D×D magico 作:鎌鼬
「ーーーやれやれ、やっと許可が出たか」
冥界の空を飛んでいる人型がいた。悪魔の蝙蝠の羽根とは違うカラスの様な羽根を広げて空を飛んでいるのは堕天使。
「それにしても四年か……本来なら堕天使の俺が悪魔領にいるなどあり得ないことだがアジュカには感謝してもし足りんな」
本来ならここは悪魔の領地で堕天使である彼が入ることは許されていない。だが彼の息子の嫁である女がここで暮らしているのだ。彼女からの連絡で四年前に彼の孫に当たる者が生まれたと聞いて彼女の知人である魔王のアジュカを通して許可を求めていたのだ。そして許可がようやく下りたのが今日。四年も掛かったと思われるかもしれないが堕天使と悪魔の仲を考えればたった四年でとも言えなくない。
「あぁ……楽しみだ。そいつは俺のことを祖父と呼んでくれるのだろうか?」
手土産に人間の作った菓子を持ちながら彼は無意識の内に速度を上げる。その時に偶々彼の進行方向にいたグリフォンが跳ねられたが些細な事なのだろう。
そうきて彼女が住んでいる森ーーー使い魔の森と呼ばれる場所に差し掛かった時だった。
森の奥、彼女のいる辺りから巨大な九尾の狐と山伏の巨人が二体現れた。
「あれは……?」
九尾の狐は見た事は無かったが山伏の方には彼は見覚えがあった。遥か昔に行われていた悪魔と天使と堕天使の戦争で変わった目を持つ者たちが使っていた技なのだ。
「もしや!?」
最悪を予想した彼は手土産を投げ捨ててその場に向かう。そしてそこには予想通りの光景があった。
巨大な山伏二体相手に立ち回っている子供と、ボロボロの死に体になりながら九尾の狐と戦っている青い龍の姿。
「ーーー貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
堕天使の力である光を槍の形に変えて山伏二体と九尾の狐にそれぞれ百本ずつ放つ。山伏は防御の姿勢になり、九尾の狐は尻尾を使って槍を防ぐ。
突然乱入してきた彼にこの場の全員の視線が向くが彼はそれに臆する事無く堂々と名乗りを上げた。
「この俺の!!コカビエルの娘と孫に手を挙げて!!生きて帰れると思うなよ!!愚者共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
聖書に名を残す堕天使、コカビエルの参戦である。
「ーーー孫?俺の事か?」
ーーーお前の親父さんの親父ってことだろ?それよりもボサッとしてんじゃねぇよ。
突然現れたカラスの羽根を生やした男性ーーー特徴からすれば堕天使なのだろうーーーは、白髪の出した山伏を吹き飛ばして光の槍を片手に相手を始めた。正直これは有難い。餓鬼道からのブーストがあるとは言っても俺はまだ子供の身体、一対二では倒すのは厳しかったからだ。
「■■■!!」
「あ?五月蝿えんだよ」
堕天使の乱入で動揺した黒髪を殴り飛ばす。拳がそれで砕けるがそれと同時に山伏の身体にもヒビが入った。
「転生して特典もらって自分は強いってか?なんだそれは?創造の産物を実際に使える様になって粋がるのは分からんでもない。だが
殴る、殴る。砕けてなお固く握り締めて山伏に身を守らせている黒髪を殴り続ける。子供の身体である俺に殴られて砕ける山伏を見て黒髪は分かりやすい程に動揺していた。
これそこが餓鬼道の力だと理解出来る。
「斬り裂き舞……!!」
距離が空いた瞬間に全身から生やしていた刃物を射出する。直接黒髪に向かう物があれば弧を描きながら背後から迫る物もある。多角同時攻撃に山伏は防御の姿勢になったがそれは悪手でしかない。
触れた側から刃物の黒炎に焼かれ、切り刻まれる。神器とは俺の魂の一部だと教えられた。つまりそれは餓鬼道の加護を受けている俺の一部であるということ。ならば滅殺の意思が反映されていないはずがない。
『餓鬼道とはこれほどまでか……!!』
「力では俺の知る限り最強の覇道神だ。本人からすればこの程度のことは児戯に等しかろうな。それよりもまだだ」
山伏が黒炎に焼かれ崩れ落ちる物の黒髪は健在だった。手から雷を出しながら俺に向かって突進してくる。即座に刃物を射出するが全て避けられる。そしてその手を突き出されーーー
「フンッ!!」
突き出されたその手を目掛けて拳を振るう。それで拳は更に砕けるが突き出された黒髪の手は弾け飛ぶ。
「■■■■■■■■■■■!!」
弾け飛んだ手を抑えながら黒髪は何かを喚いているが正直耳障りでしかない。そして、さっきのパンチで丁度百発殴った事になる。
「さて……初にして奥義のお目見えだ……!!代償はテメェの命だけどなぁ!!」
魔力が内側から弾け、嵐の様に吹き荒れる。そして魔力が収まった時にはーーー俺の身体は子供のものではなく大人のものになっていた。
「■■!?」
「掌換魔法
黒髪が印を組み口から炎を吐き出してきた。それに対して俺は拳を振りかぶりーーー殴り抜く。炎は掻き消され、空気は爆ぜて、奥にいた黒髪はその余波で吹き飛ばされる。
「滅尽滅相ォォォォォォ!!!!」
一歩駆けてそれに追い付き、残っている力全てを乗せた全力の一撃を顔面に食らわせる。それで黒髪はチリも残さずに消し飛んだ。
「ふん、ザマァみやがれ……」
黒髪がいた場所に向かって中指を立てると同時に魔法の効果が切れて子供の姿に戻る。そして母さんの叫ぶ声を聞きながら俺は意識を失った。
「許さない許さない許さない……!!」
「■■■!?」
死にかけていたところを餓鬼道の赤子として復活したティアマットは九尾の狐の頭の上に乗る金髪と対峙していた。死に体になって全身から発している痛みという危険信号を全て怒りで塗り潰す。
こいつらはヒサメを虐げた。愛しいあの子を、優しいあの子をいたぶって悦に浸っていた。
「許さない……!!」
許さない、湧き上がるのは憤怒。その怒りに呼応する様に身体が活性化しているがその感覚すら怒りに塗りつぶされる。
九尾の狐が尻尾を突き出し、金髪の男が手裏剣のような形に仕立て上げた魔力の様な物を投げつけて来る。
「許してなるものかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
それをティアマットは怒りと共に尻尾の一振りで薙ぎ払う。
餓鬼道の加護というのは特別な能力を与えるものではない。ただ力が強くなり、ただ耐久性が上がり、ただ速くなるだけだ。単純であるが故に強力。地力を底上げする事により餓鬼道の赤子は文字通り格上の存在になる。
「滅尽滅相ーーー消えてなくなれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
ティアマットの口からブレスが吐き出される。龍であるティアマットのブレスは青い炎で元から強力だったがこのブレスとは比べ物にならない。例えるなら小型の太陽としか言えなかった。
その桁外れの熱量を孕んだブレスを正面から受け止め、金髪は九尾の狐諸共に蒸発する。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
だがティアマットは止まらない。何故ならこの場にいたのは三人だから。一人は蒸発したがまだ二人いる。それらがヒサメにこれ以上手を出す前に、存在を消してやろうとしていた。
「ーーーそれまでだ、ティアマット」
だが、それはティアマットの前にいたコカビエルの手によって止められた。目の前に現れたのが義父であるコカビエルだと気付いてティアマットは落ち着きを取り戻す。
「親父、殿?」
「あぁそうだ。もうあの愚物共はいない。白髪の奴は俺が殺したし、黒髪はあのガキが仕留めた」
コカビエルの指差した先には大量の光の槍によって作られた柱が出来ていた。山伏はその柱の一部となって崩れ落ち、白髪は山伏諸共光の槍に貫かれて絶命していた。
そして黒髪の姿は見えず、大人になったヒサメが中指を立て……崩れ落ちた。
「っ!?ヒサメェ!!」
ティアマットは龍から人の姿になって子供の姿に戻ったヒサメの元に駆け寄る。パッと見たところ外傷は見られず、呼吸も安定しているのでただ気を失っているだけだとわかってティアマットは安堵する。
「良かったぁ……」
「ティアマット、そいつがお前の子供か?」
「そうだよ……アタシと、ピースの子供……大切な可愛いアタシたちの子供……」
意識を失っているヒサメの頭を膝に乗せて優しく撫でながらティアマットはそう言った。その顔は母性に溢れていて間違い無く親子の間柄だと見て取れる。
「そうか、そいつがピースの……色々と話をしたいところだがここが安全だとは言い切れない。アジュカには悪いが
「……そうだね、アジュカにはアタシから言っておくよ」
「よし、なら行くぞ」
コカビエルが指を鳴らすと彼を中心に魔法陣が現れる。ティアマットとヒサメもその中に入り、魔法陣が強く輝くとそこには誰もいなくなっていた。
〜コカビエル
ヒサメの父親であるピースの肉親で、ヒサメからすれば祖父にあたる。ティアマットからは名前だけ教えられていたがどんな人物なのか地味に楽しみにしていたりする。そして過去の大戦で今回の様な転生者との戦いを経験している。
〜掌換魔法
連続で殴ることでそれに応じた拳を召喚する魔法。殴れば殴るほどに強い拳を召喚する事ができる。
〜
シンデレラ・フィーバー。百発殴ることで召喚可能な掌換魔法の中で最強の拳。強すぎる魔力の為に身体と精神が活性化して成長する。ヒサメは精神がほとんど成熟していたので身体の成長だけだった。百発限定だが壊せない物は無いとされている。
〜餓鬼道ティアマット
九尾の狐を蹴散らし、一瞬で蒸発させられるだけのブレスを使える。この状態のティアマットなら聖書の神でも蹂躙できる。
〜餓鬼道の加護
異能などを与えるのでは無く、赤子たちの地力を底上げするだけの加護……だが赤子が格下と断じている存在からの干渉を否定したり、再生・不死阻害など異能としか思えない能力が付いたりしている。餓鬼道様曰く、「格下からの攻撃なんぞ食らうわけ無いだろう。超再生?不死?そんなもの殺せば死ぬだろう」とのこと。実に理不尽である。
〜コカビエルVS白髪
大量の光の槍による物量戦で圧勝。コカビエル曰く、「大戦時の転生者と比べるのが烏滸がましくなるくらいに弱い」とのこと。
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