D×D magico   作:鎌鼬

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戦真舘やってて思いついてしまった。




百鬼空亡

 

 

転生者であった堕天使が悪魔陣営の領地である駒王町で悪魔陣営と堕天使陣営の戦争の引き金を引きかねない事態を解決してから一週間、ヒサメはコカビエルと共に冥界のある場所を訪れていた。荒れ果てた広大な土地は悪魔と堕天使の領地の境界線上にあり、普通ならそこは小競り合いでもありそうなのだがとある理由から悪魔も堕天使も、その土地には手を出そうとしなかった。

 

 

コカビエルは堕天使特有のカラスの様な6対12羽の翼を、ヒサメは堕天使の翼と龍の翼合わせて6対12羽の翼をしまってその土地に降り立つ。

 

 

「ふむ……どうやら俺たちが一番の様だな」

 

「へぇ、まぁ天使連中なら分からないでも無いけど悪魔たちが遅いって」

 

「ーーー嫌々、予定時刻の二時間前に来てるのは早すぎると思うんだけど」

 

 

ヒサメとコカビエルの会話に入って来たのは深紅の髪をした美丈夫。

 

 

「遅いぞサーゼクス」

 

「遅い遅い、本当なら1日前には来てたかったけど我慢してんだぞ」

 

「早すぎるからねそれ」

 

「ーーーヒサメちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

「よいっしょっと」

 

「ぶべらっ!?」

 

 

サーゼクスがヒサメとコカビエルの早すぎる行動に苦笑いを浮かべていると魔法陣が現れ、そこから魔法少女の格好をした美女が現れてヒサメに飛びついて来た。それをヒサメは慌てず騒がずにドロップキックを決めて撃退する。魔法少女の格好をした美女は女性が上げてはいけない声を出しながら顔面を蹴られて吹き飛ばされる。

 

 

「ふぅ……おいコラサーゼクス、なんで社会不適合者(セラフォルー)連れて来てるんだよ。アジュカ呼べよ」

 

「ハハハ……アジュカには別件を頼んでてね、今回の参加には見送って貰ったんだよ」

 

「ふあつく」

 

「いったあ〜い!!もうヒサメちゃんったら!!レディの扱いがなってないんだから!!お姉さん怒るよ!!」

 

 

ドロップキックを決められた美女ーーーセラフォルーは蹴られた顔を摩りながら立ち上がり、ヒサメに詰め寄る。超越者であるヒサメに蹴られても平然としているのは……それは、彼女もまたヒサメと同じ超越者であるから。

 

 

「レディ?レディだと?ハッ!!お前がレディとかショウジキナイワー。例えレディと呼ぶにしてもその後ろにかっこ笑いかっことじを付けるね」

 

「ムキィィィイ!!」

 

「サーゼクス……セラフォルーの格好はどうにかならんのか?」

 

「……幾ら言っても直さないんですよね。彼女の女王(クイーン)もどうにかしようとしてますけど……それでも公式の場ではまともな格好をするようにはなったんですよ」

 

「進歩している……のか?」

 

 

ヒサメのあしらい方が気に食わなかったのか再びヒサメに飛びつくセラフォルー。今度は延髄蹴りを決められて沈黙する事になった。その姿を見てため息をついてしまったサーゼクスとコカビエルを誰が責められようか。

 

 

「ーーーすいません、遅れてしまいました」

 

 

謝罪の言葉と共に現れたのはウェーブのかかったブロンドヘヤーの美女。純白の法衣を着ているがそのスタイルは凄まじく、セラフォルーに劣らない容姿を持っている。そして彼女の背中にはヒサメやコカビエルとは違い、純白の6対12羽の翼が生えていた。

 

 

彼女の名はガブリエル。天界陣営の長である四大熾天使の一人である。

 

 

「やぁガブリエル、遅れたと言ってもまだ予定時刻よりも早いからね」

 

「ふん、だから貴様は若造なのだ。予定はあくまで予定に過ぎん、不足の事態があれば崩れるのが分からんのか」

 

「そうだよ、過去にも予定時刻がまだだからって余裕ぶってた連中のせいで被害が出たって記録が残ってるぞ」

 

「……そうだったね」

 

「あの……セラフォルーの心配は?」

 

「しなくてもいいっしょ」

 

「いつもの事だ」

 

「これでまともになってくれればいいのにな……」

 

「セラフォルー……」

 

 

ヒサメとコカビエルの冷たい反応と、サーゼクスの遠い目を見てガブリエルは思わずセラフォルーの冥福を祈った(死んで無い)。熾天使であるガブリエルに祈られた事でセラフォルーが痙攣しているのだが彼女に悪意は無い……はずだ。

 

 

「ーーーすまん、遅れた」

 

「ーーーヤッホー!!」

 

「ーーー遅れましたか?」

 

 

そこに現れたのは金髪で焔の翼を広げた美丈夫、そして北欧神話の勢力であるはずのロキとロスヴァイセだった。

 

 

「よぉライザーにロスヴァイセ、ついでにロッキ。今しがた揃ったところだから遅れたってことは無いぞ」

 

「おいヒサメ、ついでってなんだよついでって!!」

 

「あぁ?ついでだろうがロスヴァイセの付属品のトリックスター(笑)」

 

「……ふぅ、落ち着け私。これはいつもの事だ。つまりいつも通りに対処すればいいんだーーー」

 

「「ーーーファイッ!!」」

 

 

打ち合わせたかの様にヒサメとロキが同時に叫んで飛びかかり、頭突きをかまして悶絶する。はたから見ればおかしな行動なのだが彼らからすればいつも通りの事なのだ。実際、痙攣しているセラフォルーを除く彼らを見る周囲の目は微笑ましいものでも見る様な物になっている。

 

 

冥界で悪魔陣営、堕天使陣営、天界陣営、そして北欧神話勢力。本来なら対立して、関与しないはずの彼らが一堂に会しているのは何故か?それは()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『ーーー全員警戒を!!()()が其方に向かっています!!』

 

 

この場に念話が飛ばされて焦った様な少女の声が響き渡る。念話には種類が二つほどある。一つは個人にだけに聞こえる様な物、もう一つはスピーカーの様にその場にいる全員に聞こえる様な物。前者の念話は話を漏らさないですむという利点があるが、多少の妨害でノイズが走ってしまう欠点がある。後者の念話はその逆で話が漏れてしまうが大抵の妨害でも問題なく使用することが出来る。

 

 

そして今回使われたのは後者の念話、それに焦った様な声とくれば何が起きたのか、そして何が起こるのか簡単に予想することが出来る。

 

 

その声を聞いた全員の緊張が高まる。痙攣していたセラフォルーや悶絶していたヒサメとロキも悪ふざけを止めて立ち上がり、空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、災厄が顕現した。

 

 

ーーーかーごめかーごめ

 

ーーーかぁごのなぁかのとぉりぃはぁ

 

ーーーいーつ

 

ーーーいぃつぅ

 

ーーーでーあーう(でぇあぁうぅ)

 

ーーーよーあーけーのーばーんーに

 

ーーーつぅるとかぁめがすぅべったぁ

 

ーーーうしろのしょうめんだーあれ(うしろのしょうめんだぁれぇ)

 

 

響き渡るのは幼い子供の様な甲高い声と中年男性の様な低い唸るような声。冥界の澱んでいた空が、縦にひび割れて開く。そのスリットはぬめぬめとまるで女陰めいた卑猥さを晒しながら開かれ、固定し、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

宙に突如として現れたのは巨大極まりない魔性の瞳。その威容から撒き散らされるのは病み爛れて膿み、腐臭を放つ祟りと呪いに満ち満ちたモノ。

 

 

「出たな、百鬼空亡(なきりくうぼう)。冥府の最下層はどうだったか?」

 

 

それを真正面から浴びて威風堂々と、ヒサメはその魔性の瞳に語りかける。返事など返ってくるとは考えてもいない。アレに理性や知性などを求めるのは間違っているから、これは独り言に近い。

 

 

それ故に、返ってきたのは血塗れの狂笑から始まった暴虐。

 

 

ーーーぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ

 

ーーーきゃァァきゃっきゃっきゃっきゃァァァァァァ!!!!

 

 

空から隕石の如く落ちてきたのは百を優に超える腐敗した腕。そのどれもが車を鷲掴み出来るほどの巨大さを誇り、青黒く変色したそれは地面に激突するのと同時にひしゃげ、粘った腐汁と悪臭を飛び散らせる。

 

 

手が落ちた先にいたのはヒサメたち。百鬼空亡と呼ばれたそれに対しては警戒していたであろうが突如として現れた天災を防ぐ手段はまともな理の中には存在しない。

 

 

百鬼空亡の存在は災害と同意義である。聖書の神の死後に突如として現れた百鬼空亡と呼ばれた災害の正体は神格を奪われ、存在を陥れられ廃神と成った龍神。自然を司っていた龍神は神として崇め、祀られていた日々を忘れられずに堕ちた。清らかであったその身は腐れ落ち、先の世を見通していたその眼は何も見ず、ただ再び神として崇められる事を夢見て人々の想像している神の如くに振舞っている。

 

 

古来より神とは祀り、そして鎮めるものとされていた。何故なら当時の人々にとっては神とは自然そのものに他ならず、害をもたらされれば神を畏れ祈りを捧げ、恵みをもたらされれば神を敬い祈りを捧げていたのだから。

 

 

故に、誰も百鬼空亡に敵う存在などありはしない。空亡に歯向かうことは大災害に歯向かう事と同意義であるから。如何に悪魔であろうと、堕天使であろうと、天使であろうと、大災害(なきりくうぼう)の前では矮小な存在でしかない。寝返り程度の行動で押し潰される虫でしかない。

 

 

故に、百鬼空亡も神の如くに振る舞う。気紛れで破滅をもたらす破壊神としての在り方を持ってして。空亡からすれば破滅こそが害であり、何もしない事こそが恵みである。だからこそ空亡は冥界よりも奥底、冥府の最下層にて封印をされていた。今の世に空亡が解き放たれれば間違いなく取り返しもつかない被害をもたらすから。だが、その封印も完璧では無い。空亡ほどの存在を封ずるとなれば如何に堅牢な封印もいずれは壊れる。だから定期的に封印を解除し、新たな封印を敷くまでの時間稼ぎをそれぞれの勢力は買って出ているのだ。新たな封印が完成するまでにかかる時間は24時間、つまり彼らは24時間もの間、空亡を足止めしなければならない。

 

 

百鬼空亡に逆らえる者など、まともな理の中には存在などありはしないーーーそう、()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ーーー臭えぞ、卑しい化け物風情が」

 

 

落ちて積もった腕が爆ぜる。空亡がもたらした不浄を吹き飛ばし、現れた空間にヒサメたちが無傷で立っていた。

 

 

そう、まともな理の中にある者では大災害(なきりくうぼう)に逆らえない。そして理を超えた者ーーー超越者は、理の外にあるが故にその法則には当てはまることはない。

 

 

「ーーーアクセス、我が(シン)

 

 

初めに動いたのはライザーだった。真性の魔性たる空亡の眼下にあっても堂々とした、どこか傲慢にも見える態度を崩そうとせずに淡々と詠唱する。

 

 

「来れ無価値の炎、罪悪の王。原罪浄化せよ」

 

 

現れたのは原罪を浄化する(焼き尽くす)、この世の物質とは逆の波動を放つ腐炎。その性質のために例え不死であろうが、理論上殺すことができない存在であろうが一方的に蹂躙し、一瞬で腐敗させ、魂おも塵とし殺す負の奔流。

 

 

無価値の炎はライザーのみの技ではなく、だからと言って誰にでも使える技ではない。無価値の炎を扱う資格があるのは人類の始祖であるアダムの犯した罪、原罪(オリジナル・シン)を持つ者。人類の始祖が犯した罪であるがそれを保持している者が人間だとは限らない。過去の魔王らの中にも原罪を持っていた者がいると伝えられているし、ライザーも『傲慢』の原罪を待っている。

 

 

ーーー旨そげな夢をくれろぉぉぉ……!!

 

ーーーその目をわいにくりゃしゃんせ

 

 

対超越者ともいえる無価値の炎であるが空亡の前では無力の炎に過ぎない。一瞬だけ空亡の瞳の周囲が揺らいだかの様に見えーーー

 

 

ーーー滅・滅・滅・滅

 

ーーー亡・亡・亡ォォォォ!!!!

 

 

魔震によって掻き消され、そのままの威力を持ってヒサメたちに降り注ぐ。

 

 

「がぁぁぁ……ッ!!」

 

 

肢体が潰され、捻れ、ひしゃげ、千切られ、踏み躙られる。力を持たぬ者なら百は、持つ者だとしても十以上は殺される暴威を直撃し、ヒサメたちは再生する。この場に集められた全員が超越者。であるなら、精神が折れぬ限りは肉体的な損傷など取るに足らぬ問題にかならない。

 

 

ーーー痛い?痛いィ?苦しい?悲しいィ?

 

 

見通しが甘いとしか言えない。確かに超越者であれば、空亡に逆らえないという法則に当てはまることはない。だが敵う道理も無い。彼らに出来ることは抗うことだけ。大災害(なきりくうぼう)を前にしても折れることなく牙を向け、そして蹂躙されるだけだ。

 

 

「この…ッ!!」

 

 

次手を担ったのはガブリエル。手に集めた超超高密度の光を槍の形に纏め上げ、光の速さを持って放たれる。その威力はまごう事なく魔王級、国一つを滅ぼせるだけの威力を持っている。

 

 

だが、それすらも空亡には届かぬ。それよりもガブリエルに不幸が襲い掛かる。

 

 

この一撃にて、空亡はガブリエルの存在を捉えてしまったのだ。

 

 

ーーー辛い?悔しいィ?

 

ーーー愛しい?憎いィ?

 

ーーー痛い痛い痛い痛いィィィィィィィィ!!!!キャァァァァ、ぎゃぎゃぎゃはァァァァァァ!!!!

 

 

ガブリエルに向かって再度落ちてくる腐乱した巨腕の豪雨ーーー否、それだけではなかった。大百足が、山犬が、白骨化した馬が大蛇が、百鬼夜行が次から次へとガブリエルに向かって雪崩れ込む。

 

 

辺りは地獄絵図となる。本来ならば蹂躙する側である超越者(ガブリエル)が蹂躙されている様は勿論だが、巨腕は味方であるはずの百鬼夜行までも躊躇せずに握り潰しているから。

 

 

空亡からしてみれば、呼び出した百鬼夜行は味方などでは無くただの遊び道具に過ぎない。気紛れに呼び出して、思うがままに壊す、それだけの存在。だが、それだけの存在であってもこの場にいる者らには十分過ぎる脅威になるのだが。

 

 

空亡を背に疾走する百鬼夜行は空亡の命に従っているのでは無く空亡から逃げ出そうとしているのだ。圧倒的な暴威から少しでも遠くに逃げたいが故の全力疾走。百鬼夜行の群れに呑まれ、全身が一寸刻み五分刻みにされる。目玉を抉られ舌を抜かれ、耳を毟られ手足は末端から千切られる。

 

 

「ガァッ、アァァァァァァァ!!!!」

 

 

他の者らはそれだけでも自分を保つのに手一杯だというのにガブリエルは巨腕の豪雨にも襲われる。空亡は若い女を認識すれば、一切合切を無視して蹂躙し殺し続ける。何故なら空亡にとって若い女は贄であるから。まだ神格を有していた頃に、空亡(かみ)の怒りを鎮めようと捧げられていた贄を連想させるから。

 

 

だがそんな事はガブリエルにとっては些事でしか無い。秒よりも短い間に百鬼夜行によって切り刻まれ、巨腕によって潰され、再生する。暴威から抜け出せる事ができず、手助けも期待出来ない。ただこの悪夢の様な時間が過ぎ去る事を今は亡き聖書の神に祈る事しか出来ない。

 

 

ーーーオン・コロコロ・センダリマトウギソワカ

 

ーーー六算祓エヤ滅・滅・滅

 

ーーー亡・亡・亡

 

 

だがそれは叶わない。空亡が存在している限りこの悪夢は終わる事は無い。

 

 

「ーーー唵 有摩那餓鬼(おん あろまやがき) 数万騎 娑婆訶(すまんき そわか)唵 毘羅毘羅欠(おん ひらひらけん) 毘羅欠曩 娑婆訶 (ひらけんのう そわか)

 

 

理の内にあるのなら空亡には逆らえない。

 

 

理の外にあろうとも空亡の暴威に押し潰される。

 

 

なら、結論は出ている。百鬼空亡に敵う存在、それは空亡と同格にある者だけだ。

 

 

下劣畜生(げれつちくしょう)――邪見即正(じゃけんそくしょう)道ォォ理 (どぉぉり)

 

 

低く、唸る様な祝詞と共に黒の波動が放たれる。その正体はヒサメの殺意と餓鬼道の親愛の奔流。黒の波動に染め上げられた百鬼夜行と巨腕はヒサメの殺意によって斬り刻まれ、餓鬼道の親愛によって増幅した圧により外から軋ませひしゃげさせられる。

 

 

百鬼夜行と巨腕から解放されたガブリエルは消耗からかゆっくりと身体を再生させながら倒れる。肉体的な損傷は再生出来るのだが精神的な消耗まではそうはいかない。待ち望んでいた空亡からの解放に緊張の糸が切れたのかガブリエルは弛緩して倒れるーーー

 

 

「おっと、大丈夫か?」

 

 

ーーーその直前にヒサメによって支えられた。ヒサメも怪我が酷く、身体の半分が無くなっている。それでも精神的な消耗は見られないのは空亡など取るに足らぬ存在を知っているからだろう。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

「しばらく休んどけば?まだまだ先は長いんだし、こっちも役得だし」

 

「役得……ッ!!」

 

 

ヒサメにそう言われてガブリエルは現状に気づいた。今のガブリエルはヒサメに寄り掛かっている状態、ガブリエルの豊満な胸がヒサメに押し付けられているのだ。

 

 

「ちょっ!!こんな時にふざけないでください!!」

 

「ちぇ……まぁこんな時だからふざけないとって考えなんだけどね。アレを前にして張り詰めっぱなしじゃいつか切れるからーーーおい!!爺さんに魔王たちよぉ!!いい加減にしたらどうなんだ!!」

 

 

顔を赤らめて離れるガブリエルに残念そうにしていたヒサメだが空亡の遊びと黒の波動によって出来上がった百鬼夜行の死体の山に向かって叫んだ。そこはさっきまでコカビエルとサーゼクス、セラフォルーがいた場所だ。反応が無いので最悪の事態を考える者もいるだろうがヒサメはそうは考えていなかった。

 

 

そして百鬼夜行の死体の山が爆ぜる。そこから現れたのはほぼ無傷のコカビエル、サーゼクス、セラフォルーの姿。細かな傷は再生している途中だがヒサメやガブリエルの様に大きな損傷は見られない。

 

 

「んん〜!!やっぱり実戦は良いね!!デスクワークで鈍ってた身体を動かすには!!」

 

「動けよサーゼクス、机仕事だけが上に立つ者の役目では無いのだぞ」

 

「いつも元気一杯なセラフォルーちゃんには死角は無いのだ☆」

 

「貴様はもう少しフットワークを重たくしろ、ツイッターで貴様の女王が嘆いていたぞ」

 

 

コカビエル、サーゼクス、セラフォルー、彼らはヒサメやライザーが生まれる以前から超越者として生き続け、そして三大勢力が衰退する原因となった大戦を生き残った猛者である。空亡の遊び程度で折れる様な心を持ち合わせてなどいない。

 

 

「あーーーあぁーーーふぅ、やっと治ったか」

 

「やー死ぬかと思った」

 

「ライザー様はともかくロキ様はこの程度では死なないでしょうに」

 

 

ライザー、ロキ、ロスヴァイセも再生途中であるものの現在。軽口を叩きながら立ち上がり、見下ろしている空亡を見上げる。

 

 

空亡を倒すなど奇跡でしか無い。そもそも空亡は倒してはならぬ存在なのだ。

 

 

空亡の正体は堕ちた龍神、その龍神の正体は星の血流とも言える地脈が具現化した存在。もしも奇跡が起こり、空亡を倒すことが出来たとしよう。そうした瞬間、この星は死ぬ。空亡は倒してはならなかったから封印するという方法に出るしか無かったのだ。

 

 

そんな絶望的ともいえる状況で心が折れた者は誰も居らず、古びた護符が土色の地肌をした全身に貼り付けられており、赤色の長髪の隙間から見える一つ目の姿を取った空亡を睨み付け、

 

 

「ーーー行くぞ」

 

「「「「「「「ーーーおう!!!!」」」」」」」

 

 

絶望の象徴である龍神に、彼らは立ち向かうのだった。

 

 

 





空亡ちゃん大暴れ。なおこの空亡は夢から現れたのでは無く現実に元々いた存在。

正体は聖書の神の死後に暴走してしまったシステムにより神格を奪われて堕とされた龍神。さらにその正体は地脈なので倒した瞬間に地球が死ぬ。

ヒサメたちの役目は封印の準備が整うまでの間、時間を稼ぐこと。分かりやすくいえば囮、悪く言えば生贄である。本音はやりたく無いのだがやらないと空亡が暴れてとんでもない被害が出るのでやらなくてはならない。

ひっそりとライザー強化。許される……許されるはずだ……空亡出しているならライザー強化ぐらいは……ッ!!



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