D×D magico 作:鎌鼬
「(はぁ……どうしてこうなったんだろう)」
オカルト研究部の部室の壁際に立ちながら主であるリアス・グレモリーと彼の婚約者だという青年ドーラ・フェニックスの言い合いを見なが一誠は呆れていた。周りを見ても誠二に木場に子猫は同じ様に呆れているか疲れた様な顔で、朱乃は笑顔のまま。どうして良いか分からずに動揺しているのは監視が目的で人間だが連れてくる様に言われているアーシアくらいだった……いや、堕天使との騒動を終えてからリアスが連れてきた新しい眷族となった戦車の
二人の言い合いは唾を飛ばしながらお互いを罵倒し合うという低レベルなもの。時折出てくる「踏み台のくせに」、や「噛ませがオリ主であるこの俺に〜」などと理解不能な事を言い合っている。リアスは神威をフォローしながらドーラの事を批判し、朱乃も口には出していないがリアス側の素振りを見せている。誠二たちは見限ったのか部屋の隅に集まって子猫が持って来ていた菓子をアーシアが淹れたお茶を飲みながら齧っている。そんな彼らの行動を当たり前だなぁと共感しながら一誠は目の前にいる人物たちに目を向けた。
ソファーの上には金髪の青年が一人、女性の膝を枕に眠っていて、その反対側には白髪の少女が女性に寄りかかる様に眠っている。さらにその後ろには銀髪のスーツ姿の女性が立って控えていた。
リアスの紹介通りの人物なら金髪の青年はドーラの一つ上の兄に当たるライザー・フェニックス、ライザーに膝を貸している女性と白髪の少女は彼の眷族のユーベルーナとアスト、銀髪の女性はリアスの兄の女王であるグレイフィア・ルキフグスだとか。
ライザーとその眷族たちはフェニックスの関係として、グレイフィアは纏め役としてこの場に来ているのである程度の地位がある事は簡単に予想が出来る。だが一誠が注目したのはそんな事では無い。
「(強いなぁ、この人たち)」
一目見て分かった、分からされた。この四人ーーーいや、正確にはユーベルーナを除いた三人か、この部室にいる全員よりも格上であると一誠は感じ取った。例え全員で四人に立ち向かったとしても瞬きの間に、塵も残さないで、殺された事にも気付かないで殺されると予想出来る程に開いた実力差がある。
その強さの形はドーナシークや〝牙〟の代表を名乗ったヒサメに近い。天賦の才を与えられた天才が気の狂う様な鍛錬をしても届かぬ領域……常識の外へとはみ出した理外の存在だと一誠は感じ取ったのだ。
感じた強さで言えばグレイフィア≧アスト>ライザー。だがライザーは酷く疲弊している様子でいるので本来の強さは分からない。これだけ騒がれても平然とユーベルーナの膝で眠っているのが良い証拠だ。
彼らとのや実力の差に悔しがり、そして超えてみせると誓っているとグレイフィアが終わらない罵り合いを止めた。どうやらグレモリー当主とリアスの兄はこんな事になるだろうと予想していた様でレーティングゲームで決着をつけようと提案してきた。
レーティングゲームとは悪魔同士で行われる模擬戦闘の様なものであり、隔離空間で行われて敗北したとしても隔離空間から強制的に退出させられて死者が出ない様になっている。基本的には成人した悪魔しか参加できない様になっているのだが今回は特例という事でリアスとドーラの参加を認めるとの事。
これを聞いて一誠は素直に面白そうだと感じた。今の悪魔社会では娯楽としての方面が強いレーティングゲームだが一誠からすれぼ自分がどれくらい強いのか、そしてさらに自分が強くなる事が出来る格好の場である様に思えたのだ。
それを聞いてリアスとドーラ、そして何故か知らぬが神威がこれに同意。これで10日後のレーティングゲームでリアスが勝てば婚約は見直し、ドーラが勝てば卒業後に即結婚という事になった。だがドーラは当たり前の事であるかの様にライザーを自分側に組み込んでいる。一誠でも勝てないと思わせたライザーを、そしてリアスはそれがどうしたと受け入れている。
リアスの同意を聞いてドーラは鼻息を荒くしながら魔法陣を使って転移、リアスも特訓だと意気込んで神威と朱乃を連れて部室から出て行った。これで部室に残っているのは一誠と関係無さそうにお茶を飲んでいる誠二たち、それと眠っているライザーたちと顔を顰めているグレイフィアだった。
「……申し訳ございません、一誠様。リアスが勝手な事を……」
「あぁうん、気にして無いですよ。もういつもの事だと諦めてますから」
そう、いつもの事だ。リアスは言葉では愛だの何だの語っているがその実、見ているのは自分だけ。貴族としての責務を感じてそれを果たそうという意気込みがあるのなら今回の婚約に反対などしないだろう。
だが貴族としての責務を感じていないかと聞かれれば頷けない。この前あったはぐれ悪魔の討伐で彼女はハッキリとリアス・グレモリーだと、グレモリーの悪魔だと名乗っていた。
何がしたいのか分からない。貴族として扱われたく無いと口にしておきながら、貴族として振舞っている。意味不明、理解不能、だからそういう存在なのだと無理矢理自分を納得させていた。それはもはや諦めの極致に近かったりするのだが、そうでもしないとやっていられなかった。
本来ならストッパーになるはずのリリィだが、彼女の役割はリアスのお目付役。本来の主に呼ばれてこの場に、最低でも一週間は姿を見せられないと言っていた。弁当を作る手間が減ったのだが、同時に癒しになりつつあった彼女が居なくなったので少し一誠は疲れていた。
「ーーーんん……終わったか?」
そしてここで、ライザーが目を覚ました。ハナから話など聞くつもりが無かったらしく、終わったかと呑気に欠伸をしながら起き上がる。
「ドーラ・フェニックス様とリアス・グレモリーが10日後にレーティングゲームにて決着をつける事で同意されました。しかし、ドーラ様は貴方を自陣に加えていました。さも当然であるかの様に」
「あ゛ぁ゛?マジかよ……もしかしてリアス・グレモリーは同意したのか?俺の参加に?」
「はい、迷う事なく」
「……馬鹿だ馬鹿だと思っていたが違っていたな。救いようが無い阿呆だった」
リアスの行動に頭痛を憶えたのか、ライザーが頭に手をやる。ドーラとその眷族だけなら可能性はあった、勝機はゼロでは無かった。だがライザーが参戦するとなると話は変わる。疲弊した段階で一誠に敵わないと感じさせる存在が、10日後に回復してレーティングゲームに参加するとーーー可能性は消え去る、勝機はゼロに落とされる。
ライザーとの差などたかが10日程度の修行をした程度で埋められる差では無い。そんなもので埋められるとしたなら、一誠は敵わないと感じる訳がない。
ライザーの宿す原罪は『傲慢』、それは例え
「ならリアス・グレモリーにも助っ人を認めれば良い。そうだな……眷族の数の差を考えれば二人と言ったところか」
「確かに、それが一番でしょうね……分かりました、こちらからリアスとドーラ様には伝えておきます」
「任せた」
「それでは、私はこれにて失礼します。魔王様にも今回の事をお伝えせねばならないので」
そう言うと一礼し、グレイフィアも魔法陣で転移した。それを見てライザーは携帯を操作しだした。どうやらメールを打っているらしく、しばらくして手を止める。
「それにしてもリアス・グレモリーの眷族ねぇ……期待出来るのは女王と戦車の男と王以外……どういう運してるんだ?」
「それは姫島と八百万とグレモリーがダメって事だよな、どうして?」
少なくとも三人は一誠の目からすれば才能のある様に見えた。今が良くなくとも才能を伸ばせばそれなりの強者に成れるだろうと思っているのだがライザーからすれば違うらしい。一誠の疑問に答える為にライザーユーベルーナの膝から頭を退けて身体を起こした。
「あいつらは
成る程と一誠は納得した。ただ才能があるだけではそれだけで終わってしまう。困難を、苦節を挫折を絶望を、それを認めて知りながらも上を目指せなければただの天才で終わってしまう。ライザーやヒサメたちの様な超えた存在になる事は出来ない。あの三人はそれらを前にしたとしてもごねて否定して目を逸らして終わりそうだ。
「ーーーおうおう、何やら楽しそうな話をしてるねぇ、混ぜてくんないか?」
ライザーの言葉に納得していると誰もいなかった筈の場所から声が聞こえてきた。振り向けばリアスがいつも偉そうに踏ん反り返っている机に足を組んで乗せているヒサメの姿があった。
原作でも思ったんですけどリアスはグレモリーとしてしか見ないライザーと結婚したくないって言いながらグレモリーの家の力使ってますよね?訓練の場所とか。
貴族として扱われたくないなら出奔すれば良いのに。