D×D magico   作:鎌鼬

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母の抱擁

 

 

「……くっさ」

 

 

意識が戻るのと同時に感じるのは強い消毒液の臭い。身体を起こせば訳のわからないコードに繋がれていたので全て外す。

 

 

「起きた様だな」

 

「……えっと?」

 

 

俺が起きたのを見て壁に寄りかかっていた人が話しかけてきた。何この人……凄い怖い顔してる……

 

 

「どちら様ですか?ついでにここは?」

 

「俺の名前はコカビエル、ここは神の子を見張るもの(グリゴリ)の本部だ」

 

「コカビエル……もしかして俺のジイさん?」

 

「そうだが……知っていたのか?」

 

「母さんから名前だけは聞いてたんで。そいでここは神の子を見張るもの(グリゴリ)の本部……ってことは神器狂いの堕天使の総本山か……」

 

「ブフッ!!セ、神器狂いとはよく言ったな。ティアマットから教わったのか?」

 

「三大勢力のことについては一通り。俺の中でワーストは宗教キチの天使だけど」

 

「ふ、フハハハハ!!し、宗教キチか!!成る程、確かに言い得て妙だ!!」

 

 

俺の言い方がツボに嵌ったのかコカビエルのジイさんは可笑しそうに笑っている。笑ってるんだけど……悪役面だから怖いんだよな……

 

 

「さて、お前には色々と聞きたいことがある」

 

「それは分かってる。その前に母さんは?」

 

「ティアマットなら手当を受けているところだ。見た目よりも傷は軽いらしくてな、その内こっちに来るだろう」

 

「ーーーヒサメェ!!」

 

 

ジイさんがそう言った瞬間に母さんが壁をブチ抜いて現れた。見た目包帯だらけで痛々しいが動けているところを見ると問題無いんだろう。

 

 

「ヒサメ、大丈夫か!?痛い所は無いか!?」

 

「強いて言うなら母さんの抱き締める力が強すぎて痛い」

 

「くぉらぁティアマットォ!!テメェ壁壊してんじゃねぇ!!誰が直すと思ってやがる!!」

 

 

母さんを追いかける様にブチ抜いた壁の穴からちょい悪風の男が現れた。

 

 

「どうせ下級堕天使に直させるんだろ?だったら良いじゃないか、閃光と暗黒の(ブレイザー・シャイニング・オア・)龍絶剣(ダークネス・ブレード)

 

「そうだ、神器の研究ばかりしていないで働け、閃光と暗黒の(ブレイザー・シャイニング・オア・)龍絶剣(ダークネス・ブレード)。そんなのだから神器狂いとか言われるのだ神器狂い閃光と暗黒の(ブレイザー・シャイニング・オア・)龍絶剣(ダークネス・ブレード)

 

「ァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

母さんとジイさんが煽った瞬間にちょい悪男は発狂した……何?閃光と暗黒の(ブレイザー・シャイニング・オア・)龍絶剣(ダークネス・ブレード)って?ぼくのかんがえたさいきょうのぶきなのか?なんか色々と混ぜ過ぎたら混沌とした名前になってるけど……

 

 

「カッコ良い……」

 

「え?」

 

「は?」

 

「ーーーおい」

 

 

ちょい悪男が正気に戻り、俺の肩を掴んで座った目を向ける。近い近い、男とそんなことする趣味無いからやめて欲しい。

 

 

「今、何つった?」

 

「いやカッコ良いなって、閃光と暗黒の(ブレイザー・シャイニング・オア・)龍絶剣(ダークネス・ブレード)。こう、男心擽られる感じが何とも言えないですよね」

 

「ーーー心の友よぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

抱き着かれた。しかも嬉しくて加減を間違えているのか身体中からなんかミシミシ音が聞こえる。

 

 

「アザゼル!!落ち着け!!ヒサメが死ぬぞ!!」

 

「五月蝿え!!ようやく出会えた同志をテメェらなんかに渡してなるものか!!」

 

「ヒサメを放せ!!なんか顔が青通り越して白くなってきてるから!!」

 

「あぁ……これが黄昏の抱擁か……(瀕死)」

 

『ヒサメ!?クソッ、こうなれば……!!』

 

 

なんか金髪巨乳の女神が抱きしめようとしてくれたら現実に戻って来た。身体からは刃物が生えてちょい悪男は血塗れになってのたうち回っている。ヴリトラ、ありがとう。あのままだったら間違い無く輪廻転生の理に導かれるところだった。

 

 

「ヒサメ!!大丈夫か!?」

 

「しぬかとおもった……」

 

「アァァァァァザァァァァァゼェェェェェェルゥゥゥゥゥ!!!!」

 

「ギャァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

 

報復はいいから早く痛み止めをください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後痛み止めを貰い、アザゼルと呼ばれたちょい悪男がジイさんによって愉快なオブジェクトになったところで話しが始まった。

 

 

「いってて……悪いな、つい興奮しちまってよ。俺はアザゼル、神の子を見張るもの(グリゴリ)の総督をやってる」

 

「ヒサメ、転生者で龍と堕天使と人間の血を引いてる」

 

「ティアマットとピースの子供だろ?知ってるよ。あの馬鹿には色々と迷惑掛けさせられたからな」

 

「そんなに酷かったの?」

 

「おうよ、お調子者で場の雰囲気を明るくしてくれるのはいいんだけどそのシワ寄せはぜぇんぶこっちに来てよ……後始末が面倒だったぜ」

 

「貴様はそれすら部下に押し付けていただろうが……」

 

「シャラップ!!……ヒサメ、お前には色々と聞きたいことがあるんだが良いか?」

 

 

アザゼルさんの顔が真剣なものに変わる。そりゃあジイさんと母さんからの話を聞けば疑問に思う点も出てくるだろう。俺の使った魔法とか、餓鬼道の加護とか。堕天使という種族のトップをしているならそれは当然の反応だ。

 

 

だけどこれは俺にとって都合が良い。箝口令を敷いてもらってここにいる者たちだけの秘密にしてもらおう。

 

 

「まずはお前が大人になった方法だが」

 

「俺の異能で使える魔法の効果で大人になった」

 

「そんな魔法があるのか?」

 

「掌換魔法って言って殴った数に応じて魔力の籠った拳を召喚する魔法。最高位だと魔力が籠もりすぎてて肉体が成長するらしい」

 

「……相変わらず転生者が使う異能はぶっ飛んでるな……次はお前とティアマットがなったとかいう状態についてだ。あれは正直異常だ。検査してもおかしなところは無かった、あれだけの力を振るったにも関わらずだ」

 

「それはアタシも気になってた。明らかにブレスの威力が上がってたからな」

 

 

問題はそれなんだよな……魔法は異能ってことで説明が着くけどこればかりは誤魔化しようが無い。

 

 

「それについては他言無用が条件だ。もしバレるようなことがあるなら……他の勢力に閃光と暗黒の(ブレイザー・シャイニング・オア・)龍絶剣(ダークネス・ブレード)の名前とアザゼルの厨二歴史として有る事無い事をぶち撒ける」

 

「分かった!!俺の全てに替えてでも守らせてもらおう!!だから絶対漏らすんじゃねぇぞ!!コカビエル!!ティアマット!!」

 

「振りか?」

 

「振りだな」

 

「振りじゃねぇよ!!」

 

 

アザゼルの弱みを握ったことと弄られキャラとしての立場を確立させた事に内心ホッコリしながら俺は前世にいた神ーーー覇道神の事について話し始めた。

 

 

内に燃える渇望を外界に流出させ、宇宙の法則すらおも塗り潰す絶対者。そして俺のいた世界の覇道神である我欲界餓鬼道。始めの方はアザゼルは興味津々といった様子で聞いていたのだが終わりの頃になるとその表情は硬くなっていた。

 

 

「おいおいおい……マジかよその話は?」

 

「おおマジ。俺と母さんのパワーアップだって餓鬼道からのバックアップがあったからだし」

 

「別世界に人から神になった奴……頭が痛くなる話だね……」

 

「……お前たちのあの強さの秘密は分かった、その上で聞かせて欲しいヒサメ。餓鬼道の赤子であるお前は何を望んでいる?」

 

 

アザゼルは餓鬼道に対する対抗策でも考えているのかブツブツと呟き、母さんは容量が足りないのか頭を抱えてウンウン唸っている中でジイさんだけは真剣な表情で俺のことを見つめていた。

 

 

「別に?何か大義をしたいとかそういう考えは無いよ。俺は餓鬼道の赤子、親愛を謳う餓鬼道らしく大切な奴らが笑っていられるならそれで良い。そいつらを穢そうっていうのなら滅尽滅相、それだけだよ」

 

 

ジイさんに応えた言葉が俺の答えだ。俺は餓鬼道の理を嫌っているわけじゃ無い、むしろ正しいと思っている。人間どこまでいっても見知らぬ誰かよりも親しい者の方が大切なのだ。多分餓鬼道以外の理の世界で産まれたとしても俺はそう考えていたと断言出来る。

 

 

「……本当の様だな。なら、俺がお前を鍛えてやる。餓鬼道とやらからのバックアップがあると言っても地力を鍛えておいて損は無いだろう」

 

「それはありがたい。今回の転生者みたいな奴がいたら厄介だからね。あとアザゼル、餓鬼道に対する対抗策なんて考えるだけ無駄だよ」

 

「あぁ?何でだ?お前を送り込んだってことは何かしら企んでるんだろ?」

 

「あの人が俺を送ったのはこの世界が害であるかを調べるため。害ありだと判断されたならこの世界はもう潰されているはずだ。それにあの人の世界は一つの世界で完結している。それに無理矢理干渉をしようとするなら出張って来て踏み潰されるぞ?」

 

「……一応参考にはさせてもらうぞ」

 

 

それだけ言うとアザゼルは部屋から出て行った。もしアザゼルが餓鬼道に干渉したならアザゼルだけで被害が済むように祈ろう。

 

 

「……母さんは」

 

「ん?」

 

「母さんは、俺のこと気持ち悪く無いの?」

 

 

俺が危惧していたことは母さんからの反応だ。母さんは俺が転生者であることは知っているが、それが餓鬼道からだとは知らない。それに今回の件で母さんも餓鬼道の赤子になってしまった。罵倒され、殴られ、そして拒絶されてしまうかもしれない。それが俺にとってなりよりも怖かった。

 

 

「……はぁ、馬鹿だね。ヒサメは」

 

 

呆れたような反応をしながら、母さんは俺を抱きしめてくれた。アザゼルのような力任せの抱擁ではなく、優しく愛しむ黄昏のような抱擁を。

 

 

「転生者?餓鬼道の赤子?そんなのアタシには関係無いね。ヒサメはヒサメで、アタシとピースの大切な子供だ。アタシにとってはそれだけで十分なんだよ。むしろその餓鬼道とやらがヒサメのことを奪いにきたら倒してやるね」

 

「ーーー」

 

 

言葉を失う。母さんの温もりが、言葉が、すべて本当でそれだけ俺のことを大切だと思っていると教えてくれていたから。

 

 

「……ハハッ、大きく出たね。覇道神を倒そうだなんて」

 

「それだけ大切に思っているって事さ。離れろって言われても放してやるものか」

 

「……ありがとう」

 

 

嬉しくて涙が止まらない。そんな中で出せた言葉は感謝の一言だけだった。

 

 

 




〜神器狂い
堕天使が神器を集めているとのことからヒサメが付けた別名。

〜宗教キチ
歴史を見ると宗教がキチっていることは確定的に明らか。だって異教徒ってだけで殺戮したり魔女の疑いがあるってだけで拷問にかけたり火炙りにしたりとやってるから。

閃光と暗黒の(ブレイザー・シャイニング・オア・)龍絶剣(ダークネス・ブレード)
光と闇が合わさって最強に見える。

〜アザゼル
神器狂いの代表堕天使。今回の件で同志を得てホッコリしていたが覇道神の話を聞いて焦りまくり。ヒサメの話から餓鬼道は干渉しないだろうと教えられたが一応の対抗策を考えている。餓鬼道様が干渉しようとしたら世界ごと踏み潰されるのがオチなんだよな……

〜ティアマットの抱擁
ティアマットからすればヒサメは自分の息子。転生者?餓鬼道の赤子?なにそれおいしいの?と考えている。なのに見当違いなことを考えて悩んでいたヒサメが愛しくなり抱きしめた。ヒサメ曰く、あの抱擁は黄昏と同等かそれ以上に素晴らしいかったとのこと。水銀?立ち上がろうとした瞬間に餓鬼道様に腹パンされて沈んだよ?

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