D×D magico 作:鎌鼬
「おうヒサメ、どうだった?」
「問題無いとは言えないけどとりあえず全員無事だよ」
出迎えてくれたのは医療班とアザゼル。面倒ごとばかりで問題は山積みだが目的であるレイナーレたちの救出は達成出来たので良しとしよう。
ドーナシークとカラワーナとフリードは医療班にわっしょいされながら医務室に連れて行かれる。“牙”のメンバーは眠たそうにお疲れと言いながら自分の部屋に向かっている。レイナーレは……小さく震えながら俺の後ろから抱き付いている。
「えっと……レイナーレ?」
「ほぉん……ふぅん……へぇ……」
「おう厨二総督、変な音出すのやめーや」
「成る程成る程……ヒサメ、お前今日一日レイナーレの面倒見てやれ」
「……はぁ?」
何言ってるんだこの駄ザゼルは。厨二拗らせて頭が逝ったのか?
「いやいやあれだよあれ、メンタルカウンセリングだっけ?脅されてギリギリだったレイナーレの為に仲の良かったヒサメを側に置いてやる、おかしなことじゃねぇだろう?」
「……言いたいことは分かるけど」
それって同性の方が良いんじゃ無いか?ユーリとか、声かけたらロスヴァイセだって来てくれると思うんだけど。
「じゃあそうしろ、これ総督命令な!!代わりに“牙”の仕事休みにしておいてやるからよ!!じゃ、俺仕事あるから!!」
言いたいことだけ言って逃げやがったな駄ザゼルが……!!
だけど、レイナーレが求めてるのは俺だろうし、アザゼルの言ってることにも一理あるし……しゃーなしか。
今の状態のレイナーレを歩き回らせることをさせたくなかったから転移の魔法陣で俺の部屋に飛ぶ。俺の部屋はベッドに仕事用の机、後は娯楽用の本棚とテレビに簡易キッチンと冷蔵庫が置いてあるシンプルな物になっている。
「お茶でも淹れてやるから適当に座ってくれ」
「……」
レイナーレがベッドの上に座ったのを確認してからヤカンに水を淹れてコンロに置く。基本的に俺が使っているものは人間の製品だ。使い慣れているのもあるが堕天使や悪魔の作った物だと作りが雑に感じてしまうしよく分からない機能が付いてるんだよ。なんで冷蔵庫に加熱機能が付いてるんだよ、意味分からんわ。
ティーパックを入れたカップに湯を注いで暫く待てば紅茶の完成、俺もレイナーレも甘党なので砂糖は少し多めに淹れて牛乳を入れる。
「ほい」
「……ありがとう」
ミルクティーを手渡すとレイナーレは両手でそれを受け取り、チビチビと飲み始めた。それを見て俺もレイナーレの隣に座ってミルクティーを飲む。
「……美味しい」
「それは良かった」
「美味、しい……!!」
すると、ミルクティーを飲んでいたレイナーレが泣き始めた。理由はミルクティーを飲んで生きていることを実感出来たからだろう。
今回は本当に運が良かった。もしあの時メールが届いていなかったら、メールを出す隙が無かったら、ソーナからの連絡が遅れていたら、魔王が俺たちに活動の許可を出してくれなかったら、あのクソビッチが回りくどいことをせずにレイナーレを消そうと考えていたら、誰かが欠けていたかもしれない。一歩間違えれば自分が死んだり、誰かを死なせてしまうかもしれないギリギリの綱渡りを終えて生を実感して泣いてるのだ。
その気持ちはよくわかる。俺もアザゼルのよく分からない実験に付き合わされた後で母さんや爺さんに抱きしめられた時に感じるから。
これを邪魔するのは心苦しいので泣き止むまで頭に手を乗せて撫でてやる事にする。こういう時には誰かに触れられてると安心するものだ。これ実体験な。
時間にすれば10分程、静かに泣いていたレイナーレはようやく泣き止んだ。目を腫らせて人前には出られない顔だがどこかスッキリしているように見える。
「落ち着いたか?」
「えぇ、ありがとう。みっともないところを見せちゃったわね」
「クカカッ!!美人は泣き顔も綺麗だからな、レイナーレの綺麗な泣き顔見られて役得だよ」
美人は何をしても綺麗なんだと俺は思っている。実際レイナーレやロスヴァイセが笑えるような醜態を見せて若いながらも綺麗だなぁと感じてるし。まぁアザゼルに言ったらドン引きされたけど。
「ふふっ、そう言ってくれて嬉しいわーーーねぇ、ヒサメ。一つお願いがあるのだけど」
「ん?何々?」
「……私を、抱いてくれないかしら?」
「了解」
抱いてくれと言われたので空になったカップをキッチンに置いてレイナーレを抱きしめる。華奢な身体がスッポリと収まってレイナーレの温もりと少し震えているのが伝わってくる。立ち直ったように見えても完全には吹っ切れていないらしい。
「……いや、これはこれで嬉しいのだけどそうじゃ無いわ」
「……抱きしめてって意味じゃなくて抱いてっていうと……そういう事か?」
「……」
最低だと思いながら聞いてみるとレイナーレは耳を赤くしながら俺の腕の中で頷いた。
「生きて帰れて自暴自棄になってる……とかじゃ無いな」
「もう……貴方の事だから私の気持ちに気付いてるんでしょ?」
「……予想は出来ても断言出来ないからな」
「声、震えてるわよ?」
レイナーレの気持ちには気付いてる、だがそれが外れてたらと思うと恥ずかしくて言えないのだ。残念ながら前世も含めて彼女無しだったんだよ!!悪いかぁ!!
「ヒサメ、私は貴方のことが好きです。愛しています。だから、抱いて、私に貴方を刻み込んでください」
羞恥からか顔を赤くしながら、レイナーレはハッキリと言ってくれた。
「あ〜…気持ちは嬉しいけど……その……ねぇ?」
「何を言っているのかはわからないけど言いたいことは分かるわ。他の娘たちのことね?」
「そうです……」
レイナーレから好意を向けられていた事には気付いていたのだが、実は他にも俺に好意を向けている奴等が居るのだ。奴等で気付いたかもしれないけど複数人。レイナーレを押し倒したいという気持ちはあるのだがそうすることで彼女たちを傷付けるのでは無いかと躊躇している自分もいるのだ。ヘタレ?あぁそうだよ、蔑めよ。
「それなら心配無いわよ」
「ーーーえ?」
「みんなで集まって話し合いの結果、『ヒサメが誰と致しても問題無し!!みんなで愛されよう!!』って事になったから」
「ーーーはぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
のうがふるえた。
だって俺の知らないところで話を進められていた挙句にハーレム気づけやオラァ!!ってなってるんだもの。
「ちょいちょいちょいちょぉぉぉぉい!!!!それで良いのかよ!?」
「私もみんなも納得してるわよ。だってーーー貴方、寂しがり屋ですもの」
普通なら不快に感じるだろう言葉だが、不思議とそれは胸の中にストンと落ちていった。レイナーレに言われて気がつく、確かに俺は寂しがり屋なのだ。大切だと思う者がいなかったら寂しいと思うし、みんなで居ると心が満たされる。
……ははっ、餓鬼道様のことを馬鹿には出来ないな。あの人の世界で生まれた俺も餓鬼道の理の赤子ってわけか。
「誰か一人を大切にしてしまえばきっとヒサメは寂しがる……だからみんなで愛し、愛されようってわけね。合法ハーレムよ、喜びなさい!!」
「台無しじゃねぇかよぉ!!」
良い感じにしんみりしてたらレイナーレからの爆弾で台無しになってしまった件について。もうわけがわからないよ。
「……はぁ、つまりレイナーレとそういう関係になったとしても良いって事だよな?」
「そういう事ね。だけど、他の娘たちが自分の気持ちを貴方に告げた時にはーーー」
「答えてやれと、分かりましたよ」
はっちゃけたからかレイナーレの身体から伝わる震えは無くなっていた。その代わりに心臓の鼓動が伝わる。平時よりも早く脈打っているレイナーレの心臓。それだけで緊張しているのが伝わってくる。
あ〜あ……女にここまでお膳立てさせてもらえるなんで男冥利に尽きると喜べば良いのか、男のプライドを傷付けられて悲しめば良いのか……ま、そんなことは後で考えるとしよう。
今は、俺の腕の中にいる愛しい彼女に応えなければいけない。
「ーーーレイナーレ、俺もお前が好きだ」
「ーーーふふっ、ヒサメの事だからもっと捻った言い方をすると思っていたけど、ストレートに言うのね?」
「真っ直ぐ伝えられたのならば真っ直ぐ返さないと失礼だろうが」
あ〜あ、ヤベェ、顔真っ赤だろうな。いつとならレイナーレの言ってたみたいに捻った言い方をしていたかもしれないが今は興奮と緊張で頭が回らないから無理だ。さっきの返事だって結構いっぱいいっぱいだったりする。
「ヒサメ……」
か細い声でレイナーレが俺の事を呼んで、顔を上げた。目は閉じられていて、何を求められているのかすぐに分かる。
だから俺も目を閉じて、レイナーレの唇に唇を当てた。
レイナーレ大勝利、それ以外の言葉が必要かね?
レイナーレ+αはヒサメの事をよく理解しています。餓鬼道の赤子である彼は大切な存在を蔑ろに出来ない、だから一人と恋人になって親密な関係になってしまうことで今の関係が壊れることを恐れていました。
レイナーレ「そこで私たちは考えたッ!!発想の逆転ッ!!一人では無くみんなとそういう関係になれば良いのだとッ!!」
諸葛レイナーレ爆誕の瞬間である。他のヒロインからも「その手があったかッ!!」と絶賛されました。みんなヒサメのことが好きなんです。
この後ヒサメとレイナーレはドッキングしました。R18……どうしましょうかね?