D×D magico   作:鎌鼬

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誠二VSレイナーレ

 

 

レイナーレの光の槍による斉射は対峙しているものからすれば絶望的にしか見えなかった。確かに放たれているのは『槍』なのだろうがその密度が高すぎる為に『壁』が迫っている様にしか思えない。戦いとは数だと誰が言ったか、下級や中級堕天使では行えない筈の圧倒的なまでの物量押し。木場と塔城なら即死は免れるだろうが誠二は即座に浄化されてしまうだろう。

 

 

それを見て動いたのは塔城、誠二と木場の前に出て()()()()()()()()()()()()()()()()。即席でサイズは三人が隠れるギリギリだとは言え光の壁から逃れるのには十分な物だった。

 

 

光の壁と石がぶつかり合う。量はあれど質は高く無いのか石は砕けなかった。だが削れる音が聞こえているので長くは保たないだろう。

 

 

この状況で取れる手段は限られている。一つは戦車(ルーク)の駒の塔城によるゴリ押し。怪力と耐久力が特徴とされている戦車(ルーク)ならこの光の壁を突っ切ってレイナーレに向かえるだろう。だがそうした場合、今の塔城では重傷を負うのは明確である。騎士(ナイト)の駒の木場はスピードが特徴だがこの状況下ではそれを生かす事が出来無いので却下。誠二に至っては論外である。故に取れる手段は塔城が死ぬ気で特攻を仕掛けるか、幸いにも確保されている地下室の入り口から逃げ出すかである。

 

 

「逃げましょう」

 

「逃げよう」

 

 

木場と塔城の判断は早かった。どう考えてもこの場での不利は覆ら無い、であるなら引いて待ち構えた方が良い。それに外には他の堕天使やフリードと戦っている一誠、甘粕、匙がいる。彼らに手を貸して外の敵を倒した後にここに来れば勝率は高くなる。

 

 

誠二もそれは分かっていた。そしてーーー

 

 

「ーーーいや、俺一人で行く」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。確かに外にいる三人に助けを求めれば勝率は高くなるだろう。だがその間にアーシアから神器を抜かれればお終いだ。レイナーレの注意が自分たちに向いている今のうちに決着を着けなければならない。

 

 

「どうして先輩は彼女を助けようとするんですか?」

 

「確かに、友人だと言っても知り合って間も無いし彼女はシスターだ。悪魔である僕らとは相容れないと思うけど」

 

 

木場と塔城の疑問は最もだ。アーシアは教会から追放されているとは言えどシスターであり、未だに神に対する信仰を持っている。友人だと言っても知り合って間も無い彼女に対してどうしてそこまでしてやれるのかを二人は疑問に思った。

 

 

それに対して誠二は、

 

 

「アーシアと約束したんだよ、困ってたら助けるって。男なら、女との約束は守らないと」

 

 

さも当たり前の様に、そう言ってのけた。

 

 

今日アーシアと出会い、遊んで、夕方に公園に行った時に誠二は約束をしたのだ。アーシアが困っていたら必ず駆けつけて助けると。

 

 

たったそれだけ、それだけの事で誠二は命を賭けている。もし一誠がこの場にいたら見栄を張るなと拳骨を落とされていたかもしれない。だが、この約束を破ったら自分が自分で無くなる様な気がしたのだ。

 

 

「二人はここで隠れててくれーーー」

 

 

そして誠二は二人の制止を振り切って石の影から飛び出した。レイナーレの視線が向けられるが出てきたのが誠二だと分かると光の槍を石に向けて集中させた。ここにいる中で一番弱いのは間違いなく誠二だ。悪魔に成り立てで、危険視されていた神器も龍の手(トゥワイス・クリティカル)というごくありふれた物。そんな誠二よりも木場と塔城の方が厄介だと考えたレイナーレの判断は間違いでは無い。

 

 

無視されていることは腹立たしいが、今は好都合だった。光の壁は存在しない為にアーシアへと近づく事ができる。

 

 

「オォォォォォォォォーーー」

 

 

恐怖を振り払う様にして、誠二は叫びながら走り出す。拘束されているアーシアとの距離は離れていない。アーシアの元にまで辿り着いて仕舞えばーーー!!

 

 

「ーーーダメよ」

 

「ギィッ!?」

 

 

レイナーレの呟きと同時に脚に熱した鉄の棒でも当てられたかの様な熱と痛みを感じて転んだ。見れば太ももに光の槍が突き刺さっている。木場と塔城が隠れている石に攻撃しながら一本だけ槍を飛ばしたのだ。

 

 

今まで感じたことの無い熱量と痛みに思わず叫びそうになるのを必死に飲み込む。そしてその熱と痛みを堪えながら立ち上がった。

 

 

「ハッ!!こんなモンかよ!!悪魔に光は弱点だって聞いたけど温いなぁ!!これなら熱湯風呂の方がよっぽど熱いぜ!!」

 

 

虚勢だとはバレているだろう。声が震えているし顔も激痛で歪んでいるはずだ。それでも、見栄を張って立ち上がる。

 

 

それには流石のレイナーレも無視していられなかったらしい。目を見開いて驚き、すぐに無表情に戻る。

 

 

「なら、」

 

「ッ!!神器(セイグリッド・ギア)ァァァァァ!!!!」

 

 

再び放たれた光の槍、その数は二本に増えている。それを受けるのは良く無いと判断したのか誠二は龍の手を展開してなりふり構わずに腕を振り回した。一本は何とか逸らすことは出来た、だがもう一本が誠二の手を潜り抜けて腹に突き刺さる。

 

 

「グフッ!!!!」

 

「痛い?痛いでしょ?それが光の力よ。悪魔にとって私たち堕天使や天使の使う光は猛毒なの。上級悪魔な兎も角、一介の悪魔である貴方は光に犯されるわ」

 

 

腹を刺されて光に身体を蝕まれている誠二に、レイナーレは子供に語りかける様に優しく説いた。上級悪魔以上なら魔力を使うことで光を排出することが出来るが悪魔になったばかりの誠二ではそれをすることは出来ない。分かりやすく言えば劇薬を飲まされているに等しい。引き返して、処置をしなければーーー誠二は光に犯されて、死ぬ。そうでなくとも重大な後遺症が残ることになるだろう。

 

 

槍に貫かれた腹を抑えながら膝を着く。自分では敵わないと分かっていた。それでもアーシアとの約束を果たしたかった。それを拒んでいるレイナーレの顔を睨みつけようと顔を上げーーーレイナーレが、泣いていることに気がついた。

 

 

「ーーー泣いてる、のか?」

 

「っーーーえぇそうよ!!泣いて何が悪いの!!」

 

 

誠二の指摘に泣いていることに気がついたレイナーレ。だがそれがキッカケになったのか、鉄皮面を崩した。

 

 

「私だってこんなことをしたくなかった!!でも、妹の様に思っていた娘があいつに囚われているのよ!!従わないなら命は無いって……!!私の為に従えって……!!あの娘をーーーミッテルトを助けたいって思うことはいけないの事なの!?答えてみなさいよ!!悪魔ァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

レイナーレの絶叫と共に光の槍の斉射が激しさを増した。とは言っても向かう先は木場と塔城の隠れている石、大きさからまだ持つだろうから二人の心配は必要無い。

 

 

そんな事よりも、誠二は打ちひしがれるしかなかった。泣いている彼女(レイナーレ)を、囚われている彼女(アーシア)を救えず、そして無力な自分に。

 

 

「(ーーー力が、あれば)」

 

 

力が欲しい。

 

 

この弱い自分を踏破し、アーシアを救える力が欲しい。

 

 

無力とは即ち悪である。弱い者は何も守る事など出来ないのだから。

 

 

力が欲しい。

 

 

アーシアを救いーーーそれこそ、()()()()()()()()()()()

 

 

それは誠二が心の底から願った渇望。無意識の内に肥大化したそれは生存欲すら塗り潰す。そしてーーー

 

 

『ーーーほう、今代の主は中々に面白そうだ』

 

 

ーーー己が内から声が聞こえて誠二の意識は沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誠二が辿り着いた先はだだっ広い空間。そこが何なのかを誠二は知らないし、知ろうとする余裕すら無かった。何故ならーーー誠二の目の前に、一匹の龍がいたから。その龍の鱗は赤が霞んで見えてしまうほどに紅く、誠二のことを興味深そうに見ていた。

 

 

龍に見つめられて湧いてくるのは恐怖か?いいや、そんな物を感じる暇すら無い。龍から放たれる威圧、それが誠二のことを塗り潰そうとしているから。

 

 

『ーーー力が欲しいか?』

 

 

一瞬でも気を抜けば己という存在を塗りつぶされてしまうほどの圧に耐えている誠二に向かって龍は囁いた。

 

 

「ーーーあぁ!!!!欲しいさ!!!!あの子を……アーシアを守れる力が欲しい!!!!」

 

 

龍に問われて誠二は再び見栄を張った。そうでもしなければ龍の問い掛けに応えることができなかったから。だが出た言葉は間違い無く本心である。

 

 

『なるほど、覇を唱える力では無く圧倒的な暴力でも無く、ただ守護するだけの力が欲しいと来たか。それだけなら歴代の主の中にも何人かいたが、どういうわけだが俺はお前に興味を持っている』

 

 

龍の言葉の真意を理解出来ない。分かるのは、龍が誠二に何かしらの関心を持っているということだけ。

 

 

『良いだろうーーー求めるならばくれてやる。お前の神器の名を叫べ、本当の名をお前は知っているはずだ。その時こそ、真価が現れる』

 

 

龍が翼を広げて羽ばたいた。龍からすればそよ風にも届かない風だろうが誠二からしたら暴風としか思えないほどの風を受けて誠二はこの空間から追い出されたーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誠二の意識が現実に戻る。一瞬でも意識を無くしていた自分を叱咤する様に腹と脚に刺さっていた光の槍を掴んでーーー

 

 

「グッーーーオォォォォォォォォ!!!!」

 

 

一気に引き抜いた。栓代わりになっていた槍が抜けたことで血が流れ出すがそんな事はどうでも良い。あの龍に会ったせいか、身体が槍の痛みすら忘れてしまう程の異常な熱を持っている。それは今では都合が良かったのだが。

 

 

『boost』

 

 

龍の手だと思っていた物から無機質な声が聞こえた。あの龍と会った今なら分かる。これは龍の手などという有り触れた存在などでは無い、もっと高次元の存在だ。

 

 

『boost』

 

 

ゆっくりと踏み締めながら近づくと聞こえる二度目の声。そこにきてレイナーレがハッとして光の槍を飛ばしていたが余りにも遅い。それを籠手で殴って砕く。

 

 

『boost』

 

 

三度目の声が聞こえた。もうレイナーレとの距離は詰まっている。レイナーレが木場と塔城に向けていた分まで光を集めて特大の槍を作り出して放った。そこから感じる光の強さから転生したての自分など蒸発してしまいそうな程の力を感じる。

 

 

それを前にして誠二は臆さない。それは見栄などでは無く、本心で思っている。何故なら、あの龍が自分と共にあると、力を貸してくれると分かっているから。

 

 

故にあの龍が言っていた通りにこの神器の本当の名を呼ぶ。

 

 

「ーーー赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)ァァァァァァァァァァ!!!!」

 

『explosion!!』

 

 

赤龍帝の籠手と本来の名を呼ばれた神器が紅く染まる。それと同時に誠二のすべてが爆発的に跳ね上がる。籠手と光の槍とがぶつかりーーー力の余波を受けて全身に傷を作りながら、誠二はレイナーレの槍を砕いた。

 

 

レイナーレの顔に浮かんだのは驚愕。何故なら転生して間も無いはずの誠二が自分の一撃を砕いてみせたから。

 

 

それに続き、レイナーレの顔に安堵が浮かんだ。アレの目的は分からないが自分に与えられた役割は誠二と戦い、そして敗れること。これで囚われているミッテルトが、そしてアーシアが助かると思って気を緩めたのだ。

 

 

そして誠二の拳が槍を砕いてレイナーレの頬を捕らる。轟音と共にレイナーレの身体が壁を突き破る。

 

 

それはレイナーレにとっては勝利にも等しい敗北に他ならなかった。

 

 

 





三十話超えてようやく原作一巻目のクライマックスとか……足遅すぎやしませんかねぇ……

誠二VSレイナーレ、結果は誠二の逆転勝利。

次回あたりからようやくヒサメサイドが登場できる……


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