D×D magico   作:鎌鼬

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ヒサメ式狂化トレーニング

 

「ふぃ〜……」

 

 

ライザーの不幸婚約会談の翌日、俺はパーカーに着いているフードを被りながらタバコを吸っていた。

 

 

今いる場所は人間界にあるグレモリー家の所有する別荘。リアス・グレモリーが特訓するとか言っていたので駒王から比較的近く、それでいて人目に付かない場所であるここに来ていた。ここの場所自体は知っていた……というよりも休戦中とはいえ敵対している勢力が人間界(ちゅうりつちたい)に備えている拠点を把握するのは当たり前のことだ。

 

 

タバコを吸いながら鳥の鳴き声や木の葉が擦れる音を耳で楽しんでいると話し声と足音が聞こえてきた。それらから推測する人数は十一人ほど、しばらくすると音の主たちが俺の前に現れた。

 

 

リアス・グレモリー、姫島朱乃、兵藤兄弟にアーシア、塔城子猫に木場祐斗、それに匙と魔王と、兵藤兄弟に似通った容姿の少女にリアス・グレモリーと姫島朱乃に絡まれながら鼻の下を伸ばしている少年。知らないのが二人だな……てか少年の方は何してんの?誠二がゼェハァ言いながら山の様な荷物を背負っているのにそいつは何も持っていない。

 

 

「来たね、リアス・グレモリーと眷属の方々にソーナ・シトリーの眷属の方々」

 

「貴方がソーナが言っていた人かしら?」

 

「そうだよ」

 

 

リアス・グレモリーの性格は魔王の関係者ということで調べてある。そんな彼女に堕天使陣営として接触したところで拒否されることは分かっているのでソーナに仲介を頼んでもらったのだ。ソーナにはそれでも渋られたのだがサーゼクスの妻であるグレイフィアさんがその話に入ってくると了承したらしい。まぁ仲介手数料で匙と魔王も鍛えて欲しいと言われたけど。

 

 

「顔を見せてもらえないかしら?」

 

「それは失礼。一勢力と公式の場で接触していると面倒になるんでね」

 

 

そう言いながらフードを外すと()()()()()()()()()()()()()()()。実は俺の顔は他陣営にあまり漏れていない。悪魔にしてもサーゼクスやアジュカさんら魔王と個人的に交流がある者、天使にしてはガブリエルくらいしか俺の所属と顔を知らないのだ。それは俺が別に〝牙〟を秘匿している訳ではなく、悪魔や天使の上層部が秘匿しようとしているのだ。

 

 

〝牙〟の活動は神器保持者の保護や違法研究の摘発だ。前者はともかく後者はその陣営にとっては恥部に等しい。サーゼクスたち魔王は公開してもいいと考えているんだが歳食っているだけの老害悪魔はそれを拒否、天使に至っては違法研究に関わっていた者らは破門されていて自分たちには関係無いと言い出す。そして老害悪魔やガブリエル以外の熾天使は〝牙〟の情報を隠蔽する始末だ。何を企んでいるのか分からない程度ならまだマシ、中には歪みまくって実験の為に他種族の子供や神器保持者を集めているとか言われる事がある。悪魔はまだ良い、人間界に領地を持っている者以外は基本的に接触することは無い。だけど天使はダメだ。〝牙〟の嘘の噂を信じた狂信者共が爆弾抱えて自爆特攻仕掛けてくる。しかも一言目にはお前らは悪だと、二言目には自分たちは正義だと言いながら。俺やクラウスらがいるのなら対処は楽なのだが、いないと被害は大きくなる。そのせいで〝牙〟の人員は減りまくって結果として少数精鋭みたいになってしまっているのだが。

 

 

話が逸れてしまったが、まぁ折角顔がバレていないのだ。北欧魔術で堕天使の気配を隠してしまえば俺の素性を知らない限りは堕天使と結びつけられることは無い。昨日あった奴らとソーナには黙っている様にも言ってあるし、リアス・グレモリーと姫島朱乃には会っていないのでバレることは無いだろう。

 

 

「初めまして。俺は五月雨、フリーの便利屋だ。ソーナ・シトリーとは個人的な知り合いでな、その伝で今回は頼まれた訳だ」

 

「ふぅん……」

 

 

リアス・グレモリーに品定めされる様な目付きで見られるがバレやしない、そもそも超えてすら無い者に悟られるほど超越者というのは甘く無い。

 

 

「……まぁ良いわ。貴方がここに居られるのはソーナとグレイフィアの顔を立ててよ。私たちは私たちで特訓するから余計なことはしないで貰えるかしら?」

 

 

そして出てきたのは明確な拒絶だった。ライザーは論外としても普通の特訓でフェニックスを倒せるつもりでいるリアス・グレモリーに呆れてしまう。

 

 

超越者なら種族の差などほとんど無いので関係無いが普通ならフェニックスの一族は恐ろしい相手だ。精神力が尽きない限り、または力の差が大きく開いていない限り死なない一族。それだけで恐ろしいと言える。フェニックスの打倒に有効なのは精神攻撃か超火力。可能性があるとすればサーゼクスと同じ滅びの魔力を持っているリアス・グレモリーか赤龍帝である誠二だが普通の特訓でそのレベルまで行けるとは到底思えない。

 

 

「それは分かってるとも。ソーナからも求められれば答える程度で良いと言われているからね。希望者だけ指導するってのでどう?」

 

「それで良いわ」

 

 

試すつもりで注意深く観察すれば俺が呆れているのがわかる様にしたのだがリアス・グレモリーは俺の言葉に満足した様に頷くだけで終わった……本当にサーゼクスの妹なのかこいつは?紅髪からサーゼクスの血縁だと分かるが余りにも酷すぎる。父親は畜生でも孕ませたのか?それとも母親が畜生の子でも孕んだのか?こいつはサーゼクスの血縁を語るには余りにも()()()()()()()()

 

 

「おい、お前」

 

 

リアス・グレモリーの酷さに呆れているとリアス・グレモリーと姫島朱乃に絡まれていた少年がやって来て俺の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「余計なことをするな。俺が焼き鳥野郎を倒すんだからよぉ」

 

 

……あ〜分かった、こいつ転生者だわ。どうせ主要な女性キャラと懇ろな関係になりたいとか思ってリアス・グレモリーの眷属になったんだろうな。

 

 

「ふん」

 

 

言いたいことだけ言ったのか転生者はリアス・グレモリーと姫島朱乃を連れて建物の中に入っていった。あの三人は外しておこう。頭を下げて頼んできたら考えんでも無いが絶対にこっちからは鍛えてやらん。

 

 

「はぁ……さて、ここにいるのは俺からの指導を受ける意思があるとしてだ。そちらの子は?一誠と誠二の身内か?」

 

「あ、妹の誠です」

 

「どうも……」

 

 

うわぁ……なんかこの世の終わりみたいな顔してる。全身から生気が抜け落ちててアーシアと塔城に支えられてなかったら崩れ落ちてそうだぞ。

 

 

「人間だよなぁ、なんでここにいるの?」

 

「グレモリーが俺らのいない時に家に来て誠に悪魔の事を暴露しました」

 

「それで僧侶(ビショップ)の候補とか、部長の眷属の身内だから狙われる可能性があるとかで無理矢理連れてこさせられました」

 

「マジ?」

 

「マジ。因みにアーシアも勧誘されています」

 

「うわ、うわぁ……」

 

 

酷いことしやがるな……裏側事情暴露しておいて半ば脅迫に近い形で勧誘するとか……仮に眷属に出来たとしても叛逆するぞ。それくらい誰でも考えつくのに……あいつはつかないだろうな。

 

 

「最悪こっちで保護すれば人間のままでいられるが……まぁそれは後で話す事にしよう。話は全部後回し、時間が無いから駆け足で行こう」

 

 

全員が背負っていた荷物を降ろさせてフィンガースナップを一度鳴らす。するとこの場に霧が立ち込めてきた。

 

 

「この場にいる全員には兵藤誠とアーシア・アルジェントを除き覚悟があると信じている。例え億を超える挫折を味わったとしても、例え兆の困難が待ち構えているとしても、例え景の危機と対峙させられる事になったとしても、それらを踏破して己が渇望を満たす覚悟があると」

 

 

全員を個別に隔離し、それぞれに存在を分割させた俺の分け身を置く。分けたというだけあって一人一人が弱小な存在であるがこいつらを鍛えるには十分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レッスンだ、木場祐斗」

 

「レッスンだ、塔城子猫」

 

 

木場と塔城にレッスンを与える。こいつらの根幹にあるのは非常に似通っている。復讐という言葉に反応を見せたこいつらに与える試練はーーー

 

 

「「過去の絶望を億度味わえ」」

 

 

 

 

 

 

 

「レッスンだ、兵藤一誠」

 

 

一誠にレッスンを与える。こいつはただひたすらに剣士の極みを目指している。まるで天狗道の理で生まれた剣鬼の様に。至高の剣士を目指す一誠に与える試練はーーー

 

 

「己の起源(はじまり)を否定してみせろ」

 

 

 

 

 

 

 

「レッスンだ、兵藤誠二」

 

 

誠二にレッスンを与える。こいつの願いは守護。クソビッチの計画に巻き込まれて悪魔に転生した誠二だがアーシアを守りたいと赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を覚醒させた。死の恐怖に逃げ出したかっただろうに、痛みで泣き叫びたかっただろうに、それらをすべて押し込めて見栄を張って立ち上がった誠二に与える試練はーーー

 

 

「守りたいと者を奪われ穢され壊される絶望を知れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、匙は組手をすれば良いとして……問題はお前だな」

 

 

神器を出している匙と殴り合いを始めている自分を知覚しながら俺は目の前にいる魔王を視界に入れる。駒王学園の制服に身を包んでいる魔王とか違和感しか感じないものだがそれでも堂々としているから似合っている様に見えてしまう。

 

 

「俺はヒサメ、名前を教えてくれよ」

 

「駒王学園三年、支取蒼那の騎士(ナイト)の甘粕正彦だ」

 

 

そう魔王ーーー甘粕正彦は堂々と胸を張って言ってのけた……マジで魔王と同姓同名かよ。この世界では【甘粕事件】が存在していたし……その子孫?

 

 

「【甘粕事件】との関係は?」

 

「子孫らしいと親からは聞いたが俺は俺だ。夢の力なんぞに頼って己の力で為すことをしようとしなかったあの軟弱者と一緒にしないで欲しいな」

 

 

甘粕が甘粕を否定している……?いや、俺からすれば違和感が酷いが魔王の方も四四八に夢なんかに頼るなと殴られた時には納得していたしありえない話では無いのか?

 

 

「まぁ、精神強度は中々だからレッスンは要らないだろう……お前がどこまでやれるか知りたい」

 

「ーーーあぁ、良いぞ」

 

 

俺の言葉に甘粕はノータイムで軍刀を創り出して斬りかかってきた。体捌きは良し、だがどこと無くぎこちなさを感じる。中身と肉体で齟齬がある様だ。手刀で軍刀の一閃を受け流す。

 

 

「まずは慣れる事が先決だな。てなワケだ、ひたすら戦うぞ」

 

「承知したぁ!!」

 

 

そう言って甘粕は獰猛な笑みを浮かべながら斬りかかってきた。

 

 




〜拠点の把握
して当たり前。つしろしていない方がおかしい。堕天使は天使、悪魔の拠点のほとんどを把握している。悪魔はそこそこ、天使はまったく。

〜五月雨
ヒサメの偽名。これはヒサメ本人が偶々五月だった事とヒサメを漢字で書くと氷雨な事から付けた。専ら堕天使以外で動く時に使っている。

〜フェニックス
精神さえ強ければ恐らく作中最強の種族。だって原作で噛ませなライザーでさえ倒すには魔王級の一撃で消し飛ばすしかないと言われているのだから。原作でリアスがアドバイザーもなしにトレーニングした程度で勝てると考えている理由が分からない。イッセーが禁手に至る事を前提で考えていたのだろうか?

〜リアス・グレモリー
ヒサメからの評価がクソビッチの件でも下がったのにこれで更にガリガリ下がっていく。それはサーゼクスの血縁関係者という色眼鏡があるにしてもあまりにも酷過ぎることから来ている。

〜転生者
ヒサメ、転生者を発見する。だが超越者でないから然程気にしていない。道端の雑草程度の認識。

〜兵藤誠
いつもの様にヒッキーして株式市場を荒らし回っていたらリアスが登場。そして裏側事情を暴露させられて強制的に関わりを持たせられた。これは一誠が強く、誠二が赤龍帝なら妹も凄いのだろうという短絡的な思考から。誠ちゃんは泣いても良い。

〜ヒサメ式トレーニング
取り敢えず精神攻撃から始まる。これは実際にコカビエル監修の元でグリゴリキチーズにやられた経験から。〝牙〟に入るとまずこれで精神をベッコベコにすることから始まる。

〜甘粕弱体化
魂に肉体が追いつかなかったことから弱体化していた。そりゃあ神座世界なら神格化してもおかしくない魂を普通の肉体に入れたらエラー起こすよ……だけど悪魔に転生した事で徐々に肉体が追いつく様になった模様。


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