言うなら最低でもCランク、中にはSランク相当の化け物まで存在するだけに厄介だった。

そのため、今椎名の家は近衛を含めて最低限の戦力を残して討伐のために全国に散っている。

こんな時だからこそ、後継者の選定は終わらせないといけない。

ただでさえ、今の椎名の家は後継者の問題で荒れているのだ。

鏡夜を押す派閥と優希を押す派閥。

鏡夜の方が多少優勢であるが白黒付けさせるには2人の戦闘による優希の敗北が望ましいのだ。

 

「ドールを追った近衛からの連絡は?」

 

「ありません。 4時間ほど立ちますが戦闘中か追撃中かと」

 

「追った近衛は?」

 

「山洞秋葉です。優希様のご学友を案内している最中に敵と遭遇しました」

 

「・・・」

 

志野が息を飲んだ。

だが、静かな言葉で話を続ける。

 

「そちらは問題ないでしょう」

 

「はい、援軍を送る余裕はありません」

 

秋葉の力は椎名戦力の中でも上位に入る実力者だ。

そうそう、負けるものではない。

 

「ご苦労。 下がっていいですよ」

 

「はい」

 

日向はそう言うとその場を退出した。

 

「こほこほ・・・」

 

喉からこみ上げてくる咳きが苦しい、早く後継者を定めないといけない・・・

 

「次の宣戦会議はそう遠くないでしょうから・・・」

 

静かに彼女はつぶやいた。

それこそ、椎名の家の存在意義の一つなのだから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷に戻ると少し騒がしい気がするが概ねはいつもどおりだ。

廊下の掃除をしていた睦月に聞くとまだ、秋葉は戻っていないらしい

 

「あたしたちも追わなくていいの優?」

 

廊下を歩きながらアリアが聞いてくる。

ちなみに、レキ、理子、キンジも同様に付いてきている。

 

「追おうにもこの辺は山が多いし、空を飛ぶ能力がない俺らじゃ迷子になるか足手纏になりかねないからな・・・」

 

一応、ヘリは屋敷の格納庫にあるにはあるがどのみち、早期の離脱はできない。

 

「そうなると報告待ちだな」

 

「そうだな」

 

キンジの言葉に頷きながらソファーの置いてある応接室に入る。

仲居がお茶を持ってきてくれたのでそれを飲みながら

 

「ねね、ユーユー待ってるのも暇だからユーユーのこともっと聞かせてよ」

 

机を挟んで俺の正面のソファーを確保した理子が目を輝かせて聞いてくる。

 

「聞きたいことってだいたい話したぞ」

 

「んもう! ユーユーの話に出てきたあの紫電って刀のことだよ」

 

「ああ・・・」

 

納得した。

あの刀は特殊だからな・・・

 

「盗むなよ?」

 

「大丈ぶ・だ問題ない!」

 

微妙にアクセントを外しながらどんとでかい胸を叩きながら理子は自慢げに言った。

部外者だがまあ、こいつらなら話してもいいかな・・・

 

「紫電はうちの宝だ。 ありとあらゆるステルスを無効化する」

 

「ステルスを無効化?」

 

アリアが仲居から紅茶を受取りながら目を丸くした・

 

「・・・」

 

レキはお茶をじーと見たまま動かない。

お前は全然変わらないなと思いながら

 

「ああ、俺も詳しくは知らないんだがある特殊な鉱石を使って作られたらしい」

 

そこで、レキが顔をあげた。

 

「・・・」

 

な、なんだ?無言だが話に興味でもあるのか?

 

「俺はステルスには詳しくないんだが白雪の燃えた刀とその紫電がぶつかったらどうなるんだ?」

 

ああ、キンジは白雪が一番わかりやすい例えになるか

 

「炎が霧散する。 白雪の刀はただの、刀に戻るな」

 

「ステルス殺しの刀ね。それ・・・あたしも欲しいわ」

 

「無理だろうな・・・似たような刀は世界に2本しかないからな」

 

「紫電ともう、1本はなんなのユーユー?」

 

「震電だ。 昔は、椎名の家が管理してたんだがローズマリーの事件で紛失した」

 

「そっかぁ・・・」

 

おいおい理子。 1本あったら持ってく気じゃないだろうな?

なんで、残念そうにするんだ?

ん?

ドアが開く音がしたのでそちらを向くと咲夜が顔だけを見せていた。

 

「優兄」

 

「どうした咲夜?」

 

「う、うん優兄が帰ってきたって聞いたからお話しようと思って」

 

「別に構わないぞ。 こいよ」

 

「失礼します」

 

アリア達がいるからかおずおずと近づいてきた咲夜だが

 

「って座るところがないな」

 

この部屋のソファーは小さめで1人用の椅子と3人が座れるソファーしかない。

 

「あ、椅子とってくるよ」

 

と、反転しようとするが

 

「さっちゃんこっちおいで」

 

「え? きゃっ!」

 

理子が咲夜の腕をつかんで引き寄せると自分の足の上で咲夜を乗せる。

 

「あ、あの!」

 

「いい子いい子、理子のことお姉ちゃんってよんでね」

 

咲夜の頭をにこにことなでなでしながら理子が言う。

 

「は、はいみ、峰お姉ちゃん」

 

「クフフ、理子的には理子お義姉ちゃんって呼んで欲しいなぁ」

 

「り、理子お姉ちゃん」

 

顔を真っ赤にしてうつむきながら咲夜が言う。

うん、我が妹ながらかわいいな

 

「よくできましたぁ!」

 

なんか、お姉ちゃんの意味が違う気がするがまあいいだろう・・・

アリアは特に何も言わない。

咲夜が男だったら顔を真っ赤にしてぎゃぎゃー騒ぐんだろうな・・・

 

「いいわね・・・」

 

ん?咲夜のことを見てアリアが何か言ったぞ。

まあ、咲夜はいい子だけどな・・・

 

「何がいいんだよアリア?」

 

はっとしたアリアが慌てて

 

「ち、違うわよ! 別にあたしの妹と重ねてなんてないんだから!」

 

妹いるのかアリア・・・

 

「メヌエットっていうんだけどね。 もう、あたしより年下のくせ上から目線で・・・」

 

ああ、なんとなくわかるな・・・お前子供体型だからな

口に出さんぞ風穴開けられたくないし

 

「お前は子供体型だからな」

 

おまっ!キンジ!

空気を読み違えたのかキンジが言ってしまった。

 

「き、キンジ!か、風穴ぁ!」

 

「や、やめろアリアあああ!」

 

大慌てでガバメントを抜こうとしたアリアの両腕をつかんで止める。

 

「止めないで優! キンジがあたしのこと子供体型って侮辱した!風穴あけてやる」

 

がすがすと俺の足を蹴りながらアリアが暴れる 

いたたた! 本気でけるな!

 

「に、逃げろキンジ! 早く!」

 

「あ、ああすまない優」

 

「待て! 逃げるなキンジ!」

 

ダンと飛び上がったアリアが俺の腹に膝をめり込ませた。

ぐあ!

思わず手を離してしまったので弾丸のようにアリアはキンジが逃げたドアまで行くと飛び出していってしまった。

もういいや・・・キンジの自業自得だ・・・

アリアのことはもう、屋敷で伝達されてるだろうから大丈夫だろうしな

 

「いてて」

 

腹を押えながら椅子に戻る

 

「フフフ」

 

咲夜?

肩を震わせて咲夜が笑ってる。

 

「おもしろい人だねアリアさんと遠山さんって、理子お姉ちゃんも優しいしレキさんもおちゃめだし」

 

レキがお茶目?

 

「優兄、あのことみなさん知ってるの?」

 

あのこととは多分過去のことか・・・

 

「ああ、さっき全部話した」

 

「それで優兄を怖がらないんだ。 虎児さんや千鶴さんみたいな人東京にもいたんだね」

 

「プーリンと知り合いなのさっちゃん」

 

「ぷ、ぷーりん?」

 

聞き慣れない名前に咲夜が戸惑う

 

「虎児のことだ咲夜、プリンみたいな頭だからぷーりんな」

 

ハハハ、何度聞いても面白い名前だな

 

 

 

 

 

 

 

神戸某所

 

「はくしょん!」

 

「馬鹿が風邪?」

 

「誰がアホや!千鶴! 誰か噂でもしてるんかな?アリアさんだったらええな」

 

「ありえない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて会話してそうだ。

 

「1回だけだけどあったことあるんです。いい人ですよ。この目のことも笑って気にしない人でしたし」

 

よし、虎児今度会ったら殴る。

咲夜はやらん

 

「ゆ、ユーユー目が怖いよ」

 

はっ!

 

「大丈夫だ問題ない」

 

何が問題ねえんだよ!思わずあのセリフいっちまった。

 

「と、とにかくだ! 咲夜は虎児にやらん!」

 

「え?」

 

ぽかんとする咲夜って俺なに言ってんの

 

「クフフフ、ユーユーシスコンだ! 妹にまでフラグ立てるのは特殊なパッチがないといけないよー」

 

「ゆ、優兄わ、私たち兄妹だし・・・」

 

そこでなんで顔を赤くする咲夜!意味わからんこと口走るな!

 

「だあああ!うるさい!うるさいうるさーい! そんなことあるわけないだろが理子!」

 

「怒っちゃやだぁユーユーぅ。 未来の妹が見てるよー」

 

おいこら! それってお前と俺が結婚するって意味だぞ!

 

「誰が未来の妹だ! 咲夜はやらんと言っただろう!」

 

「ゆ、優兄お父さんみたいになってるよ・・・」

 

「えーじゃあレキュがお姉ちゃんだよさっちゃん」

 

「・・・私はおねえちゃんなんですか?」

 

ずれたことを言うレキ!

 

「お前らなぁ・・・」

 

結局、話はぼろぼろになったキンジが戻ってくるまで続いた。

アリアに追い回されてやられたんだろうな・・・

かわいそうに・・・

だが、トイレにいくためにみんなに先に行ってもらい夜の19時の食事に広間に行く途中

俺の携帯が鳴り響いた。

誰だ?秋葉?

ディスプレイに移されたのは彼女の名前だった。

嫌な予感がするぞ

通話ボタンをおして

 

「どうした秋葉? 何か・・・」

 

「・・・優希」

 

ゾッとするような可愛らしい声

聴き間違えるはずがない

 

「ローズ・・・マリー・・・なんでお前が秋葉の携帯から」

 

「文・・・見てくださいまし」

 

ただ、それだけを言って通話が切れる。

 

「お、おい!」

 

だが、受話器は何も言わずにツーツーと接続が切れたことを示す音が聞こえるだけだった。

すぐに、秋葉の携帯にかけ直そうとしたが同時にメールが届いた。

画像付きか?

開くと写真が2枚添付されていた。

1枚はGPSの写真と位置を特定する印、もう一枚は

血まみれになり木を背に倒れている秋葉が映し出されていた。

 

文字はただ、一言

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『2人でくることをお待ちしておりますわ優希』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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