緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第102弾 私は理子だ!

じゃりとコンクリートを削りながら身長を越え大剣を右手にゴシックロリータのドレスを風になびかせるローズマリー。

彼女は俺とブラドの間に立っている。

 

「どういう気だぁ?ローズマリー?」

 

ブラドはアリアと理子を離さないまま、言った。

 

「どうもこうもありませんの」

 

ローズマリーはにこりと微笑みながら

 

「優希は私の騎士様。殺すならお父様でも容赦しませんの」

 

その場で意識がある俺達は同時に驚愕する。

ローズマリーがブラドの娘だと?

 

「くっ」

 

なんとか体を起こし、壁にもたれ掛かれながら立ち上がる。

 

「優希寝てなくていいんですの?」

 

可愛らしく首をかしげながらローズマリーは言った。

 

「お前なんかに……心配される覚えはねえよ」

 

「そうですの?」

 

ローズマリーはそういうと再びブラドを見る。

 

「てめえ、ローズマリー俺と殺る気か?」

 

ブラドが言うのを聞きながらローズマリーの力は確かに強い。

ブラドを倒すなら間接的にでも力を利用するのがベスト。

ローズマリーがブラドを殺しても武偵憲章には引っ掛からない。

だが、その考えは甘かった。

 

「私、優希以外には興味ありませんの。優希に手を出さないなら邪魔はしませんわ」

 

な、何?

 

「ほぅ、つまりそこの小僧を見逃せばホームズと4世を連れていくのを見逃すってんだな?」

 

「ぶっちゃけちゃえばそうですの」

 

笑顔で言うローズマリー。

 

「いいだろう。椎名は見逃してやるよ」

 

ブラドが背中を向ける。

ま、まずい。

ローズマリーが現れる前と状況が変わってない。

震える手で武偵手帳からラッツォを取り出す。

そして、注射器を胸に突き刺すとびくんと体が痙攣する。

ラッツオは復活薬だ。

こんなぼろぼろの状況で使うのは初めてだが、よし、動ける。

ぽたぽたとしたたり落ちる血を見ながら日本刀を手に取る。

 

「待てよブラド」

 

ブラドは振り返る。

 

「ゆ、優!もういいわ!寝てなさい!」

 

「優……」

 

アリアと理子がブラドの手ににぎられながら言ってくる。

はっ、寝てろだあ?

ここで見逃してアリア達を連れ去られてしまうくらいなら死んだ方がましだ。

万が一を考えて携帯で土方さんと実家にはメールを出した。

俺が死んでも公安0と椎名の家がアリア達を救出してくれるはずだ。

 

「優希?まだ、やるんですの?」

 

「当たり前だ」

 

「そうですの」

 

ローズマリーはそういうとばさりと羽を広げると屋上の鉄塔の上に立つ。

見学するということか……

 

「おい、ローズマリー!この場合はどうなるんだぁ?」

 

ブラドは俺の殺害をローズマリーに確認しているのだろう

 

「殺さなければ私は何もしませんわ」

 

「つまり、腕一本もぎ取るぐらいは許されるって訳だゲルババババハハハ!」

 

ズンズンと地鳴りをあげながらブラドは歩いてくる。

なめられたもんだな……足だけで倒す気かよ。

だが、無限の回復力がある以上……

 

「……」

 

一本剣をしまい、黒い日本刀で右手を上段、左手を剣の刃に持ってくる。

刺突の四連撃。

沖田ははこれを0.1秒で繰り出せるが俺は最速で0.5秒かかる。

怪我で更に速度は落ちるだろう。

これまでのブラドとの戦闘で魔臓の再生は0.3秒と目星は付けた。

怪我の状態からもうとっくに限界は越えている。

大技は後、一回が限度だ。

だが、やるしかねえよな……武偵はあきらめるな!決して諦めるな!

 

「悔しいか4世?」

ブラドが理子を盾のように構える。

 

「う……」

 

締め付けられて苦しいのか理子は苦悶の声を上げる。

 

「理子!」

 

魔臓の上に理子を持ってくる。

盾にする気か……

これじゃ……

 

「お前のヒーローさんが再び、沈む絶望を見せてやるゲルババババハハハ!」

 

理子は泣きながら俺を見る。

 

「優……助けて……」

 

理子の涙が地面に落ちていく。

それと、同時にかしゃんと音を立てて、あの弾丸が落ちる。

一発のみの弾丸では状況は変わらない。

その時、ごっと風が吹いた。

 

(優希、それをブラドに撃ち込め)

 

え?

とっさに振り返るがローズマリー以外、誰もいない。

そして、あの声は……もう、この世にいない……

 

「どうした椎名!こっちから行くぜ!」

 

ブラドが右足を振りかぶり、熊をも一撃で粉砕できそうな蹴りを放ってきた。

 

「っ!」

 

携帯用のワイヤーを投げると巻き戻して、壁を蹴る。

ブラドの足元を抜けて、弾丸を回収する。

ガバメントを抜いて、マガジンに弾丸を詰める。

 

「ブラドぉ!」

 

「また、無駄弾か?こりねえな」

 

ドン

 

私は一発の銃弾。

なぜか、レキのセリフが頭に過った

ギン ギンとアリアや理子を盾にされないように跳弾射撃の弾丸はブラドの魔臓の1つに命中する。

 

「無駄だ椎名。傷なんぞ……ん?」

 

ブラドが怪訝そうな声を上げる。

傷が塞がっていない。

 

「椎名、何しやがっ……うお!」

 

「お姫様は返してもらうぞ」

 

と、ヒステリアモードのキンジが小太刀でブラドの手を切りつけ、二人を脇に抱えると俺の方に走ってくる。

 

「キンジ!」

 

「キー君」

 

アリアと理子が驚いてキンジを見ている。

やれやれ、気絶したふりかよキンジ……ヒステリアモード破りを防ぐ方法何か見つけたのかな

 

「どういうことだ?傷が塞がらねえ!」

 

ブラドが困惑した声をあげている。

これは……

 

「ゆ、優ブラドはどうしたの?」

 

「あの弾丸は何?」

 

アリアと理子がきいてくる。

だが、チャンスは今しかねえよな

 

「分からんが、恐らく、魔臓の動きを破壊するか一時的に停止させる作用があったみたいだな。差し詰め、ヴァンパイアジャマー」

 

たく、師匠……あんたまさか、昔にこの状況、予測してたのかよ……

 

「ヴァンパイアジャマー?」

 

アリアが聞いてくるが作用がいつ、切れるか分からない。

今なら、同時破壊でなくてもブラドを倒せる。

 

「みんな、俺は舌の魔臓を破壊する。後は任せる。決めるぞ理子!」

 

「うん!」

 

理子にバタフライナイフを渡し、キンジに日本刀一本をかすと俺達はブラドに駆けた。

 

「く、来るな!」

 

魔臓という圧倒的なアドバンテージを失ったブラドが怯えた声を上げる。

初めてだろうな魔臓が止まった状態で戦うなんてよ。

 

「終りだブラド!飛龍一式!風切り!」

 

口を閉じたブラドに風切りをお見舞いする。

歯ごと舌の魔臓を切り飛ばす。

 

「ぐあ!」

 

「キンジ!」

 

「ああ、行っておいでアリア!」

 

ブラドを牽制していたキンジの手に足を乗せて高く舞い上がったアリアがブラドの肩刺し貫く

これで初期の弾丸で破壊されてない魔臓は後、1つ。

 

「「「行け(きなさい)!理子!」」」

 

「よ、4世!」

 

ブラドが右手を振るう。

理子は戦闘狂の笑みで髪をブラドに巻き付けるとくるりと腕を支点にブラドの懐に入りこんだ。

 

「よ、4世ぇ!」

 

「私は!理子だ!」

 

理子は渾身力でブラドの最後の魔臓にバタフライナイフをねじ込んだ。

 

「ぎゃああああ!」

 

絶叫をあげて、ブラドは魔臓から血を吹き出し、その巨大な体を地面に沈めた。

ピクピクと痙攣している。

やったの……か?

ブラドは起き上がらない。

つまり……

 

「勝った?」

 

ローズマリーの方を見上げてみるがすでに奴はいなかった。

ということは……

 

「勝ったの?」

 

アリアも俺を見ていってくる。

 

「ああ、俺達の勝ちだ」

 

「しゃあああ!勝ったぞ理子!ブラドを倒したんだ!」

 

「あ……本当に?」

 

理子が呆然とて言う。

あの絶望的な状況から一変した勝利。

まさに、奇跡の勝利と言ってもいいだろう。

 

「約束守ったぞ理子」

 

おれはにっと笑い。

理子は感動を飲みこむようにしながら一瞬、目を潤めて、次にかあああと赤くなった。

 

「か、勘違いするなゆ……」

 

あれ?景色がぐらりと揺れる。

あ、やべ今回は流石にやりすぎたか……

 

「ゆ、優!」

 

理子の腕の中に落ちながら俺の名前を呼ぶ少女の声を聞きながら思った。

諦めなくてよかった……

理子……これでお前は自由だな……おめでとうそこまで思ってから俺の意識は途切れるのだった。

はい、今回の護衛……おしまい


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