緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第123弾 凶刃の日

その日は、曇の空だった。

今日の夜には師匠も帰ってくる。

母親の葉月さんに修行を付けてもらっている秋葉の目を盗んで俺は、台所からぼた餅と握り飯を弁当だと言ってもらってからいつものようにローズの所に行った。

無論、父さんに貰った剣を持って

 

「ローズいるか?」

 

「優希?」

 

洞窟の奥からローズが現れる。

もう、ケガの気配もなく体調は万全に見えた。

 

「ほら、今日のご飯」

 

「ありがとうですの優希」

 

天使のような笑顔とはまさに、この笑顔だろう。

日本人にはない魅力がこの子にはあった。

旅で大勢の女性ともあったがその中でもトップクラスの部類に入るだろう。

 

「今日は、秋葉はいませんの?」

 

薬草や花が咲いている原っぱの大きな石に俺達は座る。

 

「秋葉なら修業中だよ。 母親にな」

 

「お母様に・・・うらやましいですのね」

 

「!?」

 

一瞬だがローズから殺気が発せられたような気がした。

それも化け物クラスの・・・

 

「優希?」

 

だが、次の瞬間にはきょとんとしたローズの顔

気のせいか・・・

汗を拭いながら空を見上げる

 

「優希」

 

声をかけてきたローズを見る。

 

「私後少ししたら、ここを離れようと思うんですの」

 

「家に帰るのか?」

 

もちろん、この子にも家はあるのだろう。

これまで、なんでここにいたのかはわからないが・・・

しかし、ローズは首を横に振り

 

「旅にでようと思いますの。 もし、よければ優希も来てもらいたいんですの」

 

「え? 俺もか?」

 

思わず自分をさして言うとローズはにこりとして

 

「はい」

 

うーん、旅か・・・悪い話じゃないんだけど師匠もいるし・・・家の件もあるしなぁ・・・

 

「ごめん、ローズ師匠もいるし、椎名の家から師匠なしで離れるのは無理なんだ」

 

「そうですの・・・どうしても駄目なんですの?」

 

「うーん・・・そうだな・・・まあ・・・」

 

そう、この言葉を言ったばかりに・・・

 

『師匠がくたばって家が無くなったらついていくんだけどな』

 

ほんの冗談。

子供なら誰だって冗談ぐらいはいう。

ローズは・・・

 

「そうですの」

 

と口元を緩めた。

 

「え?」

 

次の瞬間、俺の視界は銀と赤で埋めつくされた。

 

「決めましたわ。 あなたは私の騎士様」

 

「ん」

 

口と口が重なる。

かわいいと思っていた少女の熱い口づけ。

目の前に赤い瞳がそこにある。

 

「だから・・・しょう?」

 

椎名 優希の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド秋葉

 

「あれ?」

 

私が優様の不在に気づき、母との修行を切り上げてローズのいる洞窟に来たとき、そこには誰もいませんでした。

洞窟をのぞき込んでも誰もいません。

スレ違いになったんでしょうか?

なら、屋敷に戻りましょう。

母との修行後なのでステルスの風は使わずに走って山道をかけ登り始めた。

空を見上げると茜色に染まっていました。

逢魔が刻、美しくも闇が世界を支配する前兆だ。

早く戻らないと母親やみんなに心配をかけてしまうだろう。

屋敷が見える位置に足を踏み入れた瞬間

 

「なっ・・・」

 

思わず私は絶句しました。

だって、門の前に血まみれで倒れている近衛2人

 

「由美! 佳乃!」

 

駆け寄って、調べるがすでに2人は絶命していました。

一体誰が・・・

みんな!

 

悪寒に駆られて屋敷の門をくぐった瞬間轟音と共に本邸がある方から火柱が巻き上がる。

何か異常なことが起こっている。

 

「敵襲!」

 

そんな声がどこからか聞こえた。

屋敷に敵がいる。

それを認識した秋葉の動きは素早かった。

手放していない槍を手に燃えている方角に駆ける。

 

途中、何人かが黒い塊となって倒れていた。

炎に巻き込まれたのか・・・

確かめるまでもなくあれは死んでいるだろう。

人が焼けた独特の臭いが鼻につく

優様・・・

 

彼は無事だろうか・・・

そんなことを思いながら屋敷の本邸に続く道を走る。

しかし、その途中

 

「あら?」

 

「っ! ローズ!」

 

目を丸くして立ち止まる。

炎を背景に陽炎に銀髪を揺らしながらローズマリーは微笑んだ。

 

「そういえば、あなたがいましたわね」

 

「!?」

 

猛烈な殺気を感じて槍を構える。

 

「まさか、あなたがこれを?」

 

「ええ、わた・・・」

 

言い終わる前に、秋葉はかけていた。

突撃の勢いと強烈な風を背中に受けた攻撃

 

「はああ!」

 

一撃必殺の豪風を巻き起こしながら槍が突く

ローズはそれをかろうじて避ける。

 

「言い終わる前に攻撃なんて無粋ですの」

 

槍を突き出したあとはわずかに隙ができる。

ローズマリーが右手を秋葉に向けた瞬間、秋葉は槍をもってない左手を振り抜いた

ローズマリーの衣装がわずかに切り裂かれる。

 

「っ!」

 

驚いたローズマリーが攻撃を中断して後退する。

直後に背後で爆発が起こる。

バキバキと木が切り裂かれて地面に轟音を立てて落ちた。

 

「かまいたちですのね」

 

かわされた・・・もしかしてと思っていたがやはり・・・

 

「今度は私の番ですの」

 

ローズマリーの周囲に陽炎が立ち上る。

次の瞬間、蒼い炎がローズマリーの周囲に燃え上がる。

すっとローズマリは右手を空にあげて振り下ろした。

 

「炎壁」

 

「!?」

 

秋葉の四方に巨大な火柱が巻き起こる。

風で!

空に逃げようとするが

 

「あ・・・は」

 

息ができない。

そうかこの炎で酸素が著しく薄くなっているんだ。

 

「うぐ・・・」

 

苦しい・・・酸素を・・・

考える能力が消失していく。

もはや、ステルスを使う余力は残されていなかった。

 

「さよならですの秋葉」

 

意識が途切れる寸前

 

「へぇ、面白そうなことしてるな」

 

声と同時に、私は誰かに抱えられ炎の中から連れ出されました。

新鮮な空気をめいいっぱい吸い込む。

 

「大丈夫秋葉?」

 

「お・・・かあさん」

 

母親の葉月、そして、ローズマリーと対峙しているのは水無月 希

剣も銃も抜かずにただ、面白そうに腕を組んでローズマリーを見ている。

 

「水無月 希? なんであなたがここに?」

 

薄く笑いながらローズマリーが言う。

世界最強を前にして彼女には余裕があるように見えた。

 

「星伽の方で戻れと託を受けたんだよ。 戻ってみれば楽しそうなことしてるじゃないか?」

 

「できれば、あなたとは戦いたくありませんの」

 

「そんなこと言わずに遊ぼう。なぁ」

 

戦闘狂、水無月 希は戦うことが好きだ。

彼女が狙いを定めて戦って勝てたものはいない。

 

「・・・」

 

無言でローズマリーは右手を横殴りに振り抜いた。

巨大な蒼い炎が剣のように希に降りかかる。

 

「ハハハ!」

 

希は笑いながらそれを跳躍して交わすと手を横に持っていく。

 

「その技もらったぞ」

 

ごっと腕を振りかぶると蒼い炎がローズマリーをなぎ払った。

どおおんと大爆発が起き、ローズマリーが後退する。

なんとか、かわしたらしいがゴシックロリータの服はところどころが焼け落ちていた。

 

「っ、理不尽ですの」

 

「どうした? もっと技を見せないのか?」

 

水無月 希は相手の技を1度見れば覚える。

どれほど、凡人が努力を重ねてやっと習得した技も1度見れば完全かそれ以上の力を振るう。

人は彼女をステルスマスターと呼ぶ。

風・土・炎・雷その全てを彼女は操れるのだ。

 

「赤い炎は星伽から覚えたが蒼い炎はまだでな。 全部さらけ出してから逮捕されてくれ。それとも私を倒すか?」

 

ローズマリーはにこりと微笑む。

 

「さすがは世界最強ですの。 私の負けですわ」

 

「何? もう、終わりか? あるんだろまだ、何か?」

 

拳をぱんと撃ち鳴らしながら希が言う。

 

「師匠」

 

「ん?」

 

その声に振り返った希が見たのは

 

「優か? そこで見てろ。 今おもしろいと・・・」

 

ズン

 

冗談のような光景。

山洞 秋葉が見たのは椎名 優希が父親から貰った紫電で尊敬していたはずの希の体を貫いていた。

 

「な・・・に・・・」

 

希がローズマリーを睨むと彼女は満面の笑を浮かべ

 

「世界最強。 あっけないですのね」

 

剣が引き抜かれ希が1歩前によろめく。

 

「雷化は・・・そうかそいつは紫電・・・か・・・どうり・・・で」

 

黒色のコートの上からでも血があふれ出てくるのが遠目からでも分かった。

 

「希様!」

 

悲鳴をあげて葉月が飛び出す。

しかし、その前に立ちふさがったのは・・・

 

「優希様!」

 

気絶させるつもりだったのだろう。

秋葉をも上回るその手から放たれた暴風が優希を包・・・

 

風が霧散する。

 

「!?」

 

無表情の人影が霧散した風の中から飛び出してくる。

 

「くっ!」

 

葉月は風の障壁を展開するがそれは冗談のように風を抜けて葉月の心臓を貫いた。

葉月の目が見開かれ口からごぼっと赤い血が溢れてくる。

葉月と目があった秋葉は目を見開いた。

 

「お・・・かあ・・・」

 

椎名 優希は剣を葉月から引き抜くと彼女の体を蹴飛ばした。

どうっと葉月が人形のように地面に倒れ込む。

ふらふらと秋葉はその、前にいくと膝をついて主を見上げた。

 

「ゆ、優様・・・なんで・・・」

 

涙を流しながら彼を見上げる。

無表情な瞳の彼は紫電を振り上げる。

殺される。

そう、秋葉は思った。

 

「「秋葉」」

 

声と同時に秋葉は誰かに突き飛ばされた。

ごろごろと地面を転がりながら起き上がる。

 

「き、鏡夜様、咲夜様どうしてここに・・・」

 

優希弟妹の2人だった。

 

「ひ、避難してたんだよ。 だけど、秋葉が切られそうになってたから・・・」

 

震える声で鏡夜が言う。

 

「ゆ、優兄どうしちゃったの?」

 

「!? ダメです!離れて!」

 

「え?」

 

秋葉が言うが優希が剣を薙ぎ払う。

 

「くっ!」

 

暴風を使い咲夜を吹き飛ばそうとするが一瞬、剣が早く、その刃が咲夜の右目を切り裂いた。

 

「あ、ああああああああああ!」

 

耳を塞ぎたくなるような絶叫。

右目を押えながら咲夜が地面に転がった。

 

「痛い・・・痛い!」

 

「咲夜!」

 

走り出そうとする鏡夜を秋葉は必死に止める。

行っても、二の舞になるだけだ。

椎名 優希が剣を再び昨夜に振りかぶる。

 

「咲夜!」

 

鏡夜が悲鳴を上げた瞬間

 

「このアホ弟子が!」

 

どごおおおと音と共に椎名 優希が吹き飛ばされる。

希が渾身の力で蹴り飛ばしたのだ。

 

「まだ、動けますの?」

 

感心したような声に希ははっと笑をつくる。

 

「まあな。 伊達に世界最強は名乗ってない」

 

くすくすとローズマリーは笑いながら

 

「再生能力も効いてませんのね。 さすがは、神器の末裔だけありますわ」

 

「厄介だな」

 

そういいながら、希は炎の装飾がなされたガバメントを抜き放つと鏡夜達を見て

 

「早く逃げろ!」

 

ドンと放たれた銃弾が大爆発を起こす。

武偵弾だ。

母の亡骸を残して私達はその場を後にしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃えていく建物を背景に俺の意識は目覚めた。

「え?」

 

「やっと・・・起きたのか馬鹿・・・」

 

理解できなかった。

覚醒した意識で最初に認識したのは熱い血が手を伝う感触。

その血の主は・・・

 

「し、師匠?」

 

心臓を貫かれ彼女は笑っていた。

 

「まったく・・・世界最強が・・・聞いて呆れるな・・・優希・・・無理な話だがあまりこのこと引きずるなよ・・・」

 

「え・・・なんで俺・・・」

 

ぽんと頭に手が乗る。

 

「全ては操られてただけだ。 お前の責任じゃない・・・気に病むな・・・」

 

「あ・・・」

 

周りを見渡すと見知った人たちが倒れていた。

秋葉のお母さん葉月さん・・・それに、父さん

 

「お、俺が・・・やったのか・・・」

 

「罪を・・・忘れろとは言わない・・・だが、お前の意思でやったんじゃない・・・だからな・・・優・・・」

 

師匠が俺の体を突き飛ばした

ごっと、蒼い炎が師匠を包み込む

 

「し、師匠!」

 

炎に飲み込まれながらも彼女は笑っていた。

 

「がんばれよ・・・弟」

 

ごっと炎が希を包み、ぱらぱらと黒い粉がが地面に落ちていく。

がしゃんと言う音に目を向けると炎の装飾がなされたガバメントが少し焦げて2丁落ちていた。

それをやけどするのも構わず拾い上げて俺は泣いた。

 

「希・・・姉さん・・・」

 

旅にでてから禁止されていた呼称。

水無月 希は椎名の家を捨てた女性。

椎名最強と呼ばれながらも女性であったため家を継ぐことが許されなかった。

名前を変える前は椎名 希・・・俺の姉さんだった。

 

「世界最強討ち取りましたの」

 

その声に俺は憎悪の視線を向ける。

 

「ローズ・・・マリー貴様・・・」

 

「?」

 

しかし、ローズマリーはいつものようにきょとんと首をかしげる。

 

「暗示が解けましたの優希? もう一度・・・」

 

「お前は絶対に殺す!」

 

地面を蹴り突撃する。

ローズマリーは首をかしげながらもその大剣でそれを受けた。

 

「優希・・・私の騎士様・・・」

 

その言葉をつぶやきながら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が俺の過去だ」

 

「「「「・・・・・・・」」」

 

アリア、レキ、理子、キンジみんな無言だった。

当然といえば当然なんだろう

 

 

「秋葉が去ったあとのことは俺にもわからない。 だけど、状況的に俺は秋葉の母親を殺し、咲夜の右目を奪い・・・師匠を・・・姉さんを殺したんだ」

 

「で、でも優・・・それあんたローズマリーに洗脳されていてあんたの意思じゃないじゃない」

 

アリアが絶句しながら言う。

 

「そうかもな・・・でも・・・」

 

手を見ながら俺は言う

 

「この手で親しい人を人を殺めたことに変わりはない・・・少なくても・・・秋葉には操られてたから仕方ないなんて言えないんだ・・・」

 

「そうか・・・分かったよ優」

 

理子が男しゃべりで言ってくる。

 

「なんで、お前があそこまでローズマリーにこだわったのかな。 優、お前、ローズマリーを殺す気か?」

 

「俺は武偵だぜ?」

 

殺したいとは思うだが俺は

 

「ローズマリーは逮捕する。 それが俺の過去への決着だと思ってる」

 

「秋葉に対してもか?」

 

理子の言葉に俺は頷く

 

「師匠に貰った命だ。 死ねとか言われない限り、俺は秋葉が望むなら何をされても構わないと思ってる」

 

憎いと当然、秋葉は思っただろう。

だが、秋葉はそれでも俺の傍から離れなかった。

 

「幻滅したなら言ってくれ・・・お前たちからも距離おくよ」

 

覚悟していた・・・人を殺めた過去を知られたら友達が離れていくんじゃないかと・・・

 

「離れません」

 

「レキ?」

 

最初に声をかけてくれたのはレキだった。

無表情ながらも俺を見ながらレキは

 

「優さんは優しい人です。私は知ってます。あなたは私の大切な人です」

 

大切な友達か・・・ありがとうなレキ・・・

 

「優」

 

理子が腕を組んで少し顔を赤くしながら横目で俺を見ながら

 

「お前は私をブラドから助けてくれた。 私は決して恩を忘れない。 過去に何があっても関係ない」

 

理子・・・ありがとう

 

「優、あたしはあんたをチームメイトにするって決めた日からあんたを見てきたわ。 あんたは、いい奴よ。 あたしのホームズの直感がそれを証明してるわ」

 

アリア・・・こんな俺でもいいのか?

 

「お前とはいろいろと腐れ縁だからな。 これからも友達だ」

 

キンジ・・・お前もいい奴だな

 

「レキ、理子、アリア、キンジ」

 

過去を知っても俺の仲間は離れないで居てくれる。

そう、兵庫の虎児や千鶴もこんな感じだったな・・・

転校したときはいろいろあったけど東京に行ってよかった・・・

こんないい奴らと知り合えたんだからな・・・

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 


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