緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第106弾 魔女連隊

やばいぞこれは……

敵が動き出す直前に考えた俺は状況を分析する。

刀をなんとか振り回せる路地裏で二対八、しかも一人はEランクの後輩だ。

間宮には悪いがEランクは素人に毛が生えたレベルだ。

背中を預けるのはきつい。

これが、アリアやレキ達だったら背中を合わせて互いに迎撃できるのに……

それに、いつも使うワイヤーが整備中が痛い。

いつものワイヤーなら二人まとめて、屋上まで飛ぶ力があるが携帯用のワイヤーはどうしても人を引っ張る力が弱く、二人まとめては引き上げられないのだ。

援軍を呼ぼうにも周知メールを出す余裕はない。

運がよければ警官が気づくもしれないがあの異質の何か……あえて木偶人形と呼ぼうか……

に、対抗はできないだろう。

ここまで、考えた時木偶人形が動いた。

 

二対が左右両方から並んで突っ込んでくる。

一気に両方は相手できないな。

一人ならともかく、今は二人だ。

 

「く……」

 

ばっとデザートイーグルをフルオートで内つくす。

バキバキと言う音を立ててスナックなっちゃんと書かれた巨大な看板が木偶人形の群れに落ちて、轟音を立てる。

後ろに、集中しようとしたら木偶人形一対看板の隙間から飛び出してくる。

反対側の木偶人形もあと少しでキリングレンジに入る。

 

「間宮!少しでいい!弾幕をはれ!」

 

携帯用のワイヤーを投げて、先についたナイフが壁に突き刺さると、張り巡らされたワイヤーに木偶人形が突っ込んでバネのように弾かれる。

間宮が、ウージーで弾幕射撃を開始する。

が、もう構う余裕がない。

もう、片方のサイドの木偶人形は目と鼻の先に迫っていたからだ。

技のモーションをとる暇はなかった。

 

ギイイイイン

裏路地に鉄と鉄が激突し、火花が散りつばぜり合いになる。

だが、あと一体が並んで俺に剣を振りかぶった。

 

「くっ!」

 

左手でガバメントを抜いて三点バーストで刃を吹っ飛ばすがチンピラにしたときのように俺を潰そうと手を振りかぶる。

食らうとやばい!

先端に鉄を仕込んである靴でつばぜり合いをしてる木偶人形の腹を渾身の力で蹴飛ばして後退すると木偶人形の手が俺がいた空間をなぎはらった。

 

ドオオオオン

 

冗談のような爆砕音と共に、コンクリートの壁にひび入れる木偶人形

なんつうパワーだよ!

 

間宮の横まで後退する。

 

「椎名先輩!」

 

「弾幕切らすな!」

怒鳴りながら構えは刺突

半分かけだが多分、間違いないはずだ。

殴りかかってきた木偶人形の胸に、渾身の突きを放った。

バキバキと木が割れる音と共に、何かを破壊した感触があった。

木偶人形がだらりと動かなくなる。

そうか、なんらかのこいつらを動かしてる動力は胸にある!

 

「間宮!木偶人形の胸を狙え!」

 

「は、はい!」

 

短機関銃なだけあって木偶人形も攻めあぐねてるようだった。

だが、弱点が分かれば簡単に勝てる相手だ。

 

デザートイーグルのマガジンを入れ換えると、突っ込んでくる残り三体の胸に、デザートイーグルの弾丸を叩きこんだ。

 

ガシャンガシャンとおもちゃのように崩れ落ちる木偶人形。

さすが、デザートイーグル。

破壊力は抜群だな。

 

「きゃあああ!」

 

はっとして振り替えると間宮が刃を失った木偶人形に倒される瞬間だった。

 

「間宮!」

 

デザートイーグルを向けるが駄目だ。

この位置では核を破壊するには跳弾しかないがそれだと敵が間宮の頭を潰す方が早い。

 

ギギギギギ

 

きしむような音を立てて、木偶人形が手を振りかぶる。

 

「い、いや!アリア先輩!」

 

間宮が悲鳴を上げる。

 

「間宮!」

 

地を蹴って蒼神を振りかぶるが間に合わない!

木偶人形が手を降り下ろす直前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、何か大変ですねぼっちゃま」

 

この声……まさか

 

ふわりと着地したその女性はしかし、鋭く、手に持つ獲物で木偶人形を突いてぶっ飛ばした。

再びふわりと飛び上がるとギギギギギと起き上がろうと上半身を起こした木偶人形を頭から真っ二つに切断した。

がしゃんと力を失い倒れる。

木偶人形

 

その女性はにこりと微笑むと長刀を右手に頭を下げた

 

「お久しぶりですぼっちゃま」

 

「つ、月詠!?」

 

白雪や佐々木とはまた、違う大人の雰囲気を持った和服の女性微笑みながら答えた。

 

「はい、月詠です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、2時間後、気絶した間宮の手当をするため、学園島に戻った俺達は部屋に戻り、本来アリアが寝ているベッドに手当を施したあかりを寝かせた後、リビングのソファーで俺達は話をしていた。

 

「現場はよかったのか月詠?あのままにしてて?」

 

「はい、公安0の関係者があの場所は封鎖してるはずですから」

 

「公安0が?ってことは……」

 

「あれは優様が戦ったランパンとはまた、違う組織、恐らく魔女連隊のもの仕業かと」

 

「魔女連隊?」

 

声の方を見ると、正座し、スパッツの上にミニスカートを履き、Tシャツを着た少女がいた。

特徴的なのはウェーブのかかった長い髪だろう。

 

傍らには槍が置かれている。

 

「はい、ドイツの魔女です。北朝鮮やイランなどのテロ国家で暗躍する連中です」

 

「なんでその魔女連隊が日本で一般人を襲うんだ?」

 

「それについては調査中です優様」

 

「ふーん、で?なんて、椎名の近衛筆頭とその弟子が東京にきてんだ秋葉?」

 

目の前にいる月詠に言う。

説明がいるな。

和服で長刀を持ったさっき俺達を助けてくれたのは月詠。

名字は俺も知らない。

で、正座して目をつぶってるこいつは、山洞(さんどう) 秋葉(あきは)

月詠は詳しくは知らんが秋葉は弟の鏡夜と同い年だ。

 

 

「それは……」

 

秋葉が何かを言おうとした時、

 

「邪魔するぜ」

 

すっと部屋に入ってきたのは

 

「土方さん」

 

公安0の土方さんだった。

 

「ご無沙汰しています土方様」

 

月詠が頭を下げ、秋葉も遅れて頭を下げる。

 

「おう」

 

土方さんはソファーに座ると俺を見てきた。

 

「ます、先に言っておく。今回の件は誰にも言うな」

 

「え?なんで?」

 

「んなに目くじら立てなくても巻き込んじまった以上説明してやるよ。今回、お前が戦った木偶人形な。今月だけでお前が戦った8体以外に20体以上が都内で事件を起こしてる」

 

「で、でもそんな事件ニュースでは……」

 

「情報統制してるからな」

 

土方さんはタバコを取り出したが

 

「ここは学生寮です土方様」

 

秋葉が目をつぶったままで言ったのでタバコをしまう。

 

「ともかくだ。殺人人形が都内で殺人を繰り返してるなんて知れたらパニックになるからな。一度ジャーナリストが嗅ぎ付けたが消えてもらった」

 

「殺したんですか?」

 

「いや、今ごろは離島で農作業でもしてるだろうな」

 

まあ、仕方ないな……

 

「犯人の組織が分かって俺達も動いちゃいるが殺人人形の出現パターンが複雑でな。後手に回らざるえない状況だ。いろいろ警備の手配はしてるが人手不足が現状だ。殺人人形と戦えるだけの実力者も少ない訳じゃねえがな」

 

「じゃあ、俺も警備に……」

 

手伝いを申し出るが土方さんは首を横に降る。

 

「ありがてえ提案だが、これは公安0に売られた喧嘩だ。外国の勢力がいつまでも東京で好き勝手させやしないさ。今、公安0の戦力を東京に呼び戻してる。刹那が戻ってきてから殺人人形の駆逐は本格的に始める」

 

「それに、ぼっちゃまは……」

 

「月詠……ぼっちゃまはもうやめてくれ……」

 

「はい、では優希様は実家に戻ってもらいたいんです」

 

「げっ!なんで!」

 

そこまで言うと土方さんが立ち上がった。

 

「身内の話を聞く気はねえよ。それと悪いが間宮あかりの今日の記憶は消させてもらった。代わりの記憶は埋めといたがな」

 

はっとして寝室を見ると黒いスーツの女性が頭を軽く下げた。

記憶操作ができるステルスか……

その方がいいだろうな……あんなことEランクには早すぎる

 

「わかりました」

 

「今は学園島は俺達は警備してねえ。学園島に殺人人形が現れたらすぐに連絡してくれ」

 

そう言って土方さんは帰っていった。

 

さてと……

 

「で?なんで俺が実家に帰らないと行けないんだよ?」

 

「後継者選びの会議が数日後に控えてます」

 

「俺はもう、継承権はないはずだが?」

 

「いえ、優希様もリストに入っています。というのも優希様を強く押す、分家もいますので無視はできません」

 

 

「もう、鏡夜でいいだろ?俺も実家を継ぐ気はないからな」

継げといわれても俺は断る。

そう、あの日から決めてるんだ。

 

「ですが……」

 

秋葉が口を開く

 

「優様は鏡夜様より実力は上です」

 

「買い被りすぎだ秋葉」

 

「ですが……」

 

「秋葉!」

 

俺が睨むと秋葉は黙った。

 

「っと悪い怒鳴る気はなかった」

 

「いえ……出すぎたことをいいました」

 

「ああ……悪い……ま、まあとにかく断るからな帰れ月詠、秋葉」

 

「あらあらうふふ……駄目ですよ優希様。帰らないなら力ずくで連れ帰るように命令されてます」

 

げ!

 

「それで、お前らが派遣されてきたのかよ!」

 

「はい」

 

秋葉が槍を手に、月詠が長刀を手に取る。

ま、まずいこいつら本気だ。

俺が帰らないと言えば力ずくで連れ帰る気だ。

たが、帰りたくねえ!

蒼神に手をかけてソファーから後退して対峙する。

 

「無駄な抵抗はやめてください優様」

 

すうと音もなく展開する秋葉

 

「うるさいぞ秋葉!お前一人なら余裕で勝てるんだからな!」

 

そう、神経を集中しないといけないのは月詠だ。

 

「最後に聞きます。帰る気はないんですね?」

 

「ない!」

 

ごっと殺気の風が月詠から発せられた。

浴びるものが素人なら失禁してしまうほどの……

く、くそ!よりによってワイヤーがオーバーホール中にこれかよ!

一瞬即発のその時、月詠はにこりとして壁に長刀を置き、秋葉も正座する。

え?と思った時

 

「ただいまぁ」

 

このアニメ声……まさか……

 

「優帰ってるの?今日のクエストの件なんだけど……」

 

とリビングに入ってきた私服のアリア。

や、やば女連れ込んでるなんて知られたら……

慌てて月詠達を見るがあ、あれ?

 

「どうかしたの優?」

 

「い、いや……」

 

窓を見ると開け放たれている。

退散したらしいな……

よかった……

これで、あきらめたとは思えんが今日はなんとか……

 

「あかりはどうしたの?どこで別れたの?」

 

し、しまったああああああ!

今、寝室で間宮が寝てるよおい!

 

「疲れたわ。優コーヒー入れなさい」

 

「あ、ああ」

 

とりあえずインスタントコーヒーを入れに台所に向かう。

 

「な、なあアリア。今日は自分の寮に帰らないのか?」

 

できればその間に間宮を……

 

「今日?今日は帰らないわよ?あかりがどうだったか聞きたいしね」

 

望みは絶たれたか……い、いやかくなる上は……

 

 

「あ、アリア実はなマリが相談があるそうなんだ」

 

「マリが?何かしら?」

 

「そ、それで内密な話らしくてアリアの部屋の前で待ってるらしいんだ」

 

 

「ここに来たらいいじゃない」

 

それじゃあ駄目なんだぁ……

 

「な、なあ頼むよ。なんか大切な話らしくてな。アミカの俺からも頼む」

 

アリアは何か考えていたが

 

「優、何か隠してない?」

 

「隠してないです!」

 

なんで敬語になるんだ!やべえ

 

「……」

 

アリアは俺を疑いの眼差しで見たが

 

「チームメイトに嘘つくなら風穴あけるわよ」

 

といいつつ部屋に一度戻ってくれるようだ。

よし、その間に裏工作すれば完璧だ。

 

「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」

 

「おう、ゆっくりな」

 

「? うん」

 

パタンとドアがしまり足音が遠ざかる。今しかない!

俺は寝室に飛び込むとよく眠っている間宮あかりをお姫様だっこして夜の闇に紛れて家に送ろうとした。

住所は武偵手帳見たらわかるからな。

とにかく必死だったんだ俺は……

ドアに手をかけたところで

 

 

「優、そこでマリにあった……んだ……けど……」

 

「優せんぱ……」

 

ドアの外にはアリアさんとマリが……

 

固まる3人

 

「ど、どどど……」

 

やがて、アリアが震えだした。

怒りでね。

 

「ま、待てアリア!これは違うんだ!違う!」

 

「どうして、あかりをお姫様だっこしてるのか説明しなさい」

 

「それは……」

 

他言無用という土方さんの言葉がよぎる。

恨むぞ土方さん!

 

「じ、実はな!間宮が滑って転んでだから手当を……」

 

「ふーん、じゃあなんであかりの胸元が乱れてるんですか?」

 

え?

マリの指摘で今、気づいたが寝かせるときに治療するためか楽にするためか防刃ネクタイを外したらしい。

 

見ようによっては何かしたあとに見えそうだ

 

 

「ゆ、ゆうう!あんた、そんなことだけはしない奴だと思ってのに……あたしのアミカを!」

 

「フフフ……なんであかりなんですか……同じ1年なのに」

 

い、いかん!これはまずい!

2丁の銃が現れる。

もぎ取るようにアリアが間宮を抱き寄せると

 

「さようなら先輩」

 

「ヘル風穴!」

 

「ぎゃああああああ!」

 

こうして、二日目の風穴祭を浴びた俺。

誤解が溶けるのは深夜までかかり、帰ってきたキンジが寝ても誤解を解く作業は続いたのだった。

トホホだな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、楽しそう」

 

優希の断末魔の悲鳴を聞きながら月詠はクスクスと女子寮の屋上で笑った。

 

「いいんですか?月詠様?優様を連れて行かなくても」

 

背後で優の悲鳴を聞きながら秋葉は言った。

 

「うふふ、強引に連れていくより自分から来てくれる方がいいでしょ」

 

「しかし、今東京は危険です。公安0と魔女連隊の抗争の場では……」

 

「そうね。魔女連隊の目的は分からないけど公安0に喧嘩を売ったことは公開することになるでしょうね」

 

公安0の戦力は国内最強の戦闘集団。

なるほど、東京という対魔に優れた場所での戦闘は魔女連隊には都合が悪いだろう。

勝算ありと見てはきていない?

 

「もしや、これは……」

 

「だとしても」

 

秋葉がいいかけて口を開く。

 

ギギギギギギギギギギギギギギギ

 

「私達は成すべきことをしましょう」

 

長刀をトンとコンクリートに起きながらバラバラになった木偶人形20体の雨を背後に月詠は微笑んだ。


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