D×D magico   作:鎌鼬

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勝負?いいえ、駆除です

 

 

耳障りな雑音と共に襲い掛かってくるのは千を超える魔法。形態からして……恐らくはネギまか?魔力を過剰に供給することで無理矢理に威力を引き上げた低級の魔法の嵐が俺ごと結界の中にいる者たちを狙って降ってくる。

 

 

それを俺は反撃するでもなく、防御するでもなくーーーポケットに手を入れたまま、正面から受け止めた。悪魔陣営からは驚きの声が聞こえてくるがレイナーレたちは平然としている。その理由はーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

魔法の嵐が通り過ぎた後の俺は無傷、擦り傷どころか服に綻び一つ付いていない。そのことで間が空いたのは一瞬、だが次の瞬間には万を超える雷が降り注いだ。それすら俺を傷つけることは叶わないのだが。

 

 

桃色、黄色の魔力が俺を拘束し、動けない様に見える俺に向かって剣群が降り注ぐ。リリなのの魔法と……脆さから見るにFateの投影魔術か?古今東西の聖剣魔剣名刀妖刀が絶え間無く降り注ぎ、稀に龍殺しの属性を持った物がぶつかるがやはり効かない。

 

 

転生者たちは弱くは無い。転生特典として与えられたスキルに副産物らしき常人を遥かに超える魔力量から強者としての位置付けは中級クラスは硬い。事実、上位百名の名を挙げるならその中の大半が転生者だったりもする。

 

 

それでも俺には届かない、それは純粋に格が違うから。俺を含めた超越者という存在は文字通りにこの世界の生物の枠組みから超越した者。超越者に対抗出来るのは超越者だけ、小細工奇策で埋められる差など超越者には存在しない。

 

 

「断空拳ーーー!!!!」

 

 

剣群の合間を縫って接近してきた若草色の少女が俺の腹に必殺らしき一撃を叩き込んだ。ズシンと、何か重たい物が当たった程度の感覚、痛みはーーー皆無。痛みが無いのは当たり前だが当たったと認識出来るほどの感触を与えられたことに驚いた。先程言った通りに超越者に対抗出来るのは超越者だけ、それ以外の者の攻撃など無意味。だというのに俺に当たったという認識を通したから。

 

 

「ふむ、攻撃の中では攻撃らしい攻撃よ。痛く無いけど」

 

 

そう言って桃色と黄色の拘束を無視して動き、少女の頭に手を乗せる。音にすればポンっという擬音が付く程度の物だったがーーー少女は一瞬で押し潰されてミンチになる。

 

 

その光景を見た転生者の中に動揺が走る。が、即座に立て直し動き出す。確認の為にしてみたがやはりあの中には指揮官の立場の転生者がいる。そうでなければ我欲で動き、利害の一致のみで手を組んでいる転生者たちがあそこまで統率の取れた行動が出来るはずがない。まぁ、もう手は打ってあるのだが。

 

 

構えた転生者たちだが一向に攻撃する気配が見られない。広がる動揺、転生者の内の一人が前の方にいた転生者に声をかけた途端ーーー声をかけられた転生者が真っ二つになる。あの転生者が指揮官だということは一回目の攻撃の時から察しはついていた。なので少女が攻撃をした時に黒龍の爪牙(アブソリュート・エッジ)を飛ばして斬っておいた。転生者たちからしたら速すぎて気付かなかったらしいが俺からしたら不服しかない。何故なら飛ばした刃を俺が目で追う事が出来たから。最終目標は俺でも確認出来ない速度で撃ち出すこと。

 

 

『今でも十分に速いぞ。ピースには劣るがな』

 

「爺さんたちに見てから反応される様じゃ論外だろ」

 

 

ヴリトラはそう言うものの俺の目標としている高みからすれば全然駄目だ。だって爺さんやアザゼルやアジュカは今出せる最速で撃ち出した刃を見て反応してカウンターしたり避けたり出来るから。父さんは知覚外の速度で撃ち出していたから俺はまだまだなんだよ。

 

 

指揮官の立場の転生者が真っ二つになったことで転生者たちの動揺は拡散する。元々利害の一致で集まっていた奴らだ。確固たる信念を持っていて集った連中なら一枚岩で指揮官が居なくなったとしてもその穴を埋める様にして動くことが出来るだろうが……あいつらは違う。利害の一致だけで繋がって一先ずの指揮官を立てただけの烏合の衆。自分の欲だけを優先してそれが叶うからという理由だけで従っていた奴らは纏まることを知らない。事実、指揮官の立場の転生者が死んだことで転生者たちは動揺し、纏まりが無くなってバラバラに攻撃してきた。

 

 

最初の集中従って攻撃でも無傷だったのにバラバラに攻撃されても効くはずがない。だが効かないといっても気にならない訳ではない。ウザったくなってきたのでいい加減に叩き潰す事にする。

 

 

バラバラの攻撃を受けながら転生者たちよりも高くに飛び上がる。足を頭よりも高くに持ち上げーーー

 

 

「ーーー滅尽滅相」

 

 

軽く振り降ろす。その一動で空間が歪み、大気がひれ伏す。大気の動きに巻き込まれた転生者たちは弾丸の様な速度で墜ちて行き、例外無く地面と衝突して水風船の様に弾けた。恐らくは転生者たちも、悪魔陣営の奴らも何が起きたのか理解出来ていないだろう。出来ているのは“牙”の面子とドーナシークとカラワーナ、あとはフリードと匙くらいか。挙げた四名だけが何が起きたのかを確信している。俺がしたことは()()()()()()()()()()()()()()()、それだけだ。凄いことの様に思えるだろうがこの位なら超越者連中なら普通にやってのける。

 

 

ともあれ、これで目障りな転生者たちは死んだ。残っているのはクソビッチだけだ。そうして俺の後ろで震えているであろうクソビッチに振り返ろうとした時ーーー全身に僅かながらの圧がかかった気がした。

 

 

「冗談じゃない……冗談じゃないわよ……!!こんなところで死んでたまるものですか!!」

 

 

体感からすれば水に潜った程度の圧だがギチギチと空間が軋んでいる音が聞こえるところから相当な圧がかかっていると思われる。首だけをクソビッチに向けてみればそこには足を震わせ、股の辺りを濡らし、目の中に怯えを浮かべながら俺を睨んでいるクソビッチの姿があった。

 

 

「死ね……ッ!!」

 

 

感じたのは鈍い痒み、何をされたのかは見ればわかる。空間断裂を使って俺に攻撃してきたのだ。成る程、特典は空間操作と言ったところか。

 

 

「死ねッ!!死ねッ!!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねーーー死んでしまえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

絶え間無く放たれる空間断裂。空間断裂の特徴としては対象を切るのではなく、空間を断裂させる過程を得て対象を切断するという結果がある事。空間そのものを切る事で対象の硬度を無視して切れるのだ。

 

 

空間操作という応用の効く特典にどうやれあのクソビッチはそれなりに優秀な類いだったらしく、断空拳とやらを使った少女並みにだが俺に攻撃を通している。もしもあの二人がまともな性格をしていて、向上心のある奴なら超越者に至れる可能性があったかもしれない。

 

 

だが、それは所詮はもしも(if)の話でしかない訳で。先程潰した少女は無論、あのクソビッチにも先などあるわけが無い。

 

 

全身に纏わりつく様な痒みがウザったくなってきたのでブンブンと鬱陶しい空間断裂を身体を軽く震わせる事で砕いてやる。それを見ていたクソビッチの顔は絶望一色である。おいおい、もちっと頑張ってみせろよ。悪魔陣営見てみろや、日本刀持ちと人間讃歌の魔王様は目をキラキラさせてこっち見てるぞ。

 

 

絶望して失禁しているクソビッチに指を向けて、空間をなぞる。その一動だけで、さっきまでクソビッチが必死こいてやっていた空間断裂が起きてクソビッチの汚い足を切断するーーー直前で、割って入ってきた黒衣の男によって空間断裂が切り裂かれた。

 

 

「ーーーお待ちくださいヒサメ君、殺さずに引き渡すのでは無かったのですか?」

 

「ーーーDr.ジャッカル、赤屍蔵人か」

 

 

現れたのは運び屋として名を知られている人間の超越者Dr.ジャッカルこと赤屍蔵人。最強は誰かという討論をすると必ずと言っていいほどに名前が挙がる人物である。

 

 

「誰からの依頼で内容はどんなのだ?」

 

「アザゼルからそこの堕天使を魔王の元まで運んで欲しいと頼まれましてね。その過程でもしかしたらと思ったのですが……どうやらこの依頼を受けて正解の様でしたね」

 

 

こいつは仕事の内容では無く過程の方を重視している。今回の依頼での目的は転生者と戦えるとでも思ったのだろう。気に食わなかったら問答無用で殺しにかかるキチガイでもあるが。

 

 

ちなみにクソビッチは赤屍が現れた瞬間に気に当てられて気絶して地面に墜落している。

 

 

「そうか……残念だが俺がここに居られる時間は限られてるんだ。悪いが一回だけになるぞ」

 

「フフッ……構いませんよ?例え一回だけでも楽しめれば良いのですから」

 

 

そう言って赤屍は赤い剣を手にしてダラリと下げる。一見すれば無防備に見えるがこいつは剣士じゃ無いから構える必要なんてない。

 

 

「武具など邪推ーーー真の魔性は目で殺す!!!!」

 

 

右目にヴリトラの呪詛を集めて一気に解き放つ。そしてーーー俺の視界に入った存在が例外無く死んでいく。モデルにしたのはバロールの魔眼、型月で有名な直死の魔眼の原型となった死の眼。見えない筈の死を視覚させる等という生易しいものでは無く、その眼で見た存在すべてを死なせる。例え神々であっても殺すその魔眼は死の概念の頂点にあるもの。まぁ俺のはヴリトラの呪詛を眼に集めて放つというバロールの魔眼に比べればお粗末な物でしかない。名付けるならヴリトラの呪眼といったところか。

 

 

俺の眼に見られた存在は呪い殺される。そんな死の視線を受けて赤屍はーーー剣を振るった。ヴリトラの呪詛がその一振りで断ち切られて霧散していくのがわかる。だがその代償というべきか、赤屍の片腕は崩れ落ちる。例え不発になったとは言えヴリトラの呪詛を受けて無事で済むはずがない。

 

 

そしてーーー

 

 

「ーーー赤い分身(ブラッディ・アバター)

 

 

崩れ落ちた腕の傷口から滴り落ちた血液から()()()()()()()()()()()()()。分身だとは分かるものの、その一人一人から放たれる気配は本物の赤屍と同じ。赤屍曰く本物と変わらない分身だそうだ。の初見では驚くことかもしれないが赤屍を知っている者からすればこの程度はやってのけるのだ。

 

 

現れた赤屍の分身は目を離した訳でもないのに忽然と消えーーー当たり前の様に俺の周りに現れーーー

 

 

「「「「「ーーー赤い十字架(ブラッディ・クロス)」」」」」

 

 

片手に十字が煌めいたと思った瞬間に全身が斬り刻まれる。身体から飛び散る鮮血と燃える様な痛みが俺に攻撃されたことを教えてくれる。断空剣や空間断裂など比べるのも馬鹿らしくなる。

 

 

骨を断たれ、五臓六腑を斬り刻まれ、結界の中からレイナーレの悲鳴が聞こえてきた。それを聞きながら俺はニヤリと笑う。

 

 

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これが超越者同士の戦いだ。超越した者は生物の枠組みから外れて不死に近い存在となる。超越者が死ぬ時、それは己が負けを認めた時だけだ。

 

 

「フフッ、やはり貴方は面白い」

 

「褒められて嬉しいなぁオイ。今ので火が点いちまったから続けようやーーーって言いたいけど悪い、時間切れだ」

 

 

そう言った瞬間に電子音が響く。それは予めセットしておいたタイマーのアラーム。魔王から与えられた駒王での活動時間の終了の5分前を報せている。

 

 

「……不完全燃焼ですが仕方ありませんね」

 

「んじゃ、それは任せた」

 

 

不満そうな顔をしながら赤屍は気絶しているクソビッチの髪を掴んで姿を消した。それを見届けてから結界を消す。

 

 

「ハイハイ、色々と聞きたいことがあるだろうが俺たちがここに居られる時間が迫ってるから言いたいことだけ言わせてもらうわ」

 

 

悪魔陣営の面子がなにやら言いたそうにしていたがこっちの事情を察してくれたのか黙ってくれた。聞き分けの良いやつは嫌いじゃないぞ?

 

 

「今回の一件は今連れて行かれた奴が考えたことだ。それを魔王の元に連れて行くってことで悪魔陣営と堕天使陣営の間での話は決着している……だが、被害にあったやつは納得いかないだろうから後日に改めてこちらから謝罪させてもらう。これが俺の連絡先だ」

 

 

そう言って名刺を差し出すと左手に赤い籠手をつけた悪魔が恐る恐る受け取ってくれた……が、赤い籠手に感じられる濃密な龍と覇の気配……こいつが今代の赤龍帝か。

 

 

「あ、あの!!アーシアはこれからどうなるんですか!?」

 

 

赤龍帝が目覚めたことでこれから起こることを考えていたら赤龍帝君からそう言われた。アーシア?それはもしかしてアーシア・アルジェントのことか?あの悪魔を癒した魔女と呼ばれて教会から追放された聖女アーシア?

 

 

全く、面倒ごとばかりをしてくれるなぁあのクソビッチは。

 

 

「それについても後でになるな。済まないがしばらく預かってもらえると助かる。あぁ心配しなくても良い、全面的に悪いのはこちらだからアーシア・アルジェントの意思は尊重するさ」

 

 

アーシア・アルジェントが神の子を見張るもの(グリゴリ)に来たいというなら歓迎するし、普通の生活がしたいというなら支援させてもらう。野良とは言え堕天使の責任だからな。

 

 

そもそも……なんでクソビッチはわざわざ旧式の術式で神器を抜き取ろうとしたのだろうか?神の子を見張るもの(グリゴリ)にアーシア・アルジェントを連れて来れば時間はかかるが死なないで神器を抜き出せる方法があるというのに。

 

 

「そいじゃ、バイバイ」

 

 

説明したいことは山ほどあるが活動時間は残り1分しかない。手を振りながら転移の魔法陣で俺たちは神の子を見張るもの(グリゴリ)へと帰還した。

 

 

 

 





転生者集団VSヒサメ、結果は火を見るよりも明らか。勝負になどなるわけが無い。寧ろ後で出てきた赤屍さんの方が勝負っぽくなってる。


この小説の超越者は原作の超越者とは大きく異なります。超越者となった時点で基本的には超越者以外からの攻撃は受け付けず、不死に近い存在になります。

断空拳を使った転生者とヘスティーナの攻撃にヒサメが反応したのは超越者になれる可能性があったからです。まぁ可能性なだけで超越者では無いので攻撃として認識されませんでしたけど。

シュピーネさんだって「厳然な実力差とはこういうものです」って言いながら無双してたから!!

神座シリーズでいうところの超越者=形成〜創造位階だと思ってもらえれば分かりやすいですかね?断空拳を使った転生者とヘスティーナは活動位階辺りです。



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