D×D magico   作:鎌鼬

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茶番の終わり

 

 

「フフフッーーー」

 

 

表と裏、中、地下の4カ所で死闘が繰り広げられている教会の上空で一人の堕天使の女性が心底可笑しくて堪らないという表情で笑いを堪えていた。努力はしているのだろうが溢れてしまっているあたり、余程可笑しい事があったのだろう。

 

 

「ーーーアッハッハッハ!!」

 

 

そして堤防が決壊したダムの様に一気に笑い出した。町の中で夜に大声で笑えば住民や、教会にいる者達に聞こえるはずだがその声は誰にも届かない。何故なら、彼女がいる一定の空間はこの世界から切り離されているから。

 

 

彼女の名はヘスティーナ、この世界が創作物から出来ている事を知る転生者の一人だった。原因は忘れてしまったが死に、神を名乗る存在によって彼女はスキル一つを与えられて堕天使として転生した。この世界は女性キャラが主に注目されているのだが男性キャラも美形が多い。彼女は彼らを落として俗に言う逆ハーレムを作るつもりだったのだ。

 

 

だが、予想外の事態が発生してしまう。一つはこの世界には彼女以外の転生者が数多く存在した事。彼女が所属している神の子を見張るもの(グリゴリ)にもわかっているだけで二十を超える転生者が所属している。そして二つ目がーーーこの物語の始まりのキーとなるはずのレイナーレが、彼女の知っているレイナーレとは異なっていた事だった。

 

 

原作のレイナーレが堕天使幹部に愛されたいと希少な神器を集めようとして主人公である兵藤一誠を殺し、物語が始まる。だと言うのにこの世界のレイナーレはそんな事を欠片も考えていなかった。

 

 

これでは物語が始まらないと焦った彼女は原作に介入しようとしている転生者と連絡を取り合って協力し、妹分だったミッテルトを人質とする事で彼女とドーナシークとカラワーナ、そしてフリードを操る事にした。

 

 

結果は上々。一誠がマトモになり、存在しなかったはずの誠二が赤龍帝となり、匙が原作よりも強化されていたり、甘粕という見知らぬ男がシトリーの眷属となっていたりと粗いところが見られるが『赤龍帝が目覚めて、レイナーレが赤龍帝に倒される』という物語の始まりを作り出す事には成功した。始まりさえすれば、後は流れてしまうだけ。彼女の知る原作通りのシナリオになるだろう。

 

 

赤龍帝のオーラを感じ、物語が始まった事を喜びながらヘスティーナは神から与えられたスキルーーー空間操作を使って誠二に殴られたレイナーレを回収する。協力者である転生者から、レイナーレが欲しいと頼まれたからだ。物好きな奴だと思いながら予め用意しておいたレイナーレの姿形をしたホムンクルスと本物のレイナーレを入れ替える。後はこのまま、ホムンクルスのレイナーレがやって来るだろうリアスに殺される所を見届けるだけだ。

 

 

殴られた事で顔を腫れさせたレイナーレを自分と同じ空間内に投げ置く。この空間内は世界から切り離されている事で絶対的な防御力を誇っているし、例え侵入されたとしてもヘスティーナ以外は気絶する様に設定してある。なので彼女は高みの見物と洒落込もうとしていたーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー滅尽滅相ォォォォ!!!!」

 

 

そして、絶対的な防御力を誇っていたはずの隔離空間をねじ伏せられ、ヘスティーナは地面へと叩き落とされた。落ちたのはヘスティーナだけでレイナーレはまだ漂っていたが隔離空間が壊された事で重力に引かれて落下を始めるーーー直前で、ヘスティーナを叩き落とした人物がレイナーレを受け止めた。

 

 

「うぅ……ぁ……」

 

「大丈夫か?レイナーレ」

 

 

隔離空間から出たからか、意識を取り戻したレイナーレに優しく語りかける人物の顔を見て、レイナーレは目を見開いて驚いた。毛先の黒い青髪に、どこか中性的な雰囲気を醸し出している彼はレイナーレが会いたくて仕方が無かった人物だったから。

 

 

「ヒサ……メ……?」

 

「おう、助けに来たぜ」

 

 

神の子を見張るもの(グリゴリ)の部隊“牙”の隊長、堕天使と人間と龍の血を引く餓鬼道の赤子、ヒサメだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと」

 

 

上空で一人観戦をしていた怪しい奴を蹴り落として側にいたレイナーレを横抱きに抱えて教会の屋根の上に降りる。レイナーレの顔は殴られたのか赤く腫れていて痛々しい。堕天使ならこの程度の傷は時間が経てば治るだろうが痛ましい事には変わりない。

 

 

念の為と“牙”の全員に持たせているフェニックスの涙をかける。すると顔の腫れはビデオの逆再生を見ているのか様に元に戻っていった。

 

 

「っ!!そうだ!!ミッテルトは!?」

 

「安心しろよ、もう見つけて保護してあるから」

 

 

攫われていたミッテルトは気絶した状態で駒王の外れにある廃墟に寝かされていた。俺が着いた時には見張りらしき転生者が数人いたが、今では全員灰になっている。

 

 

ソーナから駒王で堕天使が好き勝手やっているという連絡を貰った時には本当に驚いた。神の子を見張るもの(グリゴリ)では堕天使の行動は記録されている筈なのに何故かレイナーレとドーナシークとカラワーナとミッテルトの記録だけが削除されて足取りを掴めない様にされていたから。だが他の堕天使の行動はすべて把握済み、故にその堕天使たちはレイナーレたちだと分かって駆けつける事ができたんだけど。

 

 

「っと、そうしている内にみんな揃った様だな」

 

 

みんなというのはここで戦闘を行っていた全員を鎮圧しに向かわせた“牙”の隊員。ドーナシークと日本刀を振っていたのを鎮圧したのはクラウス。カラワーナとどこからどう見ても人間讃歌を歌う魔王にしか見えない奴を鎮圧したのは鬼面を付けたユーリ。匙とフリードを鎮圧したのは顔にデカイ傷を付けたクラウス並みの体格の大男ーーーオーランド。地下に居たのを迎えさせたのはファー付きのコートを着たオッドアイが特徴的な双子の少女たちーーールキとノキ。

 

 

非番だった所を緊急で呼び出して集まったのはこれだけだったが、それでも“牙”のメンバーの中でも上位を張れる連中が集まった事を喜ぼう。でないと鎮圧はできなさそうだったし。

 

 

つうか……日本刀持ってた奴と人間讃歌を歌う魔王の目がヤバイ。なんで邪魔をしたっていう目を俺に向けて来てる。まぁ爺さんの部下のドーナシークとカラワーナの二人を相手にして嬉々として戦ってた二人なら邪魔されたら当然の如くキレるわな。てか、あの二人を相手に嬉々として戦ってたっていう時点で何処かぶっ飛んでいる事は確定的に明らかなんだけど。

 

 

何時もなら会話の一つでも楽しみたいところだが時間が無い。さっさと用事を済ませて帰るとしよう。

 

 

「起きろよクソビッチ、お眠には早過ぎる時間だぜ?」

 

 

蹴り落とした奴が落ちて砂埃が上がっているところに話しかけるとそいつが三対六羽の黒い翼を羽ばたかせながら飛び上がった。だが身体はボロボロ、俺が蹴りを入れた右肩は皮一枚で何とか繋がっているレベルの重傷だ。

 

 

……てか堕天使だったんだ、気が付かなかった。爺さんからも頭に血が昇ると周りが見えなくなるから冷静になれと注意されていたのに出来てなかったな。反省反省。

 

 

「っ……!!ヒサメ様!!私は貴方に恥をかかせたこの堕天使共を始末するためにーーー」

 

「あーあーそういう猿芝居は良いから、お前が他の転生者たちと手を組んで糸引いてたって調べはついてるから。てか汚い声を聞かせるな、耳が腐る」

 

 

耳障り、本当に耳障りだ。甲高い声が響いて苛立たせる。声だけじゃ無い。こいつの顔が、身体が、行動が、すべてが俺を苛立たせる。

 

 

こいつは爺さんの部下のドーナシークとカラワーナを、無邪気で可愛いミッテルトを、そして何よりレイナーレを下らない事に巻き込ませた挙句に危害を加えようとした。

 

 

許せるわけが無い。許す道理がある筈が無い。例えどんな高尚な功績を積み重ねて免罪符にしようとも、俺がこいつを許す理由にはならない。

 

 

「俺たちがここで活動する代償として、今回の黒幕の身柄を悪魔陣営に引き渡すことで魔王との話は付いている。つまり、お前を死なない程度に殺して魔王に引き渡す。それが決定事項だ」

 

 

堕天使陣営である“牙”が悪魔陣営の領土である駒王で活動するのは不可能に近かった。だからまずはアジュカに事情を説明し、非公式で魔王との会談をセッティングして貰った。まぁ話せた魔王はルシファーのサーゼクスだけだったけど。そこで条件として幾つかの情報と今回の黒幕の身柄を引き渡す事で俺たちが駒王で活動できる許可を得たのだ。

 

 

正直言って渡した情報はアザゼルが許可した数名しか閲覧出来ない様な貴重な物、他の陣営からしたら高々数人の為にそこまでするなんてアホらしいと呆れられるだろう。だが、こいつらが居なくなるくらいならどんな不利益でも被ってやろうと考えるのが俺なわけで、“牙”の隊員たちもアザゼルも俺らしいと言って笑って許してくれた。今度みんなに北欧で仕入れた神代の酒でも振舞おう。

 

 

「そんな……!!私は、貴方の為に……!!」

 

「てかさぁ……()()()?」

 

 

クソビッチが凄い親しげに話しかけてくるが俺はこいつのことを知らない。神の子を見張るもの(グリゴリ)に所属している堕天使の行動はすべて把握済み、唯一把握出来ていなかったのはレイナーレたちだけーーーつまり、こいつは何処にも所属していない野良の堕天使ということになる。そんな奴の事など知らんし、親しげに話しかけられても気持ち悪いだけだ。

 

 

「クソッ!!クソッ!!顔が良いからって優しくしたら付け上がって!!」

 

 

クソビッチは悪態を付いて顔を醜く歪ませた。どうやら猫を被っていたらしく、今の方が本性らしい。あぁ、クソに相応しいぐらいに醜い顔だよ。

 

 

「こうなったらーーー」

 

 

クソビッチの背後の空間が歪み、この世界の何処かと繋がる。そこから現れたのは成人もしていない年頃の少年少女たち。あれがクソビッチに強力をしていた転生者たちだろう、どいつもこいつも腑抜けたアホヅラを晒してマヌケに笑っていやがる。まるで世界は自分を中心に回っていて、自分こそがこの世界の主人公だと確信していて、どんな窮地にいても自分はご都合主義で助かるって信じていやがる。

 

 

「ーーーあぁ、本当にお前たちは気持ち悪い」

 

 

第六天の支配から逸脱した奴が天狗道の住民を見たらこんな気持ちになるのだろうか?それとも天魔たちから見る波旬の細胞か?どちらにしても、俺はこいつらが人だとは信じられない。人の形をした何かにしか見えない。

 

 

「ヒサメ……」

 

 

腕の中にいるレイナーレの震えが伝わる。震えている原因は間違いなく怯えだろう。彼女とは力量の差が違い過ぎるアレらを見て恐れているのだ。俺はそれを恥じることでは無いと思っている。寧ろ恐れの感情を持っているだけ、恐れる事をしようとしないアレらよりも優れている様に思える。

 

 

「すぐに終わらせる。だから、少し待っててくれ」

 

 

そうレイナーレに言ってこの下らない茶番に巻き込んでしまった全員をロキのところで遊びついでに学んだ改良を重ねた北欧式の結界に包む。やはり遊び心というのは探究心と同じらしい、遊ぶ様に学んだ北欧式の魔術は俺の中で主力となるくらいの使い勝手を誇るのだから。

 

 

「ーーーさて」

 

 

着ていた上着のボタンを外して首元を緩め、緩慢な動作で首を回す。

 

 

 

「お前達、これから始まるのは一方的な蹂躙だと思ってるだろ?神さまから与えられた力を持っている自分たちが、身の程知らずのモブに各の違いを思い知らせる、そんな蹂躙劇をさ……」

 

 

この世界を調べる触覚として転生してきた俺とは違うのだろうご同じ転生者として恥ずかしくなってくる。

 

 

神さまから与えられた力を振り回す事しかできないお前達が、どうして俺に勝てると信じて疑わないのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誓ってやるよ、滅尽滅相だ。格の違う相手に幾ら小細工を弄したところで届かない事を知って逝け」

 

 

 





やっとヒサメが出せてヒサメ視点が書けた……遅すぎて笑えてくる。

ヒサメの行動。

・北欧にて『助けて』のメールが届いてすぐ様神の子を見張るもの(グリゴリ)に帰還する。
・レイナーレの情報を探している時にソーナから堕天使が駒王で活動しているという連絡が入る。
・現時点での堕天使の活動で駒王で活動している堕天使は居ないはずなのでレイナーレたちだと確信する。
・駒王で活動する為に非公式で魔王と会談、それと並行して駒王で何故レイナーレたちが活動しているのかを調べる。
・活動の許可が下りるのと同時に神の子を見張るもの(グリゴリ)所属の転生者の能力でミッテルトが人質にされていることが発覚。
・すぐにミッテルトを救出、そしてレイナーレたちの元に向かう。


そしてヘスティーナは神の子を見張るもの(グリゴリ)に所属しているつもりだが実際には所属していない扱い。一般の堕天使向けに解放されている区画を歩き回っているだけのなんちゃって神の子を見張るもの(グリゴリ)。堕天使に転生した転生者にこのなんちゃって神の子を見張るもの(グリゴリ)が多い。



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